青春ブタ野郎を眺めていればいつかは気が紛れるだろうか   作:kanaumi

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 こりずに書きました。次はすぐにに出せると思います。



青春ブタ野郎を眺めていればいつかの嘘が判るだろうか

 

 一学期の期末試験。それは新しい生活に馴れて来た学生が、勉強と言う学生の本分で、最初に壁となる行事だ。もっとも、成績が悪いからと焦る学生は少ないのかもしれない。俺もそう思っていた。しかし、いざ進学の事を考えると、ここでの点が微妙に影響してくる。大学には行っていない俺だが、専門学校でも微妙に特待生制度で影響があった。まあ、兎も角頑張るにこした事はない。居候の事もある。先を見据えて動く事はどこでだって大事だ。勉強は好きではないが、するべき時はやって置けを信条にやるしかない。幸い、今日は6月27日。試験まではもう少しある。

 

 とまあ、試験については頑張るが、今現在はアルバイト中だ。国見から誘われたファミレスバイト。俺はもっぱらキッチン担当で、フロアは他の人が出てくれる。バイトを始めた頃それでもフロアだったが、評判が良くなくてキッチンになった。理由は、なんか目が死んでいた。持ってきた料理の味が少し落ちた。かなり理不尽だった。そんな異能は持ち合わせていないんだが。まあ、シフトの時間帯的に、客足が多くなる時間だからフロアに行く事もある。

 そんなこんなで、今日もバイトだ。今日は稀にある梓川と一緒の時間だった。

「3番テーブル、行ってくる」

「ああ、こっちもすぐに出来上がる」

 提供する唐揚げを盛り付けながら、フロアの仕事をしに行った梓川を見送る。今日は比較的席も空いていて忙しくなかった。だからと言って、バイト中にお喋りするほど不真面目でもない。ただ、注文されたものを仕上げるのみだ。

「宍道、終了時間だぞ」

「……よし、すまん。これを仕上げてしまいたかった」

「いや、問題ない。それより、店長に急かされる前に上がってしまわないか?」

「ああ、そうしよう」

 時計は午後9時。前の人生では、バイトを始めたのは専門学校の時からだった。高校ではお金に困ったらバイトではなく、親へねだっていた。それを考えると不思議な感覚になる。制服へ着替えた俺は、近くで着替えている梓川に目を向ける。少し浮かれた感じが、奴の表情から読み取れる。まあ、分からないでもない。桜島先輩の影響力は凄い。最近まではそこまで目立っていなかったが、梓川の愛の告白から異常なまでの目立ち方をしていた。そして、綺麗な方だ。そんな先輩と昼食をとっている梓川は羨望の的だった。今日もそこで何かあったのだろうと当たりを付けるが、こちらからはそれを指摘するのは少し癪だった。

「…宍道、好きな人からキスシーンがあるって言われたらどうする」

「…随分と話を飛ばしたな。…察するに桜島先輩の出演するドラマにキスシーンがあるんだな?」

 ジッとこちらを見つめながら梓川はコクンと頷く。

「…まあ、好きな人のキスシーンは見たくないな。ドラマであってもな」

「そうだよな!」

「…近い。……それがどうしたと言うのもあれだが、本題は何だ、これではないんだろ?」

 バッと顔を近づけて来る梓川を押し返す。

「ああ、それでその時に麻衣さんは初めてじゃないって言ったんだ!」

「…驚いた、そこまで進んでいたのか」

 これは正直驚いた。梓川から先輩への矢印が大きいのはわかっていたが、先輩からも想像以上に大きかった。付き合いたてだからせいぜい手を繋ぐくらいと認識していた。最近の子は早いなぁと前世と比較する。

「…いや、まあ、梓川と先輩の事はわかった。それをなぜ俺に話す。双葉や国見に話せよ」

「いや、2人とは会えなくて、宍道が最初だったから」

「…そうか、おめでとう。俺は疲れたし、夕飯作らないとならんから帰る。じゃあな」

「そっか、居候の子がいるんだったな。じゃあ、また」

 そう言って、俺は店長に挨拶してマンションに向けて歩く。今日は大家さんに夕食を頼んである。だから急いで帰る必要はないが、惚気話を延々と聞いてやるほど心は広くない。ああでも、明日これを聞かされる2人に同情するか。…国見は、いいか。頑張れ、双葉。

 

