FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール 作:Kurumimogomogo
トラビア・ガーデンを離れてから、数日が経った。
バラム・ガーデンは、セントラ大陸の南方へ向かっていた。
スコールたちの目的地は、かつて自分たちが暮らしていた孤児院だった。
海辺に建つ、古い石造りの家。
アーヴァインの話をきっかけに蘇った記憶を確かめるためにも、そこへ行く必要があった。
何より、魔女イデアについて、まだ分からないことが多すぎた。
シド学園長の妻であることは、すでに知っている。
だが、彼女が自分たちを育てた「ママ先生」だったという事実は、スコールたちに新たな疑問を残していた。
なぜ、あの優しかった女性が魔女としてガルバディアを率いているのか。
なぜ、シドは妻を倒すためのSeeDを育てたのか。
そして、なぜ自分たちは、そのことを忘れていたのか。
答えは、まだ見つかっていない。
「……スコール」
ブリッジで操舵を担当していたニーダが声を上げた。
「前方に、何か見える」
スコールは顔を上げた。
「何だ?」
「ガーデン……だと思う」
ニーダの声が硬くなる。
「いや、間違いない。ガルバディア・ガーデンだ!」
スコールは前方を見た。
地平線の向こうから、巨大な建造物が近づいてくる。
赤と黒を基調とした外壁。
バラム・ガーデンとは異なる、鋭角的な構造。
かつて訪れたことのある学園だった。
だが、今はその姿が、ひどく威圧的に見えた。
「……あれも動くのか」
スコールが呟いた。
ニーダが頷く。
「こっちに向かってきてる。進路を変えても追ってくるぞ」
ガルバディア・ガーデンは、明らかにこちらを捕捉していた。
スコールは少し考えた。
(……逃げられない)
相手はガルバディア軍。
しかも、ガーデンそのものを動員してきた。
戦闘を避けるつもりはないのだろう。
「ニーダ」
「何だ?」
「全館放送を使う」
「分かった!」
スコールは通信装置の前に立った。
マイクを手に取る。
少しだけ、ためらった。
(……何を言えばいい?)
自分は、ついこの間まで一人のSeeDだった。
命令を受け、任務を遂行する。
それだけでよかった。
だが、今は違う。
このガーデンにいる生徒たち全員の命が、自分の判断にかかっている。
スコールは息を吸った。
そして、放送を始めた。
「……こちらはスコールだ」
校内の各所に、彼の声が響いた。
「前方にガルバディア・ガーデンを確認した。向こうはこちらに向かっている。これより戦闘に入る」
廊下を歩いていた生徒たちが足を止めた。
食堂にいた者たちも顔を上げる。
「まず、攻撃の準備だ」
スコールは手元の配置図を見た。
「剣接近戦検定二段以上の者は、駐輪場に集合。MG検定三級以上の者は、二階外壁デッキで待機してくれ」
少し間を置く。
「戦闘開始まで時間がある。ウォームアップを怠らないように」
放送を聞いた生徒たちが動き始めた。
武器庫へ走る者。
仲間を呼びに行く者。
教室から飛び出してくる者。
「次に、守りの準備だ」
スコールは続けた。
「敵はおそらく、こちらのガーデンに乗り込んでくる。校庭と正門を固めて、敵襲に備えてくれ」
ニーダが操舵席から振り返った。
スコールは頷き、放送を続けた。
「キスティス、ゼル、セルフィ。ブリッジに集合してくれ」
そして、最後の指示を出した。
「出席番号の末尾が八の生徒は、年少クラスの世話を忘れるな。戦闘が始まったら、安全な場所へ誘導してくれ」
スコールはマイクを置いた。
ニーダが小さく息を吐いた。
「……いよいよだな」
「ああ」
「勝てると思うか?」
スコールは前方を見た。
「……勝つしかない」
ニーダは苦笑した。
「そうだな」
ガルバディア・ガーデンは、少しずつ大きくなっていた。
スコールは腕を組んだ。
(……サイファー)
あそこにいるのだろうか。
魔女イデアも。
そして、今度こそ決着をつけることになるのだろうか。
考える時間は、もうほとんどなかった。
ブリッジの扉が開いた。
「スコール!」
ゼルが駆け込んできた。
「ガルバディア・ガーデンが来たって本当か!?」
「ああ」
「くそっ、とうとう来やがったか!」
続いてキスティスとセルフィが入ってきた。
