ちいかわ島編(セイレーン編)の続編小説です。御高覧戴ければ幸甚です。

1 / 1
第1話

 

 ちいかわ大戦争

 

 原作・原案:ナガノ (https://x.com/ngnchiikawa)

 

 文:VIA MEDIA (https://x.com/viamedia0)

 

++++++++++

 

 秋分から一月ほど経った、のどかな日。

 

 草原の丸太で、ちいかわとハチワレが寝っ転がっている。

 

 最近は湧き処の調子も良く、労働の苦労も大した事はない。二人はのんびりと空を見上げながら、アキアカネの軌道を追っていた。

 

「ねえ」

 

と、ハチワレ。

 

「最近、何も起こらなくて、のんびり続きだね」

 

「うん…」

 

と、空を見たまま、ちいかわも答える。

 

「でもさ、こんな感じばっかりつづいたら、討伐の腕もぜったいにおちるよね。先生にたのんで特訓しなくちゃ」

 

「ふふっ」

 

「どう? そろそろいっしょに特訓しない?」

 

「えっ?…」

 

 ちょっと困り顔のちいかわの顔の上を、アキアカネが一匹、スーッと通り過ぎて行った。

 

「あ、そう言えばさ、ちょうど今頃だったかな? いや、もうちょっと暑かったかな? 島へ行った時。あれからもうだいぶ経つよねえ。十何ヶ月ぐらいかなあ… あの島、また行きたいよねえ…」

 

「うん…」

 

++++++++++

 

「ぎゃぁぁ〜〜〜っ!!」

 

 民衆が恐れ慄き、悲鳴を上げて逃げ回る。それを全く気にもせず、頭上に小さな怪物を二匹載せた巨大な怪物が、民衆を追いかけ回し、捉えて食っている。

 

 北半球の赤道付近にあるその小さな島で、突然本性をむき出しにしたかのように凶暴化したモンスターが島の集落を襲い、一気に島民の半分を殺した後、数人を食った。そしてまるで食べ飽きたと言わんばかりの様子で口の周りを血だらけにしたまま、平然とどこかに去って行った。

 

+++++++++++

 

「解せんな……」

 

 訝しげな表情で呟く労働の鎧さんの所にポシェットの鎧さんがやって来た。

 

「どうした?」

 

「いや、最近、討伐に行った連中の負傷率が上がって来ているんだ。みんな口を揃えて、モンスターが変に凶暴化し、強くなったと言っている。今日なんか、上位ランカーが一人、大怪我をして帰って来た。今、病院で治療を受けている」

 

「病院の世話になるとは珍しいな。ここの連中は大概、怪我をしてもそのまま寝ているだけで治る奴が殆どなのに」

 

「ああ、だから病院も普通は外科なんか開店休業状態で、内科で俺達の健康診断をするのが主な業務だろ。しかし最近は外科の患者が増えているそうだ」

 

「どう言う事だろうな? ……で? 怪我をした上位ランカーってのは、いつも一位のあのトップランカーか?」

 

「いや、あいつはかすり傷で済んだらしいが、相棒のナンバー2ランカーが大怪我をした。当分休養だな」

 

「なんと、あのトップもかすり傷とは言え、怪我をしたのか!?」

 

「ああ、今までのモンスターではちょっと考えられんな」

 

++++++++++

 

「よし、処置は終わった。少なくとも今日と明日は入院させておこう。いつ頃退院出来そうかは明後日判断する。目が覚めたら病室に移動させるからな」

 

と、医師の鎧さん。傍らでは看護師の鎧さんがラッコの左腕の軽い傷を処置してくれている。

 

「ありがとうございました」

 

 ラッコが医師の鎧さんと看護師の鎧さんに頭を下げた。ベッドではナンバー2ランカーの鬼の金棒使いが眠っている。

 

「しかし、お前達がここまで苦戦して怪我までするとはな。どんな奴だった?」

 

「それが、見た目はいつものモンスターと大して変わらなかったのです。それもあって油断してしまいました」

 

と、内心忸怩たる様子のラッコに対し、医師の鎧さんは、

 

「まあそうしょげるな。こいつは大怪我で済んだが、命を落とした連中もチラホラいる。何故か最近モンスターもキメラも様子が急に変わった、と生き残った連中が言っていた。今までこの病院の外科は開店休業状態だったのだが、まさかこんな時が来るとはな」

 

「……そうなんですか」

 

「とにかく上も今の事態を無視している訳じゃない。状況の把握と対策は既に開始されている。お前もここ暫くは今まで以上に注意しろよ」

 

「分かりました。ありがとうございます。では私はこれにて」

 

「ああ、お大事にな」

「お大事に」

 

 ラッコは唇を噛み締めながら二人に一礼し、処置室を後にした。

 

++++++++++

 

 秋の風がやや身にしみる。現代は昔ほど季節を感じなくなったと年配の仲間が言っていたが、今日の風すら今のラッコには辛かった。初めての完敗、仲間が負った重症、そして自分の軽症すら、ラッコのプライドをズタズタに引き裂くのには充分だったのだ。左腕に巻かれた白い包帯を一度チラリと見やり、ラッコは深く息を吐いた。

 

(あのスピード、そしてあの力。……これまでの「討伐」の常識が通用しない)

 

空を見上げると秋の澄んだ空が広がっていた。だが、その青空すらどこか禍々しく思えてくる。

 

「先生!!」

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこには刺叉を持ったハチワレと、その後で少し不安そうに立ち尽くすちいかわの姿があった。

 

「お前たち。……こんなところでどうした?」

 

「いえ、たまたまおみかけしまして、特訓のおねがいに来たんです!  最近、なんだか気がゆるんじゃってて。……って、えっ!? 先生、その腕……」

 

 ハチワレの目が、ラッコの左腕の包帯に釘付けになる。ちいかわも息を呑み、小さな口を手で覆った。あの圧倒的な強さを誇る「先生」が、怪我を負っている。二人に走った衝撃は大きかった。

 

「……大したことはない。かすり傷だ」

 

 ラッコは平静を装ってそう言ったが、その表情にはいつもの余裕がなく、険しい影が落ちている。

 

「……それで、お前達、特訓の件だが」

 

 ラッコは二人の目を真っ直ぐに見つめ返した。

 

「今日からの特訓は、これまでとは違うぞ。生半可な気持ちで臨めば、命を落とすことになるかも知れん」

 

「えっ!?……」

 

 いつもと違う凄まじい圧迫感に、ちいかわの身体が縮こまる。しかしハチワレは、刺叉を握る手にぐっと力を込め、緊張で固くなりながらも頷いた。

 

「……はい! お願いします!」

 

++++++++++

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 

 「あのこ」が二人の討伐者を捉えて自分の口中に放り込み、中途半端に口を閉じた。その隙間から二人の悲鳴が漏れる。何とか逃げ出すべく、二人は必死で「あのこ」の舌を掻きむしる。その時、

 

 スッ

 

 「あのこ」がやや口を開き気味にしたのである。それを見た二人は脱出すべく、急いで頭を外に出した。

 

 ガリッ!

 

 ブツブツッ!

 

 ポトッ! ポトッ!

 

 「あのこ」はまるで、「硬い部分はいらないよっ」とばかりにニヤッと笑うと、口の周りを血だらけにしたまま森の奥へ颯爽と帰って行った。

 

「うっ… ううっ…」

 

 仲間二人が惨殺される所を見せ付けられながら、重傷を負わされて何も出来ない討伐者のリーダー格は、折れた頭頂部の角をまたもや更に傷付けられ、頭から血、眼からは大粒の涙を流しながら、へたり込んだまま、何とか信号弾を地面に放り投げた。

 

 シューーーー

 

 狼煙が上がる。しばらくして、

 

 パタパタパタパタパタパタパタ……

 

 ドローンのプロペラ音が遠くから聞こえて来る。その音を耳にしながら、「戦犯と陰口を叩かれている」リーダー格の意識は薄らいで行った。

 

++++++++++

 

「これはもうダメだ。当分中止するしかない」

 

 深刻な表情の、労働の鎧さんが呟く。

 

「どうした? 今日は一段と深刻そうじゃないか」

 

と、ポシェットの鎧さん。

 

「ああ、もうダメだ。討伐は当分中止だな」

 

「そんなに酷いのか?」

 

「うむ、昨日討伐に行った三人組の内二人が惨殺された。一人は何とか生き残ったが、瀕死の重傷で入院した。しかもだ、殺された二人なんだが」

 

「うむ」

 

「生き残ったリーダー格の証言によれば、そのモンスター、白い大きい奴で、時々妙に懐っこい所を見せる例の奴だ。分かるか?」

 

「ああ、分かる。あいつか」

 

「そいつは、捕らえた二人を……」

 

と、労働の鎧さんは、「戦犯」の証言を語ると、

 

「最後に、まるで殺しを楽しむように二人の首を噛み切った後、笑うような顔で、口の周りを血だらけにしたまま、森の奥に消えたそうだ」

 

「!!…… 何と……」

 

「こんな状況が常態化したら、討伐は続けられんよ。今、上と協議中だ」

 

「う~む……」

 

++++++++++

 

「ヤーーーーッ!!」

「ヤーーーーッ!!」

 

 森の中の小さな広場にちいかわとハチワレの叫び声が響く。二人は刺叉を構えてラッコに突進するが、ラッコは寸前でまるで風のように二人の攻撃を躱す。次の瞬間、二人の武器は叩き落とされていた。

 

「体に無理な力が入っている! それでは相手の動きに対して即座に反応出来んぞ! もっと肩の力を抜け! 但し地面から背骨を通って頭の上まで一本のしなやかな鉄の筋金が入っているようにだけは意識するんだ!」

 

「は、はいっ……」

「………(コクッ)」

 

 ハチワレは息を切らしながらも何とか返答したが、ちいかわは肩で息をしながら無言で頷く事しか出来なかった。

 

++++++++++

 

「……………」

「……………」

 

 ここにも湧いていない。食物を求めて湧きドコロを何箇所か回ってはみたものの、二人の探索者達の前に現れるのは涸れた湧きドコロだけ。

 

「……………」

「……………」

 

 二人は無言でため息をつくと、一縷の望みを抱き、重い足を引きずるようにして次の湧きドコロに向かうのだった。

 

++++++++++

 

「よし! 今日はここまでにしょう! 二人とも本当によく頑張ったな! 感心したぞ!!」

 

 ラッコの明るい声が響く。ハチワレとちいかわは、

 

「…あ、ありがとうございました…、はあ、はあ…」

「……はっ、はっ……(コクコクッ)」

 

と、息を切らしながら頷いた。

 

「どうだ? 帰りに何か食べて行くか? 持ち帰りの食べものを買ってもいいぞ」

 

「…、あ、ありがとうございます…。はあ、はあ、…できれば、持ち帰りで…」

「……(コクコク)」

 

 ラッコは、にっこり笑うと、

 

「よしっ! じゃ、買い物だな! 車に乗れ!」

 

++++++++++

 

 ガランッ! ガランッ! ガランッ!

 

「今日はもうおしまいッ! おしまいッ! おしまいッ!」

 

 労働の鎧さんがハンドベルを振り回す。屋台の前には労働を求める者が溢れ返っているが、討伐が一時中止になった状態では、到底その要求を捌き切れるものではない。一人一人と屋台を離れて行く様子を見ながら、労働の鎧さんは溜息をつく以外になかった。

 

++++++++++

 

「はい~っ、おまたせしましたっ!」

 

 シーサーの声が店内に響く。湧きドコロが涸れたせいで、みんななけなしのお金を握りしめてラーメン「郎」に殺到していた。

 

「えと…」

 

 次の客が何も聞かれないのでコールしようとしたが、シーサーはすかさず、

 

「ごめんなさいっ! 当分コールは中止になったんですっ! ニンニクはカウンターのビンからご自由に!」

 

 その客はうなずき、静かに待機する。

 

 店の前にも店内にも大きく、「当面コールは行いません。ニンニクはカウンターの瓶のものをお使い下さい」と書いてある。しかし余りの混雑ぶりで、全ての客に浸透しているとは言い難かった。

 

「ほいっ、出来たよっ!」

 

「はいっ! おまたせしましたっ!」

 

 ラーメンの鎧さんの掛け声に応じたシーサーは、丼の高台を布巾で軽く拭くとカウンターの前の台に置いた。

 

++++++++++

 

「ここもいっぱいだね…」

 

「うん…」

 

 ため息交じりのハチワレの言葉に、ちいかわもうつむき加減で応える。「定食屋」に来た二人だったが、開店時間内に店が全ての客を到底捌き切れるとは思えない程混んでいた。

 

「…なんか、実でも探しに行こうか…」

 

「うん…」

 

++++++++++

 

「ありがとうございましたーっ!」

 

 最後の客を送り出した後、シーサーは思わずカウンターの椅子に座り込んだ。

 

「お師匠、今日もすごかったですねえ…」

 

「ああ、異常だな。ここまで混むとは…」

 

「あの、仕入れの方はだいじょうぶですか?」

 

「今の所はな。どこの問屋も大変なようだが、まだ当分の在庫は大丈夫だ。ただ、こんな状態がずっと続くとどうなるかな。混んでるのはウチだけじゃないしな」

 

「はい…」

 

++++++++++

 

「わあ、やっぱりみんな来てる」

 

「うん…」

 

 木の実が採れる場所にやって来たちいかわとハチワレだったが、同じ狙いの者が余りにも多い事に驚くしかなかった。こんな事は今までなかったのに……

 

「とにかく何とかしなきゃ。空いてるところ、探そ」

 

「うん……」

 

++++++++++

 

 ガランッ! ガランッ! ガランッ!

 

「今日はもうおしまいッ! おしまいッ! おしまいッ!」

 

 夕刻になっても労働の鎧さんはハンドベルを振り回していた。夜の採集に行くべく集まった者達は相変わらず溢れ返っている。しかし採集は元々不人気枠だったため募集も少なく、すぐに全て埋まってしまった。労働の鎧さんは暗い気持ちでハンドベルを鳴らし続けるしかなかった。

 

++++++++++

 

「なんとかとれたけど、やっぱり少ないね。実も小さいし、まだうれてないのも多いよ…」

 

「うん……」

 

「とりあえず食べよっか」

 

「うん……」

 

 ちいかわとハチワレは森の外れの所に腰を下ろし、実を食べようとした。その時、

 

「おい」

 

 振り返るとそこにいたのはモモンガである。

 

「それ、よこしな」

 

 モモンガはいつもの調子でちいかわに迫って来る。しかしちいかわ、

 

「ヤダッ!!」

 

と、涙を浮かべつつ抵抗する。流石にいつものようにしぶしぶ分けてやれる状況でもなかった。

 

「うるさいんだよ! よこせ!!」

 

 モモンガは無理やりちいかわの籠に手を突っ込んで木の実を握りしめるや、すかさず自分の口に放り込んだ。

 

「うえ~~っ!! ペッペッ! なんだこれは!? まずくて食えたもんじゃないっ!!」

 

 口の周りを真っ赤にしながら、モモンガは木の実を吐き出した。地面も赤く染まる。

 

「もっとうまいモン、よこせ!」

 

と、今度はハチワレに迫るが、ハチワレは、

 

「食べてみる? 同じだよ」

 

と淡々と言いつつ、木の実をひとつかみ、モモンガに突き出した。

 

「なんだ! それしかないのかよ! そんなモンいらねえ!!」

 

 悪態をつきながら去って行くモモンガの後ろ姿を、ちいかわもハチワレも、暗い気持ちで見送るしかなかった。

 

「……食べよっか…」

 

「…うん…」

 

 二人は淡々と木の実を口に運ぶ。いつもより遥かに不味かったが、今はどうしようもなかった。

 

++++++++++

 

「はいっ! 今日からは早い者勝ちじゃなく、抽選だよっ! ガラガラ回してねっ!」

 

 労働の鎧さんが声を張り上げる。

 

 ガラガラッ! …ポトッ

 

「はい、草むしり当たりだよっ! がんばってねっ!」

 

 草むしりは望んだ労働ではなかったのか、ガラガラを回した者の表情はやや暗かった。しかし今はそれに不満を言っているような状況ではない。軽く会釈すると、その者は草むしりの袋を受け取り、作業に向かった。

 

++++++++++

 

「フンッ! イャッ!!」

 

 森の中でラッコは一人、剣を振るっていた。現在討伐は中止されているが、鍛錬を怠る訳にはいかない。眼前に浮かぶのは相棒に瀕死の重傷を負わせたあの巨大で凶暴なモンスターの姿である。

 

「キエェェェェーーッ!!」

 

