おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜   作:模範的セルフィア市民

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初心者には優しくしろと古事記にも書かれている③

 

 ワールドとエクシード、対戦に使うデッキを分ける。

 カードを包むときは、一枚目だけ、俺が隣で手順を見せた。

 少年は慎重にインナーへ差し込み、途中で止める。

 

「曲がんない?」

「無理に押さなければ、大丈夫ですわ。そう、そのまま、少しずつ」

 

 カードが収まった。

 さらにアウターに入れて、赤い背を指で撫でる。

 

「できた」

「ええ。きれいですわ」

 

 何枚か自分で試してから、残りはホルダーに任せることにした。

 俺が設定の場所を示すと、少年は画面を見ながら操作する。カードを守る機能も、こうした準備を助ける機能も、入門機だからと省いてはいない。

 こういうときに使ってほしくて作ったものだ。

 表示を最後まで確かめて、登録を終える。

 

 その間に俺も自分のホルダーを操作して、デッキを替えた。

 使うのは、スノウの構築済みデッキだ。

 開けポンの無改造。スリーブも無地で、カードは通常仕様を揃えてある。

 俺が普段使っている、光り物を集めたほうではない。

 

「あれ、さっきのと違う?」

 

 少年が、俺の手元を見た。

 片づける前のデッキが、少し見えていたらしい。

 

「今日は、こちらを使いますわ。これも、あなたのものと同じ、箱を開ければ遊べるデッキですの」

「さっきの、きらきらしてた」

「ええ。光るカードを集めてありますの。同じ名前の同じカードでしたら、光っていても、いなくても、できることは同じですわ」

「強さも?」

「同じですわ」

 

 少年は、自分の幼竜を見た。

 光へ傾ける。

 表を覆ったスリーブだけが、照明を反射した。

 

「じゃあ、これでいい」

「ええ。その子で戦いましょう」

 

 フルレートで揃える楽しみは、俺がたいへんよく知っている。

 だが、この子は今、初めての竜を手に入れたところだ。

 しばらくは、こいつが一番かっこいい。

 

「最初は、わたくしから始めてもよろしくて? 一度、やってみせますわ」

「うん」

 

 カードを混ぜ、向かい合う。

 

「よろしくお願いします」

 

 少年が頭をぺこりと下げた。

 俺は笑って答える。

 

「こちらこそ。それから、ゲームを始めるときの掛け声もありますの」

「掛け声?」

「クロッシング、といいますわ。まずは、お互いのワールドを紹介しますの」

 

 俺は《フェイブルーン》のカードを手に取り、少年の前に出す。

 

「コンタクト、《フェイブルーン》、レディ……というように、紹介いたしまして、この言葉でゲームを始めますわ。やってみましょう」

「う、うん。こんたくと、い、《イグナリア》、レディ」

 

 少年が、少し気恥ずかしげに《イグナリア》を前に出す。

 気にしなくて良いんだぞ、少年。ここはホビアニ世界だからな。

 

「「クロッシング!」」

 

 少年が元気よく声を上げると、ホルダーの表示に、二人分のライフが並ぶ。

 40と40。

 

「この数字が、ライフですわ。相手のライフを零まで減らせば、勝ちですの」

「四十、減らすんだ」

「そうですわね。まずは、そこを目指しましょう」

 

 細かい負け方まで、一度に並べる必要はない。

 今日のこのゲームで、山札がなくなるまで引くことは、たぶんない。もし近づいたら、そのときに説明する。

 <再誕>の説明も、今回はひとまず置いておく。

 先に、やりたいことを一つ決める。

 好きな竜で攻撃して、俺に勝つ。

 今日の目的は、それでいい。

 

 初期手札の五枚を、お互いに取った。

 少年は手札を持とうとして、少し崩した。

 慌てて両手で挟み直す。

 

「落ち着いて。机の上で揃えてから持って、大丈夫ですわ」

 

 俺が自分の手札を置いてみせると、少年も真似をした。

 こちらへ表を向けないように、少しずつ扇形に広げる。

 

「分からないカードがあったら、見せてくださって構いませんわ。今日は練習ですから」

「うん。これ、来た」

 

 少年が、一枚だけこちらへ見せた。

 《炎翼の幼竜》。初手に来ていたらしい。

 いいねえ。

 

「それから、後から始める人は、最初の手札を一度だけ引き直せますの。今の五枚のうち、替えたいものを選べますわ」

 

 いわゆるマリガンルールというやつだ。このおかげで、後手は手札事故をほとんど起こさない。

 しかし、ここまで強力なマリガンがあってもまだ先手の方が勝率が高い。このゲームがいかに先手ゲーであるかはお察しいただきたい。

 

 ちなみに、俺とかシオンくらいの紙廃人になると周りに悟られないくらい、素早くマリガンの判断を済ませている。

 特にエアフィールドのとき。棒立ちで考えるの、カッコ悪いじゃん。

 

「このドラゴンも、戻しちゃう?」

「残して構いませんわ。替えないカードは、そのままですもの。引き直すなら、選んだ枚数だけ先に新しいカードを引いて、そのあと、選んだカードを山札へ戻して混ぜますの」

 

 少年は幼竜を端へ寄せ、残る四枚を見比べた。

 大きな竜と、最初から出せそうな仲間がいる。

 

「このままでいい」

「では、その五枚で始めましょう。わたくしは先に始めるので、引き直しはなしですわ」

 

 俺はワールドの能力で山札からスノウを選び、主人公に指定した。

 残りの山札を混ぜ直してから、表向きにしたスノウを、決められた場所へ置く。

 

