自由気ままな狐のヒーローアカデミア   作:沖ノ鳥島産ポテチ

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挑む!個性把握テスト

 

 

 雄英高校、ヒーロー科一年A組。

 入学初日の朝。窓から差し込む日差しが教室を照らす中、鈴心狐雨真は自分の席に座り、のんびりと周囲を眺めていた。

 

「ここが雄英かぁ……」

 

 白い髪を揺らしながら、狐雨真は感慨深そうにつぶやいた。

 自分の個性について、もっと知りたい。今まで知らなかった世界を見てみたい。

 そんな気持ちから受験を決めた雄英高校。ようやく、その第一歩を踏み出したのだ。

 

「これから、どんなことがあるのかな」

 

 期待に胸を膨らませていると、教室の扉が開いた。

 

「おはようございまーす!」

 

 明るい声とともに入ってきたのは、姿の見えない少女――葉隠透だった。

 葉隠は教室内を見回し、狐雨真に気づくと、嬉しそうに近づいてきた。

 

「あっ、鈴心くん! おはよう!」

 

「おはよう、葉隠さん。今日も元気そうだね」

 

「もちろん! だって、今日から雄英高校の生徒なんだよ? 楽しみじゃないわけないでしょ!」

 

 弾むような声で答える葉隠に、狐雨真はくすりと笑った。

 

「ふふっ、そうだね。僕も楽しみだよ」

 

「そういえば、入試のときは本当にありがとうね! あのとき鈴心くんが助けてくれなかったら、私、どうなっていたか分からなかったもん」

 

「気にしなくていいよ。困っている人がいたら助ける。それだけだから」

 

「それができるのがすごいんだって!」

 

 葉隠は感心したように言った。

 狐雨真にとっては自然な行動だったが、葉隠にとっては忘れられない出来事だったのだろう。

 

「それにしても、鈴心くんって不思議な個性だよね。狐火を使ったり、すごい速さで動いたり!」

 

「妖狐だからね。いろいろできるんだ」

 

「いいなあ! 私の個性は透明になることだから、目立つことはあんまり得意じゃないし」

 

「透明になるのも、立派な長所だと思うよ。見えないということは、それだけ相手に気づかれにくいってことだからね」

 

「そっか! そう考えたら、私の個性も結構すごいのかも!」

 

「うん。使い方次第で、いろいろなことができると思うよ」

 

「えへへ、ありがとう!」

 

 葉隠は嬉しそうに笑った。

 狐雨真も穏やかな笑みを返す。

 そのとき、教室の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「おはよう、鈴心くん!」

 

 緑色の髪をした少年と、そばかすのある少女が並んで入ってきた。

 緑谷出久と麗日お茶子。

 二人は入学試験前に狐雨真と出会い、三人で会話を交わしていた。あのときの縁が、こうして同じクラスで再びつながったのだ。

 

「おはよう、緑谷くん、麗日さん」

 

「また会えたね! 同じクラスになれてよかったよ!」

 

「うん。試験前に話したときは、同じクラスになるかまでは分からなかったからね」

 

 狐雨真がそう答えると、緑谷も頷いた。

 

「そうだね。二人とまた話せてよかったよ」

 

「こちらこそ。これからもよろしくね」

 

 狐雨真は二人に微笑みかけた。

 そのとき、緑谷の視線が狐雨真の頭にある白い狐耳へ向けられた。

 

「そういえば、鈴心くんの個性って、変化や幻術、狐火なんかが使えるんだよね?」

 

「うん。ほかにもできることはあるけど、まだ全部を説明できるわけじゃないんだ」

 

「やっぱりそうなんだ……! 複数の能力を持っている個性なのかな。それとも、ひとつの個性の中にいくつもの性質が含まれているのか……」

 

 緑谷は考え込むように、次々とつぶやき始めた。

 

「狐火の性質も気になるし、幻術の発動条件や有効範囲も気になるな……。身体能力の向上も個性の一部なのかな。それとも妖術による補助なのか……」

 

 狐雨真はそんな彼を見て、くすりと笑った。

 

「緑谷くんは、個性の話になると熱心だね」

 

「あっ、ご、ごめん! 僕、つい夢中になっちゃって……!」

 

「謝らなくていいよ。好きなことを熱心に話せるのは、素敵なことだと思うから」

 

