FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール   作:Kurumimogomogo

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ティンバー脱出

 放送局から離れても、ティンバーの混乱は収まっていなかった。

 

 ガルバディア兵が通りを駆け回り、住民たちは店の扉を閉ざしている。十七年ぶりの電波放送は中断され、大統領を襲った青年と魔女が消えたという噂だけが、街中に広がり始めていた。

 

 スコールたちは人目を避けながら裏通りへ向かっていた。

 

「こっちこっち!」

 

 リノアが先導する。

 

 その後ろをロメオが歩き、ゼルとセルフィが続く。

 

 スコールは最後尾で周囲を警戒していた。

 

 角を曲がったところで、リノアが足を止めた。

 

「……あ」

 

 通りの向こうから、森のフクロウの関係者が駆けてくる。

 

 短い会話を交わした後、リノアの顔色が変わった。

 

「……アジトを見つけられて、ぐちゃぐちゃにされちゃったの」

 

 セルフィが驚く。

 

「他のみんなは?」

 

「大丈夫。みんな逃げるのは得意だから」

 

 リノアは笑おうとした。

 

 だが、うまく笑えなかった。

 

 列車を使った大統領誘拐作戦。

 

 放送局を利用した独立宣言。

 

 どちらも失敗に終わり、今度は活動拠点まで失ってしまった。

 

「……そっか」

 

 ロメオが小さく呟いた。

 

「列車、見つかったんだな」

 

「うん……」

 

「ゾーンとワッツは?」

 

「逃げたって。まだ捕まってないみたい」

 

「なら、よかった」

 

 ロメオは頷いた。

 

 リノアはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げた。

 

「しばらくティンバーを離れなくっちゃ」

 

 そして、スコールを見る。

 

「ね、私を安全な場所まで連れ出して」

 

 少しだけ、いつもの調子を取り戻す。

 

「これは命令で~す。クライアントの依頼で~す」

 

 スコールは短く答えた。

 

「……了解」

 

 ロメオが隣で笑った。

 

「じゃあ、俺も一緒だな!」

 

「お兄ちゃんは最初からそのつもりでしょ」

 

「もちろん!」

 

 リノアは少しだけ笑った。

 

 スコールは二人を見た。

 

(……安全な場所、か)

 

 今のティンバーに、そんな場所があるとは思えなかった。

 

 まずは街を出る必要がある。

 

 しかし、駅は封鎖され、列車も運休している。

 

 状況はあまりよくなかった。

 

     *

 

 裏通りへ入ったところで、女性の声がした。

 

「リノアちゃん!」

 

 振り返ると、民家の前に年配の女性が立っていた。

 

「聞いたよ! あんたたちのアジト、大変だって話じゃないか」

 

「……おばさん」

 

「ほとぼりが冷めるまで、うちにおいでよ」

 

 リノアは少し驚いた顔をした。

 

「いいの?」

 

「もちろんさ。困ったときはお互いさまだろ?」

 

 ロメオが頭を下げる。

 

「助かります!」

 

「あら、ロメオも一緒かい」

 

「はい!」

 

「相変わらず元気だねえ」

 

「元気だけが取り柄なんで!」

 

「顔もいいじゃないか」

 

「それも取り柄です!」

 

 リノアが肘で兄を小突いた。

 

「調子に乗らない!」

 

「痛っ!」

 

 女性は笑った。

 

「さあ、早く入りな」

 

 そのとき、別の通りからキスティスが現れた。

 

 放送局での混乱を収めるために動いていた彼女も、どうにか合流できたらしい。

 

「スコールたちも早く来なさい」

 

「……キスティス」

 

 スコールが振り返る。

 

「話は後よ。今は隠れましょう」

 

 キスティスの表情は真剣だった。

 

 スコールは頷いた。

 

「……分かった」

 

 リノアが先頭に立つ。

 

「こっちよ!」

 

 五人は女性の家へ入った。

 

     *

 

 家の中には、温かい料理の匂いが漂っていた。

 

 小さな子供たちの声も聞こえる。

 

 先ほど裏通りでレジスタンスごっこをしていた兄弟の家だった。

 

「ここがそうよ」

 

 リノアが皆を案内する。

 

 女性は扉を閉め、窓の外を確認した。

 

