FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール 作:Kurumimogomogo
D地区収容所を離れて、どれほど走っただろう。
砂漠を抜けた二台の車は、街道沿いの開けた場所で停車していた。
スコールは車を降り、周囲を確認していた。
追っ手の姿はない。
ひとまず、収容所からの脱出には成功したらしい。
「スコール!」
キスティスが駆け寄ってきた。
その表情を見て、スコールは眉をひそめた。
「なんだよ」
「魔女がガーデンをミサイルで攻撃するんですって!?」
スコールは黙った。
サイファーから聞かされた話だった。
魔女イデアは、反魔女勢力を育てているという理由でガーデンを破壊するつもりらしい。
「アーヴァインが言ってたって、リノアが言ってたよ!」
セルフィも駆け寄ってくる。
スコールはアーヴァインを見た。
「……知っていたのか」
「まあね。リノアたちを迎えに行ったとき、軍の連中が話してたんだ」
アーヴァインは帽子のつばを触った。
「最初はトラビア。その次がバラムだってさ」
「トラビア……?」
セルフィの表情が変わった。
スコールは腕を組んだ。
「俺たちにできることは、可能な限り早くガーデンに戻って危険を知らせることだけだ。さあ、車に戻れ」
「ちょっと待ってよ!」
セルフィが叫んだ。
「攻撃目標はバラムとトラビアのガーデンなんだよ~!」
「分かってる」
「分かってないよ!」
セルフィは両手を握りしめた。
「ミサイル発射妨害! ミサイル発射阻止!」
スコールは目を細めた。
(……簡単に言うなよ)
ガルバディア軍のミサイル基地へ侵入する。
それは、正規の軍事施設を相手にするということだ。
収容所から脱出したばかりの七人で、何ができる。
「俺はスコールの決定に従うからな!」
ゼルが言った。
アーヴァインは肩をすくめる。
「セルフィの気持ちは、と~ってもよく分かるけど……」
「セルフィだけの問題じゃないわね」
キスティスが口を挟んだ。
「バラム・ガーデンも攻撃されるなら、私たち全員の問題よ」
「だったら、二手に分かれればいいんじゃない?」
リノアが言った。
「ミサイルをなんとかするぞ作戦と、バラムに報告するぞ作戦!」
ゼルが顔をしかめた。
「作戦名はともかく、簡単に言うなよ」
「でも、どっちもやらなきゃいけないんでしょ?」
リノアはスコールを見た。
「ね?」
スコールは答えなかった。
少し離れた場所で、ロメオがガルバディア軍の車を眺めていた。
収容所から持ち出した車両だ。
軍用の識別番号。
通信装置。
車内には、まだ軍の通行許可証が残されている。
「……なるほど」
ロメオが呟いた。
セルフィが振り返る。
「ロメオ?」
「いや、ちょっとね」
ロメオは車の扉を閉めた。
「基地に入る方法なら、あるかもしれない」
スコールが顔を上げた。
「……何?」
「昔、親父の関係で軍の研修を受けたことがあるんだ」
ロメオは苦笑した。
「将来、軍に入るかもしれないからって。結局、俺は記者になりたかったんだけどさ」
「軍の研修?」
キスティスが聞き返す。
「基礎訓練と施設見学程度だよ。兵士ってわけじゃない」
ロメオは車を指さした。
「でも、車両の識別方法とか、基地の入退場手続きとかは教わった。こいつを使えば、少なくとも入口までは行ける可能性がある」
セルフィの目が輝いた。
「ほんと!?」
「保証はできないけどね」
スコールはロメオを見た。
(……カーウェイ大佐の息子)
考えてみれば、軍との接点があっても不思議ではない。
ロメオは両手を広げた。
「まあ、俺が習ったのは数年前だし、今も同じ手続きとは限らない。でも、何も知らずに行くよりはましだろ?」
セルフィが勢いよく頷いた。
「それだよ!」
そして、スコールへ向き直る。
「班長、お願い!」
セルフィの声が、少しだけ震えていた。
「あたし、トラビアから転校してきたばっかりなんだよ!」
いつもの明るい声ではなかった。
「だから、トラビア・ガーデンがピンチだって聞いて、黙ってるわけにはいかないのよ!」
スコールは黙って聞いていた。
「ガルバディア・ミサイル基地潜入作戦! メンバー決めて~!」
(……簡単に言うなよ)
スコールは目を伏せた。
(メンバーを選んで、もしものことがあったら俺は……)
自分が選んだ仲間が、戻ってこないかもしれない。
その可能性を、考えずにはいられなかった。
「決をとりま~す!」
リノアが手を上げた。
「スコールがメンバーを決める。スコールは班長だからバラムへ戻る。この考えに反対の人は手を上げましょう!」
誰も手を上げなかった。
「私も、どっちのチームでも文句言わないからね」
(……あんたは部外者だろ?)
