おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜   作:模範的セルフィア市民

35 / 35
初心者には優しくしろと古事記にも書かれている⑤

 

 そこから先も、ゲームはゆっくり進んだ。

 少年は、一度、ファクターを置き忘れた。

 手札を見てから、あれ、と自分で気づいて戻った。

 うっかり、ファクターまでアクティブにしかけたこともあった。

 俺が一枚を指すと、あ、と手を止める。

 

「こっちは、そのままだ」

「ええ。もう分かりましたわね」

 

 二体目の《火走りの斥候》と《荒火の槍兵》を出すときには、まず二枚のファクターを、一枚ずつスリープにした。それぞれ1コストだ。

 二体を出し終えてから、また<燃え盛る炎>を使う。

 手札を一枚捨て、今度はスリープしている赤のファクターを三枚アクティブに戻した。

 少年は、自分で残す手札を決めた。残したいカードを先によけてから、捨てる一枚を選んでいた。

 速攻を持たない槍兵まで攻撃させようとしたときだけ、俺と一緒に能力欄を確認した。

 

 その頃には、幼竜は五点ずつ俺のライフを削るようになっていた。

 アクティブ状態の赤のファクターが2枚以上あれば、ひと回り強くなる。一番槍にも同じ条件の能力があり、こちらは4/3になる。

 少年は攻撃の前に、必ず赤いカードの向きを確認した。

 

 地上でも、少しずつ攻撃が届く。

 槍兵の貫通で、小人を越えてきた分を数えるときには、空いている指まで使っていた。

 こちらも小人を組み合わせてブロックし、地上のユニットとは交換していく。少年は倒れたカードを墓地へ置き、残った仲間で次にどう攻めるか考えた。

 

 俺の手元では、自分のターンにスノウがファクターをアクティブに戻したり、カードを増やしたりしていた。

 手札が増えてきたところで、ターンの終わりに七枚を超えていたら、超えた分を捨てることも伝えた。

 

「いっぱい引いても、全部は持ってられないんだ」

「ええ。ですから、残すカードも選びますの。一枚引くか二枚引くか、最初に決められるのも覚えておくとよろしいですわ」

 

 少年は自分の手札を数え、それから、俺が残すカードを選ぶ様子を見ていた。

 回復を繰り返して、もっと粘ることもできる。だが、初めての対戦で延々とライフを戻されても、なかなか終わりが見えない。俺は仕事のいくつかをドローへ回した。

 ブロックはする。

 こちらからも攻撃する。

 ようやく出せた竜には、もう少し飛んでいてもらおう。

 

 少年が、手札を見て考え込む。

 レッカも、リツも、口を出さずに待つ。

 コハルは少年がカードを取り落としたときだけ、椅子の下へ滑った一枚を拾って渡してくれた。

 

 やがて、俺のライフは11になった。

 少年のほうは26。こちらも小人たちで、こつこつ攻撃してきた分だ。

 地上の仲間は攻防の中で倒れ、少年の場に残っているのは幼竜一体。パワーは5だ。

 

 俺のターン。

 二枚引き、ファクターをセットする。必要な5ファクターは揃っている。

 《坑道帰りの小人》と、トークンが一人。こちらも守りに回した仲間が倒れ、小人はその二人だけになっていた。

 二人をスリープにして、まずはファクターを二枚アクティブに戻す。今置いた一枚と合わせ、その三枚をスリープにして3コスト。

 《七人の帰り道》をプレイし、新たに五人を迎えた。

 

「また増えた」

「ええ。今度は、七人揃いましたわ」

 

 新しい小人のうち二人には、スノウの能力でカードを一枚引かせてもらう。

 少年は、まだ縦向きの三人を見た。

 

「その子たちは、攻撃しないの?」

「今、出たばかりですもの。速攻は持っていませんから、攻撃できるのは次のターンからですわ」

「ドラゴンとは、違うんだ」

「ええ。その代わり、出てすぐでも、お姫様のお手伝いはできますの」

 

