FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール   作:Kurumimogomogo

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森のフクロウ

 ティンバー駅に列車が到着した。

 

 ホームにはガルバディア兵の姿が目立つ。軍の管理下に置かれた駅では、乗客たちもどこか落ち着かない様子だった。

 

 その中を、三人の若者が歩いていた。

 

 スコール、ゼル、セルフィ。

 

 バラムガーデンから派遣されたSeeDたちである。

 

「いや~。ティンバーの森も変わったッスよね」

 

 突然、近くにいた青年が声をかけてきた。

 

 帽子をかぶった、いかにも人のよさそうな青年だった。

 

 スコールは相手を見た。

 

「まだフクロウはいますよ」

 

「ようこそティンバーへ……ッス。ついてきてくださいッス」

 

 青年は安心したように笑った。

 

 森のフクロウのメンバー、ワッツである。

 

「どうぞ、どうぞ。こちらへッス!」

 

 ワッツは三人を案内し始めた。

 

「なあ、スコール」

 

 ゼルが小声で話しかける。

 

「本当にこいつらで大丈夫なのか?」

 

「……さあな」

 

「なんか頼りねえ感じだよな」

 

「でも、面白そうじゃない?」

 

 セルフィは楽しそうだった。

 

 スコールは何も答えず、ワッツの後についていった。

 

 案内されたのは、駅に停車している一両の列車だった。

 

 外観こそ普通の車両に見えるが、内部は生活空間として改造されている。

 

 ここが森のフクロウのアジトだった。

 

     *

 

「どうぞ、どうぞ!」

 

 ワッツに促され、三人は車内へ入った。

 

 奥には痩せた青年が立っていた。

 

「あんたたちがSeeDか」

 

 青年が声をかける。

 

 スコールは頷いた。

 

「俺は班長のスコール。右がゼル、左がセルフィだ」

 

「よろしくな。俺が森のフクロウのリーダーってわけだ」

 

 ゾーンと名乗った青年は、胸を張った。

 

 スコールは早速本題に入る。

 

「俺たちは何をすればいい?」

 

「まあ、焦るなって。俺たちもメンバー紹介だ。ええと、ワッツにはもう会ったんだよな」

 

 ゾーンは周囲を見回した。

 

「それじゃ、あとはウチの姫さまか」

 

「お姫さまはお昼寝タイムっス」

 

 ワッツが答えた。

 

「しょうがねえなあ」

 

 ゾーンはスコールへ向き直った。

 

「悪いんだけど、スコールさあ。ウチの姫さま、呼びに行ってくれ。そこの階段を上がって一番奥にある部屋だ」

 

「……俺たちは雑用のために雇われたのか?」

 

 スコールの声が低くなった。

 

「お、怒ったんですか!?」

 

 ゾーンが慌てる。

 

(俺たちは使いっパシリじゃない。SeeD……特殊部隊だ)

 

「こんな指示はこれで最後にしてくれ」

 

「イテテテテテ!」

 

 ゾーンが突然腹を押さえた。

 

「イテテテテ……は、腹がイタくて……」

 

「作戦説明の準備っス!」

 

 ワッツも慌ててその場を離れた。

 

 セルフィが感心したように頷く。

 

「スコール、なかなかいい感じぃ! SeeDはナメられたら終わりだもんね」

 

「頼りない連中だよな~。大丈夫なのかよ」

 

 ゼルは呆れていた。

 

 スコールはため息をつくと、階段へ向かった。

 

     *

 

 階段を上がった先には、細い通路が続いていた。

 

 いくつかの個室が並んでいる。

 

 スコールは一番奥へ向かおうとして、途中の部屋から聞こえてきた声に足を止めた。

 

「だからさ、ラムウ。俺は絶対こっちの方がいいと思うんだよ!」

 

『何度言わせるつもりじゃ。魔力の配分が偏りすぎておる』

 

「でも、速く斬れたらその分たくさん当たるだろ?」

 

『その前に魔力が尽きるわい』

 

「そこを何とか!」

 

『何ともならん!』

 

 スコールは眉をひそめた。

 

(……誰かいるのか?)

