FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール 作:Kurumimogomogo
暗闇の中で、誰かの声がした。
(……ここはどこだ)
身体が重い。
頭の奥に、鈍い痛みが残っている。
最後に見たのは、魔女イデアが放った巨大な氷の槍だった。
スコールは、それが自分の身体を貫いた瞬間を覚えていた。
そして、意識が途切れた。
(……俺は、死んだのか?)
返事はない。
ただ、遠くから機械の動く音が聞こえていた。
*
「……あ、おかえりなさい、ゼル」
キスティスの声で、ゼルは目を開けた。
目の前にあるのは、灰色の壁。
窓のない部屋。
鉄格子の扉。
床には薄汚れた毛布が数枚転がっていた。
「……あ?」
「『あっちの世界』?」
キスティスが尋ねる。
「おお」
ゼルは頭を振った。
妙に生々しい夢だった。
いや、夢と呼んでいいのかも分からない。
「ラグナ、元気だった?」
セルフィが期待に満ちた目で尋ねる。
「わからねえ。会えなかった」
「え~」
「ウォードのこと全部わかるわけじゃないけどよ……」
ゼルは壁にもたれた。
「ラグナたちはセントラってところに行って、ひどい目に遭ったんだろ? そのあと、ウォードだけどっかの刑務所みたいなとこで働くことになったんだ」
「刑務所?」
キスティスが聞き返した。
「おう。ウォードは退屈でしょうがなくてよ。またラグナたちと一緒に戦う夢を見て暮らしてるぜ」
「それで、結局、この現象って何?」
「それを俺に聞くなって!」
ゼルが声を上げる。
セルフィは頬に指を当てた。
「刑務所といえば脱獄……。どうせなら派手にいきたいよね~」
「今の状況で楽しそうに言わないで」
キスティスはため息をついた。
部屋にいるのは、キスティス、ゼル、セルフィの三人。
リノアとロメオは、少し前まで一緒だった。
だが、看守に連れていかれてしまった。
アーヴァインの姿は、捕まってから一度も見ていない。
そして、スコールも。
「スコールはどうしたのかしら……」
キスティスが呟いた。
「彼もここに運ばれたのかしら……」
ゼルは顔をしかめた。
魔女との戦いの最後、スコールが倒れたことは覚えている。
その後は混乱していた。
ガルバディア兵に取り囲まれ、武器を取り上げられた。
ロメオがスコールのところへ行こうとして、兵士に押さえつけられていたことも覚えている。
それから、ここへ連れてこられた。
「……なあ」
ゼルが顔を上げた。
「ここ、どこなんだ?」
キスティスは首を振った。
「それが分かれば苦労しないわ」
セルフィが周囲を見回す。
「でも、刑務所っぽいよね」
ゼルはその言葉に引っかかった。
(……刑務所?)
さっきまで見ていたウォードの記憶。
掃除道具。
同じような部屋がいくつも並ぶ廊下。
円筒状の建物。
(……おいおいおい)
ゼルは勢いよく立ち上がった。
「見覚えあるぜ!」
「え?」
「みんな聞いてくれ! ここはウォードが働いてた刑務所だ!」
キスティスとセルフィが顔を上げる。
「ウォードは掃除してたぜ! 同じような部屋がたくさんあってよ! 間違いねえ!」
キスティスは驚いた。
「じゃあ、ここは……」
「ガルバディアのD地区収容所だ!」
ゼルは鉄格子を指さした。
「ウォードの記憶とそっくりなんだ!」
キスティスは考え込んだ。
「……魔女を襲って現行犯逮捕されたから、刑務所入りは当然といえば当然ね」
「大統領にはむかったんだもんね……」
セルフィが呟く。
「その大統領、もういないわ」
キスティスは静かに言った。
デリング大統領は、イデア自身の手で殺された。
今やガルバディアは、魔女が支配する国になっている。
「……どうなるのかな、私たち」
セルフィは天井を見上げた。
「あんまり~、いいことなさそ」
ゼルは拳を握った。
(マジでよう、どうなるんだ?)
スコールはどこにいる。
リノアとロメオは何のために連れていかれた。
アーヴァインは無事なのか。
何一つ分からなかった。
*
同じ収容所の、別の階。
リノアとロメオは、武装した看守に挟まれて廊下を歩いていた。
「……どこへ連れていくの?」
リノアが尋ねる。
看守は答えない。
ロメオは周囲を観察していた。
曲がり角。
監視装置。
昇降機。
そして、すれ違う兵士の人数。
(……見張りは多いな)
武器は取り上げられている。
ラムウとの繋がりも、ひどく遠かった。
『……ロメオ』
かすかな声が聞こえる。
(ラムウ?)
『魔力を抑える仕掛けがあるようじゃ』
(……なるほどね)
ロメオは手首を動かした。
魔法が使えなければ、二本の短剣もない今は不利だ。
だが、リノアを一人にするわけにはいかなかった。
「……お兄ちゃん」
リノアが小声で呼ぶ。
「大丈夫」
ロメオは前を向いたまま答えた。
「まだ何も決まったわけじゃない」
看守が振り返った。
「私語を慎め!」
「はいはい」
ロメオは肩をすくめた。
その態度が気に入らなかったのか、看守が警棒を持ち上げる。
しかし、別の兵士が止めた。
「そいつらには手を出すな。上から指示が来ている」
ロメオは眉をひそめた。
(……上から?)