 前からいた二人も、ファクターを戻すためにスリープしている。

 このターンは攻撃せず、少年へ渡した。

 少年はユニットをアクティブに戻し、二枚引いてから赤のファクターを一枚セットする。

 幼竜を出したまま、増えた小人を指で数え直していた。

 

「いっぱい、いるけど」

 

 俺の前には、スノウと七人の小人。

 少年は幼竜の能力欄へ目を落とし、顔を上げた。

 

「この子なら、飛んでいける」

「よく覚えていらっしゃいますわね」

 

 アクティブの赤のファクターも、二枚以上ある。

 幼竜だけの攻撃が、地上の仲間を越えてきた。

 五点を受けて、俺のライフは6になる。

 

 少年の指先が少し動き、止まる。

 あと少しだ。

 そこまでは、もう分かっている。

 では、こちらも一度、切り札を見せよう。

 

 次の俺のターン。

 小人たちをアクティブに戻し、二枚引いて、ファクターをセットする。

 七人とも、前のターンからいる仲間だ。

 二人にファクターを戻してもらい、別の二人にはカードを一枚引かせてもらった。

 仕事をした四人は、横向きになる。

 それから、デッキと分けて置いてある三枚へ手を伸ばした。

 

「わたくしは、エクシードを使用しますわ」

「エクシード……」

「ええ。最初に用意した三枚のうちから、一試合に一枚、一回だけ使えますの。ただし、カードごとの使用条件を満たす必要がありますわ」

 

 俺は使う一枚を取り、条件の書かれた場所を示した。

 主人公のスノウがフィールドにいること。そして、小人が7体以上いること。

 少年が、並んだ小人を一人ずつ数える。

 

「いる!」

「揃えましたもの」

「コストは?」

「エクシードには、普通のカードのようなファクターのコストはありませんの。このカードには、ほかのコストもありませんわ。では、リベレーション。《セブンズ・ハッピーエンド》!」

 

 口上は無し。

 今は、カードの本文を一緒に読むほうが大事だ。

 小人たちを全員アクティブにする。このターンの間、+2/+2の修整を受け、貫通を得る。

 仕事をした四人のカードも、縦向きへ戻した。

 

「お手伝いした子も、攻撃できる?」

「できますわ。前のターンからいた子たちが、全員アクティブになりましたもの」

「今、出した子だったら?」

「このカードは速攻を与えませんから、まだ攻撃できませんの。今回は、七人とも、次のターンを迎えましたわね」

 

 少年が、小人をもう一度数えた。

 縦向きに戻ることと、出たばかりでも攻撃できること。

 似ているようで別のことだと、少しずつ分かってきたらしい。

 

 少年が、自分の幼竜を見る。

 さっきの攻撃で横向きだ。今は、ブロックに回せない。

 こちらには3/3の小人が六人と、4/4になった《坑道帰りの小人》。

 

「では攻撃! 小人さんたち、やっておしまいなさい!」

 

 総攻撃。

 七人を、縦向きのまま少し前へ出す。

 警護は、そのまま持っている。攻撃してもスリープしない。

 少年の指が、順番に追いかけてきた。

 

「三、六、九……」

「合わせて、二十二点ですわね」

 

 少年のライフが、一気に4になった。

 

「凄い! こんなに減った!」

「ええ。これがエクシードの力ですの」

 

 使った一枚を、未使用の二枚から離す。

 バトルを終え、俺はさっきカードを引いてもらった二人へ指を添えた。

 

「では、もう一度、お仕事をお願いいたしますわ」

 

 二人をスリープにして、カードを一枚引く。

 少年が、小人とスノウを交互に見た。

 

「さっきも、お手伝いしたのに」

「一度働いて、このカードでアクティブに戻って、攻撃して。それでも警護で縦向きのままでしたから、また働けますの」

「強くなるだけじゃないんだ」

「ええ。七人揃えると、こういうこともできますわ」

 

