FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール   作:Kurumimogomogo

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D地区収容所

 暗闇の中で、誰かの声がした。

 

(……ここはどこだ)

 

 身体が重い。

 

 頭の奥に、鈍い痛みが残っている。

 

 最後に見たのは、魔女イデアが放った巨大な氷の槍だった。

 

 スコールは、それが自分の身体を貫いた瞬間を覚えていた。

 

 そして、意識が途切れた。

 

(……俺は、死んだのか?)

 

 返事はない。

 

 ただ、遠くから機械の動く音が聞こえていた。

 

 *

 

「……あ、おかえりなさい、ゼル」

 

 キスティスの声で、ゼルは目を開けた。

 

 目の前にあるのは、灰色の壁。

 

 窓のない部屋。

 

 鉄格子の扉。

 

 床には薄汚れた毛布が数枚転がっていた。

 

「……あ?」

 

「『あっちの世界』?」

 

 キスティスが尋ねる。

 

「おお」

 

 ゼルは頭を振った。

 

 妙に生々しい夢だった。

 

 いや、夢と呼んでいいのかも分からない。

 

「ラグナ、元気だった?」

 

 セルフィが期待に満ちた目で尋ねる。

 

「わからねえ。会えなかった」

 

「え~」

 

「ウォードのこと全部わかるわけじゃないけどよ……」

 

 ゼルは壁にもたれた。

 

「ラグナたちはセントラってところに行って、ひどい目に遭ったんだろ? そのあと、ウォードだけどっかの刑務所みたいなとこで働くことになったんだ」

 

「刑務所?」

 

 キスティスが聞き返した。

 

「おう。ウォードは退屈でしょうがなくてよ。またラグナたちと一緒に戦う夢を見て暮らしてるぜ」

 

「それで、結局、この現象って何?」

 

「それを俺に聞くなって!」

 

 ゼルが声を上げる。

 

 セルフィは頬に指を当てた。

 

「刑務所といえば脱獄……。どうせなら派手にいきたいよね~」

 

「今の状況で楽しそうに言わないで」

 

 キスティスはため息をついた。

 

 部屋にいるのは、キスティス、ゼル、セルフィの三人。

 

 リノアとロメオは、少し前まで一緒だった。

 

 だが、看守に連れていかれてしまった。

 

 アーヴァインの姿は、捕まってから一度も見ていない。

 

 そして、スコールも。

 

「スコールはどうしたのかしら……」

 

 キスティスが呟いた。

 

「彼もここに運ばれたのかしら……」

 

 ゼルは顔をしかめた。

 

 魔女との戦いの最後、スコールが倒れたことは覚えている。

 

 その後は混乱していた。

 

 ガルバディア兵に取り囲まれ、武器を取り上げられた。

 

 ロメオがスコールのところへ行こうとして、兵士に押さえつけられていたことも覚えている。

 

 それから、ここへ連れてこられた。

 

「……なあ」

 

 ゼルが顔を上げた。

 

「ここ、どこなんだ?」

 

 キスティスは首を振った。

 

「それが分かれば苦労しないわ」

 

 セルフィが周囲を見回す。

 

「でも、刑務所っぽいよね」

 

 ゼルはその言葉に引っかかった。

 

(……刑務所?)

 

 さっきまで見ていたウォードの記憶。

 

 掃除道具。

 

 同じような部屋がいくつも並ぶ廊下。

 

 円筒状の建物。

 

(……おいおいおい)

 

 ゼルは勢いよく立ち上がった。

 

「見覚えあるぜ!」

 

「え?」

 

「みんな聞いてくれ! ここはウォードが働いてた刑務所だ!」

 

 キスティスとセルフィが顔を上げる。

 

「ウォードは掃除してたぜ! 同じような部屋がたくさんあってよ! 間違いねえ!」

 

 キスティスは驚いた。

 

「じゃあ、ここは……」

 

「ガルバディアのD地区収容所だ!」

 

 ゼルは鉄格子を指さした。

 

「ウォードの記憶とそっくりなんだ!」

 

 キスティスは考え込んだ。

 

「……魔女を襲って現行犯逮捕されたから、刑務所入りは当然といえば当然ね」

 

「大統領にはむかったんだもんね……」

 

 セルフィが呟く。

 

「その大統領、もういないわ」

 

 キスティスは静かに言った。

 

 デリング大統領は、イデア自身の手で殺された。

 

 今やガルバディアは、魔女が支配する国になっている。

 

「……どうなるのかな、私たち」

 

 セルフィは天井を見上げた。

 

「あんまり~、いいことなさそ」

 

 ゼルは拳を握った。

 

(マジでよう、どうなるんだ?)

 

 スコールはどこにいる。

 

 リノアとロメオは何のために連れていかれた。

 

 アーヴァインは無事なのか。

 

 何一つ分からなかった。

 

 *

 

 同じ収容所の、別の階。

 

 リノアとロメオは、武装した看守に挟まれて廊下を歩いていた。

 

「……どこへ連れていくの?」

 

 リノアが尋ねる。

 

 看守は答えない。

 

 ロメオは周囲を観察していた。

 

 曲がり角。

 

 監視装置。

 

 昇降機。

 

 そして、すれ違う兵士の人数。

 

(……見張りは多いな)

 

 武器は取り上げられている。

 

 ラムウとの繋がりも、ひどく遠かった。

 

『……ロメオ』

 

 かすかな声が聞こえる。

 

(ラムウ?)

 

『魔力を抑える仕掛けがあるようじゃ』

 

(……なるほどね)

 

 ロメオは手首を動かした。

 

 魔法が使えなければ、二本の短剣もない今は不利だ。

 

 だが、リノアを一人にするわけにはいかなかった。

 

「……お兄ちゃん」

 

 リノアが小声で呼ぶ。

 

「大丈夫」

 

 ロメオは前を向いたまま答えた。

 

「まだ何も決まったわけじゃない」

 

 看守が振り返った。

 

「私語を慎め!」

 

「はいはい」

 

 ロメオは肩をすくめた。

 

 その態度が気に入らなかったのか、看守が警棒を持ち上げる。

 

 しかし、別の兵士が止めた。

 

「そいつらには手を出すな。上から指示が来ている」

 

 ロメオは眉をひそめた。

 

(……上から?)