*
スコールは目を開けた。
薄暗い独房。
身体を固定する拘束具。
そして、腕に繋がれた装置。
(……ここは?)
意識が戻るにつれ、記憶も戻ってきた。
(俺は……イデアと戦って……ひどい傷を……)
スコールは胸元を見た。
服は乱れている。
だが、傷はなかった。
(……傷は、ない)
氷の槍に貫かれたはずだった。
(なぜ……?)
考えているうちに、別の記憶が浮かんだ。
倒れた自分。
取り囲むガルバディア兵。
そして。
(……そうだ)
サイファーが、にやついて自分を見下ろしていた。
「……クッ!」
スコールは拘束具を引いた。
「サイファー!」
扉が開いた。
現れたのは、そのサイファーだった。
「よう、スコール」
見慣れた顔。
見慣れた笑い方。
だが、着ているものも、立場も違う。
サイファーは魔女の騎士として、ガルバディア兵を従えていた。
「……みじめだな」
サイファーは笑った。
「連れていけ!」
*
収容所の上層階。
リノアとロメオは、小さな応接室へ通された。
そこには、見覚えのある男が立っていた。
「……アーヴァイン?」
リノアが目を丸くする。
アーヴァイン・キニアスは、いつもの帽子を被っていた。
だが、表情はどこか気まずそうだった。
「やあ、二人とも」
「……何してるの?」
リノアが尋ねる。
「まあ、ちょっとね」
ロメオはアーヴァインの後ろを見た。
軍服姿の男が一人。
手には書類を持っている。
「カーウェイ大佐からの指示です」
男が言った。
「お二人を収容所から移送するよう命令を受けています」
リノアが固まった。
「……は?」
ロメオは目を細めた。
「親父から?」
「はい」
アーヴァインが頷いた。
「デリング・シティへ戻る。車も用意されてる」
リノアはアーヴァインを見た。
「……他のみんなは?」
アーヴァインは答えなかった。
「……ねえ」
「……二人だけだよ」
リノアの表情が変わった。
「何、それ」
ロメオも黙った。
「スコールたちは?」
「……命令には入ってない」
「じゃあ、置いていくの?」
リノアの声が大きくなった。
アーヴァインは困ったように帽子のつばを触った。
「僕だって、いろいろ考えたんだよ」
「考えて、それ?」
「……」
ロメオが口を開いた。
「アーヴァイン」
「……何だい?」
「親父は俺たちを助けろって言ったんだな?」
「そうだよ」
「じゃあ、俺たちがここを出るのを拒否したら?」
アーヴァインは顔を上げた。
「……え?」
ロメオは静かに言った。
「俺たちは、仲間を置いていくつもりはない」
*
スコールは、尋問室へ連れてこられていた。
部屋の中央には、金属製の椅子。
周囲には、拷問用の装置が並んでいる。
サイファーは椅子に腰かけ、足を組んでいた。
「何が始まるのか、想像できるよな?」
スコールは答えなかった。
「……何が知りたいんだ?」
「SeeDとは何だ?」
サイファーは身を乗り出した。
「イデアが知りたがっている」
「SeeDとは……」
スコールは言葉を止めた。
(……SeeDはバラム・ガーデンが世界に誇る傭兵のコードネーム)
戦闘のスペシャリスト。
それ以上でも、それ以下でもない。
(……??)
スコールはサイファーを見た。
「……あんたも知ってるだろ?」
「俺はSeeDじゃない」
サイファーは笑った。
「SeeDになってから知らされる、重要な秘密があるんじゃねえのか?」
「残念ながら……ない」
スコールは答えた。
「あったとしても、言うと思うのか?」
サイファーは楽しそうに笑った。
「おまえは『骨のあるやつリスト』に入ってるぜ」
そして、立ち上がる。
「簡単にしゃべるとは思っちゃいないさ」
「……光栄だな」
「だから、これだ」
サイファーが合図した。
装置が作動する。
次の瞬間、スコールの身体に激痛が走った。
「ぐわぁぁっ!」
身体が跳ねる。
拘束具が軋んだ。
サイファーは笑っていた。
「まあ、おまえが言わなけりゃ、他のやつらに吐かせるさ」
スコールは荒い息をついた。
「先生、伝令の女、チキン野郎……」
サイファーは指を折った。
「チキン野郎なんか三秒もたねえぞ」
(……みんな)
スコールは顔を上げた。
「……いる、の……か?」
「おお、いるぜ」
サイファーは嬉しそうに言った。
「でも、俺はおまえが大好きだからよ。こうして一番に来てもらったわけだ」
スコールは睨みつけた。
「会いたかったぜ、スコール」
サイファーは胸を張った。
「俺の晴れ姿、どうだった? 俺は魔女の騎士になったんだぞ。ガキの頃からの夢だったぜ」
(……魔女の、騎士)
スコールは目を閉じかけた。
(ロマンティックな夢……か?)
