世界を滅ぼすほどの力があれば、大抵のことは何とかなる。
そんなことを聞いたことがある気がする。
確かに、大岩を退かしたり山を切り崩したりするだけなら、今の俺には難しくない。
けれど人間を助けようとすると、力があるだけではどうにもならないことが多い。
たとえば、今もそうだ。
『……馬車ごと持ち上げて運ぶとか、できませんかね』
「街へ着く前に大騒ぎになります。それに、馬車が壊れたらどうするのですか」
『そっちもありましたね……』
セレスティアさんは御者に聞こえないよう声を潜めた。俺は影の中で、そっと提案を引っ込める。前方からは蹄と車輪の音だけが聞こえ、御者がこちらを気にした様子はなかった。
馬車は霊峰からアルメシアへ向かう街道を急いでいる。
石を踏んだのか車体が大きく跳ねたときも、セレスティアさんは窓枠に手を添えただけで、膝の書面から目を離さなかった。
封印の儀式を終えたばかりなのに、今度は故郷が襲われた。無理もないとは思うが、彼女の顔には疲れがはっきり出ていた。
外はもう夕暮れに近い。平野を渡る風が窓を鳴らし、馬たちは息を荒くしながら坂を下っていく。
「……もう少しで着きます」
セレスティアさんは自分に言い聞かせるように呟き、救援要請の書面を折り直した。何度も読み返しているのは、最後の方にある一行らしい。
『さっき、友人が街にいるって言ってましたよね』
「ええ、リュシアといいます。学院で一緒に学んでいた頃は、毎日のように張り合っていました」
『仲がよかったんですね』
「どうでしょう。本人にそう言ったら、きっと『勝手に決めないで』と怒りそうです」
セレスティアさんは、思い出したように口元を緩めた。
「私が聖女に選ばれたときも、悔しそうな顔をしていました。でも、旅立つ日には誰よりも準備を手伝ってくれたんです。……最後まで、いつもどおりに振る舞ってくれて」
セレスティアさんは書面を胸元へしまい、窓の外へ目を向けた。窓枠に添えた指に力が入っている。
懐かしい話をしていても、気がかりなのは今のアルメシアなのだろう。
「無事だといいのですが」
大丈夫ですよ、と言いたかった。
けれど、リュシアさんという人が今どこにいて、無事なのかさえ俺には分からない。
世界を滅ぼせる力と、誰か一人の無事を確かめる力は、別のものらしい。
『……早く着くといいですね』
「ええ」
その先は言葉が続かなかった。舗装された街道に差しかかるまで、馬車には車輪と蹄の音ばかりが響いていた。
◇
アルメシアの学院に、七度目の警鐘が鳴りかけた。
だが、最後の一打を待たずに鐘楼の上部が傾いた。
梁が軋む音を聞いたリュシアは、応援に来ていた衛兵を突き飛ばし、自分も横へ跳ぶ。
直後、石材が中庭の端へ崩れ落ち、粉塵が一面に広がった。
「大丈夫!?」
「は、はい……ありがとうございます」
「怪我がないなら地下への誘導に行って。あの辺りには誰も近づけないで!」
衛兵を見送ったリュシアは、舞い上がる粉塵を避けながら鐘楼を見上げた。
あの鐘が鳴れば、学生たちは授業の始まりと終わりを知り庭へ飛び出してきたものだ。しかし、ほんの数刻前まで当たり前だった音はもう聞こえない。
学院の正門の向こうには、先ほどの攻撃で傾いたはずの黒い円環が浮かんでいた。亀裂を残した薄板を内側に収め、何事もなかったように回転を続けている。
鐘楼を支えていた補強術式が、外から書き換えられている。あの輪の仕業だ。
「……今度は建物まで狙う気?」
リュシアは杖を握り直し、校舎へ目を向けた。壁に刻まれた術式の光も不規則に明滅している。
あの輪は建物を直接叩き壊すのではなく、支えている仕組みをほどこうとしていた。
