FINAL FANTASY VIII もう一人のレウァール 作:Kurumimogomogo
谷間の森を抜けると、視界が一気に開けた。
緩やかな丘陵の向こうに、巨大な建造物が見える。
ガルバディア・ガーデン。
バラム・ガーデンとは異なる、直線的で重厚な外観だった。周囲には整備された道路が伸び、正面ゲートには警備員が立っている。
「かなり雰囲気ちがうなあ」
セルフィが建物を見上げた。
「静かだな」
ゼルも辺りを見回す。
スコールはしばらく眺めてから、短く言った。
「……いいところだ」
ロメオは少し離れた場所で、手帳を開いていた。
「すげえなあ。これがガルバディア・ガーデンか」
バラム・ガーデンを初めて見たときも驚いたが、こちらはまた違う。
巨大な軍事施設のような印象を受けた。
「お兄ちゃん、何書いてるの?」
リノアが覗き込む。
「建物の印象!」
「……観光に来たんじゃないんだから」
「分かってるって!」
ロメオは笑った。
キスティスが皆を振り返る。
「ねえ、ここは私に任せてくれる?」
スコールが頷いた。
「……ああ」
「何度か来てるから、学園長も知ってるし。事情を説明してくるね」
「頼む」
キスティスはゲートへ向かった。
セルフィは周囲を見回している。
「トラビアやバラムのガーデンとも、また雰囲気が違うね」
ロメオが首を傾げた。
「セルフィって、トラビア出身なんだっけ?」
「そうだよ~!」
セルフィは嬉しそうに頷いた。
「トラビア・ガーデンから転校してきたんだ!」
「へえ! 今度、話聞かせてくれよ!」
「いいよ~!」
ゼルが口を挟む。
「お前、誰にでも取材するんだな」
「だって面白いだろ?」
ロメオは笑った。
「人によって、見てきた世界が違うんだからさ」
スコールは黙っていた。
そんな会話をしている間に、ゲートの警備員から案内があった。
「バラムガーデンから来たSeeD部隊は、二階応接室で待機してください」
スコールは頷いた。
「……行くぞ」
*
ガルバディア・ガーデンの内部は、バラムとは大きく異なっていた。
広い廊下。
無駄のない内装。
規則正しく行き交う生徒たち。
制服も違う。
ロメオは興味深そうに周囲を見ていた。
「へえ……」
「お兄ちゃん、きょろきょろしすぎ」
リノアが小声で言う。
「だって、初めて来たんだぞ!」
「それはそうだけど」
「バラムとは全然違うな!」
スコールが振り返る。
「……迷うなよ」
「大丈夫!」
ロメオは胸を張った。
「今日はちゃんとついていく!」
ゼルが笑った。
「今日だけかよ!」
廊下の奥で、ガーデンの職員が声をかけてきた。
「この奥の廊下の階段を上れば、応接室です」
スコールは礼を言い、階段へ向かった。
二階には複数の部屋が並んでいた。
その一つの前で、別の職員が待っている。
「ここが応接室です。マスターの指示があるまで、ここでお待ちください」
「……了解」
スコールが答えた。
全員が室内へ入る。
*
応接室は広かった。
ソファとテーブルが置かれ、壁にはガルバディア・ガーデンの紋章が飾られている。
ゼルは落ち着かない様子で歩き回っていた。
「……まだ待たせるつもりか」
セルフィは窓際に立っている。
「ここも学園祭ってあるのかな?」
ロメオが反応した。
「学園祭?」
「うん!」
セルフィは振り返る。
「バラムでも学園祭やるんだよ!」
「へえ、いいなあ!」
ロメオは目を輝かせた。
「俺、そういうの好きだぞ!」
「でしょ~!」
セルフィは嬉しそうだった。
「今度、来てよ!」
「もちろん!」
スコールは二人を見た。
(……こんな状況でも学園祭の話か)
しかし、セルフィにとって学園祭は重要なことなのだろう。
ロメオも、ただ面白がっているだけではなさそうだった。
リノアがソファに座る。
「キスティスも、ここで授業をしてたのかな」
「どうだろうな」
ロメオが答える。
