FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール   作:Kurumimogomogo

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十七年ぶりの電波放送

「ウガガァァァッ!!」

 

 偽大統領の身体が膨れ上がった。

 

 顔が崩れ、皮膚が裂け、腐敗した肉の隙間から異様に長い腕が伸びる。

 

 先ほどまで椅子に座っていた男は、もはや人間の姿をしていなかった。

 

「な、何なのよ、これ!」

 

 リノアが後ずさった。

 

「リノア、下がってろ!」

 

 ロメオが妹の前に出る。

 

 左右の短剣を抜くと、右手の刃に青白い雷が走った。

 

「スコール!」

 

「……分かっている」

 

 スコールはガンブレードを構えた。

 

「ゼル、セルフィ。戦闘準備」

 

「おう!」

 

「はーい!」

 

 偽大統領が床を蹴った。

 

 腐敗した腕が、リノアへ伸びる。

 

「危ない!」

 

 ロメオが横から飛び込んだ。

 

 雷を纏った短剣が腕を切り裂く。

 

 青白い電光が弾け、怪物の身体が大きく震えた。

 

「ギギィッ!」

 

「うわ、硬っ!」

 

 ロメオはすぐに距離を取った。

 

 手応えはあったが、思ったほど刃が通らない。

 

『ロメオ、相手をよく見よ』

 

 ラムウの声が頭に響いた。

 

『あれは生きた人間ではない』

 

「見りゃ分かるって!」

 

『ならば、その性質を考えるのじゃ』

 

「性質?」

 

 怪物の身体から腐臭が漂う。

 

 死肉のような皮膚。

 

 不自然な動き。

 

 ロメオは目を細めた。

 

「……アンデッドか!」

 

『うむ』

 

 その間にも、スコールが前へ出ていた。

 

 ガンブレードが怪物の胴を斬り裂く。

 

 引き金を引く。

 

 爆発音とともに刃が深く食い込んだ。

 

「グガァッ!」

 

 怪物がよろめく。

 

「今だ!」

 

 ゼルが踏み込んだ。

 

 拳を叩き込み、続けて蹴りを放つ。

 

 しかし、怪物は倒れない。

 

「くそっ、しぶといな!」

 

「ゼル、離れて!」

 

 セルフィがヌンチャクを振るった。

 

 怪物の腕を弾き、ゼルが後退する隙を作る。

 

 その直後、偽大統領の口が大きく開いた。

 

 紫色の霧が吐き出される。

 

「……避けろ!」

 

 スコールが叫んだ。

 

 全員が散開する。

 

 霧が床に触れると、じゅっと嫌な音がした。

 

「毒か!」

 

 ロメオが顔をしかめる。

 

「リノア、近づくなよ!」

 

「分かってる!」

 

 リノアはアンジェロを呼び寄せ、後方から仲間たちを支援する。

 

 怪物は身体を揺らしながら、再びスコールへ向かった。

 

 その動きを見て、ロメオは左手の短剣を握り直した。

 

「ラムウ!」

 

『何じゃ』

 

「こいつ、回復魔法が効くんだよな?」

 

『その通りじゃ』

 

「よし!」

 

 ロメオは刃に纏わせていた雷を消した。

 

 代わりに、淡い緑色の光が灯る。

 

 ケアルガの魔法。

 

 ロメオは腰を落とした。

 

「スコール! ちょっと右に避けてくれ!」

 

「……何をする気だ?」

 

「いいから!」

 

 スコールは怪物の腕を受け流し、右へ退いた。

 

 その瞬間。

 

 ロメオが駆け抜けた。

 

 速い。

 

 床を蹴る音が一度響いたかと思うと、次には怪物の懐へ入り込んでいた。

 

「そらっ!」

 

 左の短剣が腹部を斬る。

 

 緑色の光が弾けた。

 

「ギャアアアッ!!」

 

 怪物が悲鳴を上げる。

 

 ロメオは続けて右手の短剣を振り抜いた。

 

 今度は炎。

 

 ファイガを纏った刃が、怪物の肩を焼いた。

 

 腐敗した肉が焦げる。

 

「グガァァッ!」

 

 怪物は激しく身をよじった。

 

「おお、効いた!」

 

 ロメオが笑う。

 

