ブルーアーカイブ ――砂の街に夜明けを   作:将吾

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第3話です!

今回は砂嵐に見舞われたアビドスでの、ちょっとした騒動のお話です。

ユメ先輩たちの賑やかな日常を描きつつ、少しずつ物語を進めていきたいと思います。

それでは、どうぞ!


第3話 砂嵐の向こう側

 砂嵐が過ぎ去った頃には、窓の外の空がすっかり茜色に染まっていた。

 

 幸い、今回の嵐による被害はそれほど大きくなく、旧校舎の窓から砂が入り込んだ程度で済んでいる。ただし、校舎の各所に積もった砂の清掃には随分と時間を取られてしまい、生徒会室へ戻ってきた頃には三人とも疲れ切っていた。

 

「……あー、疲れた」

 

 朔は椅子に腰を下ろすと、背もたれに身体を預けながら大きく息を吐いた。旧校舎への移動に始まり、扉の修理、ユメの捜索、そして後片付けと、今日は朝から随分と身体を動かした気がする。

 

「朔、あんた大丈夫?」

 

「ん? ああ、ちょっと疲れただけだよ」

 

「……本当に?」

 

「大丈夫だって。心配しすぎだぞ、お前」

 

「誰のせいで心配してると思ってるのよ……」

 

 呆れたように言いながらも、ホシノは自分の鞄から水筒を取り出すと、朔の机へ置いた。

 

「ほら、水。ちゃんと飲んで」

 

「……ありがとな」

 

「別に。あんたが倒れたら、明日の仕事が増えるだけだから」

 

「はいはい、そういうことにしとくよ」

 

「……何よ、その言い方」

 

 不満そうに眉を寄せるホシノに、朔は小さく笑った。昔から彼女はこういうところがあり、素直に心配していると言えばいいものを、わざわざ別の理由を付け加えるのだから面白い。

 

 もっとも、そう指摘すれば余計に機嫌を損ねることくらい、長年の付き合いで十分に理解していた。

 

「ふふっ、二人とも本当に仲良しだね」

 

「「どこが!?」」

 

「あははっ、また揃った!」

 

 楽しそうに笑うユメを前に、朔とホシノは顔を見合わせた後、揃ってため息をついた。

 

 そんな、いつも通りの生徒会室。

 

 しかし、今日はまだ仕事が一つ残っていた。

 

「あっ、そうだ! 二人とも、ちょっといい?」

 

 ユメは思い出したように声を上げると、鞄の中から古びた書類の束を取り出した。先ほど旧校舎の資料室で見つけた、給水施設に関する記録である。

 

「これなんだけどね、さっき見てたら気になるものがあって」

 

「気になるもの、ですか?」

 

「うん! ここなんだけど……」

 

 ユメが広げたのは、古いアビドス自治区の地図だった。

 

 現在の地図とは随分と異なっており、既に砂に埋もれてしまった道路や、取り壊された建物の名前まで細かく記載されている。

 

 その中でも朔の目を引いたのは、学校の西側から伸びる一本の線だった。

 

「……これ、送水管の経路図じゃないですか?」

 

「やっぱりそうだよね!」

 

「ちょっと見せてください」

 

 朔はユメから地図を受け取ると、手元の端末に保存していた旧給水施設の図面と見比べ始めた。

 

 施設の位置は一致している。しかし、現在の資料には存在しない経路が、古い地図には幾つか描かれていた。

 

「……あれ?」

 

「どうしたの、朔?」

 

「いや、ここなんだけどさ。この配管、学校の近くまで伸びてないか?」

 

 朔が指差した場所を、ホシノも覗き込む。

 

 確かに、古い図面には給水施設から学校方面へ伸びる配管が描かれていた。しかし、その途中からは破線に変わっており、現在も使用できる状態なのかは分からない。

 

「……本当だ。でも、これって随分古い図面でしょ?」

 

「ああ。だから今も残ってるかは分からないけど……」

 

 朔は図面の端に記載された小さな文字へ目を向けた。

 

 そこには、予備送水管という名称と、使用停止を示す記録が残されていた。

 

「……少なくとも、昔はここにも配管が通ってたみたいだな」

 

「それじゃあ、もしかして!」

 

 ユメが期待に満ちた声を上げる。

 

 しかし、朔はすぐに首を横へ振った。

 

「まだ分かりませんよ。埋設されてる配管が使える保証なんてありませんし、そもそも残ってるかどうかも怪しいですから」

 

「そ、そっかぁ……」

 

「ただ、もし使える部分が残ってるなら、新しく配管を敷くより費用を抑えられるかもしれませんね」

 

 その言葉を聞き、ユメの表情がぱっと明るくなった。

 

「じゃあ、調べてみようよ!」

 

「……ユメ先輩」

 

 すかさずホシノが口を開く。

 

「まさか、今から行くなんて言いませんよね?」

 