 

 *

 

 スコールは目を開けた。

 

 薄暗い独房。

 

 身体を固定する拘束具。

 

 そして、腕に繋がれた装置。

 

(……ここは?)

 

 意識が戻るにつれ、記憶も戻ってきた。

 

(俺は……イデアと戦って……ひどい傷を……)

 

 スコールは胸元を見た。

 

 服は乱れている。

 

 だが、傷はなかった。

 

(……傷は、ない)

 

 氷の槍に貫かれたはずだった。

 

(なぜ……?)

 

 考えているうちに、別の記憶が浮かんだ。

 

 倒れた自分。

 

 取り囲むガルバディア兵。

 

 そして。

 

(……そうだ)

 

 サイファーが、にやついて自分を見下ろしていた。

 

「……クッ!」

 

 スコールは拘束具を引いた。

 

「サイファー!」

 

 扉が開いた。

 

 現れたのは、そのサイファーだった。

 

「よう、スコール」

 

 見慣れた顔。

 

 見慣れた笑い方。

 

 だが、着ているものも、立場も違う。

 

 サイファーは魔女の騎士として、ガルバディア兵を従えていた。

 

「……みじめだな」

 

 サイファーは笑った。

 

「連れていけ!」

 

 *

 

 収容所の上層階。

 

 リノアとロメオは、小さな応接室へ通された。

 

 そこには、見覚えのある男が立っていた。

 

「……アーヴァイン?」

 

 リノアが目を丸くする。

 

 アーヴァイン・キニアスは、いつもの帽子を被っていた。

 

 だが、表情はどこか気まずそうだった。

 

「やあ、二人とも」

 

「……何してるの?」

 

 リノアが尋ねる。

 

「まあ、ちょっとね」

 

 ロメオはアーヴァインの後ろを見た。

 

 軍服姿の男が一人。

 

 手には書類を持っている。

 

「カーウェイ大佐からの指示です」

 

 男が言った。

 

「お二人を収容所から移送するよう命令を受けています」

 

 リノアが固まった。

 

「……は?」

 

 ロメオは目を細めた。

 

「親父から?」

 

「はい」

 

 アーヴァインが頷いた。

 

「デリング・シティへ戻る。車も用意されてる」

 

 リノアはアーヴァインを見た。

 

「……他のみんなは?」

 

 アーヴァインは答えなかった。

 

「……ねえ」

 

「……二人だけだよ」

 

 リノアの表情が変わった。

 

「何、それ」

 

 ロメオも黙った。

 

「スコールたちは?」

 

「……命令には入ってない」

 

「じゃあ、置いていくの?」

 

 リノアの声が大きくなった。

 

 アーヴァインは困ったように帽子のつばを触った。

 

「僕だって、いろいろ考えたんだよ」

 

「考えて、それ?」

 

「……」

 

 ロメオが口を開いた。

 

「アーヴァイン」

 

「……何だい?」

 

「親父は俺たちを助けろって言ったんだな?」

 

「そうだよ」

 

「じゃあ、俺たちがここを出るのを拒否したら?」

 

 アーヴァインは顔を上げた。

 

「……え?」

 

 ロメオは静かに言った。

 

「俺たちは、仲間を置いていくつもりはない」

 

 *

 

 スコールは、尋問室へ連れてこられていた。

 

 部屋の中央には、金属製の椅子。

 

 周囲には、拷問用の装置が並んでいる。

 

 サイファーは椅子に腰かけ、足を組んでいた。

 

「何が始まるのか、想像できるよな?」

 

 スコールは答えなかった。

 

「……何が知りたいんだ?」

 

「SeeDとは何だ?」

 

 サイファーは身を乗り出した。

 

「イデアが知りたがっている」

 

「SeeDとは……」

 

 スコールは言葉を止めた。

 

(……SeeDはバラム・ガーデンが世界に誇る傭兵のコードネーム)

 

 戦闘のスペシャリスト。

 

 それ以上でも、それ以下でもない。

 

(……??)

 

 スコールはサイファーを見た。

 

「……あんたも知ってるだろ?」

 

「俺はSeeDじゃない」

 

 サイファーは笑った。

 

「SeeDになってから知らされる、重要な秘密があるんじゃねえのか?」

 

「残念ながら……ない」

 

 スコールは答えた。

 

「あったとしても、言うと思うのか?」

 

 サイファーは楽しそうに笑った。

 

「おまえは『骨のあるやつリスト』に入ってるぜ」

 

 そして、立ち上がる。

 

「簡単にしゃべるとは思っちゃいないさ」

 

「……光栄だな」

 

「だから、これだ」

 

 サイファーが合図した。

 

 装置が作動する。

 

 次の瞬間、スコールの身体に激痛が走った。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

 身体が跳ねる。

 

 拘束具が軋んだ。

 

 サイファーは笑っていた。

 

「まあ、おまえが言わなけりゃ、他のやつらに吐かせるさ」

 

 スコールは荒い息をついた。

 

「先生、伝令の女、チキン野郎……」

 

 サイファーは指を折った。

 

「チキン野郎なんか三秒もたねえぞ」

 

(……みんな)

 

 スコールは顔を上げた。

 

「……いる、の……か?」

 

「おお、いるぜ」

 

 サイファーは嬉しそうに言った。

 

「でも、俺はおまえが大好きだからよ。こうして一番に来てもらったわけだ」

 

 スコールは睨みつけた。

 

「会いたかったぜ、スコール」

 

 サイファーは胸を張った。

 

「俺の晴れ姿、どうだった? 俺は魔女の騎士になったんだぞ。ガキの頃からの夢だったぜ」

 

(……魔女の、騎士)

 

 スコールは目を閉じかけた。

 

(ロマンティックな夢……か?)