「街に変化があったら教えてあげるから、それまでここで休んでな」

 

「ありがとう、首領」

 

 リノアが礼を言った。

 

 スコールが首を傾げる。

 

「……首領?」

 

「ああ」

 

 リノアが笑った。

 

「彼女は『森のキツネ』の首領よ」

 

「森のキツネ?」

 

「この街じゃ、たいていの人がレジスタンス組織のメンバーなの」

 

 リノアは少し誇らしそうだった。

 

「本当に活動してる組織は、私たちくらいだけどね」

 

 ロメオが口を挟む。

 

「でも、こういう人たちがいるから助かってるんだよな」

 

「そうそう!」

 

 リノアが頷く。

 

「ちょっとだけお世話になろうよ」

 

 スコールは室内を見回した。

 

 普通の民家だった。

 

 食卓があり、子供のおもちゃがあり、台所には使い込まれた鍋が並んでいる。

 

 ここもレジスタンスの拠点なのか。

 

 ティンバーでは、ガルバディアの占領に反発する気持ちが、日常生活の中にまで根づいているらしい。

 

(……森のキツネ、か)

 

 スコールは窓の外へ目を向けた。

 

 通りには、まだ兵士たちが行き交っていた。

 

     *

 

「わっかんないな~」

 

 セルフィが椅子に腰掛けた。

 

「サイファー、何しに来たの?」

 

 リノアは少し俯いた。

 

「……私たち、森のフクロウのために来てくれたんだと思う」

 

 ゼルが顔を上げる。

 

「……あいつが?」

 

「うん。私、いろいろ相談してたから」

 

 リノアは指を組んだ。

 

「だから、あいつのこと、あんまり悪く言わないでね」

 

 ロメオは壁に寄りかかっていた。

 

 サイファーの姿を思い出す。

 

 大統領にガンブレードを突きつけた、あの顔。

 

 追い詰められていたのか。

 

 それとも、本当に勝算があったのか。

 

 どちらにしても、あの男は本気だった。

 

「……あいつらしいよな」

 

 ロメオが呟いた。

 

 リノアが振り返る。

 

「お兄ちゃん?」

 

「いや、サイファーさ」

 

 ロメオは苦笑した。

 

「人の話を聞かないところとか、思いついたら突っ走るところとか」

 

「……うん」

 

「でも、あいつが何も考えずに来たとは思わない」

 

 リノアは小さく頷いた。

 

 そのときだった。

 

「この家の者はいないのかっ!?」

 

 外から怒鳴り声が響いた。

 

 全員が顔を上げる。

 

 ガルバディア兵だった。

 

「……!」

 

 ゼルが立ち上がる。

 

 ロメオも反射的に短剣の柄へ手を伸ばした。

 

 しかし、家の女性が手を上げて制した。

 

「なんだい、うるさいね!」

 

 扉の向こうへ怒鳴り返す。

 

「うちには小さい子がいるんだ。乱暴な真似はよしとくれ!」

 

 兵士が何か言い返している。

 

 女性は振り返り、小声で言った。

 

「二階へ……早く!」

 

 リノアが心配そうに尋ねる。

 

「おばさん、大丈夫なの?」

 

 階段の近くにいた娘が笑った。

 

「大丈夫よ、きっと」

 

 そして、少し得意げに続ける。

 

「母さんには昔、兵士を腕と料理と美貌で倒したという、三つの伝説が残っているらしいから」

 

 セルフィが目を輝かせた。

 

「最後のビボ~ってところは、なんかいかにも伝説っぽ~い!」

 

 ロメオも笑った。

 

「料理で倒したって、どういうことだろうな!」

 

「お兄ちゃん、今それ気にするところ!?」

 

 リノアが小声で突っ込む。

 

 スコールは階段を指さした。

 

「……上へ」

 

 全員が急いで二階へ向かった。

 

     *

 

 二階の部屋は、思ったより広かった。

 

 窓からはティンバーの街並みが見える。

 

 スコールは窓際に立ち、外の様子を確認した。

 

 兵士たちが家の前で何か話している。

 

 しかし、しばらくすると引き上げていった。

 

「……行ったみたいだな」

 

 ゼルが息を吐く。

 

「疲れたね~」

 

