おとぎの国のクソデッキ〜ホビアニ世界の転生お嬢様、前世の禁止デッキをぶん回す〜 作:模範的セルフィア市民
そこから先も、ゲームはゆっくり進んだ。
少年は、一度、ファクターを置き忘れた。
手札を見てから、あれ、と自分で気づいて戻った。
うっかり、ファクターまでアクティブにしかけたこともあった。
俺が一枚を指すと、あ、と手を止める。
「こっちは、そのままだ」
「ええ。もう分かりましたわね」
二体目の《火走りの斥候》と《荒火の槍兵》を出すときには、まず二枚のファクターを、一枚ずつスリープにした。それぞれ1コストだ。
二体を出し終えてから、また<燃え盛る炎>を使う。
手札を一枚捨て、今度はスリープしている赤のファクターを三枚アクティブに戻した。
少年は、自分で残す手札を決めた。残したいカードを先によけてから、捨てる一枚を選んでいた。
速攻を持たない槍兵まで攻撃させようとしたときだけ、俺と一緒に能力欄を確認した。
その頃には、幼竜は五点ずつ俺のライフを削るようになっていた。
アクティブ状態の赤のファクターが2枚以上あれば、ひと回り強くなる。一番槍にも同じ条件の能力があり、こちらは4/3になる。
少年は攻撃の前に、必ず赤いカードの向きを確認した。
地上でも、少しずつ攻撃が届く。
槍兵の貫通で、小人を越えてきた分を数えるときには、空いている指まで使っていた。
こちらも小人を組み合わせてブロックし、地上のユニットとは交換していく。少年は倒れたカードを墓地へ置き、残った仲間で次にどう攻めるか考えた。
俺の手元では、自分のターンにスノウがファクターをアクティブに戻したり、カードを増やしたりしていた。
手札が増えてきたところで、ターンの終わりに七枚を超えていたら、超えた分を捨てることも伝えた。
「いっぱい引いても、全部は持ってられないんだ」
「ええ。ですから、残すカードも選びますの。一枚引くか二枚引くか、最初に決められるのも覚えておくとよろしいですわ」
少年は自分の手札を数え、それから、俺が残すカードを選ぶ様子を見ていた。
回復を繰り返して、もっと粘ることもできる。だが、初めての対戦で延々とライフを戻されても、なかなか終わりが見えない。俺は仕事のいくつかをドローへ回した。
ブロックはする。
こちらからも攻撃する。
ようやく出せた竜には、もう少し飛んでいてもらおう。
少年が、手札を見て考え込む。
レッカも、リツも、口を出さずに待つ。
コハルは少年がカードを取り落としたときだけ、椅子の下へ滑った一枚を拾って渡してくれた。
やがて、俺のライフは11になった。
少年のほうは26。こちらも小人たちで、こつこつ攻撃してきた分だ。
地上の仲間は攻防の中で倒れ、少年の場に残っているのは幼竜一体。パワーは5だ。
俺のターン。
二枚引き、ファクターをセットする。必要な5ファクターは揃っている。
《坑道帰りの小人》と、トークンが一人。こちらも守りに回した仲間が倒れ、小人はその二人だけになっていた。
二人をスリープにして、まずはファクターを二枚アクティブに戻す。今置いた一枚と合わせ、その三枚をスリープにして3コスト。
《七人の帰り道》をプレイし、新たに五人を迎えた。
「また増えた」
「ええ。今度は、七人揃いましたわ」
新しい小人のうち二人には、スノウの能力でカードを一枚引かせてもらう。
少年は、まだ縦向きの三人を見た。
「その子たちは、攻撃しないの?」
「今、出たばかりですもの。速攻は持っていませんから、攻撃できるのは次のターンからですわ」
「ドラゴンとは、違うんだ」
「ええ。その代わり、出てすぐでも、お姫様のお手伝いはできますの」
前からいた二人も、ファクターを戻すためにスリープしている。
このターンは攻撃せず、少年へ渡した。