 しかし、その直後。

 

『ロメオ、下がれ!』

 

「え?」

 

 怪物の腕が横薙ぎに振るわれた。

 

「うわっ!」

 

 ロメオは身体を捻ったが、完全には避けきれない。

 

 肩をかすめた一撃で、身体が大きく流された。

 

「お兄ちゃん!」

 

 リノアが叫ぶ。

 

「大丈夫!」

 

 ロメオは床を転がり、すぐに立ち上がった。

 

「ちょっと痛かったけど!」

 

『油断するでない!』

 

「分かってるって!」

 

 スコールはその様子を見ていた。

 

(……速い)

 

 ロメオの動きは、ガーデンで習う一般的な剣術とは違う。

 

 力任せに斬るのではなく、速度と魔法を組み合わせている。

 

 ただし、接近戦の危険も大きい。

 

 あの速度でも、反撃を完全には避けられない。

 

「……無理に攻めるな」

 

 スコールが言った。

 

「おう!」

 

 ロメオは頷いた。

 

「じゃあ、合わせる!」

 

 怪物が再び咆哮する。

 

 スコールが正面から踏み込んだ。

 

 ガンブレードで腕を弾き、怪物の注意を引きつける。

 

 その隙に、ゼルが側面へ回った。

 

「くらえっ!」

 

 拳が怪物の脇腹へ叩き込まれる。

 

 セルフィも反対側から攻撃した。

 

 怪物がよろめいた。

 

「ロメオ!」

 

 スコールが叫ぶ。

 

「おう!」

 

 ロメオは一気に距離を詰めた。

 

 左右の短剣が交差する。

 

 ケアルガの光と炎が、腐敗した肉を切り裂いた。

 

 怪物が大きく仰け反る。

 

 そこへスコールのガンブレードが振り下ろされた。

 

 爆発音。

 

 偽大統領の身体が崩れ落ちた。

 

「……終わったか?」

 

 ゼルが息を整える。

 

 怪物は床の上で痙攣していた。

 

 やがて、身体が黒い霧となって消えていく。

 

 後には、不快な臭いだけが残った。

 

「……何だったの、あれ」

 

 リノアが呟いた。

 

「ナムタル・ウトク」

 

 ロメオが答える。

 

「アンデッド系のモンスターだと思う」

 

「よく知ってるな」

 

 ゼルが感心した。

 

「ラムウに教えてもらった!」

 

 ロメオは笑った。

 

「俺だけだったら、ただの気持ち悪い化け物だと思ってたぞ!」

 

 スコールはガンブレードを収めた。

 

「……大統領はここにいない」

 

「ああ」

 

 ロメオも短剣を鞘へ戻した。

 

「完全に騙されたな」

 

 リノアは唇を噛んだ。

 

 あれほど準備した作戦だった。

 

 それなのに、相手は最初からこちらの動きを読んでいた。

 

「……悔しい」

 

 ロメオは妹を見た。

 

 いつものように軽口を叩こうとして、やめた。

 

「戻ろうぜ、リノア」

 

「……うん」

 

 五人は大統領車両を後にした。

 

     *

 

「チェッ、大統領がニセ者だったなんてなあ」

 

 アジト列車へ戻ると、ゾーンが頭を掻いた。

 

「あんなのにだまされるなんて悔しいわね~」

 

 リノアも不満そうだった。

 

 ゼルは腕を組む。

 

「つーか、影武者がモンスターってどういうことだよ!」

 

「ガルバディア政府も、ずいぶん変わったことするなあ」

 

 ロメオが言った。

 

「普通、影武者って似た人間を使うもんだろ?」

 

「そういう問題じゃないでしょ!」

 

 リノアが突っ込む。

 

「いや、そういう問題でもあるだろ!」

 

 ロメオは笑った。

 

 スコールは黙っていた。

 

(……罠だった)

 

 こちらの作戦は、最初から知られていた可能性が高い。

 

 それでも、依頼人たちは次の行動を考えようとしている。

 

 そのとき、扉が勢いよく開いた。

 

「情報! 情報ッス~!」

 

 ワッツが駆け込んできた。

 

「大変ッス! 大統領の目的が分かったッス!」

 

 全員が振り返る。

 

