ばん、と銃声がした。
ジャケット姿の男が天をあおぎながらゆっくりと大の字でたおれて、
スクリーンが真っ暗になる。
「なんやねん。そのまま終わるんかい、って空気やったな~」
週末の日曜日。
おれはクラスメイトにもらった映画のタダ券を捨てることができず、結局こうなった。
「そもそもなんでうちなん?」
「ほかにさそう相手がいなかったから……」
そんなやりとりをしたのが上映前。
最後まで
で、食べるのが終わって、いま話しはじめたところだ。
タダ券を有効活用したかったのもそうだが、
――おれは彼女に、
「ラストで主人公死ぬって……なぁ? むっちゃバッドエンドやん。こんなん、あの子と
「ああ」
「……」少し細めた目でおれの顔をじーっとみている。「はあ」
「どうしたの?」
「テンションあがらん。アンタ、うちのタイプちゃうし。もーほんま、いかにも『帰宅部です』みたいな雰囲気だしよってからに」
ぷい、とそっぽを向いた。
その動きにつれてムチのようにしなる、キャップのうしろのとこから出した長い髪。
「ふだんはアレしてないんだ」
「アレ?」
「ツインテールっていうの?」
「なんやねん。アンタ内心、『こいつ高校生にもなってツインテとかイタいなー』とか
「そうじゃないけど」
「実は、うちもあんまりやねんけどな」
「えっ」
「でもなんか、むかしからずっとしてるあの髪型やめたら、あの子がさみしがるんちゃうかな、って」
ずー、と音をたててコーラを飲み干す。
おれは話題をかえることにした。
「映画、どうだった?」
「まあまあやな」
「映画って観るほう?」
「んー、アニキが好きやからたまにおすすめ教えてもらったりするで」
「好きなジャンルとか」
「ドンパチするアクション」
「そのわりには、銃声のとこでけっこう肩がビクッてなってたね」
「あ?」
やばい。
おれは愛想笑いでごまかし、
そして切り出した。
「あの……さ、ひとつききたいんだけど」
「それやねん。今日のうちの目的も、映画やなくてそれや」
「?」
「アンタなにもんや?」
まっすぐ、正面からおれをみつめる守田さんの目。
切れ長でするどくて、静かな迫力がある。
「最悪の可能性は、アンタがストーカーっていうパターン」
「え? まってくれ、どうしてそうなるんだよ」
「じゃあ説明し。同じクラスになるまで接点なかったのに、なんでうちすら知らんことをしてみせて、あの子を泣かせたんかを」
近くの席に、うるさめの大学生ぐらいの集団がいる。
おたがいの話がきこえるように、おれたちは顔を少し近く寄せ合った。
「みえるようになったんだ。彼女が〈
「みえるて?」
「夢みたいな……それよりももっと現実感がある映像が、ときどきみえる」
「なんじゃそれ」
「いや、それ以外に説明しようが――――
■■■■■
「説明してよ、タイチ!」
「いや、その、ごめんなキア。まちがえてチケットとったみたいで……」
「私、ホラーはダメっていったじゃない!」
■■■■■
―――。あのさ守田さん。もしかして、二人で映画デートしたことある?」
「なんや急に。あいにく、アンタがはじめてや。誇りに思ってええで。こーんなキュートなJKの〈はじめて〉を――」
「いや、そうじゃなくて。喜中さんと幼なじみの彼、っていう意味なんだけど……」
「っ!!! それ、はよいいや。もぉ……はずかしなぁ」後頭部に片手をあてて、守田さんは斜め上を向く。「えーと、うん、あると思うで。なんかそんな話きいた記憶あるわ」
「なにかの手違いでホラー映画をみることになった、っていうことは?」
「……」
「ある?」
キャップのつばで影がかかった目元が、きっ、と真剣になった。
「ある」
「これで信じてもらえる?」
「アンタ、もしかしてそれ、今みえたんか? 目つぶっとる時間がちょっと長いとは思うたんやけど」