 ラッコは裂帛の気合でモンスターの幻影に必殺の一撃を食らわせた。

 

++++++++++

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 

 夜の森に採取者の悲鳴が響く。今まで安全と思われていた夜間採取のエリアにも、とうとう凶悪なモンスターが出現したのだ。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 

 採取者は折角集めた夜光体の詰まった袋を放り投げ、命からがら逃げ出して行った。

 

++++++++++

 

「よお」

 

 労働の鎧さんの所にポシェットの鎧さんがやって来た。

 

「おお、どうした?」

 

「今日の定時後、大会議室で全員を集めた会議があるそうだが、聞いてるか?」

 

「ああ、さっき聞いた。時間的にもそろそろだな」

 

「俺はもう店を片付けたよ。片付け、手伝おうか?」

 

「有り難い。なんせ毎日混んで大変なんだ」

 

「そうだろうな。討伐がないだけでこの混乱だからな」

 

「本当、参ったよ。…そう言や、昨日の晩の採取の話、聞いたか?」

 

「ああ、聞いている。どうも今回の会議の件、それが決定的に効いたようだ」

 

「やっぱりな」

 

++++++++++

 

「うん? えらくガランとしているな」

 

 鍛錬を終えたラッコは広場に戻って来た。しかし本来ならまだ暫くは屋台や露店も残っている時間帯なのに、今日は殆ど残っていない。特に鎧さん達が責任者である店は全くなかった。

 

「どうしたんだろう……」

 

++++++++++

 

「では、会議を始める」

 

 偉い鎧さんがやや重い口調で言った。

 

 ここは広場から少し離れた場所にある、古い建物の大会議室。老朽化してはいるものの、まだ充分使えるし、耐震的にも問題ない。よって、鎧さん達の事務所や会議室として使われているのである。

 

「本日の議題は、凶暴化したモンスターとキメラ、そしてそれに関係する討伐の問題だ。もうみんなも分かってくれていると思うが、最近のモンスターやキメラの状態は今まででは考えられなかったほど凶暴化、強力化しているし、それに合わせて負傷者は急増、死者も増えている。更には湧きドコロの枯渇で労働を求める者は増加の一途だが、討伐の中止でそれも捌き切れていない。混乱を少しでも緩和すべく、労働は取り敢えず抽選制にしたが、それでは根本的な解決にはならない。更には夜間採取のエリアにもとうとう昨夜モンスターが出現した。もうここまで来ると、討伐の問題を何とか解決するしかない」

 

と、ここで偉い鎧さんは言葉を一区切りし、

 

「それで検討を重ねた結果、討伐において『飛び道具』を一部解禁する事にした」

 

 ほぅーっ、と鎧さん達の間から嘆声が漏れる。

 

「それに伴って、君達にも銃器の扱いについて復習して貰うべく、この裏にある射撃場を一時的に解錠する。みんなここに来る前にはライフルの訓練を受けているから、少し復習すれば思い出せるだろう。業務として認めるから交代で取り組んでくれ。何か質問は?」

 

 はい、と、ラーメンの鎧さんが挙手した。

 

「『飛び道具』の解禁の範囲ですが、小さい連中全員に解禁するのですか? それとも免許制ですか?」

 

「免許制だ。但し、今の状況では免許取得を厳しくし過ぎると解禁にならないから、取り敢えずは討伐でソコソコ実績のある者の中から志願した者だけに取り扱いの講習とテストを実施した上で免許を与える形にする」

 

「承知しました。それで、解禁する『飛び道具』の種類は?」

 

「第一弾としては、取り扱いの容易な『手動式単発クロスボウ』だけとする。但し、アローに関しては、アローヘッドに火薬と混ぜた目潰しとか、アローの中に仕込む超強力な痺れ薬等の使用は許可する。モンスターやキメラのアウトレンジから目潰しや麻痺攻撃を仕掛けさせ、足止めした所に従来の武器でとどめを刺す、と言う構想だ」

 

「承知しました」

 

「それともう一つ、討伐には必ず三人以上で行かせる。アローを撃った後にもし上手く足止め出来なかった場合、即時に次のアローを放てるようにするためだ。三人以上なら一人がアローを外しても、残りがバックアップに入れるからな。それから安全を確保するため、ドローンはすぐ近くに待機させる事を義務付ける。また、討伐者にはGPS内蔵のドローンコントロール用腕輪を装着させる。他には?」

 

「一点確認させて下さい」

 

と、労働の鎧さん。

 

「もし、討伐に実績のある者の中からの志願者が少なかった場合は、『実績』の範囲の拡大もあり得ますか?」

 

「無論ある。余りにも使えない奴には免許は与えられんが、ある程度は背に腹は代えられん」

 

「承知しました」

 

「他には?」

 

「すみません。我々もライフルの復習、との事ですが、我々も討伐に出るのですか?」

 

と、ポシェットの鎧さん。

 

「いや、当面は考えていない、但し」

 

「はい」

 

「モンスターの凶暴化が進んだ場合、当然それは有り得る。完全にモンスターのアウトレンジに出て遠隔で確実に仕留めるためだ。クロスボウでの対応が困難になったと判断されたらそうなる可能性もある、と腹づもりだけはしておいて貰いたい」

 

「承知致しました」

 

++++++++++

 

 翌日、広場の労働の屋台にはやはり多くの者が集まっていたが、その日群衆の目を引いたのは抽選のガラガラではなく、横に設置された掲示板の張り紙だった。

 

--------------------------

1.最近のモンスターとキメラの凶暴化の状況を勘案し、

  飛び道具を一部解禁する。

 

2.解禁対象の飛び道具は、

  手動弓引き式単発型クロスボウとする。

 

3.免許を与える対象者は、討伐において一定以上の

  実績を持ち、なおかつ志願する者に限る。

 

4.志願者にはクロスボウの使用に関する講習を行い、

  なおかつテストに合格した者に免許を与える。

 

5.クロスボウのアローには強力な痺れ薬や

  目潰し入りの火薬を仕込む事を許可する。

 

6.クロスボウを使用して討伐を行う場合、

  必ず三人以上のグループで行動すること。

 

7.また、討伐者はドローンを自分を中心とした

  半径5メートルの半球の中に待機させること。

 

8.また、討伐者はGPSと通信機を内蔵した

  ドローンコントロール用腕輪を装着すること。

-------------------------ー

 

++++++++++

 

「あれっ? なんか今日はおかしいんじゃない? 労働の屋台のとなりにみんな集まってるよ」

 

「ん……」

 

 広場にやって来たハチワレとちいかわは、労働の屋台の横の掲示板に多くの者が群がっている事に気付いた。見ると、一人、また一人と、屋台に移動して鎧さんから何か紙のような物を貰っている。

 

「ヤハ!」

 

 二人が振り返るとそこにいたのはうさぎ。何となく眼の輝きが鋭い。

 

「あ、来てたの。なんか張り出されているみたいだし、見に行こうよ」

 

「ヤハ!」

「うん…」

 

++++++++++

 

「はいっ、申込用紙はこれっ。説明書きよく読んでから書いてね。嘘書いちゃダメだよ」

 

 労働の鎧さんが列を作る志願者にクロスボウ免許の申込用紙を渡す。今日は隣にポシェットの鎧さんも応援に来ていて、並ぶ志願者に申込用紙を渡していた。ポシェットの鎧さんは労働の鎧さんに、

 

「やっぱり凄い盛況だな」

 

「ああ、予想はしていたが、凄いな」

 

 二人は前を向いたまま軽く言葉を交わし、前に来た志願者二人にそれぞれ、

 

「はいっ、申込用紙はこれっ。説明書きよく読んでから書いてね。嘘書いちゃダメだよ」

「はいっ、申込用紙はこれっ。説明書きよく読んでから書いてね。嘘書いちゃダメだよ」

 

++++++++++

 

「えっ!? 飛び道具一部解禁だって!? クロスボウが使えるようになるの!? ……って、クロスボウってなに?」

 

 ハチワレが一人でノリツッコミをかます。

 

「ヤハ!」

 

 すかさずうさぎが、ボウの引き方、アローのつがえ方、構え方、撃ち方のジェスチャーを見せる。

 

「へえ! そんな武器があるんだ! 強力なの?」

 

「イィィィィィ、ヤッハー!」

 

 うさぎがぐいっと右手の親指を突き上げた。

 

「わかった! とにかく並ぼ」

 

「ヤッハ!」

「うんっ!」

 

++++++++++

 

「はいっ、申込用紙はこれっ。説明書きよく読んでから書いてね。嘘書いちゃダメだよ。……おや? おお、君達も来たのか」

 

 労働の鎧さんが三人に声をかける。

 

「こんにちは〜♪」

「ヤハ!」

「…(コクッ)」

 

「『飛び道具』志願するんだな」

 

「はいっ! 申込用紙、三人分くださいっ!」

 

 ハチワレが元気よく応えるのへ、労働の鎧さんは、

 

「じゃ、これ、三人分な。講習、頑張れよ」

 

 ポシェットの鎧さんも三人に、

 

「頑張れよ」

 

「はいっ! がんばりますっ!」

「ヤハ!」

「…(コクッ)」

 

++++++++++

 

 すぐそばに設置されたテーブルで、注意書きをゆっくり読みつつ申込用紙の記入を終えた三人は、屋台の横に設置された箱に用紙を投入すべくそちらに向かった。

 

「あれっ? 来てらしたんですか?」

 

と、やや素っ頓狂な声を上げたハチワレに振り返ったのは、なんと、くりまんじゅうである。くりまんじゅうは、

 

「……(ニヤッ)」

 

と、笑いつつ、自分の額を指した。

 

「あっ! 禁酒のマーク!」

 

 どうやらくりまんじゅうは、今回は酒を断って本気で討伐に取り組むようだ。

 

「……(ボソッ)」

 

「そうですね。今回は頑張らないと、草むしりも危なくなるかも知れませんものね」

 

と言ったハチワレに再度ニヤッと笑いかけると、くりまんじゅうは悠々と去って行った。

 

++++++++++

 

「おっ!? お前達、来てたのか」

 

「あっ! 先生!」

「ヤハ!」

「…(コクッ)」

 

 申し込みを終えて列から離れた三人の眼の前に、ラッコが立っていた。

 

「飛び道具の申込みか?」

 

「はいっ! 先生もですか?」

 

「……いや、それが、ちょっと思案中だ」

 

「えっ!? そうなんですか?」

 

「ああ、どうすべきかちょっと考えている。しかしお前達は是非使うべきだ」

 

「えっ!? は、はいっ!」

 

「討伐は当面複数メンバーで行うよう指示も出ている。それを踏まえると誰かがモンスターに飛び道具で足止めをかけ、誰かがとどめを刺す、と言うやり方は非常に有効だと思うからな」

 

「わかりましたっ! 頑張りますっ!」

 

「うむ、頑張れよ!」

 

「はいっ!」

「ヤハ!」

「…(コクッ)」

 

++++++++++

 

 自宅へ帰る車の中で、ラッコは色々と思案していた。

 

(どうする? クロスボウを使えるのは確かに有利だ。さっきあいつらに言ったように、誰かが足止め、誰かがとどめ、と言うのは非常に良い手だし、ドローンを近くに待機させるのも極めて有効だ。それに、クロスボウならドローンで飛んでいても使える。飛べないモンスターには絶対に有効だからな……)

 

 今まで剣技一筋に精進して来た己のプライドが、「飛び道具」に引っかかりを覚えていないと言えば嘘になる。しかし今はそんな事を言っている場合だろうか……

 

(……どうしたものか……)

 

++++++++++

 

 翌朝、申し込みの結果を見るべく広場にやって来た三人。

 

「えーと、85、85、87、……あ、みんな受かってるよ!」

 

と、ハチワレ。

 

「ヤハ!」

 

と、うさぎの指摘によく見ると、

 

「あれっ!? ほとんど受かってる!」

「うん…」

 

 どうやら、多少なりとも討伐の経験がある者はほぼOKのようだ。

 

「じゃ、行こっか!」

 

「ヤハ!」

「うん…」

 

++++++++++

 

 掲示板で示された場所にやって来た三人。

 

「おお、来たか」

 

と、迎えてくれた労働の鎧さんに、

 

「よろしくお願いします!」

「ヤハ!」

「うん…」

 

「85、86、87だな。じゃ、9番教室に行ってくれ」

 

「はいっ!」

「ヤハ!」

「…(コクッ)」

 

++++++++++

 

「あっ、おはようございます」

 

「ヤハ!」

「…(コクッ)」

 

と、三人が挨拶したのはくりまんじゅう。

 

「……(ニタッ)」

 

と、笑い返した額には、丸禁マークが輝く。その時扉が開き、入ってきたのはポシェットの鎧さん。

 

「では、講習を始める。この資料を一部取って、残りは後に回してくれ」

 

と、言いながら、資料の束を最前列の席に配り始めた。

 

++++++++++

 

「このクロスボウはコッキングレバーが付いているタイプだ。こうやってフットスターラップを踏んで、両手でレバーを思い切り引く。コツとしては、背中はまっすぐに伸ばしたまま、腰ではなく膝の曲げ伸ばしで引くんだ。それと、何よりも大切なのは自分の体格と体力に合った大きさとリム(※1)の強さの物を選ぶ事だ」

 

 ポシェットの鎧さんの手本で、受講者はそれぞれコッキングレバーを引く。

 

「うんっ! こうかな。力がいるなあ」

 

「うんしょっ…」

 

「ヤハッ!」

 

 ハチワレとちいかわは苦労しつつも何とか課題に取り組んでいるが、うさぎだけはアッサリとこなしている。どうも元々爆裂棍棒を使いこなしていただけに、武器の扱いには苦手意識はないようだ。

 

「ハッ!」

 

 意外なのはくりまんじゅうである。どう言う経緯を経てきたのかは分からないが、まるでかつてクロスボウを使いこなしていたかのように、淡々と課題をクリアしているのだ。

 

「よし、コッキングの説明は以上だ。引き続きアローの扱いに移る。今回、アローには目潰し入り爆薬や、強力な痺れ薬を仕込む事が許可されている。そこでだ……」

 

(※1 リム:弓の部分)

++++++++++

 

 ヒュッ!! ヒュッ!! ヒュッ!!

 

 射撃場にアローが空を切る音が響く。数人の鎧さん達が様子をじっと見守る中、背中にゼッケンを付けた志願者達はみんな真剣な表情でクロスボウの射撃練習に取り組んでいた。

 

「83番ストップ!」

 

 ポシェットの鎧さんに名指しされたゼッケン83番の志願者がはっとした様子で振り向く。

 

「その左手の位置は危険だ。先すぎる。もう少し手前の、フォアエンドの下を持て。その位置だと間違えてもうちょっと手が上にずれたらボウストリングで指が飛ぶぞ」

 

「……(コクッ)」

 

 指摘を受けた志願者はこわばった表情で頷くと、左手を下にずらし、クロスボウを構え直した。

 

 ヒュッ!!

 

「うむ、それでいい」

 

「………」

「………」

「………」

 

 85、86、87番のちいかわ達三人は、その様子を見て気を引き締め直していた。

 

「ハッ!」

 

 ヒュッ!

 

 90番くりまんじゅうはその様子を気にもせず、淡々と射撃練習を繰り返していた。

 

++++++++++

 

 一方、こちらはラーメン郎。空く時間帯ではあるものの、シーサーが客のいない店内を見回し、ラーメンの鎧さんに、

 

「お師匠、今日は比較的ヒマですね」

 

「ああ、みんなクロスボウの講習に行っているんだろう。終わったら忙しくなるぞ」

 

「ああ、そうですね」

 

「ところで、お前はクロスボウの講習、行かないのか?」

 

「え? は、はい、討伐の経験がありませんから…」

 

「そうなのか。まあ、それならこっちはこっちで頑張ろう。…あ、それとな、明日は臨時休業だから、勘違いするなよ」

 

「はい、お師匠はライフルの練習でしたね」

 

「そうだ。明日一日、みっちりやってくる。お前は明日はしっかり骨休めしておけ」

 

「はいっ、わかりましたっ」

 

++++++++++

 

「………」

 

 こちらは広場の古本屋。クロスボウが討伐用に解禁されて講習会が始まったために、やはり広場は閑散としている。しかし討伐のみならず草むしりや採取等の労働の安全を確保する事を考えれば、今回のクロスボウ解禁はやむを得ない事だ、クロスボウの解説書でも仕入れるかな、と、古本屋は思案していた。

 

++++++++++

 

「次、82番」

 

「(コクッ)」

 

 二日間の講習を終え、修了テストにも合格した翌朝。志願者達に免許証が手渡される時がやって来た。最初に講習を受けた教室に集合し、順に免許証を受け取って行く。無論、これから先も志願者は続くだろうから講習は予定されているが、今回は何と言っても初回である。免許証を渡すポシェットの鎧さんも、心なしかやや緊張した様子だ。

 

「次、84番」

 

(83番落ちたんだよな…)

 

 合格者の番号は今朝掲示板で発表されたのだから、ハチワレも83番が落ちたことは知っている。全員が合格する訳ではない事は充分承知していながらも、こうして実際の篩分けを目の当たりにすると、自分達三人が全員合格した事には安堵するものの、実際は自分達だって「抜群の成績」で合格したのではない事は充分自覚しているだけに、心から大喜びをしている訳ではない。更にはこの先に待ち構えている激しい戦いの事を思うと、喜びよりも緊張を強く感じていた。

 

「次、85番」

 

「は、はいっ!」

 

 ガタッ! バタンッ!