「大統領は放送局に行くみたいッス! 警備の兵士たちが、すんごい沢山ッス!」

 

「……放送局?」

 

 リノアが首を傾げた。

 

「どうしてわざわざティンバーかなあ? ガルバディアからだって放送できるよね?」

 

「あのさ、班長」

 

 セルフィがスコールを見る。

 

「ドールの電波塔、関係ある?」

 

 スコールは頷いた。

 

「ドール公国には電波塔があって、電波の送信と受信ができるらしい。長い間放置されていたが、昨日ガルバディア軍が再起動した」

 

「なんだ、それ?」

 

 ゾーンが尋ねる。

 

 スコールが説明すると、ゾーンは手を打った。

 

「はは~ん……なるほど」

 

 ゾーンはテーブルに身を乗り出す。

 

「電波放送に対応できる放送局は、今じゃティンバーにしかないんだ。他の放送局じゃ、HDケーブルを使ったオンライン放送しかできない」

 

「つまり?」

 

 ゼルが聞く。

 

「奴らは電波を使って放送する気なんだ。ケーブルでつながっていない地域にも番組を送れるってわけさ」

 

「んで、どういうこと?」

 

 リノアが聞き返した。

 

「だから、世界中に……」

 

「そんなこと分かるわよ~!」

 

 リノアは腰に手を当てた。

 

「私が言いたいのは、大統領が何を放送しようとしてるかってこと!」

 

 ゾーンが口を閉じる。

 

「わざわざ電波を使う意味よ。ケーブルにつながってない地域にも伝えたいことがあるんでしょ? それは何?」

 

「世界の皆さん、仲良くっ!」

 

 セルフィが元気よく両手を上げた。

 

「……そんな大統領だったら、ティンバーも苦労してないだろうな」

 

 ロメオが苦笑する。

 

 ゾーンは腕を組んだ。

 

「確か、電波が使えなくなってから十七年……」

 

「十七年かあ」

 

 ロメオが呟いた。

 

 自分が生まれるよりも前から、世界は電波による放送ができなくなっていた。

 

 それ以前の時代については、父ラグナから何度か話を聞いたことがある。

 

 ラグナがまだガルバディア軍の兵士だった頃。

 

 ラジオから流れてくる音楽を聞きながら、仲間たちと旅をしていたという。

 

 もっとも、父の話はいつも脱線する。

 

 電波放送の話をしていたはずが、気づけば食堂の料理がいかに美味かったかという話になっていた。

 

(親父なら、何か知ってるかな)

 

 ロメオは少し考えた。

 

 だが、今はエスタへ連絡している時間もない。

 

「十七年ぶりね~」

 

 リノアが顔を上げた。

 

「記念すべき最初の放送が、ティンバー独立宣言だったらすごいのにね!」

 

「おっ!」

 

 ゾーンが身を乗り出す。

 

「それ、不可能じゃないかもよ」

 

「本当!?」

 

「大統領の放送に割り込めれば……」

 

「考えてみよっか!」

 

 リノアはゾーンとワッツを連れて、テーブルへ向かった。

 

「ちょっと待っててね!」

 

 三人は早速、作戦会議を始めた。

 

 スコールたちはその様子を眺めていた。

 

「……おい」

 

 ゼルが小声で言う。

 

「あれが作戦会議だとよ……」

 

 セルフィも首を傾げた。

 

「まだ帰っちゃダメなの? あたしたちの契約、どうなってるの?」

 

 そしてスコールを見る。

 

「スコール班長、確認する?」

 

「……そうだな」

 

 スコールは頷いた。

 

 その隣で、ロメオが嬉しそうに笑っている。

 

「いいなあ、独立宣言!」

 

 ゼルが振り返る。

 

「お前は気楽でいいよな!」

 

「そうか?」

 

「そうだろ! また危ないことやるんだぞ!」

 

「そりゃ危ないだろうな」

 

 ロメオはあっさり頷いた。

 

「でも、あいつらはティンバーを独立させたいんだろ? だったら、そう簡単には諦められないんじゃないか?」

 

「……まあ、そうだけどよ」

 

 ゼルは頭を掻いた。

 

 スコールはロメオを見た。

 

(……この男は、どこまで付き合うつもりなんだ?)