「何度か来たことあるって言ってたし、知り合いも多いんじゃないか?」
そのとき、扉が開いた。
キスティスが戻ってきた。
スコールが顔を上げる。
「どうだった?」
「私たちの事情は理解してもらったわ」
キスティスは全員を見た。
「それから、バラム・ガーデンも無事」
ゼルが勢いよく振り返った。
「本当か!?」
「ええ」
キスティスは頷いた。
「ティンバーでの大統領襲撃事件は、犯人の単独行動だと判明したそうよ」
室内が静かになった。
「バラム・ガーデンの責任は問わないという、ガルバディア政府の通達があったって」
ゼルは息を吐いた。
「……よかった」
しかし、すぐに顔を上げる。
「犯人って、サイファーか!?」
キスティスは少し間を置いた。
「……裁判は終わって」
全員が彼女を見る。
「刑も執行されたそうよ」
沈黙が落ちた。
リノアの顔から血の気が引いた。
「……処刑されちゃった?」
キスティスは答えなかった。
リノアは俯く。
「……そうだよね。大統領を襲ったんだもんね」
そして、小さく呟いた。
「私たち、森のフクロウの身代わりに、あいつは……」
ロメオは動かなかった。
処刑。
その言葉が、頭の中で繰り返される。
(……サイファーが?)
あの男が。
あんなに自信満々で、偉そうで、何があっても笑っていた男が。
もういない。
ロメオは唇を結んだ。
キスティスが口を開く。
「確かに、サイファーを巻き込んだのはあなたたちよね」
リノアが顔を上げる。
「でも、レジスタンス活動をしてるんだもの。最悪の事態の覚悟はあったんでしょ?」
キスティスは続けた。
「サイファーだって考えてたと思うわ」
少しだけ表情を和らげる。
「だから、自分の身代わりになったとか、そういう考え方はしない方がいい」
そして、苦笑した。
「ごめん。全然慰めになってないね」
ゼルが拳を握った。
「……嫌な奴だったけど、こういうことになるとなぁ」
俯く。
「あの……野郎……」
セルフィがゼルを見る。
「ゼルなんか、サイファーのこと大嫌いだったよね」
「そりゃそうだけどよ……」
ゼルは顔を上げた。
「同じガーデンの仲間だったからな」
そして、悔しそうに続ける。
「できるなら、仇討ってやりたいぜ」
「なんか、ブルー」
セルフィが小さく呟いた。
キスティスはソファへ腰掛けた。
「彼のことで良い記憶なんて、全然ないの」
少しだけ笑う。
「問題児ほど可愛いって言うけど、彼はその範囲を超えてたわ」
そして、静かに続けた。
「ま、悪人ではなかったけど」
キスティスは目を伏せる。
「結局SeeDにはなれなかったわね、サイファー……」
リノアが口を開いた。
「私は……」
全員が振り返る。
「あいつのこと、大好きだった」
ロメオは妹を見た。
リノアは遠くを見るような目をしていた。
「いつでも自信たっぷりで、何でもよく知ってて……」
少しだけ笑う。
「あいつの話を聞いてると、何でもできるような気持ちになった」
セルフィが首を傾げる。
「カレシ?」
リノアは少し考えた。
「どうだったのかな」
そして、ゆっくりと言った。
「私は……恋、してたと思う」
ロメオは黙っていた。
妹がサイファーと親しくしていたことは知っている。
だが、こうして本人の口から聞くと、少し不思議な気分だった。
「あいつはどう思ってたのかな……」
セルフィが尋ねる。
「ねえ、今も好き?」
リノアは首を振った。
「そうだったら、こんな話できないよ」
そして、寂しそうに笑う。
「あれは一年前の夏の日々。十六歳の夏」
少しだけ目を伏せた。
「いい思い出よ」
スコールは黙っていた。
(好きだった……悪人じゃなかった……仲間だった……)
皆がサイファーについて話している。
まるで、遠い昔の人物のように。
(サイファー……あんた、すっかり思い出の人だ)
スコールは拳を握った。
(俺も……俺も死んだら、こんな風に言われるのか?)
