いずれ世界を滅ぼす極悪龍貴族に転生した俺、破滅フラグを回避したいだけなのに勘違いのせいで最強の聖人に祭り上げられる   作:Hiruandon

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第2話

 

 この世界には、大きく分けて二種類の魔法が存在する。

 

 人間の魔力を消費して放つ「人類魔法」。

 精霊の力を借りてマナを消費する「精霊魔法」だ。

 

 一般的な人間は人類魔法を扱うが、精霊魔法の使い手は極めて珍しい。

 

 なぜなら、マナの量は生まれつき決まっており、なおかつ精霊魔法は人間から教わることができない。

 そのため、せっかくマナを持っていても持て余してしまう者が大半だった。

 

 ────そして、カイル・ファフニールは、その珍(・)し(・)い(・)側(・)だった。

 

 カイルは、人類魔法に必要な魔力をほとんど持っていない。

 その代わり、人外レベルの莫大なマナを宿していた。

 

 それは生まれつき『深影の精霊龍』の呪いに侵されていた影響で、彼の肉体は人間というより精霊に近い変異を起こしていたのだ。

 

 つまり、カイルの本来の適性は人類魔法ではなく、「精霊魔法」だった。

 

 魔法適性試験まで、残り7日。

 

 まずは人類魔法を試してみたが、そもそも使えなかった。

 

 おそらく呪いのせいだ。

 

 ──────

【デメリット】

 手足の不自由、および魔法回路障害

 

【注意】

 魔法を正しく使えません

 剣を握れません

 

【メリット】

 深影の精霊龍による力を引き出せます

 

──────

 

 かといって、精霊魔法の使い方も知らなければ、そもそも周囲に精霊の姿すらない。

 

 だが……この世界で魔力やマナが使えなければ、俺は死ぬ。

 将来的には魔法も使えなくちゃいけない。

 

 何もしなければ、この世界のシステムに従って破滅するだけだ。

 

 何か方法はないか、と寝る間も惜しんで考えた。

 

 そこでふと、あることを思い出した。

 

────

【メリット】

 深影の精霊龍による力を引き出せます

────

 

 精霊龍の力を引き出せる。

 

 でもどうやって……? ゲームと違って、コマンドやボタンといったものは存在しない。 

 カイルは魔力量がかなり少ないし、自身の感覚で引き出す以外の方法はない。

 

「……マナ」

 

 精霊龍は分類的には精霊だ。

 つまり、マナを使って精霊龍の力を引き出せるということか?

 

 世界を滅ぼしかねない龍の力を使う……リスクがあるとは思う。

 

 だが、それを言ってられる状態ではないのも事実だ。

 せめて立ち上がれるようにならなければ、話にならない。

 

 でも、マナってどうやって使うんだ?

 

 魔力の使い方を聞いてみたところ、どうやら意識すれば使えるらしいが……。

 ウルルが怠そうに答える。

 

「基本は手ですね。手に力を込めるみたいに意識するんです。魔法を放つ時も、手から出るでしょう?」

「それなら、マナはどうやって使うんだ?」

「心臓らしいですが……私はマナを持っていないので、詳しくは分かりません」

 

 心臓か……。 

 生きていて、心臓に力を込めるなんてしたことないな。

 

 ……やってみるか。

 

 血液の流れを心臓に集めるイメージ……。

 

 心臓の鼓動が早くなる。

 全身が熱くなるのが感じられた。頭も少しボーっとする。

 

「……何か変わったかこれ」

 

 その時、システムの声が響いた。

 

────

【警告】

 深影の精霊龍による力を引き出しました。

 長時間の使用は、深影病の進行度を早めます。

 

────

 

「ッ‼」

 

 手の甲にマークが出現した。深淵のような深い色に龍の痣だ。

 ……力を引き出せたということらしい。

 

 立ち上がろうとすると、少しだが立ち上がれるようにはなった。

 

 だが……まだ立つのは大変か。足が震えている。

 

 でも少しずつだが、立ち上がれるようになってきた。

 

──────

【身体状況】

 深影病:進行状態 31/100

 ノクス・レイ(深影の精霊龍)により、徐々に死に至る呪い

 最終的に、破滅をもたらすノクス・レイに至る。

──────

 

 ……進行状態が進んだ。これも解決しないといけない問題だな。

 

──────

【デメリット】

 手足の不自由、および魔法回路障害

↓

【回復】

 手足の不自由が多少改善されました。

 マナが循環されたことで、魔法回路障害が回復しました

 魔法が使えます

──────

────

──

 

 ……おそらく、体内のマナが通ったことで回路が開通されたのだろう。

 

 手足が不自由だった理由が、ようやく腑に落ちた気がした。

 

「魔法回路が塞がっていたから神経が麻痺し、身体が機能していなかったのか。マナが全身を巡ったことで、ようやく動かせる状態になったんだな」

 

 人類魔法なら、誰かに教わって魔力を流すことで回路が開いたかもしれない。

 だが、精霊魔法の使い手なんてこの屋敷にはおらず、放置されるしかなかった。

 

 結果として、魔法回路が完全に塞がり、 長年車いす生活だったわけだ。

 とんだ弊害だったな……。

 

 これが訓練を始めた最初の日だった。

 

 二日目からは、徐々に立つ時間が増えてきた。

 

 徐々にゆっくり……なんて時間はない。

 

「立て……立て!」

 

 原作のカイルは長年、自分が立てないことに強い劣等感を抱いていた。

 庭園を軽やかに駆け回る同年代の子供たちを、ただ冷たい窓越しに眺めることしかできなかった男だ。

 

 その羨望と無力感がカイルの内側でドロドロとした強い憎しみに変わり、深影病の進行を無駄に早める原因となっていた。

 

