いずれ破滅する悪役貴族に転生した俺は、規格外の『精霊魔法』で魔法を極めて無双する~ラスボスと出会って得たスキルで、破滅フラグを回避したいだけなのに最強の聖人扱いされている~ 作:Hiruandon
「カイル~! カイルカイル~!」
屋敷の外で誰かが俺の名を呼んでいた。
バタバタと脚音を立てて屋敷の中へ入り、部屋の扉を開けた。
優雅に紅茶を飲んでいる俺を見て、その女の子はパッと顔を明るくする。
赤髪に溌剌な少女……俺はこの子を知っている。
「カイルだ~!」
「……エルフィか」
エルフィ・ガフニール。
彼女はこのゲームのヒロインの一人であり、カイルの幼馴染だった。
しかし、エルフィはファフニール家の当主の直系(本家)ではなく、本家を支える分家の血を引く少女であり、俺のいとこにあたる。
この原作において、代々『光属性』という絶対的な血統と権力を誇るファフニール本家において、エルフィはどこか一歩引いた立場に置かれる。
本家のカイルから見ても、エルフィは同じ血を分け合いながらも、本家の中心から外れた場所で静かに生きる身内であった。
カイルにとって、彼女は数少ない友達かつ初めて異性に恋心を抱く相手であった。
しかし……彼女がゲームの主人公に懐いたことで、カイルは奪われたと思い込んで強い嫉妬心を抱くことになる……というのが原作のお話だ。
まぁ、今の俺が彼女へ嫉妬心を抱くことはあるまい。
「エルフィも明日の魔法適性の義を受けに来たのか?」
「そうだけど、大好きなカイルに会いに来たんだ~!」
急に抱き着かれ、紅茶をこぼしそうになる。
まだ子どもであるせいか、やけに近いな……。
美貌だけで見ればかなり可愛い部類になる。成長すれば、より美しくなるだろう。
「カイル様、そろそろ訓練のお時間かと」
淡々と告げるウルルに、もうそんな時間かと思う。
「分かった、向かおう」
そう言って立ち上がると、エルフィが叫んだ。
「……カイルが立った……カイルが立ったぁぁぁ!?」
あっ……しまった。
ウルル以外には屋敷の人間を含め、騒がれたくないから黙っていたのを忘れていた。
「いやあの、エルフィこれは……」
「叔父様たちに伝えなくちゃ‼」
そのまま駆け出していくエルフィを俺は止めることができなかった。
「……ウルル」
「こうなっては仕方ございませんね。お任せください」
どちらにしろ、この騒ぎは覚悟していたが……まさか今とは。
少しすると、エルフィが連れてきた父上が驚いた顔をした。
「カイルが……立っておる!? どういうことだ!?」
「はい、父上」
「ど、どうやったのだ!?」
傍に居たウルルが、慎みながら口を開いた。
「私が協力致しました。元剣聖の知恵と人脈を使い、カイル様を治して差し上げたのです」
実はウルルの協力があったから解決できたのだと、口裏を合わせてもらった。
ウルルは訳も聞かず、「まぁいいですよ」と了承してくれた。
俺もちゃんと説明したいところだが、マナを持っている精霊魔法は激レアだとウルルから聞いた。
あまり下手に広めると、王都から研究対象にされる可能性がある。
それでは、いくら破滅から逃れられたとしても、被検体ルートでしかない。
「そう、か……ならばなぜ、すぐに報告しなかった」
「俺が口止めをしていたのです。もし、また歩けなくなってしまったら父上を失望させてしまうかもしれない。完全に治ったと言えるようになってから、お伝えしたかったのです」
「……ふむ、一理ある。驚くほど聡明な考えだ」
納得してくれたようだ。
「しかし、歩けるようになったのは良かったな。一人でも暮らしていけるだろう。私の心配もこれでなくなった」
「……はい」
ウルルが露骨に顔をしかめた。
魔法適性の義で、良い結果を出せなかった場合……どうなるかを暗に告げているのだろう。
エルフィが嬉しそうに俺の手を握った。