 

 扉は少し開いていた。

 

 中を覗くと、青年が一人、ベッドに腰掛けていた。

 

 整った顔立ちの青年だった。

 

 黒に近い茶色の髪を無造作に伸ばし、柔らかな目元には人懐っこい雰囲気がある。

 

 年齢は自分より少し上だろうか。

 

 青年は二本の短剣を手にしていた。

 

 右手の刃には青白い電光が走り、左手の刃には炎が揺らめいている。

 

(……魔法?)

 

 スコールが見ていると、青年が顔を上げた。

 

「ん?」

 

 目が合った。

 

「おっ! 客か!」

 

 青年は短剣の魔法を解除し、立ち上がった。

 

「ようこそ! 森のフクロウへ!」

 

「……ああ」

 

「俺はロメオ! ロメオ・カーウェイ!」

 

(カーウェイ?)

 

 スコールは名前に反応した。

 

 ガルバディア軍の将軍と同じ姓だ。

 

「……スコールだ」

 

「スコールか! いい名前だな!」

 

「……そうか」

 

「おう!」

 

 ロメオは満面の笑みを浮かべた。

 

「で、何か用か?」

 

「……リーダーに、一番奥の部屋へ行けと言われた」

 

「ああ、リノアか!」

 

 ロメオは納得したように頷いた。

 

「まだ寝てんのかな?」

 

「……知り合いか?」

 

「俺の妹!」

 

「……妹?」

 

「そうそう!」

 

 ロメオは笑った。

 

「ちょっと頑固で、すぐ怒るけど、いい奴だぞ!」

 

「…………」

 

「まあ、会えば分かるって!」

 

 スコールは青年を見つめた。

 

(……妙に馴れ馴れしいな)

 

 ロメオはそんな視線を気にする様子もない。

 

「そうだ! お前、SeeDか?」

 

「……ああ」

 

「やっぱり!」

 

 ロメオの顔が輝いた。

 

「へえ! 初めて会った!」

 

「……そうか」

 

「なあ、あとでガンブレード見せてくれよ!」

 

「……任務中だ」

 

「そっか! じゃあ終わってからな!」

 

 勝手に納得している。

 

 スコールは小さく息を吐いた。

 

(……面倒な奴だ)

 

 そのとき、ロメオの頭の中に声が響いた。

 

『ロメオよ。客人を引き止めるでない』

 

「あ、そうだった!」

 

 ロメオは手を叩いた。

 

「悪い悪い! 一番奥だぞ!」

 

「……分かっている」

 

「じゃ、またあとで!」

 

 ロメオは笑顔で手を振った。

 

 スコールはそれ以上何も言わず、通路を進んだ。

 

 その背中を見送りながら、ロメオは首を傾げる。

 

「……なんか、変な感じだな」

 

『何がじゃ?』

 

「いや、あいつさ。初めて会った気がしないんだよ」

 

『ふむ』

 

「どっかで会ったかなあ?」

 

『お主の知り合いは多すぎるからのう』

 

「それもそうか!」

 

 ロメオは笑い、再びベッドに腰掛けた。

 

     *

 

 一番奥の部屋。

 

 スコールが扉を開けると、ベッドで眠っていた少女が目を覚ました。

 

「ん……?」

 

 少女はスコールを見るなり、驚いたように起き上がった。

 

「あなた……あの時の!」

 

 スコールも相手を見て思い出した。

 

 SeeD就任パーティー。

 

 突然声をかけられ、ダンスに誘われた少女だった。

 

「ほら、パーティー会場で踊った……」

 

 少女の顔が明るくなる。

 

「じゃあ……もしかしてあなたが、SeeDなの!?」

 