 

 しかし。

 

(……でも、サイファー)

 

 今の姿は。

 

「……拷問係だ」

 

 サイファーの笑みが消えた。

 

「……何だって?」

 

 スコールの意識が遠のく。

 

「おい! あっさり気絶しやがったのか?」

 

 サイファーは苛立たしげに立ち上がった。

 

「ここは、おまえが俺への憎しみを募らせるシーンなんだぜ?」

 

 返事はない。

 

「魔女の騎士と悪の傭兵が戦う宿命の物語」

 

 サイファーはスコールの顔を覗き込んだ。

 

「一緒に楽しもうぜ、スコール」

 

 そして、低く言った。

 

「俺をがっかりさせるな!」

 

 *

 

 収容所の移送用車両。

 

 リノアとロメオは、アーヴァインとともにデリング・シティへ向かっていた。

 

 車内は重苦しい沈黙に包まれていた。

 

 リノアは腕を組んでいる。

 

 ロメオは窓の外を見ていた。

 

 アーヴァインは運転席で、時折バックミラーを確認している。

 

「……ねえ」

 

 リノアが口を開いた。

 

「何だい?」

 

「本当に、置いていくつもり?」

 

 アーヴァインは答えなかった。

 

「スコールも、キスティスも、ゼルも、セルフィも」

 

「……」

 

「みんな、まだあそこにいるんだよ?」

 

 アーヴァインはため息をついた。

 

「……僕だって、助けたいさ」

 

「だったら!」

 

「でも、僕一人で何ができるっていうんだよ!」

 

 珍しく、アーヴァインが声を荒らげた。

 

 リノアは黙った。

 

 ロメオが口を開く。

 

「……一人じゃないだろ」

 

 アーヴァインはバックミラーを見た。

 

「……何?」

 

「俺とリノアがいる」

 

「……二人とも、武器を取り上げられてるじゃないか」

 

「取り返せばいい」

 

「簡単に言うなよ」

 

「簡単じゃないのは分かってる」

 

 ロメオは前を向いた。

 

「でも、あそこにいる連中は、もっと簡単じゃない状況なんだろ?」

 

 アーヴァインは黙った。

 

「……俺たちだけ助かって、後から何て言えばいい?」

 

 リノアが続けた。

 

「スコールたちに、どう説明するの?」

 

 アーヴァインはハンドルを握り直した。

 

「……まったく」

 

 小さく呟く。

 

「君たち兄妹、似てるね」

 

「そう?」

 

 ロメオが笑った。

 

「全然似てないと思うけど」

 

「似てるよ」

 

 アーヴァインは苦笑した。

 

 そして、車を減速させた。

 

「……分かったよ」

 

 リノアが身を乗り出す。

 

「ほんと!?」

 

「ただし、僕の言うことを聞いてもらうからね」

 

「もちろん!」

 

 ロメオが頷いた。

 

「……頼む」

 

 アーヴァインは車を転回させた。

 

 再び、D地区収容所へ向かう。

 

 *

 

 収容所の独房。

 

「ドロー、ケアル!」

 

 セルフィが手をかざした。

 

 淡い光がゼルの身体を包む。

 

「……いたたた」

 

 ゼルは顔をしかめた。

 

 看守に殴られた傷は、ほとんど治っていない。

 

 キスティスが首を振った。

 

「だめね。ここ、魔法の効果を抑えるフィールドがあるみたい」

 

「え~」

 

 セルフィが頬を膨らませる。

 

 そのとき、扉の向こうから声がした。

 

「何だ! 今の音は!」

 

 看守が近づいてきた。

 

「またてめえか!」

 

 ゼルは拳を握った。

 

(……くそっ、気に入らねえ!)

 

「てめえ! いい加減にしやがれ!」

 

 ゼルが鉄格子へ詰め寄る。

 

 セルフィも声を上げた。

 

「そ~よ! やめなよ~!」

 

 看守は舌打ちした。

 

「こ、後悔させてやるからな!」

 

 警棒が振り下ろされる。

 

 ゼルは腕で受けた。

 

「……ぐっ!」

 

 看守は満足したのか、去っていった。

 

 セルフィがゼルへ駆け寄る。

 

「ひどいことするよね~」

 

 そして、再び魔法を唱えた。

 

「大丈夫よ~。あんまし効かないけどね。ケアル!」

 

 ゼルは苦笑した。

 

「……ありがとな」

 

 キスティスは腕を組んだ。

 

「このままじゃどうしようもないわ。ゼル、脱出を考えるわよ」

 

「何か作戦ありか?」

 

 セルフィが手を上げた。

 

「この子の皮をベリベリって剥いで、それを着て逃げるのは?」

 

 ゼルが固まった。

 

「……おい」

 

「冗談だってば!」

 

(……冗談に聞こえねえんだよな)

 

 キスティスはため息をついた。

 

「ここでは魔法に期待できないから、まず武器よね」

 

 ゼルが顔を上げた。

 

「武器?」

 

「何とかして取り返さないと」

 

 ゼルは自分の拳を見た。

 

(……武器かよ)

 

 自分の武器は、この拳だ。

 

 武器を取り上げられても、戦えないわけではない。

 

(……俺の出番だぜ!)

 

「俺が行く」

 

 キスティスが振り返った。

 

「ゼル?」

 

「武器を取り戻してくるぜ」

 

 セルフィが目を輝かせた。

 

「そっかあ! ゼルはウォードのとき、ここにいたんだよね!」

 

「お、おう」

 

「詳しいんだよね!」

 

(……よく知らねえんだよな、ほんとは)

 

 ウォードは掃除をしていただけだ。

 

 だが、今さら言えない。

 

「おう! 任せとけ!」

 

 ゼルは二人を見た。

 

「ちょっと倒れてろ」

 

「……え?」

 

「いいから!」

 

 キスティスとセルフィは顔を見合わせた。

 

 そして、床に倒れる。

 

 ゼルは鉄格子を叩いた。

 

「看守! 看守! 大変だ! 開けてくれ!」

 

 看守が現れた。

 

「どうしたんだ?」

 

「女子が倒れた! 毒ヘビに噛まれたらしい!」

 

「……馬鹿な」

 

 看守が扉を開けた。

 

 その瞬間。

 

 ゼルの拳が、看守の腹へめり込んだ。

 

「……ぐえっ!」

 

 看守が倒れる。

 

 ゼルは鍵を奪った。

 

「……よっしゃ!」

 

 キスティスが起き上がる。

 

「ゼル……」

 

 セルフィは笑った。

 

「なんか頼もしいよ~」

 

「じゃあ、行ってくるぜ!」

 

 ゼルは廊下へ飛び出した。

 

 *

 

 収容所の倉庫。

 

 二人の兵士が、押収した武器を眺めていた。

 

「見ろよ、これ。SeeDの武器だぜ」

 

「ガンブレードってやつか?」

 

「他にもあるぜ。鞭だろ、ヌンチャクだろ」

 

 棚には、見覚えのある武器が並んでいた。

 

 キスティスの鞭。

 

 セルフィのヌンチャク。

 

 スコールのガンブレード。

 

 そして、ロメオの二本の短剣。

 

 ゼルは扉の陰から様子を窺った。

 

(……あった!)