 

 椅子から立ち上がったハチワレだが、緊張の余り、椅子を倒してしまった。

 

「す、すみませんっ!」

 

 真っ赤になりながら謝るハチワレに、ポシェットの鎧さんは優しく、

 

「はは、慌てなくてもいい。落ち着いて椅子を直してからこっちに来なさい」

 

「は、はいっ」

 

++++++++++

 

 全員に免許証を配り終えた後、ポシェットの鎧さんによる注意点の確認も進み、いよいよ一連の段取りの終わりであるが、ここで鎧さんが、

 

「本来は個別の成績に関してはわざわざ言う事にはなっていないのだが、本人の了承も得ているので発表する事がある」

 

 ポシェットの鎧さんの言葉に、軽い緊張が教室内に走った。

 

「今回の講習で、この教室のメンバーは、もう分かっているように八名合格した。大体の成績は全体的に似たようなものだが、一人飛び抜けた成績の者がいる」

 

 更に緊張が走る教室に向かって、鎧さんは、

 

「その志願者は90番だ。これも本人からの了承も得ているが、今後もし何か迷う事があれば、90番に質問しても良いからな」

 

 教室の注目が、最後列にいるくりまんじゅうに集まったが、本人は至って平然としていた。

 

 続けて、鎧さんは、

 

「みんな、充分注意して討伐に臨んでくれ。必ず生きて帰って来るんだぞ」

 

 教室内に一層の緊張が走った。

 

++++++++++

 

 免許証を交付され、クロスボウと大量のアロー及び薬剤、そしてGPS付きの音声認識ドローン操作腕輪の貸与を受けた三人は、無言で広場に戻って来た。うさぎだけはいつもの調子で平然としているが、ハチワレとちいかわはうつむき気味で表情もやや暗い。

 

「おお、丁度よかった」

 

「イヤハッ!」

 

 咄嗟にハチワレとちいかわが顔を上げると、そこにいるのはラッコである。

 

「あっ、先生!」

「!!」

 

「講習は終わったんだな。クロスボウとアローとドローン操作器も貰ったか」

 

「は、はい」

 

「うむ、それなら問題なしだ」

 

と、ラッコはここで一息入れ、

 

「どうだろう。よかったら力を貸してくれないか?」

 

「えっ!?」

「!!」

「ヤハッ!」

 

 驚くハチワレとちいかわ、腕を組んで泰然としているうさぎに、ラッコは、

 

「四人で組んで討伐に行くんだ」

 

「えええっ!?」

「!!!!」

「イー、ヤッハアッ♪!」

 

「よ、四人で……ですか!?」

 

 思わず裏返ったハチワレの声が、秋の静かな広場に響く。

 

「うむ。今回のモンスターは単独、あるいは即席の二人組で対応できる相手ではない。お前たちも貼り紙で見た通り、上からの通達でも『三人以上』の編成が義務付けられているはずだ」

 

 ラッコは淡々と語りながら、三人が抱えているクロスボウとアローを入れるクィヴァー(※2)に視線を落とした。

 

「クロスボウの足止め効果、ドローンによる空中からの支援、それらは極めて合理的だ。だが、遠距離からの弱体化だけではモンスターの息の根は止まらん。足止めした一瞬の隙に、肉薄して必殺の一撃を叩き込む近接戦闘力が絶対に必要になる」

 

 ラッコは自分の腰に差した剣の柄にそっと手を置いた。左腕の白い包帯が、秋の日差しの中で痛々しく映る。

 

「お前たちが目潰しや麻痺薬で動きを封じ、その隙に首を断つ。これが、現状で最も生存率が高く、確実に撃破できる最小単位の戦術ユニットだ」

 

「……っ」

 

 ちいかわは抱えたクロスボウの重みを改めて感じながら、ごくりと唾をのみ込んだ。

 

「ハハッ! ヤハッ♪」

 

 一人うさぎだけは、耳をピコピコと動かしながら、手にしたクロスボウを愛おしそうに撫で回している。戦術の理屈などどうでもいいと言わんばかりだが、ラッコの提案には全面的に賛成の構えだ。

 

「先生、ありがとうございます! いっしょけんめいがんばります!」

 

 ハチワレが深く頭を下げると、ちいかわも慌てて何度も深く頷いた。

 

「うむ。頼むぞ。……では早速だが、装備のフィッティングと、実戦を想定したフォーメーションの確認を行う。車に乗れ」

 

(※2 クィヴァー:矢筒)

++++++++++

 

 広場から少し離れた、見晴らしの良い小高い丘。ラッコの愛車のボンネットの上に、三人に配給されたクロスボウと各種アローが並べられている。

 

「これらはお前達に支給された武器の全てだ。全部出ているな?」

 

「はい」

「うん」

「ヤハ」

 

「講習で習ったと思うが、絶対に間違いがないよう、再確認しておく。まずはアローの識別からだ。間違えると致命的な事故に繋がる」

 

 ラッコが一本のアローを取り上げた。アローヘッドのすぐ後に、赤い塗料で帯が巻かれている。

 

「この赤帯が『目潰し爆薬アロー』だ。着弾時の衝撃で不発火薬と閃光粉末が炸裂する。狙うのは必ずモンスターの顔面、特に目だ。至近距離で爆発させれば物理的に視神経を破壊できるが、風下で撃つと自分たちも煙を吸う。注意しろ」

 

「はいっ!」

 

 ハチワレが三人を代表して返事をする。ちいかわは不安そうな真顔で、うさぎは真剣だが平然とした顔で頷く。

 

「そして、この黄帯が『即効性麻痺薬アロー』だ」

 

 次にラッコが掲げたアローは、先端が中空の金属針のようになっており、内部に透明な薬液が充填されている物だった。

 

「注入された瞬間に猛烈な激痛が走り、数秒で運動神経を遮断する劇薬だ。狙うのは胴体ではない。モンスターの後肢だ。四本足の怪物は、後ろ脚を一本潰されるだけで跳躍も突進もできなくなる。運動能力は実質ゼロだ」

 

「後脚、後ろ足の関節のあたりですね!」

 

「そうだ。そして、聞いているだろうが、必ずこれを着ける」

 

 ラッコが黒いシリコン製の腕輪を指さした。GPSと通信機とドローン制御モジュールが内蔵された腕輪、制式のコントロールアームバンドだ。

 

「これを手首に装着すると、頭上で待機しているドローンがお前たちの位置を常時ロストせずに追従する。緊急時にはこのボタンを押せば、ドローンから警報音が鳴り、お前達とドッキングした後に即時浮上し、本部へ救護信号が飛ぶ仕組みだ。但し」

 

 ラッコの「但し」にやや緊張した三人が息を呑んで次の言葉を待つ。

 

「もし敵に浮遊能力や飛翔能力がある場合、いきなりは飛んでくれない。森の中で低空を移動しながら脱出のチャンスを待つ事になる。それはしっかり認識しておけ。それと、ついでに言うと、ドローンはメンバー分の数が支給されるから、いざとなったら全員ドローンで脱出だ。分かったな」

 

と、いいつつ自分でも腕輪を装着したラッコに、三人は、

 

「はいっ!」

「うんっ!」

「ヤハッ!」

 

 ちいかわが少し震える手で黒い腕輪を自分の手首に装着した。冷たい金属の感触が、これから向かう戦場のリアルさを物語っている。その時ハチワレがおずおずと、

 

「あの、先生」

 

「どうした?」

 

「なんでそんなにお詳しいんですか? 先生はクロスボウの免許を申請なさらなかったのでしょ?」

 

「はは、一応知識としては知っている。勉強しておいたんだ。そうでないとお前達とは組めないからな」

 

 やや照れくさそうにラッコが苦笑した。

 

++++++++++

 

「いいか、基本陣形を叩き込む」

 

 ラッコは地面に枝で簡単な図を描いた。

 

「前衛は剣を構えてモンスターの注意を惹きつける。お前たち三人は、私の後方10メートル、左右に散開した『V字陣形』を取れ」

 

 枝先が地面の「V」の字を指す。

 

「一番手はお前だ」

 

と、ラッコがハチワレに向かって言った。

 

「お前がまず『目潰しアロー』でモンスターの視界と初動を奪え。そして」

 

 ラッコはちいかわに向かい、

 

「一番手の着弾と同時に、怯んだモンスターの後肢へ『麻痺薬アロー』を叩き込む。そして」

 

 うさぎに向かい直り、ラッコは、

 

「三番手はお前で、遊撃だ。二人の射撃が外れた場合のバックアップ、および左右からの予期せぬ奇襲を警戒しろ」

 

「ヤハッ!」

 

「モンスターの目が潰れ、足が止まったその一瞬、動きが完全に停止したタイミングで、私が一気に間合いを詰めて首を断つ。良いな?」

 

「はいっ!!」

「……(コクコクッ!)」

「イー、ヤハッ!」

 

 平然としているうさぎを横目に見ながら、ちいかわとハチワレはゴクリと息を呑み、固く結んだ拳を握りしめた。

 

++++++++++

 

 パタパタパタパタパタ……

 

 頭上で小さなドローンのプロペラ音が一定のリズムで鳴り響いている。薄暗くなり始めた森の入り口。腕輪の緑色のLEDライトが、静かに明滅していた。

 

「……来るぞ」

 

 ラッコが静かに剣を抜いた。森の奥から、湿った土を激しく踏み荒らす足音と、地鳴りのような唸り声が近づいて来る。

 

++++++++++

 

 バスゥゥゥゥッ!!!

 

 ラッコの必殺の一撃がモンスターの急所をえぐる。

 

「グワァァァァァッ!!」

 

 断末魔の叫びを上げ、モンスターは息絶えた。

 

「やった!」

「うんっ!」

「イヤハッ!」

 

 上空から聞こえて来る三人の勝ち鬨に、ラッコも上を向いて無言で笑み、右手に持った剣を突き上げた。

 

++++++++++

 

「ハアァァッ!!」

 

 バスッ!!

 

 ズーンッ!!

 

 くりまんじゅうのとどめのアローに、モンスターは無言で倒れた。

 

「うぉぉぉっ!」

「うぉぉぉっ!」

「うぉぉぉっ!」

 

 他の三人のメンバーが歓声を上げる。「四人で足止め。誰かがとどめ」を教科書のように実践したくりまんじゅうのグループは、早速一頭目のモンスターを仕留めていた。意外な事にくりまんじゅうは一番弓の強いクロスボウを平然と使っている。そこに猛毒を仕込んでいるので、強力なモンスターと言えどもひとたまりもなかった。

 

「ハッ!」

 

 くりまんじゅうは他の三人を見回すとモンスターの一部をナイフで切り取って袋に収め、ドローンを呼んだ。

 

++++++++++

 

「いや素晴らしい。クロスボウの解禁がこれほど成果を上げるとは」

 

 次々と討伐本部に入って来る戦果に、偉い鎧さんも思わず唸る。連絡係の鎧さんが、

 

「今の所、強力なモンスターは既に二十体以上退治されています。こちらの死傷者はゼロです」

 

「凄いではないか。この調子ならもう少ししたら、通常の討伐や草むしり等の安全も確保できそうだな」

 

「そうですね」

 

「但し、なあ…」

 

「はい」

 

「この件が解決したとしても、その後の飛び道具の扱いに少々悩んでいるんだ」

 

「と、おっしゃいますと、また禁止するのかどうか、ですか?」

 

「うむ、一旦解禁してしまうと、再禁止した時の反応がどうなるか。まあ、ここの小さい連中は素直だから問題はないとは思うが、一度覚えた便利な道具は、中々手放しにくい。飛び道具の密造に繋がったりするのも面白くないからな。討伐成績上位者の中の希望者だけに有料有期更新制にして、グループ行動を厳守する事を条件に部分解禁を続けるかな、とも考えている」

 

「なるほど」

 

「まあ、どっちにせよ、全て終わってからの話だな」

 

「はい」

 

++++++++++

 

「グワァァァァァァァッ!!!」

 

「うわぁーッ!!」

「うわぁーッ!!」

「うわぁーッ!!」

 

 三人組の討伐グループの悲鳴が上がる。今まで順調に討伐を続けていたのに、何故かモンスターの凶暴性が急に増加したような状態になったのだ。クロスボウによる目潰しや足止めを食らっても、何故か多少なりとも動く部分を使ってしつこく抵抗する。これでは危なくてとどめを刺せない。しかも更に不思議な事に、木や草の隙間を狙って放ったはずのアローが途中ではたかれて軌道を変えるような動きを見せた事さえあった。とどめを刺しに行ったメンバーが軽いながらも負傷したのを見た他のメンバーが緊急信号を発した。それを受信したドローンが三人を回収して帰還のルートを飛行し始める。

 

「ハァーーーーーーーーーッ!!♪」

 

 戦場を離脱し、帰還ルートを飛行する三人の耳に、聞き慣れない歌声のような音が響いた。

 

++++++++++

 

「本日、急に状況が変化しました」

 

と、連絡係の鎧さんが偉い鎧さんに告げる。

 

「どう変化したんだ?」

 

「特定の場所でモンスターの凶暴性が増加したとの報告です。いくつかのグループで軽いながらも負傷者が発生し、モンスターにとどめを刺せないまま撤退した例が数件出ました」

 

「うーむ、どう言う事だ? 特定の場所だけか?」

 

「はい、そして妙な事に、それらのグループは全て、撤退の際に奇妙な歌声のような音を聞いた、と報告しています」

 

「何だと? ドローンのボイスレコーダに残っているか?」

 

「はい、やや不鮮明ですが残っていました。再生します」

 

”ハァーーーーーーーーーッ!!♪”

 

「何だこの音は? 歌声のような、叫び声のような……」

 

「取り敢えず研究班に回して音響分析を依頼しています」

 

「分かった。何かあったらすぐに報告してくれ。それと、その危険区域は一時的に立入禁止にすべきだな」

 

「承知しました」

 

++++++++++

 

「えっ? どう言うこと? ここには討伐に行くなってことなの?」

 

 広場にやってきたハチワレ、ちいかわ、うさぎ、ラッコの四人組は掲示板の記載と張り出された地図を見て目を丸くした。

 

「うむ、昨日その区域でモンスターの凶暴性が突然増加して負傷者も出たため、当面の間、詳しい状況が判明するまでそこには行くな、と言う事のようだな」

 

 ラッコも真剣な表情で答える。そして三人に向い、

 

「予定を変えよう。今日はその区域に行くつもりだったが、別の場所にする」

 

「はいっ!」

「うんっ!」

「ヤハッ!」

 

++++++++++

 

「ん? あれは何だ?」

 

 と、広角監視カメラのモニタを見ていた鎧さんが声を発した。

 

 ちいかわ達が居住する地域からやや東に行った場所は海に面している。そこにちいかわ達が島へ向かう船に乗った船着き場もあるのだが、その北部の岬の先端には監視所兼用の灯台があり、数人の鎧さんが交代で監視業務にあたっていた。

 

 もう一人の鎧さんが窓の手前に設置された三脚付きの大きな双眼鏡を覗く。

 

「船だな。こっちに向かっている。無線は通じそうか?」

 

「いや、電波は出していないな」

 

「おっ? 何か点滅しているぞ。あれは、モールス信号のSOSだ!」

 

「えっ?」

 

「どっちにせよ、こっちに向かっている以上、多分目指しているのは船着き場だろう。本部に連絡してくれ」

 

「了解」

 

++++++++++

 

「何だと? SOSを発信しながら船がこっちに向かっているだと?」

 

 連絡係の鎧さんの報告に、偉い鎧さんは声を上げた。

 

「はい。無線は通じないようです」

 

「分かった。万が一の事があってはまずい。手の空いている者、三人ぐらいにライフルを一丁ずつ持たせ、現場へ向かわせろ」

 

「承知しました」

 

++++++++++

 

「どう言う事だろうな?」

 

と、運転している労働の鎧さん。車は無論、人間のサイズに合った本格的なオフローダーだ。

 

「分からんなあ。船って、どんな船なんだ?」

 

と、ポシェットの鎧さん。そこにラーメンの鎧さんが、

 

「それがまだかなり遠方なのではっきりとは分からんと言っていた。どっちにせよ俺達が船着き場につく頃には分かるだろう。相当船足は速いらしい」

 

++++++++++

 

「もう少しだなっ!」

 

 船のキャビンに大男の大きな声が響く。小さな船員はそれを受け、

 

「(コクコク)」

 

と、返した。それを聞いた大男は、コックピット後方にいるもう一人の大男に、

 

「おい、例の物をすぐに降ろせるよう、ドアの近くに出しておいてくれ」

 

 それを受け、その大男は、

 

「了解だど」

 

++++++++++

 

「おお、見えて来た。双眼鏡で見よう。……あれっ?」

 

 船着き場で双眼鏡を覗くポシェットの鎧さんが素っ頓狂な声を上げる。

 

「どうした?」

「どうした?」

 

「あれ、白鳥丸だぜ! ボロボロだ! 首も折れてる!」

 

「えっ!?」

「えっ!?」

 

 船着き場へ向かって高速で接近して来た船は、外装を無惨に壊された跡を、いかにも応急処置でござい、と言う感じで補修された、以前ちいかわ達も乗った事のある船、白鳥丸だった。

 

++++++++++

 

「何だと!? 船は白鳥丸だったと!?」

 

と、驚く偉い鎧さんに、連絡係の鎧さんは、

 

「はい、かなり破損が酷いようです。首も折れている、と」

 

「何と!」

 

++++++++++

 

 ボォォォーーーッ!

