いずれ待つのは、避けられない過酷な運命。
でも今は、救えた命と守りたい日常を愛おしんで。
やらなきゃいけないこと、やりたいことが何かを、自分の心に刻み付ける。
色づいた世界。
気付いてしまった世界。
それでも私は、笑顔でまた今日を迎える。
魔法少女リリカルなのはRe:SET
始まります。
【挿絵表示】
「この子に、手を出さないで...!」
凛々しく言い放ち、力強く自らの"剣"を構える。
形状はナノハに合わせて日本刀をベースにしつつ、細部にメカニカルな意匠を含み。
鍔の部分には金の細工と、先ほどまでの待機形態をそのまま大きくしたような、赤いコアパーツが嵌め込まれていた。
これがナノハに最適化されたインテリジェント・デバイス。
"レイジングハート"の戦闘形態である。
「あれ...服まで、変わってる?」
『"戦闘用防護服、通称バリアジャケットです。マスターのパーソナルデータを元に作成しました。"』
「パーソナルって...」
集中していた為か、今の今まで自分の姿には意識がいっていなかったらしい。
彼女が身を包むのは、白を基調とした機能美と華やかさを兼ね備えた戦装束であった。
上半身は洗練された白の軽装アーマーで守られており。
胸元には黄金の縁取りが施され、中央には真紅の宝石が、その周囲には四方に伸びる飾りが嵌め込まれている。
肩アーマーは白と青の層が重なり合ったカラーリングで、動きやすさを確保しつつも確実な防御力を感じさせる。
腕には濃紺のリストガード、そして宝石で飾られたガントレットが。
グローブは動きを妨げないよう、指出しタイプとなっている。
腰回りには深い青の、目を引く大きなリボンが付いており、彼女の後ろ姿を華やかに飾っている。
リボンの中心には、胸元と同じく真紅の宝石が輝いていた。
下半身は白のオーバースカートが波打つように広がり、その下からは青のスカートが顔を覗かせる。
足元は装甲に覆われた靴ではあるが、どこか足袋のような見た目をしている。
総じて鎧でありながら、和風のエッセンスを加え着物の要素も感じられるデザイン。
レイジングハートがナノハに合わせて作成した、渾身の一品だった。
『グォォ...!』
ナノハが自身の姿に戸惑っている中、怪物は斬られた部分を接合し再生。
再び狙いをナノハに定めて咆哮する。
「な、何で平気そうなの!?」
『"あれは生き物ではありませんから。"』
『グルルォォ!!』
「きゃっ!?」
『Protection.』
その生命力に驚いた隙を突き、怪物は跳躍。
ナノハをその巨体で押し潰そうとする。
すかさずレイジングハートが障壁魔法を展開。
僅かなヒビも入らず、逆に怪物を弾き飛ばした。
「なんて魔力量...!」
驚愕する声はあのフェレットの物だ。
ある程度の魔法資質があることは分かっていた。
しかし、ナノハのそれは彼の想像を遥かに超えている。
変身時に拡散された魔力に、今の障壁魔法。
どちらも一流の魔導師以上の力を感じさせるモノだった。
それをこの、
先程まで怯えていた少女が持つポテンシャルだとは、目の前のことであっても信じられない心地だった。
『"マスター。魔法に関する知識はお持ちでしょうか。"』
「全然まったく...!ありませんっ!」
『"では、全て教えます。私の指示通りに。"』
「は、はい!」
とはいえ、また怪物が起き上がってくるのは自明の理。
戦況を変える為、レイジングハートは次なる魔法を発動。
ナノハの靴に、彼女の魔力光である桜色に輝く"翼"が生える。
『"飛びます。"』
「飛べるの...!?きゃあっ!?」
最早どちらがマスターなのか分からないのは置いておいて。
予備動作なく勝手にナノハの身体が飛び上がり、そのまま浮かんで屋根の上まで移動してしまう。
戸惑う暇もなく、怪物はナノハを害そうとその触手を鋭く伸ばしてくる。
それをほとんどジャンプするような形で回避し、家々を飛び移るナノハ。
当然動けない建物は攻撃をそのまま受ける羽目になり、見ただけで青ざめるような被害が眼下に広がっていく。
「た、大変...!みんなのお家が...!?」
『"問題ありません。"』
「大問題だよ!?」
『"隔絶結界を展開しています。位相がズレているので、現実での被害はありません。"』
「え、えっと...?」
『夢の中で戦ってるようなイメージです!意識がある僕ら以外は痛みも感じないし、怪我もしません!』
「わ、分かりやすい!」
ユーノのフォローもあり、とりあえず被害が広がらないことは理解出来たようだ。
後はあの怪物を退治出来れば万事解決なのだが、変幻自在に形を変えナノハを捕らえようとする姿はやはり生き物には見えない。
『"生き物ではありません。ロストロギアの異相体です。"』
「いそう、たい...?」
『あなたの魔力ならあれを封印出来ます!レイジングハートと一緒に、どうか!』
「封印...?おふだ?」
屋根伝いをやめ、いよいよ空中飛行が出来るようになると、自分の状態や相手の様子も俯瞰して見え始める。
レイジングハートの説明はやはりよく分からないが、どうやらあの怪物は
『"封印の為には、接近による"封印魔法"の発動か、"大威力魔法"が必要です。"』
「どっちも私、知らないけど...?」
『"あなたの思い描く、
「そんなこと言われても...あっ!?」
アドバイスに首を傾げるナノハだったが、その瞳に映ったのはかのフェレットの危機だった。
空中へ逃げるナノハを諦め、怪物はまたしても照準を彼へと向けたのである。
咄嗟のことで動けないフェレット。
飛行に慣れていないことなど忘れ、ナノハは突進するように全力でその間に割り込んだ。
「くっ...?」
「うぅっ...!!」
『グゥガァァァ!!』
周囲に衝撃と土煙を広げ、桜色の障壁がバチバチと音を立てて怪物の牙を阻む。
障壁自体は頑強ではあるものの、今度はやや体勢の不利が大きい。
苦しそうな声の通り、急な動きでナノハの身体には負担がかかっていた。
このままではジリ貧の状況に、レイジングハートの冷静な声が響く。
『"利き手を前に。"』
「こ、こう...?」
『Shoot the bullet.』
言われるままに左腕を構えるナノハ。
レイジングハートの声と共に魔法陣が展開され、自身でもすぐに分かる程の"力"が、その部分に集まっていく。
『"今です。"』
「えいっ...!」
『ギャアァァ!?』
合図と共に気合いを入れる。
それだけで十分だった。
ナノハの腕から魔力の弾丸が放たれ、怪物の体を削り吹き飛ばす。