「カイル! 歩けるようになったのなら、街へ遊びに行こうよ!」
「いや俺はこれから訓練が……」
エルフィから泣きそうな顔をされる。
父上からも少し睨まれているように見える。
……分家とはいえ、エルフィの家は有望な人材を多く輩出している。
ガフニールが分家になった理由は、『炎属性』の適応者だったからだ。
しかし、高密度の炎を扱える魔法使いはそう多くはない。
エルフィは将来、最高クラスの炎魔法使いへと成長する。
「はぁ……分かったよ」
「やった!」
こういう素直で可愛い所に、カイルは惹かれていたのかもしれないな。
実際、ユーザー間でのヒロイン人気もかなり高い子だった。
成長した姿はまさに赤髪の美女。それでいて素直な子だ。
人気が出ないはずがない。
*
ファフニール家から離れ、街に出たのは初めてのことだった。
ゲームとは違って、実際に訪れるとこう……リアル感が凄いな。
街中は安全だし、護衛にはウルルが居れば十分だろう。
肝心のウルルは、後ろで少し苛立った様子を見せていた。
「……吸ってもいいんだぞ?」
「……いえ、カイル様のメイドとして流石に街中では吸う訳には行きませんから」
そういいながら、視線はずっと喫煙所に向いていた。
どんだけ吸いたいんだよ……。
「私は、これでもメイドですので」
そういいながら、身体が徐々に喫煙所に引き寄せられているが?
仕方ない。
ため息を漏らしながらエルフィに言う。
「エルフィ、ちょっと休もう。ウルル、少し席を外しても大丈……「承知いたしました」」
食い気味‼
足早にウルルが喫煙所へと吸い込まれていく。
あれは一部の人にとって、ブラックホールか何かなのかもしれない。
俺たちは、近場の噴水に腰を落ち着かせた。
「カイル、本当に凄いね」
「俺が?」
「うん。だって、あの人って元剣聖の凄い人なんでしょ? それを配下に置くなんて……」
ウルルが忠誠を誓ってくれているのは分かる。
実力も申し分ないが……。
ウルルへ視線を向けると「あ”ぁ”~美っ味ぁ~……」と中毒者が見えた。
「配下ね……」
「それに、前よりも口調も丁寧で、どことなく雰囲気も凄くなった気がする」
おそらく、ノクスに会った影響だろう。
そのせいで、俺のオーラが変わったのだと思う。
自分でも感じることがある。
その時、怒声が響き渡る。
「このクソガキ共‼ 流民のくせに、調子に乗ってんじゃねえ‼」
そちらへ視線を向けると、複数人の大人が子供たちを蹴っていた。
何事だ?
大人たちは整った身なりをしており、対照的に子供たちは貧相な姿をしていた。
「物乞い風情が、俺たちの視界に入ってくんじゃねえよ!」
「お、お許しを! もうこの辺りには現れませんから!」
近くにいた野次馬へ問いかける。
「一体、あれはなんだ?」
「流民のガキどもが、あの冒険者たちの馬車にイタズラしたとか何とかで言いがかりをつけられてるらしいよ」
隣にいるエルフィが、酷く不安そうにしていた。
彼女に嫌われるようなことは避けたいが……人助けがしたい訳でもない。
俺は悪人じゃないが、善人でもない。
しかしまぁ……放置は、できないか。
ここはファフニール領地内だ。後でこのことが、責められる理由になるかもしれん。
「カ、カイル?」
俺は事態の収拾にあたる。
「おい、何事だ?」
「なんだこのガキ……」
「何事かと聞いている」
殴られていた年長者のような子供が、訴えるように叫んだ。
「ち、小さい子が馬車の馬を撫でていただけなんだ! 可愛いと……勝手に触ったことは謝る!」
「ダメだ。許さねえ……お前らみたいな卑しい奴らが馬車に触ったせいで、俺らの運気が下がった。いますぐ慰謝料を払え」
「そ、そんなお金は……」
乱雑な冒険者が、子どもの胸倉を掴んだ。
「なら体で払え。どうせ親も家もない流民だろ。売る部位はたくさんある」
