FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール 作:Kurumimogomogo
ティンバー駅に列車が到着した。
ホームにはガルバディア兵の姿が目立つ。軍の管理下に置かれた駅では、乗客たちもどこか落ち着かない様子だった。
その中を、三人の若者が歩いていた。
スコール、ゼル、セルフィ。
バラムガーデンから派遣されたSeeDたちである。
「いや~。ティンバーの森も変わったッスよね」
突然、近くにいた青年が声をかけてきた。
帽子をかぶった、いかにも人のよさそうな青年だった。
スコールは相手を見た。
「まだフクロウはいますよ」
「ようこそティンバーへ……ッス。ついてきてくださいッス」
青年は安心したように笑った。
森のフクロウのメンバー、ワッツである。
「どうぞ、どうぞ。こちらへッス!」
ワッツは三人を案内し始めた。
「なあ、スコール」
ゼルが小声で話しかける。
「本当にこいつらで大丈夫なのか?」
「……さあな」
「なんか頼りねえ感じだよな」
「でも、面白そうじゃない?」
セルフィは楽しそうだった。
スコールは何も答えず、ワッツの後についていった。
案内されたのは、駅に停車している一両の列車だった。
外観こそ普通の車両に見えるが、内部は生活空間として改造されている。
ここが森のフクロウのアジトだった。
*
「どうぞ、どうぞ!」
ワッツに促され、三人は車内へ入った。
奥には痩せた青年が立っていた。
「あんたたちがSeeDか」
青年が声をかける。
スコールは頷いた。
「俺は班長のスコール。右がゼル、左がセルフィだ」
「よろしくな。俺が森のフクロウのリーダーってわけだ」
ゾーンと名乗った青年は、胸を張った。
スコールは早速本題に入る。
「俺たちは何をすればいい?」
「まあ、焦るなって。俺たちもメンバー紹介だ。ええと、ワッツにはもう会ったんだよな」
ゾーンは周囲を見回した。
「それじゃ、あとはウチの姫さまか」
「お姫さまはお昼寝タイムっス」
ワッツが答えた。
「しょうがねえなあ」
ゾーンはスコールへ向き直った。
「悪いんだけど、スコールさあ。ウチの姫さま、呼びに行ってくれ。そこの階段を上がって一番奥にある部屋だ」
「……俺たちは雑用のために雇われたのか?」
スコールの声が低くなった。
「お、怒ったんですか!?」
ゾーンが慌てる。
(俺たちは使いっパシリじゃない。SeeD……特殊部隊だ)
「こんな指示はこれで最後にしてくれ」
「イテテテテテ!」
ゾーンが突然腹を押さえた。
「イテテテテ……は、腹がイタくて……」
「作戦説明の準備っス!」
ワッツも慌ててその場を離れた。
セルフィが感心したように頷く。
「スコール、なかなかいい感じぃ! SeeDはナメられたら終わりだもんね」
「頼りない連中だよな~。大丈夫なのかよ」
ゼルは呆れていた。
スコールはため息をつくと、階段へ向かった。
*
階段を上がった先には、細い通路が続いていた。
いくつかの個室が並んでいる。
スコールは一番奥へ向かおうとして、途中の部屋から聞こえてきた声に足を止めた。
「だからさ、ラムウ。俺は絶対こっちの方がいいと思うんだよ!」
『何度言わせるつもりじゃ。魔力の配分が偏りすぎておる』
「でも、速く斬れたらその分たくさん当たるだろ?」
『その前に魔力が尽きるわい』
「そこを何とか!」
『何ともならん!』
スコールは眉をひそめた。
(……誰かいるのか?)
扉は少し開いていた。
中を覗くと、青年が一人、ベッドに腰掛けていた。
整った顔立ちの青年だった。
黒に近い茶色の髪を無造作に伸ばし、柔らかな目元には人懐っこい雰囲気がある。
年齢は自分より少し上だろうか。
青年は二本の短剣を手にしていた。
右手の刃には青白い電光が走り、左手の刃には炎が揺らめいている。
(……魔法?)
スコールが見ていると、青年が顔を上げた。
「ん?」
目が合った。
「おっ! 客か!」
青年は短剣の魔法を解除し、立ち上がった。
「ようこそ! 森のフクロウへ!」
「……ああ」
「俺はロメオ! ロメオ・カーウェイ!」
(カーウェイ?)
