ホグワーツの夜は、いつもより静かだった。
グリフィンドールの談話室では、暖炉の火が赤々と燃えている。ハリーはソファに座り、膝の上で両手をぎゅっと握りしめていた。
「……ねえ、レオ兄さん」
「うん、どうしたの?」
隣に座ったレオが、読んでいた本を閉じた。
「最近、先生たちがずっと忙しそうだよね。何か大変なことが起きてるのかな?」
ハリーの表情には心配が浮かんでいた。いつもなら元気いっぱいに話し始める彼が、今は少しだけ声を落としている。
「気になるよね。でも、先生たちも生徒を守るために動いているんだと思うよ」
「うん……。僕も何かできたらいいんだけど」
「ハリー」
レオはそっと弟分の肩に手を置いた。
「君が毎日一生懸命に勉強して、友達と助け合って、元気に過ごしている。それだって、十分に大切なことだよ」
「本当に?」
「もちろん。何もかも自分一人で解決しようとしなくていいんだ」
ハリーはしばらくレオを見つめていたが、やがて顔をほころばせた。
「……そっか! ありがとう、レオ兄さん!」
その笑顔に、レオも自然と笑みを返す。
そこへ、ロンとハーマイオニーが談話室へ戻ってきた。
「おーい、ハリー! レオ! 何の話をしてるんだ?」
「ロン、声が大きいわよ!」
「だって、二人とも真剣な顔してたから気になったんだよ!」
ハーマイオニーは二人の前まで来ると、少し心配そうにハリーを見た。
「ハリー、何かあったの?」
「ううん、大丈夫! レオ兄さんと話してただけだよ!」
「そう? ならいいけれど……」
ハーマイオニーはほっとしたように胸をなで下ろした。
それから、レオへ視線を移す。
「あの、レオ。明日の授業のことで、少し聞きたいことがあるんだけど……」
「いいよ。どんなこと?」
「えっと、その……古代ルーン文字の資料についてなんだけど!」
ハーマイオニーは鞄から羊皮紙を取り出した。
「この前教えてくれた文字の組み合わせについて、もう少し詳しく知りたいの! 自分でも調べてみたんだけど、どうしても分からない部分があって……」
「なるほど。見せてもらえる?」
「う、うん!」
レオが身を寄せると、ハーマイオニーは背筋をぴんと伸ばした。
彼女は一生懸命に説明しながら、ところどころ言葉に詰まる。レオが優しく相づちを打つたびに、頬が少しずつ赤くなっていった。
「ここは、文字そのものの意味だけじゃなくて、前後の配置も考えるといいよ」
「前後の配置……あっ! そういうことなのね!」
ハーマイオニーは目を輝かせた。
「すごいわ、レオ! 私、ずっと意味だけを追いかけていたの!」
「ハーマイオニーが自分で考えたから、そこに気づけたんだよ。僕は少し手伝っただけさ」
「そ、そんなことないわ! レオの説明はとても分かりやすいもの!」
彼女は勢いよく言い切ってから、はっと口元を押さえた。
「……あっ。ご、ごめんなさい。大きな声を出しちゃった」
「気にしなくていいよ」
レオが笑う。
ハーマイオニーは、とうとう羊皮紙で顔の半分を隠してしまった。
ロンはその様子を見て、ハリーの耳元へ顔を寄せた。
「なあ、ハリー。ハーマイオニーって、レオの前だと妙に忙しそうだよな」
「え? 勉強が好きだからじゃない?」
「……お前、本当にそう思ってるのか?」
「うん!」
ハリーが元気よくうなずく。
ロンは額を押さえた。
「もういいや……」
そのやり取りを見ていたレオは、楽しそうに笑った。
談話室には、いつもの温かな空気が戻っていた。
*
数日後。
ホグワーツの大広間には、生徒たちの歓声が響き渡っていた。
天井には夏の夜空のような星々が広がり、長いテーブルには豪華な料理が並んでいる。
