天涯孤独のお人好し青年は神々に与えられた加護でダンジョン世界を無双する 作:木刀
びんっ、と音を立てた弦が黒く塗られた矢を真っ直ぐに飛ばして、緑色の
『グギャ…ッ!?』
と、ひとつ悲鳴のような声を上げたソイツは、その場に倒れて黒い煙になってしまう。そこへ、いそいそと向かい、石床に落ちたアイテムを拾い集め、矢を回収する。
死体が消えてしまうこともあり、モンスターを倒した抵抗感もそれほど無かった。
「……これは
今の一匹で出たアイテムは二種類。通常ドロップ品の【小鬼の骨】が7つと、レアドロップ品の【小鬼の血玉】が4つだった。
礼依さんからプレゼントされた「ダンジョンアイテム図鑑 2030年最新版」の情報によると、【骨】がひとつ千円、【血玉】という赤い結晶がひとつ二万円くらいで買い取って貰えるらしい。今拾ったこれだけで、アパートの家賃二ヶ月分を払ってお釣りが出てしまう。
ただ、いっぺんに売ると怪しまれるし、ドロップ品を拾うところを他人に見られない方が良い、とは言われている。図鑑にはアイテムドロップ率も載っているのだが、たしかに【血玉】のそれは「0.5%」と、恐ろしいほど低かった。さっさと隠してしまった方が良い。
心の中で【アイテムボックス】と念じ、手のひらに僕だけにしか見えない黒色のキューブを出現させて、それらの収集品をすべて放り込んでいく。こうしてしまえば、他人からはまず分からないそうだ。
「何から何まで……ちゃんと感謝しないと……」
アイテムボックスの使い方に関しても、夜の公園で彼女から教えて貰っていた。
この【巨蔵+】というユニークスキルは今まで聞いたことのないものだったから、念のため人のいないところで練習していった方が良いだろうとの判断だった。
実は、あの夜、あそこで初めて手のひらに【アイテムボックス】を出現させられた時が、礼依さんの言うことが本当なんだと実感できた瞬間だったりする。
彼女を疑う訳ではなかったけれど、そのくらい僕にとってダンジョンというものは縁遠いものだったのだ。
(きっと、彼女が後押ししてくれなかったら、ダンジョンなんて一生来なかっただろうなぁ……)
僕はそう考えながら、二匹目のゴブリンへ向かって弓を引き絞った。
◇
(なんだかさっきより身体が軽い気がする)
しばらくゴブリンを狩っていると、自分の身体に明らかな変化を感じた。
体調に関してはユニークスキルのお陰で常に最高の状態になっているはずなので、これはもしかするとレベルアップというやつかもしれない。
(経験値+700%だから、8倍のスピードでレベルが上がるって言ってたもんな……)
とはいえ、それをこの場で確認することはできない。
礼依さんによると、自分のステータスを開いて確認できるようになるのは、初めてダンジョンに入って1ヶ月後くらいとのことだった。
原理はよく分かっていないらしいが、そのくらいで身体がダンジョンのシステムに馴染むのだとか。ちょうど、借りている装備のレンタル期間が終わる頃ということだ。
もし、それ以外の方法で調べたければ、礼依さんのような【鑑定+】持ちの人に依頼して見てもらうか、高額な鑑定用アイテムを使うしかないらしい。
『ギャ…ッ…』
「あっ」
うわ、放った矢がゴブリンの頭部を貫通して、そのまま遠くまで飛んでいってしまった。慌ててドロップ品を拾い、そちらへ走る。
レベルアップで、だいぶ力が強くなっているのかもしれない。もし弦を切って予備のものを使ってしまうと、後でその分の代金は請求されるそうだから、ちょっと加減をしないと……。
と、そんなことを考えていた僕は、途中にある曲がり角からゴブリンたちが出てくるのにばったり出くわしてしまった。
『グギャーーーー!!!』
「う、うわわわわ…ッ」
こん棒を振りかざすゴブリンを目の前で見てしまった僕は、慌てて踵を返して駆け出す。そうしながら矢筒から新しい矢を取り出そうとするが、慌ててしまってなかなか掴めない。
(どうする!? 走りながらじゃ、弓を構えられないぞ!?)
どうにか掴んだ矢を弓につがえようとするが、当然そんなことをいきなりやろうとしても上手くいかない。しかも相手は複数体。一匹を倒しても矢が手元から離れてしまえば、次のゴブリンには対応できない。
(ええいッ、こうなれば一か八かだ!!)
そう考えた僕は、矢を逆手に持ち直して振り向き、勢い良く走りこんできたゴブリンと脳天にぶすりと突き刺した。……あれ、意外と柔らかい。
『アギャ!?』
相手の反応は遅く、これならイケると感じた僕は、刺した矢をそのまま引っこ抜き、次のゴブリン、そしてまた次のゴブリンへとザクザクと突き刺す。
『グギャ!?』
『ピギャ!?』
僕の行動があまりに予想外だったのか、ゴブリンたちは何もできないまま死んでいった。彼らはぽろぽろとドロップアイテムを吐き出し、代わりに黒い煙が辺りに立ちのぼった。
「……くさっ!!」
黒い煙は、とんでもない腐臭を漂わせていた。
◇
(ふぃー、どうにか無事に帰ってこれたぞ……)
ダンジョン内部から地上へ戻る階段を見上げて、僕はホッと胸をなで下ろした。矢も全部持ち帰れたし、ドロップ品もたくさん。今日の収支はだいぶ良さそうだ。
ちょっと、自分でも間抜けだと思うのは、貴重品と言われて安物のスマホまでコインロッカーに預けてしまったことだ。そのせいで、現在時刻が分からない。うーん、なんともアホすぎる……。
本当なら一度収集したアイテムを換金したいけど、一旦持ち帰って、礼依さんに相談しよう。同じようなポカをやらかしかねない。
「おや、無事に戻られたんですね」
ダンジョンから出て声のした方を見ると、行きに忠告してくれた守衛さんだった。どうやら、僕が考えていたほど時間は経っていないらしかった。
「あ、はい。おかげさまで」
「良かったです。いきなりソロでなんて、そうそう上手くいきませんからね」
「そ、そうですよねー、あはは」
「練習は上手くいきましたか?」
「は、はい、なんとか、やっていけそうです」
「それは良かった。今は専用のアプリでパーティー応募や募集もできますから、慣れるまではオススメですよ……ってあれ、なんだか少し匂いますね」
「あ、ありがとうございますっ、それじゃ!!」
……やはりアイテム買い取りに行ったら怪しまれそうだ。今日のところは更衣室で着替えて、まっすぐ帰ろう。
僕は、最初に利用したダンジョン協会支部の建物へ向かった。