おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
ワールドとエクシード、対戦に使うデッキを分ける。
カードを包むときは、一枚目だけ、俺が隣で手順を見せた。
少年は慎重にインナーへ差し込み、途中で止める。
「曲がんない?」
「無理に押さなければ、大丈夫ですわ。そう、そのまま、少しずつ」
カードが収まった。
さらにアウターに入れて、赤い背を指で撫でる。
「できた」
「ええ。きれいですわ」
何枚か自分で試してから、残りはホルダーに任せることにした。
俺が設定の場所を示すと、少年は画面を見ながら操作する。カードを守る機能も、こうした準備を助ける機能も、入門機だからと省いてはいない。
こういうときに使ってほしくて作ったものだ。
表示を最後まで確かめて、登録を終える。
その間に俺も自分のホルダーを操作して、デッキを替えた。
使うのは、スノウの構築済みデッキだ。
開けポンの無改造。スリーブも無地で、カードは通常仕様を揃えてある。
俺が普段使っている、光り物を集めたほうではない。
「あれ、さっきのと違う?」
少年が、俺の手元を見た。
片づける前のデッキが、少し見えていたらしい。
「今日は、こちらを使いますわ。これも、あなたのものと同じ、箱を開ければ遊べるデッキですの」
「さっきの、きらきらしてた」
「ええ。光るカードを集めてありますの。同じ名前の同じカードでしたら、光っていても、いなくても、できることは同じですわ」
「強さも?」
「同じですわ」
少年は、自分の幼竜を見た。
光へ傾ける。
表を覆ったスリーブだけが、照明を反射した。
「じゃあ、これでいい」
「ええ。その子で戦いましょう」
フルレートで揃える楽しみは、俺がたいへんよく知っている。
だが、この子は今、初めての竜を手に入れたところだ。
しばらくは、こいつが一番かっこいい。
「最初は、わたくしから始めてもよろしくて? 一度、やってみせますわ」
「うん」
カードを混ぜ、向かい合う。
「よろしくお願いします」
少年が頭をぺこりと下げた。
俺は笑って答える。
「こちらこそ。それから、ゲームを始めるときの掛け声もありますの」
「掛け声?」
「クロッシング、といいますわ。まずは、お互いのワールドを紹介しますの」
俺は《フェイブルーン》のカードを手に取り、少年の前に出す。
「コンタクト、《フェイブルーン》、レディ……というように、紹介いたしまして、この言葉でゲームを始めますわ。やってみましょう」
「う、うん。こんたくと、い、《イグナリア》、レディ」
少年が、少し気恥ずかしげに《イグナリア》を前に出す。
気にしなくて良いんだぞ、少年。ここはホビアニ世界だからな。
「「クロッシング!」」
少年が元気よく声を上げると、ホルダーの表示に、二人分のライフが並ぶ。
40と40。
「この数字が、ライフですわ。相手のライフを零まで減らせば、勝ちですの」
「四十、減らすんだ」
「そうですわね。まずは、そこを目指しましょう」
細かい負け方まで、一度に並べる必要はない。
今日のこのゲームで、山札がなくなるまで引くことは、たぶんない。もし近づいたら、そのときに説明する。
<再誕>の説明も、今回はひとまず置いておく。
先に、やりたいことを一つ決める。
好きな竜で攻撃して、俺に勝つ。
今日の目的は、それでいい。
初期手札の五枚を、お互いに取った。
少年は手札を持とうとして、少し崩した。
慌てて両手で挟み直す。
「落ち着いて。机の上で揃えてから持って、大丈夫ですわ」
俺が自分の手札を置いてみせると、少年も真似をした。
こちらへ表を向けないように、少しずつ扇形に広げる。
「分からないカードがあったら、見せてくださって構いませんわ。今日は練習ですから」
「うん。これ、来た」
少年が、一枚だけこちらへ見せた。
《炎翼の幼竜》。初手に来ていたらしい。
いいねえ。
「それから、後から始める人は、最初の手札を一度だけ引き直せますの。今の五枚のうち、替えたいものを選べますわ」
いわゆるマリガンルールというやつだ。このおかげで、後手は手札事故をほとんど起こさない。
しかし、ここまで強力なマリガンがあってもまだ先手の方が勝率が高い。このゲームがいかに先手ゲーであるかはお察しいただきたい。
ちなみに、俺とかシオンくらいの紙廃人になると周りに悟られないくらい、素早くマリガンの判断を済ませている。
特にエアフィールドのとき。棒立ちで考えるの、カッコ悪いじゃん。
「このドラゴンも、戻しちゃう?」
「残して構いませんわ。替えないカードは、そのままですもの。引き直すなら、選んだ枚数だけ先に新しいカードを引いて、そのあと、選んだカードを山札へ戻して混ぜますの」
少年は幼竜を端へ寄せ、残る四枚を見比べた。
大きな竜と、最初から出せそうな仲間がいる。
「このままでいい」
「では、その五枚で始めましょう。わたくしは先に始めるので、引き直しはなしですわ」
俺はワールドの能力で山札からスノウを選び、主人公に指定した。
残りの山札を混ぜ直してから、表向きにしたスノウを、決められた場所へ置く。
「こちらの世界では、主人公を一人、こうして外に用意できますの。このお姫様が、わたくしのデッキの中心ですわ」
