FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール   作:Kurumimogomogo

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名もなき王の墓

 デリング・シティ。

 

 ガルバディア共和国の首都は、相変わらずの賑わいを見せていた。

 

 広い車道を自動車が行き交い、歩道には買い物客や観光客が溢れている。高層建築の間を走るバスは、各地区を結ぶ市民の足だ。

 

 だが、街のいたるところに軍服姿の兵士が立っていた。

 

 ティンバーで見た兵士たちと同じ制服。

 

 ここがガルバディア政府の中心地であることを、嫌でも思い知らされる。

 

「うわ~、都会だねえ!」

 

 セルフィが街並みを見上げた。

 

「すっげえな!」

 

 ゼルも周囲を見回す。

 

 アーヴァインは帽子のつばを上げ、通りを眺めていた。

 

「デリング・シティか。悪くない街だね」

 

 ロメオは駅前の広場に立ち、懐かしそうに息を吸った。

 

「……変わってないなあ」

 

 リノアが隣へ来る。

 

「そう?」

 

「うん。あそこの店も、まだある」

 

 ロメオが指さした先には、小さな菓子店があった。

 

「お前、昔あそこのケーキ好きだったろ?」

 

「あ、覚えてる!」

 

 リノアが笑った。

 

「お兄ちゃんが私の分まで食べちゃったところ!」

 

「……そんなことあったっけ?」

 

「あった!」

 

 ロメオは笑ってごまかした。

 

 スコールが振り返る。

 

「……何をしてるんだ」

 

「あ、悪い!」

 

 ロメオが駆け寄る。

 

「懐かしくてさ」

 

 スコールは一行を見渡した。

 

「これからカーウェイ邸に向かう。場所は通称『役人地区』」

 

 ゼルが首を傾げる。

 

「役人地区?」

 

「政府関係者や軍の高官が住んでいる地区だ」

 

 スコールは続けた。

 

「俺たちはガルバディア・ガーデンから警備の応援に来たことになっている。それを忘れるな」

 

「了解!」

 

 ゼルが答える。

 

 セルフィも頷いた。

 

「は~い!」

 

 ロメオは軽く手を上げた。

 

「了解!」

 

 リノアが兄を見る。

 

「……お兄ちゃん、本当に分かってる?」

 

「分かってるって!」

 

「知り合いに会っても、余計なこと言わないでよ」

 

「はいはい」

 

 スコールは歩き始めた。

 

 カーウェイ大佐。

 

 ガルバディア軍の事実上のナンバーワンともいわれる男。

 

 その人物が、魔女暗殺作戦に協力するという。

 

(……大佐のクーデターか?)

 

 スコールは考えた。

 

(いや、大統領を倒そうというわけではないらしい……)

 

 魔女を排除することと、大統領への反逆は必ずしも同じではない。

 

 だが、ガルバディア軍の高官が魔女暗殺に関与するという事実は、十分に異常だった。

 

 スコールは前を向いた。

 

(……とにかく、本人に会って確かめるしかない)

 

 その少し後ろで、ロメオは街を眺めながら歩いていた。

 

(親父、何を考えてるんだろうな)

 

 フューリー・カーウェイ。

 

 厳格で、規律にうるさく、滅多に感情を表に出さない男。

 

 しかし、ロメオにとっては幼い頃からの父親だった。

 

 血のつながりがないことも、本人から聞いている。

 

 それでも、父親であることに変わりはない。

 

(……魔女暗殺か)

 

 ロメオは小さく息を吐いた。

 

 今回ばかりは、いつものように笑って済ませられる話ではなさそうだった。

 

     *

 

 役人地区へ向かうにつれて、街の雰囲気は変わっていった。

 

 商店が減り、整然とした住宅が増える。

 

 通りには街路樹が並び、警備兵の姿も目立つようになった。

 

 やがて、大きな門が見えてきた。

 

 門の奥には、立派な邸宅がある。

 

「……あれか」

 

 スコールが呟いた。

 

 ロメオは頷いた。

 

