おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
ターンを受け取った少年が、一番槍を縦へ戻した。
隣のファクターにも手を伸ばしかけたので、俺はそちらを指す。
「こうすると、また使える?」
「ええ。縦向きがアクティブ、横向きがスリープですわ。自分のターンの最初に、ファクター以外の、フィールドのカードをアクティブに戻しますの。ファクターは、横向きのままですわ」
少年は二枚引くと言ってからカードを取り、赤のファクターをもう一枚置いた。
手札と、前に並んだ二枚を見る。
「ドラゴンは、まだだよね」
「あと一枚ですわね」
少し残念そうにしてから、別のカードを出した。
《火走りの斥候》。
こちらも速攻持ちだ。
今置いた一枚をスリープにしてプレイし、能力を一緒に読む。
「じゃあ、こっちも攻撃できる」
「ええ」
「二人で攻撃します」
一番槍と斥候を、まとめて横向きにした。
俺は小人を一人、一番槍の前へ置く。
「こちらの攻撃は、この小人でブロックしますわ」
「さっきは、いなかったやつ」
「ええ。今回は、守ってもらいますの」
少年が自分のユニットと小人を見比べる。
一番槍はパワーが3、タフネスが2。
小人は、どちらも1だ。
「こっちが3で、こっちが1だから……」
「お互いに、自分のパワーと同じだけダメージを与えますわ。この小人は三点を受けて、倒されます。一番槍は一点受けますけれど、まだ耐えられますわね」
少年の指が、小人の上で止まった。
「倒しちゃうんだ」
「ええ。この小人は、一番槍の攻撃を受け止めてくれましたの」
「お姉ちゃんには、当たらない?」
「そのとおり。こちらは守れて、そちらは小人を倒せましたわね」
俺は小人のトークンを、脇の束へ戻した。
少年は少しだけ口を結び、それから、残った斥候を見る。
「こっちは?」
「そちらは受けますわ。三点ですわね」
両方の戦闘ダメージを処理して、俺のライフは37から34へ変わった。
そして、斥候の能力を確かめる。
「相手に戦闘ダメージを与えられたので、1枚引いてもよい、とありますわね」
「引く!」
新しいカードを手に加えた少年が、嬉しそうに手札を広げ直した。
攻撃が通って、さらにカードまで増えた。
一番槍に残っているダメージも、ターンの終わりには消えると伝えると、そのカードをまた指で撫でていた。
なるほど。
この子は、前に出した仲間のことをよく見ている。
俺の次のターンでは、ドローを済ませ、ファクターをセットしてから小人を増やした。
《坑道帰りの小人》と、一緒に出てくる小人のトークン。
前からいた一人で攻撃すると、少年は自分のユニットに手を伸ばし、横向きなのを見て止めた。
「寝てるから、守れない?」
「ええ。ブロックできるのは、アクティブのユニットですわ」
「攻撃しなかったら、守れた?」
「ええ。次は、残しておくかどうかも選べますわよ」
「じゃあ、一点」
少年のライフが初めて減った。
40から、39。
俺の小人がまだ縦向きなのを見て、また不思議そうにする。
「この子は、横にしないの?」
「警護を持っていますから、攻撃してもスリープしませんの。カードに特別なことが書いてあったら、そちらのとおりに動きますわ」
出したばかりの二人には、スノウの能力を手伝ってもらった。
アクティブの二人を横向きにして、カードを一枚引く。
出たばかりの小人はまだ攻撃できないが、こうして別のカードの能力を手伝うことはできる。
ただし、このスノウに仕事を頼めるのは、自分のターンだけだ。相手のターンになってから、慌てて回復をお願いすることはできない。
少年は説明を聞きながら、スノウの本文と、小人たちを見比べていた。
「お姫様、自分では攻撃しないけど、いろいろするんだ」
「そういうデッキですわ。小人たちが、大事な仲間ですの」
さっきは全員、大きな獣に踏まれましたけれど。
それは、この子が帰ってから反省しよう。
少年の、三度目のターンが来た。
ユニットを縦に戻し、二枚と宣言して引いてから、ファクターを置く。
今度は、指を折って確かめた。
「一、二、三」
視線が、手札の端へ動く。
こちらへ確かめるように顔を上げた。
「出せる?」
「必要なファクターは、揃いましたわね。コストはいくつかしら」
「2コスト!」
少年の手が止まった。
アクティブなのは、今セットした一枚だけ。ほかの二枚は、さっきまでに使って横向きになっている。