弾丸というより、エネルギーをそのままぶつけたと言うべきか。
「これが、魔法...?」
『"マスターの魔力による力技です。"』
「すごい...とんでもない資質だ...。」
「大丈夫?ケガ、してないよね...?」
「う、うん。ありがとう、助けてくれて。」
「よかった...。」
本人以上に呆然とするフェレットを抱き上げ、どこか安全な場所まで移動させようとする。
周囲を見渡す視界には、吹き飛ばした敵の動向も映っていて。
「あっ!?逃げた!?」
反撃してくるという予想を裏切り、怪物が取った行動はまさかの逃走。
さっきまでの攻防で、ナノハに対してこれ以上の継戦は無謀だと判断したのだろう。
小賢しくも、怪物は空けられた傷から3つに分裂。
それぞれ別方向に向かって逃げていく。
「ここで待っててね...!」
「あ、君っ!?」
フェレットと離れ、全速力で怪物を追い掛けるナノハ。
無我夢中故に、辿々しくもその動作に迷いはない。
「逃がしたら関係ない人たちが危ない目に...!何とかして近付かないと...!」
『"そうとも限りません。"』
「えっ?」
『"照準は私が。マスターは攻撃の準備を。"』
刀で切り裂くには接近する必要がある。
だがそれは、あくまで
レイジングハートは刀ではなく、魔法を補助するデバイスである。
先程の一撃を思い出し、飛行しながら自らの身体を流れる力を意識する。
『"そうです。胸の奥の熱い塊を、両腕に集めて。"』
一際熱くなる胸の中心。
その熱を腕に。
そこからレイジングハートへと集めていく。
徐々に刃部分が桜色の輝きを強め、足元にまたしても魔法陣が現れた。
『Saber Mode.』
"モードチェンジ"の音声と共に、レイジングハートの形状が変化する。
刃部分が光剣として延長され、鍔からは溢れる魔力を表すように、光りの翼が左右に大きく羽ばたいた。
「"届かせます。振り抜いて。"」
「届いてっ...!」
一振、二振。
素早く振るわれた剣から、魔力で形作られた"斬撃"が放たれる。
『ギャッ!?』
『グゲッ!?』
三日月型のそれは鋭く怪物の体を射貫き、形を保っていられない程のダメージを与える。
『グォォォ!!』
散った2体の残滓を最後の1体が吸収。
再び巨大になったそれは逃走を止め、一転してナノハ目掛けて突進を仕掛けてくる。
『"マスター、チャンスです。"』
「うん!...もっと。もっと遠くに。長く、鋭く...!」
剣を中段に構え、迎え撃つナノハ。
更なる集中を続け、今度は刃を飛ばすのではなく。
「あの子、ただの近接型じゃない...!」
『グガアァァァ!!』
「いくよ...!」
『Divine Slash.』
光剣から迸る、エネルギーの嵐。
振り抜いた剣がそのまま届くかのように、放たれた一撃が真っ直ぐに怪物を捉える。
斬るよりも、消し飛ばす。
その表現が合うような、ビーム砲にも似た一撃。
『グギャアァァァァ!?!?』
飲み込まれた怪物は、今度こそ再生することはなく。
ナノハの放った必殺の一撃によって、その姿を完全に消し去られるのであった。
「今のは、封印砲...?砲撃型ってわけじゃないのに...。」
「ハァ...ハァ...っ」
『"お見事でした。"』
確かな手応えを感じて気が抜けたのか、落下するように地面へと降り立つナノハ。
戸惑いっぱなしのフェレットの声も、労うレイジングハートの声も。
今の彼女には聞こえていない。
「っ...あれ...?」
そんな彼女の目の前に、
深い青に染まった、宝石のような菱形の何か。
反射的に手を伸ばすナノハを、レイジングハートが制止する。
『"直接触れるのはオススメしません。私を突き付けてください。"』
「こ、こう?」
『Prepare to Seal.』
通常の刀の状態に戻ったレイジングハートに、件の3つの宝石が吸い込まれるようにして消えていく。
分からないながらに、ナノハはフェレットが言っていた"封印"という言葉を思い出していた。
「これで、解決...?」
『"はい。お疲れ様でした、マイマスター。"』
「......はぁ~。」
レイジングハートの言葉に安堵し、今度こそ全身の力が抜け、その場にぐったりと座り込んでしまう。
空間が色を取り戻し、目に入ったのはいつも通りの美しい月。
いつの間にか戻っていた服に、どこも壊れていない街並み。
夢だったのかと錯覚する頭を否定するように、手の内にある赤い宝玉は未だ温かい。
それ以上に、胎動する得体の知れない力が間違いなく自分の中にあると感じて。
ナノハは改めて、深い溜め息を吐くのだった。
「魔法使いに、なっちゃった...。」
―――――――――――――――――――――――
「お姉ちゃん、帰って来てるかな...?」
そろり、そろりと。
ゆっくりと自宅に近付くナノハ。
時刻はもうすっかり21時を過ぎ、小学生が出歩いていい時間ではない。
その上彼女の腕には今、抱えられたユーノと、待機形態のレイジングハートがある。
もし部屋までに姉と鉢合わせればそれらの理由を追求されるだろうし、外出していた時間だけでお説教は免れない。
「そんなに恐い人なの?」
「ううん、そんなことないよ。ただ、ちょっと...」
いい言い訳が思い付かないまま、いよいよ玄関口が見える位置に差し掛かる。
「ナノハっ...?」
「!」
祈るまでもなく、見たその先には姉であるシュテルの姿があった。
ユーノを隠すことも出来ず、頭が真っ白になってしまう。
そんなナノハを叱ることもしないで、シュテルは心底安心したような表情になり。
優しく彼女の妹を抱き締めた。
「お姉ちゃん...?」
「よかった...いなくなってしまったのかと思いました...。」
「いなくなる?」
「スマホも持たずに、夕食もそのままで...。早く帰ると言ったのに、私は連絡も出来ず。怒って、出て行ってしまったのかと。」
「そんな。そんなことで怒ったりしないよ?」
「そんなことではありません。寂しい想いをさせてしまいました...ごめんなさい、ナノハ。」
そう謝る姉の姿に、ズキリと胸が痛む。
端的に言って、ナノハはこれが苦手だった。
彼女が小さい怪我をしたり、いつもと違うことがあったりすると、決まってシュテルは必要以上に心配してしまう。
そうして最後は自分自身を責めるのだ。
これが両親を失ったトラウマからの思考だと、ナノハは知っている。
心配されることが煩わしいわけではない。
シュテルの心の傷を知りながら、また心配を掛けてしまった自分が許せないから。
