【超短編】足が痺れて動けないフィーリウス様シリーズ 作:実秋
「美味しい紅茶だ」
ランスは口に含んだ味に微笑んだ。
向かいに座るフィーリウスは安堵したような表情になる。
「地球から仕入れたもののようです。家から送られてきました」
フィーリウスも紅茶に口を付けると、
ほう、と小さく息を吐く。
「私の好きな味です⋯」
「それは何よりだ」
ランスはティーカップを両手に抱える
フィーリウスに目を細める。
こうしていると、彼が軍人であることが嘘のように思える。
それくらい、フィーリウスには高貴なティーセットと
紅茶が似合っていた。
「母上、お元気かな⋯」
「母君か」
不意に呟かれた言葉にランスは反応する。
フィーリウスの家族の話は聞いたことがなかったからだ。
フィーリウスは、はた、と動きを止めて
ランスを見つめ返した。
「声に出ていましたね」
ランスが相手だといつもそうだ。
フィーリウスは話しやすいランスに心を許していた。
「私が紅茶が好きだと知ってから、母がよく色々な産地の
紅茶を送ってくれるのです」
「そうだったのか」
ランスは再び紅茶を嗜むと、フィーリウスを見据えた。
「私も母君に礼を言わなければならないな」
「え」
きょとんと目を丸めるフィーリウスに、ランスは続ける。
「いつも美味しい紅茶をご馳走になっていると」
「とんでもございません。いつも私に付き合ってくださって、
ありがとうございます」
フィーリウスは照れくさそうに微笑み返すと、
テーブルなティーカップに手を伸ばしたが、
ぴた、とその手を止めた。
「あ⋯」
「ん?」
珍しく声を漏らすフィーリウスに、ランスは首を傾げる。
フィーリウスは上目遣いにランスを見ると、
「足が⋯んッ、し、痺れ⋯ました⋯ひぅ!」
喘ぎ声と聞き違える声を絞り出した。
ランスは数秒固まっていたが、やがて我に返り口を開く。
「あ⋯あぁ、安静にしていれば治まるはずだが⋯」
今の彼は直視できない。
顔を逸らし、ティーカップをテーブルに置く。
「んん⋯っふ⋯!」
尚も無自覚に艶やかに聞こえる声を上げるフィーリウスは、
座っていることが辛くなりゆっくりとソファに横になる。
そこでランスはやっとフィーリウスに目線を戻し、
思わず席を立ち彼のそばに片膝を着いて顔を覗き込んだ。
「辛いのだな?」
「あ⋯」
フィーリウスはやっと目の合ったランスに
少し落ち着きを取り戻すと、手を伸ばす。
ランスは小さな手を優しくすくい、指を撫でた。
「あう⋯」
それに呼応するかのようにフィーリウスは
目を閉じて声を上げ、ランスは高鳴る鼓動を自覚しながら、
彼を見守った。
しばらくして痺れが治まったフィーリウスの部屋を後にして
帰路に着いたランスは、彼を撫でた左手を見つめ、
「⋯危なかった」
一人呟いた。
~完~
無自覚の誘い受けって最強だと思うんです。ハイ。