スコールは名前に反応した。
ガルバディア軍の将軍と同じ姓だ。
「……スコールだ」
「スコールか! いい名前だな!」
「……そうか」
「おう!」
ロメオは満面の笑みを浮かべた。
「で、何か用か?」
「……リーダーに、一番奥の部屋へ行けと言われた」
「ああ、リノアか!」
ロメオは納得したように頷いた。
「まだ寝てんのかな?」
「……知り合いか?」
「俺の妹!」
「……妹?」
「そうそう!」
ロメオは笑った。
「ちょっと頑固で、すぐ怒るけど、いい奴だぞ!」
「…………」
「まあ、会えば分かるって!」
スコールは青年を見つめた。
(……妙に馴れ馴れしいな)
ロメオはそんな視線を気にする様子もない。
「そうだ! お前、SeeDか?」
「……ああ」
「やっぱり!」
ロメオの顔が輝いた。
「へえ! 初めて会った!」
「……そうか」
「なあ、あとでガンブレード見せてくれよ!」
「……任務中だ」
「そっか! じゃあ終わってからな!」
勝手に納得している。
スコールは小さく息を吐いた。
(……面倒な奴だ)
そのとき、ロメオの頭の中に声が響いた。
『ロメオよ。客人を引き止めるでない』
「あ、そうだった!」
ロメオは手を叩いた。
「悪い悪い! 一番奥だぞ!」
「……分かっている」
「じゃ、またあとで!」
ロメオは笑顔で手を振った。
スコールはそれ以上何も言わず、通路を進んだ。
その背中を見送りながら、ロメオは首を傾げる。
「……なんか、変な感じだな」
『何がじゃ?』
「いや、あいつさ。初めて会った気がしないんだよ」
『ふむ』
「どっかで会ったかなあ?」
『お主の知り合いは多すぎるからのう』
「それもそうか!」
ロメオは笑い、再びベッドに腰掛けた。
*
一番奥の部屋。
スコールが扉を開けると、ベッドで眠っていた少女が目を覚ました。
「ん……?」
少女はスコールを見るなり、驚いたように起き上がった。
「あなた……あの時の!」
スコールも相手を見て思い出した。
SeeD就任パーティー。
突然声をかけられ、ダンスに誘われた少女だった。
「ほら、パーティー会場で踊った……」
少女の顔が明るくなる。
「じゃあ……もしかしてあなたが、SeeDなの!?」
「俺が班長のスコールだ。あと二人来ている」
「やった~! SeeDが来てくれた~!」
少女は飛び跳ねるように喜んだ。
「大げさだな」
「だって、うれしいんだもん!」
彼女は、ずっとガーデンへ依頼していたこと、シド学園長に直接事情を話してようやく派遣が決まったことを、嬉しそうに語った。
「やっぱ直接シドさんに話して良かった~!」
「……そうか。パーティーで捜してたのは学園長だったのか?」
「そうそう! あ、サイファー、知ってる?」
「……ああ」
「わたし、アイツと知り合いなのね。で、シドさんを紹介してもらったの」
スコールは黙って話を聞いた。
サイファー。
あの男が、この少女とどういう関係なのか。
少し気になったが、今は任務が先だった。
少女は勢いよく話し続ける。
「SeeDが来てくれたんだから、今まで出来なかった、あんな作戦こんな作戦、よりどりミドリっ!」
「…………」
スコールは少し不安になった。
先ほど会ったリーダーといい、この少女といい、どうにも頼りない。
それでも、依頼は依頼だ。
「俺はみんなのところへ戻るぞ」
「よし、行こっか!」
少女はベッドから降りた。
「ね、スコール。アイツは来てないの?」
(アイツ?)
「サイファー」
「ああ。ヤツはSeeDじゃない」
「……そっかあ」
少女は少し残念そうにした。
しかし、すぐに笑顔へ戻る。
「あ、私の名前は……リノア。よろしくね、スコール」
「……ああ」
「ね、SeeDはダンスもじょうずなんだね」
スコールは淡々と答えた。
「ダンスパーティーにまぎれこんでターゲットに近づく……そんな任務もあるかもしれない。任務に役立つ技術ならなんでも身につけるのがSeeDだ」
「な~んだ。お仕事用ですかぁ。かなりいい感じだったのにな」
(……いい感じ?)
