FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール 作:Kurumimogomogo
デリング・シティ。
ガルバディア共和国の首都は、相変わらずの賑わいを見せていた。
広い車道を自動車が行き交い、歩道には買い物客や観光客が溢れている。高層建築の間を走るバスは、各地区を結ぶ市民の足だ。
だが、街のいたるところに軍服姿の兵士が立っていた。
ティンバーで見た兵士たちと同じ制服。
ここがガルバディア政府の中心地であることを、嫌でも思い知らされる。
「うわ~、都会だねえ!」
セルフィが街並みを見上げた。
「すっげえな!」
ゼルも周囲を見回す。
アーヴァインは帽子のつばを上げ、通りを眺めていた。
「デリング・シティか。悪くない街だね」
ロメオは駅前の広場に立ち、懐かしそうに息を吸った。
「……変わってないなあ」
リノアが隣へ来る。
「そう?」
「うん。あそこの店も、まだある」
ロメオが指さした先には、小さな菓子店があった。
「お前、昔あそこのケーキ好きだったろ?」
「あ、覚えてる!」
リノアが笑った。
「お兄ちゃんが私の分まで食べちゃったところ!」
「……そんなことあったっけ?」
「あった!」
ロメオは笑ってごまかした。
スコールが振り返る。
「……何をしてるんだ」
「あ、悪い!」
ロメオが駆け寄る。
「懐かしくてさ」
スコールは一行を見渡した。
「これからカーウェイ邸に向かう。場所は通称『役人地区』」
ゼルが首を傾げる。
「役人地区?」
「政府関係者や軍の高官が住んでいる地区だ」
スコールは続けた。
「俺たちはガルバディア・ガーデンから警備の応援に来たことになっている。それを忘れるな」
「了解!」
ゼルが答える。
セルフィも頷いた。
「は~い!」
ロメオは軽く手を上げた。
「了解!」
リノアが兄を見る。
「……お兄ちゃん、本当に分かってる?」
「分かってるって!」
「知り合いに会っても、余計なこと言わないでよ」
「はいはい」
スコールは歩き始めた。
カーウェイ大佐。
ガルバディア軍の事実上のナンバーワンともいわれる男。
その人物が、魔女暗殺作戦に協力するという。
(……大佐のクーデターか?)
スコールは考えた。
(いや、大統領を倒そうというわけではないらしい……)
魔女を排除することと、大統領への反逆は必ずしも同じではない。
だが、ガルバディア軍の高官が魔女暗殺に関与するという事実は、十分に異常だった。
スコールは前を向いた。
(……とにかく、本人に会って確かめるしかない)
その少し後ろで、ロメオは街を眺めながら歩いていた。
(親父、何を考えてるんだろうな)
フューリー・カーウェイ。
厳格で、規律にうるさく、滅多に感情を表に出さない男。
しかし、ロメオにとっては幼い頃からの父親だった。
血のつながりがないことも、本人から聞いている。
それでも、父親であることに変わりはない。
(……魔女暗殺か)
ロメオは小さく息を吐いた。
今回ばかりは、いつものように笑って済ませられる話ではなさそうだった。
*
役人地区へ向かうにつれて、街の雰囲気は変わっていった。
商店が減り、整然とした住宅が増える。
通りには街路樹が並び、警備兵の姿も目立つようになった。
やがて、大きな門が見えてきた。
門の奥には、立派な邸宅がある。
「……あれか」
スコールが呟いた。
ロメオは頷いた。
「ああ。カーウェイ邸だ」
リノアは少しだけ表情を硬くした。
門の前には警備兵が立っている。
スコールが近づくと、兵士は姿勢を正した。
「カーウェイ大佐の邸宅は、この門を入ったところです」
そして、少し間を置く。
「……んが。簡単にここを通すわけにはいきません」
ゼルが眉をひそめた。
「はあ?」
スコールは冷静に尋ねた。
「俺たちがここに来ることは、連絡済みのはずでは?」
「連絡は受けています……んが」
警備兵は頷いた。
「カーウェイ大佐は、あなたがたの実力を自分で確かめるまでは、ここを通すなと」
ゼルが腕を組んだ。
「なめられたもんだぜ」
ロメオも目を丸くした。
「……親父?」
リノアが小声で言う。
「お兄ちゃん、余計なこと言わないで」
「いや、だってさ」
ロメオは門を見た。
(……俺たちが来るの、知ってるよな?)
