ルリハ視点
フリードさんは画面を見ながら何かを数え始める。
「1、2、3……」
そして、その表情が変わった。
「……まさか、さっきの……」
「……」
1、2、3。
それが近づいてくる不審なものの数を表しているのなら。
……
もしかして、まだ追われてる?
さっきのアメジオたちの人数とも当てはまる。
嫌な予感しかしない。
「何?」
そう、モリーさんが尋ねる。
フリードさんはスマホロトムをしまうと、周りを見渡した。
「操縦室に向かう。ヨルノズク、周囲の見張りを頼む。 奴らは諦めちゃいない」
奴ら?
それって、やっぱりさっきの三人組?
アメジオとかいう人と、その部下二人。
……まだ追ってきてるの?
というか誰なの本当に。
こっちは名前以外ほぼ何も知らないんですけど。
さっきのやつとかもだし、バトルとかしようとしないで説明してほしいんだけど。
「フリード、奴らって何だ? 学校で何があった?」
「詳しい話は後だ。マードックは下を見てくれ。モリーはポケモンたちと、その子たちを頼む」
「わかった」
「進路に嵐が発生してるって、オリオがテンパってるけど」
「何とかする」
……嵐?
さらっと嫌な単語聞こえたのだが。
「行くぞ、リザードン!」
「ガゥ!」
フリードさんは迷うことなく歩き出していった。
……忙しい人だなぁ。
マードックさんはイワンコを戻して、フリードさんの後を追う。
……そして、ホゲータがリザードンを追っていった。
どんどん説明してくれそうな人が離れていく。
私たち結局何も聞けてない。
「……あの」
私はモリーさんを見上げた。
「モリーさん、でしたよね?」
「ああ」
「ポケモンたちを見るなら、私も手伝います。いろんな地方にいたから、知識もあるし慣れてるので……役に立てると思います」
「……ありがとう。助かるよ」
よかった。
知らない船の中で何もせず待ってるより、そのほうがいいだろう。
それに、ポケモンたちが不安になるのは嫌だ。
ーーー☆★☆
私たちはモリーさんに誘導され、展望室へ入った。
エレベーターの前まで来て、待っていた。
しかし、ガタンという音と同時に明かりが切れた。
「停電……」
「こんなときに限って……」
嵐に追っ手、それに停電。
この短時間で色んなことが起きすぎだ。
私は周りを見る。
知らない場所だし、今までとあまり経験が結びつかない違う状況。
そして何より、ポケモンたちが落ち着かない。
不安そうに身体を縮めているポケモン。
音を気にして怯えるポケモン。
元気が少しなくなっているポケモン。
私は背負っていたリュックを隅に置き、ショルダーバッグを漁って、一つのボールを掴んだ。
「おいで」
ボールを投げると、一瞬光が広がる。
それが形を成す。
そして……
「チルルー♪」
現れたのは、ふわふわとした雲のような大きな翼。
本来なら青いはずの身体は、鮮やかな黄色。
その黄色は明るいので、暗くても見やすい。
そう、私のチルタリス。
チルタリスは私を見上げる。
「チル?」
”何の用?”というように首を傾げていた。
それはそうだ。
いつもは基本的に移動に使ったり、バトルに出たりしてる。
誰かが戦ってる様子もない。
そして、ここは室内。
飛行能力も必要ない。
この時間はご飯も食べる予定でもない。
「あの子たちをお願い。 ……できるかな?」
「チル〜♪」
お願いすると、すぐ理解してくれた。
チルタリスはポケモンたちの近くへ移動すると、その場で身体を丸めた。
ポケモンと言うよりも、もこっとしてる物体に見える体勢である。
「……」
パモたちが何とも言えない顔で見つめる。
「チルゥ?」
いきなり現れた知らないポケモンだからか、最初は恐る恐る近づいていた。
「パモ……」
「チル〜♪」
チルタリスの優しい鳴き声にそれを聞いて安心したのか、パモがチルタリスの羽毛へ近づいた
「パモっ!?」
埋まった。
「……パモ〜♡」
…………
どうしよう、可愛い。
それを見ていたツボツボも、チルタリスに近づいていく。
「ツボツボ……」
「チル〜♪」
そして、チルタリスに寄りかかる。
……よかった。
少しは安心してくれたみたい。
触り心地いいよね。
「野宿してる時は、よくこうやってもらってるの。 本人はこの体勢好きらしくて」
「へえ、まるでクッションみたい」
でも、全員じゃない。
まだチルタリスに近づかないで、震えているユキワラシもいた。
……というかチルタリスとユキワラシってタイプ相性が大丈夫なのかな。
ちょっと不安。
「大丈夫だよ」
私はユキワラシの前でしゃがんで、微笑みかけた。
「私も、それにニンフィアも付いてるからね」
「フィーア♪」
「ユキ……」
「……あの、すみません!」
声が聞こえて、振り返る。
お姉ちゃんは、今度こそ事情を聞こうとモリーさんに話しかけていた。
頑張れお姉ちゃん。
今度こそ説明を聞くんだ。
「何が何やら……! 私たち、さっきまで学校にいて、知らない人たちが……」
「プルーッ!!」
「!?」
……また遮られた。
ねえ、お姉ちゃん。
私たち今日、説明を聞いちゃいけない呪いにでもかかってる?