「そうだよ」
「まじか」
「それで、その、おれのききたいことの話をしてもいい?」
右、左、と顔の角度を何回かかえたあと、守田さんは「ええよ」とあきらめたように言った。
「なんや?」
「喜中さんって、いま彼氏いるの?」
「そんなことかいな」
「大事なことなんだけど」
「……キアっぴの彼氏は、現時点ではタイチくんただ一人や。うちの知る限りはな」
おれはスマホを出した。
ある高校の制服の画像を検索して、彼女にみせて言う。
「この制服をきてて喜中さんと親しい男子、知らない?」
「バンくん」
さらっと教えてくれた。
中学二年のときの〈タイチ〉の同級生らしい。
「あの子はまだ心のキズがいえてへん。だからカウンセリングを受けててな、それが月一回。病院がけっこうとおいとこにあるから、バンくんがつきそいしてあげてるんや」
「あ。そうなんだ」
「なーんや、そのあからさまにホッとしたみたいなカオは」
なんか急に店が混んできた。
レジ前にけっこう行列ができている。
「バンくんイケメンやろ? うちはひそかに期待してたりもするんや」
「期待?」
「キアっぴはじゅうぶん悲しんだ。そろそろふっきれてもええころや。もちろん、彼氏つくって幼なじみのこと忘れろいうんやないけどな」
「……」
「そろそろ出よか。いっしょにいつづける理由もないし、ここで解散しよ」
店を出たところで、何気ない
「アンタは、キアっぴを〈すき〉っていうことでええんやな?」
「………………いいよ」
「そっか。でも
まあ、そうだよな、という感想。
「た・だ」びしっ、とおれに指先をつきつけた。「キアっぴの元気をとりもどせる、っていうことなら、うちはどんな協力でもする。ええな?」
「ああ」
そこからおれはしばらくうまくいかなくて、
教室で声すらかけられない日々がつづいた。
(今日こそは)
と、今日も思っていた。
放課後。
今日をのがすとゴールデンウィークにはいる。
その前に、少しだけでも仲良くなりたいんだが。
(……)
帰る準備をはじめている
「ちょっ、と、いい?」
「あ」という口の形になった。
雰囲気、キラわれてるという感じはしない。
帰り支度の手をとめて、おれの話をきく態勢に入ってくれたようだ。
「六時間目の数学、むずかしくなかった?」
「そ、そうだね」
「それにあの先生、やけに黒板に小さく書くけど
「うん。大丈夫」
あれ?
なんか違和感が……。
そうか、前のときみたくスマホをつかってないんだ。
彼女は今、自分の声で話している。
(話題のデッキが……あとは天気とかしかないぞ)
でもこういうのでいいのか?
女子と仲良くなる方法って。
あいさつとか他愛ない会話とかで、根気よくやるしかないのかな。
ちょっと友だちの話とかふってみるか。
「今日も
「ううん、今日はハル、部活あるから」
集中しないと聞き逃しそうな小さな声だけど、
最初の時のような、か
少し気をゆるしてくれるようになった、ってことだろうか?
だったら、
「おれと帰る……とかダメかな」
積極的にいこう。
「……んー」
「あ。ムリならいいよ。へんなこといってごめん」
と、頭を下げた一瞬、視界がブラックアウトした。
■■■■■
「かえろうか、キア」
「うん!」
■■■■■
今のは。
見た目、中学生の
あのときのウキウキした様子の彼女とは、あまりにかけはなれている現在の姿
もしおれが―――あのときの幼なじみのようにふるまえたら―――
「かえろうか」
それは自然に自分の口から出た。
無意識だったともいえる。
ぱちぱちっ、と彼女の大きな目がすばやくまばたきする。おどろいているのだろうか。
ノイズみたいな、教室のざわざわした音。
何秒間か、おたがいに目を合わせて、その音をきくだけの時間があった。
やがて、
(…………やった!)
こくっ、と無言で