ハリーはグリフィンドールのテーブルで、目の前のごちそうを見つめていた。
「うわあ! 今日はすごいね!」
「いつもすごいだろ」
ロンは笑いながら、皿に料理を取り分けていた。
「でも、今日は特別な感じがするよ!」
「ハリー、食べる前に話を聞きましょうよ!」
ハーマイオニーが注意する。
「分かってるよ! ちゃんと聞くって!」
ハリーは慌てて背筋を伸ばした。
少し離れたレイブンクローのテーブルでは、レオも楽しそうに食事を待っていた。
やがて、ダンブルドア校長が立ち上がる。
大広間のざわめきが少しずつ収まっていった。
「諸君。今年も、実に多くのことがあった」
校長は穏やかな声で話し始めた。
「新しい友人を得た者もいれば、難しい課題に挑戦した者もいるじゃろう。時には失敗し、悔しい思いをしたこともあったはずじゃ」
ハリーは、最初の授業で羽根を浮かせられなかったことを思い出した。
あのときは、どうすればいいのか分からず、何度も呪文を唱え直した。
けれど、ハーマイオニーが教えてくれたことも、レオが励ましてくれたことも、今では大切な思い出になっている。
「しかし、失敗することを恐れる必要はない。大切なのは、そこから何を学び、どのように次へ進むかということじゃ」
ダンブルドアは生徒たちを見渡した。
「そして、仲間を助けようとする心を忘れないこと。知識や才能は素晴らしいものじゃが、それを何のために使うのかも、同じくらい大切なのじゃ」
その言葉を聞いて、ハリーは自然とレオのことを思い浮かべた。
レオは、いつだって自分の力をひけらかさない。
困っている人がいれば、当たり前のように手を差し伸べる。
ハリーにとって、それはずっと憧れてきた姿だった。
「それでは、今年度の寮杯を発表しよう!」
大広間に緊張が走る。
ダンブルドアが点数を発表していくと、各寮のテーブルから歓声と落胆の声が上がった。
そして最後に、校長はグリフィンドールのテーブルへ目を向けた。
「最後に、特別な功績を残した生徒たちへ、加点を与えたいと思う」
ハリーは目を丸くした。
「えっ?」
ロンも口を開けたまま固まっている。
ハーマイオニーは両手を胸の前で握りしめていた。
「勇気を持って行動した者。仲間を信じ、困難に立ち向かった者。そして、知恵と努力によって仲間を支えた者。それぞれの行いを、わしは誇りに思う」
グリフィンドールの得点が加算されるたび、テーブルは大きな歓声に包まれた。
「グリフィンドールの勝利じゃ!」
大広間が揺れるほどの歓声が上がった。
「やったあああっ!」
ハリーは椅子から飛び上がった。
「勝ったぞ、ハリー! 俺たちの寮が勝ったんだ!」
ロンがハリーの肩を抱き、二人は笑いながら飛び跳ねた。
「ちょっと、二人とも! まだ校長先生のお話が――!」
ハーマイオニーも注意しようとしたが、嬉しさがこみ上げてきて、結局一緒になって笑ってしまった。
レイブンクローのテーブルでは、レオが拍手を送っていた。
彼はグリフィンドールの三人が喜ぶ姿を見て、心から嬉しそうに微笑んだ。
寮は違っても、ハリーたちが努力してきたことを、レオは誰よりも近くで見てきたのだから。
*
宴が終わったあと。
ハリーたちは、大広間の出口でレオと合流した。
「レオ兄さん!」
ハリーは駆け寄り、勢いよくレオの腰に抱きついた。
「見てた!? グリフィンドールが勝ったんだよ!」
「もちろん見ていたよ。おめでとう、ハリー」
「ありがとう!」
ハリーは嬉しそうに笑った。
ロンも隣から声を上げる。
「いやあ、最高だったな! 来年も勝ちたいぜ!」
「ロン、まずは今年の勉強をきちんと終わらせないとね」
