「ダメだな」
目の前の悪魔が「透明化」の文字に赤線を引く。
「田中。もう少し能力捻らないと、採用されないぞ」
「はい……」
「もう時間はないんだからな」
悪魔の姿をした担任の須藤に軽く説教される。
ここはヴィランスクール。将来、ヒーローと戦う敵を育てる所だ。
この世界とは別の世界。地球と呼ばれる惑星でヒーローとヴィランと呼ばれる存在は毎週戦っている。
表向きは正義と悪の熾烈なぶつかり合い。しかし、裏では協定を結んでいる。
いわばエンターテインメントとしての戦いを演出している。。
ヴィランスクールは文字通り
そして俺達、3年生の課題。
それは地球へヴィランを派遣する企業に採用されるよう、能力を考えることだ。
採用されるには今までのヴィランにはない能力が要求される。
18歳になれば、俺たちは能力を作る力を失いただの一般人になってしまう。
それまでに採用されなければいけないのだ。
思いふけっていると、胴体が人間でティラノサウルスの顔をした奴が近づいてくる。友達の竹ノ内だ。
「どうだった?」
俺の質問に竹ノ内はブンブンと手を振る。案の定ダメだったか。
「ちなみに能力はなんにしたんだ」
「一兆度の炎を操る能力。炎系は被るっていうけど、温度高けりゃいけるんじゃねと思ったんだけどなー」
竹ノ内の言う通り炎系の能力は人気が高く、高倍率だ。シンプルに分かりやすく、戦え映えする。
そもそも一兆度の炎なんかヒーローどころか世界がヤバいと思う。俺がスドセンの立場だったら絶対に止めている。
「女だったらエロ売りできるかもしれねーけどなぁ~。巨乳の女に産まれたかったわ」
「おい、今はエロ売りでもきびいらしいぞ」
「マジで?」
「能力と一緒で飽和してんだよ。似たようなことをしているやつらばっかで、売れてるのは最初にブームを作ったやつか、よほどセンスのあるやつだけってさ」
「キビい世の中だなぁ」
「あー、ここまで来たらオレヒーローになりてぇわ」
竹ノ内はあくびをしながら、ふと竹ノ内がつぶやいた。その言葉が俺の脳裏に電撃を走らせる。
……ヒーローになる?そうか……その手があったか……!!
1週間後。ヴィラン就職指導で俺はこの能力を提出した。紙を見るなりスドセンは驚いた表情をする。そして、プルプルと体を震わせた。
「オオ……!!田中!コイツは新しい!新しいぞ!お前なら次の内定待ったなしだ!」
俺の肩を叩きながら、号泣するスドセン。悪魔の目にも涙。
竹ノ内の言葉のおかげだ。今度あいつになんかおごってやるか。
そして数か月後。俺は無事ヴィラン連合に就職することができた。
会社にある世界を繋ぐゲートへ飛び込む。
青く輝く空。ここが地球か……!!
「来たな、ヴィラン達!」
俺たちヴィランが大勢いるように、ヒーローにも多くの存在がいるらしい。今週の相手は動物の力を使って戦う五人一組のチーム、アニマルジャーだ。
「新入り、お前の力を見せてやれ!」
「はいっ!」
先輩に命令されて俺は前に出る。
「ハァァァァァァ……」
俺が気を溜めながら念じると大きな音とともに一つのカバンが現れた。
「カバン……?」
「な、なにをするつもりだ……?」
アニマルジャーは驚きを隠せないようだ。これからもっと脅かしてやるぜ。
俺はカバンからヒーローが着ているのと同じようなスーツを取り出し、それを身に着ける。
「さぁ、こい!」
これが俺の能力『ヴィランを裏切りヒーローの側につく能力』だ!
少しの沈黙。そして─。
「こんの裏切りもんがぁぁぁぁ!」
「ヴィランが俺らのところ入ってくんじゃねぇ!」
正義と悪の拳を受け、俺の視界は真っ暗になった。
爆発が飛び交う荒野。そこから離れたところに俺は放置されていた。ヒーローからもヴィランからもボコボコに殴られた跡が痛む。
澄んだ青空を眺めながら俺は考えていた。
ヴィランに憧れて学校入ったのに、いつの間にか就職する為に能力を考えてた気がする。俺は途中から何を目指していたんだ……?
頭の中で思考がぐるぐるまわること数分。問題は山積みだが、一つだけ結論に達した事があった。
とりあえずヴィラン、やめるか……。