僕は愛を囁く   作:Mr.♟️

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雄英体育祭 後編1(トーナメント1回戦)

 

『さあ、いよいよ雄英体育祭も最終種目!ここからは1対1、決勝トーナメントの開幕だァ!!』

 

プレゼント・マイクの声が、満員のスタジアムを揺らした。

 

Aブロックは緑谷と心操、轟と瀬呂、塩崎さんと上鳴、飯田と発目さん。Bブロックの初戦は僕と爆豪。そのあと常闇と八百万、切島と鉄哲、麗日と芦戸が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の試合は、始まってすぐに奇妙な展開になった。

 

心操が緑谷に話しかけ、緑谷が思わず答える。

 

その途端、緑谷の動きが止まった。表情も消え、そのまま場外へ歩き始める。

 

『おおっと!?緑谷、どうしたァ!?』

 

「なるほどね」

 

騎馬戦で八百万たちが無表情だった理由が分かった。やっぱり洗脳系の個性か。場外まであと一歩。

 

その瞬間、緑谷の指先で衝撃が弾けた。

 

「っ......!」

 

痛みをきっかけに意識を取り戻したらしい。そこからは緑谷が間合いを詰め、心操を組み伏せて場外へ投げ出した。

 

『勝者、緑谷出久ゥ!!』

 

続く轟対瀬呂は、あっさり決着した。

 

「始め!」

 

轟の足元から氷が走る。瀬呂がテープを伸ばそうとしたときには、巨大な氷塊がステージを覆い、本人も動けなくなっていた。

 

『勝者、轟焦凍ォ!!』

 

3試合目、塩崎さん対上鳴。

 

「よっしゃ!塩崎さん、俺が勝ったら今度一緒に遊びに行かね?」

 

「......え?」

 

塩崎さんは一瞬目を丸くしたあと、静かに眉を寄せる。

 

「そのような申し出を、勝負の場ですることではありません」

 

「えー、いいじゃん!まずは仲良くなるところからさ!」

 

「それに、上鳴さん」

 

「おっ、なになに?」

 

「先ほどのチア衣装の件、話が済んでおりません。女子生徒たちの信頼を利用して、虚偽の説明をなさったことについてです」

 

「うっ」

 

上鳴が露骨に目を逸らした。

 

ああ、そういえば。峰田と一緒になって『チア衣装が必要だ』と吹き込んだ張本人だったね。その状況でよりによって塩崎さんを口説こうとするなんて、蛮勇にも程がある。

 

まあ、チア服姿は可愛かったよね。

 

『おおっと上鳴!試合前から口説いているが、早くも苦戦しているぞォ!!』

 

「うっせえ!試合なら勝つっつーの!」

 

『試合開始ィ!』

 

上鳴は掌を広げ、早々に広範囲への放電を始めた。

 

「これなら逃げられねえだろ!」

 

電撃が競技場に広がる。塩崎さんは自分の身体から伸びたツルの一部を切り離し、電撃の通り道を避けながら、別のツルを地面へ潜ませていた。

 

上鳴の大放電には大きな弱点がある。

 

「うぇーい......」

 

電撃が収まったころには、本人が例の状態になっていた。

 

「......無防備ですね」

 

伸びてきたツルが上鳴を絡め取り、持ち上げる。上鳴は満面の間の抜けた笑顔で親指を立てたまま、あっさり場外へ運ばれていった。

 

『勝者、塩崎茨ィ!!上鳴、勝負にもお誘いにも撃沈だァ!!』

 

塩崎さんは上鳴を下ろし、両手を腰の前で揃えて向き直る。

 

「上鳴さん。聞いていらっしゃいますか?」

 

「うぇい!」

 

「私含めて女子があの衣装を着たのは、あなた方の言葉を信じたからです。信頼は、弄んでよいものではありません」

 

「うぇーい!」

 

「......反省は、後ほど改めてお願いすることにいたします」

 

 

 

 

4試合目は飯田対発目さん。

 

発目さんがアイテムを披露し、真面目な飯田が実演に付き合わされている。

 

