情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さを持つ人魚が唯一足りないモノを求めて魔女の下を訪ねる話
「私に脚を頂戴!」
挨拶も無く八脚の人魚は吠えた
海の底にある魔女の洞窟に大きな声が響く
一目惚れした人間の男に会う為、水から這い上がり、大地を踏み締め、夕陽の祝福する渚で踊るには人の脚が必要なのだと
「どんな犠牲も払って見せるわ!例えこの美しい声を失おうとあの人に会えるなら!」
そんな人魚の話を面倒くさそうに顔をしかめながら聞いているのは、声を持たない魔女だった
魔女はさらさらと書字板に筆を滑らせ、文字で答える
“あるじゃないか、立派な脚が8本も”
「だから人間の脚が必要なの!魔女さまみたいな人の脚が!」
“これ結構不便なのよ?泳げなくなるし”
「構わないわ、あの人と一緒になれるなら海の世界も捨てる覚悟があるもの」
“真っ直ぐだねお嬢さん、アンタみたいな愛に真っ直ぐな人魚を私はもう一人知っているよ”
「あら私みたいな人魚を?きっとその方も真実の愛を見付けたのね」
“そうだね、真実の愛に、恋に溺れた哀れな人魚だったよ”
「⋯それは違うわ魔女さま?」
二本脚の魔女は、若い人魚の言葉に驚いた様な顔する
そんな魔女に人魚は続ける
「本当に哀れかどうかは、その人魚が決める事よ?例え悲恋に終わったとしても、全てを捨てれる愛を見付けた時点で彼女は幸せだったのよ」
自信と確信を持った声と胸を張りながら、八脚の人魚はこう言った
「だって私が今幸せだから!」
その言葉に魔女は筆を止め、何かを思い出すように目を閉じる
しばらくして目を開き、何処か慈しむ目で人魚に告げる
“いいだろう、魔法を掛けてあげよう”
「ありがとう魔女さま!それで⋯対価は?やっぱり声?あとやっぱり刺すような痛みもあるのかしら?」
“あんたのただデカい声なんか対価になるもんか、脚を6本使えば残りの2本を変えるだけで済むよ”
「デカい声⋯そっそんなに大きいかしら?」
“好きな人の前では、もう少し小さい声で喋るんだね”
顔を紅くした人魚は、恥ずかしそうに小声で感謝の言葉を述べた
代償と期限と制約を告げられ、もし何かあっても8日目の夜には海に帰る事を約束に、魔女は人魚に魔法を掛けた
“陸に上がる時、その脚を対価として2本の脚が与えられる、あとはアンタ次第さ”
「ありがとう魔女さま!待ってて!8日目には旦那様を連れてくるんだから!」
そう言い残し八脚の人魚は陸を、愛する人を目指し泳いで行った。
残された魔女は薬を混ぜた水煙草を咥える
絶えず泡になる身体を魔法と薬で癒し、和らぐ痛みと遠のく意識の中で、昔の淡い恋の思い出に浸りながら、微睡み溶ける様に横になる
私は失敗したからね、アンタは上手くおやり
人魚ちゃんの好きな相手はとある皇国の皇太子さまです。
最近可愛い叔父上にお熱らしいです
実るといいですね。