スコールはこうだった。
ああだった。
過去形で、好き勝手なことを言われる。
(そうか)
胸の奥が冷たくなる。
(死ぬって、そういうことか……)
自分がいなくなった後も、世界は続く。
人々は自分を思い出に変えていく。
そして、いつか忘れる。
(……嫌だな)
スコールは顔を上げた。
(俺は嫌だ!!)
「スコール、どうかしたの?」
キスティスが尋ねた。
スコールは思わず声を上げた。
「俺は嫌だからな!」
ゼルが驚く。
「な、何だよ」
セルフィも目を丸くした。
「怒ってるう!?」
スコールは全員を見た。
「俺は過去形にされるのはごめんだからな!」
室内が静まり返った。
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
ロメオはスコールを見ていた。
そして、少しだけ目を細めた。
(……過去形、か)
ロメオには、思い当たることがあった。
母ジュリア。
今では、彼女のことを知る人も少なくなった。
かつて歌手として活躍した女性。
ラグナを愛し、フューリー・カーウェイと結婚した女性。
そして、ロメオとリノアの母親。
ロメオは今でも母を覚えている。
声も、顔も、ピアノの音も。
しかし、世間ではもう過去の人だ。
(……スコールは、それが嫌なんだな)
ロメオは何も言わなかった。
ただ、スコールの気持ちが少しだけ分かるような気がした。
*
応接室を出たスコールは、ガーデンの廊下を歩いていた。
頭の中はまだ整理できていなかった。
サイファーの死。
皆の言葉。
そして、自分が口にしたこと。
(……何を言ってるんだ、俺は)
スコールは小さく息を吐いた。
そのとき、聞き覚えのある声が響いた。
「おおっ! スコール!」
振り返ると、大柄な青年が立っていた。
雷神だった。
その隣には、風神もいる。
「……雷神」
スコールが足を止める。
「何をしている?」
「何してるっておまえ、伝令だもんよ!」
雷神は胸を張った。
「おまえらに、シド学園長から新しい命令持ってきたんだかんな!」
「……どんな命令だ?」
「知らんわ、そりゃ」
雷神はあっさり答えた。
「このガーデンの偉い人に渡しちまったもんよ。シド学園長に言われたとおりだかんな」
風神が短く言った。
「説明」
「おお、そうだった!」
雷神は頷いた。
「俺たちゃティンバーまで行く予定だったさ。でも列車止まってるもんだしよ」
そして笑う。
「仕方ないからここに来たら、おまえたち来てるって聞いてホッとしたもんよ」
風神が尋ねた。
「サイファー?」
「おお、そうよ!」
雷神が周囲を見回す。
「サイファーは一緒じゃねえのか?」
スコールは少し黙った。
そして答えた。
「サイファーは死んだらしい……」
雷神の笑顔が止まった。
「ガルバディアで裁判にかけられて、処刑されたって聞いてる」
風神が目を見開く。
「嘘!」
雷神はしばらく黙っていた。
そして、突然笑い出した。
「がはははははは!」
スコールが眉をひそめる。
「……何がおかしい?」
「そりゃ嘘だもんよ!」
雷神は笑いながら言った。
「おとなしく裁判なんて受けないもんよ!」
そして、拳を握る。
「黙って処刑なんかされないもんよ! サイファーに似合わないもんよ!」
風神も頷いた。
「訪問!」
「おおっ!?」
雷神が振り返る。
「サイファーに会いに行くのか?」
風神は短く頷いた。
雷神はスコールを見る。
「んじゃな、スコール!」
そして、勢いよく手を振った。
「俺たちゃ、サイファー探しにガルバディア行くかんな!」
二人は歩き去っていった。
スコールはその背中を見つめていた。
(……あいつら)