「君は一体何をしているんだァ!!」

 

「ベイビーたちを見てもらってるんですよ!」

 

『勝者、飯田天哉ァ!!』

 

これでAブロックの4試合は終了。緑谷、轟、塩崎さん、飯田が勝ち上がった。

 

次は緑谷と轟、塩崎さんと飯田か。

 

でも、その前に僕の出番だ。

 

『続いてBブロック初戦!入試首席、東雲司!対するは爆破の申し子、爆豪勝己ィ!!』

 


 

ステージへ出ると、あちこちから声が飛んできた。

 

「今度は10分待つなよ!」

 

「爆豪!ぶっ飛ばせ!」

 

「東雲ー!ファンレター送るぞー!」

 

「ありがと〜」

 

「相変わらずふざけた野郎だな、テメェは」

 

「応援には応えないとね」

 

「──ああ、ぶっ飛ばされて欲しいって期待に応えてみろや」

 

「僕も勝ちに来たんだ。その期待には応えれない」

 

爆豪が鼻を鳴らし、掌に小さな火花を散らす。

 

 

「それでは──始め!」

 

轟音が響いた。

 

爆豪は開始の合図と同時に、右手の爆破で加速してきた。左拳が顔面へ迫る。

 

それに対し僕は腕で打点を外し、右拳を返す。爆豪は首をずらしてかわし、膝を突き上げる。僕も肘を落として受け止め、蹴りを返した。

 

脚と腕がぶつかり、鈍い音がした。

 

続けて爆豪の掌がこちらへ向く。

 

光るより早く、僕は横の空間へ転移した。

 

背後へ回って拳を打つ。

 

「──予測できてんだよっ!」

 

爆豪は振り向きざまに肘を合わせてきた。拳と肘がぶつかり、互いの身体が揺れる。

 

肉弾戦では互角に渡り合える。

 

でも、それだけじゃ不充分だ。爆豪は攻撃を読んで反撃を組み立てる技術が優れている。接近戦に爆破を組み込む判断も速い。

 

戦闘センスが高い。

 

『開始早々、激しい近接戦だァ!!!』

 

僕は爆豪の斜め上を視認した。

 

転移。

 

姿が現れた瞬間、爆豪が掌を向ける。

 

「そこだろ!」

 

爆風の前に風を流す。僕の身体が前方へ加速し、爆破が背後で弾けた。

 

僕が踵を振り下ろすと、爆豪は両腕で受け、爆破で横へ回り込んで蹴りを返した。

 

「っ!」

 

肘で受け止め、浮遊の風で姿勢を維持する。

 

着地直後に踏み込み、拳と蹴りを交換した。僕の右拳が爆豪の頬をかすめ、爆豪の膝が僕の太腿を打つ。

 

「チョロチョロしやがって!」

 

「お互い様でしょ....!」

 

「うるせェ!!」

 

爆豪が掌を振るった。

 

僕は横へ回避し、身体をを風で加速させて再び接近する。爆豪は僕の肩の動きを読んで拳を出し、その直後に爆破を重ねる。

 

着地する瞬間に風で足を押し出し、爆豪の想定より半歩深く踏み込む。ようやく──拳が脇腹へ入ると同時に、爆豪の蹴りが僕の肩を捉えた。

 


 

試合が長引くにつれて、爆豪の爆発が大きくなっていった。

 

驚きはしない。こうなることは分かっていたから。

 

「おらァァ!!」

 

正面から迫る爆風。

 

僕は脚を風で加速させ、横へ大きく踏み込む。

 

 

そこへ、爆豪が先回りしていた。

 

咄嗟に腕を交差する。

 

爆発の衝撃で数歩押し戻された。

 

「っ、ぐ......!」

 

爆豪はそのまま追撃してくる。拳、膝、掌。こっちが避けたい位置へ攻撃を置き、次の爆破へ繋げる。

 

僕は右側へ視線を流した。

 

爆豪の肩がそちらを向く。転移先を読もうとしているんだろう。でもさ、何度も同じ手は通じないよ。

 