門を破って人を追うだけなら、そんな手間は必要ない。なぜ、わざわざ学院の建物を壊すのか。答えを探している間にも、円環の指は動き続けていた。
「リュシア様!」
学院の術師が、中庭から息を切らして駆けてきた。
「学生は候補生も含めて全員、地下通路へ入りました! 地上の職員も、間もなく撤退できます!」
「東側へ抜けた人数は?」
「確認できていません。先に入った市民と合流して、通路の出口が混雑しているようです」
「……まだ、かなりの人が地下にいるのね」
リュシアは学院を振り返った。
入口を閉じたところで敵が追ってこないとは限らない。誰かが残って目を引き、東側の防衛線が避難民を受け入れるまで時間を稼ぐ必要があった。
「地上の人員は引き上げて。最後の職員が通ったら地下礼拝堂への入口を封鎖するの。それから東側の防衛線に合流して」
「……学院を、明け渡すのですか?」
術師の視線が、亀裂の入った校舎へ向かった。
割れた窓も、崩れた鐘楼も、ここで学び働いてきた者には見慣れた風景の一部だったはずだ。
リュシアもできることなら残したかった。けれど、ここで迷えば目の前の術師まで撤退の機を逃してしまう。
「そうよ。……私だって、悔しいわ」
術師は唇を噛んでいた。
「でも、建物を守るために皆を残すわけにはいかない。生きてさえいれば、ここで教えてきたことまでなくなるわけじゃないでしょう?」
「……はい」
「だったら、いつかまた再建できるように皆を無事に送り届けて。ここは私が引き受ける」
術師はうつむいたまま一度だけ頷き、それから深く頭を下げた。
「必ず、あとから来てください」
「当然でしょ。帰ってから、今日の文句をたっぷり言わせてもらうわ」
術師が駆け去るのを見届け、リュシアは正門前へ向き直った。
白い殻のイグノートが、倒れた仲間を踏み越えて迫ってくる。その後ろにも、まだ数え切れないほどの影が見えた。
「まったく。……少しくらい、休憩させてくれてもいいじゃない」
詠唱を使えば妨害される。だからリュシアは残った魔力を直接杖へ流し込み、石畳へ叩きつけた。跳ね上がった舗石が不格好な山となって道を塞ぐ。
歩いてくる相手なら、これで少しは時間を稼げる。
しかし、イグノートたちは石を登れないと見るや、群れを分けて両側へ回り込んだ。残った個体が脚を隙間へ差し込み、障害物を崩し始める。
リュシアが予想していたより、迂回は早かった。
「……さっきまで突っ込むしか脳がなかった癖に、本当に厄介ね」
上空で円環の指が動いた。新しい文字が刻まれるのに合わせ、回り込んでいたイグノートたちの足並みが揃う。
少しでも足を止めさせなければ。リュシアは杖へ魔力を流しかけて、手を止めた。
手応えがない。
「……何?」
魔力は確かに残っている。杖の握り方も、何をしようとしているかも分かる。
それなのに、魔力を流す手順だけが思い出せない。
慣れきった動作を頭の中でたどろうとするほど、途中が空白になる。
円環の指は止まらない。詠唱なしで凌ぐ方法さえ、見つけ出した途端に使えなくされた。
「……どこまで人の邪魔をすれば気が済むのよ」
リュシアは杖を石畳へ突き、とうとう片膝をついた。
学院を諦めたのは皆を逃がすためだった。
ここで敵を通せば、地下通路に残る学生や市民へ追いつかれるかもしれない。
イグノートの足音が、瓦礫の向こうから近づいてきた。
かちり、かちり。
リュシアは杖を握りしめた。迫る白い殻を見据えても、その手は動かない。
円環の指が、新たな文字を刻み終えようとしていた。
◇
馬車の窓の向こうに、アルメシアの城壁が見えてきた。上部がところどころ崩れ、煙が幾筋も立ち上っている。
街道には逃げてくる人が増えていた。荷車を押す者、道端で手当てを受ける者、互いを支えながら歩く者。
