FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール   作:Kurumimogomogo

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チーム分け

 D地区収容所を離れて、どれほど走っただろう。

 

 砂漠を抜けた二台の車は、街道沿いの開けた場所で停車していた。

 

 スコールは車を降り、周囲を確認していた。

 

 追っ手の姿はない。

 

 ひとまず、収容所からの脱出には成功したらしい。

 

「スコール!」

 

 キスティスが駆け寄ってきた。

 

 その表情を見て、スコールは眉をひそめた。

 

「なんだよ」

 

「魔女がガーデンをミサイルで攻撃するんですって!?」

 

 スコールは黙った。

 

 サイファーから聞かされた話だった。

 

 魔女イデアは、反魔女勢力を育てているという理由でガーデンを破壊するつもりらしい。

 

「アーヴァインが言ってたって、リノアが言ってたよ!」

 

 セルフィも駆け寄ってくる。

 

 スコールはアーヴァインを見た。

 

「……知っていたのか」

 

「まあね。リノアたちを迎えに行ったとき、軍の連中が話してたんだ」

 

 アーヴァインは帽子のつばを触った。

 

「最初はトラビア。その次がバラムだってさ」

 

「トラビア……?」

 

 セルフィの表情が変わった。

 

 スコールは腕を組んだ。

 

「俺たちにできることは、可能な限り早くガーデンに戻って危険を知らせることだけだ。さあ、車に戻れ」

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 セルフィが叫んだ。

 

「攻撃目標はバラムとトラビアのガーデンなんだよ~!」

 

「分かってる」

 

「分かってないよ!」

 

 セルフィは両手を握りしめた。

 

「ミサイル発射妨害! ミサイル発射阻止!」

 

 スコールは目を細めた。

 

(……簡単に言うなよ)

 

 ガルバディア軍のミサイル基地へ侵入する。

 

 それは、正規の軍事施設を相手にするということだ。

 

 収容所から脱出したばかりの七人で、何ができる。

 

「俺はスコールの決定に従うからな!」

 

 ゼルが言った。

 

 アーヴァインは肩をすくめる。

 

「セルフィの気持ちは、と~ってもよく分かるけど……」

 

「セルフィだけの問題じゃないわね」

 

 キスティスが口を挟んだ。

 

「バラム・ガーデンも攻撃されるなら、私たち全員の問題よ」

 

「だったら、二手に分かれればいいんじゃない?」

 

 リノアが言った。

 

「ミサイルをなんとかするぞ作戦と、バラムに報告するぞ作戦!」

 

 ゼルが顔をしかめた。

 

「作戦名はともかく、簡単に言うなよ」

 

「でも、どっちもやらなきゃいけないんでしょ?」

 

 リノアはスコールを見た。

 

「ね?」

 

 スコールは答えなかった。

 

 少し離れた場所で、ロメオがガルバディア軍の車を眺めていた。

 

 収容所から持ち出した車両だ。

 

 軍用の識別番号。

 

 通信装置。

 

 車内には、まだ軍の通行許可証が残されている。

 

「……なるほど」

 

 ロメオが呟いた。

 

 セルフィが振り返る。

 

「ロメオ?」

 

「いや、ちょっとね」

 

 ロメオは車の扉を閉めた。

 

「基地に入る方法なら、あるかもしれない」

 

 スコールが顔を上げた。

 

「……何?」

 

「昔、親父の関係で軍の研修を受けたことがあるんだ」

 

 ロメオは苦笑した。

 

「将来、軍に入るかもしれないからって。結局、俺は記者になりたかったんだけどさ」

 

「軍の研修?」

 

 キスティスが聞き返す。

 

「基礎訓練と施設見学程度だよ。兵士ってわけじゃない」

 

 ロメオは車を指さした。

 

「でも、車両の識別方法とか、基地の入退場手続きとかは教わった。こいつを使えば、少なくとも入口までは行ける可能性がある」

 

 セルフィの目が輝いた。

 

「ほんと!?」

 

「保証はできないけどね」

 

 スコールはロメオを見た。

 

(……カーウェイ大佐の息子)

 

 考えてみれば、軍との接点があっても不思議ではない。

 