「えっ!? さ、流石に今日は行かないよ!?」

 

「……本当でしょうね?」

 

「ほんとだよぉ!」

 

 疑いの眼差しを向けられ、ユメは慌てて両手を振った。

 

 その光景に朔は苦笑しながら、机の上に広げた地図を指で軽く叩く。

 

「まあ、まずは資料の確認からですね。実際に調査するにしても、土地の管理状況とか、色々調べないといけませんし」

 

「……そうね。特にこの辺り、今はほとんど砂に埋もれてるはずだから」

 

「そうそう。だから、明日は残ってる記録を探してみようと思う」

 

「えへへ、じゃあ私も手伝うね!」

 

「もちろんです。というか、ユメ先輩にも手伝ってもらわないと困りますよ」

 

「任せて!」

 

 胸を張って答えるユメに、朔は思わず笑みを浮かべた。

 

 今朝届いた見積書を見た時には、今回の計画もここまでかと思っていた。しかし、古い資料から予想外の情報が見つかったことで、少なくとも調査を続ける理由はできた。

 

 もちろん、これで全てが解決するわけではない。

 

 古い送水管が残っていたとしても、実際に使えるかどうかは別問題であるし、修理費用が今の学校の予算に収まるとも限らない。

 

 それでも、何も手掛かりがない状態よりはずっといい。

 

「……まったく、次から次へと仕事が増えるな」

 

「……朔、嫌なら別に手伝わなくてもいいんだけど?」

 

「いや、そこまでは言ってないだろ」

 

「ふーん?」

 

「……何だよ、その顔」

 

「別に?」

 

 どこか楽しそうに笑うホシノを見て、朔は呆れたように肩をすくめた。

 

 どうにも、幼馴染には自分の考えていることが筒抜けらしい。

 

     ◇

 

 その日の帰り道、三人はいつものように並んで歩いていた。

 

 砂嵐が過ぎ去ったばかりの街は、普段以上に静まり返っている。道路の隅には新しい砂が積もり、街灯の明かりが灯り始めた通りには、三人の足音だけが響いていた。

 

「……ねえ、二人とも」

 

 不意に、ユメが口を開いた。

 

「何ですか、ユメ先輩?」

 

「明日も、よろしくね!」

 

 そう言って、彼女はいつもの明るい笑顔を浮かべた。

 

「給水施設のこと、まだどうなるか分からないけど……もう少しだけ頑張ってみたいんだ」

 

「……そうですね。俺も、調べられることは調べてみますよ」

 

「私も手伝います。でも、先輩は無茶しないでくださいね」

 

「えへへ、分かってるよ!」

 

「……本当でしょうね?」

 

「ホシノちゃん、最近そればっかり!」

 

「誰のせいだと思ってるんですか!」

 

 再び始まった二人のやり取りに、朔は小さく笑った。

 

 そして、ふと先ほどの古い地図を思い出す。

 

 現在の資料には記載されていなかった、学校へと続く一本の送水管。

 

 あれがいつ、何のために使われ、どうして廃止されたのかは分からない。書類の中には幾つか記録が残されていたものの、肝心の使用停止に至った経緯については、詳しい説明が見当たらなかった。

 

 単に老朽化しただけなのか、それとも別の理由があったのか。

 

 いずれにせよ、明日もう一度資料を確認する必要がありそうだった。

 

「……朔?」

 

「ん?」

 

「何ぼーっとしてるの? 置いてくよ?」

 

「ああ、悪い」

 

 少し先を歩いていたホシノに呼ばれ、朔は考えるのをやめた。

 

 今はまだ、確かなことなど何も分かっていない。

 

 それでも、明日やるべきことは決まった。

 

「……さて、明日も忙しくなりそうだな」

 

「今さらでしょ。いつものことじゃない」

 

「……違いない」

 

 朔が苦笑すると、ホシノも小さく笑った。

 

 その前方では、ユメが二人を待ちながら楽しそうに手を振っている。

 

「ほら、二人とも! 早く帰ろう!」

 

「はいはい、今行きますよ」

 

「……もう。先輩も少しは落ち着いてください!」

 

 三人の声が、夕暮れの通りに響いていた。

 

 明日はまず、古い送水管について調べてみよう。

 

 そのためには、学校に残された資料だけでなく、かつて施設が使われていた頃の記録も必要になるかもしれない。

 

 朔はそんなことを考えながら、幼馴染とともにユメの後を追いかけた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回もユメ先輩に振り回される朔とホシノでした(笑)

そして、旧校舎で見つかった古い資料から、給水施設に新たな可能性が見えてきました。

次回は、この資料を手掛かりに三人が調査を進めていく予定です。

まだまだ平和な三人の日常が続きますが、少しずつ物語も動かしていけたらと思います。

感想や評価などいただけると嬉しいです!

それでは、また次回!
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