主に自分の妄想を書いているゆるい作品になります。ゆるーく楽しんでもらえたら幸いです。
あまり文才はないので、批評募集中です。
※時折本編にないカップリングで書くことがあるので、そこだけ許容していただきたいなと思います。
学園祭の季節、IDAスクールは慌ただしくなっている。私たちIDEAも同じように忙しくなっていた。
「会長! こちらの件ですが……」
「ああ、それは……」
生徒はそれぞれが出し物や研究成果を発表しようとしている。そうなれば、望んでいなくともトラブルが起きてしまうことが多い。そのため先生方や風紀委員会、他の組織とも連携を取りながら対応に当たっている。
「……連絡だね」
外でトラブルの対応に当たっていたメンバーから連絡が入る。
どうやら漫才の練習をしていた生徒が相方のロボットの爆発に巻き込まれたらしい。幸い大した怪我はしていないみたいだけど、現場が混乱しているようだ。
IDEAの指令室もこの忙しさのせいでみんな対応できそうにない。このまま手が空くのを待つより、私が行って場を収めるほうが効率的だ。
「すまない、少し出てくる」
「はい、こちらは任せてください!」
オペレーターに声をかけた後、私は足早に指令室から出た。
IDAシティのセントラルパークに向かってみると、想像していたよりも大きな騒ぎは起きていないようだった。すでに件の生徒は介抱されていて、意識も戻っている。
「あれ? イスカじゃないか」
「アルド? キミもきていたんだね」
聞き馴染みのある声を聞いて振り返る。彼の姿はいつも着ている中世の服ではなく、IDAスクールの制服。マナの事件の時から入学していたから不思議はないけれど……やっぱり少し見慣れないね。
「イスカはIDEAの仕事か? 忙しそうだけど……」
「うん、もうすぐ学園祭だからね。みんなに活気がある分、トラブルも増えるものさ」
「学園祭……話には聞いてたけど、そんなにすごい祭りなのか」
「IDAスクール全体で行われる一年に一回の催しだからね。それに自分たちの成果を外の人に見せる場でもあるんだ」
「そういうことか……」
アルドが何か納得したように頷いていると、その背後から走ってくる生徒が見えた。
「アルドさーん! そろそろ再開しますよ!」
「あれ、もうそんな時間か? すぐ行くよ!」
アルドはセントラルパークに立っている時計塔を見上げた後、急いだように呼びにきた生徒の後を追いかける。
「悪いイスカ! そろそろ行かないと」
相変わらずの調子みたいで、少し顔がほころぶ。最近はスクールに活気があるけれど、一方で少し空気が張り詰めていたから……。アルドに会えて、少し肩の力が抜けたみたいだ。
こちらは心配しないでいい。そう伝えるため、アルドに手を振って見送る。彼も手を振り返してくれた後、どんどんその背中を私から遠ざけていった。
「……」
「学園祭、誘わなくてよかったの?」
「ヒ、ヒスメナ!? いつからそこにいたんだい……?」
「手を振ってたあたりから。それより、よかったの?」
「……アルドも忙しいようだし、無理に誘うわけにはいかないよ」
「あら、そんなの聞いてみないと分からないでしょう?」
なぜか楽しそうに笑いながらそう言う。ヒスメナはここ最近、私とアルドの仲を邪推しているような気がする。
……どうにもそういう目で見られるのは気恥ずかしくて慣れない。
「ヒスメナ、まだやることは多いんだ。早く戻るよ」
「意外と素直じゃないんだから……」
それから一週間が経ち、あっという間に学園祭の初日になった。
あれからもアルドの姿は何度も見かけた。時には荷物運びを手伝ったり、時にはトラブルの仲裁に入っていたり。どこにいてもアルドは変わらない。
けれど忙しさのせいで話す機会はないままだった。
「……今のところ問題はなさそうだね」
今のスクールには、お祭りを楽しみにきた人、有望な学生を見にきた人、これからスクールの生徒になる人……とにかく、いつも以上に色々な人がやってきている。
揉め事や事故がどこで起きるか分からない。いつも以上に目を光らせる必要がある。
「……ん? なんだか向こうが騒がしいね」
私がH棟を見回っていた時、余裕なさげに話している一団を見かけた。
近づいてみると、私の白制服を見た生徒たちが驚いたように目を見開く。
「あなたはIDEAの……」
「何があったのか聞かせてくれないかい?」
「それが……」
説明をしてくれた男子生徒によると、彼らは学園祭で演劇をしようと頑張ってきた。しかし30分ほど前、ヒロイン役の子が機材トラブルに巻き込まれて怪我をしてしまったという。