スコールはそう思った。
だが、リノアとの契約はまだ続いている。
それに、彼女もここまで一緒に戦ってきた。
「スコール」
キスティスが言った。
「班長なんだから、メンバーを決めて」
(……班長なんだから?)
スコールは顔をしかめた。
(俺が頼んでなったわけじゃないぞ)
アーヴァインが帽子を押さえた。
「ああ……僕の優柔不断が顔を出してきたよ~」
「本気かよ、魔女のガルバディアはよー!」
ゼルが拳を握った。
そのときだった。
遠くの空に、白い光が走った。
誰かが息を呑んだ。
続いて、地平線の向こうから、いくつもの光の筋が空へ伸びていく。
「……あれ」
セルフィが呟いた。
光は高く、高く昇っていった。
そして、遠い空の彼方へ消えていく。
誰も何も言わなかった。
アーヴァインが、ゆっくりと帽子を取った。
「……トラビアの方角だ」
セルフィの顔から血の気が引いた。
「……うそ」
遠くで、低い轟音が響いた。
実際に何が起きたのか、ここからは分からない。
だが、誰も楽観的なことは言えなかった。
「……ごめんな」
セルフィが小さく呟いた。
「トラビアのみんな……」
いつもの陽気な口調が消えていた。
「あたし、なんもできへんかった……」
ロメオは何も言えなかった。
セルフィは唇を噛んだ。
「せやけど……みんな、無事におってや」
顔を上げる。
「また会えるやんね」
そして、無理に笑おうとした。
「今のミサイルは……外れだよね~?」
誰も答えられなかった。
セルフィはスコールを見た。
「スコール班長」
声が戻っていた。
だが、目は笑っていない。
「早くバラムに報告! 報告班、誰を連れてく?」
ゼルが頷いた。
「スコール、頼むぜ!」
「スコール、決断よ」
キスティスが言った。
リノアも真剣な顔で頷く。
「よく考えてね」
(……班長なんて、こりごりだ)
スコールは息を吐いた。
(分かったよ。選べばいいんだろ?)
顔を上げる。
「バラム・ガーデンには、俺とゼル、それからリノアが戻る」
ゼルが頷いた。
「了解!」
リノアも短く返事をした。
「うん!」
スコールは残る四人を見た。
「ミサイル基地には、セルフィ、キスティス、アーヴァイン、ロメオ」
セルフィが手を上げた。
「りょうか~い!」
キスティスは頷いた。
「分かったわ」
アーヴァインが苦笑する。
「……結構、大変なチームだね」
ロメオは笑った。
「女性二人に囲まれるんだから、文句ないだろ?」
「君もいるじゃないか」
「俺は邪魔しないよ」
「それはありがたいねえ」
スコールは二人を見た。
「……遊びじゃないぞ」
ロメオの表情が変わった。
「分かってる」
スコールはセルフィへ向き直った。
「これは今までの任務とは違う。誰の命令でも依頼でもない」
セルフィが頷く。
「うん」
「何か作戦があるのか?」
「このガルバディア軍の車で行けば、何とか基地には入れると思うんだ」
セルフィはロメオを見た。
「ね!」
ロメオが頷く。
「入口までは俺が何とかする」
「でも、その後は全然分かんないから、基地の中で考えるよ」
スコールは黙った。
(……それでいいのか?)