しかし。
(……でも、サイファー)
今の姿は。
「……拷問係だ」
サイファーの笑みが消えた。
「……何だって?」
スコールの意識が遠のく。
「おい! あっさり気絶しやがったのか?」
サイファーは苛立たしげに立ち上がった。
「ここは、おまえが俺への憎しみを募らせるシーンなんだぜ?」
返事はない。
「魔女の騎士と悪の傭兵が戦う宿命の物語」
サイファーはスコールの顔を覗き込んだ。
「一緒に楽しもうぜ、スコール」
そして、低く言った。
「俺をがっかりさせるな!」
*
収容所の移送用車両。
リノアとロメオは、アーヴァインとともにデリング・シティへ向かっていた。
車内は重苦しい沈黙に包まれていた。
リノアは腕を組んでいる。
ロメオは窓の外を見ていた。
アーヴァインは運転席で、時折バックミラーを確認している。
「……ねえ」
リノアが口を開いた。
「何だい?」
「本当に、置いていくつもり?」
アーヴァインは答えなかった。
「スコールも、キスティスも、ゼルも、セルフィも」
「……」
「みんな、まだあそこにいるんだよ?」
アーヴァインはため息をついた。
「……僕だって、助けたいさ」
「だったら!」
「でも、僕一人で何ができるっていうんだよ!」
珍しく、アーヴァインが声を荒らげた。
リノアは黙った。
ロメオが口を開く。
「……一人じゃないだろ」
アーヴァインはバックミラーを見た。
「……何?」
「俺とリノアがいる」
「……二人とも、武器を取り上げられてるじゃないか」
「取り返せばいい」
「簡単に言うなよ」
「簡単じゃないのは分かってる」
ロメオは前を向いた。
「でも、あそこにいる連中は、もっと簡単じゃない状況なんだろ?」
アーヴァインは黙った。
「……俺たちだけ助かって、後から何て言えばいい?」
リノアが続けた。
「スコールたちに、どう説明するの?」
アーヴァインはハンドルを握り直した。
「……まったく」
小さく呟く。
「君たち兄妹、似てるね」
「そう?」
ロメオが笑った。
「全然似てないと思うけど」
「似てるよ」
アーヴァインは苦笑した。
そして、車を減速させた。
「……分かったよ」
リノアが身を乗り出す。
「ほんと!?」
「ただし、僕の言うことを聞いてもらうからね」
「もちろん!」
ロメオが頷いた。
「……頼む」
アーヴァインは車を転回させた。
再び、D地区収容所へ向かう。
*
収容所の独房。
「ドロー、ケアル!」
セルフィが手をかざした。
淡い光がゼルの身体を包む。
「……いたたた」
ゼルは顔をしかめた。
看守に殴られた傷は、ほとんど治っていない。
キスティスが首を振った。
「だめね。ここ、魔法の効果を抑えるフィールドがあるみたい」
「え~」
セルフィが頬を膨らませる。
そのとき、扉の向こうから声がした。
「何だ! 今の音は!」
看守が近づいてきた。
「またてめえか!」
ゼルは拳を握った。
(……くそっ、気に入らねえ!)
「てめえ! いい加減にしやがれ!」
ゼルが鉄格子へ詰め寄る。
セルフィも声を上げた。
「そ~よ! やめなよ~!」
看守は舌打ちした。
「こ、後悔させてやるからな!」
警棒が振り下ろされる。
ゼルは腕で受けた。
「……ぐっ!」
看守は満足したのか、去っていった。
セルフィがゼルへ駆け寄る。
「ひどいことするよね~」
そして、再び魔法を唱えた。
「大丈夫よ~。あんまし効かないけどね。ケアル!」
ゼルは苦笑した。
「……ありがとな」
キスティスは腕を組んだ。
「このままじゃどうしようもないわ。ゼル、脱出を考えるわよ」
「何か作戦ありか?」
セルフィが手を上げた。
「この子の皮をベリベリって剥いで、それを着て逃げるのは?」
ゼルが固まった。
「……おい」
「冗談だってば!」
(……冗談に聞こえねえんだよな)
キスティスはため息をついた。
「ここでは魔法に期待できないから、まず武器よね」
ゼルが顔を上げた。
「武器?」
「何とかして取り返さないと」
ゼルは自分の拳を見た。
(……武器かよ)
自分の武器は、この拳だ。
武器を取り上げられても、戦えないわけではない。
(……俺の出番だぜ!)
「俺が行く」
キスティスが振り返った。
「ゼル?」
「武器を取り戻してくるぜ」
セルフィが目を輝かせた。
「そっかあ! ゼルはウォードのとき、ここにいたんだよね!」
「お、おう」
「詳しいんだよね!」
(……よく知らねえんだよな、ほんとは)
ウォードは掃除をしていただけだ。
だが、今さら言えない。
「おう! 任せとけ!」
ゼルは二人を見た。
「ちょっと倒れてろ」
「……え?」
「いいから!」
キスティスとセルフィは顔を見合わせた。
そして、床に倒れる。
ゼルは鉄格子を叩いた。
「看守! 看守! 大変だ! 開けてくれ!」
看守が現れた。
「どうしたんだ?」
「女子が倒れた! 毒ヘビに噛まれたらしい!」
「……馬鹿な」
看守が扉を開けた。
その瞬間。
ゼルの拳が、看守の腹へめり込んだ。
「……ぐえっ!」
看守が倒れる。
ゼルは鍵を奪った。
「……よっしゃ!」
キスティスが起き上がる。
「ゼル……」
セルフィは笑った。
「なんか頼もしいよ~」
「じゃあ、行ってくるぜ!」
ゼルは廊下へ飛び出した。
*
収容所の倉庫。
二人の兵士が、押収した武器を眺めていた。
「見ろよ、これ。SeeDの武器だぜ」
「ガンブレードってやつか?」
「他にもあるぜ。鞭だろ、ヌンチャクだろ」
棚には、見覚えのある武器が並んでいた。
キスティスの鞭。
セルフィのヌンチャク。
スコールのガンブレード。
そして、ロメオの二本の短剣。
ゼルは扉の陰から様子を窺った。
(……あった!)