「今は助っ人の人が保健室に連れて行ってるんですが……怪我の具合によっては舞台に立てないかもしれなくて」
「ふむ……」
私がどうするべきかと悩んでいると、駆け足で近づいてくる音が一つ。
「あっ、アルドさん! どうでしたか?」
「それが……安静にしないとダメだって……」
「……アルド?」
残念そうに目を伏せるアルドの姿をみて、つい名前を呼んでしまった。
アルドもその声で私に気がついたのか、目を丸くしながらこちらを見る。
「もしかして、助っ人というのはアルドのことかい?」
「あ、ああ。なぜか役者としてスカウトされてさ……っと、それより、劇をどうするか考えないと」
「怪我をした子はどんな役だったんだい?」
「それが、この劇のヒロイン役でして……ほかにできる人がいないんです」
事態は想像以上に深刻なようだ。彼らもこの日のために相当な努力をしてきたのだろう、涙ぐんでいる人もいる。
「なあイスカ、何とかならないかな。こんな形で終わって欲しくないんだ」
「……台本を見せてくれないかい?」
アルドから受け取った台本を読んでみる。どうやら有名なラブロマンスをアレンジした話のようで、内容を覚えるのも難しくはなさそうだ。
連絡をすると言って少しその場を離れる。手助けしたい気持ちはあれど、何も言わずに私が仕事を離れるわけにはいかない。
「ヒスメナかい? 少し相談があるのだけど……」
一通りの事情を説明した後、誰か手伝ってくれる人がいないか聞いてみた。
端末越しで少し沈黙があった後、ヒスメナの声が私の耳を叩く。
「それならイスカがやればいいじゃない。どうやら短い劇のようだし……」
「いくら短い時間だったとしても、私が離れるわけには……」
学園祭で起きる問題は、生徒が起こすようなものとは違うものも多い。私はその対応に慣れているし、離れるのは得策とは思えない。
「少し肩に力をいれすぎよ。あなた、まだ休憩も取ってないでしょう? このままじゃ最終日まで持たないわよ」
まあ、助っ人が休憩になるかは微妙なところだけど。ヒスメナはそんなことを言って少し笑っている。
思い返せば、ここ数日は働きっぱなしだったかもしれない。……少し気負いすぎていたのかな。
「そうだね。少し、休憩させてもらおうかな」
ヒスメナとの通信を切った後、心配そうにこちらを見ていたアルドたちの方を向く。
「私で良ければヒロインの代役を任せてくれないだろうか」
「い、いいんですか……!?」
「年に一度の大切な日だ。キミたちにとっても、良い思い出であって欲しいからね」
演劇部員たちはひたすら頭を下げたあと、衣装や舞台の準備があるからと言って慌ただしく走っていった。
「そういえば……ヒロインということは相手がいるのだろう? できれば開演前までに一度台本の読み合わせをしたいのだけど……」
「あ、ああ……実はオレがその相手役なんだ」
「そうだったんだね……手間がはぶけて良かったよ」
それから少しの間だけ、アルドに劇のことを教えてもらいながら準備を進めた。
……どうやらアルドは、いつもの格好で歩いていたら劇に出ないかとスカウトされたらしい。何というか、アルドらしいね。
劇の内容は中世の騎士とその恋人の物語。国を守る騎士は恋人のもとを離れて戦いに向かう。
台本で感じた印象の通り、騎士と恋人、その二人の会話が中心の劇になる。
「僕はこれから君のもとを離れなければならない。どうか、僕の帰りを待っていてはくれないか?」
アルドが舞台の上で、観客の目を引くような青いマントに身を包み凛々しい顔で私を見ている。アルドにとってこの役は合っていたのか、ぎこちなさはない。
「あなたが国のために尽くしていることは分かっています。ですが……」
すでに劇は終盤。セリフも一通り覚えているし問題はない。台本の通りに、恋人のセリフをアルドに向ける。
「僕が戦うのは国のため……そして何より、君のためなんだ。どうか信じて待っていてくれないか」
きっと恋人は、優しくも危なっかしい騎士のことが心配なのだろう。富や名誉はいらない。ただそばにいて欲しい、それだけなのに……その願いだけが叶わない。
けれど、最後には頷くしかないのだ。彼が止まらないことを知っているから。
「あなたはいつだって、最後には帰ってきてくれました。きっと今回も……」
本当はどう思っていたのだろうか。負担になるからそれ以上何も言えなかったのだろうか? それとも……覚悟していたのだろうか?