 そんな事を考えながら、俺はマンションのオートロックを解除した。郵便受けを確認して、通路を歩いてようやく自宅に着いた。午後10時前になったが、我が家の居候はどうしているやら。扉を開ける。真っ暗な玄関が俺を迎える。一瞬、寝たのかと思ったが部屋から明かりが漏れている。なぜかため息がこぼれる。

「……はぁ」

「…なに、帰って来てそうそうため息なんて」

 ソファーを占領してテレビを見ている居候、豊浜のどかはこちらをジロリと睨む。

「なんでだろうな。…風呂入るぞ」

「はいはい、私はもう澄子さんの家で入ったから」

 そう言って、のどかは再びテレビに向き直す。テレビには清涼飲料のCMが流れている。

「その大量のジュースはどうしたんだ?」

「澄子さんが箱買いしたからってくれたわよ。澄子さん、お姉ちゃんのファンだったみたい。お姉ちゃんが出たCMのジュースだって、うれしそうに言ってた」

 澄子さん──黒崎澄子さん。このマンションの大家さんであり、俺とのどかのあれこれを整えてくれた恩人だ。桜島先輩のファンだったのは今知ったが、桜島先輩が活動を休止したのは俺が高校生になる前だ。その間、たまたま知る機会がなかったのかもしれない。

「まあ、いいが飲みすぎるなよ」

「…親みたいな事、言わないでよ」

「保護者からの意見だ。…入ってくる」

 別に他意はない。でも、俺は早足で風呂場に向かい、体を洗い、浴槽に沈んだ。湯の温かさが今日の疲れを癒やしてくれる。最近は比較的平和な日常だが、少し前は忙しかった。結果的には桜島先輩が持っていったが、のどかを疑うコメントに比較するコメント。これらを遠ざける為に、双葉や国見にも相談していた。中間試験中だったが、2人とも協力してくれた。まあ、のどか自身の事は伏せた上だが。のどかにこの事は伝えてないが、必要もなくなったから良いだろう。伝えて、御礼しなければと無茶されてもかなわないからな。

 

 …それにしても、いつか桜島先輩には感謝を伝えないといけない。本当に手詰まりな状況を助けて貰ったんだ。本人にその気はなかったにしてもな。ただ、そのためにはのどかの事を伝える必要がある。ぼかして伝えた感謝は自己満足が強いからな。…いや、俺が感謝を伝えたいのは自己満足だな。

「はあぁ、どうしたもんかな…梓川に…無しだな」

 彼奴に頼むのが迷惑というわけでないが、やはり俺自身で取り次ぐべきだな。まあ、それがいつになるかは未定だが。また、ため息がこぼれた。なんだかんだ考える事が多いな。なんて思いながら俺は風呂からあがった。

 

「あがったぞ、そういえば通信制の方はどうなんだ?」

「…勉強できないと思ってるってーことでいい?」

「…そこまでは思ってないができるのか?」

「…これでもお嬢様学校に行ってたんだけど」

「もしかしたら、期末は頼るかもしれないな」

「…大介は社会人だったのよね?」

「…大人が全てできるとは思わない方が良い」

 悲しいことにな。

「…そう、これでも飲んだら」

「…貰おう。…美味いな」

「…お姉ちゃん効果でしょ。澄子さんで立証済みよ」

「梓川に差し入れとくか」

「…ああ、学校で告白した奴ね」

「……のどかに言ったか?」

「……SNS」

「反響すごかったからな」

 再び、ジュース缶に口をつける。テレビには何度目かのCMが流れる。なるほど、これがサブリミナル効果ってやつか。その後、ジュースは冷蔵庫にしまい、それぞれの部屋に入って行った。俺はもう疲れたのでそのまま眠るのだった。

 

 

 

 

 ジリジリと2つの目覚ましが、壁越しに響く。今日も天気がいいな。俺は朝食の準備の為にリビングに向かう。いつもの習慣でつけたテレビはワールドカップの結果を映している。どうも日本が勝ったようだ。そこまで興味はなかったが、教室の男共が騒がしくなりそうだな。それよりかは星座占いの方が重要かもな。

『本日、6月27日、金曜日。今日の星座占いはこの通りになります。───11位はてんびん座の貴方。ごめんなさい、今日は疲れる1日かも。ラッキーアイテムは唐揚げです。12位は─』