だが、時間がない。
セルフィは笑った。
「ごめんね……ううん、ありがとう」
そして、手を振った。
「きっと時間、あんまりないよ~! 早くバラム・ガーデンへ!」
スコールは頷いた。
「バラム・ガーデンで会おう」
「うん!」
セルフィは大きく手を振った。
「スコール班長、いっそげ~!!」
*
スコールたちの車が走り去っていく。
ロメオは、その後ろ姿を見送っていた。
「……お兄ちゃん」
リノアが窓から顔を出した。
「絶対、帰ってきてよ!」
ロメオは笑った。
「そっちこそ」
「約束だからね!」
「分かった、分かった」
リノアは少しだけ顔を曇らせた。
「……本当に、大丈夫?」
ロメオは肩をすくめた。
「大丈夫じゃなくても、何とかするさ」
そして、いつもの調子で笑った。
「俺、しぶといから」
リノアは頷いた。
「……うん」
車が走り出す。
ロメオは手を振り続けた。
やがて、車は見えなくなった。
セルフィが振り返る。
「さあ~っ!」
そして、拳を突き上げた。
「ミサイル基地へ、いっくよ~!」
*
ガルバディア・ミサイル基地。
広大な軍事施設の入口には、厳重な警備が敷かれていた。
ガルバディア軍の車両が一台、検問所へ近づく。
運転席にはロメオ。
助手席にはアーヴァイン。
後部座席にはキスティスとセルフィがいた。
四人は、収容所から持ち出した軍服に着替えていた。
「……ねえ」
セルフィが小声で言った。
「本当に大丈夫かな?」
「大丈夫」
ロメオは前を向いたまま答えた。
「……たぶん」
「たぶん!?」
「声が大きい」
キスティスが注意した。
検問所の兵士が近づいてくる。
「所属と用件を」
ロメオは軍用の書類を差し出した。
「D地区からの移送車両です。基地内への搬入指示を受けています」
兵士は書類を確認した。
「……四人か」
「はい」
ロメオは落ち着いて答えた。
軍の研修で教わったことを思い出す。
余計なことは言わない。
聞かれたことだけ答える。
相手が確認するまで、勝手に動かない。
兵士が車内を覗いた。
「……そちらの二人は?」
キスティスが答える。
「補助要員です」
セルフィは敬礼した。
「お疲れさまであります!」
ロメオは一瞬、目を閉じた。
(……言い方)
兵士は怪訝そうな顔をした。
しかし、書類へ視線を戻す。
「……通れ」
ゲートが開いた。
ロメオはゆっくり車を進めた。
検問所を抜ける。
しばらくしてから、アーヴァインが息を吐いた。
「……やるじゃないか」
ロメオは笑った。
「親父の研修も、無駄じゃなかったね」
セルフィが後部座席で跳ねた。
「やった~!」
「まだ入口よ」
キスティスが釘を刺した。
ロメオは前方を見た。
巨大なミサイル格納庫。
複数の管制施設。
巡回する兵士たち。
(……ここからが本番だ)
*
四人は車を停め、基地の内部へ入った。
通路には軍人が行き交っている。
セルフィは周囲を見回した。
「……広いね~」
キスティスが小声で言う。
「まずはミサイルの発射設備を探しましょう」
アーヴァインは頷いた。
「それと、発射を止める方法だね」
ロメオは壁の案内図を確認した。
「管制室は奥だな」
セルフィが覗き込む。
「分かるの?」
「研修で見た施設とは違うけど、表示の仕方は似てる」
ロメオは通路の先を指さした。
「まずはこっち」
四人は兵士たちの間を抜けた。
途中、整備員に呼び止められる。