「校内の配置は進んでいるわ」
キスティスが報告する。
「武器の準備も始まってる」
「年少クラスの子たちも避難してるよ~!」
セルフィが言った。
その後ろから、リノアとロメオ、アーヴァインも姿を見せた。
「スコール!」
リノアが駆け寄る。
「どうするの?」
「戦う」
スコールは短く答えた。
「向こうは逃がしてくれそうにない」
ロメオが窓の外を見た。
「……ずいぶん大きな相手だね」
「同じガーデンだろ」
ゼルが言った。
「だったら、こっちだって負けてねえ!」
「いや、そう簡単にはいかないと思うよ」
ロメオは首を振った。
「向こうにはガルバディア軍の正規兵が乗ってる。学生同士の喧嘩じゃ済まない」
ゼルは口を閉じた。
キスティスが頷いた。
「その通りね。こちらには年少クラスもいるわ。守るべき人間が多い」
スコールは全員を見回した。
「まずは敵の攻撃を防ぐ。無理に追撃するな。各自、持ち場を守ってくれ」
「了解!」
ゼルが拳を握った。
そのとき、ニーダが叫んだ。
「来るぞ!」
全員が前方を見た。
ガルバディア・ガーデンが、急速に接近してくる。
巨大な外壁が視界いっぱいに広がった。
「衝突する!」
次の瞬間。
轟音が響いた。
バラム・ガーデン全体が大きく揺れる。
「きゃっ!」
リノアが壁に手をついた。
ゼルがよろめきながら踏みとどまる。
スコールは操舵席の手すりを掴んだ。
「ニーダ!」
「分かってる!」
ニーダが操縦桿を操作する。
だが、ガルバディア・ガーデンは離れなかった。
むしろ、こちらを押し込むように接近してくる。
外壁同士が擦れ合い、金属が軋む音が響いた。
「……ぶつけてきやがった!」
ゼルが叫ぶ。
スコールは通信装置に手を伸ばした。
「全員、衝撃に備えろ! 敵の侵入に警戒!」
その直後、再び大きな衝撃が走った。
ガーデンが傾く。
廊下から悲鳴が聞こえた。
スコールは歯を食いしばった。
(……始まったか)
ガーデン同士の戦争が。
それは、想像していた以上に激しいものだった。
ガルバディア・ガーデンの外壁から、兵士たちが飛び出してくる。
ロープを使ってこちらへ渡る者。
特殊な飛行装置に乗って接近する者。
そして、二階の外壁デッキへ直接乗り込んでくる者。
校内の通信が慌ただしくなった。
『二階デッキ、敵襲!』
『MG部隊、応戦します!』
『校庭にも敵兵が!』
スコールはマイクを取った。
「配置を崩すな! 敵を校内に入れるな!」
通信を切る。
「キスティス、セルフィ。二階デッキの援護に向かってくれ」
「分かったわ!」
「了解~!」
「ゼルは校庭だ。敵が突破してきたら、正門の防衛部隊を援護しろ」
「任せろ!」
スコールはロメオを見た。
「おまえはゼルと一緒に行け」
「了解」
ロメオは頷いた。
「リノアは?」
リノアが口を開いた。
「わたしも行く!」
スコールは少し迷った。
だが、すぐに頷いた。
「……無理はするな」
「分かってる!」
リノアは笑った。
ロメオが妹の肩を軽く叩く。
「行こうか」
「うん!」
彼らはブリッジを飛び出した。
スコールはアーヴァインを見た。
「おまえはここに残って、状況を確認してくれ」
「了解~」
アーヴァインは帽子を押さえた。
「でも、スコール」
「何だ?」
「無理しすぎるなよ」
スコールは一瞬だけ彼を見た。
「……分かってる」
アーヴァインは苦笑した。
「本当に分かってるのかなあ」
スコールは答えなかった。
再び、衝撃が走った。
戦闘は、すでに始まっていた。
校庭では、ガルバディア兵とバラム・ガーデンの生徒たちが激しくぶつかっていた。
剣を振るう生徒。
魔法を放つ生徒。
銃撃を避けながら、仲間を援護する者。
だが、相手は正規兵だった。
動きに無駄がない。
隊列を組み、連携して攻め込んでくる。
「くそっ!」
ゼルが敵兵の一人を殴り飛ばした。
「こいつら、しつこい!」
ロメオは短剣を振るい、接近してきた兵士の武器を弾いた。
「ゼル、右!」
「分かってる!」
ゼルが回し蹴りを放つ。
兵士が倒れた。
だが、すぐに別の兵士が現れる。
「……数が多いな」
ロメオが呟いた。
リノアは魔法を放ち、敵兵の進路を塞いだ。
「これでどう!」
氷の魔法が地面を覆う。
兵士たちが足を止めた。
ゼルが拳を握る。
「よし、今だ!」