「こちらの世界では、主人公を一人、こうして外に用意できますの。このお姫様が、わたくしのデッキの中心ですわ」

「最初から出てる?」

「まだ、仲間が戦う場所には出ていませんわ。ここから使える、ということですの。出す準備は、これからしますわね」

 

 少年が、自分のワールドを見た。

 

「ぼくのは?」

「イグナリアは、別のことができますの。使うときに、そこも一緒に見ましょう。エクシードも、使える条件が書いてありますから、まずは別に置いておきますわ」

 

 少年が説明書を手元に寄せる。

 全部覚えた顔ではなかったが、今すぐ全部覚えろと言われないことは分かったらしい。

 俺のカードへ、視線が戻った。

 

「自分のターンが来たら、まずカードを引きます。一枚か二枚、引く前に決めますの。ただし、先に始める人の、最初のターンだけは一枚ですわ」

 

 一枚引く。

 続いて、手札からカードを一枚選んだ。

 

「それから、手札のカードを、こちらへ置けますの。これを、ファクターとしてセットするといいますわ。カードを使うための準備ですわね」

 

 置いたカードと、少年が持っている幼竜を交互に示す。

 

「その竜の、ここを見ていただける?」

 

 少年がカードを少し前へ出した。

 俺が指したのは、必要なファクターとコストの数字だ。

 

「前の数字は、ファクターが何枚必要か。後ろの数字が、使うためのコストですわ。その竜なら、ファクターが3枚以上あるときに、2コストでプレイできますの」

「三枚、使うんじゃないの?」

「必要な枚数と、使うコストは別ですの。必要な枚数には、横向きのファクターも数えますわ。それから、その竜は赤のカードですから、赤いファクターか、フィールドにいる赤い仲間なども必要ですの」

 

 俺は自分のファクターを指した。

 

「今、わたくしは一枚持っています。ですから、まだ、その竜を出すだけの準備はできていませんわ」

「三枚になったら?」

「そのときに、2コストを用意すれば出せますわ。縦向きのファクターを横向きにすると、一枚につき1コストになりますの」

 

 少年は、幼竜の数字を指先でなぞった。

 

「三枚あって、二枚、横」

「ええ。その出し方を、まず覚えましょう」

 

 頷いて、幼竜を手札へ戻す。

 今日この一戦の間にも、何度か間違えるかもしれない。

 そのたびに見直せばいい。

 

「通常、手札からファクターを置けるのは、自分のターンに一枚ですわ。わたくしは、今はここまで。ターンを終えます」

 

 少年が、自分の山札へ手を伸ばした。

 一度、止める。

 

「ぼくは、二枚でもいいんだよね」

「ええ」

「じゃあ、二枚引きます」

 

 きちんと言って、二枚取った。

 手札を広げ、眉を寄せる。

 

「どれを、下に置くの?」

「ファクターにするカードですわね。今の手札で、使ってみたいカードはどれかしら」

 

 返事は、もちろん幼竜だった。

 

「でしたら、その子は手元に残しましょう。ほかに、今すぐには出せないカードはあります?」

 

 少年は数字を見比べ、必要なファクターが多いカードを一枚選んだ。

 赤のカードを、自分のファクターエリアへ置く。

 

「これ」

「ええ。これで、ファクターが一枚ですわ」

 

 もう一度、手札を見る。

 今度は俺が聞く前に、一枚を指した。

 

「これは、一枚でいい?」

 

 《イグナリアの一番槍》。

 赤の1ファクター、1コスト。

 速攻を持つ、文字どおりの一番槍だ。

 

「ええ。使ってみましょうか」

「これを、横にして」

 

 ファクターを慎重に回す。

 続けて、一番槍をフィールドへ置いた。

 

「できた?」

「できましたわ。初めてのプレイですわね」

 

 少年が、カードを置いた手を引っ込めずに見つめている。

 自分の前に、仲間が一人いる。

 

「そのユニットは、速攻を持っていますの。出したターンでも、攻撃できますわ」

「もう?」

「もうですわ」

 

 レッカが隣で、うんうんと頷いていた。

 そこで口を挟まないあたり、ちゃんと分かっている。

 

「攻撃する!」

「では、バトルに進みましょう。誰が攻撃するか決めて、普通はそのユニットを横向きにしますの」

 

 少年が、一番槍を横にした。

 少し考えて、俺の側を指す。

 

「どれに?」

「攻撃する先は、相手ですわ。相手のユニットを、こちらから攻撃先に選ぶわけではありませんの」

 

 俺は自分を指した。

 

「わたくしには、今、守ってくれるユニットがいませんから。その攻撃を受けますわ」

「ここに書いてある、3?」

「ええ。パワーが3ですから、三点ですわね」

 

 ライフが、37になった。

 

「減った!」

「きちんと届きましたわ」

 

 少年が、向かいの数字と一番槍を見比べた。

 カードの絵と、書いてある数字と、目の前で起きたことが、少しずつつながっていく。

 その顔を見ると、つい、こちらまで嬉しくなる。

 

 初心者には優しくしろ。

 古事記にも書いてある。

 たぶん。少なくとも、俺の心の中にある版には、かなり大きな字で書いてある。

 

 次の俺のターン。二枚引くと伝えてからカードを取り、二枚目のファクターをセットする。

 これで準備が整った。

 《森に迎えられた姫、スノウ》をプレイする。

 二枚のファクターを横向きにし、主人公のカードをフィールドへ移す。

 さらに、小人のトークンを二つ並べた。

 

「増えた」

「このお姫様をプレイしてフィールドへ出すと、小人が2人、仲間になってくれますの」

「お姫様は、攻撃、0なの?」

「ええ。自分で殴るのは、あまり得意ではありませんわ」

 

 その代わり、仲間を働かせるのがたいへん上手い。

 その辺りは、あとで見てもらおう。

 

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