スコールが考えていると、リノアは傍らにいた犬を紹介した。
「この子はアンジェロ。私のパートナーなの」
アンジェロが尻尾を振る。
リノアはその頭を撫でた。
「これから大事なお仕事があるから、良い子にして待っててね」
そしてスコールへ振り返る。
「じゃ、行こっか!」
*
通路に出ると、先ほどの青年が部屋から顔を出した。
「おっ、起きたか!」
「お兄ちゃん!」
リノアが声を上げた。
「また部屋で魔法使ってたでしょ!」
「えっ!? なんで分かった!?」
「さっき雷の音がした!」
「あれくらい大丈夫だって!」
「前もそう言って壁焦がしたじゃない!」
「今回は焦がしてないぞ!」
「今回はって何よ!」
スコールは二人を見比べた。
(……兄妹か)
確かに顔立ちは似ている。
しかし、性格はどうだろう。
どちらも随分と騒がしい。
「あ、そうだ!」
ロメオがスコールを指さした。
「リノア! こいつがSeeDだって!」
「知ってるわよ!」
「なんだ、もう知り合いか!」
「パーティーで会ったって言ったでしょ!」
「そうだっけ?」
「言った!」
ロメオは笑った。
「まあ、いいじゃん!」
リノアはため息をつく。
「スコール、ごめんね。これ、私のお兄ちゃん」
「これって何だよ!」
「ロメオ・カーウェイ。今は私の護衛をしてくれてるの」
「……カーウェイ」
スコールが呟く。
「ガルバディア軍のカーウェイ将軍と関係があるのか?」
「おう!」
ロメオは頷いた。
「俺の親父!」
「…………」
スコールは一瞬、言葉を失った。
(ガルバディア軍将軍の息子が、反政府組織に?)
「まあ、血はつながってないけどな!」
ロメオは何でもないことのように付け加えた。
「育ててくれた親父なんだよ!」
「……そうか」
「ちなみに本当の親父もいるぞ!」
「お兄ちゃん!」
リノアが遮った。
「その話は後!」
「はいはい!」
ロメオは笑った。
スコールはそれ以上聞かなかった。
今は任務が先だ。
*
階下へ戻ると、ゼルとセルフィが待っていた。
「おっ、戻ってきた!」
ゼルが顔を上げる。
スコールは二人を紹介した。
「ゼルと……セルフィだ」
「よろしく!」
リノアは笑顔で挨拶した。
「こっちよ!」
その後ろからロメオが続く。
「おう! よろしくな!」
「ん?」
ゼルが振り返った。
「誰だ、あんた?」
「ロメオ・カーウェイ!」
「カーウェイ!?」
「そうそう!」
ゼルが驚く。
「それって、ガルバディア軍の将軍と同じ名前じゃねえか!」
「親父だからな!」
「はあ!?」
セルフィが目を丸くした。
「えっ、将軍の息子なの!?」
「おう!」
ロメオは笑った。
「でも、リノアの兄でもあるぞ!」
「そっちの方が驚きだよ!」
ゼルが叫ぶ。
リノアは頭を抱えた。
「もう! お兄ちゃん、いちいち説明しなくていいから!」
「えー、自己紹介くらいさせてくれよ!」
「普通にして!」
「普通だって!」
セルフィは楽しそうに笑った。
「あはは! 面白いお兄ちゃんだね!」
「だろ?」
「褒めてない!」
リノアの声が飛ぶ。
スコールは黙って一行の後についていった。
(……本当に大丈夫なのか)
任務開始前から、不安要素が増えていた。
*
作戦室では、ゾーンとワッツが準備を整えていた。
テーブルには列車の模型が並んでいる。
「ま、適当な場所に立ってくれ」
ゾーンが胸を張った。
「はっきり言って今回の俺たちの計画はかなり本格派だ。俺たち『森のフクロウ』の名は、ティンバーの独立闘争の最終ページに記されることになる!」
ロメオが感心したように頷く。
「おお! 格好いいな、それ!」
「だろ!?」
ゾーンが嬉しそうに笑う。
「ワクワクすんだろ?」
「するする!」
「お兄ちゃん、静かに!」
「はい!」
リノアに叱られ、ロメオは口を閉じた。
ゾーンは咳払いをする。
「ガルバディアの極秘情報を手に入れたのが始まりだった」
「オレが手に入れたッス!」
ワッツが胸を張る。
「ガルバディアの超VIPが、このティンバーにやってくるって情報だ」
「ちょ~ぶいあいぴ~!!」
「そいつの名は、ガルバディア大統領にして希代の極悪人、ビンザー・デリング!」