風で脚を加速させ、転移せずに逆の左側から踏み込んだ。

 

「っ!?」

 

ほんのわずかに反応が遅れた。その隙に掌を払い、腹へ拳を入れる。

 

「ぐっ!」

 

続けて肩をぶつけ、体勢を崩した。爆豪をもう少し押し出すことができれば、場外に落ちる。

 

──ここで押し切る。

 

拳を打ち、足を踏み替え、爆豪が腕で防ぐたびに前へ出た。爆豪の踵が場外のすぐ手前まで滑る。

 

渾身の拳を、爆豪の防御へ打ち込む。

 

これで、場外へ──落ちろっ

 

「......舐めんじゃ」

 

爆豪の目付きがさらに悪くなった。

 

「ねェェェェェッ!!!」

 

咆哮と同時に両掌が爆発した。

 

「っ!?」

 

爆豪は場外直前で踏ん張り、逃げるどころか前へ出た。爆破の向きを変えながら自分の身体を押し出し、反対に僕へ圧力をかけてくる。

 

「おおおおおおッ!!」

 

一歩。さらに一歩。

 

僕も踏ん張る。脚に風を流して時折反撃も試みる。それでも、爆豪の勢いが止まらない。

 

次の爆発が全身へ押し寄せ、僕の身体が浮いた。爆豪から離れた後方の床を視認して転移し、着地した瞬間に片膝をついた。

 

肺から息が押し出される。

 

......すごいな。

 

今のは完全に押し切ったと思った。それなのに、まさか決め切るどころか引かされるなんて思わなかった。

 

「逃げんなやァ!まだ終わってねえぞ!!」

 

爆豪が吠える。

 

僕は唇の端を拭い、膝に力を入れた。風で身体を加速させ、再び突っ込む。

 

拳と脚が交差した。爆豪の拳が頬を打ち、僕の蹴りも爆豪の脇腹へ入る。

 

正直な話、これ以上は長引かせたくない。

 

まだ見せていない切り札もあるけど、単純に使えば爆豪は反応するだろう。爆豪の勘の良さは、ここまでの戦いで嫌というほど見せつけられた。

 

「......次で終わらせるっ」

 

爆豪が吐き捨てるように言った。

 

「奇遇だね。僕もそう思ってた」

 

「黙れッ!!」

 

爆発音とともに、爆豪が高く跳んだ。

 

さらに掌から爆風を噴射し、空中で身体を回転させ始める。回転が速くなるにつれ、爆風が渦になっていった。

 

渦の中心にいる爆豪の姿を見失いそうなほど、爆煙が流れている。

 

ここで決めたいというのは、僕も同じだ。

 

足を開き、両腕に風を集める。

 

障害物競走で砂塵を一気に吹き払った、あの強風。

 

あのときは広範囲へ放ったものを、今は腕の周囲へ凝縮する。腕を速く動かすためだけじゃない。風そのものを鎧として纏い、攻撃では拳とともに強烈な風圧を叩きつけるためだ。

 

【白虎の力】──【風纏(かざまとい)】。

 

左腕には防御のために風を厚く重ね、右拳には攻撃のために風を集めた。この風は鎧であり、矛でもある。

 

 

 

 

 

『爆豪、上空から急降下ァ!!東雲も逃げない!真正面から迎え撃つつもりかァ!?』

 

観客席の声が遠くなる。

 

爆豪が迫る。

 

「ぶっ潰れろォォォ!!」

 

【ハウザ─────インパクトッッッッッッ!!!】

 

 

それに対して、僕は左腕を差し出した。腕を覆う風の鎧に、爆圧がぶつかる。これは──

 

───っ!?

 

風が押し潰される。

 

予想より、ずっと強い。

 

左腕から鈍い音が伝わり、焼けるような痛みが肩まで走った。骨が折れた。予想よりも強いっっっ......!