「ああ。カーウェイ邸だ」

 

 リノアは少しだけ表情を硬くした。

 

 門の前には警備兵が立っている。

 

 スコールが近づくと、兵士は姿勢を正した。

 

「カーウェイ大佐の邸宅は、この門を入ったところです」

 

 そして、少し間を置く。

 

「……んが。簡単にここを通すわけにはいきません」

 

 ゼルが眉をひそめた。

 

「はあ?」

 

 スコールは冷静に尋ねた。

 

「俺たちがここに来ることは、連絡済みのはずでは?」

 

「連絡は受けています……んが」

 

 警備兵は頷いた。

 

「カーウェイ大佐は、あなたがたの実力を自分で確かめるまでは、ここを通すなと」

 

 ゼルが腕を組んだ。

 

「なめられたもんだぜ」

 

 ロメオも目を丸くした。

 

「……親父?」

 

 リノアが小声で言う。

 

「お兄ちゃん、余計なこと言わないで」

 

「いや、だってさ」

 

 ロメオは門を見た。

 

(……俺たちが来るの、知ってるよな?)

 

 それなのに通さない。

 

 しかも、実力を確かめるという。

 

(……あの親父が?)

 

 ロメオは首を傾げた。

 

 スコールが警備兵へ尋ねる。

 

「実力? いったい何をすればいい?」

 

 警備兵は説明を始めた。

 

「街を出て北東にある『名もなき王の墓』。そこに行くだけでいいんです」

 

 セルフィが首を傾げる。

 

「お墓?」

 

「簡単なことです……んが」

 

 警備兵は続けた。

 

「ただ行って帰ればいいわけではありません。証明のための暗号が必要です」

 

「暗号?」

 

 スコールが聞き返した。

 

 ゼルが不満そうに言う。

 

「こんなとこまで来て、肝試しみてぇなことさせるなんて、SeeDもなめられたもんだぜ」

 

 警備兵は構わず続けた。

 

「あなたたちと同様に、大佐を訪問してくる学生は毎日後を絶ちません」

 

 ロメオが眉をひそめた。

 

「……毎日?」

 

「昨日も一人、ガルバディア・ガーデンの学生が来ましたが、名もなき王の墓の試練から、いまだ戻ってこないのです」

 

 空気が少し変わった。

 

 キスティスが尋ねる。

 

「……行方不明ということ?」

 

「そうなります」

 

 警備兵は頷いた。

 

「街を出て北東の方角に進めば、名もなき王の墓があります」

 

 そして、スコールを見た。

 

「そこに行って、彼の痕跡を探し出し、出席番号を覚えてくるのがあなたたちの課題です」

 

「出席番号……」

 

 スコールは呟いた。

 

「目的のものは、入口に入ってすぐのところに落ちています。それを調べれば番号は分かるはずです」

 

 警備兵は声を低くした。

 

「間違っても、初心者はその奥に進んではいけません」

 

 ゼルが顔を上げる。

 

「……何でだよ?」

 

「二度と帰ってこられなくなりますよ」

 

 沈黙が落ちた。

 

 セルフィが小さく呟く。

 

「……こわ~い」

 

 ロメオは少し考えた。

 

(……墓の奥に何かいるのか?)

 

 ただの肝試しではなさそうだった。

 

 警備兵は地図を差し出した。

 

「とりあえず、地図だけは渡します」

 

 スコールが受け取る。

 

「墓の中では、いつでも地図を確認できます。緊急時には脱出用の手段もありますが、任務評価に影響する可能性があるので気をつけてください」

 

「……分かった」

 

「では、街の出口までお送りしましょう」

 

 警備兵は門から離れた。

 

「外のフィールドを移動するときは、街の出口のレンタカーを利用すると便利ですよ」

 

 スコールは頷いた。

 

「……行くぞ」

 

 ゼルが不満そうに歩き始める。

 

「ったく……面倒くせえな」

 

 ロメオは門を振り返った。

 

(……親父)

 

 その奥に、フューリー・カーウェイがいる。

 

 だが、今は会えない。

 