「ビンザー・デリング極悪人!!」
ワッツが拳を握った。
「ガルバディア国民にも評判悪いッス! 大統領なんて名ばかりの独裁者ッス!」
ロメオは腕を組んだ。
「まあ、あのおっさん、評判悪いもんなあ」
スコールがちらりと見る。
「……知っているのか?」
「会ったことはあるぞ!」
「……大統領に?」
「うん! 親父の仕事の関係でな!」
ロメオは笑った。
「でも、あんまり話したことはないんだよなあ」
ゼルが驚く。
「すげえな、お前!」
「そうか?」
「普通、大統領に会ったことなんかねえだろ!」
「まあ、親父が将軍だからな!」
リノアが手を叩いた。
「はいはい! 話を戻すよ!」
そして模型を指さす。
「そのデリング大統領は、ガルバディア首都から特別列車に乗ってティンバーに来るの」
ゾーンが続ける。
「俺たちの作戦はその列車を……」
「ロケットランチャーで粉々に爆破するのね」
セルフィが楽しそうに言った。
「そこまではちょっと……」
ゾーンが困った顔になる。
「もう、なんなんだよっ! もっと具体的に話せよ!」
ゼルが苛立った声を上げた。
リノアは頷いた。
「じゃ、始めよっか」
*
テーブルに並べられた模型。
黄色い車両がアジト列車。
大統領車両に似せて改造したダミー列車。
そして、ガルバディア大統領専用列車を構成する先頭車両、二両の護衛車両、大統領車両。
リノアはそれぞれを指さしながら説明した。
「今回の目的は、大統領車両をダミー列車とすり替えて、列車ごとデリング大統領を拉致すること!」
ゼルが模型を覗き込む。
「へえ……結構すげえ作戦だな」
「でしょ!」
リノアは得意げだった。
ロメオも感心している。
「いやあ、よく考えたなあ!」
「お兄ちゃんも何回も説明聞いたでしょ!」
「聞いたけど、やっぱすげえなと思って!」
リノアは呆れながらも、少し嬉しそうだった。
説明は続いた。
まず、ダミー列車から護衛車両の屋根へ飛び移る。
護衛車両の上を進み、大統領車両を越える。
最初の切り替えポイントまでに、先頭側の護衛車両を切り離す。
そこへアジト列車とダミー列車が割り込み、さらに後方の護衛車両を切り離す。
最後に、大統領車両をアジト列車とともに離脱させる。
「以上の手順を、約五分で実行してもらうことになるわ」
「五分!?」
ゼルが声を上げた。
「短くないか?」
「俺たちのシミュレーションでは三分で作戦完了できたはずだ」
ゾーンが胸を張る。
「SeeDなら楽勝だろ?」
「うん、楽勝、楽勝~!」
セルフィは楽しそうだった。
スコールは黙っていた。
(……五分か)
失敗すれば、切り替えポイントで衝突する。
作戦の危険性は高い。
そのとき、ロメオが手を上げた。
「質問!」
「何、お兄ちゃん?」
「俺はどこにいればいい?」
「……お兄ちゃんは私の護衛!」
「いや、それは分かってるんだけどさ!」
ロメオは模型を指さした。
「この作戦、屋根の上を走るんだろ? 俺も行った方がよくないか?」
リノアは少し考えた。
「……確かに」
スコールが口を開く。
「戦闘経験は?」
「あるぞ!」
「……どの程度だ?」
「まあ、そこそこ!」
「…………」
スコールはロメオを見つめた。
その答えでは判断できない。
「武器は?」
「短剣二本!」
ロメオは腰の短剣を示した。
「それと魔法剣!」
「……魔法剣?」
「剣に魔法を纏わせるんだ!」
ゼルが興味を示す。
「へえ! そんなことできんのか?」
「できるぞ!」
ロメオは得意げに笑った。
「ラムウと一緒に考えたんだ!」
セルフィが首を傾げる。
「ラムウ?」
「俺のGF!」
その言葉に、スコールが反応した。
「……GFを使うのか?」
「おう!」
「……どのくらい使っている?」
「小さい頃から!」
スコールは少し驚いた。
長期間GFをジャンクションしている人間。
記憶への影響はないのだろうか。
しかし、ロメオは何でもないことのように笑っている。
「まあ、詳しい話は後でな!」
リノアが頷いた。
「そうね。今は作戦説明が先!」
*
続いて、護衛車両のセンサーについて説明が始まった。
音声センサーと温度センサー。
青い制服の護衛が使う音声センサーは、足音に反応する。
