神話の時代からやってきたかのような怪物たちに翻弄される世界。
そして、神代の時代の力を取り戻すかのように超能力に目覚める人々。
そんな中で特異な力に目覚め、平穏を求める男の一節である。
ビルの建ち並ぶ平和な都市の上空、ガラスの割れるような音がして空が割れる。
翼のある巨人が現れ、割れた空にかけられた坂道を魔物の大群が駆け降りる。
そう魔物だ。
ゴブリンを始めとした様々なファンタジーの魔物達。
空にはグリフォンやワイバーンといった空を飛ぶ有名な魔物達が覆いつくす。
街の人々は悲鳴を上げながら逃げ惑い、普通の警官達が避難誘導をする。
ヘルメットを被り大盾を構えた警官達が壁を作り炎や雷といった超能力が押し寄せてくる魔物達を焼く。
通常の警官達も銃で援護しているようだが効果は薄い。
狼、猪、熊といった魔獣型の魔物達は小さなものはバイク並み、大きなものはバスくらいの大きさだ。
それが時速60キロ以上のスピードで走ってくるのだ銃弾如きではパワーが足りない。
そんな様子を下目に家屋の屋根の上やビルの屋上を飛んで移動する5人一組の少女達が数百組。
当然、そんな派手な移動の仕方をしていれば避難している人や警察の目につく。
スマホを向けて写真や動画を撮る者や制止しようとする警官。
だが、今この場で存在するのは力による法である。
盾を構えた警察隊の前に群がる魔物達が、目に見える程の勢いで吹きあがる竜巻に呑み込まれ。
軽自動車ほどもある魔獣が木の葉のように宙に打ち上げられる。
武装したゴブリンの群れが氷に包まれて砕け散る。
それほどまでに隔絶した力を持つ少女達を誰が止めらるだろう。
空を見上げれば乗りやすいように装飾を施された杖や箒にまたがった魔女や靴や服に光る羽を生やした魔法少女とか言いようのない衣装を纏った少女達がワイバーンやグリフォンといった空を飛ぶ魔獣と激しい空中戦を行っていた。
マシンガンの如く撃ち出される炎の矢や雷が空を染め上げ巨大な火球が空で弾ける様子は、まるで花火だ。
その現実味の薄い光景に「すげぇ、弾幕だ」と言いながら避難を忘れてスマホを向ける一般人が警察に引っ張られていく様子が各所で見受けられるようになった頃。
ひび割れた空まで辿り着いた攻撃隊が攻撃を始める。
それは、神話が如きという表現が最も近い。
炎を纏い数十メートル延びた炎の刃が敵陣を薙ぎ払い、雷を纏った仏法の法具のような武器が戦場を自在に飛び回る。
放たれる矢は光を纏い、もはやレーザービームにしか見えない。
光で構成された剣や槍が飛び交い、輝く光の盾が少女達を守るように展開される。
天を覆うかのように巨大化した剣と槌が翼ある巨人を叩き落とし、ビルごと切り裂く。
あまりに隔絶した彼女らが去っていくのを一般市民は、ただ見送ることしかできなかった。
『日本政府は、未だに彼女らを目的の判らない謎の武装勢力であるとし、関与を否定しています。
これにアメリカ、ロシア、中国など広い国土を持ち怪物からの侵略で大きな被害を受けている大国が戦力の不当な隠蔽であると非難しており・・・・』
カタンカタンと電車の音と振動が響き、国道が近いため車の音もひっきりなしに聞こえてくるような賃料の少し安いアパートの中で今日のニュースが視聴者提供の動画と共に流されている。
何処にでもある光景の中でノートを片手に持ち重ねるような感じでホログラムウィンドウを超能力で展開している30代くらいの男性がステータス画面を見ながら唸っている。
「うーん耐久を考えるとイージスさんやアンキレーさんとかのタンクは、それぞれのパーティに必要だし・・・。
広域にバフをバラまけるギャラルさんは敵対心を集めすぎるからなぁ。
マンダウさんを専属で護衛につけるか、雑魚狩りのパーティだと楽器系でバフ入れて槍系の広域で薙ぎ払うだけで大体片付くんだけどなぁ」
本日分のガチャを引き終わり、素材を魔剣鍛造の工房に突っ込んで自動作成をオンにした男は今日のレイドの結果を見ながら編成に頭を悩ませる。
悩ませつつも数百人に及ぶレイドに参加した武器娘達に労いのメールを打ち込んでいるのだから激務と言って良い程の作業量である。
「ごすじん、ご飯ができましたよー。
休憩しましょう」
台所スペースから、ご飯、焼き魚、みそ汁といった極スタンダートな食事を持った少女が現れる。
茶髪のくせっ毛、太い眉毛、美人というより愛嬌がある感じの少女だ。
「あったぬ子さん。ありがとー今日も美味しそうだね」
男は朗らかに返事を返すと食事を取るために食卓へと移動する。
「たいへんそうっすね。妖精郷や高天原、仙界へ行って皆を集めて挨拶した方が速いんじゃないっすか?」
そう問いかける割烹着姿の少女に対して口に含んだ米をみそ汁で流し込んでから男は答える。
「妖精郷で、それやって一週間くらい帰って来れなかった俺の話する?」
「草薙さんとかと一緒に来てもらえば済む話じゃないっすか」
ごくごくとみそ汁を飲み干した男が椀を突き出しながら答える。
「おかわり、それ監禁場所が高天原に変わるだけだよね。
ここなら、ある程度たぬ子さんがどうにかしてくれるし」
「和尚と三日間セッションバトルをして負けた狸が材料の楽器に何を期待してるっすか私、Rランクっすよ」
「大丈夫だって知名度は神話級なんだから補正入ってるでしょ」
新しく注いだみそ汁を渡しつつ額を寄せて少女は抗議する。
「グルトガングさんやミョルニルさんに睨まれるのは怖いんすよ!!」
「俺はね、英雄とかハーレム王とかに成りたい訳じゃないの普通に働いてスーパーで安いお菓子買って、それを食べながらゲームしたり漫画読めればそれで良い訳よ」
「ごすじんのソレ、もう国とかにはバレてますよ。
天沼矛さんが居なかったら戦争になっていましたよ」
それを言われて、バツの悪そうな顔をした男は少女に尋ねる。
「アプリには引いたり生産したガチャ分の人数しか表示されないし管理されてないから一万人くらいだけどホームの人口ってどれくらい増えていたかな?」
「ミズガルズ、桃源郷、シルバルバーなんかに海外からの避難民が合わせて一億人くらいっすかねぇ。
盤古さんとかヨルムンガンドさんならもっと詳しく知ってるんじゃないかな」
それを聞いて苦いものを食べさせられたような顔をした男が言う。
「襲撃による死者は世界で10億に届くって話だけど、さすがにその人数はなぁ・・・・」
「まぁ、凄い事になってるっすね。
中国では美しい仙女に助けられて桃源郷に招かれるとか向こうの国の上層部が嫉妬で狂いそうになってるとか。
ヨーロッパ系だと美しい戦乙女に勇敢に戦った戦士が救われてヴァルハラへ招かれたとか。
まぁ、避難民にスマホとか制限して無いから速攻で・・・」
『世界各地で聖地を巡る暴動が加速化しており・・・』
頭を抱える男の後ろではニュースが無常な世界情勢を流し続けていた。
「平穏が欲しい」
「いっそ世界征服でも目指してみてはどうすか」
「みんな、ノリノリでやりそうだから止めて」
安アパートの一角で今日も世界は回り続けていた。