だから、ナノハはこの事態を避けたがっていたのである。
「...ほんとに、怒ってないよ。心配かけて、ごめんなさい。ただ、ちょっと急がなくちゃいけなかったから...」
「キュ、キュウ...」
「ん...?」
ここで漸く違和感に気付く。
シュテルがゆっくりと体を離すと、そこには二人の間で挟まれた、というより押し潰されていた小動物がいた。
その動物とナノハを交互に見て、戸惑った表情を浮かべる。
「あの、えっと...放課後に怪我してるとこを拾った子なの。病院に預けてたんだけど、嫌だったのか、逃げ出しちゃって。だから捜しに行ってたの。何とか見つけて、でももう遅いから...とりあえず今日は家に泊めてあげられないかなって...。」
ゆっくりと経緯を説明し始めるナノハ。
最初以外ほぼ嘘なのだが、本当のことを言う方が嘘っぽ過ぎる。
魔法と怪物などと言えば今度は頭の心配をされそうだし。
「なるほど...それは、何と言う動物なのですか?」
「えっとたぶん...フェレット、だと思う。」
「フェレット、ですか...。」
「キュッ...?」
注意深く、シュテルはユーノを見つめる。
ぶつかる視線と視線。
じっと見つめてくるその瞳には、まるで
フェレットの姿ながら、緊張でユーノが固まってしまっているのがナノハにも分かった。
「
「えっ...!?」
「以前ペットショップで見たモノとは違うようですから。」
「きっと種類が違うんだよ!病院の先生も珍しいって言ってたし!」
「そうですか...。」
何か疑うような視線を遮り、慌ててナノハが弁解する。
シュテルは頷いた後も微妙な表情でユーノを見つめ続け。
やがて仕方ないとばかりに息を吐き出し、玄関への道を空けた。
「分かりました。とりあえず、今日は家に。逃げ出すとタイミングによっては危険ですので、カゴからは出さないように。」
「う、うんっ。ありがとう、お姉ちゃん。」
「遅くなりましたが、一緒にごはんを食べましょう。おかえりなさい、ナノハ。」
「...ただいま、お姉ちゃん♪」
命の危険を乗り越え、待ちに待った挨拶を交わす。
ナノハにとって、やっと心休まる瞬間がやって来た。
姉妹が微笑み合う中、ユーノは一人心の中で生唾を飲み込む。
何故だか分からないが、生きた心地がしない。
小動物的第六感に苛まれながら、運ばれるままに。
彼は初めて、スタークス家の敷居を跨ぐのであった。
―――――――――――――――――――――――
「ふぅ~...やっと落ち着けたね。」
「う、うん...。」
急いでお風呂に入って、夕食を楽しんで。
漸く部屋に戻れたのが22時をとっくに過ぎた頃。
このままベッドに倒れ込みたい衝動を我慢し、ナノハは改めてユーノと向き合う。
「...なんか、ぬいぐるみさんみたい。」
「え?」
「即席の"お部屋"だけど、何だか似合ってて可愛いなって♪」
「そ、そうかな?ありがとう...///」
「どういたしまして♪」
"脱走しないように"というお達しの為、ナノハの部屋に即席の飼育カゴを設置したのだ。
カゴと言ってもケージではなく、木製のバスケットにタオルを敷いた簡素な物。
そこから顔を少し覗かせている姿が愛らしく、動物好きとしては堪らない構図になっていた。
ユーノはユーノで、お風呂上がりの女の子の匂いにどぎまぎしているのだが、そちらは深掘りすると変態チックなので割愛したい。
「それで、あの。聞かせてもらえるかな?色々と。」
「もちろん。巻き込んでしまったんだから、ちゃんと説明させてもらいます。」
真剣な表情になるナノハに対し、ユーノもバスケットから出て彼女の目の前に立つ。
少し考え込むようにしてから、ナノハに噛み砕いた説明を始めた。
「まずボクは、別の世界から来ました。」
「別の世界?」
「はい。管理外世界の住人であるあなたは知らないと思いますが、世界はこの地球だけじゃありません。色々な世界がいくつも存在してるんです。ボクはその、別のところから来たんです。」
「地球が、世界...えっと、宇宙フェレット...?」
「あーえっと...今はとりあえず異世界って分かってもらえれば。」
「SFでファンタジーなんだね...?」
早速分かり辛い部分が出てきてしまったが、ナノハの頭ではフェレットで埋め尽くされた"フェレット王国"なる妄想が爆発中。
詳しく説明しても今は伝わらないだろう。
「ボクの一族は遺跡の調査を生業にしていて。」
「遺跡の調査って、発掘とか?」
「そうです。異世界にも手を広げて、研究の為に。」
「...可愛い。」
「えっ?」
「な、何でもない続けて!?」
先程のフェレット王国に加えて、一生懸命ハンマーやピッケルを振るうフェレットたちを想像してしまい。
すごく微笑ましい気持ちになってしまうナノハ。
一々話の腰を折ってしまってはと、その感想を何とか誤魔化す。
「さっきあなたが封印してくれた宝石の名前が"ジュエルシード"。それを発掘して、然るべき機関に預けようとしたんだけど、運ぶ輸送船が事故に遭ってしまって。」
「その宝石が、この世界に落ちちゃった?」
「その通りです。あれはただの宝石じゃない。とんでもない力を秘めていて、
「持ち主の、願い...」
魔法のランプのおとぎ話を思い出す。
"それが本当なら、自分は。"
そう一瞬考えて、すぐにその思考をナノハは搔き消す。
それはきっと、考えてはいけないことだから。
「さっき、レイジングハートが確か...ロスト、なんとかって。」
「"ロストロギア"。ボクらの世界ではジュエルシードみたいな、
「っ...」
成り立ちや事情は分からないが、やはり危険な物で間違いない。
あの怪物が、また知らないどこかで暴れだすかもしれないのだ。
「だから、ボクはジュエルシードをこの世界から取り除かないといけない。この世界を巻き込んでしまったのは、ボクたちだから。...結局、あなたに助けて貰わないと封印もまともに出来ませんでしたが。」
「あ...ごめんね?そういえば私、まだ自己紹介もしてなかった。」
「それならこっちも。まず最初に名乗るべきでした。」
「ふふっ、敬語なんて使わなくていいよ。私、ナノハ・スタークス。9歳です。」
「ナノハ...じゃあ、えっと。ボクは、"ユーノ・スクライア"。9歳なら、同い年かも。」
「じゃあ、ユーノくんだね。よろしくね、ユーノくん♪」
「う、うん...よろしく、ナノハ。」
ぎこちなくも、にこやかな自己紹介。