セレスティアさんはそんな人々を見るたび、膝の上で手を握り直している。居ても立っても居られない様子だった。
……想像していたより、ずっとひどい。
西門まで来ると、馬車が急に止まった。
「聖女様、ここから先は危険です! 門の付近も突破されていて……」
「私が行きます。馬車は戻って、負傷者を運ぶのを手伝ってください」
「ですが、お一人では──」
「大丈夫とは言い切れません。でも、私が行けば助けられる人がいます」
セレスティアさんは杖を持って馬車を降りた。近くにいた避難民が白い法衣に気づき、聖女様、と声を上げる。
彼女は避難民に東側へ抜ける道の様子を尋ね、まだ通れると知ると、皆をそちらへ誘導した。疲労は顔に残っているが、休んでいる暇はないと決めているらしい。
影の中から見上げると、西門は半ば崩れ落ちていた。そこから東へ延びる大通りの先には尖塔が見える。セレスティアさんの通っていた学院は、広場を二つ越えた辺りにあるという。
その道を、白い殻の奇妙な連中が歩き回っていた。
六本の不揃いな脚に、顔のない胴体。乾いた音を立てて歩く姿は、生き物というより壊れた機械に近い。
……あれが、イグノートか。
セレスティアさんの故郷を襲っている魔物の名前だ。俺が封じられる前には、こんな姿のものを見た覚えがない。
ずいぶん長く眠っていたのだと、妙なところで実感してしまった。
崩れた壁のそばで、幼い子を抱えた女性が立ち往生している。白い一体が迫るのを見たセレスティアさんは、迷わず杖を掲げた。
「──聖なる光よ!」
金色の障壁が親子の前へ広がり、突っ込んできたイグノートを弾き飛ばした。
「東へ逃げてください! 避難する人たちに合流できるはずです!」
女性は何度も頭を下げ、子供を抱え直して走り出す。セレスティアさんはその背中を見届けると、次に迫った個体へ杖を向けた。
光が走り、白い殻が石畳に転がる。
……おお。地下聖堂では戦うところを見なかったけれど、セレスティアさんはかなり強そうに見える。
もっとも、余裕があるわけではなさそうだ。人を逃がすたびに足を止めて周囲の安全を確かめ、その合間にも魔法を使っている。呼吸は少しずつ荒くなっていた。
何か手伝いたいが、俺が姿を見せれば大騒ぎだろう。救助より俺への対応が優先されるようでは意味がない。
とりあえず、今は黙ってついていくしかなさそうだった。
大通りを進むうちに、セレスティアさんがふいに立ち止まった。
「……学院の方角に、何かいますね」
彼女の視線を追うと、建物の向こうの空に大きな黒い輪が浮かんでいた。内側では何かが回り、細かな文字が忙しなく光っている。
空に浮く輪なんて、初めて見た。
あれも魔物なのだろうか。
セレスティアさんは足を速めた。道を塞ぐイグノートを最低限の魔法で退け、広場を抜ける。
やがて学院の正門が見えた。
「……リュシア!」
黒い輪の下に、杖を支えに膝をついた少女がいた。あれがリュシアさんらしい。
赤みを帯びた髪が粉塵に汚れ、周囲には白い魔物が集まっている。
……まずい。
セレスティアさんは、もう駆け出していた。
◇
リュシアは杖を持ち上げようとした。だが、腕が震えて思うように上がらない。
イグノートが、崩れかけた舗石の脇から迫ってくる。退こうにも、疲れ切った脚が動かなかった。
「……ほんと、しつこいんだから」
目の前の一体が脚を持ち上げた。
「──リュシア!」
聞き慣れた声が街路に響いた。
瓦礫の向こうから、白い法衣の少女が駆けてくる。銀色を帯びた淡い髪も、その必死な表情も見間違えようがない。
「……ティア?」
セレスティアが掲げた杖から金色の光が広がり、迫るイグノートを押し戻した。