それなのに通さない。
しかも、実力を確かめるという。
(……あの親父が?)
ロメオは首を傾げた。
スコールが警備兵へ尋ねる。
「実力? いったい何をすればいい?」
警備兵は説明を始めた。
「街を出て北東にある『名もなき王の墓』。そこに行くだけでいいんです」
セルフィが首を傾げる。
「お墓?」
「簡単なことです……んが」
警備兵は続けた。
「ただ行って帰ればいいわけではありません。証明のための暗号が必要です」
「暗号?」
スコールが聞き返した。
ゼルが不満そうに言う。
「こんなとこまで来て、肝試しみてぇなことさせるなんて、SeeDもなめられたもんだぜ」
警備兵は構わず続けた。
「あなたたちと同様に、大佐を訪問してくる学生は毎日後を絶ちません」
ロメオが眉をひそめた。
「……毎日?」
「昨日も一人、ガルバディア・ガーデンの学生が来ましたが、名もなき王の墓の試練から、いまだ戻ってこないのです」
空気が少し変わった。
キスティスが尋ねる。
「……行方不明ということ?」
「そうなります」
警備兵は頷いた。
「街を出て北東の方角に進めば、名もなき王の墓があります」
そして、スコールを見た。
「そこに行って、彼の痕跡を探し出し、出席番号を覚えてくるのがあなたたちの課題です」
「出席番号……」
スコールは呟いた。
「目的のものは、入口に入ってすぐのところに落ちています。それを調べれば番号は分かるはずです」
警備兵は声を低くした。
「間違っても、初心者はその奥に進んではいけません」
ゼルが顔を上げる。
「……何でだよ?」
「二度と帰ってこられなくなりますよ」
沈黙が落ちた。
セルフィが小さく呟く。
「……こわ~い」
ロメオは少し考えた。
(……墓の奥に何かいるのか?)
ただの肝試しではなさそうだった。
警備兵は地図を差し出した。
「とりあえず、地図だけは渡します」
スコールが受け取る。
「墓の中では、いつでも地図を確認できます。緊急時には脱出用の手段もありますが、任務評価に影響する可能性があるので気をつけてください」
「……分かった」
「では、街の出口までお送りしましょう」
警備兵は門から離れた。
「外のフィールドを移動するときは、街の出口のレンタカーを利用すると便利ですよ」
スコールは頷いた。
「……行くぞ」
ゼルが不満そうに歩き始める。
「ったく……面倒くせえな」
ロメオは門を振り返った。
(……親父)
その奥に、フューリー・カーウェイがいる。
だが、今は会えない。
ロメオは苦笑した。
「……相変わらず厳しいなあ」
リノアが小さく言った。
「……ほんと」
*
デリング・シティを出ると、広い草原が続いていた。
北東へ伸びる街道の先には、低い丘と荒れた大地が見える。
レンタカーを利用して墓の近くまで移動し、一行は徒歩で進んだ。
道中、アーヴァインが銃を肩に担ぎ直した。
「あ、言い忘れていたけど」
ゼルが振り返る。
「……何だよ」
アーヴァインは銃を構える真似をした。
「僕の銃は特別性でね、弾を切り替えれるのさ。
切り替えてBANG! BANG! だよ~」
ゼルが顔をしかめた。
「……今、それ説明する必要あんのか?」
「あるかもしれないだろ?」
アーヴァインは笑った。
「戦闘中に驚かれても困るしね」
ロメオが目を輝かせた。
「へえ! 弾を使い分けるのか!」
「そういうこと」
「面白いな!」
ロメオは自分の短剣を抜いた。
「俺はこっち!」
刃に小さな雷光が走る。
「魔法を乗せて斬るんだ」
アーヴァインが目を細めた。