「鈴心くん……ありがとう!」

 

 緑谷は照れくさそうに笑った。

 

「緑谷くんは、昔から個性のことをよく考えているんだね」

 

 麗日がそう言うと、緑谷は少し恥ずかしそうに頭をかいた。

 

「うん。個性について調べるのが好きなんだ」

 

「いいことだと思うよ。自分の力を理解しようとするのは大切だからね」

 

 狐雨真の言葉に、緑谷は嬉しそうに頷いた。

 

「私も、自分の個性をもっと活用できるようになりたいな」

 

 麗日もそう言って、拳を軽く握った。

 

「きっとできるよ。これから一緒に頑張ろうね」

 

「うん!」

 

 三人が笑顔を交わしたところで、葉隠が元気よく声を上げた。

 

「ねえねえ、みんな! これから同じクラスなんだし、仲良くやっていこうよ!」

 

「もちろんだよ、葉隠さん」

 

「うん! よろしくね、鈴心くん!」

 

 入学初日の朝。狐雨真は、入試前に知り合った二人と再会し、葉隠とも会話を楽しんでいた。

 これから始まる雄英での生活。

 勉強も訓練も、きっと楽しいことばかりではないだろう。それでも、どんな経験が待っているのかを考えると、狐雨真の心は弾んでいた。

 

 

 しばらくして、一人の男が教室に入ってきた。

 寝癖のように乱れた黒髪。目の下には濃い隈。身体には寝袋のようなものを引きずっている。

 教室内を見回すと、面倒くさそうに口を開いた。

 

「おまえら、席につけ」

 

 その声に、生徒たちはそれぞれ自分の席へ戻っていく。

 狐雨真も席に座り、教卓を見る。

 

「俺は相澤消太。おまえらの担任だ。よろしくね」

 

 相澤消太。

 雄英高校の教師であり、ヒーロー名をイレイザー・ヘッドという男だった。

 相澤は生徒たちをひと通り見渡すと、淡々と告げた。

 

「さっそくだが、これから体操服を配る。受け取ったら着替えて、グラウンドに出ろ」

 

 相澤は生徒たちに体操服を渡していく。

 受け取った生徒たちは、突然の展開に戸惑いながらも、それぞれ体操服を手にした。

 

「個性把握テストを行う。準備ができたらグラウンドに集合しろ」

 

 それだけ告げると、相澤は教室を出ていった。

 

「えっ、いきなり個性把握テスト!?」

 

 麗日が驚いたように声を上げた。

 

「入学式とか、ガイダンスとかはないんですか!?」

 

「そんなの、あとでもできるだろ。雄英は自由な校風だからな。何をするにも、決められた順番に従う必要はない」

 

 麗日は驚きながらも、納得したように頷いた。

 狐雨真は手元の体操服に目を落とし、それから緑谷たちに視線を向けた。

 

「まあ、まずは着替えようか」

 

「う、うん。そうだね」

 

 緑谷も体操服を手に取った。

 

「二人とも、頑張ろうね」

 

「うん!」

 

「そうだね!」

 

 狐雨真たちは更衣室へ向かい、それぞれ体操服に着替えることにした。

 

 

 グラウンドに集まった生徒たちを前に、相澤は測定内容を説明する。

 

「種目は五十メートル走、握力、立ち幅跳び、反復横跳び、ソフトボール投げ、上体起こし、長座体前屈、持久走だ」

 

 どれも中学校の体力測定で経験するような種目ばかりだった。

 ただし、今回は違う。

 

「個性の使用は自由だ。自分の個性を使って、どれだけの記録を出せるかを測る」

 

 その説明に、生徒たちの表情が変わった。

 個性を使っていい。

 つまり、単純な身体能力だけではなく、それぞれの個性をどのように活用できるかが問われるのだ。

 

「個性使えるのか!すげー面白そう!」

 

 生徒の一人が、期待に満ちた声を上げた。

 

「中学の体力測定とは全然違いそう!」

 

 周囲の生徒たちも、これから始まるテストに興味を示していた。

 そんな生徒たちの様子を、相澤は冷めた目で見渡した。

 

「……面白そう、か」

 

 相澤の声が、グラウンドに響く。

 

「おまえら、自分たちがこれから何をするのか、本当に理解しているのか?」

 