 

 

 

 

 

でも、目は逸らさない。爆豪が、すぐそこにいる。僕の目の前にいる。

 

爆豪は攻撃を当てた手応えを感じたはずだ。確かに捉えたという確信。それとも同時に感じたであろう──勝利への確信。

 

その一瞬、次の攻撃を考える意識が途切れる。僕はこの瞬間を待ち望んでいたんだっっ!

 

──今だ。

 

景色が裏返った。僕と爆豪の位置が入れ替わる。殴っている姿勢のまま僕の位置へ転移した爆豪。僕は──その爆豪の無防備な背中を見つめている。

 

右拳に纏わせた強風を、背後から叩きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

......はずだった。

 

「なめんなァァァ!!」

 

爆発音。爆豪は片方の掌を炸裂させ、その反動で強引に身体を回転させた。

 

嘘だろ!この状況で!?

 

理解するより早く、振り向いた爆豪のもう片方の掌がこちらを向いた。僕も右拳を止められない。止めたら──負ける。

 

 

【風纏】の風が拳とともに解き放たれる。

 

同時に、爆豪の掌が爆ぜた。

 

爆発と風圧が、互いの身体へ叩きつけられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が白く染まった。

 

どこかで、骨の軋む嫌な音がした。

 

 

 

そこで、僕の意識は途切れた。

 


 

爆煙が晴れても、ステージには歓声が戻らなかった。

 

司も爆豪も、動かない。

 

「......相打ち?」

 

A組の観客席で、葉隠が震える声を漏らした。

 

耳郎は手すりを掴んだまま、身動きできずにいた。

 

「司......?」

 

爆豪の大技が当たり、次の瞬間には2人の位置が入れ替わったように見えた。それから、もう一度すさまじい爆発が起きた。これが客席で見えた光景だった。

 

「爆豪も、あの一瞬で振り向いたのか......!」

 

切島が掠れた声で言う。

 

「司さん......!」

 

八百万は胸元で両手を重ねた。他の人がりかいできなくても、八百万は知っている。USJで自分を救った位置交換。その力を使ったのだと。

 

緑谷も唇を噛んでいた。

 

「かっちゃんいつの間にあんな技を......でも、東雲くんも......!」

 

競技場ではミッドナイトが駆け寄り、救護スタッフへ手を振っている。

 

 

 

 

B組の観客席にも、いつもの喧騒はなかった。

 

「おいおい......どっちも動かねえぞ」

 

鉄哲が身を乗り出す。

 

拳藤は両手で手すりを握っていた。

 

「これが1回戦って、悪い冗談でしょ.....」

 

「冗談じゃないよ」

 

「A組同士で潰し合って......ハンッ、目立つのが好きなクラスだ」

 

「......司」

 

小大は呟き、塩崎は両手を組んで目を伏せかけてから、もう一度ステージを見た。

 

「主よ......どうか、あの方々をお守りください」

 

ミッドナイトが両者の様子を確かめる。救護スタッフも駆け寄る。勝敗を告げる声は、まだない。

 

そのときだった。

 

司の指が、小さく動いた。

 

「......あっ!」

 

拳藤が声を上げる。

 

司はゆっくりと目を開け、片方の肘を床についた。身体を起こそうとして、いったん顔を伏せる。

 

左腕は力なく垂れていた。

 

それでも、膝を床につき、立とうとする。

 

「無理だろ......!」

 

鉄哲が呻いた。

 

司はもう一度、膝から崩れた。耳郎が思わず叫ぶ。

 

「もういい!司、無理しないで!!」

 

届くかどうかも分からない声だった。それでも司は、もう一度床に手をついた。

 

よろよろと上体を起こし、震える脚を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

──そして、立った。

 

「......東雲さん」

 

塩崎は、気づけば手すりの近くまで身を乗り出していた。

 

障害物競走で10分間のハンデを課し、自分を抱きとめたあとも冗談めいた言葉を口にしていた少年。

 

その態度を、彼女は軽薄だと思った。競技に対する敬意も欠けていると感じた。

 

騎馬戦では、仲間の意見を聞き、一緒に戦った。それで少し認識が変わったのも確かだ。

 