 ロメオは苦笑した。

 

「……相変わらず厳しいなあ」

 

 リノアが小さく言った。

 

「……ほんと」

 

     *

 

 デリング・シティを出ると、広い草原が続いていた。

 

 北東へ伸びる街道の先には、低い丘と荒れた大地が見える。

 

 レンタカーを利用して墓の近くまで移動し、一行は徒歩で進んだ。

 

 道中、アーヴァインが銃を肩に担ぎ直した。

 

「あ、言い忘れていたけど」

 

 ゼルが振り返る。

 

「……何だよ」

 

 アーヴァインは銃を構える真似をした。

 

「僕の銃は特別性でね、弾を切り替えれるのさ。

切り替えてBANG! BANG! だよ~」

 

 ゼルが顔をしかめた。

 

「……今、それ説明する必要あんのか?」

 

「あるかもしれないだろ?」

 

 アーヴァインは笑った。

 

「戦闘中に驚かれても困るしね」

 

 ロメオが目を輝かせた。

 

「へえ! 弾を使い分けるのか!」

 

「そういうこと」

 

「面白いな!」

 

 ロメオは自分の短剣を抜いた。

 

「俺はこっち!」

 

 刃に小さな雷光が走る。

 

「魔法を乗せて斬るんだ」

 

 アーヴァインが目を細めた。

 

「へえ……魔法剣っていうかんじか」

 

「そう!」

 

 ロメオは笑った。

 

「遠くは任せた!」

 

 アーヴァインも笑う。

 

「近くは任せるよ」

 

 ゼルが二人を見た。

 

「……何か、すげえ仲良くなってねえか?」

 

 スコールは短く答えた。

 

「……気にするな」

 

 そのとき、キスティスが足を止めた。

 

「見えてきたわ」

 

 丘の向こうに、石造りの建造物が現れた。

 

 名もなき王の墓。

 

 入口には巨大な石柱が並び、奥へ続く暗い通路が口を開けている。

 

 風が吹き抜けるたび、低い音が響いた。

 

 セルフィが入口を見上げる。

 

「……雰囲気あるね~」

 

 ゼルが拳を握った。

 

「さっさと番号見つけて帰ろうぜ」

 

 スコールは地図を開いた。

 

「……入るぞ」

 

     *

 

 墓の内部は、外よりもひんやりとしていた。

 

 石造りの通路が奥へ続いている。

 

 壁には古い装飾が施され、床には長い年月を感じさせる亀裂が走っていた。

 

 足音が反響する。

 

 ロメオは壁を眺めていた。

 

「……すげえな」

 

 リノアが小声で尋ねる。

 

「何が?」

 

「何百年も前から、ここにあるんだろ?」

 

 ロメオは手帳を開いた。

 

「誰が作ったんだろうな」

 

 スコールが振り返る。

 

「……今は調査に集中しろ」

 

「分かってるって!」

 

 そのとき、セルフィが声を上げた。

 

「あ!」

 

 通路の脇に、何かが落ちていた。

 

 金属製の小さなプレート。

 

 スコールが拾い上げる。

 

 表面には文字が刻まれていた。

 

『男子・出席番号47』

 

「……47」

 

 スコールは番号を確認した。

 

 キスティスが頷く。

 

「これね」

 

 ゼルが肩をすくめた。

 

「何だ、簡単じゃねえか」

 

 リノアも安心したように息を吐いた。

 

「じゃあ、戻ろっか」

 

 しかし、ロメオは通路の奥を見ていた。

 

「……なあ」

 

 スコールが振り返る。

 

「何だ」

 

「奥、どうなってるんだろうな」

 

 ゼルが顔をしかめた。

 

「おいおい、まさか行く気か?」

 

 ロメオは笑った。

 

「ちょっと気になるだろ?」

 

 リノアが呆れた。

 

「お兄ちゃん……」

 

 スコールは地図を見た。

 

 依頼されたのは、出席番号の確認だけ。

 

 それはすでに終わっている。

 