「俺が班長のスコールだ。あと二人来ている」

 

「やった~! SeeDが来てくれた~!」

 

 少女は飛び跳ねるように喜んだ。

 

「大げさだな」

 

「だって、うれしいんだもん!」

 

 彼女は、ずっとガーデンへ依頼していたこと、シド学園長に直接事情を話してようやく派遣が決まったことを、嬉しそうに語った。

 

「やっぱ直接シドさんに話して良かった~!」

 

「……そうか。パーティーで捜してたのは学園長だったのか?」

 

「そうそう! あ、サイファー、知ってる?」

 

「……ああ」

 

「わたし、アイツと知り合いなのね。で、シドさんを紹介してもらったの」

 

 スコールは黙って話を聞いた。

 

 サイファー。

 

 あの男が、この少女とどういう関係なのか。

 

 少し気になったが、今は任務が先だった。

 

 少女は勢いよく話し続ける。

 

「SeeDが来てくれたんだから、今まで出来なかった、あんな作戦こんな作戦、よりどりミドリっ!」

 

「…………」

 

 スコールは少し不安になった。

 

 先ほど会ったリーダーといい、この少女といい、どうにも頼りない。

 

 それでも、依頼は依頼だ。

 

「俺はみんなのところへ戻るぞ」

 

「よし、行こっか!」

 

 少女はベッドから降りた。

 

「ね、スコール。アイツは来てないの?」

 

(アイツ?)

 

「サイファー」

 

「ああ。ヤツはSeeDじゃない」

 

「……そっかあ」

 

 少女は少し残念そうにした。

 

 しかし、すぐに笑顔へ戻る。

 

「あ、私の名前は……リノア。よろしくね、スコール」

 

「……ああ」

 

「ね、SeeDはダンスもじょうずなんだね」

 

 スコールは淡々と答えた。

 

「ダンスパーティーにまぎれこんでターゲットに近づく……そんな任務もあるかもしれない。任務に役立つ技術ならなんでも身につけるのがSeeDだ」

 

「な~んだ。お仕事用ですかぁ。かなりいい感じだったのにな」

 

(……いい感じ?)

 

 スコールが考えていると、リノアは傍らにいた犬を紹介した。

 

「この子はアンジェロ。私のパートナーなの」

 

 アンジェロが尻尾を振る。

 

 リノアはその頭を撫でた。

 

「これから大事なお仕事があるから、良い子にして待っててね」

 

 そしてスコールへ振り返る。

 

「じゃ、行こっか!」

 

     *

 

 通路に出ると、先ほどの青年が部屋から顔を出した。

 

「おっ、起きたか!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 リノアが声を上げた。

 

「また部屋で魔法使ってたでしょ!」

 

「えっ!? なんで分かった!?」

 

「さっき雷の音がした!」

 

「あれくらい大丈夫だって!」

 

「前もそう言って壁焦がしたじゃない!」

 

「今回は焦がしてないぞ!」

 

「今回はって何よ!」

 

 スコールは二人を見比べた。

 

(……兄妹か)

 

 確かに顔立ちは似ている。

 

 しかし、性格はどうだろう。

 

 どちらも随分と騒がしい。

 

「あ、そうだ!」

 

 ロメオがスコールを指さした。

 

「リノア! こいつがSeeDだって!」

 

「知ってるわよ!」

 

「なんだ、もう知り合いか!」

 

「パーティーで会ったって言ったでしょ!」

 

「そうだっけ?」

 

「言った!」

 

 ロメオは笑った。

 

「まあ、いいじゃん!」

 

 リノアはため息をつく。

 

「スコール、ごめんね。これ、私のお兄ちゃん」

 

「これって何だよ!」

 

「ロメオ・カーウェイ。今は私の護衛をしてくれてるの」

 

「……カーウェイ」

 

 スコールが呟く。

 

「ガルバディア軍のカーウェイ将軍と関係があるのか?」

 

「おう!」

 

 ロメオは頷いた。

 

「俺の親父!」

 

「…………」

 

 スコールは一瞬、言葉を失った。

 

(ガルバディア軍将軍の息子が、反政府組織に?)