 

 見るも無惨な姿の白鳥丸が船着き場に到着した。三人の鎧さんは万が一に備えてライフルを構えている。

 

 ガガガガッ!

 

 悲鳴を上げてドアが開いた。

 

「急に申し訳ないっ! 島が緊急事態だっ! 助けてくれっ! 武器はこの通り持っていないっ!」

 

 両手を上げ、ドアから姿を現したのは、「味自慢」のエプロンを身に着けた男、島二郎だった。

 

++++++++++

 

「で、あんたは島からこの船で何とかやって来た、と。よくこんな状態の船で来られたもんだな」

 

と、呆れたように言う労働の鎧さんに、島二郎は、

 

「そうなんだ。今、島は大変な事になっている。力を貸してくれ。頼む」

 

と、頭を下げた。

 

「とにかくすぐに上に連絡する。この船で来たのはあんただけなのか?」

 

「いや、船員は何人か乗っている」

 

と、ここで島二郎は周囲をさっと見回し、「ちいかわ族」がいない事を確認すると、やや小さめの声で、

 

「船員は全員『小さい連中』だ。で、その他に俺の弟子が一名、乗っている」

 

「その弟子と言うのは?」

 

「見ても驚かないでくれ。元はここにいたらしい。モンスターには違いないが、間違いなく友好型だ。俺が保証する」

 

「まあとにかく呼んでくれ」

 

「ありがとう。……おーい、例の物を持って来てくれっ!」

 

「りょうかいーだどーっ!」

 

「おおっ?」

「おおっ?」

「おおっ?」

 

 三人の鎧さんは思わず身構えた。現れたのは「味自慢」のエプロンを着け、「動かない塊が一つずつ入った二つの檻」を両肩に担いた一つ眼の大男、オデだった。

 

++++++++++

 

「……と、言う状況です。とにかく檻を二つ積み、二人は車に乗せました。今そちらに向かっています」

 

と、無線で話すポシェットの鎧さんに、連絡員の鎧さんが、

 

『了解です』

 

 無線を切ったポシェットの鎧さんは、島二郎に、

 

「詳しくは本部に着いてからまとめて話してくれ。その方が一回で済むし、いいだろう」

 

「ありがとう。恩に着る。それでなんだが」

 

「どうした?」

 

「一年一ヶ月程前に、島に来てくれたこちらの住民がいて、色々と助けてもらった。八人なんだが、彼等を呼んでくれないか」

 

「その頃島に行った連中か? 沢山いたが…… ああ、そう言えば八人ほど、後から帰って来たな」

 

「それなら心当たりがあるぞ」

 

と、ラーメンの鎧さん。

 

「うちの弟子が確かその時に島に行って後の便で帰って来た。聞けば分かるはずだ」

 

「そうか。すぐに広場に呼んでもらおう。今日は店にはいないな?」

 

「いや、本人がメンテ作業を練習したいと言うので店に行かせてある。今ならいるだろう」

 

「分かった。無線で頼んで広場に連れて来てもらおう」

 

++++++++++

 

「えっ!? お師匠からですか!?」

 

 ラーメン郎にいたシーサーの所に連絡係の鎧さんがやって来て事情を告げた。

 

「そうだ。すぐに広場に行ってくれ」

 

「わかりましたっ!」

 

++++++++++

 

「おーいっ!」

 

と、広場で待つシーサーの所にやって来てラーメンの鎧さんが声をかける。すぐに労働の鎧さんもやって来た。

 

「お師匠!」

 

「急ぎの話だ。お前が前に島に行った時に一緒にいた七人を教えてくれ」

 

「えっと、それはですね」

 

と、シーサーは話し始めた。

 

「まず、討伐ランキング一位の、あの有名な方です」

 

「うむ」

 

「次は、お酒の免許を持っていて、草むしりをよくやっておられる、あの方です」

 

「うむ」

 

「それから、おそろいの刺叉を持っていて、一緒に討伐に行ったり、草むしりに行ったりしている、あのお二人と、それからそのお二人とよく一緒に行動している、元気にヤハッと笑う方です」

 

「うむ」

 

「ああ、あいつら三人ね」

 

と、労働の鎧さんも相槌を打つ。

 

「そして、古本屋さん。そこにいます」

 

と、シーサーが古本屋の露店の方を向いた。

 

「おお、古本屋か。呼ぼう。……おーい!」

 

 ラーメンの鎧さんが古本屋の方を向いて手を振る。気付いた古本屋がやって来た。

 

「悪いな。大切な用事がある。しばらく付き合ってくれ」

 

「……(コクコク)」

 

 そして、シーサーの方に向き直り、

 

「うむ。これでお前を入れて七人か。残りの一人は?」

 

「あ、あのですね、やたらとかわいこぶって、茶々をすぐに入れて、しつこく絡む…」

 

「なにっ!?」

 

と、労働の鎧さんが素っ頓狂な声を上げる。

 

「あいつか! あいつはいらんっ! あいつが来ると碌な事にならんっ!」

 

「ふっ、そうだな」

 

と、ラーメンの鎧さんも苦笑しつつ深く頷く。

 

「分かった。じゃ、すぐに残りの五人を集めよう」

 

 ここで、労働の鎧さんが、

 

「ああそう言えば三人組とトップランカーは一緒に討伐に行っている。すぐに呼び戻そう」

 

「分かった。じゃ、お前は酒飲みを呼んで来てくれ」

 

と、ラーメンの鎧さんがシーサーに言ったが、労働の鎧さんが、

 

「いや待て。たしかあいつも今討伐に行っているはずだ」

 

「あ、そうだったな。酒を断って討伐に真剣に取り組んでいるんだった」

 

「あいつもすぐに呼び戻す」

 

++++++++++

 

「よし、全員揃ったな。では本部に向かう」

 

「はいっ!」

「(コクッ)」

「ヤハッ!」

「承知した」

「カハッ!」

「は~いっ!」

「(コクッ)」

 

 労働の鎧さんに呼び戻されたハチワレ、ちいかわ、うさぎ、ラッコ、くりまんじゅうの五人は、そこにいたシーサー、古本屋と合流し、二人の鎧さんと共に本部へ向かった。

 

++++++++++

 

 七人と二人の鎧さんが本部の門をくぐった時、そこにいた人物を見て、ハチワレが素っ頓狂な声を上げる。

 

「えええっ!? 島二郎とオデ!? なんでここにいるのっ!?」

 

 残りの六人も絶句した。特にオデを知らない者は余計に驚いている。

 

 島二郎は苦笑しつつ、

 

「みんな久しぶりだなっ! いや、オデはちょっとした事情で、今は俺の弟子なんだ。それも後でまとめて話す」

 

「と、言う事だ。とにかく全員会議室に来てくれ」

 

 偉い鎧さんの言葉に、七人は、

 

「はいっ!」

「(コクッ)」

「ヤハッ!」

「承知した」

「カハッ!」

「はいっ!」

「(コクッ)」

 

++++++++++

 

 全員が会議室に入って着席した。特にちいかわ達七人の内、うさぎとラッコを除く五人はみんな緊張している。無論ラッコも内心は緊張しているのだろうが、トップランカーの矜持か、緊張よりも真剣さを醸し出していた。その時、偉い鎧さんが、

 

「緊急事態なので余計な前置きは省略し、すぐに本題を始める。島二郎君と言ったな。事情を詳しく説明してくれ」

 

 指名された島二郎は、軽く会釈すると、

 

「結論から言う。セイレーンと言うモンスターに島の住民の半分が殺された。その上、島の住居も殆ど破壊された。何とか助けて欲しい」

 

 島二郎とオデを除く全員が絶句した。島二郎は続けて、

 

「セイレーンと言うモンスターは巨大な人魚のような存在だ。元々は島にいなかったが、十九ヶ月前の春分を過ぎた頃突然島に来て、食物を要求するようになった。島民達は初めは怖がっていたが、襲われたくないので、祟り神を鎮める感覚でこわごわ食物を献上していた。だがセイレーンの不思議な歌のおかげで何故か島の作物の生育が良くなり、そのために食物も楽に供給出来るようになって、ある程度は共存していたんだ。ところが八人が島に来て我々に協力してくれた時、ちょうど十三ヶ月前の秋分の頃だったな。その一ヶ月前、今から見ると十四ヶ月ほど前だ。その頃からセイレーンは島の住民を襲うようになった。しかし島に来てくれた八人の協力もあってその時は何とかセイレーンを撃退出来たし、事実ずっと現れていなかったんだが、今から半月ぐらい前に突然また現れて食物を要求し始めた。ところがおかしな事に、今回はセイレーンの歌が作物に逆効果を現した。突然作物が次々と枯れ出したんだ。島民も訳が分からず、セイレーンに事情を話して勘弁してもらおうとしたんだが、セイレーンは『また隠してるね』とか言って突然怒り出し、島民の半分を殺しまくった挙句、何人かを食ってしまった。そのついでに運悪く船着き場にあった白鳥丸も破壊し、そのまま北へ向かって去って行った、と言う訳だ。俺とオデが島民からの連絡で集落に駆け付けた時には、もう既に全てが終わった後だったんだ」

 

 島二郎はちいかわ達が島では見た事もないような悲痛な表情で語った。

 

「話は多少前後するが、オデは元々ここに住んでいたそうだ。それがゴブリンのために魚を釣ろうと小舟に海に出て難破し、何とも驚いたが島の海岸に流れ着いたらしい。そこを俺が救助したんだが、その縁もあって、今は俺の一番弟子だ」

 

 みんなの視線が一斉にオデに集まる。オデは少々照れ臭そうだった。島二郎は続けて、

 

「もっと早く来たかったんだが、白鳥丸はこの惨状で、無線も壊された。しかも島はネットも使えない。幸い白鳥丸の機関部だけは完全に無事だったので、何とか外装を応急修理して、だましだまし何とかここまで来たんだ。それでこんなに遅くなってしまった」

 

「あの…」

 

と、ハチワレが声を漏らした。偉い鎧さんが、

 

「どうした? 何かあるのか?」

 

「は、はい。あの、前にこっちにチラシをまきに来てくれた鳥は……」

 

 それを聞いた島二郎は、

 

「ああ、あいつもセイレーンのせいで怪我をしたんだ。幸い命には別状はなかったが当分は飛べん。今、島で休養しているよ」

 

「そうだったんですか……」

 

 島二郎は引き続き、

 

「それで、島で協力してくれた時の話については、八人のみんなに直接話して貰った方が良いと考えてな、呼んで貰えるよう頼んだ、と言う訳だ。で、いまここに来てくれているのは七人だな。もう一人は?」

 

「呼ばなかったのか?」

 

と、偉い鎧さんが言った時、

 

「ああ、それは」

 

と、すかさず返答したのは労働の鎧さん。

 

「当該の者は呼んでも無意味どころか有害だと判断したので私の判断で省きました」

 

「なるほど、そう言う事か。分かった。…では七人の諸君、その時の詳しい事情を話してくれ。誰かが代表で頼む」

 

「説明します」

 

と、ラッコが偉い鎧さんの方を向いて言った。

 

「よし、頼む」

 

「あっ、そうだ。ちょっと待ってくれ」

 

と、言ったのは島二郎である。偉い鎧さんに、

 

「例の物をここに持って来てくれないか」

 

「分かった。持って来させよう」

 

と、ラーメンの鎧さんに目配せする。ラーメンの鎧さんは一礼すると会議室から出て行った。島二郎は、

 

「その時の事情を説明するのは、それを見てもらってからの方がいいと思う」

 

 間もなくして、ラーメンの鎧さんが台車を押して会議室に戻って来た。その台車を見た七人は、全員余りの驚きに、一斉に無言のまま立ち上がった。

 

「!!!」

「!!!」

「!!!」

「!!!」

「!!!」

「!!!」

「!!!」

 

 それは、体ぴったりの檻に納められた、動かないヒトハとフタバだったのだ。島二郎は、

 

「ここに来る途中、小さな島の付近を通ったんだが、そこで鎖が二本絡まった大きな流木を見つけた。衝突すると危険なのでゆっくりと回避しようとした時、鎖の先に繋がった箱のような物が海底にあると、ソナーが探知したんだ。それで一応潜ってみたら、何と、これだったって訳さ」

 

「これはどう言う事なんだ? 島民か?」

 

と、聞いた偉い鎧さんに、島二郎は、

 

「ああ、島民だ。この二人に関しては色々と経緯があるんだが、それは彼から詳しく話して貰った方が良いと思う」

 

と、ラッコの方を見た。

 

「分かった。しかしこれは死体か? だったら今ここに置き続けても……」

 

と、言いかけた偉い鎧さんに、突然ちいかわが、

 

「えと!!」

 

と、手を上げた。偉い鎧さんは、

 

「どうした? 何? 単三電池を二本持って来て欲しいだと?」

 

「(コクコク)」

 

「分かった。持って来させよう」

 

と、今度はポシェットの鎧さんの方を見る。ポシェットの鎧さんは一礼した後、速足で会議室を出て行ったが、すぐに戻って来て、

 

「単三電池だ」

 

と、ちいかわに手渡す。ちいかわはそれを受け取ると、檻の所に行き、

 

「えと! えと!」

 

と、島二郎の方を向いた。

 

「扉を開けてくれ、だと? 分かった。おい、オデ、頼む」

 

「承知だど」

 

と、オデはニヤリと笑い、その怪力で二つの檻に同時に手をかけるや、

 

 バリッ!

 バリッ!

 

と、その怪力で瞬時に扉を壊して開けてしまった。

 

 ドサッ!

 ドサッ!

 

 ヒトハとフタバか檻から転げるように出て倒れ込む。すかさずちいかわは二人の所に行き、うつ伏せにして腰蓑をめくった。

 

「おおっ!?」

「おおっ!?」

「おおっ!?」

 

 二人の尻にある蓋のような形状の物に、三人の鎧さん達が驚きの声を上げる。ちいかわは気にせず、蓋を取った。

 

「えええええっ!?」

「えええええっ!?」

「えええええっ!?」

「えええええっ!?」

「えええええっ!?」

 

 今度はもう誰の声とも分からない声が上がる。ちいかわは手に持った単三電池を素早く入れ替え、蓋を閉じた。

 

 ガバッ!!

 ガバッ!!