「ハーマイオニー、今くらいはいいだろ!」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、本当におめでとう」
ハーマイオニーは笑顔で言った。
そして、少しだけためらったあと、レオを見上げた。
「レオも、一年間お疲れさま。あなたがいてくれて、本当に心強かったわ」
「ありがとう、ハーマイオニー。君たちと一緒に過ごせて、僕も楽しかったよ」
「……っ!」
ハーマイオニーは顔を真っ赤にした。
「そ、そう! 私も楽しかったわ! とっても!」
ロンが口元を押さえ、肩を震わせている。
ハリーは不思議そうに二人を見比べた。
「ハーマイオニー、顔が赤いよ? 暑いの?」
「ち、違うわよ、ハリー!」
「そうなの?」
「そうなの!」
思わず大きな声を出してしまい、ハーマイオニーはますます赤くなった。
レオは困ったように笑いながらも、彼女をからかうことはしなかった。
「みんな、そろそろ戻ろうか。明日の準備もあるからね」
「そうだね!」
ハリーは元気よくうなずいた。
四人は並んで廊下を歩き始めた。
窓の外には、星が輝いている。
初めてホグワーツへ来た日、ハリーは大きな城を見上げて、胸を躍らせていた。
魔法の授業も、動く階段も、しゃべる肖像画も、何もかもが新鮮だった。
そして今では、そこに大切な友達との思い出が増えている。
「ねえ、みんな」
ハリーが立ち止まった。
「僕、ホグワーツに来て本当によかった!」
ロンとハーマイオニーが振り返る。
「俺もだぜ!」
「私もよ。勉強は大変だけど、毎日新しい発見があるもの!」
ハリーは笑顔でレオを見上げた。
「レオ兄さんがいてくれたことも、本当に嬉しかったんだ。分からないことを教えてくれたり、困ったときに助けてくれたり……僕、レオ兄さんみたいになりたい!」
レオは少し驚いたように目を瞬かせた。
それから、ハリーの前にしゃがみ、目線を合わせた。
「ハリー。僕みたいになろうとしなくてもいいんだよ」
「えっ?」
「君には君のいいところがある。友達を大切にするところも、困っている人を放っておけないところも、嬉しいときに全力で喜べるところもね」
レオはハリーの頭を優しく撫でた。
「だから、これからも君らしくいてほしいな。僕は、そんな君が大好きだよ」
ハリーは目を見開いた。
そして、みるみるうちに笑顔になった。
「……うん! ありがとう、レオ兄さん!」
ハリーはもう一度、レオに抱きついた。
レオは笑いながら、その背中を優しく抱き返した。
少し離れたところで、ロンが鼻をすすった。
「な、なんだよ……別に泣いてなんかないからな!」
「ロン、まだ何も言っていないわよ?」
「うるさいな!」
ハーマイオニーはくすくすと笑った。
レオもハリーを離し、三人を見渡した。
「みんな、これからもよろしくね」
「もちろん!」
ハリーが答える。
「おう、任せとけ!」
ロンも拳を握った。
「私も! 来年はもっとたくさんのことを学びましょうね!」
ハーマイオニーも元気よくうなずいた。
四人の笑い声が、夜のホグワーツに響いた。
*
そして、夏休み。
スカマンダー家の庭には、暖かな日差しが降り注いでいた。
魔法生物たちが草むらを駆け回り、木々の間から鳥のさえずりが聞こえてくる。
「ハリー! レオ! お昼ごはんができたわよ!」
アリシアの声が家の中から響いた。
「はーい!」
ハリーは庭から元気よく返事をした。
隣では、レオが魔法生物の世話を終えたところだった。
「ハリー、手を洗ってから行こうね」
「分かってるよ、レオ兄さん!」
二人は並んで家へ向かった。
玄関では、ロイドが楽しそうに笑っていた。
「おかえり。ホグワーツはどうだった?」
