いずれ世界を滅ぼす極悪龍貴族に転生した俺、破滅フラグを回避したいだけなのに勘違いのせいで最強の聖人に祭り上げられる 作:Hiruandon
「……え?」
車椅子に座って、食事をしていた俺は、思い出していた。
俺の考えが正しければ、ここは【ドラゴンハート・エイジ】の世界だ。
世界でかなり売れて、神ゲーとしても名高いファンタジーゲーム。
剣と魔法の世界といえば分かり易いだろうが……よりにもよって、転生先が……。
状況が落ち着いて、俺は静かに呟いた。
「最悪だ……」
カイルの父親から責められるような声音で、告げられる。
「そう嘆くのも無理はないが、情けないなカイル。もう時期に、成人の儀式でもある魔法適性があるのに……」
「憐れなカイルを、そこまで言わなくても……」
周囲からの憐憫の声に、そういう意味ではないと否定したかった。
でも、彼らの同情も理解できる。
俺の身体は今、立ち上がることすらできない。
魔法も使えず、剣も握ることができない。
俺は転生したんだ、このザコ悪役貴族のカイル・ファフニールとして。
そのファフニール家の腫れ物のような扱いを受けていた。
魔法の才能が溢れるファフニール家で何もできない落ちこぼれなのだから。
「……この子はダメだな」
冷酷に告げる父親の言葉に、誰も否定しない。
誰もカイルを認めることはないし、慰める対象でしかない。
その結果として、カイルは『僕を蔑むな!』と主人公たちへ怒り、呪いの力を使って破滅の道を歩むようになる。
「父上。申し訳ございません……少し体調が優れなくて、先に部屋で休んでもよろしいでしょうか」
「……ふん。好きにしろ」
「ありがとうございます」
近くにした専属従者に目配せをする。
部屋を出てから、呟くように従者へ問いかけた。
「……俺は、カイル・ファフニールだよな?」
「……『俺』?」
「ああいや! 僕……か?」
「先ほどからどうされたのですか。カイル様らしくございませんよ」
彼女はウルル・バルハザード。
かつて剣聖の座についたこともある剣の達人だ。
ため息を漏らす女性を肩越しに見た。
美しい金髪を後ろでまとめ、淡麗な顔立ちが凛さを際立たせている。
────が、かなりやさぐれているのか……疲れた感じがする。
美しい庭園を見かけて、そこで車椅子を止めてもらった。
そうして、ウルルがジェスチャーをする。
「あの……カイル様、吸っても?」
「構わない」
彼女は一言でいえば美しい女騎士だ。
そして、最も特徴的なのは隻腕だ。
魔物との闘いで片腕を失い、露頭に迷っていたところをファフニール家が雇った。
今ではカイルの専属従者兼剣士教師だが……あまり俺を好いてはいない。
剣を握れぬ子の、剣士教師なんて飼い殺しだ。
「ふぅ……カイル様も大変ですね。ご当主様もあそこまで言わなくてもいいでしょに」
「タバコ、吸ってるんだな」
「剣聖を辞めてからですよ。まぁ、この腕を失った時からですかね……」
彼女が自分を守るための、自暴自棄の一つなのだろうな。
しかも、今の就職先は未来もなければ、才能もない車椅子少年の専属なのだ。
剣も握れない今を、飼い殺しされている……と本人は思っているのかもしれない。
ウルルは今度、懐から酒瓶を取り出す。
俺に向かってポチャポチャと中身を振った。
「それはダメ」
なぜ堂々と酒を飲もうとしているんだこのメイドは……。
「あら残念」といって、煙草をふかした。
「すまない、ウルル」
「……? なぜ謝られるのですか」
「君は本来、騎士団や剣を振るう場所に居たいはずなのに……俺のような元で、飼い殺しにさせてしまっている」
「……っ! いえ、利き腕を失ってから、剣を握る意味もありませんので」
俺の予想は当たっているみたいだった。
彼女の曇った表情からも、まだ剣への未練は捨てきれていないらしい。
彼女はそのうち、カイルを捨ててしまう未来だった。
剣への未練は断ち切れず、ファフニール家に飼い殺しにされていることを強く不満に思っていた。