 今日はワールドカップの方が重要だったな。唐揚げなぞ持ち歩けないだろ。どうしろというんだ。

「おはよ、…なに悔しそうな顔してんの」

「…唐揚げを持ち歩く方法を考えている」

「…今日は唐揚げ弁当なの?」

「…それも良いかもな」

 ちょっと用意しようか。

 

 

 朝食を終えた俺は、のどかに今日はアルバイトである事を告げ、澄子さんの所に夕飯を頼んだ事を伝えた。そのまま電車に揺られ、峰ヶ原高校に到着した。周囲の会話はサッカー、サッカー、ワールドカップと今朝の焼き直しだ。この調子では教室もそうなるだろう。憂鬱だ。ラッキーアイテムの効果はなかったのだろうか。

「あ、宍道!」

「…ん、梓川か。どうした、珍しく朝から元気だな」

「あ、ま、まあ、そんな日もあるだろ。それよりも、ワールドカップのニュース見たか?」

「…ああ、朝見たぞ」

「…昨日も、同じニュースが流れてなかったか?」

「…?…いや、昨日は相撲だったはずだぞ。有名な横綱が勝ったとか」

 昨日のテレビは、その横綱の特集でいっぱいだった。因みに占いは2位だ。

「…そ、そうだったな。悪いな変な話を聞いて」

「……どうした、おかしいぞ?」

「………なあ、今日が2回目って言ったらどう思う?」

「……」

 これは、救急車か?精神科か?内科ではないし、脳外科か?双葉はなんか申し訳ないな。

「…保健室行くか?」

「ごめん、寝ぼけていたかもしれない」

「ああ、違和感があるなら寝ておけよ。数学の先生には言っておいてやる」

「…大丈夫」

 そう言って、梓川はトボトボと歩いていった。…異常か?…わからんな。

 

 結局、梓川は授業を受けるようだ。まあ、体は元気なのかもしれないな。中間試験の時の様な死んだ目ではなかったしな。そのせいで助力を見送ったからな。数学教師の声をよそに、梓川の事を観察していた。そのせいで範囲を書き写し損ねた。後で見せて貰おう。

 

 午前の授業が終わり、梓川は桜島先輩と昼食だったか。教室を出ていく背中を見送り、俺はラッキーアイテムの唐揚げを食べる。…よく考えたら食べてはダメだったか?もう遅いか。

 午後になっても、梓川は特に変わった様子は見られなかった。心なしかつまらなそうだな。

 

 放課後となり、アルバイトに向かう。梓川は双葉に様があるらしく、少し遅れるようだ。まあ、梓川の勤務態度ならそこまで言われないだろう。

 

 今日のバイトもキッチン担当が主だ。そういえば、この唐揚げもラッキーアイテムか。まあ、無くても特に悪いことは起きていないから、気にしすぎない方が良いだろう。

「…ごめん、少し遅くなった」

「双葉に相談しに行ったんだろ、解決したか?」

「手がかりくらいかな」

「なら、大丈夫だろ。梓川はやれる奴だからな」

「…宍道って、たまに爺さんみたいな事言うよな」

「そこまで年食ってない」

 軽口を叩けるくらい元気があると解釈して、俺はキッチン内の作業に戻った。

 午後9時になり、終了時間になったので俺と梓川は着替えて帰路に立った。「また」と言い合って別れ、俺はマンションに向けて歩いた。

 午後10時前に自宅に着いた。暗い部屋を抜け、のどかがくつろぐリビングに向かった。

「……はぁ」

「…なに、帰って来てそうそうため息なんて」

 結果的に占いがあたったのだろう。とても疲れた。その後は、風呂に入って眠ったのだった。明日はもう少しいい日であってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 ジリジリと2つの目覚ましが、壁越しに響く。今日も天気がいいな。俺は朝食の準備の為にリビングに向かう。いつもの習慣でつけたテレビはワールドカップの結果を映している。おや、日本は負けてしまったようだ。

 

 ラッキーアイテムの唐揚げを手に、俺は今日も電車に揺れる。周囲の話題はワールドカップの勝敗についてが多かった。おそらく教室でも同じだろう。憂鬱だ。案の定教室内はその話題持ちきりだった。こっそりとため息を吐く。早く授業にならないだろうか。言っても仕方ないと、机に伏せて時間を潰すのだった。

 

 ずっしりと書かれた板書を書き写し、締めの挨拶を始める教師。静寂な時間と共に午前の授業が終った。騒がしくなる教室、仕方ないと諦めながら昼食を食べる。…ラッキーアイテム、なくなったな。…まあ、なんとかなるだろう。