 セルフィが床に座り込んだ。

 

 リノアは窓の外を見つめていた。

 

「あいつ……大丈夫かな」

 

 ゼルは黙っている。

 

 キスティスが口を開いた。

 

「ティンバーに派遣されたのが、スコールたち三人だけだと聞いて怒ってたわ」

 

 全員がキスティスを見る。

 

「ガルバディア全軍と戦うことになるかもしれないのに、新人SeeD三人だけなのかって」

 

 キスティスは小さく息を吐いた。

 

「それで、俺がティンバーへ行ってやるって……」

 

 ゼルが俯く。

 

「……あいつらしいな」

 

「まさか、本気だとは思わなかった」

 

 キスティスは寂しそうに言った。

 

 スコールは黙っていた。

 

(あいつはいつでも本気だろ?)

 

 幼い頃から、サイファーはそうだった。

 

 口にしたことを、どこまでも本気でやろうとする。

 

 たとえ周囲が呆れても。

 

 たとえ無謀だと分かっていても。

 

(それくらい、分かれよな)

 

 スコールは窓の外へ目を向けた。

 

「サイファー、どうなるのかしら」

 

 キスティスが呟いた。

 

 スコールは短く答えた。

 

「もう殺されている可能性もあるな」

 

 部屋が静まり返った。

 

「……そんな」

 

 リノアが顔を上げる。

 

「そんなあっさり言わないでよ」

 

 スコールは黙っている。

 

「なんか、あいつ……かわいそ」

 

 スコールの口元がわずかに動いた。

 

(かわいそう?)

 

 サイファーが聞いたら、きっと怒り出す。

 

 自分を哀れまれることほど、あの男が嫌うものはない。

 

 そのことを思うと、少しおかしかった。

 

「何がおかしいのよ!」

 

 リノアが声を上げた。

 

「ひどい人ね!」

 

 スコールは顔を上げた。

 

「……別に」

 

「笑ったじゃない!」

 

 セルフィが間に入る。

 

「ね、どうしてサイファーは死んでるかもって思うの?」

 

 スコールは少し考えた。

 

「ガルバディア大統領と魔女は手を組んだ」

 

 全員が黙って聞いている。

 

「その大統領を、サイファーは襲った。魔女にとってもサイファーは敵だ」

 

 スコールは淡々と続けた。

 

「だから、あの後始末されたとしても不思議じゃない」

 

 リノアは唇を噛んだ。

 

「そうだとしても!」

 

 顔を上げる。

 

「生きててほしいって思うよ」

 

 スコールはリノアを見た。

 

(思えばいいさ)

 

 しかし、現実はそれほど優しくない。

 

 期待したからといって、望み通りになるとは限らない。

 

 むしろ、期待すればするほど、裏切られたときに傷つく。

 

(だから……)

 

「期待しなければ、どんなことでも受け入れられる」

 

 スコールは静かに言った。

 

「傷が浅くてすむ」

 

 そして、視線を逸らす。

 

「まあ、あんたが何を望んでも、俺には関係ないけどな」

 

「……やさしくない」

 

 リノアが呟いた。

 

 スコールは黙っている。

 

「やさしくない!!」

 

 声が大きくなった。

 

 スコールは少し眉をひそめた。

 

(なんだよ……)

 

「……悪かったな」

 

 それだけ言った。

 

 ロメオは二人を見ていた。

 

 いつものように軽口を挟むことはしなかった。

 

 リノアが怒る気持ちは分かる。

 

 スコールがそう考える理由も、何となく理解できた。

 

 ただ、サイファーの生死については、まだ何も分かっていない。

 

「……なあ」

 

 ロメオが口を開いた。

 

 全員が振り返る。

 

「俺は、あいつが生きてると思いたい」

 

 リノアが顔を上げる。

 

「お兄ちゃん……」

 

「でも、スコールの言うことも分かる」

 

 ロメオは窓の外を見た。

 

「だから、今は無事を祈るしかないんじゃないかな」

 

 少しだけ笑う。

 

「次に会ったら、文句の一つでも言ってやろうぜ」

 

 リノアはしばらく黙っていた。

 

 そして、小さく頷いた。

 

「……うん」

 

 そのとき、階下から女性の声がした。

 