赤い制服の護衛が使う温度センサーは、同じ場所に留まり続けると反応する。
「つまり、青い制服の護衛が窓を開けたら止まる。赤い制服なら動き続けるってことね!」
リノアが説明した。
ロメオは頷いた。
「なるほどなあ!」
ゼルが眉をひそめる。
「……ってことは、どうやってセンサー回避するんだ?」
ワッツが説明を補足する。
スコールは手順を確認した。
その後、連結部の切り離し作業について説明が進む。
車両の管理システムを解除するため、パスコードを入力する必要がある。
入力担当はスコール。
リノアが数字を指示し、スコールが対応するボタンを押す。
「じゃあ、スコール。練習してみよっか?」
「……ああ」
リノアが数字を読み上げる。
スコールは手元の装置を操作した。
最初の入力。
成功。
二回目。
成功。
三回目。
成功。
「すごい! ばっちり!」
リノアが嬉しそうに笑った。
ゼルも頷く。
「さすがだな!」
セルフィが拍手する。
「スコール、すご~い!」
ロメオも感心したように声を上げた。
「おお! 速いな!」
スコールは装置を戻した。
「……これでいいか?」
「うん!」
リノアは頷いた。
「以上で、作戦説明は終わり!」
そのとき。
セルフィが模型を眺めながら首を傾げた。
「関係ないけど……大統領列車の模型だけ、なんかへたくそ? なんで?」
ワッツが答える。
「他の模型は街のみやげ屋さんで買ったッス! でも、大統領列車だけはリノアが作ったッス」
「それでかぁ……」
ゼルが納得したように頷く。
「なぁ~んか、塗り方がへたれだと思ったんだよな」
スコールも模型を見た。
(……言われてみれば)
確かに、大統領車両だけ妙に歪んでいる。
ロメオは横から覗き込んだ。
「ああ、これか!」
リノアの表情が変わった。
「……何?」
「いやあ、懐かしいなあ!」
「お兄ちゃん?」
「これ作ってるとき、リノアが何回も塗り直してさ!」
「ちょっと!」
「最後は面倒になって、もうこれでいいって……」
「お兄ちゃん!!」
リノアが真っ赤になった。
「失礼ね! それはわざとよ、わ・ざ・と!」
ゼルが首を傾げる。
「わざと?」
「デリング大統領に対する憎しみが……そう……させたのよ!」
「へぇ~憎しみ……ねぇ」
ゼルは半信半疑だった。
セルフィが模型を見つめる。
「こんなにぐにょぐにょになるくらい、すっごく大統領のこと嫌いなんだぁ~」
ロメオは笑いを堪えていた。
リノアが睨む。
「お兄ちゃん!」
「いや、何も言ってないぞ!」
「笑ってる!」
「ごめんごめん!」
スコールは黙っていた。
(……この兄妹)
どうにも調子が狂う。
「んもう! 模型のことはいいから!」
リノアは手を叩いた。
「説明、終わり!」
*
「理解してくれた?」
リノアが尋ねる。
スコールは頷いた。
「ああ」
「じゃあ、実行部隊を決めよう!」
ワッツが手を上げる。
「情報収集ならまかせてくれッス!」
ゾーンは突然腹を押さえた。
「イテ……イテテテテ、急に腹が……」
ゼルが呆れた顔になる。
「またかよ!」
ロメオは笑った。
「ゾーン、腹弱いもんなあ!」
「ロメオさん……笑い事じゃ……」
「悪い悪い!」
リノアは窓の外を確認した。
「動き出したみたい……先に様子を見てくるね」
そしてスコールたちに向き直る。
「準備ができたらワッツに言って。じゃ、早めによろしくね!」
リノアが車両を出ていった。
ロメオもその後を追おうとする。
「じゃ、俺も行くか!」
「……待て」
スコールが呼び止めた。
「ん?」
「さっきの話だが」
「魔法剣?」
「……ああ」
ロメオは嬉しそうに笑った。
「興味あるか?」
「……少しな」
「よし!」
ロメオは短剣を一本抜いた。
刃に青白い電光が走る。
「これがサンダガ剣!」
ゼルが声を上げた。
「うおっ! すげえ!」
セルフィも目を輝かせる。
「きれい!」
ロメオはもう一本の短剣を抜いた。
今度は炎が灯る。
「こっちはファイガ剣!」
左右で異なる魔法。
スコールは興味深そうに見つめた。
「……魔法を維持しながら戦うのか?」
「そう!」
ロメオは頷いた。
「俺、腕力ないからさ。普通に斬ってもあんまり強くないんだよ」
