警察署の受付に、一人の少女がやってきた。
華やかな和装に身を包み、両手で大切そうに抱えているのは小さな竹籠。どう見ても迷子か、あるいは何かのお使いに来た子供にしか見えないが、受付の警察官は少女の顔を見るなり慣れた様子で笑顔を浮かべた。
「ああ、イマリちゃん。お疲れさま。今日はどうしたの?」
「こんにちは。えっとね、ヴィランさんたち、連れてきたよ」
「おっ、今日も捕まえてくれたんだね。何人かな?」
「四人だよ。みんな、ここにいるの」
イマリが竹籠を少し持ち上げると、中から甲高い声が響いた。
「ギャッ! ギャギャッ!」
「ギィーッ!」
警察官が覗き込むと、そこには小さな鬼が四匹、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
赤や青の肌をした奇妙な生き物たちは、小さな角を揺らしながら何やら必死に訴えている。
しかし、イマリが籠の蓋を軽く叩くと、途端に大人しくなった。
「こらこら。暴れちゃダメだよ。もうすぐ元に戻してあげるからね」
「ギャッ……」
「えへへ。いい子、いい子」
イマリは嬉しそうに微笑むと、籠を優しく撫でた。
その様子を見守っていた警察官は、内心で小鬼たちに同情していた。
彼らがどんな犯罪を犯したのかは知らないが、人間がこのような姿に変えられ、籠に詰め込まれている光景は、何度見ても慣れるものではない。
「じゃあ、いつもの部屋に案内するね。塚内警部もいると思うから」
「うん。ありがとう」
少女は嬉しそうに頷き、警察官の後ろについて歩き始めた。
遊々花神イマリ。本名、尽小花・イマリ。
れっきとしたプロヒーローである。
もっとも、その名を知る者はあまり多くない。
ヒーロービルボードチャートの上位に名前が載ることもなければ、テレビで華々しい活躍を披露することもない。
主な活動範囲は限られた地域であり、地元の住民からは、可愛らしい格好をした少し変わったヒーローとして知られていた。
しかし、彼女と付き合いのある警察官たちの評価は少し違う。
何しろ、この少女が連れてくるヴィランたちは、ほとんど例外なく無傷なのだ。
それも、本人が抵抗できないほど完全に無力化された状態で。
「おや、イマリちゃんじゃないか」
案内された先で、スーツ姿の男性が声をかけてきた。
「あっ、塚内さん。こんにちは」
「こんにちは。今日もお仕事かい?」
「うん。ヴィランさん、捕まえたの」
イマリが竹籠を差し出すと、塚内直正はその中身を覗き込み、思わず苦笑した。
「……四人もか。今日は大漁だね」
「えへへ。みんな、イマリと遊んでくれたんだよ」
「そうか。それはよかった」
「うん。でもね、一人だけ遊んでくれなかったの」
「……ああ、そうなんだ」
「だから、ごめんなさいって謝ったの。次は遊んでくれるといいな」
塚内は小鬼たちを見下ろした。
四匹のうち、一匹がぶるぶると首を横に振っている。どれが遊びを断った本人なのか、わざわざ尋ねる必要はなさそうだった。
「それで、今回はどんな事件だったんだい?」
「えっとね、銀行からお金をいっぱい持って出てきたの。お店の人が困ってたから、イマリが止めたんだよ」
「銀行強盗か。怪我人は?」
「いなかったと思うよ。イマリ、ちゃんと聞いたもん」
「そうか。ありがとう。詳しい話はあとで聞かせてもらおうかな」
「うん!」
塚内は近くにいた警察官に目配せした。
すぐに準備が整えられ、イマリたちは奥の部屋へと案内された。頑丈な扉の向こうには、個性による抵抗を想定した設備が整えられている。
「じゃあ、イマリちゃん。いつも通り、一人ずつお願いできるかな?」
「うん。いいよ」
イマリは籠を床に置くと、蓋を開けた。
「じゃあ、赤い子からね。出ておいで」
「ギャッ!」
小鬼が一匹、ぴょこんと飛び出した。逃げ出す様子もなく、イマリに言われた通り部屋の中央まで歩いていく。
「いい子だね。じゃあ、元に戻してあげる」
少女がぱちんと手を合わせた。