「おい、そこの四人!」
セルフィの肩が跳ねた。
「……は、はい!」
「ちょうどいい。点検作業を手伝ってくれ」
ロメオは即座に答えた。
「了解しました」
キスティスが横目で見る。
(……即答するのね)
整備員は端末を指さした。
「この装置の確認を頼む」
ロメオは画面を覗き込んだ。
表示されているのは、ミサイルの誘導設定だった。
(……これか)
セルフィも気づいたらしい。
目が輝いた。
「……ねえ、ロメオ」
「分かってる」
ロメオは小さく頷いた。
整備員が別の作業へ向かった隙に、セルフィが端末へ手を伸ばす。
「え~っと……」
キスティスが周囲を警戒する。
アーヴァインは通路の向こうで兵士と雑談していた。
「……君、射撃が得意なの?」
「まあね~。ちょっとしたもんさ」
セルフィは画面を操作した。
目標座標。
誘導補正。
命中精度。
「……これを変えればいいんだよね?」
ロメオが頷いた。
「できるだけ精度を落とす」
セルフィは操作を続けた。
画面の数値が変わっていく。
「……よし!」
セルフィが拳を握った。
「これで、ちょっとは外れやすくなるはず!」
キスティスが頷く。
「でも、これだけじゃ不十分ね」
「うん」
セルフィは真剣な顔になった。
「発射そのものを止めなきゃ」
*
四人は基地の奥へ進んだ。
途中、兵士たちが慌ただしく走っていく。
「発射準備を急げ!」
「バラムへの攻撃命令が出たぞ!」
セルフィの足が止まった。
「……バラム」
キスティスが顔を上げた。
「時間がないわ」
ロメオは頷いた。
「管制室へ行こう」
四人は通路を走った。
やがて、重い扉の前にたどり着く。
その先には、基地の制御設備があるはずだった。
しかし、扉は施錠されていた。
「……どうする?」
アーヴァインが尋ねる。
ロメオは端末を確認した。
「……認証が必要だな」
セルフィが拳を握った。
「じゃあ、壊しちゃう?」
「……待って」
ロメオは画面を操作した。
軍の研修で教わった、非常時の管理手順。
通常の認証とは別に、保守用の操作がある。
ただし、権限がなければ使えない。
「……ここまでは分かるんだけど」
キスティスが周囲を見た。
「時間がないわ」
ロメオは息を吐いた。
「……なら、仕方ない」
短剣を抜く。
刃に雷が走った。
「ちょっと荒っぽくいこうか」
魔法剣が、制御盤へ突き刺さった。
火花が散る。
扉のロックが解除された。
「……開いた!」
セルフィが叫ぶ。
四人は中へ飛び込んだ。
*
管制室。
巨大な制御盤が並んでいた。
モニターには、ミサイル発射までの残り時間が表示されている。
セルフィは息を呑んだ。
「……もう、こんなに」
キスティスが端末へ駆け寄る。
「発射を止められる?」
ロメオは画面を確認した。
「……操作系統が複数ある」
アーヴァインが銃を構え、入口を警戒する。
「早くしてくれよ~」
セルフィは端末を操作した。
警告表示が点滅する。
「……あれ?」
ロメオが覗き込む。
「……発射準備が進んでる」
キスティスが別の端末を操作した。
「制御系統を切り替えられないかしら」
ロメオは頷いた。
「やってみる」
しかし、操作を続けるうちに、警報が鳴り響いた。
『不正操作を検知しました』
セルフィが顔を上げた。
「……やばっ!」
『警備部隊は管制室へ急行してください』
アーヴァインがため息をついた。