「へえ……魔法剣っていうかんじか」
「そう!」
ロメオは笑った。
「遠くは任せた!」
アーヴァインも笑う。
「近くは任せるよ」
ゼルが二人を見た。
「……何か、すげえ仲良くなってねえか?」
スコールは短く答えた。
「……気にするな」
そのとき、キスティスが足を止めた。
「見えてきたわ」
丘の向こうに、石造りの建造物が現れた。
名もなき王の墓。
入口には巨大な石柱が並び、奥へ続く暗い通路が口を開けている。
風が吹き抜けるたび、低い音が響いた。
セルフィが入口を見上げる。
「……雰囲気あるね~」
ゼルが拳を握った。
「さっさと番号見つけて帰ろうぜ」
スコールは地図を開いた。
「……入るぞ」
*
墓の内部は、外よりもひんやりとしていた。
石造りの通路が奥へ続いている。
壁には古い装飾が施され、床には長い年月を感じさせる亀裂が走っていた。
足音が反響する。
ロメオは壁を眺めていた。
「……すげえな」
リノアが小声で尋ねる。
「何が?」
「何百年も前から、ここにあるんだろ?」
ロメオは手帳を開いた。
「誰が作ったんだろうな」
スコールが振り返る。
「……今は調査に集中しろ」
「分かってるって!」
そのとき、セルフィが声を上げた。
「あ!」
通路の脇に、何かが落ちていた。
金属製の小さなプレート。
スコールが拾い上げる。
表面には文字が刻まれていた。
『男子・出席番号47』
「……47」
スコールは番号を確認した。
キスティスが頷く。
「これね」
ゼルが肩をすくめた。
「何だ、簡単じゃねえか」
リノアも安心したように息を吐いた。
「じゃあ、戻ろっか」
しかし、ロメオは通路の奥を見ていた。
「……なあ」
スコールが振り返る。
「何だ」
「奥、どうなってるんだろうな」
ゼルが顔をしかめた。
「おいおい、まさか行く気か?」
ロメオは笑った。
「ちょっと気になるだろ?」
リノアが呆れた。
「お兄ちゃん……」
スコールは地図を見た。
依頼されたのは、出席番号の確認だけ。
それはすでに終わっている。
しかし、警備兵は墓の奥について警告していた。
何があるのかは分からない。
スコールは少し考えた。
「……奥を確認する」
ゼルが目を丸くした。
「マジかよ!?」
「危険なら引き返す」
スコールは淡々と答えた。
「戦闘準備をしておけ」
ロメオが笑った。
「よし!」
リノアはため息をついた。
「……二人とも、似たところあるよね」
スコールとロメオが同時に振り返る。
「……何が?」
「何で?」
リノアは首を振った。
「……何でもない」
*
墓の奥は、複雑な構造になっていた。
通路が何度も分岐し、似たような景色が続く。
壁には古い彫刻が並び、ところどころに水路が走っている。
ロメオは地図を覗き込んだ。
「……こっちか?」
スコールが即座に答える。
「違う」
「え?」
「そっちは今来た道だ」
「……あれ?」
ゼルが笑った。
「やっぱり方向音痴じゃねえか!」
「おかしいなあ……」
ロメオは首を傾げた。
リノアが肩をすくめる。
「だから言ったでしょ」
スコールは地図を閉じた。
「俺が先頭を行く」
「頼む!」
ロメオは素直に頷いた。
しばらく進むと、広い部屋に出た。
中央には、巨大な石像が置かれている。
人間のような姿。
しかし、頭には角が生えていた。
ゼルが近づく。
「……何だ、これ」
セルフィも覗き込んだ。
「変わった像だね~」
ロメオは興味深そうに見上げた。
「……牛?」
その瞬間。
石像が動いた。
「おまえらぁ~!」
低い声が響く。