 

「まあ、血はつながってないけどな!」

 

 ロメオは何でもないことのように付け加えた。

 

「育ててくれた親父なんだよ!」

 

「……そうか」

 

「ちなみに本当の親父もいるぞ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 リノアが遮った。

 

「その話は後!」

 

「はいはい!」

 

 ロメオは笑った。

 

 スコールはそれ以上聞かなかった。

 

 今は任務が先だ。

 

     *

 

 階下へ戻ると、ゼルとセルフィが待っていた。

 

「おっ、戻ってきた!」

 

 ゼルが顔を上げる。

 

 スコールは二人を紹介した。

 

「ゼルと……セルフィだ」

 

「よろしく!」

 

 リノアは笑顔で挨拶した。

 

「こっちよ!」

 

 その後ろからロメオが続く。

 

「おう! よろしくな!」

 

「ん?」

 

 ゼルが振り返った。

 

「誰だ、あんた?」

 

「ロメオ・カーウェイ!」

 

「カーウェイ!?」

 

「そうそう!」

 

 ゼルが驚く。

 

「それって、ガルバディア軍の将軍と同じ名前じゃねえか!」

 

「親父だからな!」

 

「はあ!?」

 

 セルフィが目を丸くした。

 

「えっ、将軍の息子なの!?」

 

「おう!」

 

 ロメオは笑った。

 

「でも、リノアの兄でもあるぞ!」

 

「そっちの方が驚きだよ!」

 

 ゼルが叫ぶ。

 

 リノアは頭を抱えた。

 

「もう! お兄ちゃん、いちいち説明しなくていいから!」

 

「えー、自己紹介くらいさせてくれよ!」

 

「普通にして!」

 

「普通だって!」

 

 セルフィは楽しそうに笑った。

 

「あはは! 面白いお兄ちゃんだね!」

 

「だろ?」

 

「褒めてない!」

 

 リノアの声が飛ぶ。

 

 スコールは黙って一行の後についていった。

 

(……本当に大丈夫なのか)

 

 任務開始前から、不安要素が増えていた。

 

     *

 

 作戦室では、ゾーンとワッツが準備を整えていた。

 

 テーブルには列車の模型が並んでいる。

 

「ま、適当な場所に立ってくれ」

 

 ゾーンが胸を張った。

 

「はっきり言って今回の俺たちの計画はかなり本格派だ。俺たち『森のフクロウ』の名は、ティンバーの独立闘争の最終ページに記されることになる!」

 

 ロメオが感心したように頷く。

 

「おお! 格好いいな、それ!」

 

「だろ!?」

 

 ゾーンが嬉しそうに笑う。

 

「ワクワクすんだろ?」

 

「するする!」

 

「お兄ちゃん、静かに!」

 

「はい!」

 

 リノアに叱られ、ロメオは口を閉じた。

 

 ゾーンは咳払いをする。

 

「ガルバディアの極秘情報を手に入れたのが始まりだった」

 

「オレが手に入れたッス!」

 

 ワッツが胸を張る。

 

「ガルバディアの超VIPが、このティンバーにやってくるって情報だ」

 

「ちょ~ぶいあいぴ~!!」

 

「そいつの名は、ガルバディア大統領にして希代の極悪人、ビンザー・デリング!」

 

「ビンザー・デリング極悪人!!」

 

 ワッツが拳を握った。

 

「ガルバディア国民にも評判悪いッス! 大統領なんて名ばかりの独裁者ッス!」

 

 ロメオは腕を組んだ。

 

「まあ、あのおっさん、評判悪いもんなあ」

 

 スコールがちらりと見る。

 

「……知っているのか?」

 

「会ったことはあるぞ!」

 