 

 カーウェイ将軍の養子。

 

 ガルバディア軍と無関係ではいられない立場のはずだ。

 

 しかし、本人は何の迷いもなく妹の側にいる。

 

 スコールには、その判断基準がよく分からなかった。

 

     *

 

「あ、ちょうど良かった!」

 

 リノアが顔を上げた。

 

「作戦決定!」

 

「その前に」

 

 スコールが口を開く。

 

「ガーデンとの契約書を見せてくれないか?」

 

「ん? いいよん」

 

 リノアは鞄から書類を取り出した。

 

 スコールは受け取り、内容を確認する。

 

 バラムガーデンを甲、森のフクロウを乙、派遣されるSeeDを丙と定めた契約書。

 

 戦闘行為を含む命令への服従や、ガーデン側の判断による契約の変更について、細かな文言が並んでいた。

 

「なんて書いてあるんだ?」

 

 ゼルが覗き込む。

 

 スコールは途中まで読み上げたが、ゼルはすぐに顔をしかめた。

 

「……わけわかんねえ」

 

「どーゆう?」

 

 セルフィも首を傾げた。

 

「あ、それ、分からないよね」

 

 リノアが笑った。

 

「私も全然分からないって言ったら、シドさんがもう一枚くれたの。親切よね」

 

 スコールは二枚目の紙を受け取った。

 

 そこには、学園長の署名とともに、簡潔な説明が書かれていた。

 

 契約期間は、ティンバーが独立するまで。

 

 SeeDを有効に活用し、目的を達成してほしいという内容だった。

 

 さらに、この契約は例外的なものであり、欠員が生じても補充は行われず、他言も禁じられている。

 

「……ティンバー独立まで」

 

 スコールが呟いた。

 

「ティンバー独立まで!?」

 

 ゼルが叫んだ。

 

「もしかして、すっごいテキト~?」

 

 セルフィが笑顔のまま言う。

 

 スコールは書類を見つめていた。

 

(……学園長)

 

 ガーデンの契約としては、あまりにも曖昧だった。

 

 ティンバーの独立がいつ実現するかなど、誰にも分からない。

 

 数日で終わるかもしれない。

 

 何年もかかるかもしれない。

 

 そもそも、実現しない可能性だってある。

 

「プロなんでしょ? 文句、言わないの!」

 

 リノアが腰に手を当てた。

 

「さあ、実行部隊決めましょ!」

 

「情報収集ならまかせてくれッス!」

 

 ワッツが元気よく手を上げた。

 

「イテ……イテテテテ、急に腹が……」

 

 ゾーンは腹を押さえた。

 

 ロメオが覗き込む。

 

「ゾーン、大丈夫か?」

 

「い、いや……ちょっと……」

 

「さっきまで元気だったのになあ」

 

「ロメオさん……」

 

 ゾーンは苦しそうな顔をした。

 

 リノアは気にせず話を続ける。

 

「というわけで、放送局へ向かう実行部隊は、私たち四人の中から……」

 

「待った!」

 

 ロメオが手を上げた。

 

「何、お兄ちゃん?」

 

「俺も行くぞ!」

 

「え?」

 

「リノアの護衛だろ、俺」

 

「それはそうだけど……」

 

「じゃあ決まり!」

 

 ロメオは笑った。

 

 スコールが口を開く。

 

「……戦闘に参加するなら、指示には従ってもらう」

 

「おう!」

 

「勝手な行動はするな」

 

「分かった!」

 

「……本当に分かっているのか?」

 

「もちろん!」

 

 スコールはしばらくロメオを見つめた。

 

(……不安だ)

 

 ただ、先ほどの列車作戦では、ロメオは指示を守っていた。

 

 連結部の作業でも、護衛の接近を的確に知らせている。

 

 普段の言動と違い、実戦ではそれなりに頼れるらしい。

 

「……分かった」

 

「よし!」

 

 ロメオは嬉しそうに笑った。

 

 リノアが頷く。

 

「じゃあ、五人で行こう!」

 

     *

 

 準備を終え、一行はティンバーの街へ出た。

 

 駅周辺は、先ほどまでとは様子が変わっていた。

 

 ガルバディア兵の数が明らかに増えている。

 

 通りには検問が設けられ、兵士たちが市民に声をかけていた。

 

「……厳重だな」

 