三人は前へ出た。
だが、そのとき。
再びガーデンが大きく揺れた。
「うわっ!」
ゼルがよろめく。
ロメオは壁に手をついた。
リノアは足を滑らせた。
「きゃっ!」
「リノア!」
ロメオが振り返る。
リノアの体が、外壁の方へ流れていく。
そこには、衝突によって壊れた手すりがあった。
ロメオが手を伸ばす。
「リノア!」
指先が、わずかに届かなかった。
リノアの体が外へ投げ出される。
「お兄ちゃん!」
次の瞬間、彼女の姿が見えなくなった。
「リノア!!」
ロメオが駆け寄った。
ゼルも後を追う。
外壁の下には、巨大な構造物が広がっていた。
ガーデンの側面。
その途中に、わずかな足場がある。
リノアはそこに落ちていた。
手すりの残骸に掴まり、かろうじて体を支えている。
「リノア!」
ロメオが叫んだ。
リノアが顔を上げた。
「お兄ちゃん!」
声は届いた。
だが、そこへ降りる道はない。
ロメオは周囲を見回した。
壊れた外壁。
大きな亀裂。
落下すれば、助からない高さだった。
「……くそっ」
ロメオが歯を食いしばる。
ゼルが肩を掴んだ。
「落ち着け!」
「分かってる!」
ロメオは振り返った。
「でも、あそこにリノアが!」
「分かってるって!」
ゼルも声を荒らげた。
「だから、助ける方法を考えるんだろ!」
ロメオは息を呑んだ。
そして、もう一度外壁を見た。
リノアは必死にしがみついている。
その姿を見て、胸が締めつけられた。
(……俺が、もっと早く手を伸ばしていれば)
だが、今さら考えても仕方がない。
ゼルが通信装置を取り出した。
「スコール! 聞こえるか!」
雑音が混じる。
『……ゼル?』
「リノアが落ちた!」
通信の向こうで、一瞬沈黙があった。
『……何?』
「外壁の途中に引っかかってる! 今は無事だが、いつ落ちてもおかしくねえ!」
スコールは答えなかった。
ゼルは続けた。
「助けに行く方法がねえんだ! 何とかできねえか!」
『……分かった』
短い返事だった。
『位置を確認する。おまえたちは持ち場を離れるな』
「でもよ!」
『敵が突破したら、もっと多くの人間が危険になる』
ゼルは歯を食いしばった。
「……くそっ」
通信が切れた。
ロメオは外壁を見つめた。
「……スコール」
小さく呟いた。
「頼むよ」
リノアは、まだそこにいた。
必死に手すりへしがみつきながら、上を見上げている。
そのころ、二階デッキでは激しい戦闘が続いていた。
「ファイガ!」
キスティスの魔法が敵兵を吹き飛ばす。
セルフィはヌンチャクを振るい、接近してきた兵士を打ち倒した。
「こっちは通さないよ~!」
だが、敵は次々と現れる。
ガルバディア兵は、特殊な装備を使って外壁を越えてくる。
しかも、こちらの防衛部隊の動きを見ながら、攻撃地点を変えていた。
「……まずいわね」
キスティスが呟いた。
セルフィが振り返る。
「どうしたの?」
「敵の動きが変わったわ。こちらの配置を調べている」
キスティスは周囲を見た。
「次は、もっと大きな攻撃が来る」
その予想は、すぐに現実となった。
ガルバディア・ガーデンの外壁から、新たな兵士たちが飛び出してくる。
数が、明らかに増えていた。
「……うそ!」
セルフィが目を見開く。
キスティスは通信装置を取った。
「スコール! 二階デッキから報告!」
『……どうした?』
「第一波は撃退したわ。でも、第二波が来ている!」
キスティスは敵兵を見た。
「相手は正規兵よ。こちらの防衛線を調べながら攻めてきている」
『……分かった』
「このままでは、長く持たないわ!」
スコールは黙った。
そして、短く答えた。
『……持ちこたえてくれ』
キスティスは頷いた。
「了解!」
通信を切る。
セルフィが隣に立った。
「……やるしかないね」
「ええ」
二人は武器を構えた。
再び、敵兵が迫ってきた。
バラム・ガーデンの各所で、戦闘が続いていた。
校庭。
正門。
二階デッキ。
廊下。
階段。
敵は少しずつ、こちらの防衛線を押し込んでいた。
スコールはブリッジで報告を聞いていた。
『校庭、第二波を撃退!』
『二階デッキ、負傷者多数!』
『正門、防衛部隊の交代を要請!』
ニーダが振り返った。
「……スコール」
「何だ?」
「このままじゃ、持たないぞ」
スコールは黙っていた。