 ロメオは両手を広げた。

 

「まあ、俺が習ったのは数年前だし、今も同じ手続きとは限らない。でも、何も知らずに行くよりはましだろ?」

 

 セルフィが勢いよく頷いた。

 

「それだよ!」

 

 そして、スコールへ向き直る。

 

「班長、お願い!」

 

 セルフィの声が、少しだけ震えていた。

 

「あたし、トラビアから転校してきたばっかりなんだよ!」

 

 いつもの明るい声ではなかった。

 

「だから、トラビア・ガーデンがピンチだって聞いて、黙ってるわけにはいかないのよ!」

 

 スコールは黙って聞いていた。

 

「ガルバディア・ミサイル基地潜入作戦! メンバー決めて~!」

 

(……簡単に言うなよ)

 

 スコールは目を伏せた。

 

(メンバーを選んで、もしものことがあったら俺は……)

 

 自分が選んだ仲間が、戻ってこないかもしれない。

 

 その可能性を、考えずにはいられなかった。

 

「決をとりま~す!」

 

 リノアが手を上げた。

 

「スコールがメンバーを決める。スコールは班長だからバラムへ戻る。この考えに反対の人は手を上げましょう!」

 

 誰も手を上げなかった。

 

「私も、どっちのチームでも文句言わないからね」

 

(……あんたは部外者だろ?)

 

 スコールはそう思った。

 

 だが、リノアとの契約はまだ続いている。

 

 それに、彼女もここまで一緒に戦ってきた。

 

「スコール」

 

 キスティスが言った。

 

「班長なんだから、メンバーを決めて」

 

(……班長なんだから?)

 

 スコールは顔をしかめた。

 

(俺が頼んでなったわけじゃないぞ)

 

 アーヴァインが帽子を押さえた。

 

「ああ……僕の優柔不断が顔を出してきたよ~」

 

「本気かよ、魔女のガルバディアはよー!」

 

 ゼルが拳を握った。

 

 そのときだった。

 

 遠くの空に、白い光が走った。

 

 誰かが息を呑んだ。

 

 続いて、地平線の向こうから、いくつもの光の筋が空へ伸びていく。

 

「……あれ」

 

 セルフィが呟いた。

 

 光は高く、高く昇っていった。

 

 そして、遠い空の彼方へ消えていく。

 

 誰も何も言わなかった。

 

 アーヴァインが、ゆっくりと帽子を取った。

 

「……トラビアの方角だ」

 

 セルフィの顔から血の気が引いた。

 

「……うそ」

 

 遠くで、低い轟音が響いた。

 

 実際に何が起きたのか、ここからは分からない。

 

 だが、誰も楽観的なことは言えなかった。

 

「……ごめんな」

 

 セルフィが小さく呟いた。

 

「トラビアのみんな……」

 

 いつもの陽気な口調が消えていた。

 

「あたし、なんもできへんかった……」

 

 ロメオは何も言えなかった。

 

 セルフィは唇を噛んだ。

 

「せやけど……みんな、無事におってや」

 

 顔を上げる。

 

「また会えるやんね」

 

 そして、無理に笑おうとした。

 

「今のミサイルは……外れだよね~?」

 

 誰も答えられなかった。

 

 セルフィはスコールを見た。

 

「スコール班長」

 

 声が戻っていた。

 

 だが、目は笑っていない。

 

「早くバラムに報告! 報告班、誰を連れてく?」

 

 ゼルが頷いた。

 

「スコール、頼むぜ!」

 

「スコール、決断よ」

 

 キスティスが言った。

 

 リノアも真剣な顔で頷く。

 

「よく考えてね」

 

(……班長なんて、こりごりだ)

 

 スコールは息を吐いた。

 

(分かったよ。選べばいいんだろ?)