 生徒たちの表情から、少しずつ笑みが消えていく。

 

「ヒーローを目指す以上、個性を使いこなす力は必要不可欠だ。自分の能力を正確に把握し、限界を知り、どうすれば最大限に活用できるかを考えなければならない」

 

 相澤はそこで一度言葉を切った。

 

「それと、ひとつ言っておく個性把握テストの結果次第では、最下位の生徒を除籍処分にする」

 

「えっ……!?」

 

 生徒たちが一斉にざわめいた。

 

「に、入学初日から除籍って……!」

 

 麗日も驚いた様子で声を上げた。その言葉に抗議するが相澤はその意見を退ける。

 

 狐雨真もまた、わずかに目を細める。

 

「……最下位は除籍、か」

 

 入学試験を突破したばかりなのに、もう退学の可能性を突きつけられるとは。

 雄英高校が厳しい場所だということは理解していた。しかし、初日からここまで容赦がないとは思っていなかった。

 

「なかなか厳しい先生だね」

 

「う、うん……」

 

 緑谷が不安そうに頷いた。

 相澤は生徒たちの反応を確認すると、淡々と告げた。

 

「話は終わりだ。さっさと準備しろ」

 

 生徒たちは緊張した面持ちで頷いた。

 相澤は続けて説明する。

 

「中学までにも、個性を使った体力測定を受けたことがあるはずだ。それを雄英で改めて行う」

 

 相澤は手元の資料を見ながら続けた。

 

「おまえらの個性を含めた身体能力を測定する。ヒーローを目指すなら、自分の能力を正確に把握しておく必要があるからな」

 

 その説明に、何人かの生徒は期待に満ちた表情を浮かべた。

 

「まずはソフトボール投げから始める。鈴心、最初にやれ」

 

「僕から?」

 

「ああ。前に出ろ」

 

 狐雨真は返事をすると、測定場所へ歩いていった。

 生徒たちの視線が集まる。

 

「投げろ。個性の使用は自由だ」

 

「それじゃあ、遠慮なく」

 

 狐雨真はボールを手に取り、軽く重さを確かめた。

 そして、投球線の前に立つ。

 まずは身体能力を高める。

 狐雨真の身体に妖力が巡り、筋肉の動きが鋭くなる。さらに妖術を重ね、腕から肩、腰、脚へと力を効率よく伝えていく。

 ただ力任せに投げるのではない。

 身体の動きと妖力の流れを合わせ、力を無駄なくボールへ伝えるのだ。

 

 狐雨真は静かに息を吸い込んだ。

 

「よいしょっ」

 

 次の瞬間、ボールが勢いよく放たれた。

 風を切りながら、ボールは青空へと飛んでいく。

 そのまま遠くへ、遠くへと飛び続け、やがて小さな点となって見えなくなった。

 測定機器に記録が表示される。

 周囲の生徒たちが、思わず息を呑んだ。

 

「す、すごい……!」

 

「いったい、どこまで飛んだんだ……?」

 

 狐雨真は表示された記録を確認し、満足そうに頷いた。

 

「うん。こんなものかな」

 

 相澤は記録を確認すると、狐雨真に視線を向けた。

 

「身体能力だけでなく、個性の補助も組み合わせたか」

 

「うん。妖術で身体の動きを補助したんだ。大きな技を使ったわけじゃないから、妖力もそれほど消費していないよ」

 

「なるほどな」

 

 相澤は短く答え、記録をつけた。

 狐雨真はボールを返し、列から離れる。

 その姿を見ていた緑谷は、目を輝かせていた。

 

「すごい……! 身体能力を高めるだけじゃなくて、妖術で動きを補助していたんだ。力の伝達効率を上げているのかな……?」

 

 またしても考え込み始めた緑谷を見て、狐雨真は微笑んだ。

 

「緑谷くんも、次の種目で頑張ってね」

 

「あっ、う、うん!」

 

 最初のソフトボール投げが終わると、相澤の指示で生徒たちは次々と種目をこなしていった。

 

 まずは五十メートル走。

 スタートの合図とともに、生徒たちが一斉に走り出す。

 狐雨真は妖力を脚に巡らせ、身体の動きを補助しながら走った。

 地面を蹴るたびに身体が軽く前へ進む。狐のようなしなやかな動きで走り抜け、記録を残した。

 