「……大統領に?」

 

「うん! 親父の仕事の関係でな!」

 

 ロメオは笑った。

 

「でも、あんまり話したことはないんだよなあ」

 

 ゼルが驚く。

 

「すげえな、お前!」

 

「そうか?」

 

「普通、大統領に会ったことなんかねえだろ!」

 

「まあ、親父が将軍だからな!」

 

 リノアが手を叩いた。

 

「はいはい! 話を戻すよ!」

 

 そして模型を指さす。

 

「そのデリング大統領は、ガルバディア首都から特別列車に乗ってティンバーに来るの」

 

 ゾーンが続ける。

 

「俺たちの作戦はその列車を……」

 

「ロケットランチャーで粉々に爆破するのね」

 

 セルフィが楽しそうに言った。

 

「そこまではちょっと……」

 

 ゾーンが困った顔になる。

 

「もう、なんなんだよっ! もっと具体的に話せよ!」

 

 ゼルが苛立った声を上げた。

 

 リノアは頷いた。

 

「じゃ、始めよっか」

 

     *

 

 テーブルに並べられた模型。

 

 黄色い車両がアジト列車。

 

 大統領車両に似せて改造したダミー列車。

 

 そして、ガルバディア大統領専用列車を構成する先頭車両、二両の護衛車両、大統領車両。

 

 リノアはそれぞれを指さしながら説明した。

 

「今回の目的は、大統領車両をダミー列車とすり替えて、列車ごとデリング大統領を拉致すること!」

 

 ゼルが模型を覗き込む。

 

「へえ……結構すげえ作戦だな」

 

「でしょ!」

 

 リノアは得意げだった。

 

 ロメオも感心している。

 

「いやあ、よく考えたなあ!」

 

「お兄ちゃんも何回も説明聞いたでしょ!」

 

「聞いたけど、やっぱすげえなと思って!」

 

 リノアは呆れながらも、少し嬉しそうだった。

 

 説明は続いた。

 

 まず、ダミー列車から護衛車両の屋根へ飛び移る。

 

 護衛車両の上を進み、大統領車両を越える。

 

 最初の切り替えポイントまでに、先頭側の護衛車両を切り離す。

 

 そこへアジト列車とダミー列車が割り込み、さらに後方の護衛車両を切り離す。

 

 最後に、大統領車両をアジト列車とともに離脱させる。

 

「以上の手順を、約五分で実行してもらうことになるわ」

 

「五分!?」

 

 ゼルが声を上げた。

 

「短くないか?」

 

「俺たちのシミュレーションでは三分で作戦完了できたはずだ」

 

 ゾーンが胸を張る。

 

「SeeDなら楽勝だろ?」

 

「うん、楽勝、楽勝~!」

 

 セルフィは楽しそうだった。

 

 スコールは黙っていた。

 

(……五分か)

 

 失敗すれば、切り替えポイントで衝突する。

 

 作戦の危険性は高い。

 

 そのとき、ロメオが手を上げた。

 

「質問!」

 

「何、お兄ちゃん?」

 

「俺はどこにいればいい?」

 

「……お兄ちゃんは私の護衛!」

 

「いや、それは分かってるんだけどさ!」

 

 ロメオは模型を指さした。

 

「この作戦、屋根の上を走るんだろ? 俺も行った方がよくないか?」

 

 リノアは少し考えた。

 

「……確かに」

 

 スコールが口を開く。

 

「戦闘経験は?」

 

「あるぞ!」

 

「……どの程度だ?」

 

「まあ、そこそこ!」

 

「…………」

 

 スコールはロメオを見つめた。

 

 その答えでは判断できない。

 

「武器は?」

 

「短剣二本!」

 

 ロメオは腰の短剣を示した。

 

「それと魔法剣!」

 

「……魔法剣?」

 

「剣に魔法を纏わせるんだ!」

 

 ゼルが興味を示す。

 

「へえ! そんなことできんのか?」

 