兵士の一人が振り返る。
「……ん?」
ゼルは飛び出した。
「それ、返してもらいに来たぜ!」
「き、貴様! 脱走か!?」
兵士が武器を取ろうとする。
しかし、ゼルの方が早かった。
拳が一閃する。
続いて、回し蹴り。
二人の兵士が倒れた。
「……どんなもんだってんだ!」
ゼルは武器を抱えた。
そのとき、背後から声がした。
「おい貴様! そこで何をしている!?」
ゼルは振り返った。
「……げっ」
新たな兵士が立っていた。
だが、今度は逃げなかった。
「ちょうどいいぜ!」
ゼルは拳を構えた。
*
尋問室。
スコールは再び意識を取り戻していた。
サイファーが目の前に立っている。
「さあ、スコール。もう一度質問だ」
スコールは顔を上げた。
「SeeDとは何だ? なぜ魔女に抵抗する?」
(……SeeDが、魔女に抵抗?)
スコールは眉をひそめた。
そのとき、兵士が入ってきた。
「サイファー様!」
「何だ?」
「ガーデンへのミサイル発射準備ができたとの報告です」
スコールの目が開いた。
(……ミサイル?)
サイファーは頷いた。
「分かった」
そして、スコールを見た。
「反魔女軍のSeeDを育てている罪で、バラム・ガーデンは破壊される」
(……馬鹿な)
スコールは拘束具を引いた。
「……やめろ」
サイファーは肩をすくめた。
「俺もあそこで育ったからな。少々名残惜しいが……」
そして、笑った。
「まあ、イデアが決めたことだから仕方ないってやつだ」
「……や、め、ろ……」
「ガーデン破壊後はSeeD狩りが始まる」
サイファーは楽しそうに続けた。
「俺はイデアの猟犬となって、おまえらを追い回してやるぜ」
スコールは睨みつけた。
「楽しみだろ、スコール」
サイファーは踵を返した。
「それまで死ぬんじゃねえぞ」
そして、兵士へ命じた。
「尋問を続けろ」
扉が閉まる。
入れ替わりに、収容所の所長が現れた。
「……しゃべる気になったか?」
スコールは答えなかった。
「イデア様が、おまえたちなら知っているとおっしゃったんだ!」
所長は顔を近づけた。
「さあ言え! SeeDの本当の意味を!」
(……SeeDの、本当の意味)
スコールは考えた。
(SeeDは、バラム・ガーデンが誇る精鋭傭兵部隊……)
それ以外に、何がある。
(……違うのか?)
所長がさらに顔を近づける。
「ん~? どうだ~?」
スコールは目を細めた。
「……臭い」
「……何?」
「臭い……息を……吐きかけるな」
所長の顔が赤くなった。
「……この野郎!」
装置が作動する。
再び激痛が走った。
スコールは歯を食いしばった。
(……もう、いい)
意識が遠のく。
(……おやすみ)
*
独房へ戻ったゼルは、武器を床に広げた。
「おう、待たせたぜ!」
キスティスが立ち上がる。
「ゼル、武器は?」
「おう、この通り!」
セルフィが歓声を上げた。
「すごい、すご~い!」
キスティスは鞭を手に取った。
セルフィもヌンチャクを構える。
ゼルは拳を鳴らした。
「おっしゃ、反撃開始だな!」
「ええ!」
「おっけぇ~!」
そのとき、廊下から声がした。
「ここか、態度の悪い囚人がおるというのは」
現れたのは、二人のガルバディア兵だった。
一人は大柄な男。
もう一人は、少し気弱そうな男。
「はい、ここです」
看守が二人を案内する。
「あなた方の腕前で思い知らせてやってください」
「いいのかなあ……」
気弱そうな男が呟いた。
「左遷させられた腹いせに囚人いびろうなんて……」
「余計なことは言うな!」
大柄な男が怒鳴った。
看守がゼルたちを指さす。
「こ、こいつらです。ビッグスさん、ウェッジさん」
ゼルとセルフィは顔を見合わせた。
(……ビッグス?)
(……ウェッジ?)
