毒親は、オレが男だと分かると、生んですぐにヤクザへ売り払いやがった。
そしてヤクザは、オレを性行為ができる年齢まで育てて、金持ち相手に男娼をさせるつもりらしい。
くそったれ。
せっかくダンジョンがあって、魔法まである世界なのに。
オレはずっとヤクザに飼われて、言われるまま働くしかないのか。
「そんなに外で過ごしたいの?」
「当たり前だろ。そこにダンジョンがあるんだ。潜ってモンスターと戦ったり、魔法を使ってみたりしたいよ」
そう言うと、目の前の男――アマガサは、少しだけ困ったように笑った。
オレより五歳ほど年上で、ヤクザの女どもからは“アマガサ”と呼ばれていた。
庇護欲をくすぐるような見た目をしていて、女たちの人気も高いらしい。
アマガサは、ヤクザからオレの教育係を任されていた。
読み書きや、この世界の常識。
女に逆らわないこと。
余計なことを言わないこと。
生き延びるために必要なことを、色々と教えてくれた。
オレにとっては、兄みたいな存在だった。
「ハヤテは変わってるね。ここにいて、女たちの相手をしていれば、衣食住には困らないのに」
「飼われて、ペットみたいに長生きするくらいなら、冒険者として生きてみたいよ」
二度目の人生だ。
せっかくファンタジー要素のある世界に転生したんだ。
アマガサに言ったみたいに、冒険者として生きてみたかった。
……まあ、無理だろうけど。
「――そう」
アマガサが小さく呟く。
「なら、兄として、弟の望みは叶えてあげないと」
その言葉とほぼ同時に、部屋の外から騒音が響いた。
何かが倒れる音。
怒鳴り声。
それに混じって、乾いた銃声。
「な、なんだ?」
「警察のガサ入れだよ。男を使って違法商売をしてるんだから、いつかはこうなると思ってた」
廊下を走る足音が近づいてくる。
勢いよく扉が開き、黒いスーツを着た女が二人、部屋に飛び込んできた。
「警察が来る前に、こいつを連れて逃げるわよ!」
「物さえ残ってなければ、警察も証拠を――」
……どこまでも物扱いか。
これが、オレの今の立場だ。
「弟が外へ旅立つ日なんだ。邪魔はしないでくれよ」
今まで聞いたことがないほど冷たいアマガサの声が、静かに響いた。
次の瞬間、女二人の眼は赤く染まり、懐から銃を抜き――互いの頭を撃ち抜いた。
「っ!?」
その場に崩れ落ちる二人。
血の臭いが一気に広がる。
「ハヤテ」
アマガサがオレを見る。
「兄として、キミの冒険を楽しみにしているよ」
「……アマガサ! お前も一緒に――」
アマガサは、ゆっくりと首を振った。
「ボクは女に保護してもらえないと生きられない、弱い男だ。でも、ハヤテは違う」
そう言って、オレの肩に手を置く。
「キミには、強い心がある。だからきっと、生きられる」
優しい声だった。
諦めたようにも、祈るようにも聞こえた。
「もう会うことはないかもしれない。けれど、ボクはずっと願ってる」
アマガサは、少しだけ笑う。
「お前が、お前の望む生き方をできることを」
その言葉を最後に、オレの意識は途切れた。
次に目を覚ました時、オレは新宿・歌舞伎町ダンジョンにいた。