円環が新たな術者の魔法へ干渉するより早く、彼女は短い防御術式を重ね、二人を障壁で囲んだ。
円環の干渉がセレスティアへ移ったのか、途切れていた魔力操作の手順がリュシアの頭にわずかに戻ってきた。
しかし術を使えるほどではなく、疲れ切った身体は杖に頼らなければ支えられない。
「遅くなりました、ごめんなさい!」
息を切らして駆け寄る友人を見た途端、リュシアは笑いたいのか怒りたいのか分からなくなった。
「……ほんっとに、遅い!」
「ええ。本当にごめんなさい」
「こんなときに限って、どこで道草食ってたのよ」
「道草なんてしていません」
「冗談よ。……少しくらい言わせなさい」
セレスティアの口元がわずかに緩む。リュシアもつられて笑いかけたが、頭上の輪へ視線を戻すと、すぐに表情を引き締めた。
「学院の皆さんは?」
「学生は全員地下通路に入ったわ。職員も東側へ向かってる。でも、市民も合流しているからまだ通路を抜けきってないの」
「分かりました。よく守ってくれましたね」
「……何よ、急に」
「ありがとう、リュシア」
セレスティアが肩に手を置くが、リュシアは目を逸らす。ほっとした顔を見せれば、気丈に振る舞ってきたものが全部崩れそうだったからだ。
駆けつけたばかりの友人にまで心配をかけるのは癪だったし、何より、まだ守り切れていない人たちがいる。
「……当たり前のことをしただけよ。それより、あいつを何とかしないと」
空に浮かぶ輪を顎で示す。仲間が下がれたことへの安堵はあっても、学院も地下の避難者もまだ安全ではない。
「魔法が通じないの。術式に割り込むし、詠唱も忘れさせる。今じゃ魔力を動かす感覚までおかしくされてる」
「そんなことまで……」
「ただのイグノートじゃないわ。あれが群れを動かしてる」
セレスティアは円環の薄板と文字の動きを追い、隙を探してから杖を掲げた。
セレスティアの杖先に細い金色の光が集まる。だが術式が完成する前に円環の板が回り、白い文字が彼女の周りへ浮かんだ。
魔法陣の一角が形を変え、集まった光は散ってしまう。
「……私の術式にも干渉できるのですね」
「ええ。さっきから、まともに撃たせてくれないのよ」
セレスティアは魔力の流し方を変え、さらに短い術式を試した。しかし円環の指が先回りするように動き、今度は形になる前に光を散らされる。
「……構築する前に崩されてしまいます」
「私も守りを解かせた隙に、板を一枚傷つけるのが精いっぱいだった。もう同じ手には乗らないでしょうね」
「ほかに動きを止める方法は?」
「探してるところ。見つかってたら、こんなに苦労してないわ」
障壁の外では、イグノートが身体を打ちつけている。金色の表面に、小さな波紋が広がった。
セレスティアは輪の内側で回る板を見つめた。相手の動きを読んで隙を作るには、まず時間が要る。
だが二人の魔力も、目の前の障壁も、いつまでも持つわけではなかった。
頭上で円環の指が新たな文字を書き始めた。到着直後に張った障壁はまだ標的にされていないが、それも時間の問題だろう。
セレスティアはリュシアの前へ半歩進んだ。完成しない術式をいったん解き、障壁の維持に魔力を回す。次の攻撃までに、何か手を見つけなければならなかった。
『……セレスティアさん、ひとつだけ』
不意に、足元からエデンの声がした。
セレスティアは反射的にリュシアの様子を窺う。
人前では話しかけないよう頼んでいたが、緊急時のためこの際仕方がないだろう。
リュシアは輪を警戒したままで、エデンの声に反応した様子はない。少なくとも今の呼びかけは届いていないらしい。
『あの輪が、ほかの魔物に指示を出しているんですよね』
