FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール 作:Kurumimogomogo
学園東駅に列車が到着した。
扉が開くと、乾いた風が車内へ吹き込んできた。
ティンバーの駅とは違い、ホームは静かだった。駅舎も小さく、周囲には人の姿がほとんどない。
「とうちゃ~く!」
セルフィが真っ先に降りた。
「やっぱり列車っていいよね~!」
ゼルが後に続く。
「お前、ずっと歌ってたな」
「だって楽しいもん!」
スコールもホームへ降りた。
キスティスが駅の西側を指さす。
「ガルバディア・ガーデンはもうすぐよ!」
遠くには、緩やかな丘陵地帯が広がっていた。
その先に、深い森が見える。
「……あの森か」
スコールが呟いた。
「ええ。谷間の森を抜ければ、ガルバディア・ガーデンのある地域に出られるわ」
「よし!」
ゼルが拳を握った。
「早く行こうぜ!」
ロメオはホームの端から景色を眺めていた。
「へえ……いいところだなあ」
リノアが隣へ来る。
「お兄ちゃん、また何か書いてるの?」
「いや、今は見てるだけ!」
ロメオは笑った。
「こういう静かなところ、好きなんだよな」
「そうなんだ」
「旅してるって感じがするだろ?」
リノアは少し笑った。
「……今も一応、逃亡中なんだけど」
「あ、そうだった!」
ゼルが呆れた顔をした。
「忘れんなよ!」
スコールは小さく息を吐いた。
(……相変わらずだな)
五人は駅を離れ、森へ向かった。
*
街道を外れると、周囲の景色が変わった。
木々が増え、道は次第に細くなっていく。
キスティスが先頭に立ち、スコールたちを案内した。
「この先よ」
セルフィが辺りを見回す。
「かなり雰囲気違うね~」
「静かだな」
ゼルも周囲を見た。
ロメオは歩きながら、道端の草花を眺めている。
「お、これ見たことないな」
「お兄ちゃん、置いてくよ!」
「待って待って!」
慌てて追いかける。
スコールはそんなロメオを横目で見た。
(……本当に方向音痴なのか)
本人は何度も迷子になっているらしいが、危険な場所でも平然としている。
少なくとも、緊張しているようには見えなかった。
「いまさらだけどさ~」
セルフィが両手を頭の後ろで組んだ。
「ガルバディア政府から、良くない連絡入ってるかもよ」
ゼルが振り返る。
「……何だよ、急に」
「いきなり捕まっちゃって、世界に放送されちゃったりして」
「縁起でもねえこと言うなよ!」
ゼルが声を上げた。
セルフィは笑った。
「でも、ありそうじゃない?」
ゼルは顔をしかめた。
放送局での出来事が頭をよぎる。
大統領。
サイファー。
そして、自分が口にしてしまった言葉。
ガーデンの名前を、世界中に知られてしまった。
「……そんときゃ、そんときでいいだろ!」
ゼルは無理に明るい声を出した。
「早く行こうぜ! 俺、バラム・ガーデンの様子が知りたいんだ」
スコールが振り返る。
ゼルは拳を握りしめていた。
「ガーデンに何かあったら、俺のせいだ」
「……」
「みんながガーデンから来たことを言っちまったのは、俺だから……」
声が小さくなる。
少しの沈黙。
「な、あの大統領、ガーデンに報復するかな?」
スコールは短く答えた。
「かもな」
「……だよな」
ゼルは俯いた。
しかし、すぐに顔を上げる。
「で、でもよ! バラム・ガーデンにはSeeDも大勢いるもんな!」
スコールを見る。
「ガルバディア軍に負けたりしないよな?」
スコールは少し考えた。
「ガルバディア軍の戦力にもよるだろ?」
「そうだけどよ……」
ゼルは口を閉じた。
ロメオはその様子を見ていた。
スコールの言うことは間違っていない。
ガルバディア軍の規模は大きい。
バラム・ガーデンがどれほど強くても、戦力差によっては危険だろう。
ただ、今のゼルが聞きたいのは、そんな話ではないのかもしれない。
「……素晴らしいリーダーね」
リノアが口を開いた。
スコールが振り返る。
「いつでも冷静な判断で、仲間の希望を否定して楽しい?」
(……また絡むつもりか)
スコールは黙っていた。
「ゼルは、あなたの言葉が欲しいのよ」
(……そんなところだろうな)
「大丈夫だ、とか、頑張れとか。そういう言葉があれば、ゼルだって……」
スコールは視線を逸らした。
(そんなのは気休めだろ?)
言葉一つで現実が変わるわけではない。
ガーデンが攻撃される可能性も、ゼルの責任も消えない。
(そう思ってるのは俺だけか?)
ふと、サイファーの顔が浮かんだ。
あの男なら、きっと同じように言うだろう。
気休めなんかいらない、と。
「そういう言葉が、仲間の元気や勇気になるんだから」
リノアは続けた。
「それくらい分からない!?」
(……うるさいな)
「ねえ、スコール!」
スコールは振り返った。
その瞬間。
(……なんだ!?)