少年はユニットをアクティブに戻し、二枚引いてから赤のファクターを一枚セットする。
幼竜を出したまま、増えた小人を指で数え直していた。
「いっぱい、いるけど」
俺の前には、スノウと七人の小人。
少年は幼竜の能力欄へ目を落とし、顔を上げた。
「この子なら、飛んでいける」
「よく覚えていらっしゃいますわね」
アクティブの赤のファクターも、二枚以上ある。
幼竜だけの攻撃が、地上の仲間を越えてきた。
五点を受けて、俺のライフは6になる。
少年の指先が少し動き、止まる。
あと少しだ。
そこまでは、もう分かっている。
では、こちらも一度、切り札を見せよう。
次の俺のターン。
小人たちをアクティブに戻し、二枚引いて、ファクターをセットする。
七人とも、前のターンからいる仲間だ。
二人にファクターを戻してもらい、別の二人にはカードを一枚引かせてもらった。
仕事をした四人は、横向きになる。
それから、デッキと分けて置いてある三枚へ手を伸ばした。
「わたくしは、エクシードを使用しますわ」
「エクシード……」
「ええ。最初に用意した三枚のうちから、一試合に一枚、一回だけ使えますの。ただし、カードごとの使用条件を満たす必要がありますわ」
俺は使う一枚を取り、条件の書かれた場所を示した。
主人公のスノウがフィールドにいること。そして、小人が7体以上いること。
少年が、並んだ小人を一人ずつ数える。
「いる!」
「揃えましたもの」
「コストは?」
「エクシードには、普通のカードのようなファクターのコストはありませんの。このカードには、ほかのコストもありませんわ。では、リベレーション。《セブンズ・ハッピーエンド》!」
口上は無し。
今は、カードの本文を一緒に読むほうが大事だ。
小人たちを全員アクティブにする。このターンの間、+2/+2の修整を受け、貫通を得る。
仕事をした四人のカードも、縦向きへ戻した。
「お手伝いした子も、攻撃できる?」
「できますわ。前のターンからいた子たちが、全員アクティブになりましたもの」
「今、出した子だったら?」
「このカードは速攻を与えませんから、まだ攻撃できませんの。今回は、七人とも、次のターンを迎えましたわね」
少年が、小人をもう一度数えた。
縦向きに戻ることと、出たばかりでも攻撃できること。
似ているようで別のことだと、少しずつ分かってきたらしい。
少年が、自分の幼竜を見る。
さっきの攻撃で横向きだ。今は、ブロックに回せない。
こちらには3/3の小人が六人と、4/4になった《坑道帰りの小人》。
「では攻撃! 小人さんたち、やっておしまいなさい!」
総攻撃。
七人を、縦向きのまま少し前へ出す。
警護は、そのまま持っている。攻撃してもスリープしない。
少年の指が、順番に追いかけてきた。
「三、六、九……」
「合わせて、二十二点ですわね」
少年のライフが、一気に4になった。
「凄い! こんなに減った!」
「ええ。これがエクシードの力ですの」
使った一枚を、未使用の二枚から離す。
バトルを終え、俺はさっきカードを引いてもらった二人へ指を添えた。
「では、もう一度、お仕事をお願いいたしますわ」
二人をスリープにして、カードを一枚引く。
少年が、小人とスノウを交互に見た。
「さっきも、お手伝いしたのに」
「一度働いて、このカードでアクティブに戻って、攻撃して。それでも警護で縦向きのままでしたから、また働けますの」
「強くなるだけじゃないんだ」
「ええ。七人揃えると、こういうこともできますわ」
今日は、ここでも回復には回さなかった。
先に働き、みんなで攻撃して、戻ってきてからまた働く。竜を飛ばすデッキとは違う面白さが、少しでも伝わればいい。
手札を七枚に整え、ターンを終える。小人たちは元の大きさへ戻った。
