『さあ、いよいよ雄英体育祭も最終種目!ここからは1対1、決勝トーナメントの開幕だァ!!』
プレゼント・マイクの声が、満員のスタジアムを揺らした。
Aブロックは緑谷と心操、轟と瀬呂、塩崎さんと上鳴、飯田と発目さん。Bブロックの初戦は僕と爆豪。そのあと常闇と八百万、切島と鉄哲、麗日と芦戸が続く。
最初の試合は、始まってすぐに奇妙な展開になった。
心操が緑谷に話しかけ、緑谷が思わず答える。
その途端、緑谷の動きが止まった。表情も消え、そのまま場外へ歩き始める。
『おおっと!?緑谷、どうしたァ!?』
「なるほどね」
騎馬戦で八百万たちが無表情だった理由が分かった。やっぱり洗脳系の個性か。場外まであと一歩。
その瞬間、緑谷の指先で衝撃が弾けた。
「っ......!」
痛みをきっかけに意識を取り戻したらしい。そこからは緑谷が間合いを詰め、心操を組み伏せて場外へ投げ出した。
『勝者、緑谷出久ゥ!!』
続く轟対瀬呂は、あっさり決着した。
「始め!」
轟の足元から氷が走る。瀬呂がテープを伸ばそうとしたときには、巨大な氷塊がステージを覆い、本人も動けなくなっていた。
『勝者、轟焦凍ォ!!』
3試合目、塩崎さん対上鳴。
「よっしゃ!塩崎さん、俺が勝ったら今度一緒に遊びに行かね?」
「......え?」
塩崎さんは一瞬目を丸くしたあと、静かに眉を寄せる。
「そのような申し出を、勝負の場ですることではありません」
「えー、いいじゃん!まずは仲良くなるところからさ!」
「それに、上鳴さん」
「おっ、なになに?」
「先ほどのチア衣装の件、話が済んでおりません。女子生徒たちの信頼を利用して、虚偽の説明をなさったことについてです」
「うっ」
上鳴が露骨に目を逸らした。
ああ、そういえば。峰田と一緒になって『チア衣装が必要だ』と吹き込んだ張本人だったね。その状況でよりによって塩崎さんを口説こうとするなんて、蛮勇にも程がある。
まあ、チア服姿は可愛かったよね。
『おおっと上鳴!試合前から口説いているが、早くも苦戦しているぞォ!!』
「うっせえ!試合なら勝つっつーの!」
『試合開始ィ!』
上鳴は掌を広げ、早々に広範囲への放電を始めた。
「これなら逃げられねえだろ!」
電撃が競技場に広がる。塩崎さんは自分の身体から伸びたツルの一部を切り離し、電撃の通り道を避けながら、別のツルを地面へ潜ませていた。
上鳴の大放電には大きな弱点がある。
「うぇーい......」
電撃が収まったころには、本人が例の状態になっていた。
「......無防備ですね」
伸びてきたツルが上鳴を絡め取り、持ち上げる。上鳴は満面の間の抜けた笑顔で親指を立てたまま、あっさり場外へ運ばれていった。
『勝者、塩崎茨ィ!!上鳴、勝負にもお誘いにも撃沈だァ!!』
塩崎さんは上鳴を下ろし、両手を腰の前で揃えて向き直る。
「上鳴さん。聞いていらっしゃいますか?」
「うぇい!」
「私含めて女子があの衣装を着たのは、あなた方の言葉を信じたからです。信頼は、弄んでよいものではありません」
「うぇーい!」
「......反省は、後ほど改めてお願いすることにいたします」
4試合目は飯田対発目さん。
発目さんがアイテムを披露し、真面目な飯田が実演に付き合わされている。
「君は一体何をしているんだァ!!」
「ベイビーたちを見てもらってるんですよ!」
『勝者、飯田天哉ァ!!』