 そんな気を抜いたのがダメだったのか。なんか梓川がまた話題になっているんだが。彼奴は何をしたんだ。桜島先輩の他に後輩に手を出したとか、信じられん話が舞い込んでくるんだが。あれか、その星の元に生まれているのか?梓川に聞きたいところだが、彼奴は今日のアルバイトを休んだ。明日聞くしかないだろうな。

 

「大介、あの梓川だっけ、また何か起こしたの?」

「…ああ、俺も詳しくは知らんがそうみたいだな」

「…節操ないねー」

「まったくだ。あれほど先輩、先輩と言っていたのにな」

「ハハ、そこは大丈夫だと思うけど」

「…のどか、詳しいな。…まあ、心配はしてない」

 SNSにそんなに詳しく載っていたのなら少し心配だな。だが、それはそれとして、素直に感心した。のどかがSNSに対して進んで関わろうとしていることにだ。無理に関わる必要はけしてないが、これからを見た時にのどかを助けてもくれるはずだ。桜島先輩との繋がりもあるしな。

 

「大介は何か動くの?」

「…いや、梓川に頼られたのなら考えるが、今は動く時ではないな」

「……」

「なんだ」

 ジーと俺を見つめるのどか。尋ね返すと「別に」とそっぽを向いてしまう。どうやら満足の行く回答ではなかったらしい。まあ、情報収集くらいはしようか。…国見に聞けばわかるだろ。最悪はSNSか。難儀な時代だな。危ない写真もすぐに出回る。ちょっとした正義感で注意したが、効果は薄いだろうしな。兎も角、今の時代、投稿するのも気をつけようって事だな。……国見と会えるのは月曜日か。今週の土日はアルバイト入れてないからな。いや、特別授業の週か。早く寝ておくか。

「…俺は寝るぞ」

「…うん、私も」

 それぞれ「お休み」と言い合って、部屋に入る。明日は土曜日、澄子さんが夕ご飯をご馳走してくれると言っていた。予定は特にないが、小腹を空かせて置くべきだろうか。よし、さっさと寝よう。

 

 

 

 ジリジリと目覚ましが、うるさく響く。今日も天気がいいな。俺は朝食の準備の為にリビングに向かう。今日は夕ご飯の為に少なめでも良いだろう。…のどかはまだ寝ているか。湯を沸かしながらテレビに映る、ニュースを眺める。

 

『おはようございます。今日は、6月28日。土曜日です。驚きのニュースからお伝えしたいと思います』

 民家から1千万円の札束が出てきたと、男性アナウンサーの声を聞きながら俺はスクランブルエッグを作るのだった。

 

「よし、わりかし上手く出来たな。…起きてこないか。土曜日は目覚まし切ってんだったか。まあ、寝かせといてもいいか」

 1人、出来上がった朝食を食べる。前世では1人暮らしが長かったお陰で、最低限の家事はできる。ただ、いかんせん自分で作ると上手く感じない。味見しろと散々言われているが、辛い甘いみたいな極端なの以外はあんまり感じない。味覚障害と言うよりも、面倒、微調整しても分からないんだよな。のどかがそこら辺を手伝ってくれたらいいが、全然手伝わないしなあ。

「……おはよう」

「…おはよ、フライパンに残ってるの適当に食べてくれ」

 寝坊助登場である。部屋に戻った後で何やってたかは知らないが、夜更かししてたっぽいな。美肌に悪いんじゃないのか?

「…辛」

「…胡椒多かったか?」

「多すぎる」

 そう言って、のどかはスクランブルエッグを乗せたパンをかじる。その食べ方なら、そこまで胡椒気にならないだろ。

「大介、今日は澄子さんの家よね」

「ああ、夕方には集合だな。午前は特別授業で学校だ。昼はてきとうに過ごすが、のどかはどうするんだ?」

「…家だけど?出たら危ないし」

「…お前、フード被って外出てるの知ってるからな」

「……」

「…お前が良いなら止めないが、気をつけろよ」

「…わかってるわよ」

 そっぽを向くのどか。反省してほしいわけじゃないが気をつけてほしいものだ。もしものどかを知っている人に、出会ったら面倒くさいことになる。聞いているお嬢様学校も、凄く遠くにあるわけではない。出会う事も零じゃない。ただ、それでのどかを拘束したいわけではない。将来は外でも自由に歩けると良いと思う。現状は何も浮かんでないがな。