「それで...不躾なお願いなのは分かってます。さっきも、関係ないナノハを危険な目に遭わせてしまって。だけど、どうかボクに、力を貸してくれませんか?この世界を守るには、どうしてもあなたとレイジングハートの力が」
「また敬語になってる。」
「ぁ...///」
畏まって話を再開するユーノの口に指で触れ、その言葉を止める。
言われなくても分かっていると、笑顔で以て答えてみせた。
「嫌だって言ったら、ユーノくんは一人で頑張ろうとするでしょ?それでまたケガしちゃったら、そっちの方が私は嫌だから。よろしくって、言ったじゃない♪」
「ナノハ...ごめん。本当に、ありがとう。」
巻き込まれたのは確かで、関係ないと忘れることも出来る。
だが、そんな人間ならそもそもレイジングハートが応えたりはしないだろう。
ユーノの声が自分にだけ聞こえたのはきっと、意味があることだと思うから。
こんな瞬間を、もしかしたらずっと待っていたのかもしれない。
そう思って、ナノハはユーノに協力することを決めた。
「レイジングハートも、改めてよろしくね?」
『"こちらこそ、よろしくお願いします。マイマスター。"』
掌にある赤い輝きにも挨拶を済まし、そろそろ眠気も限界に来ていた頃。
最後に1つだけ、聞いておくべきことがあったのを思い出した。
「ジュエルシードって、全部でどれくらいあるの?やっぱり7つとか?」
「えっと...全部で
「にじゅう、いち...っ?」
「今回は運悪く3つ集まってしまっていたけど、基本は1つずつかな。あれは結構イレギュラーだから、安心して...って、ナノハ?」
願いを叶える宝石と言えば7つ。
そんなのは異世界には通用しない常識だった。
告げられた数はその3倍の21個。
最大あと18回もああいう怪物と戦う可能性があるということだった。
圧倒されるように仰け反り、ナノハは今度こそベッドに倒れ込む。
「だ、大丈夫...頑張るから、私...ははっ...」
「う、うん...よろしく?」
そうやって自分に無理矢理エールを送り、これ以上考えないように瞳を閉じる。
今はとにかく休もう。
明日の苦労は、明日の自分に任せて。
「おやすみなさい、ユーノくん。レイジングハート。」
「おやすみ、ナノハ。」
『"おやすみなさい、マスター。"』
久しぶりに聞く、姉以外からのおやすみ。
心がぽかぽかするのを感じながら、ナノハの長い一日はこうして終わりを告げたのだった。
―――――――――――――――――――――――
疲れていても、朝というのは否応なしにすぐやって来るものだ。
翌朝、いつもより一時間も遅く目を覚ましたナノハは大慌て。
先に起きていたシュテルのおかげで朝食は済ませられたが、いつものバスにはもう間に合わなかった。
仕方なく一人での登校となる、その道すがら。
『本当に頭の中で話せちゃうんだ...。』
『ボクらの世界では、結構ありふれた技術なんだけど。』
『スマホとかはないの?』
『"簡易デバイスなら。私がいれば、そんなものは必要ありませんが。"』
『レイジングハートって、やっぱり特別なんだね...。』
ナノハは俗に言うテレパシー、ユーノが言うところの"念話"を初体験していた。
頭の中で発声するイメージがコツ、だとか。
自宅で休むユーノにレイジングハートも加わって、彼女の頭の中はなかなかに賑やかなことになっている。
『ユーノくん、ご飯はフェレット用のじゃなくて大丈夫なんだよね?』
『うん。この世界の人の食べ物なら問題ないと思うよ。』
『分かった。お姉ちゃんに怪しまれないように、見た目は工夫しないとね。』
今朝はユーノが逃げ出さなかったことに安心した様子だったが、結局その後も訝しむような視線をシュテルはユーノへ向けていた。
このままだといつ追い出されるか分からない。
とりあえず預かっているという体でいるわけだし、もしジュエルシード捜索が長引けば更に怪しまれてしまう。
考えないといけないことは多いようだ。
『それで、ジュエルシードってどうやって見つけるの?』
『反応があればレイジングハートが教えてくれるはず。』
『なかったら?』
『やりようはあるんだけど...それはまた必要になった時に。今日はゆっくり普通に過ごすべきだよ。』
『そっか。そうだね。』
正直、昨日の今日でまた戦闘はナノハも勘弁したいようだった。
まだまだ眠い目を擦り、あくびを漏らし。
遅れた時間でやっと教室にたどり着いた。
「あ、ナノハちゃん♪」
「おはよう、二人とも。」
「おはよ。珍しいわね、ナノハが寝坊なんて。」
「あはは...ちょっと昨日、色々あって。」
「あれ?その付けてるの、昨日のあの子が持ってた首輪?」
教室では先に着いていたアリサとすずかが待っており。
いつも通りの挨拶を交わす。
すると、早くもすずかが胸元に下げているレイジングハートに気付いた。
どちらかにはすぐ指摘されると思っていたので、予め説明の用意はしていた。
昨日フェレットが病院から逃げ出したので保護したこと。
フェレットが嫌がっていた為、首飾りを外したこと。
飼い主さんが気付けるように、目立つそれを自分が持ち歩くことにしたこと。
少し苦しいが、納得出来る内容ではあった。
「ナノハちゃん、すっごく似合ってるよ~♪」
「首輪が?」
「違うよ、宝石の方~!」
「とにかく、とりあえずあの子はナノハが面倒見るのね。よかったんじゃない?」
「私としても、嬉しいかな。すっごく可愛いから。」
「だよね~♪私あの後、フェレットについて色々調べちゃったんだ♪」
二人もナノハがユーノを預かることに好意的に返し、その後もちょっとした雑談が続いた。
そうして後5分程でチャイムが鳴るというタイミングになり。
「そうそう。宝石と言えばなんだけど。」
「どうしたの?」
「私も、こんなの拾っちゃったのよ♪」
アリサが思い出したように、鞄の中から何かを取り出した。
覗き込むナノハとすずか。
「ふふっ、どう?珍しくてキレイでしょ!」
「......え。」
差し出された物を見て、ナノハは絶句した。
青く鈍く光る、ひし形の宝石。
友人の手にこんなに気安く握られていてはいけない、超危険物。
何度見ても、昨日焼き付いた記憶と一致してしまうそれが、アリサの手の上に乗せられていた。
『"マスター。
『うん目の前にあるよ!?!?』
『ナノハ、ジュエルシードを見つけたの?』
探知出来るならもっと早く教えて欲しかったし、こんなに近くにあるなんて聞いてない。
よりによってそれをアリサが持っているなんて。
動揺する頭にユーノたちの声が響く。