 しかし、警備兵は墓の奥について警告していた。

 

 何があるのかは分からない。

 

 スコールは少し考えた。

 

「……奥を確認する」

 

 ゼルが目を丸くした。

 

「マジかよ!?」

 

「危険なら引き返す」

 

 スコールは淡々と答えた。

 

「戦闘準備をしておけ」

 

 ロメオが笑った。

 

「よし!」

 

 リノアはため息をついた。

 

「……二人とも、似たところあるよね」

 

 スコールとロメオが同時に振り返る。

 

「……何が?」

 

「何で?」

 

 リノアは首を振った。

 

「……何でもない」

 

     *

 

 墓の奥は、複雑な構造になっていた。

 

 通路が何度も分岐し、似たような景色が続く。

 

 壁には古い彫刻が並び、ところどころに水路が走っている。

 

 ロメオは地図を覗き込んだ。

 

「……こっちか?」

 

 スコールが即座に答える。

 

「違う」

 

「え?」

 

「そっちは今来た道だ」

 

「……あれ?」

 

 ゼルが笑った。

 

「やっぱり方向音痴じゃねえか!」

 

「おかしいなあ……」

 

 ロメオは首を傾げた。

 

 リノアが肩をすくめる。

 

「だから言ったでしょ」

 

 スコールは地図を閉じた。

 

「俺が先頭を行く」

 

「頼む!」

 

 ロメオは素直に頷いた。

 

 しばらく進むと、広い部屋に出た。

 

 中央には、巨大な石像が置かれている。

 

 人間のような姿。

 

 しかし、頭には角が生えていた。

 

 ゼルが近づく。

 

「……何だ、これ」

 

 セルフィも覗き込んだ。

 

「変わった像だね~」

 

 ロメオは興味深そうに見上げた。

 

「……牛?」

 

 その瞬間。

 

 石像が動いた。

 

「おまえらぁ~!」

 

 低い声が響く。

 

「こんなところで何してんだぁ!?」

 

 ゼルが飛び退いた。

 

「うおっ!?」

 

 石像の表面が崩れ、巨大な斧を持つ魔物が姿を現した。

 

 牛の頭。

 

 筋肉質な身体。

 

 鋭い角。

 

 セクレトだった。

 

 スコールがガンブレードを抜く。

 

「……敵だ!」

 

 ロメオも短剣を構えた。

 

「了解!」

 

 セクレトは斧を振り上げた。

 

「墓荒らしどもがぁ!」

 

 戦闘が始まった。

 

     *

 

 最初に飛び込んだのはゼルだった。

 

「うおおおっ!」

 

 拳を叩き込む。

 

 しかし、セクレトは腕で受け止めた。

 

「効かねえなぁ!」

 

 巨大な斧が振り下ろされる。

 

「危ねえ!」

 

 ゼルが横へ跳んだ。

 

 床が砕け、石片が飛び散った。

 

 スコールが踏み込む。

 

 ガンブレードの刃がセクレトの脇腹を捉えた。

 

 引き金を引く。

 

 爆発音。

 

 セクレトがよろめく。

 

「ぐおっ!?」

 

 ロメオが横から飛び込んだ。

 

「こっちも!」

 

 短剣に雷光が走る。

 

 素早い二連撃。

 

 セクレトの腕に火花が散った。

 

「ぐああっ!」

 

 しかし、セクレトはすぐに体勢を立て直した。

 

「ちくしょう!」

 

 斧を振り回す。

 

 ロメオが後ろへ跳ぶ。

 

「おっと!」

 

 セルフィが魔法を唱えた。

 

「ブリザラ!」

 

 冷気がセクレトを包む。

 

 セクレトは腕を振り回し、氷を砕いた。

 

「この程度でぇ!」

 

 アーヴァインが銃を構えた。

 

「じゃあ、これはどうかな」

 

 銃声。

 

 弾丸がセクレトの肩に命中した。

 

「ぐおっ!」

 

 セクレトが後退する。

 

 キスティスが叫んだ。

 

「今よ!」

 