「できるぞ!」

 

 ロメオは得意げに笑った。

 

「ラムウと一緒に考えたんだ!」

 

 セルフィが首を傾げる。

 

「ラムウ?」

 

「俺のGF!」

 

 その言葉に、スコールが反応した。

 

「……GFを使うのか?」

 

「おう!」

 

「……どのくらい使っている?」

 

「小さい頃から!」

 

 スコールは少し驚いた。

 

 長期間GFをジャンクションしている人間。

 

 記憶への影響はないのだろうか。

 

 しかし、ロメオは何でもないことのように笑っている。

 

「まあ、詳しい話は後でな!」

 

 リノアが頷いた。

 

「そうね。今は作戦説明が先!」

 

     *

 

 続いて、護衛車両のセンサーについて説明が始まった。

 

 音声センサーと温度センサー。

 

 青い制服の護衛が使う音声センサーは、足音に反応する。

 

 赤い制服の護衛が使う温度センサーは、同じ場所に留まり続けると反応する。

 

「つまり、青い制服の護衛が窓を開けたら止まる。赤い制服なら動き続けるってことね!」

 

 リノアが説明した。

 

 ロメオは頷いた。

 

「なるほどなあ!」

 

 ゼルが眉をひそめる。

 

「……ってことは、どうやってセンサー回避するんだ?」

 

 ワッツが説明を補足する。

 

 スコールは手順を確認した。

 

 その後、連結部の切り離し作業について説明が進む。

 

 車両の管理システムを解除するため、パスコードを入力する必要がある。

 

 入力担当はスコール。

 

 リノアが数字を指示し、スコールが対応するボタンを押す。

 

「じゃあ、スコール。練習してみよっか?」

 

「……ああ」

 

 リノアが数字を読み上げる。

 

 スコールは手元の装置を操作した。

 

 最初の入力。

 

 成功。

 

 二回目。

 

 成功。

 

 三回目。

 

 成功。

 

「すごい! ばっちり!」

 

 リノアが嬉しそうに笑った。

 

 ゼルも頷く。

 

「さすがだな!」

 

 セルフィが拍手する。

 

「スコール、すご~い!」

 

 ロメオも感心したように声を上げた。

 

「おお! 速いな!」

 

 スコールは装置を戻した。

 

「……これでいいか?」

 

「うん!」

 

 リノアは頷いた。

 

「以上で、作戦説明は終わり!」

 

 そのとき。

 

 セルフィが模型を眺めながら首を傾げた。

 

「関係ないけど……大統領列車の模型だけ、なんかへたくそ? なんで?」

 

 ワッツが答える。

 

「他の模型は街のみやげ屋さんで買ったッス! でも、大統領列車だけはリノアが作ったッス」

 

「それでかぁ……」

 

 ゼルが納得したように頷く。

 

「なぁ~んか、塗り方がへたれだと思ったんだよな」

 

 スコールも模型を見た。

 

(……言われてみれば)

 

 確かに、大統領車両だけ妙に歪んでいる。

 

 ロメオは横から覗き込んだ。

 

「ああ、これか!」

 

 リノアの表情が変わった。

 

「……何?」

 

「いやあ、懐かしいなあ!」

 

「お兄ちゃん?」

 

「これ作ってるとき、リノアが何回も塗り直してさ!」

 

「ちょっと!」

 

「最後は面倒になって、もうこれでいいって……」

 

「お兄ちゃん!!」

 

 リノアが真っ赤になった。

 

「失礼ね! それはわざとよ、わ・ざ・と!」

 

 ゼルが首を傾げる。

 

「わざと?」

 

「デリング大統領に対する憎しみが……そう……させたのよ!」

 

「へぇ~憎しみ……ねぇ」

 

 ゼルは半信半疑だった。

 

 セルフィが模型を見つめる。

 

「こんなにぐにょぐにょになるくらい、すっごく大統領のこと嫌いなんだぁ~」

 