そして今、目の前にいるのは──

 

満身創痍でもなお、勝負を投げ出さない少年だった。

 

塩崎は司が勝つことに、ここまで強く執着する人だとは思っていなかった。

 

「......見事、です」

 

塩崎の唇から言葉がこぼれた。

 

ミッドナイトが爆豪の戦闘不能を確認し、司のもとへ駆け寄る。

 

『勝者──東雲司!!』

 

一拍遅れて歓声が爆発した。

 

司はその声を聞いたのか、ほんの少し口元を緩めた。だが、次の瞬間には脚から力が抜け、駆け寄った救護スタッフに支えられる。

 

塩崎は拍手を送った。祈るように組んでいた手をほどき、今度は心からの称賛として。

 

「......東雲さん。本当に、お見事です」

 

「......茨?」

 

隣の拳藤が、ちらりと横顔を覗き込んだ。

 

「ずいぶん感動してるね」

 

「ええ。あれほどの戦いを目にして、心を動かされない方が難しいと思います」

 

「まあ、それはそうなんだけどさ」

 

拳藤は少し笑った。

 

「茨って、東雲のこと、あんまり良く思ってなかったでしょ?」

 

塩崎は否定しなかった。

 

「軽率な言動も、競技への姿勢も、私には理解しがたいものでした。ですが......」

 

彼女は担架へ移される司を見つめた。

 

「それだけで、判断したのは間違いでした」

 

「へえ。じゃあ、見直した?」

 

「ええ。あの方にも、私が存じ上げなかった真摯な一面があるのですね」

 

拳藤の口元が、少しいたずらっぽく緩む。

 

「茨が男子をそこまで褒めるなんて、珍しいなぁ」

 

「立派な行いには、相応の称賛を送るべきでしょう。性別関係なく」

 

「はいはい、分かってるって」

 

拳藤は笑った。

 

ただ、塩崎はもう一度ステージへ目を向けていた。

 

好ましくないと思った言動が消えたわけではない。それでも、司を見る目が以前と同じではないことだけは、彼女自身にも分かっていた。

 

そして拳藤は、その変化を近くで感じ取っていた。

 


 

最初に感じたのは、ひどい頭痛だった。

 

「......っ、あ」

 

目を開ける。白い天井。薬品の匂い。

 

「ようやく目を覚ましたね、この無茶坊主」

 

リカバリーガールが、ベッドの横から僕を見下ろしていた。

 

「......僕、勝ちました?」

 

「勝ったよ。もっとも、あのまま立ったのは褒められたことじゃないね」

 

そうか。勝ったのか。

 

爆豪と相打ちになったあと、ほんの一瞬だけ意識が戻ったのを覚えている。

 

身体が鉛みたいに重かった。爆豪が倒れているのが見えて、勝敗がまだ決まっていない気がした。

 

だから、立たなきゃと思った。

 

「爆豪は?」

 

「こっちで治療してる。命に関わる状態ではないから、余計な心配はせず、自分の身体を気にしな」

 

「......はい」

 

息を吐くと、胸が痛んだ。

 

リカバリーガールは僕の身体を確かめてから、治癒を施してくれた。重傷だった部位の回復が促され、焼けるような痛みが和らいでいく。

 

ただ、そのぶん身体がひどく重くなった。

 

「私の治癒はあんた自身の回復力を使うんだよ。これ以上、無理に動くんじゃない。」

 

「分かりました」

 

僕はリカバリーガールと話しながら右手を胸元へ当てる。しばらくすると、リカバリーガールはまだ目を覚まさない爆豪の元へと移動した。

 

【ヒーリング・タッチ】。

 

身体の奥へ温かな感覚が染み込んでいく。リカバリーガールの治療で生じた疲労感が、少しずつ薄れていった。重かった身体が軽くなり、意識もはっきりしてくる。

 

「......ふぅ」

 

試しに左手を握る。

 

問題ない。

 

続いて、肘を曲げた。

 

「っ......!」

 

鋭い痛みが腕の奥を走った。

 