「ひっ────」
……低俗な脅しだな。
確かに、この世界の冒険者は荒っぽい人間が多い。
「……慰謝料が欲しいのなら俺が払おう。だからこの場は穏便に済ませてくれないか」
「あぁ? んなもん要らねえよ! 怪我を負いたくないのなら、今すぐ失せろ!」
エルフィが俺の袖を引っ張りながら、勇気を出すように叫んだ。
「こ、子供をイジメるなんて許せないよ!」
「……高そうな女の子だなぁ」
「ひゃいっ!」
……こいつら、そうか。
なるほど、合点がいった。
「慰謝料を払うだけでは足りないのか? なぜそこまで子供に拘る……お前ら、人攫いだな?」
「っ! どうして……」
「大方、そんな所だろうと思ってな」
周囲の野次馬がひそひそと囁き合う声が聞こえた。
「人攫いかよ……」
「最近、子どもが消える話は聞いてたけど……」
「あいつらのせいだったのか?」
不敵に笑うと、焦ったように男たちが武器を取り出す。
「お、俺たちは冒険者だ! 人攫いなんかじゃねえ! 馬鹿にした奴の報いを見てろ‼」
男が剣を抜き、俺へ襲い掛かって来る。
エルフィが叫んだ。
「カイル‼」
身を躱して剣を避ける。
……遅いな。
ずっとウルルの剣と戦ってきたんだ。
この程度の雑な剣、簡単に抑えられる。
柄に手を伸ばし、素早く抜刀する。
振りかざしざまに男の腕を切り捨てた。
「ぐあ、ぐああああ!? 俺の腕が……! こ、殺せ! お前らこのガキを殺せ‼」
あと三人……。
襲い掛かってくる男たちを同時に相手取るのは問題ないが……。
俺は静かに、男たちに手を翳す。
アレを試してみるか……。
────スキル発動。
「
シィィィン……ズドンッ‼
圧し掛かる重力のように、男たちが恐怖に包まれる。
襲い掛かろうとしていた者たちは地べたを這い、動けなくなる。
「イッ!!」「グッ!」
「た、立てねえ……なんだこのガキ……! 普通じゃねえ……!」
凄いな……これが威圧か。
思ったよりも使えるスキルのようだ。
流石は……ノクスの力だ。
少し間をおいてから、ウルルの声がした。
「カイル様、ご無事のようですね」
「問題ない」
「罰しますか? なんといっても、カイル・ファフニール様に手を出したことはこの場で死罪が妥当かと」
ウルルが剣を罪人の首元に押し付ける。
その言葉を聞いた瞬間、周囲が一気に騒めいた。
「カ、カイルだと!?」
「カイル!?」
「カイルって、ファフニール家の!?」
「本物か!? 歩けないって話じゃないのかよ!」
「あんな強いのか!?」
襲ってきた男たちも事態の重さに気づいたようで、青ざめていた。
「必要ない。役所に突き出しておけ」
「承知いたしました」
「そうだ」と俺が切り落とした腕を見つめる。
「腕のいい治癒師なら、すぐに繋げられるだろう。繋げてやれ」
こんなことで恨まれるのも勘弁だしな。
俺は殴られていた子供たちに手を差し伸べ、腰を低くした。
「荒っぽい解決で悪かった」
「いえいえ! ありがとうございます‼ ……初めて、誰かに救っていただきました」
「……そうか。そうだ、もし君たちに当てがないのであれば……ファフニール家でしばらく面倒を見よう」
「よろしいでしょうか……?」
「気にすることはない。ファフニール家で仕事をしてもらうこともあるかもしれないが……良いか?」
「もちろん大丈夫です! ありがとうございます!」
深々と感謝される。
隣から心配そうな声音が聞こえた。
「カイル……」
「エルフィ、すまなかった。怖い目に遭わせてしまった」
まさか、こんなことになるとは思っていなかった。
好感度が大きく下がってしまったかもしれないな。
「……凄かった!」
「え?」
「カイルってあんなに強かったんだ! しかも、子どもたちまで救うなんて……本当に凄い!」
目を輝かせるエルフィに、困ったような顔を返すしかできなかった。