「みんな! 兵隊が引き上げ始めたよ!」

 

 全員が顔を上げた。

 

「常駐部隊以外は撤収したそうだ!」

 

 女性は続ける。

 

「街を出るなら今がチャンス! もう少ししたら、常駐部隊のねちっこ~いレジスタンス狩りが始まるかもしんないからね!」

 

 スコールは窓の外を確認した。

 

 確かに、兵士たちの数が減り始めている。

 

「……今のうちだな」

 

     *

 

 一階へ戻ると、女性が食卓の片づけをしていた。

 

「これからどうする気だい?」

 

 キスティスがスコールを見る。

 

「班長! 行くあてはあるの?」

 

 スコールは少し考えた。

 

(……とにかく街を出るのが先決)

 

 しかし、キスティスは首を振った。

 

「とにかく街を出ればいいってもんじゃないわ」

 

 スコールが尋ねる。

 

「どこか心当たりがあるのか?」

 

 キスティスは微笑んだ。

 

「ガーデン関係者心得。第八条七項」

 

 スコールはすぐに思い出した。

 

(八の七……)

 

 所属ガーデンへの帰還が困難な緊急時には、最寄りのガーデンへ連絡する。

 

 そう定められていた。

 

「……最寄りのガーデン」

 

「ヴェリー・グーッド!」

 

 キスティスが頷く。

 

「ここからなら、ガルバディア・ガーデンね」

 

「あ!」

 

 リノアが手を上げた。

 

「ここの駅から列車が出てるよ! 学園東って駅まで行くの」

 

 キスティスも頷いた。

 

「駅の西にある森を越えて、ガルバディア・ガーデンへ向かうのよ」

 

「森?」

 

 ゼルが聞き返す。

 

「ええ。何度か行ったことがあるから大丈夫よ」

 

 ロメオが笑った。

 

「じゃあ、道案内はキスティスに任せよう!」

 

「……あなたは?」

 

 キスティスが尋ねる。

 

「俺、方向音痴だから!」

 

 あまりにも堂々とした答えだった。

 

 セルフィが吹き出す。

 

「自信満々に言うことじゃないよ~!」

 

「そうか?」

 

 ロメオは首を傾げた。

 

 スコールは小さく息を吐いた。

 

「……そういうことだ」

 

 全員がスコールを見る。

 

「ティンバーを離脱して、ガルバディア・ガーデンへ向かう」

 

 キスティスが頷く。

 

「ええ」

 

「戦闘になった場合は、俺が指示する。準備を整えろ」

 

 ロメオも短剣を確認した。

 

「了解!」

 

「……出発する!」

 

 女性が声をかけた。

 

「気をつけて行くんだよ。これ、持っていきな」

 

 旅の途中で使える品を手渡してくれる。

 

 リノアは深く頭を下げた。

 

「ありがとう、首領」

 

「いいんだよ」

 

 女性は笑った。

 

「ガルバディア・ガーデンへ行くなら、学園東で降りるんだよ。駅の近くにある谷間の森を越えれば着くはずさ」

 

 ロメオが頷いた。

 

「なるほど!」

 

「まさか歩いて行くなんてことはないだろうけど、もし歩くなら、街を出て道なりに進むんだ。分かれ道では右だよ」

 

「右!」

 

 ロメオが復唱する。

 

 リノアが横から言った。

 

「お兄ちゃん、覚えなくていいから」

 

「何で!?」

 

「絶対迷うでしょ!」

 

「そんなことないぞ!」

 

 ゼルが笑った。

 

「いや、迷いそうだぜ」

 

 女性も笑った。

 

「またティンバーに寄ったら、いつでもうちにおいで」

 

「うん!」

 

 リノアが笑った。

 

「絶対戻ってくるから!」

 

     *

 

 駅へ向かう途中、兵士の姿が見えた。

 

「……やばいぜ!」

 

 ゼルが身構える。

 

 しかし、兵士は慌てて手を振った。

 

「オレッス! オレッスよ!」

 

「……ワッツ?」

 

 リノアが目を丸くする。

 

 兵士は帽子を取った。

 

 中から現れたのは、見慣れた顔だった。

 

「情報あるッス!」

 

 ワッツが周囲を警戒しながら言った。

 