 

 兵士の一人が振り返る。

 

「……ん?」

 

 ゼルは飛び出した。

 

「それ、返してもらいに来たぜ!」

 

「き、貴様! 脱走か!?」

 

 兵士が武器を取ろうとする。

 

 しかし、ゼルの方が早かった。

 

 拳が一閃する。

 

 続いて、回し蹴り。

 

 二人の兵士が倒れた。

 

「……どんなもんだってんだ!」

 

 ゼルは武器を抱えた。

 

 そのとき、背後から声がした。

 

「おい貴様! そこで何をしている!?」

 

 ゼルは振り返った。

 

「……げっ」

 

 新たな兵士が立っていた。

 

 だが、今度は逃げなかった。

 

「ちょうどいいぜ!」

 

 ゼルは拳を構えた。

 

 *

 

 尋問室。

 

 スコールは再び意識を取り戻していた。

 

 サイファーが目の前に立っている。

 

「さあ、スコール。もう一度質問だ」

 

 スコールは顔を上げた。

 

「SeeDとは何だ? なぜ魔女に抵抗する?」

 

(……SeeDが、魔女に抵抗?)

 

 スコールは眉をひそめた。

 

 そのとき、兵士が入ってきた。

 

「サイファー様!」

 

「何だ?」

 

「ガーデンへのミサイル発射準備ができたとの報告です」

 

 スコールの目が開いた。

 

(……ミサイル?)

 

 サイファーは頷いた。

 

「分かった」

 

 そして、スコールを見た。

 

「反魔女軍のSeeDを育てている罪で、バラム・ガーデンは破壊される」

 

(……馬鹿な)

 

 スコールは拘束具を引いた。

 

「……やめろ」

 

 サイファーは肩をすくめた。

 

「俺もあそこで育ったからな。少々名残惜しいが……」

 

 そして、笑った。

 

「まあ、イデアが決めたことだから仕方ないってやつだ」

 

「……や、め、ろ……」

 

「ガーデン破壊後はSeeD狩りが始まる」

 

 サイファーは楽しそうに続けた。

 

「俺はイデアの猟犬となって、おまえらを追い回してやるぜ」

 

 スコールは睨みつけた。

 

「楽しみだろ、スコール」

 

 サイファーは踵を返した。

 

「それまで死ぬんじゃねえぞ」

 

 そして、兵士へ命じた。

 

「尋問を続けろ」

 

 扉が閉まる。

 

 入れ替わりに、収容所の所長が現れた。

 

「……しゃべる気になったか?」

 

 スコールは答えなかった。

 

「イデア様が、おまえたちなら知っているとおっしゃったんだ!」

 

 所長は顔を近づけた。

 

「さあ言え! SeeDの本当の意味を!」

 

(……SeeDの、本当の意味)

 

 スコールは考えた。

 

(SeeDは、バラム・ガーデンが誇る精鋭傭兵部隊……)

 

 それ以外に、何がある。

 

(……違うのか?)

 

 所長がさらに顔を近づける。

 

「ん~? どうだ~?」

 

 スコールは目を細めた。

 

「……臭い」

 

「……何?」

 

「臭い……息を……吐きかけるな」

 

 所長の顔が赤くなった。

 

「……この野郎!」

 

 装置が作動する。

 

 再び激痛が走った。

 

 スコールは歯を食いしばった。

 

(……もう、いい)

 

 意識が遠のく。

 

(……おやすみ)

 

 *

 

 独房へ戻ったゼルは、武器を床に広げた。

 

「おう、待たせたぜ!」

 

 キスティスが立ち上がる。

 

「ゼル、武器は?」

 

「おう、この通り!」

 

 セルフィが歓声を上げた。

 

「すごい、すご~い!」

 

 キスティスは鞭を手に取った。

 

 セルフィもヌンチャクを構える。

 

 ゼルは拳を鳴らした。

 

「おっしゃ、反撃開始だな!」

 

「ええ!」

 

「おっけぇ~!」

 

 そのとき、廊下から声がした。

 

「ここか、態度の悪い囚人がおるというのは」

 

 現れたのは、二人のガルバディア兵だった。

 

 一人は大柄な男。

 

 もう一人は、少し気弱そうな男。

 

「はい、ここです」

 

 看守が二人を案内する。

 

「あなた方の腕前で思い知らせてやってください」

 

「いいのかなあ……」

 

 気弱そうな男が呟いた。

 

「左遷させられた腹いせに囚人いびろうなんて……」

 

「余計なことは言うな!」

 

 大柄な男が怒鳴った。

 

 看守がゼルたちを指さす。

 

「こ、こいつらです。ビッグスさん、ウェッジさん」

 

 ゼルとセルフィは顔を見合わせた。

 

(……ビッグス?)

 

(……ウェッジ?)

 

 そして。

 

「あ~~~~~~~~っ!!」

 

 四人の声が重なった。

 

 ビッグスは目を見開いた。

 

「こ、ここで会ったが百年目!」

 

 ゼルが拳を構える。

 

「ドールのときの!」

 

「そうだ!」

 

 ビッグスは胸を張った。

 

「ドールでつかなかった決着、ここでつけちゃろう!」

 

 ウェッジが小声で言った。

 

「……またですか」

 

「刑務所ゆえ武器も持たぬ輩を相手にするというのは、いささか卑怯であるかもしれぬが……」

 

 ビッグスは長々と話し始めた。

 

「これも勝負の世界、悪く思わ……」

 

「しっかり武器持ってるんですけど……」

 

 ウェッジが指摘した。

 

 ビッグスが固まる。

 

「……なに~!」

 

 キスティスは鞭を構えた。

 

 セルフィも笑っている。

 

 ゼルは拳を鳴らした。

 

 ビッグスの顔が引きつった。

 

「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ~!」

 

 そして、叫んだ。

 

「ええ~い! 行くぞウェッジ!」

 