 

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

「うわあぁぁぁっ!!」

 

 息を吹き返したヒトハとフタバを見て、ちいかわ以外の全員が声を上げた。

 

++++++++++

 

「さて、と、君達がここにいる事情は今話した通りだ。それで、君達にも、何であんな事になっていたのか、じっくりと話して貰おうかな」

 

 偉い鎧さんの言葉に、ヒトハとフタバも恐縮して縮こまっている。そこでラッコが、

 

「とにかくこれはえらい事です。まずはこの二人にそもそもの発端と経緯を話して貰った方がよさそうですね」

 

と、言って、二人に、

 

「セイレーンとの関わりを、最初から、詳しく、全て話してくれ」

 

「(コクッ)」

「(コクッ)」

 

 ヒトハとフタバは覚悟を決めたように、顔を見合わせて頷くと、そもそもの発端と経緯を話し始めた。

 

++++++++++

 

 ヒトハとフタバの説明、ラッコとハチワレとちいかわの説明、島二郎の説明が代わる代わる続き、ついに全ての経緯が明らかになって全員に情報として共有された。偉い鎧さんは、

 

「事件の詳細はこれで明らかになった訳だな。そうなるとまず警戒すべきはセイレーンの行方だ。仮に我々が島の復旧のために協力したとしても、また島にセイレーンがやって来たら元の黙阿弥だ。どうする? 島二郎君の見解を聞きたい」

 

 島二郎が偉い鎧さんを見て、

 

「確かにその通りで、セイレーンの行方が分からん以上、中途半端に島を復旧してもまたやられるかも知れん。今の島民でセイレーンと戦うのは絶対に無理だ。やはり何か強力な武器を用意してセイレーンの襲来に備える以外はないのかな、とも思う。身も蓋もない話だが」

 

「ちょっと待って下さい」

 

と、ポシェットの鎧さん。

 

「そもそもセイレーンが前回島民を襲い始めたのは仲間の人魚が殺されて食われたからでしょう。で、その当事者、そこの二人は一度セイレーンに『犯人』だとバレて、檻に閉じ込められて海に沈められた。即ちセイレーンとしては一度復讐は果たした訳です。しかも人魚を殺す事になったそもそもの原因はセイレーンにある。だから、もし次に現れたとしても、それを筋道立てて説明したら、セイレーンも理解して、もう復讐はやめてくれるのでは?」

 

 この論理に一同が納得しかけた時、ラッコが口を開いた。

 

「いや、無駄です」

 

 全員の視線がラッコに集まる。ラッコは続けて、

 

「セイレーンには良心も慈悲もありません。あるのはモンスターとしての生存本能だけです。そもそも最初に島に来た時、結果的には歌で作物の育ちが良くなったと言うプラス面が発生したにせよ、それはあくまでも結果論による副産物であって、最初その歌が有益か有害かが分からない時点で島民に食物を要求した。更に、人魚が一匹殺されて食われた事に対しても、島民を問い詰めもせず、島民に食われたと勝手に判断して島民を無差別に襲って食いまくった。これ即ち、単にその時の生理的欲求だけで動いている何よりの証拠です」

 

 ラッコの冷徹な論理に、全員が押し黙る。その時、

 

「で、でも、先生……」

 

 涙を必死にこらえたハチワレが食い下がる。

 

「どうした」

 

「洞窟でセイレーンにおそわれた時、まちがえておそってごめんね、とあやまってくれました。真剣に話し合えばわかってくれるのでは? ……って、はっ!」

 

ハチワレは息を飲んだ。

 

”わかってもらえたんだ”

 

 かつての自分の言葉が自分に突き刺さる。ヒトハとフタバの説明で、あの「わかった」は、「犯人が分かった」の意味だったと判明している。それにもしセイレーンが「わかってくれた」のだったら、「犯人」の二人を捕らえた後、また島民を襲う筈がない、しかも食物が満足に手に入らないと言うだけで何で島民を殺して食うのだ、こう考えると、もう何も言えなかった。

 

「いや、無駄だ。お前もその様子ならもう分かっているだろう。あいつは『分かってくれない』んだよ。お前達に謝ったのは、単にその時はお前達がターゲットでなかったからだ。それだけの事だよ」

 

「は、はい、ぐすっ……」

 

 大泣きしそうになる気持ちを必死にこらえ、ハチワレは、

 

「…あ、あの時、セイレーンが、『わかった』って言ってくれたから、それを信じてしまったから……」

 

「いや、お前のせいじゃない」

 

 ラッコが拳を握り締め、苦しそうに話す。

 

「あの時、セイレーンにとどめを刺していれば、こんな事にはならなかったんだ。クソッ!……」

 

 その時だった。突然扉が開き、連絡係の鎧さんが飛び込んで来た。

 

「緊急連絡です! 危険地帯でモンスターの様子を探っていたドローンが全て撃墜されました!」

 

「何だと!?」

 

 驚く偉い鎧さんに、連絡係の鎧さんは続けて、

 

「奇妙なんですが、全機ともいきなり上から叩き落とされたような感じに、映像からは窺えました。ただ、全機が撃墜される直前に、モンスターの声が鮮明に入っていました!」

 

「聞かせろ!」

 

「はいっ!」

 

 連絡係の鎧さんが手に持ったタブレットを操作する。

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 それを聞いたちいかわ達七人とヒトハとフタバ、そして島二郎が凍り付く。その声は紛れもなく、セイレーンの歌だったのだ。

 

「そ、その歌はっ!!」

 

 最初に声を上げたのはラッコである。偉い鎧さんは、

 

「この声が歌!? どう言う事だっ!? 誰の歌なんだっ!?」

 

 ラッコが静かに口を開く。

 

「セイレーンの歌です」

 

「何いぃぃぃっ!!?」

「!!!!」

「!!!!」

「!!!!」

 

 偉い鎧さんが叫び、三人の鎧さんは絶句した。

 

「どう言う事だっ!? セイレーンがこっちに来ていると言うのかっ!?」

 

 声を震わせる偉い鎧さんに、労働の鎧さんが、

 

「そうだと思います。何となく分かって来ました。確か、セイレーンの歌は初めは作物の成長を助けていたのに、突然、成長を妨げるようになったと。…そうだな? 島二郎さん」

 

「ああ、そうだ」

 

「島の作物が枯れ始めた時期、こっちの食物湧きドコロが突然涸れ始めた時期、モンスターが凶暴化した時期が、時系列通りに並んでいる。セイレーンの歌で湧きドコロが涸れ、モンスターが凶暴化したんだ。あくまでも想像だが、セイレーンの歌は、多分春分や秋分を越すと、影響力が反転するんだろう。春分から秋分まではプラス方向、秋分から春分まではマイナス方向に作用する、と。そしてそれをセイレーンは意識していない。因みに去年の秋分以降、セイレーンがいなくなってからはどうだった?」

 

「去年の秋分以降ね…… あっ! セイレーンがいなくなってからは例年並に戻ったな。歌がなくなったからだ、とみんな思っていたので、意識していなかったが、例年並だった!」

 

「なるほど。それで今年の春分から秋分までも例年並だったのでは?」

 

「確かにその通りだ! で、セイレーンがまた現れたのは今年の秋分の後で、酷い不作、と。なるほど、そう言う事か。全て納得出来る」

 

「時系列がそうであり、そして録音のその歌。まず間違いない。どこから入って来たのかは分からんが、セイレーンは多分こちらの山の中にいる。本来は水棲モンスターなのに陸上でも活動出来るのだから、山に隠れていても不思議じゃない。島を破壊した後、こっちへやって来たんだ」

 

「それなら筋が通るな。河口から入って川を遡り、山奥のダムにでも潜んでいるのでは?」

 

と、島二郎。ここで連絡係の鎧さんが、

 

「ええ、ドローンが破壊されたのはダム湖のあたりですね」

 

 島二郎は、連絡係の鎧さんに、

 

「ドローンは森の中を探っていたのか?」

 

「そうです」

 

「なるほど。ツタで、カメラには映りにくい角度から叩き落としたのか。これもう決まりだな。なんてこった……」

 

と、島二郎が溜息を漏らす。ここで偉い鎧さんが、

 

「いずれにせよ、だ。もう放置出来ん。本格的な討伐隊を編成し、セイレーンを倒しに行かねばならん。クロスボウの強化と、銃器の解禁に踏み切る」

 

「ええっ!」

「ええっ!」

「ええっ!」

「ええっ!」

「ええっ!」

 

 偉い鎧さんが発した「銃器」と言う言葉に、あちこちから驚きの声が上がった。偉い鎧さんは、続けて、

 

「いや、本格的な討伐隊、とは言ったが、これは最早討伐のレベルではないな」

 

 全員が息を呑む。

 

「戦争だ」

 

 偉い鎧さんが発した「戦争」と言う言葉に、全員が絶句した。

 

「だから、討伐隊ではなく、戦闘隊と呼称する」

 

 ややあって、ポシェットの鎧さんがやや声を震わせ、

 

「銃器はどこまで解禁するのですか? また、クロスボウの強化とは?」

 

「銃器については、ライフルにせよショットガンにせよ、標準サイズの物は志願者諸君の体格には大き過ぎて使えないだろう。短身銃を使って貰うしかないが、短身銃の在庫は少ないから、現在のクロスボウ許可者の数は確保できない。それならクロスボウの強化で対応するのが賢明だ。電動ウインチ式連射タイプで対応しよう。短身銃は、どうしてもと言う事なら一部の銃器志願者だけに絞って許可する事になるだろうが、ただ、それも反動を考えると事実上散弾しか使えないだろうから、余り意味はないかも知れんな」

 

「承知しました」

 

「それで、島二郎君」

 

「なんだろう」

 

「君とオデ君にもセイレーンとの戦闘に協力して欲しい。頼めるか?」

 

「無論だ。出来る事なら何でもやるぜ」

 

「オデもやりますだど」

 

「ありがとう。で、島への緊急援助と白鳥丸の修理は即刻対応する」

 

「かたじけない。恩に着るよ」

 

「船の修理は早急に行わねばならんが、援助については、大規模災害時の援助に準じるレベルで良いな? それと、念には念を入れて、取り敢えず島民が使えそうな緊急用の武器も島に預ける。今は飛び道具は無理だが」

 

「充分だ。ありがとう。びんよよ程度では戦いにならんからな」

 

「では早速手配しよう。船の緊急修理が終わったら援助物資と救助のための人員を載せてすぐに島へ行って貰う。操船に関しては乗務員がいるから、君とオデ君にはここに残って貰っても問題ないな?」

 

「うむ、大丈夫だ」

 

 ここで偉い鎧さんは頷くと、連絡員の鎧さんに向かって、

 

「聞いた通りだ。全て大至急で手配してくれ」

 

「承知致しました」

 

と、連絡員の鎧さんは一礼して会議室を足早に出て行った。偉い鎧さんは向き直って、

 

「さて、本題に戻る。島二郎君とオデ君の二人には、早速銃器の扱い方の講習を受けて貰おう。で、どの銃が良いか、だが…」

 

と、ここで労働の鎧さんに向かい、

 

「やはり体格的にも、一番強力なショットガンとスラッグ弾の組み合わせだな」

 

「ええ、それが最適でしょう。すぐに手配します」

 

「頼む。それで、ここにいる諸君の中で現在クロスボウを使っているものについては、さっきも言ったように、電動ウインチ式連射タイプにバージョンアップだ。念のために他の許可者にもすぐに連絡して志願者がいれば段取りする。手配してくれ」

 

「承知しました」

 

「それでは、大体の方針も決まったようなので、すぐに実行に移る。他になにかあるか? なければ…」

 

「お待ちください」

 

と、やや強い口調で言ったのはラッコだった。ラッコは偉い鎧さんをまっすぐに見て、

 

「ショットガンの使用許可を、お願いします」

 

と、深く一礼した。その様子に思わず全員が言葉を失ったが、すぐに労働の鎧さんが、

 

「ちょっと待て。君の志は有り難いが、その体格ではショットガンでも扱うのは大変だぞ」

 

 ラッコは労働の鎧さんの顔をしっかり見ながら、

 

「先程、短身銃もあるとおっしゃいませんでしたか?」

 

「ああ、あるにはあるが、短身銃は射程距離が短い。だから近接戦闘が必須になる。更に、散弾銃では相手が強力なモンスターの場合、目潰しぐらいの効果しかないぞ。目潰しならクロスボウでもいいんじゃないか?」

 

 ラッコは、一瞬置いて、

 

「スラッグ弾なら威力は充分ですよね? それに、普段は剣で戦っています。近接戦闘は得意中の得意です」

 

「うっ! ……しかし、君の体格でスラッグ弾の反動を処理出来るか?」

 

「この一身に代えても、必ず」

 

「!!!」

 

 労働の鎧さんは驚きの余り無言になったまま、偉い鎧さんの方へ振り返った。偉い鎧さんは、

 

「いいだろう。君の志を最大限尊重したい。短身タイプのショットガンを任せる。よろしく頼む」

 

「ありがとうございます」

 

と、ラッコは深々と頭を下げた。偉い鎧さんは頷くと、改めて全体を見渡し、

 

「何か他にはないか?」

 

「おねがいしますっ! 手伝わせてくださいっ!」

 

と、言ったのはシーサーである。偉い鎧さんは、少々戸惑った様子で、

 

「い、いや、君の志はうれしいが、先程の話、君は島でも直接は戦っていないだろう。討伐の経験はあるのか?」

 

「いえ、ありませんっ! でも、給養員ならっ!」

 

「なるほど。給養員か…」

 

 今回の戦闘はこちらから戦闘隊を組んで敵地に乗り込む形だ。数日に渡る可能性もある。そのためにも給養班は必要だろう。

 

「分かった。君には給養員をやってもらおう」

 

と、言った後、ラーメンの鎧さんに向かい、

 

「段取りと手配を頼む」

 

「承知致しました」

 

 その時、古本屋が、

 

「あっ! あああっ!」

 

 ラーメンの鎧さんが古本屋に向かい、

 

「ん? 君も給養員をやってくれるのか?」

 

「ああっ!(コクコク)」

 

「分かった。よろしく頼む」

 

と、言いつつ、偉い鎧さんの方を向いた。偉い鎧さんも、

 

「頼んだぞ」

 

「ああっ!(コクコク)」

 

 ここで偉い鎧さんは、島二郎の方に向き直り、

 

「ああそれと、島二郎君」

 

「なんだろう」

 

「君に少々確認したい事がある。悪いが少々時間を貰えないか」

 

「わかった。なんでも聞いてくれ」

 

「感謝する。では後で私の執務室へ来て貰おう」

 

と、島二郎へ言った後、偉い鎧さんはまずヒトハとフタバに、

 

「君達の行動に関しては、今ここで断罪したりどうこうしたりは出来んが、少なくとも島のみんなに対して大きな責任が発生してしまった事は認めるな?」

 

「(コクッ)」

「(コクッ)」

 

「うむ、ならば、気の毒ではあるが、君達の身柄は当面我々が預かる。軟禁とまでは言わないが、GPS内蔵の取れない腕輪は着けさせて貰うからな」

 

「(コクッ)」

「(コクッ)」

 

「うむ」

 

 偉い鎧さんは二人に軽く頷くと、今度は全体に向かって、

 

「会議を終了する。全員すぐに次の段取りにかかってくれ」

 

++++++++++

 

 オデはポシェットの鎧さんに連れられ、射撃場へ向かった。その途中、

 

「あれっ!?」

 

と、声を出したのはカレーの鎧さんである。オデとカレーの鎧さんは顔を見合わせ、

 

「あああああ~~~っ!」

「あああああ~~~っ!」

 

と、互いに指差し合った。

 

「ど、どうしたっ!?」

 

と、驚くポシェットの鎧さんに、カレーの鎧さんとオデは、

 

「いや、それがな……」

「いや、それがだど…」

 

++++++++++

 

「何と、そんな事があったのか」

 

と、笑うポシェットの鎧さんに、オデは少々バツが悪そうに、

 

「そ、そう言う訳なんだど……」

 

 カレーの鎧さんも苦笑しながら、

 

「まあ、そう言う経緯なら万事承知した。しっかり頼むぞ」

 

と、オデの肩をポンと叩く。オデも笑って、

 

「しっかり頑張りますだど」

 

++++++++++

 

 ――偉い鎧さんの執務室――

 

「島二郎君、この際だから、腹を割ってざっくばらんに話し合いたい。構わんか?」

 

「無論だ」

 

「ではまず聞こう。いや、聞くまでもないかな。君は日本人だな?」

 

「そうだ。まあ、正確に言うと、元日本人、かな。本名も忘れてしまったが。…あんたもそうだな」

 

「うむ、その通りだ。……おっと、失礼した。兜を脱ごう」

 

「感謝する。……うむ、無礼な言い方で申し訳ないが、その容貌、やっぱり日本人だな」

 

「ふっ…、大した顔ではないがな」

 

「時に、その鎧兜、防護用なのか?」

 

「そうだ。ここの小さい連中は、まだ原因やメカニズムははっきりしないが突然変異でモンスター化したりキメラ化したりする。そのための用心だ。それともう一つ、小さい連中には、我々はこう言う姿だと思わせておく方が都合がいい。それも理由だ」

 

「なるほど。納得出来る」

 