外で周囲を警戒していたヨルノズクが、鋭く鳴いた様子。
「……ついにお出ましか」
窓の外を見て、望遠鏡を覗くモリーさん。
「お出まし、って……」
私たちも窓の外を見る。
それでもお姉ちゃんは、今度は負けじと説明を続けた。
「凄く怪しかったんです。 ペンダントがどうとか聞いてきて……!」
「まさか……アイツら、エクスプローラーズじゃん!」
「…………」
エクスプローラーズ……?
初めて聞く名前だ。
……うーん、やっぱり。
特に聞いたことないと思う。
色んな地方を回ってきたけど、少なくとも私の記憶にはない。
でも、モリーさんの反応を見る限り……
「……えっと、あんまり良い組織ではないんですか?」
「まあね」
意外とマイナーな組織なのだろうか。
知ってる人は知ってる〜みたいな。
「あ、そうだ。 ……アンタたちはそこで座ってな。この先揺れるから」
モリーさんに促され、展望室にある設置されているベンチのようなものへ座ることにした。
「ったく……懲りない」
そしてモリーさんはスマホロトムへ。
「オリオ! もう少しスピード出る?」
『うーん、やってるけどね!』
知らない女の人の声。
この人がオリオさん……かな。
まだ会ってない人がいるんだ。
やっぱりこの船、人多いなぁ。
すると今度は、フリードさんの声もスマホロトム越しに聞こえた。
『よし、雷雲に向かって進路を取るぞ!』
「「……」」
私はニンフィアを顔を見合わせた。
…………
……ん?
今、何て?
雷雲?
思わずフリードさんの声がしたスマホロトムを二度見した。
雷雲に向かって進む?
つまり、嵐に突っ込むってこと?
……
あの、フリードさん。
出会って間もない方に、こんな事言うのもあれなのですが……
ついに頭おかしくなりましたか?
『はぁ!? 何言ってるんだ!?』
マードックさんの叫び声。
よかった。
そう思っているのは少なくとも私だけじゃなかったっぽい。
『そうでもしなきゃ、あいつら帰ってくれないだろう? まったく……今日にぴったりな良い天気だぜ』
フリードさんの声。
雷に嵐、暴風。
良い天気とは……
こんな天気だったとして、私でもチルタリスは乗らないのに。
この人の天気判定どうなってるんだ……
「また無茶を……でも、それしかないか」
「それしかないんですか……?」
他にもうちょっと安全な案ないですか?
ほら、あの〜……
そうだ!
撃ち落とすとか!!
……駄目だ、怪我人が出る。
「オリオ。アンタ次第だけど」
『好き勝手言ってくれるねぇ……了解! やったろうじゃん!』
ついにオリオって人も乗った。
でも、空を飛ぶ飛行船は確かにスピードを出すのが難しいのかもしれない。
まず船を空を飛ばせること自体大変そうなのに。
『みんな、サンキュー! 面舵!!』
船体が大きく傾く。
私は思わず隣に座っていたニンフィアにしがみついた。
「フィアァ……」
ニンフィアが呆れたような目で私を見た。
私はベンチの隣を見下ろした。
「みんな、大丈夫?」
「チルッ!」
チルタリスが寄り添っていたポケモンたちを抱えるように、支えていた。
ユキワラシもよほどのことがない限り、大丈夫そうだ。
よかった。
怪我はなさそうだし、このまま嵐を乗り切るまでいてもらおう。
そのままブレイブアサギ号は雷雲の中へ一直線に進んでいった。
ゴロゴロと響く雷鳴。
激しくなる風。
窓を叩きつける雨。
一瞬、空が真っ白になるほどの稲妻が走る。
「…………」
本当に入った。
マジで雷雲に突っ込んだ。
外を見る。
さっきまで追ってきていたエクスプローラーズの姿が少しずつ離れていく。
モリーさんが小さくガッツポーズしてた。
でも船は揺れる。
お姉ちゃんもニャオハを抱きしめて耐えている。
ふと、嵐に入ったから展望室の中に入ってきたヨルノズクを見る。
さっきまで見張りをしてくれてた子だ。
見ず知らずの私たちのために、ここまでしてくれるなんて、
……エクスプローラーズとかいう人たちと、距離を離せた。
それは良かった。
良かったんだけど……
私は今置かれている状況を考えた。
荒れ狂う雷雲の中を突っ切っていく、私たちを乗せた飛行船。
それを本当に実行するフリードさん。
呆れながらも任せるモリーさん。
文句を言いつつ対応するマードックさん。
そして、普通に成功させてしまうオリオさん。
この人たち、豪快だ……
そう思わずにはいられなかった。
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