そして。
「あ~~~~~~~~っ!!」
四人の声が重なった。
ビッグスは目を見開いた。
「こ、ここで会ったが百年目!」
ゼルが拳を構える。
「ドールのときの!」
「そうだ!」
ビッグスは胸を張った。
「ドールでつかなかった決着、ここでつけちゃろう!」
ウェッジが小声で言った。
「……またですか」
「刑務所ゆえ武器も持たぬ輩を相手にするというのは、いささか卑怯であるかもしれぬが……」
ビッグスは長々と話し始めた。
「これも勝負の世界、悪く思わ……」
「しっかり武器持ってるんですけど……」
ウェッジが指摘した。
ビッグスが固まる。
「……なに~!」
キスティスは鞭を構えた。
セルフィも笑っている。
ゼルは拳を鳴らした。
ビッグスの顔が引きつった。
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬ、ぬぅ~!」
そして、叫んだ。
「ええ~い! 行くぞウェッジ!」
*
戦いは長く続かなかった。
ビッグスが倒れ、ウェッジも床に座り込んだ。
「……いたたっ」
ウェッジは頭を押さえた。
「こいつらに関わると、ろくなことないな……」
ビッグスは悔しそうに拳を握った。
「貴様らのせいで降格させられたんだ!」
ゼルは首を傾げた。
「……は?」
「少佐から二等兵にされたんだぞ!」
セルフィが笑った。
「え~、そんなに?」
「いまこそ、その恨み晴らしてくれる!」
ウェッジが慌てて止めた。
「もうやめましょうよ! これ以上降格されるのは嫌っす!」
ビッグスは歯を食いしばった。
「まだまだ、これからよ!」
そして、ぼそりと呟く。
「……これで三等兵か」
ゼルは呆れた。
「……もういいから寝てろよ」
しかし、ビッグスは最後の力を振り絞った。
「い、いい気になりおって……」
壁のスイッチへ手を伸ばす。
「簡単に逃がすと思うなよ!」
ぽちっ。
警報が鳴り響いた。
『脱走警報です』
ゼルが振り返る。
「……げっ!」
『各フロアにはモンスターが放たれます。脱走者が速やかに投降しない場合、生死を問いません』
続いて、別のアナウンス。
『魔法アンチフィールドが解除されます』
セルフィが顔を上げた。
「……あ!」
キスティスも気づいた。
「魔法が使える!」
ゼルは拳を握った。
「ちっ、もう見つかったのか!?」
*
スコールは、薄れゆく意識の中で声を聞いていた。
「……ラグナ」
(……?)
小さな声。
「ラグナ!」
(……うるさい)
誰かが身体を揺すっている。
「ラグナ! ラグナ!」
(……ラグナ?)
スコールは目を開けた。
目の前に、小さな赤い毛の生き物がいた。
ムンバだった。
「……何だ?」
ムンバは嬉しそうに鳴いた。
「ラグナ!」
「……分からない」
スコールは顔をしかめた。
「俺はラグナじゃない」
しかし、ムンバは聞いていない。
「ラグナ! ラグナ!」
もう一匹も近づいてきた。
スコールはため息をついた。
「……ラグナ?」
どこかで聞いた名前だった。
あの奇妙な夢。
他人の人生を体験する、説明のつかない現象。
(……また、あいつか)
ムンバたちは、スコールの拘束具を外そうとしていた。
小さな手で必死に金具を動かす。
スコールは黙って見ていた。
やがて、拘束具が外れた。
身体が自由になる。
「……助かった」
ムンバたちは嬉しそうに跳ねた。
「ラグナ!」
スコールは立ち上がった。
そのとき、廊下から足音が聞こえた。
「スコール!!」
ゼルだった。
「大丈夫か!?」
スコールは顔を上げた。
「……ひどい目に遭った」
ゼルは駆け寄った。
「とにかく脱出しようぜ! ほら!」
スコールは差し出されたガンブレードを受け取った。
手に馴染む重さ。
それだけで、少し落ち着いた。
「……他のみんなは?」
「キスティス先生とセルフィは無事だ!」
「リノアとロメオは?」
ゼルは顔を曇らせた。
「……分からねえ。別に連れていかれたんだ」
スコールは黙った。
(……そうか)
だが、今は動くしかない。
*
キスティスとセルフィが合流した。
「スコール!」
キスティスが駆け寄る。
「無事で何より。さ、行きましょ」
「スコール、大丈夫~?」
セルフィが覗き込む。
「……ああ」
ゼルは拳を握った。
「とにかく脱出しようぜ!」
そのとき、ムンバたちがスコールの周りを跳ね始めた。
「ラグナ!」
ゼルが目を丸くする。
「……おまえ、あっちの世界でラグナになって、ここへ来てないのか?」
「……来てない」
スコールは答えた。
キスティスが考え込む。
「じゃあ、スコールもここの脱出方法は知らないわけね」
ゼルは頭を掻いた。
「う~ん……」
彼らは上へ上へと進んできた。
ならば、出口は下にあるのかもしれない。
「やっぱ、下に戻らねえと駄目だよな」
キスティスはため息をついた。
「一階ずつ戻るのはきついわね。警備員だけじゃなく、モンスターもうようよだし」
ゼルは周囲を見回した。
「そういえば、スコール」
「何だ?」
「おまえ、どうやってこのフロアまで運ばれたんだ?」