「よし、次だね」

 

 続いて握力測定。

 狐雨真は計測器を握る。表示された数値は十分に高い。

 相澤が記録を確認する。

 

「普段は気をつけているんだ。力が強いと、うっかり物を壊しちゃうこともあるからね」

 

 狐雨真は肩をすくめた。

 

 次は立ち幅跳び。

 狐雨真は膝を曲げ、身体を前へ押し出すように跳躍した。妖力で身体の動きを補助し、軽やかに着地する。

 反復横跳びでは、左右への移動を素早く繰り返した。三本の尾が揺れ、足音が小気味よく続く。

 動きに無駄がなく、方向転換も滑らかだった。

 

 続く上体起こしでは一定のリズムで身体を起こし、長座体前屈では柔軟な身体を生かして記録を伸ばした。

 

 持久走でも、狐雨真は最初から無理に飛ばさず、ペースを保って走り続ける。

 

 妖力を使えば身体能力を補助できる。しかし、使い続ければ妖力は消費される。大きな技ほど消耗も大きくなり、使い果たせば身体能力も落ちてしまう。

 だからこそ、狐雨真は必要以上に妖術を使わず、効率よく力を発揮することを意識していた。

 最後まで走り切ると、狐雨真は呼吸を整えた。

 

「ふう……。いい運動になったね」

 

 汗を軽く拭いながら、狐雨真は笑った。

 

 

 そして、ソフトボール投げの順番が緑谷に回ってきた。

 緑谷はボールを受け取ると、少し緊張した様子で投球線に立った。

 その様子を見た麗日が、心配そうに声をかける。

 

「緑谷くん、大丈夫?」

 

「う、うん……!」

 

 緑谷は返事をしたものの、どこか迷いがあるようだった。

 彼の個性は、強大な力を発揮する一方で、身体に大きな負担をかける。

 入学試験でも、その力を使ったことで身体に痛みを負っていた。

 今回も同じことになれば、記録を出せても意味がない。

 

 ――緑谷くんは、力の使い方にまだ課題があるのかな。

 

 相澤が声をかける。

 

「緑谷。いつまで立っている。投げろ」

 

「は、はい!」

 

 緑谷はボールを握り直した。

 そして、腕を振りかぶる。

 その瞬間、緑谷の身体に力が集まった。

 

「いけえっ!」

 

 ボールが放たれる。

 凄まじい勢いで飛んでいくボール。

 しかし、その直後――緑谷の指に痛みが走った。

 

「っ……!」

 

 緑谷は顔を歪め、手を押さえた。

 ボールは遠くまで飛び、記録が表示される。

 生徒たちは、その数値に驚いた。

 

「すごい記録……!」

 

「今の、どうやったんだ……?」

 

 だが、狐雨真は記録よりも緑谷の様子を気にしていた。

 指を痛めている。やはり、力を使うことそのものに問題があるのだろうか。

 

 そのときだった。

 

「おい、デク」

 

 低く、怒りを含んだ声が響いた。

 爆豪勝己が緑谷を睨みつけていた。

 

「てめぇ……個性を隠してやがったのか!!」

 

 爆豪の手のひらから爆発音が鳴る。

 次の瞬間、爆豪は緑谷へ向かって飛びかかった。

 

「かっちゃん!?」

 

 緑谷が目を見開く。

 爆豪の表情には、驚きと怒りが入り混じっていた。

 彼はずっと、緑谷には個性がないと思い込んでいた。だからこそ、目の前で強大な力を使った緑谷の姿に、激しい動揺を覚えていたのだ。

 しかし、爆豪の攻撃が緑谷に届くことはなかった。

 

「動くな」

 

 相澤の目が赤く光り、髪がふわりと浮かび上がる。

 爆豪の手から爆発が消えた。

 

「……は?」

 

 爆豪は驚き、自分の手のひらを見つめる。

 

「俺の個性が……!」

 

「テスト中だ。私情を持ち込むな」

 

 相澤は冷静に爆豪を見据えた。

 

「次に同じことをしたら、テストどころじゃなくなるぞ」

 

「チッ……!」

 

 爆豪は悔しそうに舌打ちしたが、それ以上動くことはできなかった。

 その様子を見ていた緑谷が、はっと息を呑む。

 

「個性を消す能力……!」

 