そこを王国騎士団所属のヒロインから誘われ、再び剣の道を歩むことになる。
……彼女は不満を表には出さず、カイルを献身的に支えていた。
ただ、ウルルも己の剣を捨てられなかった。カイルはその道を示してやれなかった。
「ウルルが望むのなら、騎士団への紹介状も書いて……」
「お戯れを。今はご自身のことを心配してください。もうじき、魔法適性ですよ」
……そうだった。
思わず頭を抱えた。
────出たな、死亡フラグ。
これはカイルによって、最初の死亡フラグ①だ。
魔法適性とは、この世界における人間が必ず受けなければならないものだ。
例えば、神託によるスキル授与や判明に似たものだ。
その人間が持つ適性を調べ、魔法を使えるようにする儀式だった。
カイルの持つ魔法適性は闇。
そしてこれは、代々光属性の家系であるファフニール家にとって、汚点そのものだ。
闇属性だと判明してから、ファフニール家がカイルへキツくなる。
より明確に虐めや迫害を起こすのだ。
「せめて、光属性の適正さえあればお家での待遇も……」
「ねぇ、ウルル。参加しないって方向性は……ぐっ!」
ズキンッ、と頭に痛みが走る。
────
【警告】:『魔法適性試験に参加してください』
────
なんだこれ!
頭が割れそうになるほど痛い‼︎
何だよこの声……。
「……? いかが致しましたか? カイル様」
「き、聞こえないのか?」
「魔法適性には参加しない、と聞こえましたが」
────
【警告・中】:『魔法適性試験に参加してください』
────
痛みがさらに増す。
「痛───ッ‼︎」
「カイル様!?」
「な、なんでもない……」
俺にしか聞こえていないようだ。
どういうことだ? こんなのゲームで聞こえた覚えはないぞ。
……そうか、そうか! 本来のゲームストーリーの指示か。
この世界の人間は、無意識にこの警告に従っているのかもしれない。
それに逆らおうとしている俺に対して、強い警告が出ている。
……ストーリーの正常化か。
逆らおうとすればするほど、痛みが増す。
「……先ほどの言葉は撤回だ。適性には参加する」
「……それがよろしいかと」
「それで、魔法適性っていつ?」
それまでに、闇属性がバレないようになんとかする必要がある。
俺の破滅を回避するために。
「一週間後です」
「一週間後!?」
oh……ヤバイ。
たったの残り一週間で、魔法適性をどうしろっていうんだ。
闇属性だとバレたら、ファフニール家から見捨てられる。
これは権力の喪失と、カイルの破滅ルートが始まる第一歩だ。
……選択は二つ。
俺の破滅ルートを回避するため、闇属性だとバレないように隠し通すか。
いっそ闇属性だとバレても、問題ないくらい強くなるか。
しかし、ファフニール家の権力はこの国でもかなり高い。それを捨てるには、今後生き抜く上で惜しいものだ。
車椅子生活では、この世界では剣すら握れない。
最低でも、この一週間でもっと強くならなきゃいけない。
幸い、俺にはこれが見えている。
なぜ、カイル・ファフニールがこんな不自由な体なのか。
──────
【身体状況】
深影病:進行状態 30/100
最終的に、破滅をもたらすノクス・レイに至る。
──────
カイルはこの病に侵され、悪龍に変貌する。
しかし、その変化は中途半端な龍で、一番最初に死ぬ『
主人公たちはここから、世界を滅ぼす『ノクス・レイ』討伐までの大きなストーリーに挑む……が、俺は死にたくない。
龍になるなんてもってのほかだ。
──────
【デメリット】
手足の不自由、および魔法回路障害
【注意】
魔法を正しく使えません
剣を握れません
【メリット】
深影の精霊龍の力を引き出せます
──────
「どちらを選ぶにしろ……まずは、この足か」
「カイル様?」
ウルルが眉を潜める。
「ウルル、俺に剣を教えてくれないか」
自分でも驚くほど、なぜかワクワクしていた。