次の瞬間、小鬼の身体が淡い光に包まれる。小さな手足が伸び、角が消え、丸まっていた背中が大きく膨らんでいくと、そこには筋骨隆々とした大男が立っていた。
「うおおおっ!? も、戻った!?」
男は自分の身体を確かめると、今にも泣き出しそうな顔をした
「俺の身体だ! 戻った! 戻ったぞ!」
「はいはい、動かないでくださいね」
「ひっ……!」
喜ぶ暇もなく警察官たちに囲まれ、男は手錠をかけられた。
それでも、本人は心底安堵した様子だった。
「よ、よかった……もう一生あのままかと……」
「えへへ。よかったね」
イマリも嬉しそうに笑っている。
男はその顔を見た途端、びくりと身体を震わせた。
「うわっ! こっち来るな!」
「……うん?」
「頼む! もう勘弁してくれ! 花札なんか二度とやらねえから!」
「……花札、嫌いになっちゃった?」
イマリの表情が曇った。
「ごめんなさい……イマリ、難しい問題出しちゃったかな」
「ち、違っ……!」
男は何か言いかけたものの、結局それ以上何も言わず、警察官たちに連れられて部屋を出ていった。
その後も同じ手順が三度繰り返された。
二人目は元に戻った途端に腰を抜かし、三人目は涙ながらに許しを請い、最後の一人はイマリを見るなり青ざめて、警察官の背中に隠れようとしていた。
四人とも、捕まったこと以上に小鬼から解放されたことを喜んでいるようだった。
「……相変わらずだね」
塚内は書類に目を通しながら、苦笑した。
警察としては実にありがたい能力だった。相手がどれほど凶悪な個性を持っていても、小鬼になっている間はまともに抵抗できない。何人もの警察官を動員して制圧する必要もなく、現場で負傷者が出る危険も大幅に減らせる。
もちろん、元に戻す際には警戒が必要だが、それでも通常のヴィラン逮捕と比べれば遥かに安全だった。
「イマリちゃん、今回もありがとう。おかげで助かったよ」
「えへへ……どういたしまして」
「四人とも大きな怪我はなさそうだし、被害者の方々も無事なんだろう? 本当に立派な仕事だ」
「ほんと?」
「ああ。さすがプロヒーローだね」
イマリは嬉しそうに両手を合わせた。
「イマリね、みんなのお役に立てて嬉しいな」
「それは何よりだ。ただ、一つだけお願いしてもいいかな?」
「うん?」
「捕まえたヴィランは、なるべく早く連れてきてほしいんだ。今回も少し時間が経っていたみたいだからね」
「……あぅ」
イマリは気まずそうに目を逸らした。
「その……帰る途中でね、公園に寄ったの」
「公園?」
「うん。みんなで遊具に乗ったり、お散歩したり……」
「……そうか」
「だって、せっかくおともだちになれたんだもん。ちょっとだけ遊びたくて……」
塚内は深くため息をついた。
ここが、このヒーローの少々困ったところだった。
本人に悪意はない。ヴィランを逃がそうとしているわけでもなければ、わざと苦しめているわけでもない。ただ、小鬼になった相手を本当に友達のように扱ってしまうのだ。
「イマリちゃん。君が遊びたいのは分かるけど、逮捕した人間は速やかに警察へ引き渡してもらわないと困るんだよ」
「……うん」
「次からは気をつけてくれるかな?」
「ごめんなさい……」
イマリはしゅんと俯いた。
塚内はその様子を見て、少しだけ表情を和らげる。
「まあ、今回は全員無事だったからね。次から気をつけてくれればいいよ」
「……ほんと?」
「ああ」
「えへへ……ありがとう、塚内さん」
ぱっと顔を明るくしたイマリに、塚内も小さく笑った。
この少女は、決して悪いヒーローではない。
むしろ、犯罪者を相手にしても必要以上に傷つけようとせず、困っている人を見かければ迷わず手を差し伸べる。そうした意味では、立派なヒーローと言えるだろう。
ただし、少しばかり常識がずれている。
そして、そのずれを笑って済ませるには、彼女の個性はあまりにも強力だった。
「じゃあ、イマリは帰るね」
「ああ。お疲れさま。また何かあったらよろしく頼むよ」
「うん!」
竹籠を抱え直したイマリは、嬉しそうに手を振り、警察署を後にした。