「ティンバーの駅が、一時閉鎖されるッス!」

 

「絶体絶命ピ~ンチ!!」

 

 セルフィが叫んだ。

 

「そうでもないッス!」

 

 ワッツは慌てて手を振る。

 

「まだ完全閉鎖じゃないッス。もうすぐ学園東行きの列車が出て、閉鎖はそれからッス!」

 

 スコールは即座に決めた。

 

「その列車に乗るぞ」

 

「了解ッス!」

 

 ワッツはリノアを見た。

 

「リノアも一緒に行くッスね!」

 

「うん、行く」

 

 リノアは頷いた。

 

「ワッツはどうするの?」

 

「オレのことは心配いらないッス!」

 

 ワッツは胸を張った。

 

「たっくさん情報仕入れるッス!」

 

 リノアは少し寂しそうに笑った。

 

「戻ってくるからねっ。元気でねっ」

 

「もちろんッス!」

 

 ワッツはスコールへ向き直る。

 

「スコールさん、リノアをよろしく頼むッスよ」

 

 スコールは頷いた。

 

「ああ、心配するな。クライアントの命令だからな」

 

 そして、少し間を置いた。

 

「あんたはいいのか? ここにいて大丈夫なのか?」

 

 ワッツが嬉しそうに笑った。

 

「やるときゃやるッスよ! SeeDにゃ負けないッス!」

 

 そして、目を輝かせる。

 

「感激ッス!」

 

 ロメオが笑った。

 

「ワッツ、無茶すんなよ!」

 

「ロメオさんもッス!」

 

「俺は大丈夫!」

 

「……それが一番心配ッス!」

 

 リノアが吹き出した。

 

 ワッツは最後に敬礼した。

 

「よろしくッス! また会う日までッス!」

 

 五人は駅へ向かった。

 

     *

 

 駅前には、見知らぬ老人が立っていた。

 

 背中を丸め、杖をついている。

 

 スコールたちが通り過ぎようとしたとき、老人が突然声をかけた。

 

「リノア! スコール班長!」

 

 リノアが振り返る。

 

「……え?」

 

 老人が顔を上げた。

 

「俺だ!」

 

「ゾーン!」

 

 リノアが叫んだ。

 

 ロメオも目を丸くする。

 

「おお! ゾーンか!」

 

「声が大きい!」

 

 ゾーンが慌てて口元へ指を当てる。

 

「学園東行きの列車に乗るんだろ?」

 

 スコールが頷く。

 

「ああ」

 

「でも、パスは手に入らないぞ」

 

「しっぱ~い」

 

 セルフィが肩を落とした。

 

 スコールは淡々と答える。

 

「無理矢理にでも乗り込むさ」

 

「そんなことしなくていい!」

 

 ゾーンが慌てて止めた。

 

「騒ぎは起こすな」

 

 そして、にやりと笑う。

 

「へへん! ゲットしといたぞ、みんなのパス!」

 

 懐から数枚の乗車パスを取り出す。

 

「ほら、これだ。SeeDは三枚だな」

 

 スコールへ手渡す。

 

「班長さんに渡すよ」

 

「……助かる」

 

 ゾーンは続けた。

 

「で、最後の一枚は俺の……」

 

 キスティスを見る。

 

「最後の一枚は、あんたの分」

 

 キスティスは首を振った。

 

「受け取れないわ。あなたのパスでしょ?」

 

「うっ!」

 

 ゾーンが突然腹を押さえた。

 

「イテテテテテ!」

 

 ロメオが覗き込む。

 

「ゾーン、大丈夫か?」

 

「腹が痛い!」

 

「さっきまで元気だったのに!」

 

「イテテテテ! 早く行けよ! 列車が出発するぞ!」

 

 キスティスは少し笑った。

 

「……ありがとう」

 

 ゾーンは顔を背けた。

 

「べ、別に……」

 

 リノアが近づく。

 

「……ゾーン」

 

「何だよ」

 

「また会うんだからね」

 

 ゾーンは黙っていた。

 

「ちゃんと生きてないとダメだからね。一緒にティンバーを独立させるんだから」

 

「……分かってるって」

 

 ゾーンは笑った。

 

「便所にでも隠れてるさ。早く行けよ」

 