視界が揺れた。
足元の地面が遠ざかる。
身体の感覚が薄れていく。
(……この感覚は……)
「うっ……」
キスティスが膝をついた。
「あっ……あたしも……」
セルフィも身体をふらつかせた。
ゼルが顔をしかめる。
「……またかよ」
スコールは何か言おうとした。
しかし、声が出ない。
目の前が暗くなっていく。
「どうしたの!?」
リノアが叫んだ。
ロメオも足を止めた。
「……おい?」
スコールが倒れる。
続いてキスティスとセルフィ。
ゼルも膝をつき、そのまま意識を失った。
「スコール!」
リノアが駆け寄った。
ロメオも慌ててしゃがみ込む。
「おい、しっかりしろ!」
スコールの肩を揺する。
反応がない。
呼吸はしている。
脈も正常だった。
だが、目を覚まさない。
「……何だ、これ」
ロメオが呟いた。
『ロメオ』
ラムウの声が響く。
『妙な気配じゃ』
「分かるのか?」
『……いや』
ラムウは少し間を置いた。
『魔法とも違う。少なくとも、わしの知る術ではない』
ロメオは眉をひそめた。
「……そうか」
リノアが不安そうに尋ねる。
「お兄ちゃん、どうしよう……」
「大丈夫。息はしてる」
ロメオはスコールの様子を確認した。
「怪我もないみたいだ」
「でも……」
「少し待ってみよう」
ロメオは短剣を抜いた。
「俺が周りを見てる」
リノアは頷いた。
森の中に、風の音だけが響いていた。
*
どれほど時間が経ったのか。
スコールの指が、わずかに動いた。
「……」
意識が戻る。
目を開けると、木々の間から差し込む光が見えた。
スコールはゆっくりと身体を起こした。
「……またか」
ゼルも目を覚ましていた。
「……またラグナか?」
セルフィが飛び起きる。
「ラグナさま、ピンチなんだよ~!」
そして、興奮した様子で続けた。
「どうなったのかな~!!」
スコールは黙っていた。
頭の中には、見知らぬ場所の光景が残っている。
軍服を着た三人の男。
エスタ兵。
岩だらけの採掘場。
そして、海へ飛び込む直前の出来事。
夢にしては、あまりにも鮮明だった。
「……何なんだよ、あれ」
ゼルが頭を掻く。
キスティスも身体を起こした。
「みんなは初めてじゃないみたいね」
スコールたちを見る。
「これ、何なの?」
スコールは答えられなかった。
(俺だけなら、ふざけた夢ってことで終わりにできるが……)
同じ夢を見ている。
それも、何度も。
説明のつかない現象だった。
「……分からない」
スコールは立ち上がった。
「ここで考えても、きっと何も分からないさ」
そして、ガルバディア・ガーデンのある方角を見る。
「先を急ごう」
「お、行こうぜ!」
ゼルが頷いた。
「もうすぐ到着だからな」
セルフィは少し残念そうだった。
「ラグナさま、どうなったんだろ~」
ロメオが首を傾げた。
「……ラグナ?」
その名前に、スコールが振り返った。
「……知っているのか?」
ロメオは一瞬、口を閉じた。
ラグナ。
自分の父親。
エスタの大統領。
スコールたちが、その名前を口にした。
しかも、夢の中で会ったらしい。
(……どういうことだ?)
ロメオは少し考えた。
しかし、今は詳しいことを聞ける状況ではない。
「……いや」
ロメオは笑った。
「ちょっと聞き覚えがあってさ」
スコールは目を細めた。
「……そうか」
ロメオは頷いた。
だが、頭の中では疑問が膨らんでいた。
(親父、何やってんだ?)
夢の中に出てくるとは、どういうことなのか。
しかも、スコールたちが同じ夢を見ている。
普通ではない。
ロメオは胸元の手帳に触れた。
あとで詳しく聞いてみよう。
そう思った。
*
再び歩き始めると、リノアがスコールの隣へ来た。
「あのね、スコール」
「……何だ」
リノアは少し言いにくそうにしていた。
そして、小さく頭を下げた。
「さっき、言い過ぎた。ごめんね」
スコールはリノアを見た。
(……いいよ、もう)
そう思った。
だが、言葉にはしなかった。
リノアはスコールの表情を見て、少しだけ笑った。
「……ありがと」
スコールは前を向いた。
ロメオは二人の後ろを歩いていた。
少しだけ安心したように息を吐く。
「……よかったな」
ゼルが振り返る。
「何が?」
「いや、何でも!」
ロメオは笑った。
森の向こうには、ガルバディア・ガーデンがある。
バラム・ガーデンの状況。
サイファーの行方。
そして、スコールたちが見たという不思議な夢。
分からないことは増えるばかりだった。
それでも、一行は歩き続けた。
ガルバディア・ガーデンへ向かって。