サイファーが死んだと聞いても、信じようとしない。
何の根拠もない。
ただ、サイファーならそんな終わり方をしないと信じている。
(……そういうものなのか)
スコールはしばらく立ち尽くしていた。
*
ガーデン内に放送が流れた。
『バラムガーデンから来たSeeD部隊は、ゲート前に集合してください』
スコールは顔を上げた。
(……新しい命令か)
応接室へ戻ると、ゼルが立ち上がった。
「からだ動かしておかなきゃ!」
キスティスも頷く。
「さあ、集合よ。行きましょう」
ロメオは手帳を閉じた。
「次の仕事か?」
「そうみたいね」
リノアが答える。
「何だろうな」
ロメオは少し考えた。
シド学園長からの新しい命令。
バラム・ガーデンは無事だった。
しかし、魔女がガルバディア政府に加わった以上、世界情勢は確実に変わっている。
簡単な仕事ではないだろう。
スコールが口を開いた。
「……行くぞ」
全員が立ち上がった。
*
ゲート前には、すでに数人のガーデン関係者が待機していた。
キスティスが周囲を確認する。
「ここで待っていれば、マスターが命令を持ってきてくれるはずよ」
ゼルは腕を組んだ。
「イライラさせるぜ」
セルフィも首を傾げる。
「おそいね、命令」
リノアはゲートの向こうを見ていた。
「あ!」
人影が近づいてくる。
「来たみたいね」
そして、スコールへ小声で言った。
「私もSeeDだってことにしてね。いろいろ説明面倒だからさ」
スコールはリノアを見た。
「……」
何か言いかけたが、結局黙った。
ロメオが隣で笑う。
「じゃあ、俺もSeeDってことにするか!」
「お兄ちゃんはダメ!」
「何で!?」
「絶対バレるから!」
ゼルが吹き出した。
そのとき、ガーデンの責任者らしい男が現れた。
ドドンナ。
ガルバディア・ガーデンのマスターだった。
「ご苦労」
低い声が響く。
全員が姿勢を正した。
「君たちに、バラム・ガーデンのシド学園長から命令書が届いている」
ドドンナは書類を掲げた。
「我々は規定に従い、命令書を確認した」
スコールは黙って聞いていた。
「検討の結果、我々は全面的にシド学園長に協力するという結論に至った」
ドドンナは続ける。
「実は我々も以前から、同じ目的のために作戦の準備を進めていたのだ」
ロメオは眉をひそめた。
(……同じ目的?)
ドドンナは全員を見渡した。
「この任務の重要さを理解してもらうために、現在の情勢を説明しておく」
少し間を置く。
「楽にしたまえ」
全員が姿勢を緩めた。
「魔女がガルバディア政府の平和使節に任命されたことは知っているな?」
スコールが頷く。
「ああ」
「しかし、平和使節とは名ばかり」
ドドンナの声が低くなる。
「行われるのは会談ではなく、脅迫だ」
リノアが眉をひそめた。
「……脅迫?」
「魔女は人々に恐怖を与える存在だ。よって、公平な話し合いなど不可能だ」
ドドンナは続けた。
「ガルバディアは、魔女が振りまく恐怖を使って、自分たちに有利な条件を他国に認めさせるつもりなのだ」
ロメオは黙って聞いていた。
ガルバディア軍の占領政策。
ティンバーの現状。
そして、魔女の存在。
すべてがつながっている。
「最終的には、ガルバディアによる世界支配が目的なのは明白である」
ドドンナは言い切った。
「もちろん、我々や君たちのガーデンも例外ではないだろう」
ゼルが拳を握る。
「……やっぱりかよ」
「事実、すでに魔女はこのガーデンを本拠地にすると通達してきている」
キスティスの表情が変わった。
「……ここを?」
「そうだ」
ドドンナは頷いた。
「我々に残された選択肢は、それほど多くはない」
そして、全員を見渡す。