その背中を見送ってから、近くにいた若い警察官がぽつりと呟く。
「……あの子、凄い個性ですよね」
「そうだね。僕たちも随分助けられているよ」
「なんであんまり有名じゃないんですかね? 四人も捕まえたのに、本人には怪我一つないんでしょう?」
「世間では、派手に戦うヒーローのほうが注目されやすいからね。彼女の場合、戦闘らしい戦闘にもならないことが多いんだ」
「まあ……確かに」
若い警察官は、先ほどの光景を思い出した。
小さな籠に収まった四匹の小鬼。あれだけを見せられても、凄まじい戦いがあったとは想像しにくい。
「でも、僕たちにとってはありがたいヒーローだよ」
塚内はそう言って書類を閉じた。
署内には、四人のヴィランが騒いでいる声が微かに聞こえてくる。
どうやら事情聴取が始まったらしい。
遊々花神イマリ。
世間ではほとんど知られていない、ちょっと変わったマイナーヒーロー。
しかし、この警察署で彼女の働きを軽んじる者はいなかった。
雄英高校の職員会議室では、夏季林間合宿に向けた打ち合わせが行われていた。
今回の合宿に参加するのは、ヒーロー科一年A組とB組の生徒たちだ。
通常の授業では難しい長時間の個性訓練を実施し、それぞれの個性が持つ弱点を克服することを目的としている。
もっとも、教師たちが懸念しているのは訓練内容だけではなかった。
USJへの襲撃事件に続き、保須市でもヴィランによる大規模な事件が発生している。
雄英の生徒が標的となった前例がある以上、校外での活動にはこれまで以上の慎重さが求められていた。
「さて、林間合宿についてだけど、協力をお願いしていたプロヒーローチームから正式に返事が届いたよ」
会議の進行を務めていた根津校長が、手元の資料を持ち上げる。
「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。彼女たちから協力の了承をもらえた。施設の使用についても問題ないそうだ」
「おおっ! そいつは心強いな!」
プレゼント・マイクが声を上げた。
山岳救助のスペシャリストとして活動するプッシーキャッツは、豊富な実戦経験を持つプロヒーローチームだ。
特にピクシーボブの個性は、広い訓練場を用意する必要がある今回の合宿にとって非常に都合がいい。
「向こうが協力してくれるなら、訓練内容もかなり充実させられるでしょうね」
ブラドキングの言葉に、相澤消太も頷いた。
「個性の強化という目的には合っています。生徒ごとに訓練内容を調整する必要はありますが、環境としては十分でしょう」
「うん、僕もそう思うよ。ただ、もう一つ考えていることがあってね」
根津校長は資料を机に置き、集まった教師たちを見渡した。
「今回はA組とB組、合わせて四十名の生徒が参加する。プッシーキャッツの協力が得られたとしても、不測の事態に対応できる人員は多いほうがいい。そこで、もう一人くらいプロヒーローに協力してもらえないかと考えているんだ」
「警備の強化ですか」
「それもあるね。もちろん、訓練にも協力してもらえるならありがたいけど、何より生徒たちの安全を優先したい」
相澤は腕を組んだまま考え込んだ。敵連合が再び襲撃してくるという確証はないが、その可能性を無視することもできない。教師の数が増えること自体に異論はなかった。
「それでね、相澤くん。君に一つ聞きたいんだけど」
「なんでしょう」
「君たちの同期だったイマリちゃんはどうかな?」
思いがけない名前に、相澤はわずかに眉を動かした。
「……尽小花ですか?」
「そう。遊々花神のイマリちゃんだよ。今もプロヒーローとして活動しているだろう?」
「あいつか!」
マイクが楽しそうに反応した。
「懐かしい名前が出たな! いや、たまに会ってるけどよ。そういや最近は仕事が忙しくて顔を見てねえな」
「君たちとは雄英時代からの付き合いだったね。彼女のことなら、よく知っているんじゃないかな?」
根津校長の質問に、相澤は少し考えてから答えた。
「……戦力としては問題ありません。ただ、生徒の指導に向いているかと言われると、勧めませんね」