これでAブロックの4試合は終了。緑谷、轟、塩崎さん、飯田が勝ち上がった。
次は緑谷と轟、塩崎さんと飯田か。
でも、その前に僕の出番だ。
『続いてBブロック初戦!入試首席、東雲司!対するは爆破の申し子、爆豪勝己ィ!!』
ステージへ出ると、あちこちから声が飛んできた。
「今度は10分待つなよ!」
「爆豪!ぶっ飛ばせ!」
「東雲ー!ファンレター送るぞー!」
「ありがと〜」
「相変わらずふざけた野郎だな、テメェは」
「応援には応えないとね」
「──ああ、ぶっ飛ばされて欲しいって期待に応えてみろや」
「僕も勝ちに来たんだ。その期待には応えれない」
爆豪が鼻を鳴らし、掌に小さな火花を散らす。
「それでは──始め!」
轟音が響いた。
爆豪は開始の合図と同時に、右手の爆破で加速してきた。左拳が顔面へ迫る。
それに対し僕は腕で打点を外し、右拳を返す。爆豪は首をずらしてかわし、膝を突き上げる。僕も肘を落として受け止め、蹴りを返した。
脚と腕がぶつかり、鈍い音がした。
続けて爆豪の掌がこちらへ向く。
光るより早く、僕は横の空間へ転移した。
背後へ回って拳を打つ。
「──予測できてんだよっ!」
爆豪は振り向きざまに肘を合わせてきた。拳と肘がぶつかり、互いの身体が揺れる。
肉弾戦では互角に渡り合える。
でも、それだけじゃ不充分だ。爆豪は攻撃を読んで反撃を組み立てる技術が優れている。接近戦に爆破を組み込む判断も速い。
戦闘センスが高い。
『開始早々、激しい近接戦だァ!!!』
僕は爆豪の斜め上を視認した。
転移。
姿が現れた瞬間、爆豪が掌を向ける。
「そこだろ!」
爆風の前に風を流す。僕の身体が前方へ加速し、爆破が背後で弾けた。
僕が踵を振り下ろすと、爆豪は両腕で受け、爆破で横へ回り込んで蹴りを返した。
「っ!」
肘で受け止め、浮遊の風で姿勢を維持する。
着地直後に踏み込み、拳と蹴りを交換した。僕の右拳が爆豪の頬をかすめ、爆豪の膝が僕の太腿を打つ。
「チョロチョロしやがって!」
「お互い様でしょ....!」
「うるせェ!!」
爆豪が掌を振るった。
僕は横へ回避し、身体をを風で加速させて再び接近する。爆豪は僕の肩の動きを読んで拳を出し、その直後に爆破を重ねる。
着地する瞬間に風で足を押し出し、爆豪の想定より半歩深く踏み込む。ようやく──拳が脇腹へ入ると同時に、爆豪の蹴りが僕の肩を捉えた。
試合が長引くにつれて、爆豪の爆発が大きくなっていった。
驚きはしない。こうなることは分かっていたから。
「おらァァ!!」
正面から迫る爆風。
僕は脚を風で加速させ、横へ大きく踏み込む。
そこへ、爆豪が先回りしていた。
咄嗟に腕を交差する。
爆発の衝撃で数歩押し戻された。
「っ、ぐ......!」
爆豪はそのまま追撃してくる。拳、膝、掌。こっちが避けたい位置へ攻撃を置き、次の爆破へ繋げる。
僕は右側へ視線を流した。
爆豪の肩がそちらを向く。転移先を読もうとしているんだろう。でもさ、何度も同じ手は通じないよ。
風で脚を加速させ、転移せずに逆の左側から踏み込んだ。
「っ!?」
ほんのわずかに反応が遅れた。その隙に掌を払い、腹へ拳を入れる。
「ぐっ!」
続けて肩をぶつけ、体勢を崩した。爆豪をもう少し押し出すことができれば、場外に落ちる。
──ここで押し切る。
拳を打ち、足を踏み替え、爆豪が腕で防ぐたびに前へ出た。爆豪の踵が場外のすぐ手前まで滑る。