セレスティアは頷きかけ、寸前で思いとどまった。リュシアの前で、何もない足元に返事をするわけにはいかない。
『だったら、俺が壊してしまうのはどうでしょう』
セレスティアの脳裏に、地下聖堂で落石を受け止めた巨大な爪がよみがえった。確かに、エデンなら輪を壊せるかもしれない。
しかし、街にはまだ逃げ遅れた住民がいる。ここで彼が姿を現したら、輪を壊すだけで済むとは思えなかった。
セレスティアはリュシアの顔を盗み見てから、聞き取られない程度の声で答えた。
「……今は、待ってください」
『分かりました。勝手には動きません』
この状況でさえ、エデンの正体が知られたら救助どころではなくなる可能性もある。
今は待ってもらうしかない。それでも、ほかに道がなくなったときまで頼ることを拒めるのだろうか。
セレスティアはそれ以上返事をせず、杖を構え直した。
足元の影がごくわずかに揺れたが、エデンは約束どおり姿を見せなかった。
◇
ティルナノーグは玉座に腰かけたまま、二枚の光板を正面へ寄せた。
光板に映るのは、アルメシアへ送り込んだ眷属たちの視界だ。一枚は学院の正門を、もう一枚は街の東へ向かう人々と、その先の街道を捉えている。
正門の方へ、白い法衣の少女が駆け込んできた。
「……もういらしたのですね」
聖女セレスティア。
封印に関わる儀式の後なら、まず教皇へ報告するはずだった。アルメシアへ救援に向かうとしても、それからでは間に合わない。
ティルナノーグはその時間を見込んで襲撃の日を選んでいた。
ところが聖女は、儀式の疲れも抜けないまま戦場へ現れた。
「報告よりこちらを優先なさいましたか」
独り言に咎める響きはない。予想を外されたことよりも、聖女が何を選んだかに興味を引かれていた。
光板の中では、聖女が赤髪の術師を守るように立ち、円環へ杖を向けている。
金色の術式が浮かんだかと思うと、その端から別の文字へ変わり、光はほどけるように消えた。
聖女は術式を短く組み直すが、今度は形になる前に妨げられた。
「……ふふ」
ティルナノーグは、円環の働きを見て小さく笑う。
円環は聖女の術式を崩すたびに板の配置を変え、守りも疎かにしない。ティルナノーグが指示を出す必要はなかった。
一方で聖女もすぐには諦めない。杖を持ち替え、何度も円環の板の動きを確かめている。
ティルナノーグはその攻防を眺めながら、隣の光板にも目をやった。
東側の通りでは、避難者を誘導する衛兵が後から来た荷車へ進路を譲っている。その先では街道を急ぐ馬車が一台、また一台と増えていた。
学院の正門に残った術師たちだけで、アルメシアの防衛が成り立っているわけではない。城壁の外には別の防衛線があり、街を出た人々にも行く先がある。
ティルナノーグは街道を映す板を消さず、学院前の映像へ視線を戻した。
「この街の防衛に聖女様まで加わってくださるとは思いませんでした」
そのとき、映像の隅で奇妙な動きがあった。
「……あら?」
聖女の足元に伸びる影。その輪郭が、夕日の向きとは関係なく、ほんの少し膨らんだように見えた。
ティルナノーグは別の眷属の視界へ切り替えた。影はすでに元へ戻りかけていたが、角度を変えても、わずかな歪みは確かに見て取れる。
聖女が杖を動かした様子はない。魔法陣も見当たらなかった。
「……今のは何でしょう」
未知の術式か、それとも別の現象か。影が動いたというだけでは、何も断定できない。
ティルナノーグは聖女の足元を映す光板を拡大し、その隣に街道の映像を残す。
学院の正門で聖女は円環と向き合っていた。
遠くの街道でも、人々の動きは続いている。
ティルナノーグは二枚の光板を並べたまま、しばらく聖女の足元を見つめていた。