 ロメオは笑いを堪えていた。

 

 リノアが睨む。

 

「お兄ちゃん!」

 

「いや、何も言ってないぞ!」

 

「笑ってる!」

 

「ごめんごめん!」

 

 スコールは黙っていた。

 

(……この兄妹)

 

 どうにも調子が狂う。

 

「んもう! 模型のことはいいから!」

 

 リノアは手を叩いた。

 

「説明、終わり!」

 

     *

 

「理解してくれた?」

 

 リノアが尋ねる。

 

 スコールは頷いた。

 

「ああ」

 

「じゃあ、実行部隊を決めよう!」

 

 ワッツが手を上げる。

 

「情報収集ならまかせてくれッス!」

 

 ゾーンは突然腹を押さえた。

 

「イテ……イテテテテ、急に腹が……」

 

 ゼルが呆れた顔になる。

 

「またかよ!」

 

 ロメオは笑った。

 

「ゾーン、腹弱いもんなあ!」

 

「ロメオさん……笑い事じゃ……」

 

「悪い悪い!」

 

 リノアは窓の外を確認した。

 

「動き出したみたい……先に様子を見てくるね」

 

 そしてスコールたちに向き直る。

 

「準備ができたらワッツに言って。じゃ、早めによろしくね!」

 

 リノアが車両を出ていった。

 

 ロメオもその後を追おうとする。

 

「じゃ、俺も行くか!」

 

「……待て」

 

 スコールが呼び止めた。

 

「ん?」

 

「さっきの話だが」

 

「魔法剣?」

 

「……ああ」

 

 ロメオは嬉しそうに笑った。

 

「興味あるか?」

 

「……少しな」

 

「よし!」

 

 ロメオは短剣を一本抜いた。

 

 刃に青白い電光が走る。

 

「これがサンダガ剣!」

 

 ゼルが声を上げた。

 

「うおっ! すげえ!」

 

 セルフィも目を輝かせる。

 

「きれい!」

 

 ロメオはもう一本の短剣を抜いた。

 

 今度は炎が灯る。

 

「こっちはファイガ剣!」

 

 左右で異なる魔法。

 

 スコールは興味深そうに見つめた。

 

「……魔法を維持しながら戦うのか?」

 

「そう!」

 

 ロメオは頷いた。

 

「俺、腕力ないからさ。普通に斬ってもあんまり強くないんだよ」

 

「……なるほど」

 

「だから、速さと魔法で勝負!」

 

 ロメオは二本の短剣を軽く振った。

 

 炎と雷が軌跡を描く。

 

「二刀流で手数を増やせば、結構強いぞ!」

 

「……魔力の消耗は?」

 

「そこが問題なんだよなあ!」

 

 ロメオは苦笑した。

 

「ラムウにもよく怒られる!」

 

『当然じゃ!』

 

 頭の中に声が響いた。

 

「おっ、ラムウ!」

 

『無駄に魔力を使うでない!』

 

「分かってるって!」

 

 ゼルが首を傾げる。

 

「……誰と話してんだ?」

 

「ラムウ!」

 

「GFと会話できんのか!?」

 

「できるぞ?」

 

 ロメオは不思議そうに答えた。

 

 セルフィが興味津々で近づく。

 

「ねえねえ! どんなGFなの?」

 

「雷を使う賢者!」

 

「へえ~!」

 

 スコールは黙って考えていた。

 

(……GFとの会話)

 

 ガーデンで習ったジャンクションの知識とは、少し違う。

 

 この男のGFは、特殊なのかもしれない。

 

「……一つ聞きたい」

 

「おう!」

 

「GFを使っていて、記憶に問題はないのか?」

 

 ロメオは首を傾げた。

 

「記憶?」

 

「……忘れたりしないのか?」

 

「ああ!」

 

 ロメオは笑った。

 

「俺は大丈夫!」

 

