望んだ転生。望まなかった環境   作:華洛

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第2話

 新宿・歌舞伎町、裏通り。

 

 ダンジョンから出たオレは、魔石の入った袋を片手に、買取屋へ向かっていた。

 

 前世の歌舞伎町と比べて、変わっていないところもある。

 けれど、変わったところのほうがずっと多い。

 

 たとえば、キャバクラみたいな「男が楽しむ店」は存在しない。

 あるのはホストクラブのような店ばかりだ。

 

 もっとも、そこで客をもてなしているのは男じゃない。

 中にいるのは女で、前世でいう宝塚みたいに、きっちり男装した女たちが接客している。

 

 まあ、この極端すぎる男女比の影響をもろに受けてるんだろうな。

 夜の店なんかは、特に。

 

 自動車の軽が一台、ぎりぎり通れそうな細い裏路地を進む。

 その先にあるのは、なんの変哲もない雑居ビルの壁際に置かれた、ひとつのダストボックスだ。

 

 知らない奴が見れば、ただのゴミ箱にしか見えない。

 だが、こいつが裏の買取窓口だった。

 

 オレはゴブリンやその他の魔石を詰めた袋を、そのダストボックスに放り込む。

 

 少し待つと、壁の一部が音もなくスライドし、奥から金属製のトレーがせり出してきた。

 その上に乗っていたのは、千円札が一枚。

 

 ……普通の買取店に持ち込めたら、五千円くらいにはなるはずなんだけどな。

 

 足元を見られているなんてもんじゃない。

 買い叩きにもほどがある。

 

 だが、文句を言う気にはなれなかった。

 いや、正確には、言えない。

 

 騒いで困るのはこっちだ。

 身分証も戸籍もないオレが、魔石を換金できる場所なんてそう多くない。

 この買取屋がなくなれば、それだけで生活が立ち行かなくなる。

 

 オレは小さくため息をつき、トレーの上の千円札をつまみ上げた。

 それを確認した途端、トレーは何事もなかったみたいに壁の奥へ引っ込んでいく。

 

 まるで前世のパチンコ屋にあった景品交換所みたいだ。

 もしかすると、この場所も元はそういう用途だったのかもしれない。

 

 この世界は、女が圧倒的に多い弊害なのか、弁当みたいな食い物も全体的に小ぶりだ。

 前世と比べて、一割から二割くらいは量が少ない気がする。

 

 そのぶん値段は安い。

 けれど、成長期のオレには弁当ひとつじゃまるで足りない。

 牛丼屋だって、大盛まではあっても、特盛とかメガ盛りみたいな夢のあるサイズは存在しないしな。

 

 ……いや、そもそも所持金がないんだけど。

 

 ははは。

 はぁ……。

 

 女装しているとはいえ、骨格までは誤魔化せない。

 人通りの多い大通りに出ると、オレはパーカーのフードを深く被った。

 

 監視カメラや警邏ドローンに全身をスキャンされて、男だと判定されるのは避けたい。

 

【緊急ニュースです。地下カジノへの強制捜査において、全国重要指名手配犯が逮捕されました】

 

 巨大モニターにニュース映像が流れる。

 スマホも買えないオレにとって、こういう街頭モニターは数少ない情報源のひとつだった。

 

【逮捕されたのは世風鸞夏容疑者。自分の子供――それも男の子を、金目当てで売り払った重罪で全国指名手配されていました】

 

 ……生みの親だった。

 

 まさか母親の逮捕映像を、歌舞伎町の巨大モニターで見ることになるとは思わなかった。

 口から出てきた感想は、ひとつだけだ。

 

 ざまあみろ。

 

 久しぶりに、少しだけ気分のいいニュースだった。

 

【売られた男の子は現在も行方不明となっておりますが、父親と世風鸞夏容疑者のDNAサンプルを元に、AIで解析した想像図がこちらになります】

 

 画面に、いくつもの顔画像が表示される。

 

 ……女装してなければ、まあ、ぎりぎり似てると言えなくもない……のか?

 

【名前は世風ハヤテくん。現在十五歳。似た人物を見かけた場合は、警察機関への連絡をお願いします】

 

 しなくていいですよぉ。

 こっちはこっちで、今の生活に満足してるんで。

 困ってることは多いけどさ!

 

【追加の情報です。今回、世風鸞夏容疑者が逮捕されたことで、緊急特例措置として血統魔法が使用される可能性があるとのことです】

 

 血統魔法?

 なにそれ?

 

【親子の血の繋がりを魔法で可視化し、居場所を突き止める魔法です。ただし、通常の使用には裁判所の許可をはじめ、複数の手続きが必要であり、滅多に使われることはありません。しかし今回は、行方不明の男の子を捜索するため、使用が許可される見通しとのことです】

 

 ……え。

 

【また、世風鸞夏容疑者はこの魔法の使用にあたり、死刑から無期懲役への減刑を――】

 

 クソっ。

 

 あの生みの親は、最後までオレに不利なことしかしないらしい。

 

 周囲がざわめく中、オレはパーカーをさらに深く被り直す。

 そして安息の場所――ダンジョンへ引き返すことにした。

 

 とりあえず、あのクソ親の死刑嘆願書ってどこかでやってない?

 あったら真っ先にサインしたいんだけど。

 

 

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