 

 顔を上げる。

 

「バラム・ガーデンには、俺とゼル、それからリノアが戻る」

 

 ゼルが頷いた。

 

「了解!」

 

 リノアも短く返事をした。

 

「うん!」

 

 スコールは残る四人を見た。

 

「ミサイル基地には、セルフィ、キスティス、アーヴァイン、ロメオ」

 

 セルフィが手を上げた。

 

「りょうか~い!」

 

 キスティスは頷いた。

 

「分かったわ」

 

 アーヴァインが苦笑する。

 

「……結構、大変なチームだね」

 

 ロメオは笑った。

 

「女性二人に囲まれるんだから、文句ないだろ?」

 

「君もいるじゃないか」

 

「俺は邪魔しないよ」

 

「それはありがたいねえ」

 

 スコールは二人を見た。

 

「……遊びじゃないぞ」

 

 ロメオの表情が変わった。

 

「分かってる」

 

 スコールはセルフィへ向き直った。

 

「これは今までの任務とは違う。誰の命令でも依頼でもない」

 

 セルフィが頷く。

 

「うん」

 

「何か作戦があるのか?」

 

「このガルバディア軍の車で行けば、何とか基地には入れると思うんだ」

 

 セルフィはロメオを見た。

 

「ね!」

 

 ロメオが頷く。

 

「入口までは俺が何とかする」

 

「でも、その後は全然分かんないから、基地の中で考えるよ」

 

 スコールは黙った。

 

(……それでいいのか?)

 

 だが、時間がない。

 

 セルフィは笑った。

 

「ごめんね……ううん、ありがとう」

 

 そして、手を振った。

 

「きっと時間、あんまりないよ~! 早くバラム・ガーデンへ!」

 

 スコールは頷いた。

 

「バラム・ガーデンで会おう」

 

「うん!」

 

 セルフィは大きく手を振った。

 

「スコール班長、いっそげ~!!」

 

 *

 

 スコールたちの車が走り去っていく。

 

 ロメオは、その後ろ姿を見送っていた。

 

「……お兄ちゃん」

 

 リノアが窓から顔を出した。

 

「絶対、帰ってきてよ!」

 

 ロメオは笑った。

 

「そっちこそ」

 

「約束だからね!」

 

「分かった、分かった」

 

 リノアは少しだけ顔を曇らせた。

 

「……本当に、大丈夫?」

 

 ロメオは肩をすくめた。

 

「大丈夫じゃなくても、何とかするさ」

 

 そして、いつもの調子で笑った。

 

「俺、しぶといから」

 

 リノアは頷いた。

 

「……うん」

 

 車が走り出す。

 

 ロメオは手を振り続けた。

 

 やがて、車は見えなくなった。

 

 セルフィが振り返る。

 

「さあ~っ!」

 

 そして、拳を突き上げた。

 

「ミサイル基地へ、いっくよ~!」

 

 *

 

 ガルバディア・ミサイル基地。

 

 広大な軍事施設の入口には、厳重な警備が敷かれていた。

 

 ガルバディア軍の車両が一台、検問所へ近づく。

 

 運転席にはロメオ。

 

 助手席にはアーヴァイン。

 

 後部座席にはキスティスとセルフィがいた。

 

 四人は、収容所から持ち出した軍服に着替えていた。

 

「……ねえ」

 

 セルフィが小声で言った。

 

「本当に大丈夫かな?」

 

「大丈夫」

 

 ロメオは前を向いたまま答えた。

 

「……たぶん」

 

「たぶん!?」

 

「声が大きい」

 

 キスティスが注意した。

 

 検問所の兵士が近づいてくる。

 

「所属と用件を」

 

 ロメオは軍用の書類を差し出した。

 

「D地区からの移送車両です。基地内への搬入指示を受けています」

 

 兵士は書類を確認した。

 

「……四人か」

 

「はい」

 

 ロメオは落ち着いて答えた。

 

 軍の研修で教わったことを思い出す。

 

 余計なことは言わない。

 

 聞かれたことだけ答える。

 

 相手が確認するまで、勝手に動かない。

 

 兵士が車内を覗いた。

 

「……そちらの二人は?」

 

 キスティスが答える。

 

「補助要員です」

 

 セルフィは敬礼した。

 

「お疲れさまであります!」

 

 ロメオは一瞬、目を閉じた。

 

(……言い方)

 

 兵士は怪訝そうな顔をした。

 

 しかし、書類へ視線を戻す。

 

「……通れ」

 