 スコールが呟く。

 

「そりゃそうだろうなあ」

 

 ロメオが答えた。

 

「大統領を誘拐しようとした奴がいるんだから」

 

「お前らだろ!」

 

 ゼルが突っ込む。

 

「そうとも言う!」

 

「そうとしか言わねえよ!」

 

 セルフィが笑った。

 

 リノアは周囲を見回している。

 

「放送局って、どっちだったかな……」

 

「ワッツに聞いてみよっか」

 

 ロメオが提案した。

 

 その頃、駅の別の場所では、ガルバディア兵たちが話し合っていた。

 

「新入りを装って情報収集していた奴がいたと?」

 

「はっ! 大統領の訪問について、いろいろ聞いていたであります!」

 

 若い兵士が報告する。

 

「語尾に『ッス』をつけながら、連絡事項を何度も確認していたであります!」

 

「……怪しいな」

 

「さらに、その男がバラムから来た三人組を先導していたという目撃情報もあります!」

 

「なるほど……」

 

 上官は腕を組んだ。

 

「とりあえず、怪しい若者をチェックするであります!」

 

「待て!」

 

 上官が慌てて止めた。

 

「手当たり次第に調べるのはやめろ! 一般市民には危害を……」

 

「大統領を拉致しようとするなど、我々ガルバディア兵への挑戦であります!」

 

「……頼むから、人の話は最後まで聞け……」

 

 上官は頭を抱えた。

 

     *

 

「……あっ!」

 

 ワッツが突然声を上げた。

 

「思い出したッス!」

 

 五人は振り返った。

 

「ティンバー・マニアックスってビルの向こうに、放送局が見えた記憶があるッス!」

 

「ティンバー・マニアックス!?」

 

 ロメオが勢いよく反応した。

 

 ワッツが驚く。

 

「ど、どうしたッスか?」

 

「俺、あそこ行きたい!」

 

 リノアが顔をしかめた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「いや、だってティンバー・マニアックスだぞ!」

 

「知ってるわよ!」

 

「俺、記事を持ち込もうと思ってたんだ!」

 

 ロメオは嬉しそうだった。

 

 スコールが尋ねる。

 

「……記事?」

 

「おう! 旅の記事!」

 

 ロメオは胸元の手帳を叩いた。

 

「世界中のいろんな出来事を記録して、いつか雑誌に載せたいんだ!」

 

「……そうか」

 

「ティンバーに来たら絶対寄ろうと思ってたんだけど、なかなか時間がなくてさ!」

 

 リノアは呆れた顔になった。

 

「毎日喫茶店には行ってるくせに!」

 

「喫茶店は取材だって!」

 

「三時間もお茶飲んでたじゃない!」

 

「店のおばちゃんの昔話を聞いてたんだよ!」

 

「……それ、記事になるの?」

 

「なるぞ!」

 

 ロメオは即答した。

 

「面白い話だったからな!」

 

 セルフィが興味を示した。

 

「どんな話?」

 

「昔、ティンバーの駅員さんと駆け落ちしようとして……」

 

「お兄ちゃん!」

 

 リノアが遮った。

 

「今は放送局!」

 

「あ、そうだった!」

 

 ワッツは苦笑した。

 

「と、とにかく、ティンバー・マニアックスの方へ行ってみてほしいッス!」

 

 そして慌てて付け加える。

 

「だからって、ビルに向かってずっと進んだら壁に当たったとかいう、言いがかりは無しッスよ!」

 

「大丈夫だって!」

 

 ロメオは笑った。

 

「俺、道には詳しいから!」

 

 リノアが即座に首を振った。

 

「嘘!」

 

「えっ!?」

 

「この前、駅からアジトに戻るだけなのに迷ったでしょ!」

 

「いや、あれは途中で面白い路地を見つけて……」

 

「二時間も帰ってこなかった!」

 

「……そんなこともあったなあ」

 

 スコールは静かに言った。

 

「……道案内は任せない方がよさそうだな」

 

「そうして!」

 

 リノアが頷いた。

 

 ロメオは少し不満そうだった。

 

「みんな信用ないなあ!」

 

 そのとき。

 

「ワ~~~~ッツ!!!」

 

 遠くからゾーンの声が響いた。

 