「すっごく楽しかったよ! 魔法の授業も、友達との生活も、全部!」
ハリーは身振り手振りを交えながら話し始めた。
「それでね、ロンっていう友達がいて、チェスがすごく強いんだ! ハーマイオニーは勉強が得意で、いつもいろんなことを教えてくれるんだよ!」
「それはよかったな」
ロイドは嬉しそうにうなずいた。
「レオも、学校では楽しく過ごせたか?」
「うん。ハリーたちのおかげで、僕も楽しかったよ」
レオは微笑んだ。
アリシアが食卓から顔を出す。
「さあ、二人とも! おしゃべりは食事のあとにしてちょうだい!」
「はーい!」
二人は声をそろえて返事をした。
食卓には、温かな料理が並んでいた。
ハリーは椅子に座ると、目の前の皿を見て、ぱっと笑顔になった。
「わあ、おいしそう!」
「たくさん食べなさい。学校で頑張ったぶん、今日はゆっくり休むのよ」
「ありがとう、アリシア叔母さん!」
ハリーは嬉しそうに食事を始めた。
レオはその隣で、紅茶を口に運ぶ。
ふと、ハリーが顔を上げた。
「ねえ、レオ兄さん」
「うん?」
「来年も、また一緒に頑張ろうね!」
レオは一瞬目を丸くし、それから心からの笑顔を浮かべた。
「もちろん。来年も、その先もね」
「約束だよ!」
「約束」
二人は笑い合った。
家の外では、魔法生物たちが楽しそうに鳴いている。
食卓には家族の笑い声が絶えず、窓から差し込む陽光が、みんなの顔を明るく照らしていた。
ハリー・ポッターのホグワーツ一年目は、こうして幕を閉じた。
たくさんの出会いと、小さな失敗と、忘れられない思い出。
そして、いつだって自分を信じてくれる家族と、共に歩んでくれる友達。
ハリーには、帰る場所がある。
何があっても、手を差し伸べてくれる人たちがいる。
だからこそ、彼は明日を楽しみにできる。
「レオ兄さん! 明日は庭で遊ぼうよ!」
「いいね。何をして遊ぼうか?」
「魔法生物たちと追いかけっこ!」
「それは、僕たちが追いかけられる側になりそうだね」
「ええっ!? それは困るよ!」
ハリーが慌てて声を上げ、食卓に笑い声が広がった。
レオも笑いながら、ハリーの頭を優しく撫でる。
その手は、これから先も変わらず、ハリーのそばにあるだろう。
――頼れる天才従兄と、愛されて育った少年。
二人の物語は、まだ始まったばかりだった。
ここまで『ハリー・ポッターと頼れる天才従兄』を読んでくださり、本当にありがとうございました!
全32話、これにて完結です!
愛情いっぱいの家庭で育ったハリーと、そんなハリーを弟のように大切にする天才従兄レオ。二人の関係を中心に、ホグワーツでの出会いや友情、魔法に囲まれた日々を描いてきました。
ハリーがレオを「レオ兄さん」と慕う姿や、ロンとの気取らないやり取り、そしてレオに憧れながらも気持ちが顔に出てしまうハーマイオニー。そんな彼らの賑やかな日常を書くのは、とても楽しい時間でした。
本作は原作とは異なる設定を取り入れた物語ですが、家族の愛情や友人との絆が、子どもたちの成長を支えていくという部分を大切にしました。
ハリーの一年目は終わりましたが、彼らの物語はまだまだ続いていきます。
これから先、ハリーはどんな魔法を覚え、どんな仲間と出会い、どのように成長していくのでしょうか。そして、頼れる天才従兄レオは、そんなハリーをどのように見守っていくのでしょうか。
最後までお付き合いいただいた皆さまに、心から感謝いたします。
もし楽しんでいただけましたら、評価や感想をいただけると、とても励みになります。
それでは、また別の物語でお会いできることを願って。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!