 スコールとロメオが同時に踏み込んだ。

 

 ガンブレードの斬撃。

 

 魔法剣の連撃。

 

 セクレトは大きくよろめいた。

 

「ぐ……ぐぬぬ……!」

 

 そして、突然背を向けた。

 

「こいつら、強いぜ!」

 

 全員が動きを止める。

 

「ちくしょう!」

 

 セクレトは出口へ走り出した。

 

「お、おぼえてろよ!」

 

 そのまま逃げ去っていった。

 

 ゼルが呆然とした。

 

「……逃げた?」

 

 セルフィが笑った。

 

「逃げちゃったね~」

 

 ロメオは短剣を下ろした。

 

「……何だったんだ?」

 

 スコールは逃げた方向を見ていた。

 

「……追うぞ」

 

     *

 

 墓の奥には、水路を利用した仕掛けがあった。

 

 水門。

 

 古い機械装置。

 

 通路を塞ぐ歯車。

 

 スコールたちはそれぞれを調べ、順番に動かしていった。

 

 水門を開くと、止まっていた水が流れ始めた。

 

 古い歯車が回転し、墓の内部に低い音が響く。

 

 ロメオは感心したように見ていた。

 

「……すげえ仕掛けだな」

 

 キスティスが頷く。

 

「昔の技術とは思えないわね」

 

 セルフィが笑った。

 

「ちょっとした冒険だね!」

 

 ゼルが肩をすくめる。

 

「俺は早く帰りてえけどな」

 

 やがて、中央の大きな扉が開いた。

 

 その先には、広い石室があった。

 

 床には古い紋様が刻まれ、中央には二体の像が並んでいる。

 

 そのうち一体が、ゆっくりと動いた。

 

「て、てめえら!」

 

 聞き覚えのある声だった。

 

 セクレト。

 

「また来やがったのか!」

 

 ゼルが笑った。

 

「お前、まだいたのかよ!」

 

「さっきは手加減してやったけどなぁ!」

 

 セクレトは斧を振り上げた。

 

「今度はそうはいかねえぞ、オラァ!」

 

 そして、隣の像を指さす。

 

「今度はなぁ、俺様のアニキもいるんだぞ!」

 

 ゼルはセクレトを見た。

 

(……こいつ、最高に頭悪そうだぜ)

 

 セクレトは胸を張った。

 

「逃げ出すなら今のうちだっつってんだよ!」

 

 スコールはガンブレードを構えた。

 

「……逃げるつもりはない」

 

 セクレトが叫ぶ。

 

「アニキー!」

 

 隣の像が動いた。

 

「どうした、弟よ」

 

 低く落ち着いた声。

 

 石像の表面が崩れ、小柄な牛頭の魔物が姿を現した。

 

 ミノタウロス。

 

 セクレトよりも小さい。

 

 しかし、その身体からは強い魔力が感じられた。

 

「あ、アニキ!」

 

 セクレトが指さす。

 

「こいつら墓荒らしだ! しかも俺にたてつきやがったんだぜ!」

 

 ミノタウロスはスコールたちを見た。

 

「ほう、そうか……」

 

 そして、弟へ視線を向ける。

 

「おまえがやられるとはな」

 

 少し間を置く。

 

「人間どもよ、なかなかやるようだな」

 

 ゼルが目を丸くした。

 

「このちっこいのがアニキだと?」

 

 セクレトが怒鳴る。

 

「ア、アニキ! こいつらバカにしてるぜ!」

 

 ミノタウロスは静かに言った。

 

「……愚かな人間どもよ」

 

 そして、武器を構えた。

 

「見た目で判断してはいけないことを、教えてやろうではないか……」

 

 スコールがガンブレードを構える。

 

「……来るぞ!」

 

     *

 

 最初に動いたのは、セクレトだった。

 

「うおおおっ!」

 

 巨大な斧を振り上げる。

 

 ゼルが横へ跳んだ。

 

「またそれかよ!」

 

 拳を叩き込む。

 

 しかし、セクレトは怯まない。

 