渾身の拳を、爆豪の防御へ打ち込む。
これで、場外へ──落ちろっ
「......舐めんじゃ」
爆豪の目付きがさらに悪くなった。
「ねェェェェェッ!!!」
咆哮と同時に両掌が爆発した。
「っ!?」
爆豪は場外直前で踏ん張り、逃げるどころか前へ出た。爆破の向きを変えながら自分の身体を押し出し、反対に僕へ圧力をかけてくる。
「おおおおおおッ!!」
一歩。さらに一歩。
僕も踏ん張る。脚に風を流して時折反撃も試みる。それでも、爆豪の勢いが止まらない。
次の爆発が全身へ押し寄せ、僕の身体が浮いた。爆豪から離れた後方の床を視認して転移し、着地した瞬間に片膝をついた。
肺から息が押し出される。
......すごいな。
今のは完全に押し切ったと思った。それなのに、まさか決め切るどころか引かされるなんて思わなかった。
「逃げんなやァ!まだ終わってねえぞ!!」
爆豪が吠える。
僕は唇の端を拭い、膝に力を入れた。風で身体を加速させ、再び突っ込む。
拳と脚が交差した。爆豪の拳が頬を打ち、僕の蹴りも爆豪の脇腹へ入る。
正直な話、これ以上は長引かせたくない。
まだ見せていない切り札もあるけど、単純に使えば爆豪は反応するだろう。爆豪の勘の良さは、ここまでの戦いで嫌というほど見せつけられた。
「......次で終わらせるっ」
爆豪が吐き捨てるように言った。
「奇遇だね。僕もそう思ってた」
「黙れッ!!」
爆発音とともに、爆豪が高く跳んだ。
さらに掌から爆風を噴射し、空中で身体を回転させ始める。回転が速くなるにつれ、爆風が渦になっていった。
渦の中心にいる爆豪の姿を見失いそうなほど、爆煙が流れている。
ここで決めたいというのは、僕も同じだ。
足を開き、両腕に風を集める。
障害物競走で砂塵を一気に吹き払った、あの強風。
あのときは広範囲へ放ったものを、今は腕の周囲へ凝縮する。腕を速く動かすためだけじゃない。風そのものを鎧として纏い、攻撃では拳とともに強烈な風圧を叩きつけるためだ。
【白虎の力】──【
左腕には防御のために風を厚く重ね、右拳には攻撃のために風を集めた。この風は鎧であり、矛でもある。
『爆豪、上空から急降下ァ!!東雲も逃げない!真正面から迎え撃つつもりかァ!?』
観客席の声が遠くなる。
爆豪が迫る。
「ぶっ潰れろォォォ!!」
【ハウザ─────インパクトッッッッッッ!!!】
それに対して、僕は左腕を差し出した。腕を覆う風の鎧に、爆圧がぶつかる。これは──
───っ!?
風が押し潰される。
予想より、ずっと強い。
左腕から鈍い音が伝わり、焼けるような痛みが肩まで走った。骨が折れた。予想よりも強いっっっ......!
でも、目は逸らさない。爆豪が、すぐそこにいる。僕の目の前にいる。
爆豪は攻撃を当てた手応えを感じたはずだ。確かに捉えたという確信。それとも同時に感じたであろう──勝利への確信。
その一瞬、次の攻撃を考える意識が途切れる。僕はこの瞬間を待ち望んでいたんだっっ!
──今だ。
景色が裏返った。僕と爆豪の位置が入れ替わる。殴っている姿勢のまま僕の位置へ転移した爆豪。僕は──その爆豪の無防備な背中を見つめている。
右拳に纏わせた強風を、背後から叩きつける。
......はずだった。
「なめんなァァァ!!」
爆発音。爆豪は片方の掌を炸裂させ、その反動で強引に身体を回転させた。
嘘だろ!この状況で!?