 今日は、ここでも回復には回さなかった。

 先に働き、みんなで攻撃して、戻ってきてからまた働く。竜を飛ばすデッキとは違う面白さが、少しでも伝わればいい。

 手札を七枚に整え、ターンを終える。小人たちは元の大きさへ戻った。

 仕事をした二人はスリープ。残る五人はアクティブのままだが、飛翔を持つ仲間はいない。

 

「では、ターンエンドですわ」

 

 少年が、幼竜をアクティブに戻す。

 ファクターには触れなかった。

 二枚引くと言ってカードを取り、赤のファクターをセットする。

 幼竜のところへ手が動き、止まった。

 

「ぼくも、使える?」

 

 少年が見ていたのは、デッキの外へ分けておいた三枚だった。

 

「ええ。あなたは、まだ使っていませんもの」

 

 一枚ずつ本文を読み、少年は真ん中のカードを手に取った。

 《イグナリアの鬨の声》。

 効果もシンプルだ。このターンの間、自分のイグナリアのユニットに+2/+2の修整と速攻、貫通を与える。

 

 指が、幼竜の上へ戻った。

 それから、縦向きの赤いファクターを数える。

 

「このドラゴン、今はパワー5だよね」

「ええ。赤のファクターが、2枚以上アクティブですから」

「これを使ったら、パワー7?」

 

 俺は頷いた。

 少年が、もう一度カードを読む。

 ファクターを横にする必要もないので、幼竜が強くなる条件も、そのまま保てる。

 5に2を足して、7。

 向かいのライフは6。

 

 目が、大きくなった。

 

「これ、使います!」

 

 エクシードを、幼竜の隣へ置く。

 それから、少し照れたように俺を見た。

 

「さっきの、なんて言うの?」

「リベレーション、ですわ」

 

 少年が、小さく一度、口を動かす。

 次は、きちんと声になった。

 

「リベレーション! 《イグナリアの鬨の声》!」

 

 レッカが、黙ったまま拳を握った。

 分かる。今のは俺も嬉しい。

 

「これで、その竜はパワーが7ですわ」

 

 少年が頷く。

 まだ、少しだけ俺の手元を気にしている。

 こちらには手札がある。

 何か起きるかもしれないと、そこまで考えられるようになっていた。

 

 俺は少年を見る。

 

「次は、どうなさいます?」

 

 少年が、幼竜へ手を置いた。

 

「この子で、攻撃します!」

 

 カードが、横向きになる。

 好きで選んだ竜が、最後まで飛んできた。

 

 手元には、一枚ある。

 《妖精の帳》。

 幼竜が与えるダメージをすべて軽減できる。

 必要なファクターはある。色の条件も満たしている。

 使えば、もう一度こちらのターンが来る。

 

 ま、そうじゃないわな。ここは使わん。

 相手がレッカなら煽りながら使うが。

 俺はそのカードを、手札の奥へ滑らせた。

 

「ブロックはできませんわね」

 

 俺はフィールドを見て、手札を伏せた。

 

「七点、受けます。わたくしの負けですわ」

 

 ホルダーから、試合の終了を知らせる音が鳴った。

 少年は動かなかった。

 俺を見て、表示を見て、幼竜へ戻る。

 

「……勝った?」

「ええ。あなたの勝ちですわ」

 

 椅子の上で、背筋が伸びた。

 

「勝った!」

 

 両手が、胸の前へ上がる。

 そのまま声を出しかけて、店の中だと気づいたらしい。少しだけ肩を縮めた。

 だが、笑いは収まらなかった。

 

「ぼく、勝った!」

「最後、自分で見つけたな」

 

 レッカが言うと、少年は何度も頷いた。

 

「七点になったから! あと六だったから!」

「強くなる条件も、ちゃんと確かめていたね」

 

 リツが添える。

 少年はますます嬉しそうに、幼竜とエクシードを並べ直した。

 コハルが、机の上へそっと手を差し出した。

 

「おめでとう」

 