「一枚しか、横にできない」
「もう一つ、コストにする方法がありますわ。スリープしているファクターは、破棄すると1コストになりますの」
「はき?」
「そのカードを、ここへ移しますの。墓地といって、使い終わったカードなどを置く場所ですわ」
俺は空いている場所を示した。
少年は、横向きのファクターと見比べる。
「じゃあ、こっちを横にして、こっちを捨てる?」
「ええ。それで2コストですわ。ただし、一枚を横にして、その同じ一枚をすぐ破棄しても、一度に2コストにはできませんの。今なら、別々の二枚を使いますわ」
「でも、一枚なくなるよ。ドラゴン、三枚いるよ?」
いいところに気づいた。
必要な枚数と、使うコスト。最初は一緒に覚えてしまいやすいところだ。
「必要な枚数は、コストを用意する前に確かめますの。今は3枚あるので、使えますわ。そのために一枚破棄して2枚になっても、この竜は出せます。ただ、次のカードを使うときには、2枚として数え直しますわね」
少年は、ファクターを持ち上げかけて止めた。
これからも竜を出したい。その顔に、少し迷いが出る。
「なくさないで使う方法も、あなたのワールドにはありますの」
俺は《イグナリア》を指した。
<燃え盛る炎>。
手札一枚を捨てることで、スリープしている赤のファクターを3枚まで、アクティブに戻せる。
「これで、また使える?」
「ええ。今なら、スリープしている二枚をアクティブに戻せますわ」
少年は手札を広げ、幼竜を端へ寄せた。
残したいものをよけてから、ほかのカードを見比べる。
俺は指を引いた。どれを残すかは、自分で選んでもらう。
迷う間も、幼竜の上に置いた指だけは動かなかった。
「こっちを使う。これ、捨てます」
選んだ一枚を墓地へ置き、赤のファクター二枚を縦向きにした。
これでアクティブが三枚。
そのうち二枚を横向きにして、幼竜の2コストに充てる。
少年は手札から竜を抜き、両手で持った。
「《炎翼の幼竜》を、プレイします!」
置く直前だけ、声が少し大きくなった。
カードは、フィールドの真ん中へ置かれた。
ほかの二体より、少しだけ前だ。
少年は自分の竜を見ている。
まだ何も攻撃していない。
それでも、もう嬉しいのが分かった。
「その子にも、速攻がありますわね」
「うん!」
「それから、飛翔。飛翔を持つユニットにしか、ブロックされませんの」
少年が、俺の小人を見る。
スノウを見る。
もう一度、竜へ戻った。
「この子たち、飛べない?」
「飛べませんわねえ」
俺は、いかにも困ったように小人を見た。
実際、こいつらは飛べない。
力を合わせればできることは多いが、自力で空を飛ぶところまでは、今のところ担当していない。
「じゃあ、ドラゴンは通る?」
「そのとおりですわ」
少年が笑った。
遠慮のない、顔全体を使った笑い方だった。
「攻撃します。三人で!」
地上はスノウで斥候を、小人で一番槍を受け止める。
空を行く幼竜には、道が空いていた。
アクティブの赤のファクターは、今は一枚。幼竜のパワーは、まだ4だ。
「四点、受けますわ」
俺のライフが、30になった。
少年は、さっきまで箱の裏に描かれていた竜を、しばらく見つめていた。
「強い」
後ろで、レッカが小さく頷いた。
「いい竜だろ」
少年は顔を上げ、大きく頷いた。
次の俺のターン。
二枚引いてから、白のカードをファクターにセットした。今後、白いカードを使うための準備だ。
前のターンからいる《坑道帰りの小人》と小人一人で攻撃し、合計三点。少年のライフは36になる。
警護でアクティブのままの二人に、続けて仕事を頼んだ。
今度はカードを引かずに、スリープしているファクターを二枚、アクティブにする。
「お姫様も、また使えるようにするんだ」
「ええ。ただ、こちらは手札ではなく、小人二人に手伝ってもらいますの」
アクティブに戻した分も使い、《森の小さな働き手》で仲間を増やす。
出てきた小人のうち二人を横向きにして、さらにスノウの仕事。今度はライフを四点回復し、俺のライフは34になった。
「戻るんだ!」
「そういう能力もありますの」
「でも、ドラゴンで、また減らせる」
「ええ。困ったことに」
少年は幼竜を見て、それから俺の小人を見た。
さっきまでカードを出すたびに確かめていた顔が、少しだけ得意そうになる。
よしよし。その竜は、君が選んだんだ。