理解するより早く、振り向いた爆豪のもう片方の掌がこちらを向いた。僕も右拳を止められない。止めたら──負ける。
【風纏】の風が拳とともに解き放たれる。
同時に、爆豪の掌が爆ぜた。
爆発と風圧が、互いの身体へ叩きつけられる。
視界が白く染まった。
どこかで、骨の軋む嫌な音がした。
そこで、僕の意識は途切れた。
爆煙が晴れても、ステージには歓声が戻らなかった。
司も爆豪も、動かない。
「......相打ち?」
A組の観客席で、葉隠が震える声を漏らした。
耳郎は手すりを掴んだまま、身動きできずにいた。
「司......?」
爆豪の大技が当たり、次の瞬間には2人の位置が入れ替わったように見えた。それから、もう一度すさまじい爆発が起きた。これが客席で見えた光景だった。
「爆豪も、あの一瞬で振り向いたのか......!」
切島が掠れた声で言う。
「司さん......!」
八百万は胸元で両手を重ねた。他の人がりかいできなくても、八百万は知っている。USJで自分を救った位置交換。その力を使ったのだと。
緑谷も唇を噛んでいた。
「かっちゃんいつの間にあんな技を......でも、東雲くんも......!」
競技場ではミッドナイトが駆け寄り、救護スタッフへ手を振っている。
B組の観客席にも、いつもの喧騒はなかった。
「おいおい......どっちも動かねえぞ」
鉄哲が身を乗り出す。
拳藤は両手で手すりを握っていた。
「これが1回戦って、悪い冗談でしょ.....」
「冗談じゃないよ」
「A組同士で潰し合って......ハンッ、目立つのが好きなクラスだ」
「......司」
小大は呟き、塩崎は両手を組んで目を伏せかけてから、もう一度ステージを見た。
「主よ......どうか、あの方々をお守りください」
ミッドナイトが両者の様子を確かめる。救護スタッフも駆け寄る。勝敗を告げる声は、まだない。
そのときだった。
司の指が、小さく動いた。
「......あっ!」
拳藤が声を上げる。
司はゆっくりと目を開け、片方の肘を床についた。身体を起こそうとして、いったん顔を伏せる。
左腕は力なく垂れていた。
それでも、膝を床につき、立とうとする。
「無理だろ......!」
鉄哲が呻いた。
司はもう一度、膝から崩れた。耳郎が思わず叫ぶ。
「もういい!司、無理しないで!!」
届くかどうかも分からない声だった。それでも司は、もう一度床に手をついた。
よろよろと上体を起こし、震える脚を伸ばす。
──そして、立った。
「......東雲さん」
塩崎は、気づけば手すりの近くまで身を乗り出していた。
障害物競走で10分間のハンデを課し、自分を抱きとめたあとも冗談めいた言葉を口にしていた少年。
その態度を、彼女は軽薄だと思った。競技に対する敬意も欠けていると感じた。
騎馬戦では、仲間の意見を聞き、一緒に戦った。それで少し認識が変わったのも確かだ。
そして今、目の前にいるのは──
満身創痍でもなお、勝負を投げ出さない少年だった。
塩崎は司が勝つことに、ここまで強く執着する人だとは思っていなかった。
「......見事、です」
塩崎の唇から言葉がこぼれた。
ミッドナイトが爆豪の戦闘不能を確認し、司のもとへ駆け寄る。
『勝者──東雲司!!』
一拍遅れて歓声が爆発した。
司はその声を聞いたのか、ほんの少し口元を緩めた。だが、次の瞬間には脚から力が抜け、駆け寄った救護スタッフに支えられる。
塩崎は拍手を送った。祈るように組んでいた手をほどき、今度は心からの称賛として。
「......東雲さん。本当に、お見事です」
「......茨?」
隣の拳藤が、ちらりと横顔を覗き込んだ。
「ずいぶん感動してるね」
「ええ。あれほどの戦いを目にして、心を動かされない方が難しいと思います」
「まあ、それはそうなんだけどさ」
拳藤は少し笑った。
「茨って、東雲のこと、あんまり良く思ってなかったでしょ?」
塩崎は否定しなかった。
「軽率な言動も、競技への姿勢も、私には理解しがたいものでした。ですが......」
彼女は担架へ移される司を見つめた。
「それだけで、判断したのは間違いでした」