「我々は君たちに、世界とガーデンの平和、そして未来を託す」
重い言葉だった。
「具体的な任務内容は、命令書で確認したまえ」
ドドンナは書類をスコールへ渡した。
「質問は?」
スコールは命令書を開いた。
内容を確認する。
そして、顔を上げた。
「命令書によると、方法は『狙撃』とあります」
ドドンナが頷く。
「うむ」
「しかし、我々の中には確実に狙撃できる技術を持つ者がいません」
ドドンナは微笑んだ。
「その点は心配しなくてもいい」
そして、背後へ声をかけた。
「ガルバディア・ガーデンから、優秀な狙撃手を出そう」
少し間を置く。
「キニアス! アーヴァイン・キニアス!」
背後から、一人の青年が現れた。
長身。
長いコート。
つばの広い帽子。
肩には銃を担いでいる。
アーヴァイン・キニアス。
青年は帽子のつばを軽く上げた。
「BANG!」
そして、笑った。
「バラムの田舎者諸君。よろしく」
ゼルが眉をひそめた。
「……何だと?」
スコールは横目でゼルを見る。
(ゼル……いちいち反応するなよな)
ドドンナは構わず続けた。
「アーヴァイン・キニアスだ。狙撃は彼が完璧にやり遂げるだろう」
そして、スコールへ向き直る。
「では、準備ができ次第出発したまえ」
声が厳しくなる。
「失敗は許されないぞ」
ドドンナはその場を去った。
*
アーヴァインはスコールへ近づいた。
「僕のサポート、大丈夫か?」
スコールは淡々と答えた。
「それはあんたの態度次第だ」
アーヴァインは肩をすくめた。
「あ、僕の言うことって、人の反感を買うことが多いんだよね」
そして笑う。
「まあ、あんまり気にしないでよ。それが僕とうまく付き合うコツさ」
スコールはアーヴァインを見た。
(こいつとゼルとは一緒にしない方がいいな)
「……覚えておこう」
ロメオは二人の会話を聞いていた。
そして、アーヴァインへ手を差し出す。
「よろしく!」
アーヴァインが振り返る。
「ん?」
「ロメオ・カーウェイ!」
ロメオは笑った。
「リノアの兄で、護衛をやってる!」
「へえ」
アーヴァインはリノアを見た。
「兄妹なんだ?」
「そう!」
ロメオは頷いた。
「こいつ、俺の妹!」
リノアがため息をつく。
「紹介が雑!」
アーヴァインは笑った。
「なるほど。よろしく、ロメオ」
「おう!」
ロメオは嬉しそうだった。
スコールは命令書を見つめていた。
狙撃。
魔女。
暗殺。
それが、新しい任務だった。
「新しい命令、教えてくれよ!」
ゼルが声を上げた。
キスティスも尋ねる。
「どんな仕事?」
セルフィが身を乗り出す。
「次の仕事、どんなの?」
リノアもスコールを見る。
「ね、どんな命令受けたの?」
スコールは顔を上げた。
「次の仕事は……」
少し間を置く。
「いや、これは仕事ではない」
全員が静かになった。
「バラムとガルバディア。両ガーデンからの命令だ」
スコールは続けた。
「俺たちは……魔女を暗殺する」
リノアが息を呑んだ。
「……魔女を?」
「手段は、遠距離からの狙撃だ」
スコールはアーヴァインを見る。
「このキニアスが狙撃手を務める」
アーヴァインは帽子のつばを上げた。
「よろしく」
「俺たちはキニアスを全面的にサポートする」
スコールは続ける。
「狙撃作戦が失敗した場合は、直接バトルで正面攻撃だ」
ゼルが拳を握った。
「……なるほどな」
セルフィも頷く。
「大変そうだね~」
アーヴァインは笑った。
「僕は失敗しない。ドント・ウォーリーだよ」
スコールは命令書を閉じた。
「確実に魔女を倒すべし。これが新しい命令だ」
そして、全員を見渡す。
「これからガルバディア首都のデリング・シティへ向かう」