「兎も角、夕方集合な。俺は学校が終わったら、少し買い出しに行ってくる」

「なんの」

「筆記用具とか」

「…じゃあ、──買ってきて」

「──か?…まあ、良いが」

 珍しいのどかの頼みごと。何に使うかは分かるが、どうするのやら。

 

 了承した俺は「行ってくる」と、家を出た。ここの所、梅雨の時期には珍しい晴れ。だが、湿度は高いため少しベタッとする。今年の夏は暑くなる様な事を言っていた気がする。エアコンがきちんと動くか確かめる必要があるな。去年はそれで暑い日に大変だった。

「…ん、あれは国見か。丁度良いか」

「─お、宍道じゃないか。朝早いな」

「お互いさまだ」

「ハハ、かもな。…なんか聞きたそうだな」

 こちらを見る国見は、良くこちらの事を気づいてくれる。そこは素直に褒められる所だ。

「ああ、梓川の噂は知っているか?」

「……んーなんかあったっけ?」

「…知らないなら良い」

「なんだよ、気になるだろ」

「……割とセンシティブな話題だ」

「えー、てかなんで宍道は知ってんだ?」

「…SNSで載ってたとか」

「…SNSで?」

「……勘違いか?」

「…どーだろ、けど、真に受けるのは止めた方が良いぜ。宍道はその辺り疎いし」

 そう言って、国見は軽くハハと笑った。それからはこれと言って面白い話はなく、ただ登校するだけだった。

 国見と昇降口で別れたあと、午前だけの授業を終えた所だ。さて、当てが外れてしまった影響で当初の予定が狂ってしまった。もうこのまま不干渉でもいい気がしてくる。それに教室で見た梓川の雰囲気はなんとも言えないが普通そうだった。ただ上里に絡まれていたが。もう、SNSのがデマだったと割り切るか。そんな気持ちだった。と言うか、俺も電車でそれっぽいのを探した。惜しいのはあったが、見つからなかった。なら、昨日流れたのは何だったのか、それは気になるが…もう1人だけ手掛かりを当たってみるか。そう決めた俺はさっそく物理実験室に向かう。

 

 階段を降りて、少し歩いた先にある教室にたどり着く。ピシャリと閉じられたその扉をコンコンコンとノックする。そして、返事を待たずに入室する。目的の人物は幸い登校していた。

「…いたか、双葉」

「………」

 俺はコーヒーカップを片手にこちらを睨む、双葉理央を見つけた。恨み節を聞いても良いが、今日はすぐに本題に入った。

「ちょっと聞きたい事がある。梓川の件なんだが」

「…………それか、…はぁ、梓川と言い、私の知り合いはなんで返事を待たない」

「何だ、返事を返す気はあったのか」

「何だと思われているんだ私は」

「…煩わしいからと無視すると思っているが」

「…正解だ、だからさっさと出てけ」

 面倒くさそうに、こちらに向けて手を払う。

「それで、梓川の噂について聞いているか?」

「…無視か。…今朝、本人から詰みの宣言があった」

「…罪?」

「……詰み、桜島先輩との間に取り返しのつかない何かをしたわけ。そして、それをどうにかできる機会を逃した」

「それで詰みか。なんとなくわかった。ありがとう」

「はあ、国見みたいに察しが良くないとやっていけないぞ」

「すまん、その辺りは昔から苦手なんだ」

 再度、礼を言って俺は物理実験室をあとにした。双葉から貰った情報から見て、梓川がやはり面倒くさい状況なのはわかった。それにしては本人は普通そうだったが、やせ我慢だろうか?とりあえず、今日聞いておきたい事は聞けた。買い物して帰ろう。学校から電車に揺られ、藤沢駅に着く。そして、近くの100均に寄る。俺はシャーペンとファイルを購入し、のどかに頼まれていた──を選んで購入する。これによって何かが変わるのか、それは俺には分からない。だが、いい変化があればいいと思う。

 