「こんなところで何してんだぁ!?」
ゼルが飛び退いた。
「うおっ!?」
石像の表面が崩れ、巨大な斧を持つ魔物が姿を現した。
牛の頭。
筋肉質な身体。
鋭い角。
セクレトだった。
スコールがガンブレードを抜く。
「……敵だ!」
ロメオも短剣を構えた。
「了解!」
セクレトは斧を振り上げた。
「墓荒らしどもがぁ!」
戦闘が始まった。
*
最初に飛び込んだのはゼルだった。
「うおおおっ!」
拳を叩き込む。
しかし、セクレトは腕で受け止めた。
「効かねえなぁ!」
巨大な斧が振り下ろされる。
「危ねえ!」
ゼルが横へ跳んだ。
床が砕け、石片が飛び散った。
スコールが踏み込む。
ガンブレードの刃がセクレトの脇腹を捉えた。
引き金を引く。
爆発音。
セクレトがよろめく。
「ぐおっ!?」
ロメオが横から飛び込んだ。
「こっちも!」
短剣に雷光が走る。
素早い二連撃。
セクレトの腕に火花が散った。
「ぐああっ!」
しかし、セクレトはすぐに体勢を立て直した。
「ちくしょう!」
斧を振り回す。
ロメオが後ろへ跳ぶ。
「おっと!」
セルフィが魔法を唱えた。
「ブリザラ!」
冷気がセクレトを包む。
セクレトは腕を振り回し、氷を砕いた。
「この程度でぇ!」
アーヴァインが銃を構えた。
「じゃあ、これはどうかな」
銃声。
弾丸がセクレトの肩に命中した。
「ぐおっ!」
セクレトが後退する。
キスティスが叫んだ。
「今よ!」
スコールとロメオが同時に踏み込んだ。
ガンブレードの斬撃。
魔法剣の連撃。
セクレトは大きくよろめいた。
「ぐ……ぐぬぬ……!」
そして、突然背を向けた。
「こいつら、強いぜ!」
全員が動きを止める。
「ちくしょう!」
セクレトは出口へ走り出した。
「お、おぼえてろよ!」
そのまま逃げ去っていった。
ゼルが呆然とした。
「……逃げた?」
セルフィが笑った。
「逃げちゃったね~」
ロメオは短剣を下ろした。
「……何だったんだ?」
スコールは逃げた方向を見ていた。
「……追うぞ」
*
墓の奥には、水路を利用した仕掛けがあった。
水門。
古い機械装置。
通路を塞ぐ歯車。
スコールたちはそれぞれを調べ、順番に動かしていった。
水門を開くと、止まっていた水が流れ始めた。
古い歯車が回転し、墓の内部に低い音が響く。
ロメオは感心したように見ていた。
「……すげえ仕掛けだな」
キスティスが頷く。
「昔の技術とは思えないわね」
セルフィが笑った。
「ちょっとした冒険だね!」
ゼルが肩をすくめる。
「俺は早く帰りてえけどな」
やがて、中央の大きな扉が開いた。
その先には、広い石室があった。
床には古い紋様が刻まれ、中央には二体の像が並んでいる。
そのうち一体が、ゆっくりと動いた。
「て、てめえら!」
聞き覚えのある声だった。
セクレト。
「また来やがったのか!」
ゼルが笑った。
「お前、まだいたのかよ!」
「さっきは手加減してやったけどなぁ!」
セクレトは斧を振り上げた。
「今度はそうはいかねえぞ、オラァ!」
そして、隣の像を指さす。
「今度はなぁ、俺様のアニキもいるんだぞ!」
ゼルはセクレトを見た。
(……こいつ、最高に頭悪そうだぜ)
セクレトは胸を張った。
「逃げ出すなら今のうちだっつってんだよ!」
スコールはガンブレードを構えた。
「……逃げるつもりはない」
セクレトが叫ぶ。
「アニキー!」
隣の像が動いた。
「どうした、弟よ」
低く落ち着いた声。
石像の表面が崩れ、小柄な牛頭の魔物が姿を現した。
ミノタウロス。