 ゲートが開いた。

 

 ロメオはゆっくり車を進めた。

 

 検問所を抜ける。

 

 しばらくしてから、アーヴァインが息を吐いた。

 

「……やるじゃないか」

 

 ロメオは笑った。

 

「親父の研修も、無駄じゃなかったね」

 

 セルフィが後部座席で跳ねた。

 

「やった~!」

 

「まだ入口よ」

 

 キスティスが釘を刺した。

 

 ロメオは前方を見た。

 

 巨大なミサイル格納庫。

 

 複数の管制施設。

 

 巡回する兵士たち。

 

(……ここからが本番だ)

 

 *

 

 四人は車を停め、基地の内部へ入った。

 

 通路には軍人が行き交っている。

 

 セルフィは周囲を見回した。

 

「……広いね~」

 

 キスティスが小声で言う。

 

「まずはミサイルの発射設備を探しましょう」

 

 アーヴァインは頷いた。

 

「それと、発射を止める方法だね」

 

 ロメオは壁の案内図を確認した。

 

「管制室は奥だな」

 

 セルフィが覗き込む。

 

「分かるの?」

 

「研修で見た施設とは違うけど、表示の仕方は似てる」

 

 ロメオは通路の先を指さした。

 

「まずはこっち」

 

 四人は兵士たちの間を抜けた。

 

 途中、整備員に呼び止められる。

 

「おい、そこの四人!」

 

 セルフィの肩が跳ねた。

 

「……は、はい!」

 

「ちょうどいい。点検作業を手伝ってくれ」

 

 ロメオは即座に答えた。

 

「了解しました」

 

 キスティスが横目で見る。

 

(……即答するのね)

 

 整備員は端末を指さした。

 

「この装置の確認を頼む」

 

 ロメオは画面を覗き込んだ。

 

 表示されているのは、ミサイルの誘導設定だった。

 

(……これか)

 

 セルフィも気づいたらしい。

 

 目が輝いた。

 

「……ねえ、ロメオ」

 

「分かってる」

 

 ロメオは小さく頷いた。

 

 整備員が別の作業へ向かった隙に、セルフィが端末へ手を伸ばす。

 

「え~っと……」

 

 キスティスが周囲を警戒する。

 

 アーヴァインは通路の向こうで兵士と雑談していた。

 

「……君、射撃が得意なの?」

 

「まあね~。ちょっとしたもんさ」

 

 セルフィは画面を操作した。

 

 目標座標。

 

 誘導補正。

 

 命中精度。

 

「……これを変えればいいんだよね?」

 

 ロメオが頷いた。

 

「できるだけ精度を落とす」

 

 セルフィは操作を続けた。

 

 画面の数値が変わっていく。

 

「……よし!」

 

 セルフィが拳を握った。

 

「これで、ちょっとは外れやすくなるはず!」

 

 キスティスが頷く。

 

「でも、これだけじゃ不十分ね」

 

「うん」

 

 セルフィは真剣な顔になった。

 

「発射そのものを止めなきゃ」

 

 *

 

 四人は基地の奥へ進んだ。

 

 途中、兵士たちが慌ただしく走っていく。

 

「発射準備を急げ!」

 

「バラムへの攻撃命令が出たぞ!」

 

 セルフィの足が止まった。

 

「……バラム」

 

 キスティスが顔を上げた。

 

「時間がないわ」

 

 ロメオは頷いた。

 

「管制室へ行こう」

 

 四人は通路を走った。

 

 やがて、重い扉の前にたどり着く。

 

 その先には、基地の制御設備があるはずだった。

 

 しかし、扉は施錠されていた。

 

「……どうする?」

 

 アーヴァインが尋ねる。

 

 ロメオは端末を確認した。

 

「……認証が必要だな」

 

 セルフィが拳を握った。

 

「じゃあ、壊しちゃう?」

 

「……待って」

 

 ロメオは画面を操作した。

 

 軍の研修で教わった、非常時の管理手順。

 

 通常の認証とは別に、保守用の操作がある。

 

 ただし、権限がなければ使えない。

 

「……ここまでは分かるんだけど」

 

 キスティスが周囲を見た。

 