仕事をした二人はスリープ。残る五人はアクティブのままだが、飛翔を持つ仲間はいない。
「では、ターンエンドですわ」
少年が、幼竜をアクティブに戻す。
ファクターには触れなかった。
二枚引くと言ってカードを取り、赤のファクターをセットする。
幼竜のところへ手が動き、止まった。
「ぼくも、使える?」
少年が見ていたのは、デッキの外へ分けておいた三枚だった。
「ええ。あなたは、まだ使っていませんもの」
一枚ずつ本文を読み、少年は真ん中のカードを手に取った。
《イグナリアの鬨の声》。
効果もシンプルだ。このターンの間、自分のイグナリアのユニットに+2/+2の修整と速攻、貫通を与える。
指が、幼竜の上へ戻った。
それから、縦向きの赤いファクターを数える。
「このドラゴン、今はパワー5だよね」
「ええ。赤のファクターが、2枚以上アクティブですから」
「これを使ったら、パワー7?」
俺は頷いた。
少年が、もう一度カードを読む。
ファクターを横にする必要もないので、幼竜が強くなる条件も、そのまま保てる。
5に2を足して、7。
向かいのライフは6。
目が、大きくなった。
「これ、使います!」
エクシードを、幼竜の隣へ置く。
それから、少し照れたように俺を見た。
「さっきの、なんて言うの?」
「リベレーション、ですわ」
少年が、小さく一度、口を動かす。
次は、きちんと声になった。
「リベレーション! 《イグナリアの鬨の声》!」
レッカが、黙ったまま拳を握った。
分かる。今のは俺も嬉しい。
「これで、その竜はパワーが7ですわ」
少年が頷く。
まだ、少しだけ俺の手元を気にしている。
こちらには手札がある。
何か起きるかもしれないと、そこまで考えられるようになっていた。
俺は少年を見る。
「次は、どうなさいます?」
少年が、幼竜へ手を置いた。
「この子で、攻撃します!」
カードが、横向きになる。
好きで選んだ竜が、最後まで飛んできた。
手元には、一枚ある。
《妖精の帳》。
幼竜が与えるダメージをすべて軽減できる。
必要なファクターはある。色の条件も満たしている。
使えば、もう一度こちらのターンが来る。
ま、そうじゃないわな。ここは使わん。
相手がレッカなら煽りながら使うが。
俺はそのカードを、手札の奥へ滑らせた。
「ブロックはできませんわね」
俺はフィールドを見て、手札を伏せた。
「七点、受けます。わたくしの負けですわ」
ホルダーから、試合の終了を知らせる音が鳴った。
少年は動かなかった。
俺を見て、表示を見て、幼竜へ戻る。
「……勝った?」
「ええ。あなたの勝ちですわ」
椅子の上で、背筋が伸びた。
「勝った!」
両手が、胸の前へ上がる。
そのまま声を出しかけて、店の中だと気づいたらしい。少しだけ肩を縮めた。
だが、笑いは収まらなかった。
「ぼく、勝った!」
「最後、自分で見つけたな」
レッカが言うと、少年は何度も頷いた。
「七点になったから! あと六だったから!」
「強くなる条件も、ちゃんと確かめていたね」
リツが添える。
少年はますます嬉しそうに、幼竜とエクシードを並べ直した。
コハルが、机の上へそっと手を差し出した。
「おめでとう」
少年は少し迷ってから、その手へ自分の手を合わせた。
小さく、ぱちんと音がした。
「ありがとうございました」
俺が改めて頭を下げると、少年も慌てて姿勢を正した。
「ありがとうございました!」
最初に比べて、ずいぶん大きな声になった。
「楽しかったですか?」
尋ねると、返事はすぐに来た。
「楽しかった!」
俺は笑った。
「それが、クロスファクターで一番大切なものですわ」
少年は、まだ笑っていた。
赤いスリーブに包まれた竜を、机の真ん中から、自分のほうへ大事に寄せた。