「……そうか」

 

「小さい頃のことも覚えてるぞ! 母さんのことも、親父たちのことも!」

 

「……親父たち?」

 

「俺、親父が二人いるんだよ!」

 

 ゼルが驚いた。

 

「二人!?」

 

「そうそう!」

 

 ロメオは楽しそうに笑った。

 

「育ててくれた親父と、本当の親父!」

 

 セルフィが首を傾げる。

 

「へえ~! 仲いいの?」

 

「俺とはどっちも仲いいぞ!」

 

「二人同士は?」

 

「それがさあ!」

 

 ロメオは笑った。

 

「顔合わせると、どっちが俺の親父として偉いかで喧嘩するんだよ!」

 

 ゼルが吹き出した。

 

「なんだそりゃ!」

 

「面白いだろ?」

 

「面白すぎだろ!」

 

 セルフィも笑っている。

 

 スコールは黙っていた。

 

(……父親が二人)

 

 自分には父親の記憶すらない。

 

 少しだけ、不思議な気分になった。

 

 しかし、それを表に出すことはなかった。

 

     *

 

 やがて、ワッツが戻ってきた。

 

「準備OKッスか!?」

 

 スコールは頷いた。

 

「ああ」

 

「じゃあ、作戦開始ッス!」

 

 車両が揺れた。

 

 列車が動き出したのだ。

 

 ゼルは拳を握る。

 

「よっしゃ!」

 

 セルフィも元気よく手を上げた。

 

「がんばろ~!」

 

 ロメオは二本の短剣を腰に戻した。

 

「よーし! 俺も頑張るか!」

 

 スコールは彼を見た。

 

「……あんたも来るのか?」

 

「おう!」

 

「……妹の護衛だろう」

 

「そうだぞ!」

 

「……なら、ここに残るべきじゃないのか?」

 

 ロメオは少し考えた。

 

「うーん……」

 

 そして笑った。

 

「まあ、危なくなったら助けに行くってことで!」

 

「…………」

 

 スコールはため息をついた。

 

(……やっぱり面倒な奴だ)

 

 ロメオはそんなスコールの様子を見て、楽しそうに笑った。

 

「なあ、スコール!」

 

「……何だ?」

 

「作戦終わったら、一緒に飯食おうぜ!」

 

「……任務が終わってから考える」

 

「よし! 約束な!」

 

「……約束はしていない」

 

「細かいなあ!」

 

 ゼルが笑った。

 

「お前ら、もう仲いいじゃねえか!」

 

「……どこがだ」

 

 スコールは即座に否定した。

 

 ロメオは満面の笑みを浮かべる。

 

「だろ?」

 

「……あんたも否定しろ」

 

 車内に笑い声が響いた。

 

 その頃、遠く離れたエスタでは。

 

「なあ、キロス!」

 

 大統領執務室で、ラグナ・レウァールが椅子を回していた。

 

「ロメオ、今ティンバーにいるんだよな?」

 

「ああ。そう聞いている」

 

「いいなあ! 俺も行きたいなあ!」

 

「仕事が終わってからにしてくれ」

 

「ちょっとくらいいいじゃん!」

 

「駄目だ」

 

「ケチ!」

 

 キロスはため息をついた。

 

「……本当に、親子だな」

 

「ん?」

 

「何でもないよ、ラグナ」

 

 ラグナは首を傾げた。

 

 そして、窓の外へ目を向ける。

 

「……元気にしてるかな、あいつ」

 

 遠く離れたティンバー。

 

 その列車の中では、ラグナによく似た青年が笑っていた。

 

 そして、彼のすぐそばには、もう一人の息子がいる。

 

 スコール・レオンハート。

 

 互いに兄弟であることを知らない二人は、同じ作戦に参加しようとしていた。

 

 列車は速度を上げる。

 

 ガルバディア大統領誘拐作戦。

 

 その幕が、今まさに上がろうとしていた。

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