「島の小さい連中は、突然変異を起こさないのか?」

 

「ああ、少なくとも俺は見た事がない。また、セイレーンは外から来たから別として、島にはモンスターもキメラもいない」

 

「そうか。参考になる。…ああそれと、君はさっき会議の時、『十三ヶ月』と言う表現を使ったな。うちの部下には『一年一ヶ月』と言ったと聞いたが、もしかして、小さい連中は『年』の概念をはっきりと意識していない事を知っていてわざと使ったのか?」

 

「その通りだ。小さい連中がいる時の言葉遣いには注意しているよ」

 

「流石だな。…では次だが、ズバリ聞こう。君は例の大災害、『カオスコスモス』の前はどうしていたのだ?」

 

「ふっ、…日本社会に馴染めなくてな。世界中を放浪していた。海外のヤクザの使い走りから始まって、ゲリラに混ざったり、傭兵までやった」

 

「なるほど、やっぱりそうだったか。…いや、ショットガンの話をした時、君は平然としていた。銃器の扱いなど朝飯前、と言う顔でな」

 

「ふっ、つい顔に出てしまうタチなんだ。お恥ずかしい」

 

「いやいや、ではもう一つ。君がいる島、あそこはパラオだな? さっき詳しく聞いたみんなの話では、太陽と月が同時期にほぼ天頂を通過するし、ブルーホールのような場所が沢山ある。日本語も普通に通じる。パラオだと分かった」

 

「そうだ。その程度はお見通しか」

 

「で、島についてもう少し聞きたい。なんであの場所にコンブが生え、ホタテガイがいるんだ?」

 

「多分カオスコスモスの結果、海流に変化があったんだろう。南極付近から冷たい水が流れて来るようになったんじゃないかな」

 

「なるほど。ガラパゴスと似たようなものか」

 

「そうだろうな。で、次はこっちからも聞こう。ここは鹿児島、志布志付近だな? 灯台と監視所は都井岬だ」

 

「その通り。ここまで来られたのだから、それぐらいは分かっていたか」

 

「ああ、そしてさっきの話、セイレーンがいると思われる場所、岩瀬ダムだ」

 

「うむ、大淀川を遡上したのだろうな。……話は変わるが、白鳥丸、中身はSMR(※3)を積んだ軍用船だな。そしてジェットフォイルのような水中翼、それも折り畳み式の物が付いているだろう」

 

「そうなんだ。カオスコスモスの後、ドサクサに紛れて手に入れた。それでこれまた何とか形だけは残ったパラオにたどり着き、島の小さい連中の内、使えそうな者だけを何人か説得して仲間にした。そいつらに運用と整備の手順を叩き込み、船を任せたんだ。外装はカムフラージュのためにあれにした。因みに、水中翼を使えば最高速は45ノットだ」

 

「なるほど。最速で飛ばせば島とここは一日半か。大したものだ」

 

「SMRと言えば、ここの電力を支えている根幹はSMRだな?」

 

「ああ、九州は早くからSMRの導入が進んだ。だからあれだけの大災害でも何とか生き残れた。…もっとも、生き残った人間は5パーセントほど。これは日本中似たようなものだ。首都圏は完全に壊滅したからな。因みに、この地域では電力は充分に足りてはいるが、小さい連中の管理の意味も含め、ハムスターの回し車のようなものを使った発電所を作って、小さい連中に仕事を与えているがな」

 

「自衛隊はどうなった?」

 

「一部は生き残った。舞鶴や佐世保、呉、大湊なんかの海自は比較的被害が少なかったし、陸自や空自も生き残った部隊はある。ただ、もう防衛の意味は殆どない。なんせ攻めてくる国家が皆無に近いし、設備の維持も大変だ。しかし万が一に備えて、連携は取られているし、残った力は温存している。幸か不幸か、『湧きドコロ』と言う現象のおかげで、ガソリンも軽油もナフサもガスも、備蓄基地に勝手に湧いている」

 

「そうなのか。それは有り難いな。島は何とかSMRで生き延びている。湧きドコロはないから石油はない。もっとも、エネルギーそのものは充分に足りているがな。…話を戻そう。政府はどうなっているんだ?」

 

「首都圏が壊滅したし、今の日本には、元の人間は多分推定で五百万人ぐらいしかいない。世界的にも似たようなものだ。だから自治体単位でまとまり、湧きドコロなども活用して何とか生き延びている。無論、SMRの導入が早かった地域は電力の心配がなかったし、食物だけではなく生活必需品の原料も湧きドコロのおかげで工場も復旧できた。なんせ工具や道具の在庫だけは日本中にまだ充分にある。それらを活用すれば、取り敢えずは身の丈に合った生き方は出来ると言う事だ」

 

「ネット回線は?」

 

「海外と繋がっている海底ケーブルは全滅したが、何故か国内の回線はほとんど生き残った。それを使って取り敢えずは日本国内で完結させている。幸か不幸か日本にもデータセンタはいくつかあったので、AIもまあまあ使えている。で、スターリンクもかなり生き残ったから、使える物は使っている、と言う程度だ。スターリンクは自治体連合会がほぼ独占しているがな。小さい連中には海外にはアクセスさせないようにしている」

 

「パラオでは結局あの島のサイズだから、今はネットがなくても何とかなっている。島外とこっそり取引をする時は、船の無線と衛星ネット通信装置を使っていた」

 

「なるほど、確かにな。…それと、衛星と言えば、GPSが生き残った事は本当に幸運だったな」

 

「そうだな。GPSが生き残ったのはまさに神の恵みだったよ」

 

「うむ…… おお、そう言えば、なんでパラオに日本語を完全に理解出来る小さい連中が発生したんだろうな」

 

「それは俺にも全く分からん。ただ、想像するに、パラオは親日国だったと言う事と、小さい連中が発生している場所はどうもペリリュー島のようだから、もしかしたらそれが関係しているのかな、と言うぐらいしか」

 

「うむ、ペリリュー島か、なるほどな…… その伝で行くと、こっちの場合、小さい連中が発生するのは高千穂峰付近だ。モンスターやキメラは宮崎市付近が発生源だ」

 

「う~む、なるほどなあ…… 高千穂峰と阿波岐原か。なんとなく分かる」

 

「大したもんだな。これだけの話で阿波岐原と分かるとは」

 

「ああ、たまたま知っていただけだがな…… それで分かった。あんた達は小さい連中とモンスターやキメラが生息する範囲が拡大しないよう、監視と管理をしている、と言う訳か」

 

「その通りだ。九州北部の自治体連合からの委託で、我々はここに常駐している。九州中部、阿蘇山を基準としてそれよりも緯度的に南部には人間の立ち入りは禁止されているんだ。生き残った人間にこんな格好をさせて住まわせる訳には行かんからな」

 

「なるほどな。で、管理の方は上手く行っているのか?」

 

「ああ、今の所は何とかなっている。ただ、ちょっと嫌な話なんだが、小さい連中とモンスターの管理には、適切なレベルの『数の維持』が必要でな」

 

「ほう、なるほどな。……数の調整か」

 

「そうだ。そしてそれに関連するが、不思議な事に、湧きドコロを維持するためには、どうも、モンスターやキメラにせよ、小さい連中にせよ、『間引き』が必要なようなんだ」

 

「なんと、そうなのか」

 

「ああ、厳しい話だが、この世界の掟のようだな。だから、だから『危険のある労働としての討伐』をやらせているのさ。それで、悲しい話だが、我々は小さい連中とは余り仲良く出来ない。情が移ったら管理出来なくなる」

 

「確かに悲しい話だな」

 

「それともう一つ、奇妙な話がある。最後の本題に直結するのだが、人間の中に、完全ではないが、この世界の超常現象に染まった奴が少数ながらいる。直接物理的に何かを動かす超能力が発生する、と言う事ではないが、精神の入れ替えのような事をやってのける『元人間』がいるようなんだ」

 

「どう言う事だ? この世界の超常現象となにか関係するのかね」

 

「まだ解明は進んでいないが、ごくわずかの数の人間が無断でこの地域に入り込み、何かおかしな霊的汚染を受けた結果、そう言う能力が発現したのかも知れん」

 

「ん? もしかして、あんた達の鎧兜は、霊的バリアでもあるのか?」

 

「よく分かったな。我々が影響されないための防護服でもあるのだよ。だからこんなスタイルなんだ。ただ、その伝で言うと、君は大丈夫なのか?」

 

「俺は多分大丈夫だと思う。逆に言うと、島でやや超人的な身体能力は得た気がしないでもないがな」

 

「ああ、セイレーンとの戦いの話を聞いてそう思ったよ。君には大切な能力だ。大事に使え」

 

「ありがとう。…で、そろそろ最後の本題にかかりそうな気がするんだが、その本題とは、この超常現象の事か?」

 

「そうだ。自治体連合会が把握している限りでは、日本国内だけではなく世界的にも小さい連中は現れていて、微妙に違いながらも、似たような形で棲息しているし、モンスターやキメラが現れている場所もある。湧きドコロも同じだ。そう言う地域とは取り敢えず情報交換して、何とか資源を活用しようとしている訳なんだが、一番の疑問は、『なんでこんなバカげた状態になったのだ?』と言う事だ。恐らくまともな物理学者なら首を括っているだろう」

 

「さもありなん、だな。…で、あんた達の見解は?」

 

「無論、誰もまともな答は出せていない。何よりも現実に対応して生き残るのが先だったからな。ただ、ある偏屈な物理学者の仮説なんだが、それが一番有力視されている」

 

「ほう、その仮説とは?」

 

「宇宙全体を含めたこの世の事象は、実は全てどこかの次元に書かれているプログラムに従って動いている、と言う説だ」

 

「う~む」

 

「で、この現象の原因は、理由は分からんが、誰かのせい、もしくは何かのきっかけで、そのプログラムに発生したバグによる結果だと言うんだ。そしてそのバグによって起こったエラーこそが、カオスコスモスの原因だった、と」

 

「なかなか興味深いな」

 

「そこでだ、この仮説に関して、君はどう思うか、よかったら見解を聞かせてくれ」

 

「見解、ね…… 見解と言うより、単なる俺の感想だが」

 

「うむ」

 

「さっきのGPSの話の時、俺は、GPSが生き残ったのは神の恵みだと思った、と言ったよな」

 

「ああ」

 

「GPSが生きていると知った時、神も仏も信じない俺だったが、その時だけは、本当に神の恵みだと思って、思わず神に感謝の祈りを捧げたんだ。全く俺自身、俺だとも思えなかったが」

 

「ほう」

 

「それと、ペリリュー島の話、高千穂峰の話、阿波岐原の話、これらを鑑みると」

 

「うむ」

 

「俺は今でも神の存在なんか信じてはいないが、もしこの世に神が存在して、神がそのプログラムをいじれるのならば」

 

「うむ」

 

「プログラムのバグがミスかわざとかは別として、神と言う存在は、もしかしてそのバグの結果を楽しんでいるんじゃないか、つまり、随分と悪いシャレが好きなんだな、と、思うな」

 

「う~む、なるほど…… いや、とても良い意見だと思う。ありがとう」

 

「いやいや、なんのなんの…… で、そっちとしては、もしその仮説通りだったとしても、現実問題としてどうしようもないから、現状に対応してやって行こうと言う訳なんだな」

 

「ああ、そうだ。一応我々はその見解を頭の常に片隅に置いて行動している。だが、君の言う通り、どんなバグやエラーがあろうとも、取り敢えずは今我々はこの状態で生きて行かねばならん。『動いている物は触るな』の精神でな」

 

「うむ、よく分かった」

 

「取り敢えずの話はこれぐらいだ。時間を取ってくれてありがとう」

 

「なんの、こちらこそ感謝する」

 

「では、銃器を任せる件だ。取り敢えずは射撃場に行ってくれるか」

 

「承知した」

 

(※3 SMR:小型モジュール型原子炉)

++++++++++

 

 ブォォォォーーーーッ!

 ブォォォォーーーーッ!

 ブォォォォーーーーッ!

 

 隊列を組んだオフローダー二台とピックアップ一台が山道を進む。とうとうセイレーンとの決戦の日になり、戦闘隊が北にあるダム湖を目指して出発したのだ。

 

 ちいかわ族については、結局会議に出た七人の他には志願者は現れず、その七人と鎧さんが四人、そして島二郎とオデの、計十三人で戦闘隊を編成したのである。

 

++++++++++

 

「……………」

 

 労働の鎧さんが運転する一号車の助手席で、背中に剣を背負い、肩にかけたショットガンを左手で抱えているラッコが、真剣な表情で前を見つめている。

 

(ドンッ!)

 

(うぐっ!! す、凄い反動だ……)

 

(大丈夫かっ!?)

 

(あ、ありがとうございます…。大丈夫です)

 

(無理はするなよ。怪我をしたら元も子もない)

 

(ええ、気を付けます)

 

 労働の鎧さんにマンツーマンで教わる射撃場での訓練は、思っていたよりも遥かに激しかったが、持ち前の勝負カンとトップランカーのプライドと意地で、何とかやり遂げた。

 

(ドンッ! ドンッ! ドンッ!)

 

(凄いじゃないか! こんな短期間で連発までこなせるようになったか!)

 

(ええ、おかげさまで。手厚いご指導、本当にありがとうございます)

 

(いやいや、君の努力と根性の賜物だよ。流石はトップランカーだ)

 

(ありがとうございます)

 

(それと、念のための確認だが、前にも言ったように、ショットガンに込められる弾は、本体に一発、マガジンに二発、計三発だ。ライフルの六発の半分しかない。くれぐれも注意しろよ)

 

(はい、うっかり弾切れにならないよう、頭に叩き込んでおきます)

 

「……………」

 

 労働の鎧さんがとても喜んで褒めてくれた。ラッコはそれを密かに誇りに思っていた。

 

++++++++++

 

「……………」

 

 後部前席右ではハチワレが支給された電動ウインチ式連射クロスボウをじっと見つめている。

 

(バスッ! ウィッン! バスッ! ウィッン!)

 

(ドスゥッ! ドスゥッ!)

 

(すごい! ボタンひとつで一瞬でコッキング! アローは五連射! それに威力が全然違うっ!!)

 

「……………」

 

 クロスボウの威力は上がったが、自分の腕が上がった訳ではない。ハチワレは背中に背負った愛用の刺股の重みも感じながらも、単発式よりはずっと重くなったクロスボウの重量感をしっかり体に刻み込んでいた。

 

++++++++++

 

「……………」

 

 ハチワレの隣のちいかわは、左手で刺叉を抱きしめ、迫り来る戦いに対する恐怖を克服しようとして懸命だった。

 

(バスッ! …ウィッン! …バスッ! …ウィッン!)

 

(ドスゥッ! ……ドスゥッ!)

 

 足元にある電動ウインチ式連射クロスボウの扱いも一通りは覚えた。単発式より随分重く感じはしたが、頑張って練習した。しかし「あの」セイレーンとまた戦うのである。恐怖は尋常ではない。

 

「……………(う、ううっ)」

 

 ちいかわは自分の心が流す涙と一所懸命戦っていた。

 

++++++++++

 

「…………♪」

 

 一方、後部後席右のうさぎは、「恐怖? なにそれおいしいの?」と言わんばかりの表情である。足元にクロスボウ、右手に爆裂棍棒、唇に微かな笑い、と全くいつもと変わらない。

 

(イーーーーッ、ヤッハーーーッ!♪)

 

(バスッ! ウィッン! バスッ! ウィッン! バスッ! ウィッン!)

 

(ドスゥッ! ドスゥッ ドスゥッ!)

 

 いつもの調子で重くなったクロスボウの連射も軽くこなす。

 

「…………♪」

 

 しかし、その記憶さえもうさぎにとっては眼の前を流れる景色と同レベルのものだった。

 

++++++++++

 

「…………(♪)」

 

 後部座席左のくりまんじゅうは、クロスボウを足元に置いているだけだ。しかし今日は何故か体の前後に振り分けられる大きなリュックを抱えている。

 

(カーーーッ!)

 

(バスッ! ウィッン! バスッ! ウィッン!)