 *

 

 戦いは長く続かなかった。

 

 ビッグスが倒れ、ウェッジも床に座り込んだ。

 

「……いたたっ」

 

 ウェッジは頭を押さえた。

 

「こいつらに関わると、ろくなことないな……」

 

 ビッグスは悔しそうに拳を握った。

 

「貴様らのせいで降格させられたんだ!」

 

 ゼルは首を傾げた。

 

「……は?」

 

「少佐から二等兵にされたんだぞ!」

 

 セルフィが笑った。

 

「え~、そんなに?」

 

「いまこそ、その恨み晴らしてくれる!」

 

 ウェッジが慌てて止めた。

 

「もうやめましょうよ! これ以上降格されるのは嫌っす!」

 

 ビッグスは歯を食いしばった。

 

「まだまだ、これからよ!」

 

 そして、ぼそりと呟く。

 

「……これで三等兵か」

 

 ゼルは呆れた。

 

「……もういいから寝てろよ」

 

 しかし、ビッグスは最後の力を振り絞った。

 

「い、いい気になりおって……」

 

 壁のスイッチへ手を伸ばす。

 

「簡単に逃がすと思うなよ!」

 

 ぽちっ。

 

 警報が鳴り響いた。

 

『脱走警報です』

 

 ゼルが振り返る。

 

「……げっ!」

 

『各フロアにはモンスターが放たれます。脱走者が速やかに投降しない場合、生死を問いません』

 

 続いて、別のアナウンス。

 

『魔法アンチフィールドが解除されます』

 

 セルフィが顔を上げた。

 

「……あ!」

 

 キスティスも気づいた。

 

「魔法が使える!」

 

 ゼルは拳を握った。

 

「ちっ、もう見つかったのか!?」

 

 *

 

 スコールは、薄れゆく意識の中で声を聞いていた。

 

「……ラグナ」

 

(……?)

 

 小さな声。

 

「ラグナ!」

 

(……うるさい)

 

 誰かが身体を揺すっている。

 

「ラグナ! ラグナ!」

 

(……ラグナ?)

 

 スコールは目を開けた。

 

 目の前に、小さな赤い毛の生き物がいた。

 

 ムンバだった。

 

「……何だ?」

 

 ムンバは嬉しそうに鳴いた。

 

「ラグナ!」

 

「……分からない」

 

 スコールは顔をしかめた。

 

「俺はラグナじゃない」

 

 しかし、ムンバは聞いていない。

 

「ラグナ! ラグナ!」

 

 もう一匹も近づいてきた。

 

 スコールはため息をついた。

 

「……ラグナ?」

 

 どこかで聞いた名前だった。

 

 あの奇妙な夢。

 

 他人の人生を体験する、説明のつかない現象。

 

(……また、あいつか)

 

 ムンバたちは、スコールの拘束具を外そうとしていた。

 

 小さな手で必死に金具を動かす。

 

 スコールは黙って見ていた。

 

 やがて、拘束具が外れた。

 

 身体が自由になる。

 

「……助かった」

 

 ムンバたちは嬉しそうに跳ねた。

 

「ラグナ!」

 

 スコールは立ち上がった。

 

 そのとき、廊下から足音が聞こえた。

 

「スコール!!」

 

 ゼルだった。

 

「大丈夫か!?」

 

 スコールは顔を上げた。

 

「……ひどい目に遭った」

 

 ゼルは駆け寄った。

 

「とにかく脱出しようぜ! ほら!」

 

 スコールは差し出されたガンブレードを受け取った。

 

 手に馴染む重さ。

 

 それだけで、少し落ち着いた。

 

「……他のみんなは?」

 

「キスティス先生とセルフィは無事だ!」

 

「リノアとロメオは?」

 

 ゼルは顔を曇らせた。

 

「……分からねえ。別に連れていかれたんだ」

 

 スコールは黙った。

 

(……そうか)

 

 だが、今は動くしかない。

 

 *

 

 キスティスとセルフィが合流した。

 

「スコール!」

 

 キスティスが駆け寄る。

 

「無事で何より。さ、行きましょ」

 

「スコール、大丈夫~?」

 

 セルフィが覗き込む。

 

「……ああ」

 

 ゼルは拳を握った。

 

「とにかく脱出しようぜ!」

 

 そのとき、ムンバたちがスコールの周りを跳ね始めた。

 

「ラグナ!」

 

 ゼルが目を丸くする。

 

「……おまえ、あっちの世界でラグナになって、ここへ来てないのか?」

 

「……来てない」

 

 スコールは答えた。

 

 キスティスが考え込む。

 

「じゃあ、スコールもここの脱出方法は知らないわけね」

 

 ゼルは頭を掻いた。

 

「う~ん……」

 

 彼らは上へ上へと進んできた。

 

 ならば、出口は下にあるのかもしれない。

 

「やっぱ、下に戻らねえと駄目だよな」

 

 キスティスはため息をついた。

 

「一階ずつ戻るのはきついわね。警備員だけじゃなく、モンスターもうようよだし」

 

 ゼルは周囲を見回した。

 

「そういえば、スコール」

 

「何だ?」

 

「おまえ、どうやってこのフロアまで運ばれたんだ?」

 

 そのとき、ゼルは床の大きな穴に気づいた。

 

「……ぬおっ! 何だこりゃ!?」

 

 スコールは穴を指さした。

 

「下のフロアにある独房を取り外して運ぶ、クレーンみたいなものらしい」

 

 セルフィが身を乗り出す。

 

「へぇ~。じゃあ、この穴ってば下まで繋がってんだぁ」

 

 そして、楽しそうに言った。

 

「じゃあじゃあ、この穴をぴゅ~~っと飛び降りれば、すぐ下まで着くんじゃないかなぁ!」

 

 キスティスは冷静だった。

 

「やってもいいけど、『しっぱ~い』じゃ済まないわよ」

 

「……だよね~」

 

 ゼルは天井を見た。

 

 そして、突然叫んだ。

 

「うおっ!! 思い出したぜ!!」

 

 三人が振り返る。

 

「このアーム、上のパネルと中の制御室で自由に動かせるはずだぜ!」

 

 ゼルは拳を握った。

 

「ウォードがやらされてたのを思い出したぜ!」

 

 キスティスが頷いた。

 