ロメオの表情が変わった。
「……デリング・シティ?」
スコールは続けた。
「そこでカーウェイ大佐と会って、具体的な作戦の打ち合わせをする」
ロメオは一瞬、口を閉じた。
カーウェイ大佐。
フューリー・カーウェイ。
自分を育ててくれた父親だった。
リノアも目を見開いている。
「……お父さん?」
小さく呟いた。
ロメオは妹を見る。
リノアも兄を見た。
二人の間に、少しだけ気まずい沈黙が流れた。
(……親父のところか)
ロメオは小さく息を吐いた。
ガルバディア軍の高官。
ティンバーのレジスタンスを支援する娘。
その護衛をしている息子。
そして、魔女暗殺作戦。
簡単な話にはなりそうになかった。
「……さあ、出発だ」
スコールが言った。
*
「さ~て」
アーヴァインが帽子のつばを上げた。
「デリング・シティまでのパーティを決めるってことで」
そして、周囲を見回す。
「こんなもんかな?」
アーヴァインはセルフィ、リノア、キスティスの方へ歩いていった。
ゼルが顔をしかめる。
「……おい」
スコールは黙って見ていた。
(……気に入らないな)
「俺が決める」
スコールが口を開いた。
アーヴァインが振り返る。
「ん?」
「戦力バランスを考慮する」
スコールはメンバーを確認した。
狙撃手のアーヴァイン。
近接戦闘に優れたゼル。
魔法と速度を活かすロメオ。
それぞれの能力を考える必要がある。
ロメオは横から笑った。
「俺はどこでもいいぞ!」
「……そうか」
スコールは頷いた。
最終的に、アーヴァインとゼルを同じ組にした。
「これでいいだろう」
アーヴァインが肩を落とした。
「いじわる。いじわる班長だな」
「戦力バランスを考慮した結果だ」
ゼルが拳を握る。
「俺にこいつを任せるってことだな?」
そして、アーヴァインを睨む。
「SeeDの礼節ってもんを教えてやるぜ」
アーヴァインは笑った。
「お先に~」
「おい!」
ゼルが叫んだ。
ロメオは笑っていた。
「面白い奴だな!」
「どこがだよ!」
ゼルが怒鳴った。
スコールはため息をついた。
(……先が思いやられる)
*
デリング・シティ行きの列車に乗り込むと、セルフィが真っ先に車内の扉へ向かった。
「……」
スコールは黙って見ていた。
セルフィは扉の前で待っている。
機械音声が響いた。
『カクニン完了。ロック解除』
扉が開く。
「えへへ~、分かってるぅ~」
セルフィは嬉しそうに奥へ入っていった。
スコールは小さく息を吐いた。
(……そっとしておくか)
リノアは窓の外を見ていた。
「まだ発車しないのかしら?」
アーヴァインは少し離れたところで、女性陣を眺めていた。
「セルフィ、リノア、キスティス……」
小さく呟く。
「決めることができるのか? 僕に……」
ゼルが顔をしかめた。
「まだ出ねえのか、この列車……」
そのとき、アナウンスが響いた。
『デリング・シティ行き列車、まもなく発車いたします』
リノアが頷いた。
「デリング・シティ行くのって、この列車乗るしかないもんね」
アーヴァインが笑う。
「運命共同体ってやつか?」
ロメオが反応した。
「お、いい言葉だな!」
アーヴァインが振り返る。
「そう思う?」
「おう!」
ロメオは笑った。
「旅の仲間って感じがする!」
ゼルが呆れた顔をした。
「お前ら、気が合いそうだな……」
スコールは黙っていた。
(……確かに)
ただし、二人を一緒にしておくと、面倒なことになりそうだった。
*
列車が動き始めた。
セルフィは窓際に立ち、外を眺めている。
アーヴァインが近づいた。
「キミと僕とは運命共同体!」
「な、何さ~!」
セルフィが振り返る。