「おいおい、消太! いきなり厳しいじゃねえか!」
「事実だろ」
相澤は隣で騒ぐマイクを一瞥した。
「尽小花の個性は、相手に遊戯を持ちかけ、勝負に負けた人間を小鬼に変えるものです。通常の戦闘能力に関係なく相手を無力化できるため、捕縛能力としては極めて優秀です」
「うん。警察からの評価も高いようだね」
「ですが、あいつ自身が個性の扱いを完全に割り切れているかは別の話です」
根津校長は興味深そうに首を傾げた。
「というと?」
「遊びのことになると、周りが見えなくなるところがあります。仕事中でも、個性で変化させた相手を友達のように扱うことがある。以前、逮捕したヴィランを警察に引き渡すまで数日かかったこともあったそうです」
「ああ……」
マイクが思い当たるように声を漏らした。
「そりゃ、あいつならやりかねねえな」
「本人に悪意はありません。むしろ、そういうところが問題なんです。あいつにとっては、相手を小鬼に変えることも遊びの延長でしかない。もちろん、必要なときには解除するし、警察にも協力していますが……」
相澤は一度言葉を切り、根津校長に視線を戻した。
「今回は生徒を預かる合宿です。警備を任せるならともかく、指導まで任せるのは避けたほうがいいでしょう」
「なるほど。君の懸念はよく分かったよ」
根津校長は頷いたが、候補から外すつもりはないようだった。
「ただ、僕は彼女の活動記録を見て、なかなか優秀なヒーローだと思ったんだ」
「……活動記録ですか」
「先日も銀行強盗を四名捕まえている。犯人たちは全員無傷で、現場にいた一般市民にも怪我人はいなかったそうだよ。ほかにも、彼女が担当した事件は比較的被害が少ない傾向にある」
「そりゃそうだろうな。何しろ、戦う前に終わっちまうんだからよ!」
マイクが笑う。
「昔っからそうだったぜ。訓練で相手が個性を使おうとしても、イマリの遊びに引っ掛かりゃそれで終わりだ。本人は嬉しそうにしてるだけなんだけどな!」
「懐かしいね。彼女の個性は当時から特殊だったから」
根津校長は資料に目を落とし、穏やかな声で続けた。
「相澤くん。君は彼女が、個性に性格を引っ張られていると考えているんだね?」
「……ええ。少なくとも、影響はかなり強いと思います」
「うん。僕もそう思うよ」
あっさりと同意され、相澤は少し意外そうな顔をした。
「彼女の個性は、他人を自分の意思に関係なく変化させられる非常に強力なものだ。本人の性格も、他人と遊びたいという欲求が強い。相性が良すぎると言ってもいいかもしれないね」
根津校長はそこで言葉を切り、教師たちを見渡した。
「でも、そんな彼女がヒーローとして活動している。僕は、それを評価したいんだ」
「……ヒーローとして、ですか」
「そう。個性というものは、生まれ持った性質によって人生に大きな影響を与える。本人が望まなくても、周囲から恐れられたり、能力の使い道を制限されたりすることもある。それでも彼女は、困っている人を助ける道を選んだんだ」
マイクが大きく頷いた。
「そうだぜ! そもそもイマリは悪い奴じゃねえしな!」
「もちろん、善良だからといって、何をしても許されるわけではないよ」
根津校長はすぐにそう付け加えた。
「ヒーローである以上、守るべき規則もある。彼女の行動に問題があるなら、それは改善していかなければならない。ただ、危険な個性を持っていることと、ヒーローとして信頼できないことは同じではないからね」
相澤は何も言わず、その言葉を聞いていた。
「それに、今回の合宿では生徒たちに様々な個性の使い方を学んでもらいたい。強い個性というのは、必ずしも派手な攻撃ができるものばかりではないだろう?」
「……それはそうですね」
「イマリちゃんは、そのいい例になると思うんだ。もちろん、彼女の個性を生徒に使わせるつもりはないよ。まずは警備や補助を担当してもらって、必要なら本人の了承を得たうえで、安全な範囲で訓練に協力してもらう。それならどうかな?」
相澤はしばらく考え込んだ。