「じゃあ、それを使えば……」

 

「おう!」

 

 しかし、ゼルは途中で言葉を止めた。

 

「……でも、二つ同時に動かす必要があったはずだから、誰かが残って上でパネルを操作しねえと……」

 

 三人の視線がゼルへ向いた。

 

「……」

 

 ゼルは顔をしかめた。

 

「……俺?」

 

 セルフィが笑った。

 

「よろしく~!」

 

「わ、分かったよ!」

 

 ゼルはため息をついた。

 

「俺は上の制御パネルで指示を出すから、乗り込んでてくれ!」

 

 *

 

 アームの制御室。

 

 スコールたちは、狭い金属製の部屋に入った。

 

 キスティスが周囲を見回す。

 

「へぇ、ここがアームの制御室ね」

 

 天井のスピーカーからゼルの声が響いた。

 

『お~い、聞こえるか?』

 

「ゼル~、聞こえるよ~!」

 

 セルフィが返事をする。

 

 スコールは制御盤を見た。

 

「で、どうすればいいんだ?」

 

『正面パネルの赤いボタンを押してくれ』

 

 スコールはボタンを押した。

 

『あとはこっちで……よっと!』

 

 機械が動き出した。

 

 床が震える。

 

 巨大なアームが、制御室ごと下降していく。

 

 セルフィが窓から外を見た。

 

「うわ~、すごい!」

 

 キスティスは壁に手をついた。

 

「……結構揺れるわね」

 

 スコールは黙っていた。

 

 頭の中には、サイファーの言葉が残っていた。

 

(……バラム・ガーデンが破壊される)

 

 ミサイル。

 

 魔女。

 

 SeeD狩り。

 

(……急がないと)

 

 *

 

 アームが下層階へ到着した。

 

 スコールたちは制御室を出る。

 

「ねえ、これからどうするの?」

 

 セルフィが尋ねる。

 

 スコールは廊下の先を見た。

 

「とりあえず、向こうに扉が見える」

 

 キスティスが振り返る。

 

「で?」

 

「……行ってみよう」

 

 扉を開く。

 

 その向こうには、暗い空間が広がっていた。

 

 スコールは一歩踏み出した。

 

 足元が柔らかい。

 

「……砂?」

 

 キスティスも覗き込む。

 

「……埋まってる?」

 

 通路の先は、砂で完全に塞がれていた。

 

「地下ってことかしら……」

 

 キスティスは首を振った。

 

「どっちにしろ、ここからは出られないってことね」

 

 セルフィが耳を澄ませた。

 

「……何?」

 

 遠くから、乾いた音が聞こえてきた。

 

 続けて、いくつもの銃声。

 

「……銃撃音?」

 

 キスティスが顔を上げた。

 

 スコールは廊下の奥を見た。

 

「ずいぶん派手にやってるようだな」

 

 三人は黙った。

 

 そして。

 

「……ゼル!!」

 

 キスティスとセルフィの声が重なった。

 

「急いで戻りましょう!」

 

 *

 

 上層階。

 

 ゼルは廊下を走っていた。

 

「いたぞ! あそこだ!」

 

「脱走者は生死を問わず確保せよ!」

 

 兵士たちが追ってくる。

 

(……ちっ! 数が多い!)

 

 ゼルは拳を握った。

 

 だが、相手は銃を持っている。

 

 正面から戦えば不利だった。

 

(逃げるが勝ち!)

 

 角を曲がる。

 

 しかし、その先にも兵士がいた。

 

「SeeDどもめ、逃がさんぞ!」

 

「……くそっ!」

 

 ゼルは踏み込んだ。

 

 一人を殴り倒す。

 

 続けて、もう一人へ蹴りを放つ。

 

 だが、背後から別の兵士が近づいていた。

 

 警棒が振り下ろされる。

 

「……ぐっ!」

 

 ゼルが膝をついた。

 

 目の前に、収容所の所長が現れた。

 

「てこずらせおって……」

 

 所長は武器を構えた。

 

「死ね!」

 

 ゼルは歯を食いしばった。

 

(……まずい!)

 

 その瞬間。

 

 鋭い斬撃が、所長の武器を弾き飛ばした。

 

「……ぐわっ!」

 

 所長が倒れる。

 

 ゼルは顔を上げた。

 

 そこには、ガンブレードを構えたスコールがいた。

 

「……スコール!」

 

 スコールは武器を下ろした。

 

「手加減したつもりだが……」

 

 ゼルは立ち上がった。

 

「スコール!! ありがとう!!」

 

 そして、勢いよく抱きついた。

 

「……な、何だ!」

 

 スコールが顔をしかめる。

 

「離せ! 離せって言ってるだろ!」

 

 ゼルは笑っていた。

 

 キスティスとセルフィが追いつく。

 

「スコール! ゼル! 無事だったみたいね」

 

 セルフィが頬を膨らませた。

 

「もう、スコール。一人でさっさと行っちゃうんだから」

 

 そして、にやりと笑う。

 

「そんなにゼルが大事?」

 

「……」

 

 スコールは答えなかった。

 

 そのとき。

 

 銃声が響いた。

 

「きゃっ!」

 

 セルフィが身をすくめる。

 

 兵士たちが再び集まってきた。

 

「……これじゃ身動き取れねえぜ!」

 

 ゼルが叫ぶ。

 

 スコールはガンブレードを構えた。

 

 だが、敵の数が多すぎる。

 

 そのとき、廊下の奥から別の銃声が響いた。

 

 兵士の一人が倒れる。

 

 続いて、二人目。

 

 スコールが振り返る。

 

「……?」

 

 そこに現れたのは、アーヴァインだった。

 

「やあ、みんな」

 

 そして、その後ろから。

 

「スコール!!」

 

 リノアが駆け寄ってきた。

 

 さらに、ロメオも続いていた。

 

「……やっと見つけた!」

 

 ロメオは息を吐いた。

 

 スコールは目を見開いた。

 

「……リノア。ロメオ」

 

 リノアはスコールの姿を見るなり、顔をほころばせた。

 

(……生きてた)

 

 あの氷の槍。

 

 倒れたスコール。

 

 ずっと、頭から離れなかった。

 

(やっぱり……スコールは大丈夫だった)

 

 リノアは小さく頷いた。

 

「……うん!」

 