『ジュエルシードって素手で持って大丈夫なの!?今すぐに怪物になったりしない!?今学校で、アリサちゃんがそれを!』
『落ち着いてナノハ。励起していたら、もっと早くレイジングハートが探知していたはず。休眠状態なら触ったりしても暴走することはないよ。』
『そ、そうなんだ...よかった...。』
今はまだ安全と分かり、多少冷静さを取り戻すナノハ。
要は眠っていて反応が微弱な為、レイジングハートにも気付けなかったということらしい。
『でも、ずっと持っていたらいつ起動するかも分からない。友だちが持ってるなら、何とか引き離さないと。』
『う、うん。そうだよね。』
嬉しげにジュエルシードを自慢するアリサには悪いが、あのまま持っているのは危険過ぎる。
頭を回転させ、ジュエルシードを渡すよう話そうとするが。
「あの、アリサちゃん。それ、たぶん危険なもので...」
「危険?ただの変わった石じゃない。何が危ないのよ?」
「えっと、その...とにかく危険で、だから」
「...何?ナノハ、あんたこれが欲しいの?」
「違うよ!ただ、本当に危なくて」
「ナノハにはその宝石があるでしょ!何でこれまで欲しがるのよ!」
「ま、待ってアリサちゃん!私そんなつもり」
「これは私が
「っ...!?」
上手い言い訳がまったく見つからなかった。
結果としてただ他人の物を欲しがっていると判断され、アリサはヒートアップ。
聞く耳を持ってくれなくなってしまった。
「二人とも落ち着いて!アリサちゃん、ナノハちゃんはそんな子じゃ」
「何よ二人してっ!もう知らないっ...!」
「アリサちゃん...!?」
すずかが仲裁に入るが、遮るように始業のチャイムが鳴り響く。
アリサは怒ったまま、そそくさと席に行ってしまう。
弁解する余地も与えられず、アリサを危険から遠ざけることも出来ずに。
ナノハはいつもの日常を過ごさざるを得なくなるのだった。
―――――――――――――――――――――――
「はぁ...。」
登校時の気持ちはどこへやら。
休まる時間もまったくなく、すぐに放課後になってしまった。
結局今朝のあのやり取り以降、アリサとはまったく話せていない。
完全にもうケンカをしたような形。
こちらはあくまでアリサを思っての行動なのだが、あちらが聞かないのでは意味がない。
『その子、そんなにジュエルシードが気に入ったのかな?』
『うーん...アリサちゃんのお家、宝石なんて珍しくないだろうし。それに、アリサちゃんは話を聞いてくれないような子じゃないよ。何か、理由があるんだと思う...。』
ジュエルシードの正体を知っているはずはない。
だが、そうでないとつじつまが合わないようなあの拒絶っぷり。
ともあれ放置しておくわけにはいかず、すぐ彼女を訪ねる必要がある。
頭を悩ませ、親友との仲違いに心を痛めていると。
『"マスター。質問の許可を求めます。"』
『え、許可?...えっと、どうぞ?』
『"彼女の言っていた、大切なものを取るなという発言は、何のことでしょうか?"』
『あ...うん。二人と仲良くなったきっかけなんだけど。』
意外なところからの、意外な質問。
自分の気持ちを整理したいのもあって、本人が
「か、返してください...それは大事なもので」
「何よ。こんなのただのカチューシャじゃない。何がそんなに特別だってのよ。」
ナノハたちが小学1年生の頃だ。
既にクラスが一緒だった三人だが、この時は友だち同士ではないただのクラスメイト状態。
そして、すずかは今より人見知りで。
アリサは本人の事情からストレスを抱え、今より乱暴で攻撃的な面が目立つ少女だった。
そんな時、ちょっとしたことからすずかがアリサの怒りを買い、彼女のトレードマークであるカチューシャを取り上げてしまった。
大切なものだから返して欲しい。
そう必死に伝えるすずかだが、アリサはまったくそれを意に介さない。
辛い表情のすずかを見て、自身の気分を晴らすつもりのようだった。
何とも言えない嫌な雰囲気が、クラスに広がる。
「あ、あの...返して、あげてください。」
「は?...何よ、あんた。」
そんな時、一人の少女が外野から、アリサにその行為を止めるように声を上げた。
それがナノハだった。
ナノハは恐る恐る、しかし確固たる気持ちを込めてアリサの前に立つ。
「大切なものって、言ってるじゃないですか。今すぐ、返してあげてください。」
「私に指図するつもり?関係ないくせにでしゃばらないで!」
「あ!?」
更に機嫌を悪くするアリサ。
何を思ったのか、返すどころかそのカチューシャを窓の外に放り投げようとする。
すずかが悲鳴を上げる、その直前に。
「っ!」
パシンッ!という乾いた音が、静まり返った教室に響き渡った。
「な、何すんのよっ...!?」
「大切なものを取られた人の心は、もっと痛いんだよっ!?」
「っ...?!」
ナノハがアリサの頬を叩いた音だった。
当然逆上し掴みかかるアリサに対し、ナノハは絞り出すような声で訴える。
「大切なモノを傷つけたらダメだよ...!だってそれは、その人が色々な想いを込めたから大切で...!大切な誰かとの思い出があるから、だから大切なのかもしれないのに...もう会えない、誰かとの繋がりかもしれないのにっ...壊れちゃったら、失くなっちゃったら!もう二度と取り返せないんだよっ!?それは絶対、しちゃいけないことじゃないの...!?」
「スタークスさん...っ」
関係ないだろうなんて、とても言い返すことは出来なかった。
他人のことなのに、ナノハの表情はあまりに真剣で、辛そうで。
心の底から悲しんでいるのが分かったから。
ナノハの思い遣りに涙を滲ませるすずか以上に、ナノハの頬には大粒の涙が流れ落ちていて。
アリサに冷静さを取り戻させ、罪悪感を覚えさせるには十分だった。
「何も、泣かなくたっていいじゃない...。悪かったわよ...ちゃんと、返すから。」
そこから何故か、ひたすら泣き続けるナノハをすずかとアリサで慰めることになり。
紆余曲折を経て、今の仲良し3人組になったのだった。
『ね、恥ずかしい話でしょ?』
『立派な話だと思うけど。でも、どうしてそこまで気持ちが入ってしまったの?』
苦笑いで締めるナノハに対して、ユーノはその発言の背景について気にする。
見えていないと分かっていながら、ナノハは鞄から綺麗に折り畳まれた"リボン"を取り出した。
『これ。
『!...そっか。ナノハのお母さんは、もう。』
