いずれ世界を滅ぼす極悪龍貴族に転生した俺、破滅フラグを回避したいだけなのに勘違いのせいで最強の聖人に祭り上げられる 作:Hiruandon
【魔法適性まで残り7日だった頃】
ウルル・バルハザードはかつて剣聖だった。
この世界において、王都が滅びる危機を三度も救った。
酸の海で死海のサーペント、灼熱の火山で炎王ドラゴンを、ついには魔神復活を阻止した。
彼女に与えられた名誉は────剣聖のみ。
そして、戦いで子供を守り片腕を失った。
隻腕となった彼女を、王国はすぐに見捨て新たな剣聖を据えた。
ウルルへの手当やその後の保証などはなく、居場所を失い、剣の道すら失った彼女をファフニール家は大金で拾った。
そして、剣も握れないカイル・ファフニールの専属となった。
……どれほど国に尽くしたところで、使えなくなったら簡単に捨てられる。
かつては、
『剣聖様が居れば、我が国は安泰だ!』
『流石ウルル様……!』
『国を守ってくれてありがとう!』
だが、腕を失ってからは全く違った。
『やった! 新しい剣聖様だ!』
『前の剣聖は不安だったから、安心できる!』
『ようやく安心して暮らせるわ』
全員に認められるとは思っていない。
けれど、腕を失い戦えなくなった瞬間から、世間の評価はがらりと変わった。
────剣を失った瞬間から、誰も私の剣を求めなくなった。
辛い気持ちを吐き出すように、煙草をふかした。
「ヤニうめ~……」
最近では、酒と煙草ばかりな気がする。
剣聖だった頃は、どちらもしていなかった。
この行いが……自分を憐れんでいることくらい分かる。
中庭で必死に立ち上がろうとするカイルを見ながら、ウルルは内心で思う。
「カイル様……なんか、変わったな。ふぅ……」
少し前まで、もっと生意気で傲慢な子供だった。
父親に『落ちこぼれ』といわれれば、一人部屋で喚き散らすし、人にも強く当たる。
メイドにも厳しく、物を投げてはよく怪我をさせていた。
なんなら、私の名前すら覚えていなかった。
大量の汗を流しながら、立ち上がろうとするカイルから目を離せない。
『君は本来、騎士団や剣を振るう場所に居たいはずなのに……俺のような元で、飼い殺しにさせてしまっている』
……あの言葉が気になる。
どうして、私の心を見透かせた?
私がまだ、剣への未練が捨てきれていないと……どうして分かったんだ。
きわめつけ、急に努力し始めた。
今まで、一度も立ち上がろうなんてしたことがないのに……。
『ウルル。とりあえず俺は、自分で歩けるようになるよ』
……。
『そしたら、俺に剣を教えてくれないか』
「……」
首を横に振る。
無理無理。立ち上がれもしないのに、剣なんか握れる訳もない。
急にやる気が出たのは良いが、どうせすぐ諦める。
「でも……久々に私の剣を求められた気がするな」
もう何十時間も、カイルは努力していた。
*
【魔法適性まで、残り6日】
今日もカイル様は立ち上がろうとしている。
だが、昨日よりも力が増しているように感じた。
「っ‼」
目に見える訳ではないが、オーラが増している気がする。
……どういうことだ? 彼の足は不治の病だと聞いている。
でも彼は今、確かに立っている時間が増えている。
長時間は無理でも、数秒から数分に……一体どうやって……。
でも努力の仕方が酷いな。
まるで死にたくないから、頑張るみたいな必死さだ。
一体、何が彼をそこまで突き動かすのだろうか。
地べたを這うカイルに近寄る。
「……あなたの足は、生まれつきだと聞いています。どう頑張っても無理でしょう」
闘いの中でも、傷を負って戦士を辞める者はいた。
でも、その後のリハビリや努力で復帰した人間も見たことがある。
だが、カイルのように生まれつき不自由な人間は、また別の話だ。
「原因不明の不治の病……可哀想だとは思いますが、絶対に無理なのですよ」
これでカイル様も諦めがつくだろう。
だが、カイル様の眼は諦めていないように見えた。
*
【魔法適性まで残り5日】
カイル様は完全に立っていた。
「おはよう、ウルル」
「なっ……ど、どうして!?」
あれは絶対に無理なはず……たった二日で立てるようになった……?
どうやって……?
一週間後の魔法適性の話を聞いてから、様子が変だとは思っていたが……。
「ウルルの剣、教えてくれるか」
まさか! そのためだけに、何時間も頑張って……。
「そ、そんなに私の剣を学びたいのですか……?」
「そうだ。すべては身体が資本だ。それは剣の道に通ずるだろう?」
どうして、心がキュンキュンしてるんだ。
私は死地を何度も潜り抜けてきた。
彼の行動はただの気まぐれだと思っていた。
だがカイルの目は……真剣だ。
今まで歩けなかった少年が、たった二日で歩けるようになった。
どんな手を使った? どんな方法を? いや……どうであれ、私はこの二日間見ていた。
地べたを這いつくばっても立ち上がろうとする彼の努力を────。
とんでもない根性と覚悟だ……。
タバコの火を消し、微笑んで見せた。
「まったく……少しだけですよ」
もしかしたら私は、心の奥底で……こんな日を望んでいたのかもしれない。
*
【魔法適性まで残り3日】
この二日で分かった。
……カイル様は天才だ!
剣はまだまだが、才能がある! それにその内に秘める力がとんでもなく奥深い。
彼が立てるようになった理由は、まだ見えてこないけど剣の筋も良い。
何より真面目だ。
前は喚き散らす子供だったのに、剣で傷を負っても文句ひとつ言わない。
彼に何があったんだ。
カイルと剣戟を交える。
何より、この剣に込められている力だ。
……何だ、この剣は!
私は今まで、幾度も剣を交えていた。
けれど、剣先から伝わって来る魔力とも違う力に、困惑していた。
カイル様は己から何を引き出している?
何を持っている?
知りたい。
この力の源が知りたい。
この子供は凄い子供かもしれない!
そう、煙草を吸いながら強く思った。
「ヤニと最高の弟子……美っ味ぇ~……」
あぁ、でも……やはり剣は素晴らしい。
剣から伝わって来る真剣さ、気持ち……表裏のない感情が、心地よい。
隻腕になっても、やはり私は剣が好きなんだな。