セクレトよりも小さい。
しかし、その身体からは強い魔力が感じられた。
「あ、アニキ!」
セクレトが指さす。
「こいつら墓荒らしだ! しかも俺にたてつきやがったんだぜ!」
ミノタウロスはスコールたちを見た。
「ほう、そうか……」
そして、弟へ視線を向ける。
「おまえがやられるとはな」
少し間を置く。
「人間どもよ、なかなかやるようだな」
ゼルが目を丸くした。
「このちっこいのがアニキだと?」
セクレトが怒鳴る。
「ア、アニキ! こいつらバカにしてるぜ!」
ミノタウロスは静かに言った。
「……愚かな人間どもよ」
そして、武器を構えた。
「見た目で判断してはいけないことを、教えてやろうではないか……」
スコールがガンブレードを構える。
「……来るぞ!」
*
最初に動いたのは、セクレトだった。
「うおおおっ!」
巨大な斧を振り上げる。
ゼルが横へ跳んだ。
「またそれかよ!」
拳を叩き込む。
しかし、セクレトは怯まない。
「効かねえ!」
その背後から、ミノタウロスが跳んだ。
小柄な身体からは想像できない速度。
ゼルの腹部に強烈な一撃が入る。
「ぐあっ!」
ゼルが吹き飛ばされた。
「ゼル!」
セルフィが叫ぶ。
ロメオが踏み込んだ。
「こっちだ!」
短剣に雷をまとわせる。
セクレトへ斬りかかる。
しかし、ミノタウロスが割り込んだ。
「甘い!」
鋭い一撃。
ロメオは身体をひねってかわした。
「……速い!」
ミノタウロスは着地すると、静かに構え直した。
「弟とは違うぞ」
ロメオは笑った。
「……みたいだな!」
スコールが叫ぶ。
「二体を分断する!」
キスティスが頷いた。
「分かったわ!」
セルフィが魔法を唱える。
「ウォータ!」
水流がセクレトを襲った。
「ぐおっ!」
セクレトが後退する。
アーヴァインが銃を構えた。
「BANG!」
銃弾がセクレトの足元に着弾した。
動きを止める。
その隙に、スコールがミノタウロスへ踏み込んだ。
ガンブレードの刃が交差する。
火花が散った。
「……ほう」
ミノタウロスが笑う。
「なかなかやる」
スコールは答えず、再び斬り込んだ。
引き金を引く。
爆発音。
ミノタウロスが後退する。
しかし、すぐに地面へ手をついた。
足元から淡い光が立ち上る。
傷が塞がっていく。
「……回復してる!?」
セルフィが叫んだ。
ロメオが目を細める。
「地面から魔力を吸ってるのか?」
『……そのようじゃ』
ラムウの声が響く。
『大地とのつながりを断て』
ロメオは頷いた。
「……なるほど!」
短剣を構える。
「レビテト!」
魔法がミノタウロスを包んだ。
小柄な身体が、わずかに浮き上がる。
「……何!?」
ミノタウロスが驚いた。
足が地面から離れる。
回復の光が消えた。
ロメオが笑う。
「これで回復できないだろ!」
スコールが頷いた。
「……よくやった」
ロメオは一瞬、目を丸くした。
「お?」
そして笑う。
「任せろ!」
ゼルが立ち上がった。
「よっしゃ!」
拳を握る。
「今度は俺の番だ!」
セクレトへ突進する。
連続した拳打。
最後に強烈な蹴り。
セクレトが大きくよろめいた。
「ぐああっ!」
アーヴァインが銃を構える。
「悪いね」
引き金を引く。
弾丸がセクレトの胸に命中した。
セクレトが膝をつく。
「ア、アニキ……!」
ミノタウロスが振り返った。
「弟よ!」
その瞬間。
スコールが踏み込んだ。
ガンブレードの刃がミノタウロスを捉える。
引き金。
爆発。
ミノタウロスが吹き飛ばされた。
「ぐ……!」
ロメオが続いた。