「最初から出てる?」
「まだ、仲間が戦う場所には出ていませんわ。ここから使える、ということですの。出す準備は、これからしますわね」
少年が、自分のワールドを見た。
「ぼくのは?」
「イグナリアは、別のことができますの。使うときに、そこも一緒に見ましょう。エクシードも、使える条件が書いてありますから、まずは別に置いておきますわ」
少年が説明書を手元に寄せる。
全部覚えた顔ではなかったが、今すぐ全部覚えろと言われないことは分かったらしい。
俺のカードへ、視線が戻った。
「自分のターンが来たら、まずカードを引きます。一枚か二枚、引く前に決めますの。ただし、先に始める人の、最初のターンだけは一枚ですわ」
一枚引く。
続いて、手札からカードを一枚選んだ。
「それから、手札のカードを、こちらへ置けますの。これを、ファクターとしてセットするといいますわ。カードを使うための準備ですわね」
置いたカードと、少年が持っている幼竜を交互に示す。
「その竜の、ここを見ていただける?」
少年がカードを少し前へ出した。
俺が指したのは、必要なファクターとコストの数字だ。
「前の数字は、ファクターが何枚必要か。後ろの数字が、使うためのコストですわ。その竜なら、ファクターが3枚以上あるときに、2コストでプレイできますの」
「三枚、使うんじゃないの?」
「必要な枚数と、使うコストは別ですの。必要な枚数には、横向きのファクターも数えますわ。それから、その竜は赤のカードですから、赤いファクターか、フィールドにいる赤い仲間なども必要ですの」
俺は自分のファクターを指した。
「今、わたくしは一枚持っています。ですから、まだ、その竜を出すだけの準備はできていませんわ」
「三枚になったら?」
「そのときに、2コストを用意すれば出せますわ。縦向きのファクターを横向きにすると、一枚につき1コストになりますの」
少年は、幼竜の数字を指先でなぞった。
「三枚あって、二枚、横」
「ええ。その出し方を、まず覚えましょう」
頷いて、幼竜を手札へ戻す。
今日この一戦の間にも、何度か間違えるかもしれない。
そのたびに見直せばいい。
「通常、手札からファクターを置けるのは、自分のターンに一枚ですわ。わたくしは、今はここまで。ターンを終えます」
少年が、自分の山札へ手を伸ばした。
一度、止める。
「ぼくは、二枚でもいいんだよね」
「ええ」
「じゃあ、二枚引きます」
きちんと言って、二枚取った。
手札を広げ、眉を寄せる。
「どれを、下に置くの?」
「ファクターにするカードですわね。今の手札で、使ってみたいカードはどれかしら」
返事は、もちろん幼竜だった。
「でしたら、その子は手元に残しましょう。ほかに、今すぐには出せないカードはあります?」
少年は数字を見比べ、必要なファクターが多いカードを一枚選んだ。
赤のカードを、自分のファクターエリアへ置く。
「これ」
「ええ。これで、ファクターが一枚ですわ」
もう一度、手札を見る。
今度は俺が聞く前に、一枚を指した。
「これは、一枚でいい?」
《イグナリアの一番槍》。
赤の1ファクター、1コスト。
速攻を持つ、文字どおりの一番槍だ。
「ええ。使ってみましょうか」
「これを、横にして」
ファクターを慎重に回す。
続けて、一番槍をフィールドへ置いた。
「できた?」
「できましたわ。初めてのプレイですわね」
少年が、カードを置いた手を引っ込めずに見つめている。
自分の前に、仲間が一人いる。
「そのユニットは、速攻を持っていますの。出したターンでも、攻撃できますわ」
「もう?」
「もうですわ」
レッカが隣で、うんうんと頷いていた。
そこで口を挟まないあたり、ちゃんと分かっている。
「攻撃する!」
「では、バトルに進みましょう。誰が攻撃するか決めて、普通はそのユニットを横向きにしますの」
少年が、一番槍を横にした。
少し考えて、俺の側を指す。
「どれに?」
「攻撃する先は、相手ですわ。相手のユニットを、こちらから攻撃先に選ぶわけではありませんの」
俺は自分を指した。
「わたくしには、今、守ってくれるユニットがいませんから。その攻撃を受けますわ」
「ここに書いてある、3?」
「ええ。パワーが3ですから、三点ですわね」
ライフが、37になった。
「減った!」
「きちんと届きましたわ」
少年が、向かいの数字と一番槍を見比べた。
カードの絵と、書いてある数字と、目の前で起きたことが、少しずつつながっていく。
その顔を見ると、つい、こちらまで嬉しくなる。
初心者には優しくしろ。
古事記にも書いてある。
たぶん。少なくとも、俺の心の中にある版には、かなり大きな字で書いてある。
次の俺のターン。二枚引くと伝えてからカードを取り、二枚目のファクターをセットする。
これで準備が整った。
《森に迎えられた姫、スノウ》をプレイする。
二枚のファクターを横向きにし、主人公のカードをフィールドへ移す。
さらに、小人のトークンを二つ並べた。
「増えた」
「このお姫様をプレイしてフィールドへ出すと、小人が2人、仲間になってくれますの」
「お姫様は、攻撃、0なの?」
「ええ。自分で殴るのは、あまり得意ではありませんわ」
その代わり、仲間を働かせるのがたいへん上手い。
その辺りは、あとで見てもらおう。