「……見つかったみたいだね」
ロメオは端末を操作し続けた。
「あと少し!」
キスティスが叫ぶ。
「ロメオ!」
「……分かってる!」
画面が切り替わる。
発射管制の一部が停止した。
続いて、別の警告が表示される。
『システム異常』
セルフィが目を輝かせた。
「……やった!?」
ロメオは首を振った。
「まだだ」
だが、発射準備の進行は止まっていた。
少なくとも、すぐに発射されることはない。
そのとき、扉が開いた。
「貴様ら!」
兵士たちが突入してくる。
アーヴァインが銃を構えた。
「……おっと」
キスティスが鞭を振るう。
セルフィもヌンチャクを構えた。
ロメオは短剣を抜いた。
戦闘が始まった。
*
兵士たちを退けた後、四人は管制室を調べた。
ロメオは別の端末に気づいた。
「……これ」
画面には、基地の自爆装置に関する表示があった。
キスティスが覗き込む。
「自爆……?」
セルフィが顔を上げた。
「……基地ごと壊せるってこと?」
ロメオは頷いた。
「ミサイル設備を完全に使えなくするなら、これが一番確実だ」
アーヴァインが眉をひそめた。
「……でも、僕たちも巻き込まれるんじゃない?」
「もちろん、脱出しなきゃいけない」
キスティスが考え込む。
「……時間を設定できるのね」
セルフィは画面を見た。
自爆までの時間を選ぶ項目が並んでいる。
「……じゃあ、できるだけ長く!」
ロメオが頷いた。
「それがいい」
セルフィは操作した。
確認画面が表示される。
『自爆装置を起動しますか?』
セルフィは一瞬、手を止めた。
トラビアの仲間たちの顔が浮かんだ。
ガーデンの廊下。
教室。
笑い声。
そして、遠い空へ消えていったミサイル。
「……ごめんな」
小さく呟く。
「みんな」
セルフィは確認ボタンを押した。
『自爆装置が起動しました』
警報が鳴り響く。
キスティスが叫んだ。
「急いで脱出するわよ!」
四人は走り出した。
*
基地の外へ向かう通路。
警報が鳴り続けている。
兵士たちは混乱していた。
「何が起きた!?」
「管制室で異常発生!」
「基地から退避しろ!」
四人は人の流れに紛れて進んだ。
しかし、出口の手前で足を止めることになった。
巨大な格納庫の扉が閉じていた。
「……え?」
セルフィが目を丸くする。
キスティスが制御盤を確認した。
「……ロックされてる」
アーヴァインが顔をしかめた。
「ちょっと待ってよ。自爆するんだろ?」
ロメオは扉の横にある端末を操作した。
だが、反応しない。
「……だめだ」
セルフィが振り返る。
「他の出口は!?」
ロメオは首を振った。
「この区画から出るには、ここを通るしかない」
キスティスは周囲を見回した。
「……何か方法があるはずよ」
そのとき、格納庫の奥から機械音が響いた。
巨大な影が動き出す。
四人は振り返った。
「……何?」
そこに現れたのは、大型の機動兵器だった。
重厚な装甲。
巨大な脚部。
複数の武装。
アーヴァインが目を見開いた。
「……冗談だろ?」
機械のセンサーが赤く光った。
『侵入者を確認』
ロメオは短剣を構えた。
「……やるしかない!」
*
戦闘は激しかった。
大型機械の砲撃が、格納庫の床を砕く。
キスティスが鞭を振るい、関節部を狙う。
セルフィは魔法を唱えた。
アーヴァインの銃弾が、装甲の隙間へ撃ち込まれる。
ロメオは機械の足元を走った。
(……硬い!)