 そして、また腹を押さえる。

 

「イテテテ……」

 

 スコールたちへ向き直った。

 

「リノアをよろしくな。つうか、彼女に何かあったら許さないからな」

 

 ロメオが笑った。

 

「俺もいるから安心しろ!」

 

「……だから心配なんだよ!」

 

「何でだよ!」

 

 リノアが笑った。

 

 ゾーンも少しだけ笑った。

 

 そして、全員を見送った。

 

     *

 

「この列車は、学園東経由、ドール方面行き。最終列車です。お乗りの方はお急ぎください」

 

 駅の構内にアナウンスが響いた。

 

 スコールたちは急いでホームへ向かった。

 

 スコールがキスティスへ確認する。

 

「これが最終列車だ……」

 

 キスティスが頷く。

 

「ええ」

 

「確認しておくが、学園東で降りて、駅の西にある森を越える。その先がガルバディア・ガーデン……それでいいんだな?」

 

「ええ、そうよ」

 

 キスティスは微笑んだ。

 

「物覚えのいい班長で助かるわ」

 

 ロメオが隣で笑う。

 

「俺も覚えたぞ!」

 

「……そうか」

 

 スコールは短く答えた。

 

「学園東で降りて、森を越える!」

 

 ロメオは得意げだった。

 

「完璧!」

 

 リノアがため息をつく。

 

「お兄ちゃん、絶対私たちから離れないでよ」

 

「分かってるって!」

 

     *

 

 列車に乗り込むと、車内は思ったより空いていた。

 

「ティンバー発、学園東行き列車、まもなく発車いたします」

 

 アナウンスが流れる。

 

 スコールはようやく息を吐いた。

 

「なんとか……」

 

「あけて~、あけて、あけて~」

 

 セルフィが車内の扉を叩いていた。

 

 スコールが振り返る。

 

「……なる」

 

「あっけろぉ~~~!」

 

 セルフィは扉に顔を近づける。

 

「あけてっ!」

 

 スコールは黙った。

 

(……逆らわない方がいいな)

 

 機械音声が響いた。

 

『カクニン完了。ロック解除』

 

 扉が開く。

 

「えへへ~。お先!」

 

 セルフィは嬉しそうに奥へ入っていった。

 

 ロメオが感心する。

 

「すげえな、セルフィ!」

 

「何が?」

 

「扉に勝った!」

 

「勝ったのかな~?」

 

 セルフィは笑った。

 

 スコールは何も言わなかった。

 

     *

 

「すぐに着くはずだから、私たちはここでいいわね」

 

 キスティスが座席に腰掛けた。

 

 ゼルも隣に座る。

 

「……まいったぜ」

 

 深いため息だった。

 

 リノアはスコールを見た。

 

「何か言いかけたんじゃないの?」

 

 スコールは少し考えた。

 

「……なんとかなったな」

 

 キスティスが頷く。

 

「ゾーンさんのおかげだわ。ちゃんとお礼しなくちゃ」

 

 リノアが笑った。

 

「ゾーンはね、えっちい写真が大好きよ」

 

 キスティスは少し驚いた顔をした。

 

「……そうなの?」

 

「うん!」

 

 リノアは楽しそうだった。

 

「だから、そういうのが一番喜ぶと思う」

 

 キスティスは微笑んだ。

 

「おぼえとく」

 

 ロメオが口を挟む。

 

「いやあ、ゾーンって分かりやすいよな!」

 

 リノアが振り返る。

 

「お兄ちゃんも人のこと言えないでしょ」

 

「えっ!?」

 

「美人を見るとすぐ話しかけるじゃない!」

 

「それは取材だって!」

 

「またそれ!」

 

 ゼルが笑った。

 

「お前、何でも取材で済ませる気かよ!」

 

「実際、取材だぞ!」

 

 ロメオは真面目な顔で答えた。

 

「人の話を聞くのが好きなんだよ」

 

 キスティスはその様子を見ていた。

 

「……あなた、記者志望なの?」

 

「おう!」

 

 ロメオは嬉しそうに頷いた。

 

「いつかティンバー・マニアックスに記事を載せたいんだ!」

 

「そう」

 

 キスティスは微笑んだ。

 

「面白そうね」

 