 

(ドスゥッ! ドスゥッ)

 

 手動コッキングのクロスボウよりはかなり重いが、くりまんじゅうはポーカーフェイスで扱う。

 

「…………(♪)」

 

 窓の外を流れる景色を、くりまんじゅうはポーカーフェイスのまま平然と眺めていた。

 

++++++++++

 

 二号車はポシェットの鎧さんが運転している。助手席には島二郎が乗り、腕組みをしてじっと正面を見つめていた。後部前席左にはオデが乗っていて、これまたやや不敵な表情のまま、無言で前を見ている。

 

 二号車の後席後部はシートが倒されており、武器や弾薬が詰め込まれている。予備を考えてもかなりの点数だった。

 

 その時、ポシェットの鎧さんが、

 

「そうだ、島二郎君」

 

「なんだろう」

 

「君もオデ君も裸足だ。まあ、島でもそうだっただろうから問題はないかも知れんが、一応確認しておく。もし戦場で保護が必要なら、靴も草鞋もあるからな」

 

「ありがとう。まあ俺もオデもずっとこれだったし、俺は海の岩場でもこれで平気だったから問題ないとは思うが、もし危険だと思ったら使わせて貰うよ。……オデ、お前は大丈夫か?」

 

「全く問題ないど」

 

「聞いて貰った通りだ。もし問題がありそうならすぐに申し出る」

 

「了解だ。二人とも頑張ってくれ」

 

「ああ、任せとけ」

「任せとけだど」

 

++++++++++

 

「お師匠、みなさんのためにがんばって、力の出るごはんを作りましょうね」

 

「ああ、存分に腕をふるってくれ」

 

 隊列の三台目は給養班のピックアップだ。ラーメンの鎧さんが運転し、助手席にはシーサー、後部座席右にはカレーの鎧さん、左には古本屋が乗っている。無論、いざと言う時のためのライフル銃も二丁、載せてある。カレーの鎧さんが、古本屋に、

 

「君は結構料理が得意なようだな」

 

「ああっ(コクコク)」

 

「なるほど。他の奴の体に寄生したキノコを使ってチャーハンを作った事もあると」

 

「ああっ(コクコク)」

 

「それは頼もしい。よろしく頼むぞ」

 

「ああっ(コクコク)」

 

++++++++++

 

「くそっ! うまそうなモンはみんなカギがかかった箱の中かよっ!」

 

 ピックアップの荷台にかけられたシートの下から何やらおかしな声がする。

 

「このオリはカギがこわれてるけど、中身は道具と南京錠だけか。これじゃうまいモンが食えないだろっ!」

 

 何と、いつの間に紛れ込んだのか、モモンガが荷台に潜んでいるではないか。

 

「とにかく、うまいモンがでてきたらかたっぱしから食ってやるからなっ!」

 

++++++++++

 

 ブォォォォーーーーッ!

 ブォォォォーーーーッ!

 ブォォォォーーーーッ!

 

 戦闘隊の三台は、セイレーンとの決戦の場にさしかかろうとしていた。

 

++++++++++

 

「戦闘隊はまもなく危険区域に入ります」

 

と、連絡員の鎧さんが、通信室にやって来た偉い鎧さんに告げる。

 

「そうか。いよいよだな。……無線を繋いでくれ」

 

「了解。……こちら本部通信室、戦闘隊応答せよ」

 

『こちら一号車』

 

『こちら二号車』

 

『こちら給養班』

 

 偉い鎧さんは、マイクを受け取り、

 

「こちら本部だ。全員奮戦努力してくれ。頼んだぞ」

 

『了解』

『了解』

『了解』

 

++++++++++

 

 キッ!

 

 カチャッ!

 

 一号車の運転席側のドアが開いて労働の鎧さんが姿を現す。

 

「着いたな」

 

 眼前にはダム湖が広がっていた。

 

++++++++++

 

 ダム湖に沿った道路にある駐車スペースに車を停めた戦闘隊一行は、それぞれが武器を持ち、円陣を組んだ。労働の鎧さんが口を開く。

 

「いよいよ決戦だ。打ち合わせ通り、戦隊は分散せず、一つの集合体として行動する。ドローンは各自で管理し近くに待機させる事。最後の命綱でもあるからな」

 

 うさぎとくりまんじゅうと島二郎とオデは平然としているが、その他のメンバーはみんな緊張している。

 

「それでは作戦開始だ。まずは偵察ドローンを飛ばす。全員戦闘態勢を維持したままここで待機だ。銃とクロスボウは必ず携帯。追加の弾薬はバンダリア(※4)に満充填して身に着けておく事。アローはクィヴァーに詰め込めるだけ詰め込んで身に着けて置く事。給養班は食事の準備にかかってくれ」

 

(※4 バンダリア:弾帯)

++++++++++

 

「見つからんなあ。セイレーンどころか、モンスターの気配もない。大物どころか小物もおらんぞ」

 

 労働の鎧さんがモニタを見ながらぼやく。複数のドローンで結構長い間綿密に探しているのに、何も見つからない。そこへハチワレが、意を決したような様子で、

 

「あの…」

 

「なんだ?」

 

「いっそのこと、森の中へ探しに入ったらどうでしょう?……」

 

「いや、森の中では銃の威力が激減するんだ。木が障害物になるからな。辛抱してここで待つのが一番いい」

 

「…そ、そうですか。わかりました…」

 

 そこにシーサーが、

 

「昼ごはんができました~っ!♪ みなさん交代でどうぞ~っ!♪」

 

++++++++++

 

「交代する。メシに行ってくれ」

 

 ポシェットの鎧さんが床几に腰掛けてモニタを見詰めている労働の鎧さんの所に来て声をかけた。

 

「おお、頼む」

 

 労働の鎧さんは立ち上がり、給養班のテントに向かった。

 

++++++++++

 

「はい~っ!♪ 特製カレー大盛りでぇ~っす!♪ ごゆっくりどうぞ~っ!♪」

 

「おいおい、戦場では速メシが大原則だぞ」

 

と、苦笑する労働の鎧さんに、シーサーもややバツの悪そうな感じで、

 

「ああ~っ! そうでした~っ! ごめんなさい~っ!」

 

 元気なシーサーの様子に労働の鎧さんも思わず微笑んだ。その隣では古本屋も一所懸命にカレーをよそっている。労働の鎧さんは、古本屋に、

 

「君もがんばってくれてるようだな。助かるよ」

 

「あああっ(テレ)♪」

 

「いや、料理も味付けも上手だし、手際もいいよ。来てもらって良かった」

 

と、カレーの鎧さんもごきげんな様子である。

 

「ああっ、ああっ(テレテレ)♪」

 

 かなり照れている古本屋の様子を見ながら、労働の鎧さんは楽しげにテントを後にした。

 

++++++++++

 

「さて、と、食うか」

 

と、カレーを持ってガードレールの所にやって来た労働の鎧さんが、

 

「あ、そうだ。水忘れた」

 

と言いつつ、カレーをそっと地面に置いて給養班のテントに行くべく踵を返した時、

 

 サッ!

 

と、白い影がカレーの皿を奪って逃げ去った。

 

++++++++++

 

「あれ? カレーは?」

 

 水を持って戻って来た労働の鎧さんは、何故かカレーの皿がなくなっている事に気づいた。

 

「おかしいなあ。たしかにさっきここに置いたのに」

 

 周囲を見回し、ガードレールからの下を崖の方を見ても見当たらない。

 

「紙皿にプラスチックのスプーンだから、風で飛んで下に落ちたのか?…… でも、飯が乗っているのに、それを飛ばせるような強い風は吹いていなかったように思うが……」

 

と、呟きつつ、労働の鎧さんはやむなく再度カレーを取りに、給養班のテントへ戻るべくまた踵を返した。

 

++++++++++

 

「おお~っ! うんめぇ~~っ! さすがはあいつらの料理だな♪」

 

と、戦闘隊のいる場所から少し離れた所でカレーに舌鼓を打っているのは、何と、モモンガである。労働の鎧さんからカレーをちょろまかし、すぐに貪り始めたのだ。

 

「あいつらのまわりで待ってたら、一日三度のおまんまにはありつけるな。ああ~、ゴクラクゴクラク♪ ……さて、寝るか。ふわぁ~っ」

 

 腹一杯になったモモンガは、皿とスプーンを近くに放り出すと、今度は惰眠を貪り始めた。

 

++++++++++

 

「島の星空も綺麗だが、ここの星も綺麗だなあ……」

 

 ショットガンを脇に置き、ガードレールに腰かけて真っ暗になった夜空を見上げながら、島二郎が呟く。

 

「寒くないか?」

 

 声の方を見ると、そこにいたのはカレーの鎧さんだった。島二郎は苦笑しつつ、

 

「ああ、大丈夫だ。島の海は案外冷たいんだ。潜っている内に寒さへの耐性もついちまってな。どこへ行っても平気だよ」

 

「そうか。それなら良かった。もし何か不都合があれば言ってくれ」

 

「ありがとう。何かあればそうさせて貰うよ。…ところで、昼飯のカレーだが、あれはあんたのレシピか?」

 

「ああそうだ」

 

「絶品だったぞ。流石だな」

 

「はは、恐縮だ。…そう言えば君もカレー屋だったな」

 

「そうだ。カレーと貝汁を専門でやってる」

 

「そうか。是非賞味させて欲しいものだ」

 

「それは嬉しいね。もし島に来る事があったら是非立ち寄ってくれ。サービスさせて貰うよ」

 

「はは、ありがとう。是非頼む。……おっ、そろそろ交代の時間だな。仮眠に行ってくれ」

 

「ありがとう。そうさせて貰おうかな」

 

++++++++++

 

 翌朝になった。相変わらずセイレーンの気配もモンスターの気配も皆無である。鎧さん、島二郎、オデと言った面々は、平然と待機しているし、ラッコは超一級の剣士だから、緊張は失わず、かつ冷静である。うさぎとくりまんじゅうはいつもと全く変わらない様子だし、シーサーと古本屋は、いざとなったら身を守るためにすぐにドローンで退避するよう指示を受けているから、緊張はしているものの度合が違う。しかしハチワレとちいかわの二人だけは、緊張と恐怖に押しつぶされそうになっていた。

 

「……」

「……」

 

「大丈夫か?」

 

「あ、先生」

「……(ハッ)」

 

 二人が顔を上げると、そこにいたのはラッコである。

 

「今こそ、島で教えた事を思い出せ」

 

「えっ?」

「…(んっ?)」

 

「心を無にして、じっと地面を見て、進んだら半歩前に出るんだ。…忍耐だ(※5)」

 

「は、はいっ」

「…(コクコクッ)」

 

 緊張の極みだった二人の表情がやや柔らかくなった。

 

「うむ、それでいい。クロスボウのボウストリング(※6)もそうだろう。張りすぎても緩すぎてもダメだな。それと同じだ。気負い過ぎずに頑張れよ」

 

「は、はいっ!」

「(コクコクッ!)」

 

 その時、

 

「朝ごはんで〜すっ!♪ 交代でど〜ぞっ!♪」

 

 シーサーの元気な声である。

 

「ちょうどいい。二人で行ってこい。ここは任せておけ」

 

 微笑むラッコの言葉に更にちょっと救われた二人は、立ち上がって給養班の所に向かった。

 

(※5 引用元:https://x.com/ngnchiikawa/status/1641056058830651394)

(※6 ボウストリング:弓の弦)

++++++++++

 

「う~む、何もないなあ……」

 

 労働の鎧さんから軽いぼやきとも言える言葉が漏れる。今日も夜明けから昼前までドローンで探索を続けているが、何も見つからない。

 

「どうしよう。探索の場所を変えてみるか……」

 

「どうだ?」

 

と、やって来たのはポシェットの鎧さんである。

 

「ダメだな。何も出て来ん。小型のモンスターやキメラぐらいなら出て来ても良さそうなものなんだが」

 

「何でだろうなあ……」

 

「探索範囲を変えるかどうか、思案中だ」

 

「うむ、確かに探索範囲を替えてみるのは一つの手かも知れんな」

 

 その時、

 

「昼ごはんで〜すっ!♪ 交代でど〜ぞっ!♪」

 

と、またもやシーサーの元気な声である。それを聞いたポシェットの鎧さんが、

 

「もうこんな時間か。代わるから昼飯、行ったらどうだ?」

 

「いや、ちょっと思案したい。先に行ってくれ」

 

「分かった」

 

と、ポシェットの鎧さんは給養班のテントに向かった。

 

++++++++++

 

「おっ、今日の昼飯はラーメンか」

 

「は~い!♪ 特製外郎(そとろう)ラーメンでえ~す!♪ コールはありませんから、マシはそこの具やタレをお好きなだけどうぞ~っ!♪」

 

 シーサーの笑顔にポシェットの鎧さんも嬉しそうである。

 

「じゃ、オプションは自由にさせてもらうか」

 

「は~い!♪ どうぞ~っ!♪」

 

++++++++++

 

「確かモンスターはモンスターも食うよな…… あっ!」

 

 思案する労働の鎧さんの頭に、突然閃きが走った。鎧さんは食事後組のちいかわとハチワレに向かって、

 

「おーい、ちょっと来てくれるか」

 

 二人はすぐにやって来た。

 

「なんでしょう?」

「ンショッ?」

 

「あのな、思い出したくない話かも知れんが、大事な事だ。思い出してくれ。確か、カブトムシみたいな擬態型との絡みで、討伐に行った時、倒したモンスターを擬態型が食った事はなかったか?」

 

「えっと、それはわかりません。いっしょに討伐には行ってないので…」

 

と、ハチワレ。ちいかわはその時の事を思い出し、ちょっと泣きそうになったが、ぐっとこらえ、

 

「(コクコク)」

 

「やっぱりそうだったか。と、なると…」

 

「どうかしたんですか?」

 

「いやな、強力で凶悪なモンスターならともかく、比較的弱い奴も全く見つからないだろ。もしかして、セイレーンが全部食ってしまったんじゃないか、と思ってな」

 

「!!!」

「!!!」

 

「それで、もし食えるモンスターを食い尽くしたとしたら、その後セイレーンは何を食ってるんだろうと、考えたんだ」

 

「………」

「………」

 

++++++++++

 

 食事は交代で先組に一通り行き渡り、給養班が次の段取りを行うべくちょっとテントから離れた時だった。

 

 ササッ!

 

 またもや白い影が給養班のテントに現れた。無論モモンガである。

 

「ほぉ~っ! 今日の昼はラーメンか。コッテコテに味が濃くてコッテコテに油っこいスープだな~♪」

 

と、言いつつ、料理が置かれた台を見たが、

 

「なんだ、メンは生かよ。しかたない。スープと具だけ持って行ってやる」

 

と、台の上にあるチャーシュー、背脂、野菜、タレなどを片っ端からスープの寸胴に放り込み始めた。

 

「よし、こんだけ詰め込みゃ充分だな。さっさとずらかるか」

 

 モモンガはそっと寸胴を抱え、ガードレールをくぐって崖下に向かって降り始めた。その時、

 

 ズルッ!!

 

 足を滑らせて転びそうになったが、

 

「おっとっと! ふんっ! 飛んでやるっ!」

 

と、被膜を広げ、坂道を利用し、ジャンプして滑空しようとしたのだが、

 

「あれっ!? うわわわわっ!!」

 

 やはりモモンガはバカである。寸胴を抱えたままではまともに皮膜を広げられる訳がない。

 

 ヒューッ!!   ……ドッボーンッ!!!

 

 何とかジャンプはしたものの、斜め下へ放物線を描き、寸胴もろとも岸近くの湖面に墜落してしまった。

 

++++++++++

 

 ドッボーンッ!!!

 

「何だあの音は!?」

 

「!?」

「!?」

 

 労働の鎧さんと、ちいかわ、ハチワレの三人がガードレール越しに下の湖面を覗き込む。

 

「何か落ちたのか?」

 

と、労働の鎧さんはモニタに戻ってドローンを操作し、その場所を確認した。

 

「あれっ!? 寸胴じゃないか!? なんであんな所に?」

 

「どうしてでしょう?」

「えと? えと?」

 

 ハチワレとちいかわもモニタを見ながら疑問で一杯だった。その時、

 

 ザワザワッ!!