短剣では、厚い装甲を貫けない。
ならば。
「……ラムウ!」
『承知した!』
雷が走った。
ロメオの二本の短剣が、強い光を帯びる。
「……魔法剣!」
ロメオは機械の関節へ飛び込んだ。
連続する斬撃。
雷撃が内部へ流れ込む。
機械の動きが鈍った。
「今だ!」
キスティスが叫ぶ。
アーヴァインが銃を構えた。
「……任せて!」
銃声が響く。
弾丸が、損傷した関節部へ命中した。
機械が大きく傾く。
セルフィが魔法を放った。
爆発。
巨大な機械は火花を散らし、動きを止めた。
「……やった!」
セルフィが拳を握った。
しかし。
『自爆まで、残り時間わずか』
機械音声が響いた。
キスティスが顔を上げる。
「……まずいわ!」
四人は出口へ走った。
だが、扉は開かない。
ロメオが制御盤を叩く。
「……くそっ!」
アーヴァインが銃でロックを撃った。
火花が散る。
それでも、扉は動かなかった。
「……だめだ!」
セルフィは振り返った。
巨大な機械が、まだ格納庫の中央に横たわっている。
その装甲は厚い。
内部には、兵士が乗り込むための空間があるはずだった。
「……ねえ」
セルフィが呟いた。
三人が振り返る。
「……あの機械の中、入れないかな?」
ロメオは目を見開いた。
「……!」
キスティスが理解した。
「装甲の中に隠れるのね!」
アーヴァインは顔をしかめた。
「……本気かい?」
ロメオは頷いた。
「他に方法がない!」
四人は機械へ走った。
損傷した装甲をこじ開ける。
内部には、狭い操縦区画があった。
「……入れる!」
ロメオが叫ぶ。
セルフィが飛び込む。
キスティスが続く。
アーヴァインも身を滑り込ませた。
最後にロメオが入る。
装甲を内側から引き寄せた。
完全には閉まらない。
だが、外にいるよりはましだった。
『自爆まで……』
警報が響く。
セルフィは目を閉じた。
「……みんな」
キスティスがセルフィの肩を抱いた。
アーヴァインは帽子を押さえた。
ロメオは、母からもらった手帳を胸元で握りしめた。
(……母さん)
そして、妹の顔を思い浮かべた。
(……リノア)
スコール。
ゼル。
バラム・ガーデン。
(……まだ、帰らなきゃいけないんだ)
次の瞬間。
巨大な爆発が、基地全体を包み込んだ。
*
どれほど時間が経ったのか。
ロメオは、暗闇の中で目を開けた。
(……生きてる?)
身体が痛い。
耳鳴りがする。
だが、意識はあった。
「……セルフィ?」
返事はない。
「……キスティス?」
小さな呻き声が聞こえた。
「……ロメオ?」
キスティスだった。
「……生きてる?」
「……たぶん」
ロメオは苦笑した。
そのとき、セルフィの声がした。
「……う~」
「セルフィ!」
「……あれ?」
セルフィはゆっくり目を開けた。
「……ここ、どこ?」
アーヴァインも動いた。
「……痛たた」
そして、帽子を探した。
「……僕の帽子、どこ?」
ロメオは笑った。
「……そこ気にするんだ」
四人は顔を見合わせた。
そして、ようやく理解した。
生きている。
基地の爆発から、生き延びたのだ。
*
数時間後。
四人は、損傷した機動兵器の内部から這い出していた。
周囲には、焼け焦げた残骸が広がっている。
ミサイル基地は、跡形もなく破壊されていた。
セルフィは、しばらく黙っていた。
そして、小さく呟いた。
「……止められたんだよね」
キスティスが頷いた。
「ええ。少なくとも、この基地からはもう発射できないわ」
セルフィは空を見上げた。
「……よかった」
だが、すぐに表情が曇った。
「……トラビアのみんなは、どうなったんだろ」
ロメオは隣に立った。
「……まだ分からない」
セルフィは頷いた。
「……うん」
ロメオは手帳を取り出した。
焼け焦げた表紙。
だが、中身は無事だった。
彼は一行だけ書き込んだ。
『ガルバディア・ミサイル基地、破壊。四名、生存』
そして、手帳を閉じた。
「……さて」
アーヴァインが帽子を被り直した。
「これからどうする?」
キスティスは遠くを見た。