アーヴァインは笑った。
「恋のためいき?」
「ち、違っ……」
セルフィが顔を赤くする。
アーヴァインは帽子のつばを上げた。
「お先に~」
そのまま歩き去っていく。
セルフィは胸に手を当てた。
「あたし、ドキドキ……」
そして、首を傾げる。
「この感じ、何?」
スコールが淡々と答えた。
「重大な任務だ。今のうちにプレッシャーを飼いならしておいてくれ」
セルフィは少し黙った。
「……ふう」
そして、窓の外を見る。
「ガルバディアはまだかなあ?」
ロメオは少し離れたところで、その様子を見ていた。
(……アーヴァイン、面白い奴だな)
ただ、セルフィの反応は少し気になった。
からかわれているだけなのか。
それとも、何か別の理由があるのか。
ロメオは首を傾げた。
*
別の車両では、アーヴァインが窓際に立っていた。
「……リノア」
小さく呟く。
キスティスが近づいた。
「アーヴァイン・キニアス!」
アーヴァインが振り返る。
「ん?」
「あなた、今回の作戦の主役なのよ」
キスティスは腕を組んだ。
「もっとしっかりしてちょうだい」
アーヴァインは少し黙った。
そして、窓の外へ視線を向けた。
「……誰も分かってくれない」
キスティスが眉をひそめる。
「……何?」
「狙撃手は、ひとりぼっちなんだ」
アーヴァインの声が低くなる。
「ひとりぼっちの世界で精神を研ぎ澄まして、一発の弾丸に自分の存在をかけるんだ」
キスティスは黙って聞いていた。
「その瞬間のプレッシャー。その瞬間の緊張感」
アーヴァインは拳を握った。
「僕はこれから、それに耐えなくちゃならない」
少し間を置く。
「……怖いんだ」
キスティスの表情が変わった。
アーヴァインは続けた。
「だから、ちょっとくらい……」
そして、突然顔を上げる。
「ちょっとくらいハメ外しても、いいじゃねっかよ~!」
笑った。
「なんて言ったりしてみた」
キスティスは目を細めた。
「……あなたね」
そのとき。
列車が大きく揺れた。
「うわっ!」
アーヴァインがよろめく。
キスティスも壁に手をついた。
車内にアナウンスが響いた。
『た、ただいまの振動による列車の被害はございません』
少し間を置く。
『く、繰り返し申し上げます。た、ただいまの振動による列車の被害はございません』
ロメオが隣の車両から顔を出した。
「おーい、大丈夫か?」
アーヴァインは帽子を直した。
「……何とかね」
「そっか!」
ロメオは笑った。
「よかった!」
キスティスは小さく息を吐いた。
列車は再び安定した速度で走り始める。
窓の外には、ガルバディアの広大な大地が広がっていた。
その先にあるのは、首都デリング・シティ。
ロメオにとっては、幼い頃から何度も訪れた街だった。
そして、フューリー・カーウェイのいる場所。
魔女暗殺という重大な任務を抱えたまま、ロメオは育ての父と再会することになる。
彼は窓の外を眺めながら、小さく呟いた。
「……親父、元気かな」
リノアが隣へ来た。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「……お父さん、怒るかな」
ロメオは少し考えた。
そして笑った。
「怒るだろうな!」
「……やっぱり?」
「そりゃそうだろ!」
ロメオは肩をすくめた。
「娘がレジスタンスやってて、息子がその護衛してるんだから」
リノアは顔をしかめた。
「……うう」
ロメオは笑った。
「まあ、何とかなるさ!」
リノアは兄を見た。
そして、少しだけ笑った。
「……お兄ちゃんって、本当にそういうところ変わらないね」
「そうか?」
「うん」
列車はデリング・シティへ向かって走り続けた。