 原作のカイルも、何度も立ち上がろうとしていた。

 そのたびに転び、怪我をし、ついには父から叱られるようになった。

 

 ────意味のない無駄な努力をするな。

 

 カイルはそれで、完全に立つことを諦めてしまった。

 だが、今の俺には打開する知識と足掻く意思がある。

 

 生まれた時からまともに動かしたことのない足だ。

 どこに力を入れれば地面を蹴れるのか、どう均衡を取れば倒れずにいられるのか。  

 

 脳からの伝達と肉体の反応が噛み合わず、歯がゆさで全身に嫌な汗が噴き出す。

 

 だがそれも、時間の問題だった。

 徐々に感覚を取り戻しはじめていた。

 

「……よし、よし! 立てる……立てるぞ!」

 

 屋敷での扱いはただの腫れ物。

 人類魔法の才能もなく、ファフニール家の『動かない落ちこぼれ』として捨て置かれていた存在のカイル。

 

 でも……立てる今なら、違う。

 俺はこの足で、どこにだって行ける。

 

 もう、カイル・ファフニールは落ちこぼれなんかじゃない。 

 

 *

 

 ……三日目には立てるようになった俺は、すぐウルルに剣の指導を頼んだ。

 ずっと車椅子に揺られていただけのこの肉体には、まともな筋肉すらついていない。流石に気が早いと言われた。

 

 そうだけれど、徐々に鍛える時間なんてない。

 

 魔法適性の義まで、時間は残されていないのだから。

 

「右から打ち込みますよ」

「ぐっ!」

 

 脳内にシステム音が響く。

 

──────

 ウルルとの剣術訓練にて経験値を50取得しました。

──────

 

 最初は簡単に倒されたり苦戦したが、レベルが上がったせいかコツを掴み出すと受けることにも慣れてきた。

 

──────

 ウルルとの剣術訓練にて経験値を50取得しました。

 【レベルアップしました】

──────

 

「……っ! 凄い……この短時間で私の剣が、見えるようになったのですね」

「少しだけだよ」

 

 それにマナを扱えることで、前よりも肉体を自在に動かせていた。 

 マナをずっと使い続けていた影響もあってか、体内でマナを回すこともある程度慣れてきた。

 

 それに前世でのゲーム知識で、ウルルの剣の動きはある程度知っている。

 

 マナ+原作知識で、なんとか訓練の形には保てている。

 

「左から行きますよ」

「せいっ!」

「……やりますね」

 

 楽しくなってきた。 

 精霊龍の力を少し引き出しつつ、剣に力を乗せる。

 

 そのせいか、時折彼女の剣を弾くこともあった。

 

 ……彼女は気づいていないかもしれないが、剣を握っている時のウルルはとても楽しそうだった。

 本当に剣が好きなのだと思う。

 

 ファフニール家の人間には、今は知られないようにしつつ、ウルルから剣を教えてもらう。

 

 今は訓練に集中したい。身体のことで騒がれるのは後で良い。

 

「本当に凄い……カイル様、ここ数日で凄い成長だ。実は、本当の実力を隠していたのですか? そうでしたら、流石ですが……」

「まさか。俺が歩けなかったことは知ってるだろ?」

 

 マナ+原作知識+精霊龍の力で、ウルルとも剣の練習になる。

 

 数日でここまで漕ぎつけたのは順調と言わざる得ない。

 

「次は魔法が使えるようになりたいが……精霊魔法か」

 

 精霊魔法を使うには、精霊に会う必要がある。

 

「ウルル。精霊がどこにいるか知っていたりするか?」

「いいえ、カイル様。精霊とは幻想の地や、神秘の高い場所にしか存在していません。人生で一目見るだけでも幸運だと言われているような者たちですから」

「ウルルは見たことがあるのか?」

「一度、戦場を駆け回っていた時に森の精霊を見ました。ありゃ、みんなが思ってるほど、良いもんじゃない」

 

 ウルルの緊張した様子からも、何か気になることがあるような様子だった。

 

 精霊が激レアな存在だということは分かったが……。

 

「……精霊魔法を習ってみたいんだがな」

「はははっ! 無理ですよ。そもそも精霊魔法の使い手なんて、この私ですら見たことないですし」

「そっちもレアなのか?」

「レアなんてもんじゃない。国に一人いるかいないかですよ」

 

 そこまでレアだったのか。

 あまり知られると良いことにはならないかもしれないな。

 

 それこそ、実験対象になるかもしれない。

 

「あ~、精霊魔法使いと戦ってみてえな~。ぷはぁ~、仕事中に吸うヤニうめぇ~」

 

 タバコをふかしながら、ウルルが空を見上げていた。

 こいつほんま……タバコ叩き落としてやろうか。

 

 ……疑問を湧いたんだけれど、ウルルの態度が最近全然違う。

 どうして俺への忠誠心が芽生えたんだ? ここ数日で何があったのだろう。

 

 まぁいい。ウルルにだけは精霊魔法の使い手だとはバレないようにしよう。

 

──────

【精霊魔法】

 現在:使用不可×

 精霊による魔法を許可されていません。

 精霊とマナで交流し、親睦を深めてください。

 

 進行状態:3/10

 

【報酬特典】

 精霊魔法使用可能

 キャラクター属性変更

 

──────

 

 思わず苦い顔をする。

 自分の状態が見れるのは便利だけれど、この無情さはシステム特有だな、と感じる。

 こういうのって、転生特典でもっとチート能力とか持ってても良いんじゃないか?

 

「精霊に会う方法はないか……」

「ありませんね」

 

 はぁ、とため息をつく。

 俯くと、思わず手の甲に視線が向かった。

 

 これはレクスと繋がっている。

 

「…………ッ!」

 

 精霊に会う方法は、ある。

 

 

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