「時間がないわ」

 

 ロメオは息を吐いた。

 

「……なら、仕方ない」

 

 短剣を抜く。

 

 刃に雷が走った。

 

「ちょっと荒っぽくいこうか」

 

 魔法剣が、制御盤へ突き刺さった。

 

 火花が散る。

 

 扉のロックが解除された。

 

「……開いた!」

 

 セルフィが叫ぶ。

 

 四人は中へ飛び込んだ。

 

 *

 

 管制室。

 

 巨大な制御盤が並んでいた。

 

 モニターには、ミサイル発射までの残り時間が表示されている。

 

 セルフィは息を呑んだ。

 

「……もう、こんなに」

 

 キスティスが端末へ駆け寄る。

 

「発射を止められる?」

 

 ロメオは画面を確認した。

 

「……操作系統が複数ある」

 

 アーヴァインが銃を構え、入口を警戒する。

 

「早くしてくれよ~」

 

 セルフィは端末を操作した。

 

 警告表示が点滅する。

 

「……あれ?」

 

 ロメオが覗き込む。

 

「……発射準備が進んでる」

 

 キスティスが別の端末を操作した。

 

「制御系統を切り替えられないかしら」

 

 ロメオは頷いた。

 

「やってみる」

 

 しかし、操作を続けるうちに、警報が鳴り響いた。

 

『不正操作を検知しました』

 

 セルフィが顔を上げた。

 

「……やばっ!」

 

『警備部隊は管制室へ急行してください』

 

 アーヴァインがため息をついた。

 

「……見つかったみたいだね」

 

 ロメオは端末を操作し続けた。

 

「あと少し!」

 

 キスティスが叫ぶ。

 

「ロメオ!」

 

「……分かってる!」

 

 画面が切り替わる。

 

 発射管制の一部が停止した。

 

 続いて、別の警告が表示される。

 

『システム異常』

 

 セルフィが目を輝かせた。

 

「……やった!?」

 

 ロメオは首を振った。

 

「まだだ」

 

 だが、発射準備の進行は止まっていた。

 

 少なくとも、すぐに発射されることはない。

 

 そのとき、扉が開いた。

 

「貴様ら!」

 

 兵士たちが突入してくる。

 

 アーヴァインが銃を構えた。

 

「……おっと」

 

 キスティスが鞭を振るう。

 

 セルフィもヌンチャクを構えた。

 

 ロメオは短剣を抜いた。

 

 戦闘が始まった。

 

 *

 

 兵士たちを退けた後、四人は管制室を調べた。

 

 ロメオは別の端末に気づいた。

 

「……これ」

 

 画面には、基地の自爆装置に関する表示があった。

 

 キスティスが覗き込む。

 

「自爆……?」

 

 セルフィが顔を上げた。

 

「……基地ごと壊せるってこと?」

 

 ロメオは頷いた。

 

「ミサイル設備を完全に使えなくするなら、これが一番確実だ」

 

 アーヴァインが眉をひそめた。

 

「……でも、僕たちも巻き込まれるんじゃない?」

 

「もちろん、脱出しなきゃいけない」

 

 キスティスが考え込む。

 

「……時間を設定できるのね」

 

 セルフィは画面を見た。

 

 自爆までの時間を選ぶ項目が並んでいる。

 

「……じゃあ、できるだけ長く!」

 

 ロメオが頷いた。

 

「それがいい」

 

 セルフィは操作した。

 

 確認画面が表示される。

 

『自爆装置を起動しますか?』

 

 セルフィは一瞬、手を止めた。

 

 トラビアの仲間たちの顔が浮かんだ。

 

 ガーデンの廊下。

 

 教室。

 

 笑い声。

 

 そして、遠い空へ消えていったミサイル。

 

「……ごめんな」

 

 小さく呟く。

 

「みんな」

 

 セルフィは確認ボタンを押した。

 

『自爆装置が起動しました』

 

 警報が鳴り響く。

 

 キスティスが叫んだ。

 

「急いで脱出するわよ!」

 

 四人は走り出した。

 

 *

 

 基地の外へ向かう通路。

 

 警報が鳴り続けている。

 