「効かねえ!」

 

 その背後から、ミノタウロスが跳んだ。

 

 小柄な身体からは想像できない速度。

 

 ゼルの腹部に強烈な一撃が入る。

 

「ぐあっ!」

 

 ゼルが吹き飛ばされた。

 

「ゼル!」

 

 セルフィが叫ぶ。

 

 ロメオが踏み込んだ。

 

「こっちだ!」

 

 短剣に雷をまとわせる。

 

 セクレトへ斬りかかる。

 

 しかし、ミノタウロスが割り込んだ。

 

「甘い!」

 

 鋭い一撃。

 

 ロメオは身体をひねってかわした。

 

「……速い!」

 

 ミノタウロスは着地すると、静かに構え直した。

 

「弟とは違うぞ」

 

 ロメオは笑った。

 

「……みたいだな!」

 

 スコールが叫ぶ。

 

「二体を分断する!」

 

 キスティスが頷いた。

 

「分かったわ!」

 

 セルフィが魔法を唱える。

 

「ウォータ!」

 

 水流がセクレトを襲った。

 

「ぐおっ!」

 

 セクレトが後退する。

 

 アーヴァインが銃を構えた。

 

「BANG!」

 

 銃弾がセクレトの足元に着弾した。

 

 動きを止める。

 

 その隙に、スコールがミノタウロスへ踏み込んだ。

 

 ガンブレードの刃が交差する。

 

 火花が散った。

 

「……ほう」

 

 ミノタウロスが笑う。

 

「なかなかやる」

 

 スコールは答えず、再び斬り込んだ。

 

 引き金を引く。

 

 爆発音。

 

 ミノタウロスが後退する。

 

 しかし、すぐに地面へ手をついた。

 

 足元から淡い光が立ち上る。

 

 傷が塞がっていく。

 

「……回復してる!?」

 

 セルフィが叫んだ。

 

 ロメオが目を細める。

 

「地面から魔力を吸ってるのか?」

 

『……そのようじゃ』

 

 ラムウの声が響く。

 

『大地とのつながりを断て』

 

 ロメオは頷いた。

 

「……なるほど!」

 

 短剣を構える。

 

「レビテト!」

 

 魔法がミノタウロスを包んだ。

 

 小柄な身体が、わずかに浮き上がる。

 

「……何!?」

 

 ミノタウロスが驚いた。

 

 足が地面から離れる。

 

 回復の光が消えた。

 

 ロメオが笑う。

 

「これで回復できないだろ!」

 

 スコールが頷いた。

 

「……よくやった」

 

 ロメオは一瞬、目を丸くした。

 

「お?」

 

 そして笑う。

 

「任せろ!」

 

 ゼルが立ち上がった。

 

「よっしゃ!」

 

 拳を握る。

 

「今度は俺の番だ!」

 

 セクレトへ突進する。

 

 連続した拳打。

 

 最後に強烈な蹴り。

 

 セクレトが大きくよろめいた。

 

「ぐああっ!」

 

 アーヴァインが銃を構える。

 

「悪いね」

 

 引き金を引く。

 

 弾丸がセクレトの胸に命中した。

 

 セクレトが膝をつく。

 

「ア、アニキ……!」

 

 ミノタウロスが振り返った。

 

「弟よ!」

 

 その瞬間。

 

 スコールが踏み込んだ。

 

 ガンブレードの刃がミノタウロスを捉える。

 

 引き金。

 

 爆発。

 

 ミノタウロスが吹き飛ばされた。

 

「ぐ……!」

 

 ロメオが続いた。

 

 短剣に雷と炎が走る。

 

「いくぞ!」

 

 魔法剣二刀流。

 

 素早い連撃が、ミノタウロスを襲う。

 

 最後の一撃。

 

 ミノタウロスが地面へ落ちた。

 

「……見事だ」

 

 ミノタウロスはゆっくりと身体を起こした。

 

 しかし、すでに戦う力は残っていない。

 

「弟よ、あとは頼む……」

 

 そのまま膝をついた。

 