それは、分かっていた。
こちらは学生が中心だ。
相手は、戦闘経験を積んだ正規兵。
装備も、人数も、向こうが上回っている。
第一波と第二波は、何とか食い止めた。
だが、次は。
(……戦線が崩壊する)
スコールは拳を握った。
防衛を続ければ、いずれ押し切られる。
かといって、逃げることもできない。
ガルバディア・ガーデンは、こちらを追ってくる。
スコールは窓の外を見た。
巨大な敵の学園が、すぐ近くにある。
(……こちらから攻めるしかない)
だが、どうやって。
そのとき、アーヴァインが口を開いた。
「……ねえ、スコール」
「何だ?」
「ガーデンをぶつけてみたら?」
スコールが振り返った。
「……何?」
アーヴァインは窓の外を指さした。
「向こうに乗り込むんだよ」
ニーダが目を見開く。
「……正気か!?」
「正気だよ~」
アーヴァインは肩をすくめた。
「こっちが守ってばかりじゃ、いずれ負ける。だったら、向こうに攻め込めばいい」
スコールは黙った。
アーヴァインは続けた。
「ガーデン同士をぶつければ、道ができるだろ? そこから乗り込むんだ」
「……危険すぎる」
ニーダが言った。
「衝撃で、こっちもただじゃ済まないぞ!」
「分かってるよ」
アーヴァインは頷いた。
「でも、今のままだって危険だろ?」
ニーダは口を閉じた。
スコールは前方を見た。
ガルバディア・ガーデン。
そこには、魔女イデアがいる。
サイファーも。
そして、今の戦いを終わらせるための答えも、そこにあるのかもしれない。
(……攻め込む)
危険な賭けだった。
だが、他に方法はない。
スコールは決断しかけた。
そのとき。
リノアのことが頭をよぎった。
(……リノア)
外壁に取り残されている。
助けに行かなければならない。
だが、ガーデン全体の指揮を放り出すわけにはいかない。
自分がいなければ、誰が判断する?
誰が命令を出す?
スコールは拳を握った。
(……俺は、指揮官だ)
個人の感情で動くわけにはいかない。
そう考えた。
だが、胸の奥に、別の声があった。
(……本当に、それでいいのか?)
リノアを見捨てる。
そういうことになる。
スコールは目を伏せた。
アーヴァインが、そんな彼を見ていた。
「……スコール」
「何だ」
「リノアのこと、気になってるんだろ?」
スコールは答えなかった。
アーヴァインは少し笑った。
「だったら、助けに行けばいいじゃないか」
「……俺は指揮官だ」
「知ってるよ」
アーヴァインは頷いた。
「だから、みんなに指示を出してから行けばいい」
スコールは顔を上げた。
「……簡単に言うな」
「簡単じゃないよ」
アーヴァインは真顔になった。
「でも、君がリノアを見捨てたら、きっと後悔する」
スコールは黙った。
「それにさ」
アーヴァインは続けた。
「ロメオも、あそこにいるんだろ?」
「……ああ」
「妹を助けたくて仕方ないはずだよ」
スコールは目を伏せた。
「……分かってる」
「だったら、君が助けに行ってやれよ」
アーヴァインは笑った。
「君なら、何とかできるだろ?」
スコールは少し考えた。
そして、顔を上げた。
「……分かった」
アーヴァインが頷く。
「よし!」
スコールはニーダを見た。
「ニーダ」
「何だ?」
「ガルバディア・ガーデンに突っ込む」
ニーダは目を見開いた。
「……本気か!?」
「ああ」
スコールは頷いた。
「このまま防衛を続けても、次の攻撃で崩壊する。こちらから攻め込むしかない」
ニーダは少し黙った。
そして、苦笑した。
「……分かったよ」
操縦桿を握る。
「どうなっても知らないからな!」
「……頼む」
スコールは通信装置の前に立った。
マイクを手に取る。
校内の戦闘は、まだ続いている。
負傷した生徒たち。
疲れ切った防衛部隊。
避難している年少クラス。
その全員に、もう一度戦ってもらわなければならない。
スコールは息を吸った。
そして、放送を始めた。
『……こちらはスコールだ』
校内の各所に、彼の声が響いた。
『……みんな、けがの具合はどうだ?』
戦闘中の生徒たちが顔を上げる。
『戦いに疲れて、立っているのも辛いかもしれないな……』
スコールは少し間を置いた。
『……でも、聞いてくれ』
校庭で戦っていたゼルが、通信装置を見た。