 キスティスが駆け寄る。

 

「リノア、無事だったの?」

 

 アーヴァインが咳払いした。

 

「ん、んんっ。そりゃそうさ。僕が連れ出したんだからね」

 

 ゼルが首を傾げた。

 

「どういうことだ?」

 

 アーヴァインは帽子のつばを触った。

 

「それは……」

 

 リノアが口を開いた。

 

「私の父が、ガルバディア軍を通じてしたことなの」

 

 キスティスが驚く。

 

「カーウェイ大佐が?」

 

「うん。私とお兄ちゃんだけ、ここから連れ出すようにって命令したらしいの」

 

 ロメオが頷いた。

 

「親父なりに、俺たちを助けようとしたんだろうけどさ」

 

 アーヴァインは気まずそうに笑った。

 

「それで……」

 

 リノアが睨んだ。

 

「それで、この男。命令どおりに、私たち二人だけ連れ出したのよ」

 

 ゼルが顔をしかめた。

 

「……は?」

 

「スコールたちが捕まってるの知ってて!」

 

「いや、それは……」

 

 アーヴァインが言い訳しようとする。

 

 リノアは腕を組んだ。

 

「ねえ、ひどいと思うでしょ?」

 

 セルフィが頷いた。

 

「ひど~い!」

 

 アーヴァインは頭を抱えた。

 

「ああ! もう、悪かったって!」

 

 そして、両手を広げた。

 

「だから、こうして助けに来たじゃないか!」

 

 ロメオが苦笑する。

 

「まあ、最後はちゃんと戻ってくれたんだからさ」

 

 リノアは頬を膨らませた。

 

「私たちが散々説得した後にね」

 

「……うっ」

 

 アーヴァインは黙った。

 

 スコールはそのやり取りを見ていた。

 

(……カーウェイ大佐が、二人を)

 

 リノアとロメオは、大佐の子供だ。

 

 助けようとするのは当然かもしれない。

 

 だが、二人は戻ってきた。

 

 自分たちを助けるために。

 

「……とにかく」

 

 アーヴァインが銃を構え直した。

 

「逃げ出すなら今のうちだ」

 

 スコールは首を振った。

 

「だめだ。地下の扉は砂で埋まってた」

 

 アーヴァインは頷いた。

 

「そりゃそうさ。この刑務所は今、潜ってるからね」

 

「……潜って?」

 

 スコールが聞き返す。

 

「そっ。この刑務所は……」

 

 そのとき、廊下から声が響いた。

 

「いたぞ!!」

 

「脱走者だ!!」

 

 アーヴァインはため息をついた。

 

「……説明してる時間はないね」

 

 そして、スコールを見た。

 

「スコール! 君は二人選んで、上に先行してくれ!」

 

「上?」

 

「ここは僕が中心で引き止める!」

 

 アーヴァインは銃を構えた。

 

「出口は上だから、信じてくれよ~!」

 

 スコールは短く頷いた。

 

「……分かった」

 

 リノアが手を上げる。

 

「私、案内できると思う!」

 

 ロメオも頷いた。

 

「俺も一緒に行く。途中までは道を覚えてるから」

 

 ゼルが不安そうに言った。

 

「……大丈夫かよ」

 

 ロメオは笑った。

 

「今回はアーヴァインが運転してくれたからね」

 

「……道、覚えてねえんじゃねえか!」

 

 ゼルが叫ぶ。

 

 スコールはため息をついた。

 

「……リノアが案内しろ」

 

「了解!」

 

 リノアが笑った。

 

 スコールは二人を連れ、上層階へ向かった。

 

 *

 

 アーヴァインは銃を構えた。

 

「さて……」

 

 兵士たちが迫ってくる。

 

「ここからが、僕の出番だ」

 

 銃声が響く。

 

 キスティスが鞭を振るい、セルフィがヌンチャクを構える。

 

 ゼルは拳を鳴らした。

 

「よっしゃ!」

 

 だが、敵は次々と現れた。

 

「あちゃ~、きりがないね」

 

 アーヴァインが苦笑する。

 

 キスティスは周囲を見回した。

 

「ちょっと、どうするの?」

 

「うーん……」

 

 アーヴァインは考え込んだ。

 

 キスティスが顔を上げる。

 

「そうだ! もう一度、アームで一気に上まで行けないかしら?」

 

 アーヴァインが指を鳴らした。

 

「おっ、それいい考え!」

 

 ゼルが頷く。

 

「でも、上の制御室でも動かしてもらわねえと」

 

 アーヴァインは笑った。

 

「それは僕に任せてよ」

 

 そして、銃を肩に担いだ。

 

「よし、それじゃあアームの止まってる階までゴー!」

 

 *

 

 上層階。

 

 スコール、リノア、ロメオは、ムンバたちの案内で出口へ向かっていた。

 

「ラグナ!」

 

 ムンバが嬉しそうに鳴く。

 

 ロメオの足が止まった。

 

「……え?」

 

 スコールはため息をついた。

 

「……またか」

 

 ロメオはムンバを見た。

 

「今、何て?」

 

「ラグナ!」

 

 ムンバはスコールを指さした。

 

 ロメオは黙った。

 

(……ラグナ?)

 

 父親の名前。

 

 こんな場所で聞くとは思わなかった。

 

「……スコール」

 

「何だ?」

 

「その子たち、ずっとそう呼んでるの?」

 

「ああ」

 

 スコールは面倒そうに答えた。

 

「理由は分からない」

 

 ロメオはムンバを見つめた。

 

(……どうして、スコールを?)