思わず動きを止める。

 

......なるほど。

 

完治とはいかないか。

 

二人分の治癒を受けても、ハウザーインパクトを受けた左腕の痛みが残っていた。

 

動かせないわけじゃない。でも、大きく曲げたり、強く力を入れたりすると痛む。

 

幸いなことに、外見上は問題なさそうだ。

 

「......強かったなぁ」

 

痛みを誰かに伝えれば、止められるかもしれない。リカバリーガールにも、耳郎にも、八百万にも。

 

このことは誰にも言わない。

 

見た目は回復しているし、疲労感も引いた。僕が普通に振る舞えば、気づかれないはずだ。

 

僕はまだ、ここで終わる気はない。僕が目指してるのは──1位だけだから。

 


 

通路へ戻ると、耳郎と八百万が待っていた。

 

「司!」

 

耳郎が駆け寄り、真っ先に左腕を見る。

 

「......腕、どうなったの?」

 

「治療してもらったよ。自分でも個性を使ったしね」

 

左腕を軽く持ち上げる。

 

......痛い。

 

それでも、顔には出さなかった。

 

「本当に大丈夫?」

 

「さっきよりずっと楽になったよ」

 

耳郎はしばらく僕を見つめてから、大きく息を吐いた。

 

「......もう、ほんっとに心臓に悪いんだけど!」

 

「心配かけたね」

 

「勝ったのは嬉しいよ。でも、2人とも倒れたとき、本当に......!」

 

耳郎は言葉を詰まらせた。

 

八百万も一歩近づく。

 

「司さん。あまり無理をなさらないでくださいね」

 

「うん。今回の防御は完全に判断ミスだった。風纏なら耐えられると思ったんだけど、爆豪の攻撃が想像以上だったんだ」

 

「それでも......最後に立ち上がったのは司さんでしたわ。あのケガはともかく、勝利は喜ばしいことですわ。遅くなりましたが、おめでとうございます」

 

八百万の言葉が終わるタイミングで耳郎は僕の腕に触れかけ、思い直したように手を引いた。

 

「次、もうこんな怪我しないでよ」

 

「気をつける」

 

「......絶対だよ」

 

「うん」

 

左腕の奥が、じくりと痛んだ。

 

そのことを、2人には言わなかった。

 


 

『さあ!まだ1回戦は終わっちゃいない!続いて常闇踏陰対八百万百!!』

 

爆豪との試合の余韻が、スタジアムに残っていた。

 

八百万はステージへ向かう途中、振り返った。向かいでは常闇が待っている。

 

「司さん。わたくしも、負けていられませんわ」

 

「うん。八百万らしい戦いを見せてよ」

 

「......先ほどの2人の戦い、見事だった」

 

「ええ。ですが、気持ちを切り替えてくださいまし。わたくしたちの試合が始まります」

 

「無論。俺も全力で臨む」

 

 

 

『試合開始!』

 

「ダークシャドウ!」

 

黒い影が伸びる。

 

八百万は盾を創造し、正面からの攻撃を受け止めた。でも、ダークシャドウの腕力は強い。盾ごと押され、八百万の足が床を滑る。

 

「くっ......!」

 

常闇はダークシャドウを前に出し、そのまま間合いを詰める。

 

八百万は盾を捨てると同時に、反対の腕から筒状の照明器具を創造した。

 

次の瞬間、強い光が弾ける。

 

『おおっと!八百万、光でダークシャドウを牽制だァ!』

 

ダークシャドウが身を縮めた。

 

その流れで八百万は長い棒で常闇の足元を狙うが、黒影に弾かれる。八百万は後退しながら、小型の照明を床へ転がす。

 

いくつもの光が、床を照らした。

 

「光源を増やすか......!」

 

常闇が呟き、ダークシャドウが怯んだものの、照明はすぐに壊される。光が消えると、ダークシャドウの動きが鋭くなった。

 

八百万は新しい盾を出して防いだけど、押されているのは明らかだった。

 

中距離からでも攻撃でき、力も強い。八百万が何かを創る前に妨害する判断も的確だった。

 