私なら……隣に立てるのに。なんて、こんなことを思うなんて、私も少し浮かれているのかもしれない。
「私はここから、祈っています。あなたが無事に帰ってくることを」
私はどんな表情をしているのだろうか。演じているはずなのに、よく分からなくなってしまったな。
無事に劇が終わり、私とアルドは校舎の屋上で少し休憩していた。すでに日が落ち始めて、スクール全体がライトアップされている。祭りの喧騒から離れていても、その空気を感じる気がする。
「お疲れ様、アルド」
「イスカこそ。やっぱり、さすがだったな。すごい演技だったよ」
「ふふっ、そうかな?」
どうやら、アルドから見ても私の演技はおかしくなかったみたいだ。
「あの恋人の役は、少し感情移入できるところがあってね。気持ちを入れすぎていないか不安だったんだけど……」
「へえ、どのあたりでそう思ったんだ?」
「ふむ、そうだね……」
屋上の手すりに体重を預けて少し考える。遠くに聞こえる喧騒と、柔らかい風が心地よい。
「お人好しで危なっかしい騎士を心配していたところかな?」
「えっ? イスカってそういう相手がいるのか?」
アルドはいまいち理解していないのか、目を丸くして私を見つめている。やっぱり、キミは変なところで鈍いんだね。
少し頬が緩むのを感じながら、隣に立っているアルドの方を向く。
「そういうわけじゃないさ。ただ、隣に立っていたいと思っているだけさ」
「どんな人なんだ? オレもイスカに協力するよ」
「ふふっ、気持ちは嬉しいけど……アルドにはちょっと難しいかな?」
他の誰でもない、キミのことだから。
「ええ……なんだか今日のイスカは意地悪だな」
「学園祭だから浮かれているのかもしれないね」
スクールの生徒の多くは、学園祭のため必死に頑張っていた。将来につなげるため、友人とかけがえのない思い出を作るため……。
「イスカにとっても、大事なイベントなんだな」
「そうだね。学園祭は生徒が自由に自分たちを表現できる舞台だ。私は、みんなの努力を守ることができて嬉しいんだ」
「イスカ……だったらさ」
……こんなことを言えば、アルドは手伝うと言ってくれるだろう。でも、そうして欲しくない。
私はアルドの言葉を遮るように首を横に振り、目を見て語り掛ける。
アルドのまっすぐに澄んだ目が私を映していて、なんだか少し安心する。
「今は、アルドもIDAスクールの生徒だよ。キミにとってここは夢を追いかける場所ではないかもしれない。それでも、楽しい思い出を作っていつかの支えになるような……そんな大切な場所であって欲しいと思ってる」
「もうとっくに、ここはオレにとっても大切な場所だよ。もちろん、いろいろあったけど……どれも大切な思い出だ」
「うん。……ありがとう」
二人で話し込んでいたら、いつの間にか花火が打ち上がって空が明るく照らされ始めた。花火に視線を向けるアルドの横顔を、つい見つめてしまう。
いつもは頼りになる仲間だけど……ふとした瞬間に見せる表情はまだ少し幼い。……どうしてだろうか。劇でアルドが演じた騎士と重なって見えて、ついこんなことをつぶやいてしまった。
「待つだけじゃない。私は……キミの隣を歩くよ」
「えっ? 何か言ったか?」
ちょうど花火の音と重なってくれたのか、アルドは聞き逃していたみたいだ。自分のことながら意外だ。はっきり伝える度胸が私になかったのだから。
「ふふっ、なんでもないよ」
私はアルドの仲間で、守られるだけの存在じゃない。彼の隣を歩いて、過去でも未来でも、どこにだって助けに行ける。いつかIDAスクールを離れたとしても、そうありたい。
……だからまず手始めに、明日アルドと一緒に遊ぶ約束を取り付けることから始めようかな。願わくば、彼の隣で長く笑っていたいから。
いつかIDAスクールの学園祭イベントが来てほしいですね。