確かに、イマリの能力は戦闘を避けながら相手を無力化できるという点で優秀だった。相手が複数でも対応でき、本人が任意に解除できるため、捕縛後の処理も容易だ。林間合宿という環境では、その能力が役立つ場面もあるだろう。
だが、相澤が気にしているのは能力の強さではない。
「……校長。警備要員として呼ぶこと自体には反対しません」
「おや、そうかい?」
「ただし、事前に役割を明確にしておく必要があります。生徒を遊びに誘わないこと。生徒に個性を使用する場合は、必ず担当教師の許可を取ること。それから、現場の判断で勝手に訓練内容を変更しないこと」
「うん。どれも妥当な条件だね」
「それを守れるなら、俺から言うことはありません」
「ありがとう、相澤くん。では、一度本人に話を聞いてみようか」
根津校長は満足そうに頷いた。
その様子を見た相澤は、小さく息を吐いてから隣のマイクに顔を向けた。
「……山田」
「ん? なんだよ?」
「お前も来い」
「……は?」
「尽小花への協力依頼だ。一緒に行って説明するぞ」
「いやいや、なんで俺まで行くんだよ! お前一人でも問題ねえだろ?」
「お前のほうが、最近もあいつと会ってるんだろ。連絡を取るのも早い」
「そりゃそうだけどよ」
「それに、俺が説明するより、お前がいたほうが話を聞くだろ」
マイクは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑い声を上げた。
「HAHA! なんだよ、消太! 最初からそう言えばいいじゃねえか!」
「……うるさい」
「いやー、いいぜいいぜ! 久しぶりに三人で顔合わせるのも悪くねえしな!」
そう言ってマイクは、思い出したように手を叩いた。
「あっ、そうだ! イマリに会うなら菓子でも買っていくか? あいつ、昔から甘いもん好きだったろ!」
「仕事の話をしに行くんだぞ」
「分かってるって! それとこれとは別だろ?」
相澤は呆れたように目を細めたが、それ以上は何も言わなかった。
そんな二人のやり取りを見ていた根津校長が、楽しそうに笑う。
「仲がいいね、君たちは」
「どこがですか」
「HAHA! まあ、昔からこんな感じだぜ!」
根津校長は二人に向かって頷いた。
「それじゃあ、イマリちゃんへの依頼は君たちにお願いしようかな。もちろん、本人が断るようなら無理に頼むつもりはないよ」
「了解しました」
「任せとけ、校長!」
話がまとまったところで、会議は次の議題へと移った。訓練に必要な機材や移動手段、合宿中の緊急連絡体制など、決めておかなければならないことはまだ山ほどある。
相澤も再び資料へと目を落としたが、頭の片隅では久しく会っていない同期のことを考えていた。
尽小花・イマリ。
学生時代から、他人と遊ぶことが何より好きな少女だった。自分の個性を恐れるどころか、むしろその能力によって生まれた小鬼たちを嬉しそうに連れ歩いていたことを覚えている。
それでも、彼女はヒーローになった。
自分の能力が人々に恐れられるものであることを、どこまで理解しているのかは分からない。ただ、誰かを助けたいという気持ちだけは、昔から変わっていなかった。
だからこそ、相澤も彼女がプロヒーローになったこと自体は喜ばしく思っている。
もっとも、それと生徒の面倒を見られるかどうかは別問題だ。
ただでさえ今回の合宿は準備することが多い。そのうえ、あの少女の相手までしなければならないとなれば、面倒が増えることは間違いなかった。
それでも、校長の判断には一理ある。
何かあったとき、イマリの個性が生徒たちを守る力になる可能性は十分にあるのだから。
相澤は最後にもう一度、候補者の名前が記された資料を確認した。
そこには、他のプロヒーローたちの名前とともに、彼女の名前が記載されていた。
遊々花神――尽小花・イマリ。
彼女がこの依頼をどう受け取るのか、相澤にはまだ分からなかった。
ただ、マイクから「生徒が四十人もいる」と聞かされたとき、どんな顔をするのかだけは、容易に想像できてしまった。