「……なるほど」
「だから、速さと魔法で勝負!」
ロメオは二本の短剣を軽く振った。
炎と雷が軌跡を描く。
「二刀流で手数を増やせば、結構強いぞ!」
「……魔力の消耗は?」
「そこが問題なんだよなあ!」
ロメオは苦笑した。
「ラムウにもよく怒られる!」
『当然じゃ!』
頭の中に声が響いた。
「おっ、ラムウ!」
『無駄に魔力を使うでない!』
「分かってるって!」
ゼルが首を傾げる。
「……誰と話してんだ?」
「ラムウ!」
「GFと会話できんのか!?」
「できるぞ?」
ロメオは不思議そうに答えた。
セルフィが興味津々で近づく。
「ねえねえ! どんなGFなの?」
「雷を使う賢者!」
「へえ~!」
スコールは黙って考えていた。
(……GFとの会話)
ガーデンで習ったジャンクションの知識とは、少し違う。
この男のGFは、特殊なのかもしれない。
「……一つ聞きたい」
「おう!」
「GFを使っていて、記憶に問題はないのか?」
ロメオは首を傾げた。
「記憶?」
「……忘れたりしないのか?」
「ああ!」
ロメオは笑った。
「俺は大丈夫!」
「……そうか」
「小さい頃のことも覚えてるぞ! 母さんのことも、親父たちのことも!」
「……親父たち?」
「俺、親父が二人いるんだよ!」
ゼルが驚いた。
「二人!?」
「そうそう!」
ロメオは楽しそうに笑った。
「育ててくれた親父と、本当の親父!」
セルフィが首を傾げる。
「へえ~! 仲いいの?」
「俺とはどっちも仲いいぞ!」
「二人同士は?」
「それがさあ!」
ロメオは笑った。
「顔合わせると、どっちが俺の親父として偉いかで喧嘩するんだよ!」
ゼルが吹き出した。
「なんだそりゃ!」
「面白いだろ?」
「面白すぎだろ!」
セルフィも笑っている。
スコールは黙っていた。
(……父親が二人)
自分には父親の記憶すらない。
少しだけ、不思議な気分になった。
しかし、それを表に出すことはなかった。
*
やがて、ワッツが戻ってきた。
「準備OKッスか!?」
スコールは頷いた。
「ああ」
「じゃあ、作戦開始ッス!」
車両が揺れた。
列車が動き出したのだ。
ゼルは拳を握る。
「よっしゃ!」
セルフィも元気よく手を上げた。
「がんばろ~!」
ロメオは二本の短剣を腰に戻した。
「よーし! 俺も頑張るか!」
スコールは彼を見た。
「……あんたも来るのか?」
「おう!」
「……妹の護衛だろう」
「そうだぞ!」
「……なら、ここに残るべきじゃないのか?」
ロメオは少し考えた。
「うーん……」
そして笑った。
「まあ、危なくなったら助けに行くってことで!」
「…………」
スコールはため息をついた。
(……やっぱり面倒な奴だ)
ロメオはそんなスコールの様子を見て、楽しそうに笑った。
「なあ、スコール!」
「……何だ?」
「作戦終わったら、一緒に飯食おうぜ!」
「……任務が終わってから考える」
「よし! 約束な!」
「……約束はしていない」
「細かいなあ!」
ゼルが笑った。
「お前ら、もう仲いいじゃねえか!」
「……どこがだ」
スコールは即座に否定した。
ロメオは満面の笑みを浮かべる。
「だろ?」
「……あんたも否定しろ」
車内に笑い声が響いた。
その頃、遠く離れたエスタでは。
「なあ、キロス!」
大統領執務室で、ラグナ・レウァールが椅子を回していた。
「ロメオ、今ティンバーにいるんだよな?」
「ああ。そう聞いている」
「いいなあ! 俺も行きたいなあ!」
「仕事が終わってからにしてくれ」
「ちょっとくらいいいじゃん!」
「駄目だ」
「ケチ!」
キロスはため息をついた。
「……本当に、親子だな」
「ん?」
「何でもないよ、ラグナ」
ラグナは首を傾げた。
そして、窓の外へ目を向ける。
「……元気にしてるかな、あいつ」
遠く離れたティンバー。
その列車の中では、ラグナによく似た青年が笑っていた。
そして、彼のすぐそばには、もう一人の息子がいる。
スコール・レオンハート。
互いに兄弟であることを知らない二人は、同じ作戦に参加しようとしていた。
列車は速度を上げる。
ガルバディア大統領誘拐作戦。
その幕が、今まさに上がろうとしていた。