望んだ転生。望まなかった環境   作:華洛

4 / 4
エピローグ

 毒親は、オレが男だと分かると、生んですぐにヤクザへ売り払いやがった。

 

 そしてヤクザは、オレを性行為ができる年齢まで育てて、金持ち相手に男娼をさせるつもりらしい。

 くそったれ。

 

 せっかくダンジョンがあって、魔法まである世界なのに。

 オレはずっとヤクザに飼われて、言われるまま働くしかないのか。

 

「そんなに外で過ごしたいの?」

 

「当たり前だろ。そこにダンジョンがあるんだ。潜ってモンスターと戦ったり、魔法を使ってみたりしたいよ」

 

 そう言うと、目の前の男――アマガサは、少しだけ困ったように笑った。

 

 オレより五歳ほど年上で、ヤクザの女どもからは“アマガサ”と呼ばれていた。

 庇護欲をくすぐるような見た目をしていて、女たちの人気も高いらしい。

 

 アマガサは、ヤクザからオレの教育係を任されていた。

 読み書きや、この世界の常識。

 女に逆らわないこと。

 余計なことを言わないこと。

 生き延びるために必要なことを、色々と教えてくれた。

 

 オレにとっては、兄みたいな存在だった。

 

「ハヤテは変わってるね。ここにいて、女たちの相手をしていれば、衣食住には困らないのに」

 

「飼われて、ペットみたいに長生きするくらいなら、冒険者として生きてみたいよ」

 

 二度目の人生だ。

 せっかくファンタジー要素のある世界に転生したんだ。

 アマガサに言ったみたいに、冒険者として生きてみたかった。

 

 ……まあ、無理だろうけど。

 

「――そう」

 

 アマガサが小さく呟く。

 

「なら、兄として、弟の望みは叶えてあげないと」

 

 その言葉とほぼ同時に、部屋の外から騒音が響いた。

 何かが倒れる音。

 怒鳴り声。

 それに混じって、乾いた銃声。

 

「な、なんだ?」

 

「警察のガサ入れだよ。男を使って違法商売をしてるんだから、いつかはこうなると思ってた」

 

 廊下を走る足音が近づいてくる。

 

 勢いよく扉が開き、黒いスーツを着た女が二人、部屋に飛び込んできた。

 

「警察が来る前に、こいつを連れて逃げるわよ!」

 

「物さえ残ってなければ、警察も証拠を――」

 

 ……どこまでも物扱いか。

 これが、オレの今の立場だ。

 

「弟が外へ旅立つ日なんだ。邪魔はしないでくれよ」

 

 今まで聞いたことがないほど冷たいアマガサの声が、静かに響いた。

 

 次の瞬間、女二人の眼は赤く染まり、懐から銃を抜き――互いの頭を撃ち抜いた。

 

「っ!?」

 

 その場に崩れ落ちる二人。

 血の臭いが一気に広がる。

 

「ハヤテ」

 

 アマガサがオレを見る。

 

「兄として、キミの冒険を楽しみにしているよ」

 

「……アマガサ! お前も一緒に――」

 

 アマガサは、ゆっくりと首を振った。

 

「ボクは女に保護してもらえないと生きられない、弱い男だ。でも、ハヤテは違う」

 

 そう言って、オレの肩に手を置く。

 

「キミには、強い心がある。だからきっと、生きられる」

 

 優しい声だった。

 諦めたようにも、祈るようにも聞こえた。

 

「もう会うことはないかもしれない。けれど、ボクはずっと願ってる」

 

 アマガサは、少しだけ笑う。

 

「お前が、お前の望む生き方をできることを」

 

 その言葉を最後に、オレの意識は途切れた。

 

 次に目を覚ました時、オレは新宿・歌舞伎町ダンジョンにいた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。