「へえ。じゃあ、見直した?」
「ええ。あの方にも、私が存じ上げなかった真摯な一面があるのですね」
拳藤の口元が、少しいたずらっぽく緩む。
「茨が男子をそこまで褒めるなんて、珍しいなぁ」
「立派な行いには、相応の称賛を送るべきでしょう。性別関係なく」
「はいはい、分かってるって」
拳藤は笑った。
ただ、塩崎はもう一度ステージへ目を向けていた。
好ましくないと思った言動が消えたわけではない。それでも、司を見る目が以前と同じではないことだけは、彼女自身にも分かっていた。
そして拳藤は、その変化を近くで感じ取っていた。
最初に感じたのは、ひどい頭痛だった。
「......っ、あ」
目を開ける。白い天井。薬品の匂い。
「ようやく目を覚ましたね、この無茶坊主」
リカバリーガールが、ベッドの横から僕を見下ろしていた。
「......僕、勝ちました?」
「勝ったよ。もっとも、あのまま立ったのは褒められたことじゃないね」
そうか。勝ったのか。
爆豪と相打ちになったあと、ほんの一瞬だけ意識が戻ったのを覚えている。
身体が鉛みたいに重かった。爆豪が倒れているのが見えて、勝敗がまだ決まっていない気がした。
だから、立たなきゃと思った。
「爆豪は?」
「こっちで治療してる。命に関わる状態ではないから、余計な心配はせず、自分の身体を気にしな」
「......はい」
息を吐くと、胸が痛んだ。
リカバリーガールは僕の身体を確かめてから、治癒を施してくれた。重傷だった部位の回復が促され、焼けるような痛みが和らいでいく。
ただ、そのぶん身体がひどく重くなった。
「私の治癒はあんた自身の回復力を使うんだよ。これ以上、無理に動くんじゃない。」
「分かりました」
僕はリカバリーガールと話しながら右手を胸元へ当てる。しばらくすると、リカバリーガールはまだ目を覚まさない爆豪の元へと移動した。
【ヒーリング・タッチ】。
身体の奥へ温かな感覚が染み込んでいく。リカバリーガールの治療で生じた疲労感が、少しずつ薄れていった。重かった身体が軽くなり、意識もはっきりしてくる。
「......ふぅ」
試しに左手を握る。
問題ない。
続いて、肘を曲げた。
「っ......!」
鋭い痛みが腕の奥を走った。
思わず動きを止める。
......なるほど。
完治とはいかないか。
二人分の治癒を受けても、ハウザーインパクトを受けた左腕の痛みが残っていた。
動かせないわけじゃない。でも、大きく曲げたり、強く力を入れたりすると痛む。
幸いなことに、外見上は問題なさそうだ。
「......強かったなぁ」
痛みを誰かに伝えれば、止められるかもしれない。リカバリーガールにも、耳郎にも、八百万にも。
このことは誰にも言わない。
見た目は回復しているし、疲労感も引いた。僕が普通に振る舞えば、気づかれないはずだ。
僕はまだ、ここで終わる気はない。僕が目指してるのは──1位だけだから。
通路へ戻ると、耳郎と八百万が待っていた。
「司!」
耳郎が駆け寄り、真っ先に左腕を見る。
「......腕、どうなったの?」
「治療してもらったよ。自分でも個性を使ったしね」
左腕を軽く持ち上げる。
......痛い。
それでも、顔には出さなかった。
「本当に大丈夫?」
「さっきよりずっと楽になったよ」
耳郎はしばらく僕を見つめてから、大きく息を吐いた。
「......もう、ほんっとに心臓に悪いんだけど!」
「心配かけたね」
「勝ったのは嬉しいよ。でも、2人とも倒れたとき、本当に......!」
耳郎は言葉を詰まらせた。
八百万も一歩近づく。
「司さん。あまり無理をなさらないでくださいね」
「うん。今回の防御は完全に判断ミスだった。風纏なら耐えられると思ったんだけど、爆豪の攻撃が想像以上だったんだ」
「それでも......最後に立ち上がったのは司さんでしたわ。あのケガはともかく、勝利は喜ばしいことですわ。遅くなりましたが、おめでとうございます」
八百万の言葉が終わるタイミングで耳郎は僕の腕に触れかけ、思い直したように手を引いた。
「次、もうこんな怪我しないでよ」
「気をつける」