 買物を終えた俺は、澄子さんの部屋まで寄り道せずに帰った。

「あら、帰って来たのねぇ。のどちゃんはもう中にいるわよ」

「澄子さん、今日もよろしくお願いします」

「フフ、貴方との仲じゃない。気にしないで。さ、入った入った」

 出迎えてくれた女性─黒崎澄子さん。たまにこうやって俺とのどかを招いて、御馳走を振る舞ってくれる。部屋の中はもう美味しそうな匂いが充満している。

「大介、遅かったわね」

「まあな、ちょっと急用があった」

「ふーん、あ、買ってきた?」

「ああ、後で渡す」

「…今になって大介のセンスが心配になって来た」

「まあ、そこは諦めてくれ」

「ほら、大ちゃんも椅子に座っちゃって!」

「はい」

 澄子さんは後ろから俺の背を小突く。うなずきながら俺も、のどかと机を挟んで反対側に座る。机の上にはすでにサラダが置いてある。

「そういえば、噂の方はどうなのよ」

「…面倒なことにはなっているようだが、ひとまず静観だな」

「ふーん、お姉ちゃんも大変だわ」

「…先輩今日来ていなかったと言っていたな」

「…こじれて変わるのも嫌よね」

「ん、どういう──」

「お待たせね!!」

 俺の質問を遮って、澄子さんが大皿の揚げ物を持ってくる。凄い、底が見えない。男女比1対2で食べる量ではない。だが、皿に追加でスープが足し算に参戦した。いずれは掛け算を目指すのか。ただ、澄子さんはニコニコ作っている。そう、いつも澄子さんの癖で、何でも作りすぎるのだ。

「……大介、これ何日分?」

「そうだな、4日、5日かな。良かったな」

「…はぁ、美味しいけど、連続は、ね」

 どんどん出来上がる料理を目で追いながら、今後の献立を想像する。澄子さんが作る日は、残りをパックや冷凍で詰める。だが、多いのですぐに消費しきる事はない。だから、残りが出るのだが。のどかには2日3日目から、文句が出ることが多い。

「……フー、これで全部ね!ささ、食べましょう!」

「「「いただきます」」」

 唐揚げ、エビフライ、天ぷら、肉団子、ワンタンスープ、サラダ。どれも美味しい。多い多いと文句も言うが、美味しいから俺はあまり気にしない。…しいていえば、弁当だと変な目で見られることか。

「そうだ、大ちゃん、のどちゃん。この前、友人からこれを貰ったの!」

「…水族館のチケットか?」

「どうしたのよそれ」

「フフ、じゃんけんで勝ち取ったのよ!」

「どういう状況だったの」

「店の抽選とかですらないんだな」

 相変わらず不思議な雰囲気の人である。ひとまず、そのチケットを受け取る。地味に厚さがあるなと捲ると、1枚2枚と増え続け計10枚となった。年間パス買った方が安いだろこれ。のどかもその枚数に少し引いている。これをかけてじゃんけんしてる状況は何なんだ。

「でねでね、これならのどちゃんも行けるでしょ?」

「……もしかして、そのために?」

「フフ、それはたまたまよ。でも、良いかなとは思ったわ!」

「ちょっとはカッコつけても良かったろ」

「でね、それの有効期限近いから急いでね!」

 よく見たら7月31日が期限だった。4、5回は行けと。思わずのどかの方を見る。のどかも同じ考えだったのか、こちらを向いていた。のどかは少し困った顔をしているが、チケットへ視線が動いている。行ってはみたいのか?

「まあ、大ちゃんが使い切らなくても、友達にでもあげたら良いわ」

「…そうだな」

「あ、でも、のどちゃんと一緒に1回は行ってね!」

「…どうするの」

「…どうするか」

 なんとも困ったプレゼントを貰ったものだ。

「フフ、しっかりと悩んで決めてね、そっちの方が面白いから」

「面白いって…」

「あー、もう、ひとまず夕飯食べよう」

 このチケットのことは、一旦端に置く。考えるのが疲れるからだ。のどかも同じ考えなのか、再び箸を持っている。唐揚げを掴みながら、やっぱりチケットが視界に入ってくる。水族館、今世では1度も行ったことがない。だから、あまり情景を想像できない。ただ、行かなければ澄子さんが面倒くさいのは想像できる。

「…腹を括るか」

「…そんなに嫌なの」

「ん?あー、嫌じゃない。ただ、行ったことないだけだ」

「…そうね、私もあんまり」

「…行くか?」

「行くわよ」

 チケットは残り8枚。使い切る為に動かないとな。ハハ、俺の静観は1日持たないかもな。最近は身体に引っ張られるの、活発に動いているのかもしれない。煩いのも疲れるのも好きじゃない。でも、最近は少しは良いかもしれない。

 

 

 

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