 セクレトが叫ぶ。

 

「アニキー!」

 

 しかし、セクレトも限界だった。

 

 大きな斧を地面へ落とす。

 

「……ちくしょう」

 

 そして、スコールたちを見る。

 

「俺たち兄弟が、負けちまうとは……」

 

 少し間を置く。

 

「しゃあねえな」

 

 セクレトは肩をすくめた。

 

「あんたらについて行くよ」

 

 スコールはガンブレードを下ろした。

 

「……何?」

 

 ミノタウロスが静かに頷いた。

 

「我らの力、存分に使うがいい」

 

 二体の身体が光に包まれた。

 

 そして、光の粒となって消えていく。

 

 新たなガーディアン・フォース。

 

 ブラザーズ。

 

 スコールたちは、その力を手に入れた。

 

     *

 

 戦闘が終わると、石室は静かになった。

 

 ゼルが肩を回す。

 

「……ふう」

 

 セルフィが笑った。

 

「強かったね~!」

 

 ロメオは短剣を鞘へ戻した。

 

「いやあ、面白い兄弟だったな!」

 

 リノアが呆れた顔をした。

 

「……面白いで済ませるんだ」

 

 スコールは周囲を確認していた。

 

 そのとき。

 

 石室の奥から、低い声が響いた。

 

『……あの兄弟を倒すとは、なかなかいい腕をしておるな』

 

 全員が振り返った。

 

 奥には、古い石棺が置かれていた。

 

 そこから、声が聞こえてくる。

 

『おかげで、ようやく私もこの狭い石棺から解放される……』

 

 ゼルが目を丸くした。

 

「……誰だ!?」

 

 ロメオも石棺を見た。

 

「……幽霊?」

 

 声は続いた。

 

『……しかし、永い間、棺の中で考えていたことがあるのだ』

 

 静かな声だった。

 

『長い俗世に疲れ果て、これから冥界に旅立とうとする者を、このような石棺の中に閉じ込めることが、果たして本当に必要なのだろうかと……』

 

 ロメオは少し黙った。

 

 そして、石棺を見つめる。

 

「……確かになあ」

 

 リノアが振り返る。

 

「え?」

 

「ずっと閉じ込められてたんだろ?」

 

 ロメオは言った。

 

「そりゃ、嫌になるよな」

 

 スコールは黙っていた。

 

 墓の奥に眠っていた存在。

 

 そして、ブラザーズ。

 

 この場所には、まだ知らない歴史があるのだろう。

 

 しかし、今はそれを調べている時間はない。

 

 スコールは地図を開いた。

 

「……戻るぞ」

 

 ゼルが頷いた。

 

「おう!」

 

 セルフィも手を上げる。

 

「は~い!」

 

 ロメオは最後に石棺を振り返った。

 

「……じゃあな!」

 

 返事はなかった。

 

 ただ、墓の奥に静かな風が吹いていた。

 

 スコールたちは来た道を戻り始めた。

 

 目的の出席番号は、すでに確認している。

 

 これでカーウェイ邸へ入れるはずだった。

 

 ロメオは歩きながら、手帳を開いた。

 

 そこには、今日見た墓のことが書き込まれている。

 

 名もなき王の墓。

 

 奇妙な兄弟。

 

 そして、石棺の中から聞こえた声。

 

 ロメオは少し考えた。

 

 それから、最後に一行を書き加えた。

 

『旅先で出会うものは、生きている人間だけとは限らない』

 

 手帳を閉じる。

 

 そして、前を歩くスコールたちを追いかけた。

 

「おーい! 待ってくれ!」

 

 ゼルが振り返る。

 

「また遅れてんのかよ!」

 

「ちょっと書いてただけ!」

 

 リノアがため息をついた。

 

「……ほんと、お兄ちゃんって」

 

 ロメオは笑った。

 

 名もなき王の墓を後にして、一行はデリング・シティへ戻っていった。

 

 次に待っているのは、カーウェイ大佐との面会。

 

 そして、魔女暗殺作戦の具体的な説明だった。

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