『うん。小さくて、あんまり覚えてないんだけど。ご飯を作る時とか、洗濯とか、掃除とか。いつもこのリボンが、楽しそうに揺れてて。私が見てるのに気付くと、振り返って笑ってくれて。私にとってはこれが、お母さんを思い出せる大切なモノなの。』
すずかのカチューシャと、このリボンを重ねてしまった。
その事実を知れば、必死の訴えにも納得がいく。
自分の痛みから、他人を思い遣ることが出来る優しさ。
ユーノとレイジングハートが、ナノハという人物をまた1つ理解した、その時だった。
『"マスター。ジュエルシードの反応です。先程とは違う、完全に起動している状態と思われます。"』
「!行かなきゃっ!」
『ナノハ!ボクもすぐ向かうから、無理はしないで!』
「うん!」
レイジングハートから告げられる、今度こそ本当の緊急事態。
頭に直接伝えられる座標と位置を感覚で理解し、一目散に駆け抜けるが。
「もしかして、この方向って...!?」
進む程に見覚えのある景色。
レイジングハートが示した位置は、ナノハもよく知るあの場所だった。
「アリサちゃん...!」
―――――――――――――――――――――――
「まったく...何なのよ、もう。」
放課後。
急ぎ足で帰宅したアリサは、荷物を置くと直ぐ様庭にある犬小屋へとやって来た。
「クゥゥン...ワンッ」
「ワンワンッ」
「クゥゥン」
「はいはい。ただいまみんな。悪いけど、あんたたちの相手はまた後でね。」
じゃれ付きに来るたくさんの犬たちを軽く撫で、謝りながら通り過ぎる。
今はどうしても確認しなければならない一匹がいるのだ。
「ただいま。どう?元気になった...?」
「ワン...ワフッ...」
「やっぱり、どこか悪いのかな...」
白い大きな母犬に守られた、こないだ生まれたばかりの小さな"子犬"。
呼吸はしているものの、今朝からずっと眠り続けているようだった。
獣医に見せても、生まれつき体が弱く子犬の状態では手の施しようがないようだった。
「...大丈夫。私が絶対に助けてあげるから。お母さんなんだから、あんたはこの子を信じてあげなさい。」
「ワンッ」
母犬の頭を撫でながら励ますも、アリサの心はどうしたらいいか分からず疲弊していた。
弱気になってはダメだと思っても、最悪の想像がどうやっても頭から離れない。
「神様...」
そうして取り出したのは、ナノハと言い合いになったきっかけの、あの宝石。
子犬のことで悩んでいたある日、庭に落ちているのを見つけた。
こんなタイミングで見つけた不思議な石、何か特別な意味があるんじゃないかと思いたくて。
最近はずっとこうして、神様に祈ってしまっている。
「私はどうなってもいいから...だからどうか、この子を助けてください。元気に、大きく。強くて立派な子になれるように。どうか健やかに、成長させてあげてくださいっ...。」
何度目か分からない懇願。
祈ることしか出来ない自分が情けなくて、僅かに瞳に涙が滲む。
今回もきっと、何も起きたりはしない。
「分かってるわよ、そんなこ...っ!?」
しかし、その予想は外れた。
"異変"が、起きてしまった。
ジュエルシードが光を放ち、その輝きが子犬に溶けるようにして吸い込まれていく。
「な、なに!?きゃあぁーーっ!?!?」
独りでに宙に浮き上がる子犬。
その光景に目を疑うアリサだったが、次の瞬間子犬から目映い七色のエネルギーが炸裂。
衝撃でアリサと犬たちは大きく吹き飛ばされてしまう。
アリサは運悪く木にぶつかり、そのまま気絶。
子犬は心配そうに吠える母犬を尻目に、その体を
『アォォォーン!!』
光から生まれ出たのは、見上げるような大きさの"銀狼"だった。
不必要に長く鋭い爪、異常に発達した黒い牙。
生物としての在り方を無視した、怪物の姿であった。
『グルル...』
狼は獲物を探すように周囲を見渡す。
そんな彼に戸惑っていた飼い犬たちだったが、アリサがその足元にいるのを見て動かないよう必死に威嚇し、吠え立て始める。
しかし、それがいけなかった。
『ガルル...!』
狼は威嚇に腹を立て、犬たちを追い払おうと体勢を変える。
アリサを省みず、巨体であっさりと彼女を踏み潰してしまいそうになる。
絶体絶命の、その刹那。
「アリサちゃんっ!」
間一髪。
空から飛来したバリアジャケット姿のナノハが、すり抜けるようにしてアリサを救助。
犬たちの元へ飼い主を送り届けた。
「ユーノくん!シールドお願い!」
「任せて!」
ユーノがまとめて障壁を張り、ナノハは再び銀狼の元へ。
到着と同時に結界は発動したものの、近過ぎたアリサたちを異相に弾き出すことは出来なかった。
立ち回りによっては犠牲が出てしまう状況。
ナノハの中に、恐怖とは違う感情が湧いてくる。
「レイジングハート、あれもジュエルシードの怪物?見た目が昨日とは大分違うけど...」
『"ジュエルシードの影響は間違いありません。ただ、今回は何かを取り込んでいる可能性があります。"』
「何かって...」
『ガルルゥゥ!!』
「きゃっ!?」
昨日と違い、狼と分かるその形に戸惑うナノハだったが、そんな余裕を相手は与えてくれない。
ナノハを"獲物"と判断し、一気に地上から飛び掛かる狼。
咄嗟に無理矢理飛び込むようにして回避するも、木々に囲まれた地形故に、軽く枝に接触してしまう。
「しまっ!?」
『ガアァ!!』
『Protection.』
追撃で剥かれた牙を、レイジングハートの機転で何とか防ぐ。
地面を転がりながらも、絶望的な状況からは抜け出した。
「取り込んでるって、まさかアリサちゃんの大切な子たちをってこと!?」
『"可能性は高いです。"』
「そんなっ...!」
絶え間なく襲ってくる狼の爪をギリギリで回避し、弾かれながら刀で受け切って。
直撃自体は避けていく。
しかし、これでは勝てない。
というか、戦えない。
まず間違いなく飼い犬たちは被害者だ。
巻き込まれただけ。
それなのに、傷つけることなんて出来るわけがない。
『大丈夫だよナノハ!魔法攻撃でノックアウトすれば、巻き込まれた犬にダメージは残らないから!』
『ほ、本当に!?』
『うん!ボクとレイジングハートを信じて!』
「っ...分かった!」
ユーノの言葉が本当なら、助けたいからこそ倒す必要がある。
傷つけてしまう恐れを振り切り、ナノハは刀身に魔力を集中させる。
「せいっ!」
『グガッ!?』
迫る爪を迎え撃ち、桜色の刃で切り落とす。
そこからすかさず、昨日編み出した斬撃波を複数振るい放った。
しかし、狼もただではダメージを許さない。
驚くべき俊敏性で以てそれを全て回避。