「......絶対だよ」
「うん」
左腕の奥が、じくりと痛んだ。
そのことを、2人には言わなかった。
『さあ!まだ1回戦は終わっちゃいない!続いて常闇踏陰対八百万百!!』
爆豪との試合の余韻が、スタジアムに残っていた。
八百万はステージへ向かう途中、振り返った。向かいでは常闇が待っている。
「司さん。わたくしも、負けていられませんわ」
「うん。八百万らしい戦いを見せてよ」
「......先ほどの2人の戦い、見事だった」
「ええ。ですが、気持ちを切り替えてくださいまし。わたくしたちの試合が始まります」
「無論。俺も全力で臨む」
『試合開始!』
「ダークシャドウ!」
黒い影が伸びる。
八百万は盾を創造し、正面からの攻撃を受け止めた。でも、ダークシャドウの腕力は強い。盾ごと押され、八百万の足が床を滑る。
「くっ......!」
常闇はダークシャドウを前に出し、そのまま間合いを詰める。
八百万は盾を捨てると同時に、反対の腕から筒状の照明器具を創造した。
次の瞬間、強い光が弾ける。
『おおっと!八百万、光でダークシャドウを牽制だァ!』
ダークシャドウが身を縮めた。
その流れで八百万は長い棒で常闇の足元を狙うが、黒影に弾かれる。八百万は後退しながら、小型の照明を床へ転がす。
いくつもの光が、床を照らした。
「光源を増やすか......!」
常闇が呟き、ダークシャドウが怯んだものの、照明はすぐに壊される。光が消えると、ダークシャドウの動きが鋭くなった。
八百万は新しい盾を出して防いだけど、押されているのは明らかだった。
中距離からでも攻撃でき、力も強い。八百万が何かを創る前に妨害する判断も的確だった。
「......まだですわ!」
八百万は盾の裏へ手を回し、折り畳み式の反射板を創造する。さらに床へ転がした新しい照明を、反射板で別の角度へ向けた。
「何っ!?」
ダークシャドウの動きがわずかに鈍る。
八百万はその隙に距離を詰めたが、常闇は身体を捻り、黒影で棒を受け止める。
「策は見事だ。だが、まだ足りぬ!」
ダークシャドウが床へ叩きつけられ、衝撃で八百万の足が止まった。常闇が一気に間合いを詰める。
ここで終わるか。
そう思ったとき、八百万が小さく笑った。
「......いいえ。こちらですわ」
彼女の足元から、もうひとつの照明が転がり出た。
先ほどと同じ形だが、内部には遅延装置が仕込んであったみたいだ。さらに、盾の裏へ仕込んでいた反射板が開く。
常闇の足元と背後から、眩しい光が同時に差し込んだ。
影が縮む。
八百万はそこを逃さなかった。
棒を足元へ差し込み、常闇が体勢を崩したところへ肩を入れる。黒影が咄嗟に腕を伸ばしたけど、反射する光がその動きを鈍らせた。
「はああっ!」
八百万は全身の力で押した。
常闇が──落とされた。
『場外ォ!!勝者──八百万百!!』
観客席が沸いた。
僕も思わず立ち上がり、拍手した。
「すごいじゃないか、八百万!」
......っ。
左腕へ走った痛みに、身体がわずかに強張る。幸い、誰にも見られていない。僕は不自然にならないよう少し力を抜いて拍手を続けた。
常闇は悔しそうに息を吐き、それから八百万へ向き直った。
「......見事だ。俺の影の弱点を、最後まで突き続けたか」
「常闇さんの戦闘能力には、最後まで圧倒されておりました。だからこそ、これしかないと思ったのです」
2人は互いに頭を下げた。
騎馬戦で自分の意思で戦えなかったことを、あんなに悔やんでいた彼女が。
今度は自分の頭で考えて、勝利を掴み取った。
本当に、良かった。
切島対鉄哲は激しい打ち合いになった。
「さっきの2人見たあとで、半端なことできるかよ!」
切島が叫ぶ。
「こっちの台詞だァ!」
鉄哲も突っ込んだ。
硬化と鉄化。重い拳同士が何度もぶつかり、最後は互いに倒れ込んでしまう。引き分けからの腕相撲では、切島がわずかな差で勝利した。
『勝者、切島鋭児郎ォ!!』
互いの健闘を称えて笑う2人に、スタジアムから拍手が送られる。
続く麗日対芦戸。
「負けないからね!」
「うん!ウチも、やれること全部やる!」