 

 しかし、考えている時間はなかった。

 

 警報が鳴り響いている。

 

 ロメオは首を振った。

 

「……あとで考えよう」

 

 リノアが振り返る。

 

「二人とも、早く!」

 

 スコールは頷いた。

 

 *

 

 上層階の出口。

 

 ゼルが先頭に立った。

 

「おっしゃ! 外に出たぜ!!」

 

 重い扉が開く。

 

 強い日差しが差し込んだ。

 

 久しぶりの外の空気だった。

 

 しかし、その直後。

 

『これより先の囚人の進入は許可されていません』

 

 機械音声が響いた。

 

『強制排除します』

 

 大型の警備機械が現れる。

 

 スコールはガンブレードを構えた。

 

「来るぞ!!」

 

 ロメオも短剣を抜いた。

 

 リノアが魔法を唱える。

 

 ゼルは拳を握った。

 

 警備機械が突進してくる。

 

 スコールが正面から受け止めた。

 

 ロメオは側面へ回り込み、雷をまとった短剣を突き立てる。

 

 火花が散った。

 

『……よし、今じゃ!』

 

 ラムウの声が響く。

 

 ロメオは両手を交差させた。

 

「……行くぞ!」

 

 雷撃が炸裂する。

 

 機械の動きが鈍った。

 

 その隙に、ゼルが拳を叩き込む。

 

 リノアの魔法が続く。

 

 最後に、スコールのガンブレードが機械の中枢を切り裂いた。

 

 警備機械は火花を散らし、動かなくなった。

 

「……よっしゃ!」

 

 ゼルが拳を握った。

 

 そのとき、通信機から声が響いた。

 

『お~い、スコール! 聞こえるか~?』

 

 アーヴァインだった。

 

 スコールは通信機を取った。

 

「……聞こえてるぞ」

 

『やりぃ~!』

 

 アーヴァインの声が弾んだ。

 

『ほら、大丈夫だったろ? スコール、アームの上昇許可をそこから出してくれよ』

 

「……どうやって?」

 

 ゼルが顔を上げた。

 

「おっ、俺に任せな!」

 

 制御盤へ駆け寄る。

 

 いくつかのスイッチを操作した。

 

 機械音が響く。

 

『おっけー! じゃあ、すぐ行くから待っててねぇ』

 

 通信が切れた。

 

 ロメオは周囲を見回した。

 

「……ここ、砂漠の真ん中なんだな」

 

 リノアが頷く。

 

「うん。D地区収容所って、こういう場所なの」

 

 スコールは遠くを見た。

 

 巨大な砂漠。

 

 地平線。

 

 そして、収容所の周囲に広がる機械設備。

 

(……潜る、というのは)

 

 スコールは足元を見た。

 

(……そういうことか)

 

 *

 

 アームの制御室。

 

 キスティスは窓の外を見ていた。

 

「……ずいぶんゆっくりね」

 

 アーヴァインは壁にもたれた。

 

「まあ、のんびり行きましょ」

 

 セルフィが首を傾げる。

 

「……ほんとに大丈夫?」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 アーヴァインは笑った。

 

 しかし、キスティスは気づいていた。

 

 機械の動きが、先ほどより明らかに遅い。

 

「……何かおかしいわね」

 

 そのとき、警報が響いた。

 

『潜行警報。潜行警報』

 

 アーヴァインの笑みが消えた。

 

「……あれ?」

 

 *

 

 地上。

 

 ゼルは周囲を見回していた。

 

「……な、な、何だこりゃ!!!」

 

 収容所の外壁が、ゆっくりと沈み始めていた。

 

 巨大な円筒状の建物が、砂の中へ潜っていく。

 

「こ、これじゃ外に出ても意味ねえじゃねえか!」

 

 リノアも驚いた。

 

「嘘……私がさっき入ってきたときは、ちゃんと……」

 

 ロメオは足元を見た。

 

 地面が揺れている。

 

「……まずいな」

 

 スコールは周囲を見回した。

 

「とりあえず、向こうの建物に行こう」

 

 収容所の外周には、別の建物があった。

 

 そこへ続く細い通路。

 

 だが、収容所が沈むにつれ、通路の位置も変わっていく。

 

 リノアが叫んだ。

 

「スコール!! こっち!」

 

 スコールは走った。

 

 ゼルが続く。

 

 ロメオは最後尾で、リノアの背中を押した。

 

「行け!」

 

 リノアが通路を渡る。

 

 スコールも続いた。

 

 ロメオが飛び移った直後、通路の一部が崩れ落ちた。

 

「……っ!」

 

 砂が舞い上がる。

 

 収容所は、さらに深く沈んでいった。

 

 四人は建物の陰へ飛び込んだ。

 

 ようやく揺れが収まる。

 

 リノアは息を吐いた。

 

「……今のって、結構危なかったよね」

 

 スコールは頷いた。

 

「ああ」

 

 ロメオは壁にもたれた。

 

「……危なかったどころじゃないよ」

 

 ゼルは地面に座り込んだ。

 

「もう勘弁してくれ……」

 

 *

 

 しばらくして、アーヴァインたちも合流した。

 

「ずいぶんアームがゆっくりだと思ったら、潜行警報が出てたんだ」

 

 アーヴァインが説明する。

 

 スコールは頷いた。

 

「とにかく、ここを離れよう」

 

 建物の外には、二台の車が停まっていた。

 

 一台は黄色。

 

 もう一台は青。

 

 セルフィが真っ先に手を上げた。

 

「あたし、こっちの黄色いのに乗る!」

 

 キスティスも頷いた。

 

「じゃあ、私もこっちに乗るわ」

 

 リノアが少し考える。

 

「う~ん、じゃあ私も」

 

 ロメオは妹を見た。

 

「……俺もそっちにしようかな」

 

 セルフィが笑った。

 

「いいよ~!」

 

 そのとき、アーヴァインが慌てた。

 

「あ、あれあれ?」

 

 女性陣が黄色い車へ向かっていく。

 

 ロメオまで一緒だった。

 

 アーヴァインは手を伸ばした。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 ゼルが肩を叩いた。

 

「さ、行こうぜアーヴァイン」

 

「……え?」

 

 ゼルは笑った。

 

「男同士、仲良くやろうぜ!」

 

 アーヴァインは肩を落とした。

 

「……そんなぁ」

 

 スコールは黙って青い車へ向かった。

 

(……やっと出られる)

 

 だが、安心している暇はなかった。

 

 サイファーの言葉。

 

 ミサイル。

 

 バラム・ガーデンの破壊。

 

 スコールは振り返った。

 

 仲間たちは、まだ何も知らない。

 

 そして、自分たちが向かう先も、まだ決まっていなかった。

 

 ただ一つ、分かっていることがある。

 

 急がなければならない。

 

 スコールは車の扉を開いた。

 

「……行くぞ」

 

 エンジンがかかる。

 

 二台の車は、砂漠の中を走り出した。

 

 その背後で、D地区収容所は再び砂の下へ姿を消していった。

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