「......まだですわ!」

 

八百万は盾の裏へ手を回し、折り畳み式の反射板を創造する。さらに床へ転がした新しい照明を、反射板で別の角度へ向けた。

 

「何っ!?」

 

ダークシャドウの動きがわずかに鈍る。

 

八百万はその隙に距離を詰めたが、常闇は身体を捻り、黒影で棒を受け止める。

 

「策は見事だ。だが、まだ足りぬ!」

 

ダークシャドウが床へ叩きつけられ、衝撃で八百万の足が止まった。常闇が一気に間合いを詰める。

 

 

 

 

 

 

 

ここで終わるか。

 

そう思ったとき、八百万が小さく笑った。

 

「......いいえ。こちらですわ」

 

彼女の足元から、もうひとつの照明が転がり出た。

 

先ほどと同じ形だが、内部には遅延装置が仕込んであったみたいだ。さらに、盾の裏へ仕込んでいた反射板が開く。

 

常闇の足元と背後から、眩しい光が同時に差し込んだ。

 

 

 

 

影が縮む。

 

八百万はそこを逃さなかった。

 

棒を足元へ差し込み、常闇が体勢を崩したところへ肩を入れる。黒影が咄嗟に腕を伸ばしたけど、反射する光がその動きを鈍らせた。

 

「はああっ!」

 

八百万は全身の力で押した。

 

常闇が──落とされた。

 

『場外ォ!!勝者──八百万百!!』

 

観客席が沸いた。

 

僕も思わず立ち上がり、拍手した。

 

「すごいじゃないか、八百万!」

 

......っ。

 

左腕へ走った痛みに、身体がわずかに強張る。幸い、誰にも見られていない。僕は不自然にならないよう少し力を抜いて拍手を続けた。

 

 

 

常闇は悔しそうに息を吐き、それから八百万へ向き直った。

 

「......見事だ。俺の影の弱点を、最後まで突き続けたか」

 

「常闇さんの戦闘能力には、最後まで圧倒されておりました。だからこそ、これしかないと思ったのです」

 

2人は互いに頭を下げた。

 

騎馬戦で自分の意思で戦えなかったことを、あんなに悔やんでいた彼女が。

 

今度は自分の頭で考えて、勝利を掴み取った。

 

本当に、良かった。

 


 

切島対鉄哲は激しい打ち合いになった。

 

「さっきの2人見たあとで、半端なことできるかよ!」

 

切島が叫ぶ。

 

「こっちの台詞だァ!」

 

鉄哲も突っ込んだ。

 

硬化と鉄化。重い拳同士が何度もぶつかり、最後は互いに倒れ込んでしまう。引き分けからの腕相撲では、切島がわずかな差で勝利した。

 

『勝者、切島鋭児郎ォ!!』

 

互いの健闘を称えて笑う2人に、スタジアムから拍手が送られる。

 

続く麗日対芦戸。

 

「負けないからね!」

 

「うん!ウチも、やれること全部やる!」

 

芦戸は酸を床へ撒き、滑るように距離を取る。接触しなければ個性を使えない麗日にとっては厄介な相手だ。

 

麗日は何度も近づこうとするが、そのたびに酸が進路を塞ぐ。

 

「このままじゃ......!」

 

芦戸が腕を振り、酸を飛ばした。

 

普通なら避ける。

 

でも、麗日は顔を腕で庇い、そのまま踏み込んだ。

 

「っ、痛っ!」

 

袖と前腕に酸がかかる。

 

「捕まえた!」

 

手が芦戸の肩へ触れる。

 

「えっ!?」

 

芦戸の身体から重さが消えた。麗日は勢いのまま相手を押し出す。軽くなった芦戸は空中へ流れ、そのまま場外へ飛び出した。

 

『勝者、麗日お茶子ォ!!』

 

「いったぁ......!」

 

腕を押さえる麗日に、芦戸が慌てて駆け寄った。

 

「大丈夫!?」

 

「大丈夫!ちょっと痛いけど、勝てたから!」

 