「だろ!」

 

 ロメオは笑った。

 

 そのとき、奥の車両から歌声が聞こえてきた。

 

「きしゃ~♪ きしゃ~♪ はっし~れ~♪」

 

 セルフィだった。

 

 楽しそうに歌いながら、窓の外を眺めている。

 

「ぼっくらをのせて~♪ とおっくへ~♪」

 

 ロメオが顔を上げる。

 

「お、歌ってる!」

 

「セルフィ、乗り物好きだからな」

 

 ゼルが言った。

 

 歌はさらに続く。

 

「みら~いへ~♪ ぼっくらをはこべ~♪」

 

 ロメオも小さく口ずさみ始めた。

 

 リノアが笑う。

 

「お兄ちゃん、知らない歌でしょ?」

 

「今覚えた!」

 

「早っ!」

 

 セルフィが振り返った。

 

「あたし、もうちょっとここにいるから!」

 

「おう!」

 

 ロメオが手を振る。

 

 列車はゆっくりと動き始めた。

 

 ティンバーの街並みが、窓の外を流れていく。

 

     *

 

 リノアは窓際に立っていた。

 

 遠ざかる街を、じっと見つめている。

 

 ロメオが隣へ来た。

 

「……寂しいか?」

 

「……うん」

 

 リノアは小さく頷いた。

 

「せっかくSeeDが来てくれたのに、何もできなかった」

 

「何もってことはないだろ」

 

 ロメオは窓の外を見た。

 

「大統領の列車、ちゃんとすり替えたし」

 

「でも、偽物だった」

 

「それは向こうが一枚上手だったんだよ」

 

 リノアは黙っていた。

 

 ロメオは続ける。

 

「それに、ティンバーの人たちはまだ諦めてない」

 

「……うん」

 

「ゾーンもワッツも、首領のおばさんも」

 

 ロメオは笑った。

 

「みんな、また頑張るつもりだろ?」

 

 リノアは少しだけ笑った。

 

「……そうだね」

 

「だから、また戻ってくればいいさ」

 

「……うん!」

 

 リノアは頷いた。

 

 スコールは少し離れたところから、その様子を見ていた。

 

 兄妹。

 

 同じ母親を持ち、同じ家で育った二人。

 

 リノアはロメオの前では、少しだけ素直になるようだった。

 

(……兄がいるって、こんな感じなのか)

 

 スコールはふと思った。

 

 自分には兄弟がいたのだろうか。

 

 幼い頃の記憶は曖昧だった。

 

 思い出そうとしても、はっきりしない。

 

 スコールは視線を逸らした。

 

 今は任務に集中すべきだった。

 

     *

 

「なに? どうかしたの?」

 

 リノアが振り返る。

 

 キスティスが立っていた。

 

「休む暇もないわね」

 

 キスティスは苦笑した。

 

 ゼルは座席に腰掛けたまま、黙っていた。

 

「…………」

 

 いつもなら、真っ先に何か言い出す男だった。

 

 しかし、今は口を閉じている。

 

 サイファーのことが気になっているのだろう。

 

 ロメオも、その気持ちは分かった。

 

 放送局で魔女とともに消えた青年。

 

 その行方は、まだ分からない。

 

 ロメオは胸元の手帳を取り出した。

 

 ページを開く。

 

『ティンバーを離れる。森のフクロウのアジトは壊されたが、仲間たちは無事。サイファーの行方は不明』

 

 そこまで書いて、少し考える。

 

 そして、もう一行書き足した。

 

『いつか必ず戻ってくる』

 

 ロメオは手帳を閉じた。

 

 窓の外では、ティンバーの街が遠ざかっていた。

 

 列車は学園東へ向かっている。

 

 その先にあるのは、ガルバディア・ガーデン。

 

 そして、さらに先には何が待っているのか。

 

 まだ誰にも分からなかった。

 

 ロメオは小さく笑った。

 

「……さて」

 

 リノアが振り返る。

 

「何?」

 

「次はどんなところかな!」

 

 リノアは呆れたように笑った。

 

「お兄ちゃん、ほんとに変わらないね」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

 スコールは二人の会話を聞きながら、窓の外へ目を向けた。

 

 ティンバーは、もう見えなくなっていた。

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