「バラム・ガーデンへ戻りましょう」
ロメオも頷いた。
「スコールたちと合流しないと」
セルフィが拳を握った。
「うん!」
四人は歩き始めた。
*
その後、四人は軍の混乱に紛れて基地周辺を離れた。
交通手段を探し、ガルバディア領内を移動する。
しかし、バラム・ガーデンの消息はつかめなかった。
魔女による攻撃。
ガーデンの破壊。
軍の混乱。
噂ばかりが飛び交っていた。
ロメオは、立ち寄った町で新聞を探した。
だが、確かな情報はなかった。
「……どうなってるんだ」
セルフィは不安そうに空を見上げた。
「スコールたち、大丈夫かな……」
キスティスは頷いた。
「きっと、何とかしているわ」
アーヴァインが笑った。
「スコールなら、そう簡単にはやられないさ」
ロメオも頷いた。
「……そうだね」
そのとき、遠くから奇妙な噂が届いた。
バラム・ガーデンが、海を移動している。
最初は、誰も信じなかった。
だが、複数の場所で同じ話を聞いた。
そして、やがて。
「……FH?」
キスティスが地図を広げた。
「フィッシャーマンズ・ホライズン……」
ロメオは地図を覗き込んだ。
「……そこに、バラム・ガーデンが?」
セルフィが顔を上げた。
「じゃあ、行こう!」
四人は頷いた。
*
フィッシャーマンズ・ホライズン。
海の上に広がる、不思議な町だった。
巨大な鉄骨。
古い機械。
海風。
そして、中央に広がる大きな施設。
ロメオは思わず足を止めた。
「……すごいな」
記者としての好奇心が、久しぶりに顔を出した。
だが、今はそれどころではない。
セルフィが前方を指さした。
「……あ!」
そこに、見覚えのある巨大な建物があった。
バラム・ガーデン。
海上に浮かぶ、その姿。
「……ほんとに動いてる」
アーヴァインが呟いた。
キスティスは息を吐いた。
「……無事だったのね」
セルフィは駆け出した。
「スコール~~~!!」
ロメオも後を追った。
そして、ガーデンの入口付近。
そこに、三人の姿があった。
スコール。
ゼル。
リノア。
リノアが最初に気づいた。
「……え?」
目を見開く。
「……お兄ちゃん?」
ロメオは笑った。
「ただいま」
次の瞬間、リノアが駆け寄ってきた。
「……お兄ちゃん!!」
勢いよく抱きつく。
ロメオは少しよろめいた。
「……おっと!」
リノアは顔を上げた。
「生きてた……!」
「うん」
「本当に……!」
ロメオは妹の頭を軽く撫でた。
「約束しただろ」
リノアは何度も頷いた。
セルフィはゼルへ飛びついた。
「ゼル~~~!」
「うおっ!?」
ゼルがよろめく。
「おまえら、生きてたのかよ!」
「生きてたよ~!」
アーヴァインは帽子を押さえた。
「いやあ、結構大変だったんだぜ」
キスティスはスコールへ歩み寄った。
「……ただいま」
スコールは四人を見た。
セルフィ。
キスティス。
アーヴァイン。
ロメオ。
全員、無事だった。
「……おかえり」
短く、それだけ言った。
キスティスは微笑んだ。
ロメオはスコールを見た。
「……そっちも大変だったみたいだね」
スコールはガーデンを見上げた。
「……まあな」
ロメオは笑った。
「あとで聞かせてよ」
スコールは少しだけ眉をひそめた。
「……長くなるぞ」
「いいさ」
ロメオは手帳を取り出した。
「こっちも、長い話があるからね」
海風が吹いた。
遠くで、波の音が聞こえていた。
七人は、再び同じ場所に集まった。
それぞれが別の場所で戦い、別の危機を乗り越えてきた。
そして、今。
バラム・ガーデンは、海の上に浮かんでいる。
ロメオは、その巨大な姿を見上げた。
(……世界って、本当に広いな)
母の手帳を胸元にしまう。
まだ、知らないことがたくさんある。
まだ、行っていない場所がたくさんある。
そして。
まだ、帰るべき場所がある。
ロメオは笑った。
「……さて」
スコールが振り返る。
「何だ?」
「次は、どこへ行くんだろうね」
スコールは答えなかった。
ただ、海の向こうを見ていた。
ガーデンの旅は、まだ始まったばかりだった。