芦戸は酸を床へ撒き、滑るように距離を取る。接触しなければ個性を使えない麗日にとっては厄介な相手だ。
麗日は何度も近づこうとするが、そのたびに酸が進路を塞ぐ。
「このままじゃ......!」
芦戸が腕を振り、酸を飛ばした。
普通なら避ける。
でも、麗日は顔を腕で庇い、そのまま踏み込んだ。
「っ、痛っ!」
袖と前腕に酸がかかる。
「捕まえた!」
手が芦戸の肩へ触れる。
「えっ!?」
芦戸の身体から重さが消えた。麗日は勢いのまま相手を押し出す。軽くなった芦戸は空中へ流れ、そのまま場外へ飛び出した。
『勝者、麗日お茶子ォ!!』
「いったぁ......!」
腕を押さえる麗日に、芦戸が慌てて駆け寄った。
「大丈夫!?」
「大丈夫!ちょっと痛いけど、勝てたから!」
これで、第1回戦が全て終わった。
これで、1回戦はすべて終了した。
Aブロックから緑谷、轟、塩崎さん、飯田。
Bブロックから僕、八百万、切島、麗日。
巨大モニターには、2回戦の組み合わせが映し出された。
緑谷VS轟。
塩崎VS飯田。
東雲VS八百万。
切島VS麗日。
「......司さん」
戻ってきた八百万が、少し困ったように笑った。
「次は、わたくしたちですわね」
「そうだね。手加減はしないよ」
「望むところです。わたくしも全力で参ります」
大切な恋人だけど、それだけじゃない。同じヒーローを目指す相手として、八百万とは本気で戦いたい。
ただ、ひとつだけ問題がある。
僕は左手を軽く握り、腕をほんの少し曲げた。
「......っ」
奥で鈍い痛みが走った。時間が経てばマシになるかと思ったけど、流石に甘い考えだったか。
すぐに腕を下ろし、何でもない顔で八百万を見る。この痛みを伝えれば、きっと心配するだろう。試合にも影響するかもしれない。
だから、言わない。いや、元々言うつもりもないって言うのが正しいかな。
「楽しみにしてるよ、八百万」
「はい。わたくしもですわ、司さん」
【雄英体育祭】1年決勝トーナメント実況・感想スレ Part15
1242:名無しのヒーロー好き
まず上鳴、口説いて負けて説教されてて草
1243:名無しのヒーロー好き
しかも説教されてるとき「うぇい」しか言えないの酷すぎるw
1244:名無しのヒーロー好き
あれ後で絶対もう一回怒られるだろ
1246:名無しのヒーロー好き
それよりも、東雲と爆豪だろ。あれ、決勝でもおかしくないレベルだった
1247:名無しのヒーロー好き
爆豪、場外寸前から吠えて押し返したところヤバい
1248:名無しのヒーロー好き
東雲も肉弾戦で互角だったし、個性の応用上手すぎ
1249:名無しのヒーロー好き
ハウザーインパクト直撃→位置交換→爆豪が爆破で振り向く→相打ち、何回見てもおかしい
1250:名無しのヒーロー好き
爆豪の反応速度バグってるだろ
1251:名無しのヒーロー好き
東雲のあの拳の周りの風も初めて見た気がする
1252:名無しのヒーロー好き
2人とも倒れたときマジで怖かった
1253:名無しのヒーロー好き
東雲がふらふら立ち上がったところ、今年のベストシーン候補
1254:名無しのヒーロー好き
爆豪7:東雲3とか言ってた奴息してる?
1255:名無しのヒーロー好き
俺です。すみません。でも爆豪も強かったろ
1256:名無しのヒーロー好き
いやこれ実力差ほとんどないだろ。紙一重
1257:名無しのヒーロー好き
八百万も凄かったな。常闇の方が戦闘力上に見えたのに工夫して勝った
1258:名無しのヒーロー好き
あの反射板と遅延照明は頭いいわ。思いつかんかった
1259:名無しのヒーロー好き
切島と鉄哲も熱かった。麗日も酸覚悟で突っ込んだし
1260:名無しのヒーロー好き
東雲と爆豪に触発されてたよな絶対
1261:名無しのヒーロー好き
次、緑谷VS轟も塩崎VS飯田も気になる
1262:名無しのヒーロー好き
待て、東雲VS八百万じゃん
1263:名無しのヒーロー好き
東雲の怪我大丈夫なのか?担架で運ばれてたぞ
1264:名無しのヒーロー好き
2回戦に出てくるなら、それだけでも驚きだわ
まあ、まともに戦うのは無理だろ