これで、第1回戦が全て終わった。

 


 

これで、1回戦はすべて終了した。

 

Aブロックから緑谷、轟、塩崎さん、飯田。

 

Bブロックから僕、八百万、切島、麗日。

 

巨大モニターには、2回戦の組み合わせが映し出された。

 

緑谷VS轟。

 

塩崎VS飯田。

 

東雲VS八百万。

 

切島VS麗日。

 

「......司さん」

 

戻ってきた八百万が、少し困ったように笑った。

 

「次は、わたくしたちですわね」

 

「そうだね。手加減はしないよ」

 

「望むところです。わたくしも全力で参ります」

 

大切な恋人だけど、それだけじゃない。同じヒーローを目指す相手として、八百万とは本気で戦いたい。

 

ただ、ひとつだけ問題がある。

 

僕は左手を軽く握り、腕をほんの少し曲げた。

 

「......っ」

 

奥で鈍い痛みが走った。時間が経てばマシになるかと思ったけど、流石に甘い考えだったか。

 

すぐに腕を下ろし、何でもない顔で八百万を見る。この痛みを伝えれば、きっと心配するだろう。試合にも影響するかもしれない。

 

だから、言わない。いや、元々言うつもりもないって言うのが正しいかな。

 

「楽しみにしてるよ、八百万」

 

「はい。わたくしもですわ、司さん」

 


 

【雄英体育祭】1年決勝トーナメント実況・感想スレ Part15

 

1242:名無しのヒーロー好き

 

まず上鳴、口説いて負けて説教されてて草

 

1243:名無しのヒーロー好き

 

しかも説教されてるとき「うぇい」しか言えないの酷すぎるw

 

1244:名無しのヒーロー好き

 

あれ後で絶対もう一回怒られるだろ

 

1246:名無しのヒーロー好き

 

それよりも、東雲と爆豪だろ。あれ、決勝でもおかしくないレベルだった

 

1247:名無しのヒーロー好き

 

爆豪、場外寸前から吠えて押し返したところヤバい

 

1248:名無しのヒーロー好き

 

東雲も肉弾戦で互角だったし、個性の応用上手すぎ

 

1249:名無しのヒーロー好き

 

ハウザーインパクト直撃→位置交換→爆豪が爆破で振り向く→相打ち、何回見てもおかしい

 

1250:名無しのヒーロー好き

 

爆豪の反応速度バグってるだろ

 

1251:名無しのヒーロー好き

 

東雲のあの拳の周りの風も初めて見た気がする

 

1252:名無しのヒーロー好き

 

2人とも倒れたときマジで怖かった

 

1253:名無しのヒーロー好き

 

東雲がふらふら立ち上がったところ、今年のベストシーン候補

 

1254:名無しのヒーロー好き

 

爆豪7:東雲3とか言ってた奴息してる?

 

1255:名無しのヒーロー好き

 

俺です。すみません。でも爆豪も強かったろ

 

1256:名無しのヒーロー好き

 

いやこれ実力差ほとんどないだろ。紙一重

 

1257:名無しのヒーロー好き

 

八百万も凄かったな。常闇の方が戦闘力上に見えたのに工夫して勝った

 

1258:名無しのヒーロー好き

 

あの反射板と遅延照明は頭いいわ。思いつかんかった

 

1259:名無しのヒーロー好き

 

切島と鉄哲も熱かった。麗日も酸覚悟で突っ込んだし

 

1260:名無しのヒーロー好き

 

東雲と爆豪に触発されてたよな絶対

 

1261:名無しのヒーロー好き

 

次、緑谷VS轟も塩崎VS飯田も気になる

 

1262:名無しのヒーロー好き

 

待て、東雲VS八百万じゃん

 

1263:名無しのヒーロー好き

 

東雲の怪我大丈夫なのか?担架で運ばれてたぞ

 

1264:名無しのヒーロー好き

 

2回戦に出てくるなら、それだけでも驚きだわ

 

まあ、まともに戦うのは無理だろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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