キスティスも、セルフィも。
ロメオも。
そして、外壁に取り残されたリノアも、遠くから響く声を聞いていた。
『勝利のチャンスのために、力を貸してくれ』
スコールは続けた。
『俺たちはこれから、最後の戦いに向かう』
ブリッジの窓から、ガルバディア・ガーデンが見えた。
『敵の攻撃部隊がやってくる前に、こっちから敵陣に乗り込む』
ニーダが操縦桿を握り直す。
『そのために、このガーデンを向こうにぶつけることにしたんだ』
校内にざわめきが広がった。
『でかい衝撃に耐えられる準備をしておいてくれ』
スコールは続けた。
『周りに年少クラスの子がいたら、よろしく頼む』
避難所では、年長の生徒たちが小さな子供たちを抱き寄せた。
『道が開いたら、アーヴァイン、キスティス、ゼル、セルフィが先発隊として行動する』
ゼルが拳を握った。
キスティスが頷いた。
セルフィはヌンチャクを握り直した。
アーヴァインは帽子を押さえた。
『まだ力の残っている生徒は、先発隊をサポートしてほしい』
スコールは少しだけ目を閉じた。
シド学園長の言葉を思い出す。
SeeD。
魔女を倒すために作られた組織。
ガーデン。
SeeDを育てるために作られた学園。
そして、自分たち。
そのために育てられた子供たち。
スコールは目を開いた。
『SeeDは、魔女を倒すために作られたそうだ』
校内が静かになった。
『ガーデンは、SeeDを育てるために作られた』
スコールは前方を見た。
『だから、これはガーデンの本当の戦いなんだ』
その声は、少しずつ強くなっていた。
『きつくて、いやになるような戦いだ』
スコールは拳を握った。
『……でも、後悔はしたくない』
トラビア・ガーデンで、アーヴァインが言った言葉を思い出す。
自分で選んだから、今ここにいる。
だから、選んだ道を大切にしたい。
スコールはマイクを握り直した。
『みんなにも、悔いを残してほしくはない!』
校庭で、ゼルが顔を上げた。
セルフィが笑った。
キスティスが静かに頷いた。
ロメオは、外壁に取り残された妹を見た。
そして、拳を握った。
『だから、みんなの残っている力、全部俺に貸してくれ!』
放送が終わった。
一瞬、静寂が訪れた。
そして。
「……やってやるぜ!」
校庭で、ゼルが叫んだ。
「バラム・ガーデンをなめんなよ!」
周囲の生徒たちが声を上げた。
「おおっ!」
「行くぞ!」
「絶対に負けない!」
二階デッキでは、セルフィが笑った。
「よ~し! 最後まで頑張ろうね!」
キスティスも頷いた。
「ええ。ここで終わらせましょう」
ロメオは外壁を見た。
リノアは、まだそこにいた。
「……もう少しだ」
ロメオは小さく呟いた。
「絶対に助けるからな」
ブリッジでは、スコールがニーダを見た。
「……準備は?」
「いつでもいける!」
ニーダは操縦桿を握った。
アーヴァインが帽子を押さえる。
「……派手にいこうか」
スコールは前方を見た。
ガルバディア・ガーデンが、視界いっぱいに広がっている。
その向こうに、魔女イデアがいる。
サイファーがいる。
そして、自分たちが向き合わなければならない戦いが待っている。
スコールは息を吸った。
迷いは、もうなかった。
「……ニーダ」
「おう!」
スコールは前方を指さした。
「さあ、突っ込むぞ!」
ニーダが操縦桿を倒した。
バラム・ガーデンが、加速する。
巨大な二つの学園が、互いに向かって進んでいく。
校内では、生徒たちが衝撃に備えた。
武器を握る者。
仲間の肩を支える者。
年少クラスの子供たちを抱きしめる者。
そして、外壁では。
リノアが、必死に手すりへしがみついていた。
その姿を見つめながら、ロメオは拳を握った。
(……待ってろよ、リノア)
ブリッジでは、スコールが前方を見据えていた。
もう、後戻りはできない。
ガーデンが、さらに加速する。
そして。
轟音とともに、二つのガーデンが激突した。
巨大な衝撃が、バラム・ガーデン全体を揺るがした。
床が震え、壁が軋み、窓ガラスが砕ける。
だが、ガーデンは止まらなかった。
そのまま、ガルバディア・ガーデンの外壁へと食い込んでいく。
ついに、二つの学園の間に道が開いた。
スコールは手すりを掴みながら、前方を見た。
(……ここからだ)
戦いは、まだ終わっていない。