 緑谷は相澤の姿を見つめ、驚いたように声を上げた。

 

「イレイザーヘッド……!」

 

 入試前に調べたプロヒーローの情報。

 視線を合わせた相手の個性を一時的に抹消する『抹消』の個性。

 目の前の教師が、そのイレイザーヘッド本人だったのだ。

 狐雨真も、相澤の能力に興味深そうな視線を向けていた。

 

「なるほど……。相手の個性そのものを抑えるんだね」

 

 妖術とはまったく異なる能力だ。

 相手の力を消すという特性は、戦闘において非常に厄介だろう。

 相澤は爆豪を制止したまま、緑谷に目を向けた。

 

「緑谷。おまえも、自分の個性をどう使うか考えろ。強大な力を持っていても、扱いきれなければ自分を傷つけるだけだ」

 

「は、はい……!」

 

 緑谷は痛む指を押さえながらも、真剣に頷いた。

 爆豪はまだ怒りを隠せない様子だったが、相澤の前で再び攻撃を仕掛けることはなかった。

 

 狐雨真は緑谷の横顔を見つめる。

 力が強いことと、それを自由に扱えることは違う。

 

 妖力も同じだ。

 どれだけ大きな力を持っていても、扱い方を間違えれば自分を追い詰めることになる。

 緑谷は今、その課題に直面しているのだろう。

 

 ――きっと、緑谷くんなら考え続けるんだろうね。

 

 試験前に話したときの、個性について熱心に語る姿を思い出す。

 自分の力について真剣に考え続ける。その姿勢があれば、きっといつか自分なりの答えを見つけられるはずだ。

 

 

 すべての種目が終わるころには、生徒たちの表情にも疲れが見え始めていた。

 相澤は記録をまとめた資料を手に、生徒たちの前に立った。

 

「これで個性把握テストは終了だ」

 

 生徒たちは、それぞれ安堵の息を吐く。

 狐雨真も軽く肩を回した。

 

「思っていたより、いろいろと測れたね」

 

「そうだね……。でも、最下位だったら除籍っていう話が……」

 

 麗日はまだ不安そうだった。

 緑谷も、落ち着かない様子で相澤を見つめている。

 相澤は生徒たちを見渡したあと、淡々と口を開いた。

 

「最初に言った除籍処分の話だが――あれは嘘だ」

 

「……え?」

 

 生徒たちの間に、再び沈黙が広がった。

 

「う、嘘!?」

 

「もう、心臓に悪いよ!」

 

「……そういうことだったんだ」

 

 相澤はそれ以上、詳しい説明をしなかった。

 

「以上だ。各自、今日の結果を振り返っておけ」

 

 淡々とそう告げると、相澤は資料をまとめた。

 最初から最後まで、相澤の態度は変わらない。

 狐雨真はそんな担任を見て、小さく笑った。

 

「なかなか大胆な先生だね」

 

「ほんとだよ……。本気でびっくりしたもん」

 

 麗日が胸を撫で下ろす。

 緑谷も、ようやく肩の力を抜いた。

 

「でも……個性の使い方について、もっと考えないといけないのは本当だよね」

 

「うん。そこは嘘じゃないからね」

 

「僕も、自分の力をもっと知っていきたいと思っているよ。どんな力にも、得意なことと苦手なことがあるから」

 

 緑谷はその言葉を聞き、真剣な表情で頷いた。

 

「……そうだね。僕も、もっと自分の個性を使いこなせるようにならないと」

 

「焦らずに、少しずつね」

 

 狐雨真は柔らかく微笑んだ。

 

 そのとき、相澤が再び生徒たちへ向き直った。

 

「最後に、総合順位を発表する」

 

 一位鈴心狐雨真。二位八百万百。三位轟焦凍。四位爆豪。とずらりと並べられる

 

「えっ!鈴心くんが一位!」

 

 麗日が驚きの声を上げた。

 

「すごいじゃん!」

 

 葉隠も嬉しそうに声を弾ませる。

 狐雨真は少し照れくさそうに頬をかいた。

 

「ありがとう。自分の力をうまく使えたみたいだね」

 