お返しとばかりに爪から魔力の刃を撃ち返してきた。
「うそっ!?」
『"防ぎます。"』
「うぅっ...!」
身体を大きく仰け反らしながらも防御は成功。
息を切らしながら、再びレイジングハートを構え直す。
「こっちの攻撃は当たらないのに、あっちのは重くて速い...!」
『"どうしますか、マスター。"』
「魔力の弾って、刀からじゃなくても撃てる!?」
『"あなたのイメージのままに。"』
刀身に集めていた魔力を拡散し、自分の周囲に漂わせ小さくまとめていく。
離れていても、細く長い糸が自分と繋がっていることをイメージしながら。
いくつもの小さな弾丸として形作る。
「あれって、"誘導制御弾"!?」
「威力はなくていいから...とにかく速くて、自由に動くやつを...!」
ナノハの背後に生成される、10数発の魔力の弾丸。
レイジングハートが標的をロックオンし、心の中でナノハがトリガーを引いた。
「当たって!シューートッ!!」
先程とは比べ物にならない速度で射出される魔力弾。
木々の間をすり抜け、着実に狼に近付く。
「逃がさない!」
『グギッ!?』
また回避しようと飛び回る狼だったが、ナノハの意志に応えて弾丸は予測不能な軌道を描く。
取り囲むようにして、次々と狼に炸裂した。
「やった!」
『"マスター、とどめを。"』
今の弾丸は当たったとしても、一時的に動きを止める程度の威力しかない。
地上に降り立ち、必殺の一撃を放とうと魔力を集め始めるが。
「痛っ...!?」
「グルル...!」
「な、なんでっ!?」
そのナノハの腕に、
ナノハが構えるのを止めたからか、その犬もすぐに牙を腕から離す。
「どうして、邪魔するの...?」
「ワンッ!ワンワンッ!」
「っ...あれ?この子は...」
一際目立つ、真っ白な毛並みの犬。
確か以前ここに遊びに来た時、"妊娠"していた犬がいたはずだ。
「!...もしかして、あなたの子ども...?」
「ウゥワンワンッ!ワンッ!」
言葉が通じているわけではない。
だが、その動きは明らかにあの狼を守ろうとしている。
それに、思い出したのはそれだけじゃない。
「アリサちゃん、この前子犬が心配だって...だからジュエルシードに、願いを...」
ナノハの中で全てが繋がる。
アリサがあんなに取り乱した理由を知って、母犬の愛を理解して。
刃を握るその手に力が籠る。
「猿の手...!そんなに優しい願いなのに、どうして素直に叶えてくれないの...!」
昔読んだ怖い話に準えて、ジュエルシードの歪んだ力に怒りを覚えるナノハ。
母犬を撫で、優しく語り掛ける。
「大丈夫。絶対に、あなたの子どもを助けるから。アリサちゃんも傷つけさせない。だから、私を信じて。」
「......クゥン」
気持ちが伝わったのか、噛んだ傷痕を舐め謝るような仕草を見せる母犬。
笑って、またユーノのところに戻るよう促す。
銀狼に再度向き合った瞳には、一切の迷いも恐れも浮かんでいなかった。
「やるよ、レイジングハート!」
『"やりましょう、マスター。"』
地を力強く蹴り上げ、真っ直ぐにナノハへ向かって来る銀狼。
対するナノハは動じず、回避せず。
魔力を刃に全力集中させ、昨日も勝負を決めたフィニッシュモードを起動させる。
『グルルグガアァァ!!』
しかし、魔力が溜まるより早く狼が目前へと迫る。
間に合わないかと思われた、その時。
『ガァッ!?』
地面から突如現れた
桜色のそれは、ユーノが扱っていたものをナノハが見様見真似で再現したもの。
精度も魔力効率も粗悪。
だが、それで十分だった。
稼ぐ時間は一瞬でいいのだから。
「ディバイーーンっ...!スラーーッシュッ!!」
『グギャアアァァッ!?!?』
大上段から放たれた、封印の斬撃。
狼を真っ向から一閃し、その魔力で覆われた外殻を吹き飛ばしていく。
そうして最後に残ったのは1つのジュエルシードと、母と同じ真っ白な毛並みの子犬だった。
「...」
無言で子犬を抱き上げるナノハ。
呼吸はしているが、どこか辛そうに体をジタバタと動かしている。
「魔法使いなら...っ」
「ナノハ...?」
「魔法が使えるって言うなら、友だちのお願いくらい、叶えてあげたいのにっ...」
子犬もアリサも助けることは出来た。
だが、そもそもの問題を解決することは出来ない。
魔法使いになったと思っても、実際は戦う力を得ただけ。
救えないものもあると知って、その不甲斐なさに涙を流す。
そんなナノハの気持ちを察して、ユーノが傍らに寄り添い。
レイジングハートが魔法陣を起動した。
「ユーノくん...?」
「ナノハ。ボクとレイジングハートが制御する。だからナノハはこの子に、"がんばれ"って気持ちを送ってみて?」
「がん、ばれ...?」
二人の意図が分からず一度は戸惑うも、言われた通りに心を澄ませる。
「頑張れ...お願い...頑張って...!」
すると魔法陣から桜色の光が溢れ出し、子犬の体を優しく包んでいく。
しばらく見守っていると、すくっと子犬が立ち上がり、元気そうにその尻尾を振り回した。
「あ...!」
「アン!アンアン!」
「確かに衰弱していたけど、ヒーリング魔法で治せる状態だったから。知ってる範囲で上手くいってよかった。」
「すごい...すごいよユーノくん!レイジングハート!」
「ううん。すごいのはボクじゃない。」
『"あなたの魔法が、この命を救ったのです。"』
「私の、魔法...」
自らの手を開いて、閉じて。
次に嬉しそうにじゃれる子犬と、アリサに寄り添う母犬を見つめる。
「私に、出来ること...私の、やりたいこと...!」
泣いているような、笑っているような複雑な表情で、ナノハは空に向かって両手を伸ばす。
「私、魔法使いになれちゃったっ!!」
自らの得た力の素晴らしさを知り。
少女は自分史上一番大きな歓喜の声を上げる。
この力があれば、きっともっと色々な人を助けられるはず。
そういう希望に溢れた、喜びの叫びだった。
―――――――――――――――――――――――
『今日はその...ごめんなさいっ!』
「ううん。そもそも、私が変なこと言っちゃったからだし...。」
疲労感と達成感に包まれ、無事帰宅した夕方頃。
夕食を準備するナノハの元に、アリサから電話がかかってきた。
内容は今朝のケンカの謝罪。
つまりは、仲直りの連絡だった。
『実は放課後に、変な夢見ちゃって...気付いたらあの宝石、どっか行っちゃったのよ。』