 少年は少し迷ってから、その手へ自分の手を合わせた。

 小さく、ぱちんと音がした。

 

「ありがとうございました」

 

 俺が改めて頭を下げると、少年も慌てて姿勢を正した。

 

「ありがとうございました!」

 

 最初に比べて、ずいぶん大きな声になった。

 

「楽しかったですか?」

 

 尋ねると、返事はすぐに来た。

 

「楽しかった!」

 

 俺は笑った。

 

「それが、クロスファクターで一番大切なものですわ」

 

 少年は、まだ笑っていた。

 赤いスリーブに包まれた竜を、机の真ん中から、自分のほうへ大事に寄せた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

闇のカードが手元にあるが、私は平凡な人生を送りたい。(作者:瑠璃色砂糖月)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 Soul(ソウル) Echo(エコー) Crisis(クライシス)。▼ それは魂の共鳴。心の同調。▼ 異界に棲む生命体、異界に実在する遺跡や土地、異界で飛び交う魔法や呪文。▼ それらが1枚のカードとなって、地球上に存在している。▼ 彼らは波長の合う魂を求めている。▼ さあ、彼らを集めてデッキを組もう。▼ そして、他のプレイヤーとバトルをしよう。▼ 響け! …


総合評価:690/評価:8.6/連載:8話/更新日時:2026年11月07日(土) 22:00 小説情報

境界のアルカナ・コード 〜隣ん家の子が何か主人公っぽいんだけど、もしかして俺は師匠枠なの?〜(作者:夜月詠)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム至上主義のアホみたいな世界に迷い込んで、ふと気付いたらいつの間にやら主人公っぽい子の隣の家のお兄さんみたいな立場になってたし、主人公っぽい子に最初にカードを教える立場になっていた。▼多分そのうち厄介事に巻き込まれて世界を救ったりするんだろうな。もう滅茶苦茶な人生なんだけど、これ以上があるんです?▼──いつか見た地獄の、その苦痛の不在をどうか祈って…


総合評価:121/評価:-.--/連載:9話/更新日時:2026年10月26日(月) 08:06 小説情報

カードもできるギャルゲー世界に転生した(けど気付いてない)男のカードゲームライフ!(作者:烏丸英)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

一ノ瀬進弥、十五歳。どこにでもいるような男子高校生に見える彼は、実は別の世界からやってきた転生者だ。▼大好きだったが家庭の事情でなかなか遊べなかったカードゲーム『エヴォルレジェンズ』が大流行している世界に転生したシンヤは、前世での未練を晴らす勢いでカードゲームに没頭していく。▼しかし、彼は気付いていなかった。これが普通のカードゲームが大流行している世界ではな…


総合評価:2495/評価:8.08/連載:41話/更新日時:2026年11月08日(日) 18:01 小説情報

カウンターデッキはコントロールの一種である(作者:リィラ・レキール)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

突如一つのカードゲームが中心になっている世界に転生した主人公。ホビー系世界のお決まりから逃げようとするが彼の前にはお決まり展開の数々が、彼はこのイカれた世界から生き残れるのか…▼2026/9/9 3000UA▼2026/9/24 5000UA▼2026/10/8 お気に入り登録100人▼2026/10/18 10000UA


総合評価:205/評価:5.9/連載:14話/更新日時:2026年10月27日(火) 18:00 小説情報

あなたのデッキからカードを1枚選ぶ。それ以外をすべて墓地に置く(作者:北間 ユウリ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼ この世界に生まれたひとは、必ず「運命のカード」に出会う。▼ 出会い方はそれぞれだけれど、絶対に。▼ それが、この世界のルール。▼ そして。▼ 私たちは、その「運命」からは逃げられない。▼ だから、受け入れて/抗って。▼「運命」と共に、最期まで戦うしかない。▼ これは、私が「運命」と、いつか訪れるその時まで、どこまでも堕ちていくだけの物語。▼


総合評価:654/評価:8.53/連載:10話/更新日時:2026年10月13日(火) 00:30 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>