「何してんだ! 早く戻れ! ガルバディア兵が来るぞ!!」

 

「うわっ!」

 

 ワッツが飛び上がった。

 

「街には警備の兵士がいっぱいッス! 気をつけてくださいッス!」

 

 早口で続ける。

 

「ホテルも今日は泊めてもらえないらしいッス! 調子悪くなったら『フクロウの涙』ッスよ!」

 

「フクロウの涙?」

 

 セルフィが首を傾げる。

 

「むちゃむちゃ効くッス! 確か、街の外れに住んでる爺さんの家に……」

 

「ワッツ!!」

 

 ゾーンの怒鳴り声が近づく。

 

「ま、まあいいッスよね! SeeDさんたち強いッスから!」

 

 ワッツは慌てて走り出した。

 

「ああっ! 置いてっちゃいやッス~~~!」

 

 その姿が角の向こうへ消えていった。

 

 ゼルが呆れたように呟く。

 

「……本当に大丈夫なのかよ、あいつら」

 

 スコールは何も答えなかった。

 

 リノアは笑っている。

 

「ワッツらしいね!」

 

「そうだなあ!」

 

 ロメオも笑った。

 

 そして、ふと思い出したように手帳を取り出す。

 

「……何してるの?」

 

 リノアが尋ねた。

 

「記録!」

 

 ロメオはペンを走らせた。

 

『大統領誘拐作戦は失敗。偽大統領の正体はモンスターだった。ティンバーでは十七年ぶりの電波放送が行われるらしい。森のフクロウは、その放送を利用して独立宣言をするつもりだ』

 

 そこまで書いて、少し考える。

 

『ワッツは今日も元気だった』

 

「……それ、必要?」

 

 リノアが呆れた。

 

「必要だぞ!」

 

「なんで?」

 

「あとで読み返したとき、思い出せるだろ?」

 

 ロメオは笑った。

 

「どんな奴と、どんなことがあったかさ」

 

 リノアは少し黙った。

 

 そして、笑う。

 

「……お兄ちゃんらしいね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 スコールはそのやり取りを聞いていた。

 

(……記録、か)

 

 GFを使う者には、記憶の欠落が起こる可能性がある。

 

 ガーデンでは、そのような話も聞いたことがあった。

 

 しかし、ロメオは幼い頃からGFを使い続けているという。

 

 それなのに、過去の出来事をよく覚えている。

 

 しかも、さらに記録を残そうとしている。

 

(……変わった奴だ)

 

 スコールはそう思った。

 

「よし!」

 

 ロメオは手帳を閉じた。

 

「じゃあ、ティンバー・マニアックスに行こうぜ!」

 

「放送局!」

 

 リノアが即座に訂正した。

 

「あ、そうだった!」

 

 ゼルが笑う。

 

「お前、本当に大丈夫かよ!」

 

「大丈夫大丈夫!」

 

 ロメオは笑った。

 

「道は分かる!」

 

「分かってないでしょ!」

 

 リノアが突っ込んだ。

 

 スコールは小さく息を吐く。

 

「……行くぞ」

 

 五人は歩き出した。

 

 ガルバディア兵の警戒が強まるティンバーの街。

 

 十七年ぶりの電波放送。

 

 その裏で、何か大きな計画が動いている。

 

 ロメオはまだ知らなかった。

 

 この放送局で、妹の知人であるサイファーと再会することになるとは。

 

 そして、ガルバディアの魔女と呼ばれる女性が、世界の前に姿を現すことになるとも。

 

 彼はただ、目の前の街を眺めながら歩いていた。

 

「……いい街だよな、ティンバー」

 

 ロメオが呟いた。

 

 リノアが振り返る。

 

「うん!」

 

「いつか、もっと自由に歩ける街になるといいな」

 

 リノアは嬉しそうに笑った。

 

「そのために頑張ってるんだから!」

 

「そうだな!」

 

 ロメオも笑った。

 

 スコールは二人の背中を見つめながら、黙って歩き続けた。

 

 彼にとっては任務。

 

 リノアにとっては故郷を取り戻す戦い。

 

 そしてロメオにとっては、妹と、この街の人々を守るための旅の一幕だった。

 

 それぞれの思いを抱えながら、五人は放送局へ向かった。

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