「そっか。でも、普通の石だったと思うよ?図鑑で見た危ない石と、私は間違えちゃったけど。」
『そう、よね...うん。別に惜しくないわ、あんな石。』
「アリサちゃんなら、もっと綺麗な石の方が似合うと思うな。」
『そうじゃなくて...あんなので、あんたとケンカなんかしたくないし...///』
「アリサちゃん...ありがとう。」
『何でお礼なのよ。まったく、ホント変わったヤツなんだから///』
「えへへ♪」
わざわざビデオ通話を選択していたので、真っ赤に照れた表情が丸見えである。
アリサの中では、ジュエルシードから光が漏れ子犬がモンスターになったことは、白昼夢だと判断されたようだった。
幸いにもナノハが来て飛び去るまで、アリサは気絶していた。
詳しく説明して巻き込んでしまう心配はないだろう。
『でもね?実は願い事、叶っちゃったの。』
「そうなの?」
『ええ!この子、すっかり元気になったみたいで!』
『ワン!』
嬉しそうに抱き抱えたのは、先程ナノハが助けた例の子犬だった。
見るからに元気そうで、画面に映るナノハへ触ろうと必死にじゃれているように見える。
『ナノハって、やっぱり動物たらしよね。』
「偶々だよ、偶々♪」
本当のことを伝える必要はない。
アリサが笑っていて、子犬も元気で。
その光景だけで、ナノハの心は幸福でいっぱいになった。
『それじゃ、また明日♪』
「うんっ。また明日ね♪」
こちらもユーノを見せ、彼も元気になったことを伝え。
雑談もそこそこに通話が終了する。
これで仲直りもバッチリで、もう心配なことは何もない。
晴れやかな気持ちで料理を再開しようとした時だった。
「ただいま戻りました。」
「あ、お姉ちゃん!おかえ、り...?」
いつもより早い、シュテルの帰宅。
嬉しい誤算のはずが、ユーノの件を思い出し冷や汗を垂らす。
改まって"やっぱり返してきなさい。"と言われたらどうしよう。
不安に思いながら玄関に向かうナノハ。
「どうしたの?その荷物...」
「これはですね。」
そこには何やら大きなビニール袋を抱えたシュテルの姿があった。
よく見ると、ビニール袋のロゴはナノハも知っている"ペットショップ"の物である。
穏やかな表情で中身を見せるシュテル。
「それって...!」
「飼育するならば、ちゃんとした設備を整えるべきです。一時凌ぎでも、それで体調を崩してしまっては問題ですから。」
取り出したのはフェレット用の飼育カゴに、餌、運動用のおもちゃ。
必要そうな物が一通りに揃っていた。
「飼って、いいの...?」
「ナノハがそう決めたのでしょう?普段はそういうしたいことを、あなたは話してくれませんから。甘やかすチャンスだと思ったのですが。」
ナノハの疑問に微笑んで返すシュテル。
ナノハが心配していた厳しさなど微塵も感じられない。
そこにいるのは妹の我が儘に喜ぶ、とても優しい姉がいるだけだ。
「お姉ちゃんっ!」
「ふふっ。ただし、ちゃんと責任を持って面倒を見ること。そして、飼い主が見つかったら必ず返すこと。守ると、約束出来ますか?」
「うんっ!ありがとうお姉ちゃん...大好きっ!」
「私もですよ、ナノハ♪」
幸せそうに抱き合う姉妹。
本当に仲の良い姉妹だなと、感心して端から眺めているユーノ。
そんな彼に向かって、ナノハは手招きをして近くまで呼び寄せる。
「名前は決めているのですか?」
「えっと、私はユーノくんって呼んでるよ。」
「ユーノですか。...よろしくお願いしますね、ユーノ。」
「キュ、キュウ。」
「...♪」
ナノハが抱き上げたユーノの頭を、シュテルが絶妙な力加減で撫でる。
思わず気持ち良さそうな声を上げる彼を見て、シュテルも僅かに嬉しげに微笑んだ。
「改めて、これからよろしくね。ユーノくんっ♪」
こうして正式にスタークス家に迎え入れられたユーノ。
レイジングハートという変わった相棒も加えて、非常に賑やかになったナノハの日常。
魔法によって得た危険と、それ以上の幸せ。
噛み締めるようにして、ナノハは笑顔でその平和を過ごすのだった。
その先に待つものを、今はまだ何も分からずに。
―――――――――――――――――――――――
「おっきいビルだねぇ~...」
「そう?ミッドの方が進んでるって感じがするけど。」
眼下に広がる街を見下ろし、それぞれ感想を漏らす二つの"影"。
一方は獣。
珍しい赤毛の、小さな子犬だ。
喋っていることを除けば、見た目通りの無邪気な様子。
キラキラとした夜景を眺め、興味津々とばかりに尻尾を振るっている。
もう一方は、少女。
少し紫を混ぜたような、味のある黒髪。
それを左右で結び、瞳は気の強さを表すように吊り上がっている。
こちらは子犬とは違い、つまらなさそうに素っ気なく観察しているだけのようだ。
「第97管理外世界、"地球"。」
「ヘンななまえ~...。」
「どうでもいいよ。用があるのはそっちじゃない。」
少女は抱いた感想を冷たく言い放ち、自らの"デバイス"を握り締める。
待機状態のそれは、水色でかくばったブローチのような形状。
「ジュエルシード。全部ボクが、手に入れる。始めるよ、"アルフ"。"バルニフィカス"。」
「おー!」
『"了解。"』
少女は自らの使い魔とデバイスに呼び掛け、その覚悟を確固たる物とする。
「待っててね...ママ。」
異世界から来た少女と、魔法を知ったばかりの少女。
二人が出会うその時は、もうすぐそこまで。
―――――――――――――――――――――――
魔法少女になりました、ナノハです!
ユーノくんとレイジングハートに教えてもらいながら、ゆっくりちゃっかり。
でも順調に魔法を覚えていく私。
そんな中、楽しみにしていた月村家でのお泊まり会がついに開催!
猫ちゃんたちと戯れて。
美味しいお菓子にキレイな庭園!
本物のメイドさんや執事さんもいて、気分は絵本のお姫さま!
だったんだけど...。
やっぱり起きちゃいました大事件!
素敵なお屋敷は一転、背すじゾクゾクのゴーストハウスに!?
待ち受けるのはお化けに妖怪、
そして美人な吸血鬼さん!?
これって魔法でどうにかなる物なの!?
というかユーノくんはどこに行ったの!?
迫り来るホラー展開に、
怖いのが苦手な私はまたまた大ピンチ!
絶体絶命のその瞬間!
蒼い稲妻を纏った、もう一人の魔法少女が現れる!
次回、魔法少女リリカルなのはRe:SET
第3話『ライバル登場!?死神は雷の如く!』
リリカルマジカル、がんばりますっ!
感想、評価、お気に入り等お待ちしてます。
読了ありがとうございました!