 兵士たちは混乱していた。

 

「何が起きた!?」

 

「管制室で異常発生!」

 

「基地から退避しろ!」

 

 四人は人の流れに紛れて進んだ。

 

 しかし、出口の手前で足を止めることになった。

 

 巨大な格納庫の扉が閉じていた。

 

「……え?」

 

 セルフィが目を丸くする。

 

 キスティスが制御盤を確認した。

 

「……ロックされてる」

 

 アーヴァインが顔をしかめた。

 

「ちょっと待ってよ。自爆するんだろ?」

 

 ロメオは扉の横にある端末を操作した。

 

 だが、反応しない。

 

「……だめだ」

 

 セルフィが振り返る。

 

「他の出口は!?」

 

 ロメオは首を振った。

 

「この区画から出るには、ここを通るしかない」

 

 キスティスは周囲を見回した。

 

「……何か方法があるはずよ」

 

 そのとき、格納庫の奥から機械音が響いた。

 

 巨大な影が動き出す。

 

 四人は振り返った。

 

「……何?」

 

 そこに現れたのは、大型の機動兵器だった。

 

 重厚な装甲。

 

 巨大な脚部。

 

 複数の武装。

 

 アーヴァインが目を見開いた。

 

「……冗談だろ?」

 

 機械のセンサーが赤く光った。

 

『侵入者を確認』

 

 ロメオは短剣を構えた。

 

「……やるしかない!」

 

 *

 

 戦闘は激しかった。

 

 大型機械の砲撃が、格納庫の床を砕く。

 

 キスティスが鞭を振るい、関節部を狙う。

 

 セルフィは魔法を唱えた。

 

 アーヴァインの銃弾が、装甲の隙間へ撃ち込まれる。

 

 ロメオは機械の足元を走った。

 

(……硬い!)

 

 短剣では、厚い装甲を貫けない。

 

 ならば。

 

「……ラムウ!」

 

『承知した!』

 

 雷が走った。

 

 ロメオの二本の短剣が、強い光を帯びる。

 

「……魔法剣!」

 

 ロメオは機械の関節へ飛び込んだ。

 

 連続する斬撃。

 

 雷撃が内部へ流れ込む。

 

 機械の動きが鈍った。

 

「今だ!」

 

 キスティスが叫ぶ。

 

 アーヴァインが銃を構えた。

 

「……任せて!」

 

 銃声が響く。

 

 弾丸が、損傷した関節部へ命中した。

 

 機械が大きく傾く。

 

 セルフィが魔法を放った。

 

 爆発。

 

 巨大な機械は火花を散らし、動きを止めた。

 

「……やった!」

 

 セルフィが拳を握った。

 

 しかし。

 

『自爆まで、残り時間わずか』

 

 機械音声が響いた。

 

 キスティスが顔を上げる。

 

「……まずいわ!」

 

 四人は出口へ走った。

 

 だが、扉は開かない。

 

 ロメオが制御盤を叩く。

 

「……くそっ!」

 

 アーヴァインが銃でロックを撃った。

 

 火花が散る。

 

 それでも、扉は動かなかった。

 

「……だめだ!」

 

 セルフィは振り返った。

 

 巨大な機械が、まだ格納庫の中央に横たわっている。

 

 その装甲は厚い。

 

 内部には、兵士が乗り込むための空間があるはずだった。

 

「……ねえ」

 

 セルフィが呟いた。

 

 三人が振り返る。

 

「……あの機械の中、入れないかな?」

 

 ロメオは目を見開いた。

 

「……!」

 

 キスティスが理解した。

 

「装甲の中に隠れるのね!」

 

 アーヴァインは顔をしかめた。

 

「……本気かい?」

 

 ロメオは頷いた。

 

「他に方法がない!」

 

 四人は機械へ走った。

 

 損傷した装甲をこじ開ける。

 

 内部には、狭い操縦区画があった。

 

「……入れる!」

 

 ロメオが叫ぶ。

 

 セルフィが飛び込む。

 

 キスティスが続く。

 

 アーヴァインも身を滑り込ませた。

 

 最後にロメオが入る。

 