そのとき、ゼルは床の大きな穴に気づいた。
「……ぬおっ! 何だこりゃ!?」
スコールは穴を指さした。
「下のフロアにある独房を取り外して運ぶ、クレーンみたいなものらしい」
セルフィが身を乗り出す。
「へぇ~。じゃあ、この穴ってば下まで繋がってんだぁ」
そして、楽しそうに言った。
「じゃあじゃあ、この穴をぴゅ~~っと飛び降りれば、すぐ下まで着くんじゃないかなぁ!」
キスティスは冷静だった。
「やってもいいけど、『しっぱ~い』じゃ済まないわよ」
「……だよね~」
ゼルは天井を見た。
そして、突然叫んだ。
「うおっ!! 思い出したぜ!!」
三人が振り返る。
「このアーム、上のパネルと中の制御室で自由に動かせるはずだぜ!」
ゼルは拳を握った。
「ウォードがやらされてたのを思い出したぜ!」
キスティスが頷いた。
「じゃあ、それを使えば……」
「おう!」
しかし、ゼルは途中で言葉を止めた。
「……でも、二つ同時に動かす必要があったはずだから、誰かが残って上でパネルを操作しねえと……」
三人の視線がゼルへ向いた。
「……」
ゼルは顔をしかめた。
「……俺?」
セルフィが笑った。
「よろしく~!」
「わ、分かったよ!」
ゼルはため息をついた。
「俺は上の制御パネルで指示を出すから、乗り込んでてくれ!」
*
アームの制御室。
スコールたちは、狭い金属製の部屋に入った。
キスティスが周囲を見回す。
「へぇ、ここがアームの制御室ね」
天井のスピーカーからゼルの声が響いた。
『お~い、聞こえるか?』
「ゼル~、聞こえるよ~!」
セルフィが返事をする。
スコールは制御盤を見た。
「で、どうすればいいんだ?」
『正面パネルの赤いボタンを押してくれ』
スコールはボタンを押した。
『あとはこっちで……よっと!』
機械が動き出した。
床が震える。
巨大なアームが、制御室ごと下降していく。
セルフィが窓から外を見た。
「うわ~、すごい!」
キスティスは壁に手をついた。
「……結構揺れるわね」
スコールは黙っていた。
頭の中には、サイファーの言葉が残っていた。
(……バラム・ガーデンが破壊される)
ミサイル。
魔女。
SeeD狩り。
(……急がないと)
*
アームが下層階へ到着した。
スコールたちは制御室を出る。
「ねえ、これからどうするの?」
セルフィが尋ねる。
スコールは廊下の先を見た。
「とりあえず、向こうに扉が見える」
キスティスが振り返る。
「で?」
「……行ってみよう」
扉を開く。
その向こうには、暗い空間が広がっていた。
スコールは一歩踏み出した。
足元が柔らかい。
「……砂?」
キスティスも覗き込む。
「……埋まってる?」
通路の先は、砂で完全に塞がれていた。
「地下ってことかしら……」
キスティスは首を振った。
「どっちにしろ、ここからは出られないってことね」
セルフィが耳を澄ませた。
「……何?」
遠くから、乾いた音が聞こえてきた。
続けて、いくつもの銃声。
「……銃撃音?」
キスティスが顔を上げた。
スコールは廊下の奥を見た。
「ずいぶん派手にやってるようだな」
三人は黙った。
そして。
「……ゼル!!」
キスティスとセルフィの声が重なった。
「急いで戻りましょう!」
*
上層階。
ゼルは廊下を走っていた。
「いたぞ! あそこだ!」
「脱走者は生死を問わず確保せよ!」
兵士たちが追ってくる。
(……ちっ! 数が多い!)
ゼルは拳を握った。
だが、相手は銃を持っている。
正面から戦えば不利だった。
(逃げるが勝ち!)
角を曲がる。
しかし、その先にも兵士がいた。
「SeeDどもめ、逃がさんぞ!」
「……くそっ!」
ゼルは踏み込んだ。
一人を殴り倒す。
続けて、もう一人へ蹴りを放つ。
だが、背後から別の兵士が近づいていた。
警棒が振り下ろされる。
「……ぐっ!」
ゼルが膝をついた。
目の前に、収容所の所長が現れた。
「てこずらせおって……」
所長は武器を構えた。
「死ね!」
ゼルは歯を食いしばった。
(……まずい!)
その瞬間。
鋭い斬撃が、所長の武器を弾き飛ばした。
「……ぐわっ!」
所長が倒れる。
ゼルは顔を上げた。
そこには、ガンブレードを構えたスコールがいた。
「……スコール!」
スコールは武器を下ろした。
「手加減したつもりだが……」
ゼルは立ち上がった。
「スコール!! ありがとう!!」
そして、勢いよく抱きついた。
「……な、何だ!」
スコールが顔をしかめる。
「離せ! 離せって言ってるだろ!」
ゼルは笑っていた。
キスティスとセルフィが追いつく。
「スコール! ゼル! 無事だったみたいね」
セルフィが頬を膨らませた。
「もう、スコール。一人でさっさと行っちゃうんだから」
そして、にやりと笑う。
「そんなにゼルが大事?」
「……」
スコールは答えなかった。
そのとき。
銃声が響いた。
「きゃっ!」
セルフィが身をすくめる。
兵士たちが再び集まってきた。
「……これじゃ身動き取れねえぜ!」
ゼルが叫ぶ。
スコールはガンブレードを構えた。
だが、敵の数が多すぎる。