短剣に雷と炎が走る。
「いくぞ!」
魔法剣二刀流。
素早い連撃が、ミノタウロスを襲う。
最後の一撃。
ミノタウロスが地面へ落ちた。
「……見事だ」
ミノタウロスはゆっくりと身体を起こした。
しかし、すでに戦う力は残っていない。
「弟よ、あとは頼む……」
そのまま膝をついた。
セクレトが叫ぶ。
「アニキー!」
しかし、セクレトも限界だった。
大きな斧を地面へ落とす。
「……ちくしょう」
そして、スコールたちを見る。
「俺たち兄弟が、負けちまうとは……」
少し間を置く。
「しゃあねえな」
セクレトは肩をすくめた。
「あんたらについて行くよ」
スコールはガンブレードを下ろした。
「……何?」
ミノタウロスが静かに頷いた。
「我らの力、存分に使うがいい」
二体の身体が光に包まれた。
そして、光の粒となって消えていく。
新たなガーディアン・フォース。
ブラザーズ。
スコールたちは、その力を手に入れた。
*
戦闘が終わると、石室は静かになった。
ゼルが肩を回す。
「……ふう」
セルフィが笑った。
「強かったね~!」
ロメオは短剣を鞘へ戻した。
「いやあ、面白い兄弟だったな!」
リノアが呆れた顔をした。
「……面白いで済ませるんだ」
スコールは周囲を確認していた。
そのとき。
石室の奥から、低い声が響いた。
『……あの兄弟を倒すとは、なかなかいい腕をしておるな』
全員が振り返った。
奥には、古い石棺が置かれていた。
そこから、声が聞こえてくる。
『おかげで、ようやく私もこの狭い石棺から解放される……』
ゼルが目を丸くした。
「……誰だ!?」
ロメオも石棺を見た。
「……幽霊?」
声は続いた。
『……しかし、永い間、棺の中で考えていたことがあるのだ』
静かな声だった。
『長い俗世に疲れ果て、これから冥界に旅立とうとする者を、このような石棺の中に閉じ込めることが、果たして本当に必要なのだろうかと……』
ロメオは少し黙った。
そして、石棺を見つめる。
「……確かになあ」
リノアが振り返る。
「え?」
「ずっと閉じ込められてたんだろ?」
ロメオは言った。
「そりゃ、嫌になるよな」
スコールは黙っていた。
墓の奥に眠っていた存在。
そして、ブラザーズ。
この場所には、まだ知らない歴史があるのだろう。
しかし、今はそれを調べている時間はない。
スコールは地図を開いた。
「……戻るぞ」
ゼルが頷いた。
「おう!」
セルフィも手を上げる。
「は~い!」
ロメオは最後に石棺を振り返った。
「……じゃあな!」
返事はなかった。
ただ、墓の奥に静かな風が吹いていた。
スコールたちは来た道を戻り始めた。
目的の出席番号は、すでに確認している。
これでカーウェイ邸へ入れるはずだった。
ロメオは歩きながら、手帳を開いた。
そこには、今日見た墓のことが書き込まれている。
名もなき王の墓。
奇妙な兄弟。
そして、石棺の中から聞こえた声。
ロメオは少し考えた。
それから、最後に一行を書き加えた。
『旅先で出会うものは、生きている人間だけとは限らない』
手帳を閉じる。
そして、前を歩くスコールたちを追いかけた。
「おーい! 待ってくれ!」
ゼルが振り返る。
「また遅れてんのかよ!」
「ちょっと書いてただけ!」
リノアがため息をついた。
「……ほんと、お兄ちゃんって」
ロメオは笑った。
名もなき王の墓を後にして、一行はデリング・シティへ戻っていった。
次に待っているのは、カーウェイ大佐との面会。
そして、魔女暗殺作戦の具体的な説明だった。