 装甲を内側から引き寄せた。

 

 完全には閉まらない。

 

 だが、外にいるよりはましだった。

 

『自爆まで……』

 

 警報が響く。

 

 セルフィは目を閉じた。

 

「……みんな」

 

 キスティスがセルフィの肩を抱いた。

 

 アーヴァインは帽子を押さえた。

 

 ロメオは、母からもらった手帳を胸元で握りしめた。

 

(……母さん)

 

 そして、妹の顔を思い浮かべた。

 

(……リノア)

 

 スコール。

 

 ゼル。

 

 バラム・ガーデン。

 

(……まだ、帰らなきゃいけないんだ)

 

 次の瞬間。

 

 巨大な爆発が、基地全体を包み込んだ。

 

 *

 

 どれほど時間が経ったのか。

 

 ロメオは、暗闇の中で目を開けた。

 

(……生きてる?)

 

 身体が痛い。

 

 耳鳴りがする。

 

 だが、意識はあった。

 

「……セルフィ?」

 

 返事はない。

 

「……キスティス?」

 

 小さな呻き声が聞こえた。

 

「……ロメオ?」

 

 キスティスだった。

 

「……生きてる?」

 

「……たぶん」

 

 ロメオは苦笑した。

 

 そのとき、セルフィの声がした。

 

「……う~」

 

「セルフィ!」

 

「……あれ?」

 

 セルフィはゆっくり目を開けた。

 

「……ここ、どこ?」

 

 アーヴァインも動いた。

 

「……痛たた」

 

 そして、帽子を探した。

 

「……僕の帽子、どこ?」

 

 ロメオは笑った。

 

「……そこ気にするんだ」

 

 四人は顔を見合わせた。

 

 そして、ようやく理解した。

 

 生きている。

 

 基地の爆発から、生き延びたのだ。

 

 *

 

 数時間後。

 

 四人は、損傷した機動兵器の内部から這い出していた。

 

 周囲には、焼け焦げた残骸が広がっている。

 

 ミサイル基地は、跡形もなく破壊されていた。

 

 セルフィは、しばらく黙っていた。

 

 そして、小さく呟いた。

 

「……止められたんだよね」

 

 キスティスが頷いた。

 

「ええ。少なくとも、この基地からはもう発射できないわ」

 

 セルフィは空を見上げた。

 

「……よかった」

 

 だが、すぐに表情が曇った。

 

「……トラビアのみんなは、どうなったんだろ」

 

 ロメオは隣に立った。

 

「……まだ分からない」

 

 セルフィは頷いた。

 

「……うん」

 

 ロメオは手帳を取り出した。

 

 焼け焦げた表紙。

 

 だが、中身は無事だった。

 

 彼は一行だけ書き込んだ。

 

『ガルバディア・ミサイル基地、破壊。四名、生存』

 

 そして、手帳を閉じた。

 

「……さて」

 

 アーヴァインが帽子を被り直した。

 

「これからどうする?」

 

 キスティスは遠くを見た。

 

「バラム・ガーデンへ戻りましょう」

 

 ロメオも頷いた。

 

「スコールたちと合流しないと」

 

 セルフィが拳を握った。

 

「うん!」

 

 四人は歩き始めた。

 

 *

 

 その後、四人は軍の混乱に紛れて基地周辺を離れた。

 

 交通手段を探し、ガルバディア領内を移動する。

 

 しかし、バラム・ガーデンの消息はつかめなかった。

 

 魔女による攻撃。

 

 ガーデンの破壊。

 

 軍の混乱。

 

 噂ばかりが飛び交っていた。

 

 ロメオは、立ち寄った町で新聞を探した。

 

 だが、確かな情報はなかった。

 

「……どうなってるんだ」

 

 セルフィは不安そうに空を見上げた。

 

「スコールたち、大丈夫かな……」

 

 キスティスは頷いた。

 

「きっと、何とかしているわ」

 

 アーヴァインが笑った。

 

「スコールなら、そう簡単にはやられないさ」

 

 ロメオも頷いた。

 

「……そうだね」

 

 そのとき、遠くから奇妙な噂が届いた。

 

 バラム・ガーデンが、海を移動している。

 