そのとき、廊下の奥から別の銃声が響いた。
兵士の一人が倒れる。
続いて、二人目。
スコールが振り返る。
「……?」
そこに現れたのは、アーヴァインだった。
「やあ、みんな」
そして、その後ろから。
「スコール!!」
リノアが駆け寄ってきた。
さらに、ロメオも続いていた。
「……やっと見つけた!」
ロメオは息を吐いた。
スコールは目を見開いた。
「……リノア。ロメオ」
リノアはスコールの姿を見るなり、顔をほころばせた。
(……生きてた)
あの氷の槍。
倒れたスコール。
ずっと、頭から離れなかった。
(やっぱり……スコールは大丈夫だった)
リノアは小さく頷いた。
「……うん!」
キスティスが駆け寄る。
「リノア、無事だったの?」
アーヴァインが咳払いした。
「ん、んんっ。そりゃそうさ。僕が連れ出したんだからね」
ゼルが首を傾げた。
「どういうことだ?」
アーヴァインは帽子のつばを触った。
「それは……」
リノアが口を開いた。
「私の父が、ガルバディア軍を通じてしたことなの」
キスティスが驚く。
「カーウェイ大佐が?」
「うん。私とお兄ちゃんだけ、ここから連れ出すようにって命令したらしいの」
ロメオが頷いた。
「親父なりに、俺たちを助けようとしたんだろうけどさ」
アーヴァインは気まずそうに笑った。
「それで……」
リノアが睨んだ。
「それで、この男。命令どおりに、私たち二人だけ連れ出したのよ」
ゼルが顔をしかめた。
「……は?」
「スコールたちが捕まってるの知ってて!」
「いや、それは……」
アーヴァインが言い訳しようとする。
リノアは腕を組んだ。
「ねえ、ひどいと思うでしょ?」
セルフィが頷いた。
「ひど~い!」
アーヴァインは頭を抱えた。
「ああ! もう、悪かったって!」
そして、両手を広げた。
「だから、こうして助けに来たじゃないか!」
ロメオが苦笑する。
「まあ、最後はちゃんと戻ってくれたんだからさ」
リノアは頬を膨らませた。
「私たちが散々説得した後にね」
「……うっ」
アーヴァインは黙った。
スコールはそのやり取りを見ていた。
(……カーウェイ大佐が、二人を)
リノアとロメオは、大佐の子供だ。
助けようとするのは当然かもしれない。
だが、二人は戻ってきた。
自分たちを助けるために。
「……とにかく」
アーヴァインが銃を構え直した。
「逃げ出すなら今のうちだ」
スコールは首を振った。
「だめだ。地下の扉は砂で埋まってた」
アーヴァインは頷いた。
「そりゃそうさ。この刑務所は今、潜ってるからね」
「……潜って?」
スコールが聞き返す。
「そっ。この刑務所は……」
そのとき、廊下から声が響いた。
「いたぞ!!」
「脱走者だ!!」
アーヴァインはため息をついた。
「……説明してる時間はないね」
そして、スコールを見た。
「スコール! 君は二人選んで、上に先行してくれ!」
「上?」
「ここは僕が中心で引き止める!」
アーヴァインは銃を構えた。
「出口は上だから、信じてくれよ~!」
スコールは短く頷いた。
「……分かった」
リノアが手を上げる。
「私、案内できると思う!」
ロメオも頷いた。
「俺も一緒に行く。途中までは道を覚えてるから」
ゼルが不安そうに言った。
「……大丈夫かよ」
ロメオは笑った。
「今回はアーヴァインが運転してくれたからね」
「……道、覚えてねえんじゃねえか!」
ゼルが叫ぶ。
スコールはため息をついた。
「……リノアが案内しろ」
「了解!」
リノアが笑った。
スコールは二人を連れ、上層階へ向かった。
*
アーヴァインは銃を構えた。
「さて……」
兵士たちが迫ってくる。
「ここからが、僕の出番だ」
銃声が響く。
キスティスが鞭を振るい、セルフィがヌンチャクを構える。
ゼルは拳を鳴らした。
「よっしゃ!」
だが、敵は次々と現れた。
「あちゃ~、きりがないね」
アーヴァインが苦笑する。
キスティスは周囲を見回した。
「ちょっと、どうするの?」
「うーん……」
アーヴァインは考え込んだ。
キスティスが顔を上げる。
「そうだ! もう一度、アームで一気に上まで行けないかしら?」
アーヴァインが指を鳴らした。
「おっ、それいい考え!」
ゼルが頷く。
「でも、上の制御室でも動かしてもらわねえと」
アーヴァインは笑った。
「それは僕に任せてよ」
そして、銃を肩に担いだ。
「よし、それじゃあアームの止まってる階までゴー!」
*
上層階。
スコール、リノア、ロメオは、ムンバたちの案内で出口へ向かっていた。
「ラグナ!」
ムンバが嬉しそうに鳴く。
ロメオの足が止まった。
「……え?」
スコールはため息をついた。
「……またか」
ロメオはムンバを見た。
「今、何て?」
「ラグナ!」
ムンバはスコールを指さした。
ロメオは黙った。
(……ラグナ?)
父親の名前。
こんな場所で聞くとは思わなかった。
「……スコール」
「何だ?」
「その子たち、ずっとそう呼んでるの?」
「ああ」
スコールは面倒そうに答えた。
「理由は分からない」
ロメオはムンバを見つめた。
(……どうして、スコールを?)