 その一方で、二位となった八百万百は、順位表を確認してから狐雨真へと視線を向けた。

 悔しさがないわけではない。けれど、それ以上に彼女の胸にあったのは、目の前の相手への純粋な感心だった。

 妖狐という多彩な能力を、ただ力任せに使うのではなく、種目ごとに適切に活用していた。その実力は、八百万にとっても大いに刺激となるものだった。

 八百万は背筋を伸ばし、狐雨真の前まで歩み寄った。

 

「鈴心さん。素晴らしい成績ですわね。個性の特性を理解し、状況に応じて使い分けていらっしゃる……とても勉強になりましたわ」

 

「ありがとうね八百万さん。君も二位なんだから、十分すごいと思うよ」

 

「いいえ。わたくしも、もっと精進しなければなりませんわ」

 

 八百万は凛とした表情で微笑んだ。

 

「ですが、次は負けませんわ」

 

 その言葉に、狐雨真は一瞬目を丸くした。

 しかし、八百万の表情に敵意はない。そこにあるのは、相手の実力を認めたうえで、自分もさらに成長したいという前向きな意志だった。

 狐雨真は嬉しそうに笑う。

 

「ふふっ、いいね。僕も次に競うときは、もっと頑張らなくちゃ」

 

「ええ! お互いに切磋琢磨していきましょう」

 

 二人は自然に笑顔を交わした。

 その様子を見ていた麗日が、感心したようにつぶやく。

 

「なんだか、もうライバルって感じだね!」

 

「そうだね。こういうの、僕は好きだよ」

 

 狐雨真は八百万に向き直った。

 

「これからよろしくね、八百万さん」

 

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ、鈴心さん」

 

 八百万は上品に微笑み、軽く頭を下げた。

 一方、三位となった轟焦凍は、狐雨真へ静かな視線を向けていた。

 言葉こそなかったものの、彼もまた、狐雨真の実力を認識したようだった。

 その近くでは、爆豪が不機嫌そうに舌打ちしている。

 

「チッ……」

 

 緑谷が個性を持っていたこと。そして、狐雨真が総合一位となったこと。

 今日一日だけでも、爆豪にとっては思いがけないことが続いていた。

 

 狐雨真は周囲の様子を眺めながら、穏やかに微笑んだ。

 雄英には、さまざまな個性を持つ生徒が集まっている。

 自分とは違う力を持つ者たちと出会い、互いに刺激を受けながら成長していく。

 そんな学校生活が、これから始まるのだ。

 

 

 放課後。

 校門を出た狐雨真は、隣を歩く葉隠と話していた。

 

「いやー、今日はいろいろあったね!」

 

「そうだね。入学初日から個性把握テストなんて、雄英らしいというか」

 

「それに相澤先生! まさか初日から除籍なんて言われるとは思わなかったよ!」

 

 葉隠は大げさに肩をすくめた。

 

「本当にね。僕も緊張したよ」

 

「そうそう! もう、心臓に悪いってば!」

 

 葉隠の声に、狐雨真はくすくすと笑った。

 

「ふふっ。でも、葉隠さんも頑張っていたじゃないか」

 

「えへへ、まあね! 鈴心くんもすごかったよ。特にソフトボール投げ! あんなに遠くまで飛ばせるなんて思わなかった!」

 

「妖術で身体の動きを補助したからね。全部を力任せにやったわけじゃないよ」

 

「それでもすごいよ! 私も自分の個性をもっと活用できるように頑張らなくちゃ!」

 

「うん。葉隠さんなら、きっといろいろな使い方を見つけられるよ」

 

 狐雨真は自然な笑みを浮かべた。

 葉隠はその言葉に嬉しそうに声を弾ませる。

 

「よーし! 明日からも頑張るぞー!」

 

「その意気だね。僕も頑張るよ」

 

 二人は並んで歩いていく。

 夕方の風が、狐雨真の白い髪と三本の尾を優しく揺らした。

 入学初日から、厳しい教師と個性把握テストに出会った。

 緑谷が自分の個性に悩む姿も見た。爆豪の激しい気性にも触れた。そして、八百万という、互いを認め合いながら高め合える新たなライバルもできた。

 

 これから先、どんなことが待っているのかは分からない。

 それでも、狐雨真は楽しみだった。

 自分の力を知り、新しい友人たちと出会い、まだ見ぬ世界を歩いていく。

 自由気ままな妖狐の雄英高校生活は、こうして本格的に始まったのだった。






AIで小説書くの難しい……
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