 最初は、誰も信じなかった。

 

 だが、複数の場所で同じ話を聞いた。

 

 そして、やがて。

 

「……FH?」

 

 キスティスが地図を広げた。

 

「フィッシャーマンズ・ホライズン……」

 

 ロメオは地図を覗き込んだ。

 

「……そこに、バラム・ガーデンが?」

 

 セルフィが顔を上げた。

 

「じゃあ、行こう!」

 

 四人は頷いた。

 

 *

 

 フィッシャーマンズ・ホライズン。

 

 海の上に広がる、不思議な町だった。

 

 巨大な鉄骨。

 

 古い機械。

 

 海風。

 

 そして、中央に広がる大きな施設。

 

 ロメオは思わず足を止めた。

 

「……すごいな」

 

 記者としての好奇心が、久しぶりに顔を出した。

 

 だが、今はそれどころではない。

 

 セルフィが前方を指さした。

 

「……あ!」

 

 そこに、見覚えのある巨大な建物があった。

 

 バラム・ガーデン。

 

 海上に浮かぶ、その姿。

 

「……ほんとに動いてる」

 

 アーヴァインが呟いた。

 

 キスティスは息を吐いた。

 

「……無事だったのね」

 

 セルフィは駆け出した。

 

「スコール~~~!!」

 

 ロメオも後を追った。

 

 そして、ガーデンの入口付近。

 

 そこに、三人の姿があった。

 

 スコール。

 

 ゼル。

 

 リノア。

 

 リノアが最初に気づいた。

 

「……え?」

 

 目を見開く。

 

「……お兄ちゃん?」

 

 ロメオは笑った。

 

「ただいま」

 

 次の瞬間、リノアが駆け寄ってきた。

 

「……お兄ちゃん!!」

 

 勢いよく抱きつく。

 

 ロメオは少しよろめいた。

 

「……おっと!」

 

 リノアは顔を上げた。

 

「生きてた……!」

 

「うん」

 

「本当に……!」

 

 ロメオは妹の頭を軽く撫でた。

 

「約束しただろ」

 

 リノアは何度も頷いた。

 

 セルフィはゼルへ飛びついた。

 

「ゼル~~~!」

 

「うおっ!?」

 

 ゼルがよろめく。

 

「おまえら、生きてたのかよ!」

 

「生きてたよ~!」

 

 アーヴァインは帽子を押さえた。

 

「いやあ、結構大変だったんだぜ」

 

 キスティスはスコールへ歩み寄った。

 

「……ただいま」

 

 スコールは四人を見た。

 

 セルフィ。

 

 キスティス。

 

 アーヴァイン。

 

 ロメオ。

 

 全員、無事だった。

 

「……おかえり」

 

 短く、それだけ言った。

 

 キスティスは微笑んだ。

 

 ロメオはスコールを見た。

 

「……そっちも大変だったみたいだね」

 

 スコールはガーデンを見上げた。

 

「……まあな」

 

 ロメオは笑った。

 

「あとで聞かせてよ」

 

 スコールは少しだけ眉をひそめた。

 

「……長くなるぞ」

 

「いいさ」

 

 ロメオは手帳を取り出した。

 

「こっちも、長い話があるからね」

 

 海風が吹いた。

 

 遠くで、波の音が聞こえていた。

 

 七人は、再び同じ場所に集まった。

 

 それぞれが別の場所で戦い、別の危機を乗り越えてきた。

 

 そして、今。

 

 バラム・ガーデンは、海の上に浮かんでいる。

 

 ロメオは、その巨大な姿を見上げた。

 

(……世界って、本当に広いな)

 

 母の手帳を胸元にしまう。

 

 まだ、知らないことがたくさんある。

 

 まだ、行っていない場所がたくさんある。

 

 そして。

 

 まだ、帰るべき場所がある。

 

 ロメオは笑った。

 

「……さて」

 

 スコールが振り返る。

 

「何だ?」

 

「次は、どこへ行くんだろうね」

 

 スコールは答えなかった。

 

 ただ、海の向こうを見ていた。

 

 ガーデンの旅は、まだ始まったばかりだった。

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