しかし、考えている時間はなかった。
警報が鳴り響いている。
ロメオは首を振った。
「……あとで考えよう」
リノアが振り返る。
「二人とも、早く!」
スコールは頷いた。
*
上層階の出口。
ゼルが先頭に立った。
「おっしゃ! 外に出たぜ!!」
重い扉が開く。
強い日差しが差し込んだ。
久しぶりの外の空気だった。
しかし、その直後。
『これより先の囚人の進入は許可されていません』
機械音声が響いた。
『強制排除します』
大型の警備機械が現れる。
スコールはガンブレードを構えた。
「来るぞ!!」
ロメオも短剣を抜いた。
リノアが魔法を唱える。
ゼルは拳を握った。
警備機械が突進してくる。
スコールが正面から受け止めた。
ロメオは側面へ回り込み、雷をまとった短剣を突き立てる。
火花が散った。
『……よし、今じゃ!』
ラムウの声が響く。
ロメオは両手を交差させた。
「……行くぞ!」
雷撃が炸裂する。
機械の動きが鈍った。
その隙に、ゼルが拳を叩き込む。
リノアの魔法が続く。
最後に、スコールのガンブレードが機械の中枢を切り裂いた。
警備機械は火花を散らし、動かなくなった。
「……よっしゃ!」
ゼルが拳を握った。
そのとき、通信機から声が響いた。
『お~い、スコール! 聞こえるか~?』
アーヴァインだった。
スコールは通信機を取った。
「……聞こえてるぞ」
『やりぃ~!』
アーヴァインの声が弾んだ。
『ほら、大丈夫だったろ? スコール、アームの上昇許可をそこから出してくれよ』
「……どうやって?」
ゼルが顔を上げた。
「おっ、俺に任せな!」
制御盤へ駆け寄る。
いくつかのスイッチを操作した。
機械音が響く。
『おっけー! じゃあ、すぐ行くから待っててねぇ』
通信が切れた。
ロメオは周囲を見回した。
「……ここ、砂漠の真ん中なんだな」
リノアが頷く。
「うん。D地区収容所って、こういう場所なの」
スコールは遠くを見た。
巨大な砂漠。
地平線。
そして、収容所の周囲に広がる機械設備。
(……潜る、というのは)
スコールは足元を見た。
(……そういうことか)
*
アームの制御室。
キスティスは窓の外を見ていた。
「……ずいぶんゆっくりね」
アーヴァインは壁にもたれた。
「まあ、のんびり行きましょ」
セルフィが首を傾げる。
「……ほんとに大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
アーヴァインは笑った。
しかし、キスティスは気づいていた。
機械の動きが、先ほどより明らかに遅い。
「……何かおかしいわね」
そのとき、警報が響いた。
『潜行警報。潜行警報』
アーヴァインの笑みが消えた。
「……あれ?」
*
地上。
ゼルは周囲を見回していた。
「……な、な、何だこりゃ!!!」
収容所の外壁が、ゆっくりと沈み始めていた。
巨大な円筒状の建物が、砂の中へ潜っていく。
「こ、これじゃ外に出ても意味ねえじゃねえか!」
リノアも驚いた。
「嘘……私がさっき入ってきたときは、ちゃんと……」
ロメオは足元を見た。
地面が揺れている。
「……まずいな」
スコールは周囲を見回した。
「とりあえず、向こうの建物に行こう」
収容所の外周には、別の建物があった。
そこへ続く細い通路。
だが、収容所が沈むにつれ、通路の位置も変わっていく。
リノアが叫んだ。
「スコール!! こっち!」
スコールは走った。
ゼルが続く。
ロメオは最後尾で、リノアの背中を押した。
「行け!」
リノアが通路を渡る。
スコールも続いた。
ロメオが飛び移った直後、通路の一部が崩れ落ちた。
「……っ!」
砂が舞い上がる。
収容所は、さらに深く沈んでいった。
四人は建物の陰へ飛び込んだ。
ようやく揺れが収まる。
リノアは息を吐いた。
「……今のって、結構危なかったよね」
スコールは頷いた。
「ああ」
ロメオは壁にもたれた。
「……危なかったどころじゃないよ」
ゼルは地面に座り込んだ。
「もう勘弁してくれ……」
*
しばらくして、アーヴァインたちも合流した。
「ずいぶんアームがゆっくりだと思ったら、潜行警報が出てたんだ」
アーヴァインが説明する。
スコールは頷いた。
「とにかく、ここを離れよう」
建物の外には、二台の車が停まっていた。
一台は黄色。
もう一台は青。
セルフィが真っ先に手を上げた。
「あたし、こっちの黄色いのに乗る!」
キスティスも頷いた。
「じゃあ、私もこっちに乗るわ」
リノアが少し考える。
「う~ん、じゃあ私も」
ロメオは妹を見た。
「……俺もそっちにしようかな」
セルフィが笑った。
「いいよ~!」
そのとき、アーヴァインが慌てた。
「あ、あれあれ?」
女性陣が黄色い車へ向かっていく。
ロメオまで一緒だった。
アーヴァインは手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
ゼルが肩を叩いた。
「さ、行こうぜアーヴァイン」
「……え?」
ゼルは笑った。
「男同士、仲良くやろうぜ!」
アーヴァインは肩を落とした。
「……そんなぁ」
スコールは黙って青い車へ向かった。
(……やっと出られる)
だが、安心している暇はなかった。
サイファーの言葉。
ミサイル。
バラム・ガーデンの破壊。
スコールは振り返った。
仲間たちは、まだ何も知らない。
そして、自分たちが向かう先も、まだ決まっていなかった。
ただ一つ、分かっていることがある。
急がなければならない。
スコールは車の扉を開いた。
「……行くぞ」
エンジンがかかる。
二台の車は、砂漠の中を走り出した。
その背後で、D地区収容所は再び砂の下へ姿を消していった。