 

 湖面の揺れと水面のざわめきがモニタに映し出される。

 

「ああっ!!!」

「ああっ!!!」

「んとっ!!!」

 

 三人は声を上げた。モニタに姿を現したのは、何と、セイレーンだった。

 

++++++++++

 

「湖にセイレーンだっ!!!」

 

 労働の鎧さんの叫びに、みんな一斉に湖面を見る。そこには、頭上に二匹の人魚を載せた、紛れもないセイレーンの姿があった。

 

「総員戦闘態勢ッ!!!」

 

 かつて聞いた事もないような音量で、ポシェットの鎧さんが叫ぶ。

 

++++++++++

 

「クソッ! やっぱりダム湖に隠れていたのかっ! 弱小モンスターを食い尽くした後、水に潜って魚を食ってやがったなっ!」

 

 労働の鎧さんがライフルを持って立ち上がった。

 

++++++++++

 

「あ~っ!♪ このスープ、味が濃くて、油っこくて、とってもおいし~い!♪」

 

と、喜びながら、湖面に広がりかけたスープと具をセイレーンは旨そうに飲み込んだ。

 

「んっ!? あっ、このおなべの中に、もっとコテコテに濃いのがたっぷりだ~っ!♪」

 

 セイレーンは寸胴を抱え、残った中身を一気に呑み干す。

 

「あ~っ!♪ 極楽極楽~っ!♪ このおいしいもの、もっとあるんじゃないの~っ!?♪」

 

と、言った直後、

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 湖岸の陸地からツタが何本か一気に伸び、セイレーンの体に巻き付いたと思う間もなく、ツタは急激に伸びてセイレーンの体を持ち上げ始めた。

 

++++++++++

 

「来るぞっ!!」

 

 急遽その辺の木の枝などで迷彩を施した戦闘隊が待ち受けるダム湖上段の道路に向かって、セイレーンが一気に上昇して来た。労働の鎧さんが双眼鏡を除きながら腕輪の通信機に小声で告げる。

 

「各員射撃準備! ……あっ! 準備のまま待機! あいつ、自分の体だけじゃなく、周りにもツタを張り巡らしてやがる!」

 

 ツタが周囲をウロウロと動き回っていたら森の中の戦いと変わらない。射撃の的中率は激減する。悔しいが、一斉射撃で仕留めるのは困難だ。

 

「少し様子を見る!」

 

++++++++++

 

「う~ん、いい匂いがするなあ~♪ こっちかな♪」

 

と、言いながらセイレーンは給養班のテントに向かって動き始めた。

 

++++++++++

 

「くそっ! さっきは食べそこねたっ! こんどこそ食ってやるっ!」

 

 水から上がり、まだ毛も碌に乾いていないまま給養班のテントにまた性懲りもなくやって来たのは言わずと知れたモモンガ。幸い誰もいないのをいい事に、その辺に残っているおかず類を貪り始めた。

 

「おお~っ!♪ やっぱりうんめぇ~っ!♪ ゴクラクゴクラク~♪」

 

と、悦に入っているモモンガの所に、ぬっと現れた大きな影。

 

「あれ~っ!? なんでこんな所にいるのかな~っ!?♪」

 

 セイレーンがイヤミたっぷりの口調でモモンガを煽る。

 

「げっ!! そっちこそなんでこんなところにっ!?」

 

と、モモンガは逃げようとしたが、遅かった。

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 ビュッ! ギュギュッ!!

 

 セイレーンが操るツタに、モモンガはアッサリ捉えられてしまった。

 

++++++++++

 

「ああっ! あいつ! なんでこんな所にっ!?」

 

 セイレーンの動きを双眼鏡で監視していた労働の鎧さんが小声で通信機に吐き捨てた。すかさずラーメンの鎧さんから、

 

『おかわりの残りが毎回変に減っていたんだ! あいつのせいだったのか!』

 

と、苦々しい返事が入る。

 

「俺のカレーをちょろまかしたのもあいつだな! …と、そんな事よりこのままではまずい! あいつが見つかったと言う事は、セイレーンが島での戦いを思い出し、気を回して他の者も探し始めるぞっ!」

 

 その時、島二郎から、

 

『俺とオデに任せてくれ。何とかセイレーンの気をそらす。その間、ライフル担当は二人ずつ左右に散開。距離を取って遠隔から狙える位置に陣取ってくれ。残りのみんなはいつでもセイレーンと戦えるよう、準備して待機していてくれ』

 

「了解だ。頼んだぞ」

 

『それと、出来るだけ大きな出刃包丁を2本借りたい。どこにある?』

 

 すかさずラーメンの鎧さんから通信が入る。

 

『ピックアップの荷台だ。調理器具と書いた道具箱の中に、特大の奴が入ってるぜ』

 

『了解。恩に着る』

 

++++++++++

 

「オデ、俺がセイレーンの正面に立って気を引きつける。その間にお前はそっとピックアップの所に行って、出刃包丁を2本、取って来い。お前の包丁捌きを見せるチャンスだぜ」

 

「承知したど。師匠」

 

「そうだ。トップランカー!」

 

と、無線機に告げた島二郎に、ラッコが呼応する。

 

『どうした?』

 

「そっちはセイレーンの様子をよく見ておいてくれ。いざとなったら五人でセイレーンの相手を頼んだぜ」

 

『了解した!』

 

「オデ、行くぞ!」

 

「了解だど!」

 

 島二郎とオデは不敵な笑みを浮かべながら、背中にショットガンを背負い、腰をかがめてそっと移動し始めた。

 

++++++++++

 

「はなせ~~っ! はなせ~~っ!」

 

 モモンガは騒ぐが、セイレーンは一顧だにしない。

 

「で、さあ、こんなとこにいるって事は、ほかの連中もいるって事よね~~♪」

 

と、こちらも不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうやって探そっかな~~っ?♪」

 

++++++++++

 

 給養班テントの近くの灌木の影に、島二郎とオデは隠れていた。セイレーンはモモンガの相手をしながら周囲を見回し始めている。

 

「オデ、お前は包丁を構えて取り敢えずここにいろ。俺はセイレーンの前に出て注意を引きつける」

 

「了解だど」

 

 島二郎はダッシュし、セイレーンの前に飛び出した。

 

「待てっ!!」

 

「ああ~~っ!! なんでここにっ!? またジャマするつもりっ!?」

 

と、素っ頓狂な声を上げるセイレーンに、島二郎は大声で、

 

「それはこっちのセリフだ!! 島でとんでもない事をやってくれたな!!」

 

「だって~、おいしいものくれなくなったんだも~ん♪ あとはどうしようとこっちの勝手でしょ~♪」

 

「お前がそう言うのなら、こっちも勝手にさせて貰うだけだ。俺の大事な客を多数殺した。だから俺にもお前を殺す権利はあるって事だ」

 

「へへぇ~~っ! やれるもんならやってみたら~~♪」

 

と、またもや不敵な笑みを浮かべるや、セイレーンは一瞬置いて、

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

「来いっ!!」

 

と、島二郎は身構えたが、何故か正面からはツタが来ない。

 

「どう言う事だ!?」

 

 島二郎が一瞬考えた時だった。

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 ザワザワッ!!

 ザワザワッ!!

 

「んっ!?」

 

 背後から変な音が聞こえる。振り返った島二郎の視界に入って来た物は、多数のツタ。そして目を異様に輝かせた「あのこ」と「でかつよ」だった。島二郎はすかさず大声で、

 

「オデッ!! 来てくれっ!!!」

 

「行くどおっ!」

 

 灌木からオデが飛び出して繰る。「あのこ」は向かって左側、「でかつよ」は向かって右側に来て、島二郎とオデに対峙した。

 

「俺は向かって左側をやる! お前は右側だ! ツタに気をつけろ!!」

 

「了解だどっ!!」

 

”ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪”

 

 背後から響くセイレーンの歌声に合わせ、ツタがこちらへ伸びて迫って来る。

 

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 

「ア゛ーーーーッ!!」

 

 バシバシバシッ!

 バシバシバシッ!

 バシバシバシッ!

 

 島二郎は叫びながら両手を振り回す。その凄い掌技にツタは弾き飛ばされて行く。

 

「………」

 

 島二郎の前に構えた「あのこ」は、島二郎の隙を窺うように、その様子をじっと凝視していた。

 

++++++++++

 

「オデーーーーッ!!」

 

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 

 ズタズタズタッ!

 ズタズタズタッ!

 ズタズタズタッ!

 

 迫り来る多数のツタを、オデは叫びながら両手の出刃包丁で切り捨てる。実に見事な包丁捌きだ。

 

「………」

 

 「でかつよ」も、オデの隙を窺うように、不気味に眼を光らせていた。

 

++++++++++

 

「まずい! あのツタの量と動きでは、モンスターへの射線が取りにくいぞっ!」

 

 「でかつよの左手」側のかなり離れた所に回り込んで灌木に隠れた労働の鎧さんが、一緒にいるカレーの鎧さんに話しかける。

 

「ああ、あのツタの量では少々射ってもコースを逸らされる可能性が高いな。とにかく様子を見ながら、チャンスがあれば一斉射撃だ」

 

「そうだな。島二郎もオデも、モンスターとの距離があの程度なら、ショットガンに切り替える時間は充分にある」

 

「右手側、そっちはどうだ?」

 

++++++++++

 

「こっちも同じだ。ツタの動きが収まるまではちょっと手出し出来ん」

 

と、「あのこの右手」側の灌木に潜むポシェットの鎧さんが無線機に向かって言った。

 

『とにかくいつでも撃てるようにして待機だ』

 

「了解。…聞いた通りだ」

 

「了解だ」

 

と、ラーメンの鎧さんが相槌を打った。

 

++++++++++

 

「ふぅ~~~ん、なかなかやるじゃないの~~♪」

 

 島二郎とオデの様子を見たセイレーンは、

 

「じゃ、こっちからも行こうかな~~っ!♪」

 

 そして、また一瞬置くと、深く息を吸い、

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 セイレーンの横から多数のツタが伸び、島二郎とオデに背後から迫ろうとしていた。

 

++++++++++

 

「まずいっ!!」

 

 セイレーンを監視していたラッコは、島二郎とオデの背後の状態を見るや、

 

 ダァァァァァッ!!!

 

 バサバサバサバサッ!!!

 

 ショットガンを背負ったまま剣を抜き、電光石火の如く飛び出してツタを薙ぎ払った。

 

「あああああ~~っ!! またジャマが増えたっ!!」

 

 セイレーンはラッコに向かい、

 

「よっぽど死にたいようね」

 

と、嫌なトーンで語りかける。それに対してラッコは、

 

「今度はこっちも容赦しない」

 

と。静かに告げた。そして無線機を口元に寄せ、セイレーンには聞こえないように小声で、

 

「クロスボウ担当は全員空中に散開。ツタにやられないよう、充分に距離を取って待機だ」

 

 その声に、ちいかわ、ハチワレ、うさぎ、くりまんじゅうは即座に呼応した。ちいかわとハチワレは刺叉を、うさぎは爆裂棍棒を、くりまんじゅうは前後振り分けの大きなリュックをそれぞれ背負い、クロスボウの落下防止用スパイラルコードを背負った物のベルトに連結する。

 

 ブゥーーーン

 ブゥーーーン

 ブゥーーーン

 ブゥーーーン

 

 四人はそっとドローンを起動し、セイレーンに見つからないように移動。ちいかわとハチワレ、うさぎとくりまんじゅうの二班に分かれ、少し離れて近くの樹の中にそれぞれ隠れた。

 

 セイレーンはラッコの様子を見て、

 

「何かまた余計な事をしたのかな~~っ? お仕置きが必要なようねぇ~~っ!♪」

 

と、言うや、

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 

 バサバサバサバサッ!!!

 バサバサバサバサッ!!!

 バサバサバサバサッ!!!

 

 襲いかかって来るツタをラッコは次々と薙ぎ払う。

 

++++++++++

 

「まずい! これでは膠着状態だ!」

 

 双眼鏡で「でかつよ」の監視を続けていた労働の鎧さんが吐き捨てる。セイレーンを監視しているカレーの鎧さんも、

 

「こっちも芳しくない! トップランカーは今の所ツタとは互角以上に戦っているが、このまま延々と続けてはいずれ体力が持たなくなるぞ!」

 

++++++++++

 

 ハチワレとちいかわはセイレーンに見つからないよう灌木の中に隠れていたが、その時運悪く、一瞬強風が灌木を襲った。

 

 ヒュウゥゥゥゥッ!!

 

 ザワザワザワッ!

 

「あっ!」

「ヤダッ!」

 

 隠れている灌木が激しく揺れ、二人は姿を曝してしまった。

 

++++++++++

 

「あれ~~~っ!♪ そんなところに二人もいたの~~~っ!?♪」

 

と、セイレーンは憎々しげに笑い、

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 

 道路に近い崖から二本のツタが伸び、ハチワレとちいかわに襲いかかる。

 

「うわぁぁっ!」

「ヤダァァッ!」

 

 その時、

 

 ズドンッ!!

 ズドンッ!!

 

 バチィィンッ!!

 バチィィンッ!!

 

 二人を襲ったツタは根本付近の太い部分を撃たれて激しい破裂音と衝突音を上げ、力なく下方へもつれ落ちて行く。

 

「先生っ!!」

 

 下を見たハチワレの視界に入って来たのは、銃口から薄い煙を上げる短身ショットガンを構えたラッコの姿だった。

 

++++++++++

 

「またジャマしたね~~~~っ!!」

 

「そうそう好き勝手にはさせん!!」

 

 セイレーンとラッコが睨み合う。

 

++++++++++

 

 ちいかわと共にドローンで空中に浮かびながら、ハチワレはセイレーンに、

 

「あ、あの時! もうみんなを襲わないでっ、て言ったら、わかった、って、言ってくれたじゃないかぁっ!!!」

 

 もう既に真相は判明していると知りながら、ハチワレはそう叫ばざるを得なかった。しかしセイレーンは、

 

「なんのこと~~? そんなこと言ってないよ~~♪ …あ! そうか~~っ♪ あの時、『わかった』って言ったのは、『犯人がわかった』って意味だよ~~っ!♪」

 

「そ、そんな……」

 

 今更セイレーンに何を言っても聞いても無意味なのは分かっている。ハチワレは悔し涙を流すしかなかった。

 

 「くそぉぉぉぉっ!!!」

 

 ブゥーーーンッ!

 

 「くらえっ!!」

 

 ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!

 

 ハチワレはセイレーンに接近し、痺れ薬内蔵のアローを連射した、しかし、

 

 パシッ! パシッ! パシッ!

 

 セイレーンはツタを操り、払い除けてしまう。そして、憎々しげに、

 

「その矢なら、散々はたき落としたよ~~っ♪」

 

 その時だった。クロスボウ担当の腕輪から、

 

『カァーーーーーッ!』

 

 と言う、くりまんじゅうの声が聞こえた。それを聞いたラッコは、

 

「了解だ! 頼む!」

 

と、やや後退した。ハチワレとちいかわも、

 

「おねがいしますっ!」

「ンショッ!!」

 

と、呼応し、ドローンを操って距離を取った。

 

++++++++++

 

 くりまんじゅうは、うさぎに目配せすると、

 

「カァーッ!」

 

「イーヤッハー!!」

 

 ブゥーーーンッ!

 ブゥーーーンッ!

 

 二人は大きく迂回しながらの急上昇を開始した。

 

++++++++++

 

(このままじゃダメだ! なんとかしないと! ……はっ!! そうだっ!! セイレーンの歌を封じるにはっ!!)

 

 苦悩するハチワレの頭の中に、突然閃きが走った。ハチワレは無線機に向かって、

 

「すみませんっ!! キャロなんとかはありませんかぁぁっ!?」

 

++++++++++

 

 ツタを払い除けながら島二郎は無線機に届く大声で、

 

「すまんっ! 今は持ってないっ!」

 

 その時だった。突然無線機から、

 

『ペッパーXならあるぜっ!! 二百グラムが一瓶あるっ!!』

 

 カレーの鎧さんの声が轟いた。

 

「ペッパーXだと!? それは凄いっ!」

 

 島二郎も思わず叫ぶ。

 

++++++++++

 

 カレーの鎧さんは、

 

「ペッパーXのスコヴィル値は269万3000だ! キャロライナ・リーパーの1.6倍辛いぜっ!!」

 

『くださいっ! どうしたらいいですかっ!?』

 

 その時、無線機から、

 

『アローに詰めて届けますっ!』

『ああっ!! あああっ!!』

 

 シーサーと古本屋の声が響く。カレーの鎧さんは、

 

「大丈夫かっ!? 場所は分かるかっ!?」

 

『場所は知ってますっ! 絶対に届けますっ!!』

『あっ! ああっ!』

 

「分かった! 充分注意しろっ! 予備のアローの場所も知ってるな!?」

 

『知ってますっ!』

 

「頼んだぞっ!」

 

++++++++++

 

「行こうっ!」

 

「ああっ!」

 

 ブゥーーーンッ!

 ブゥーーーンッ!

 

 シーサーと古本屋も隠れていた場所からドローンで飛び出した。

 

++++++++++

 

「また何か悪さしてるようだねえ~~♪ お仕置きが必要かな~~♪」

 

 セイレーンは目を光らせ、

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 ザワァーーーーーーーッ!

 

 多数のツタが一斉に伸び始めた。

 

++++++++++

 

 くりまんじゅうとうさぎは、セイレーンに見つからないよう大きく迂回し、そのまま上昇してセイレーンの頭上までやって来た。

 

「カァァッ!!」

 

「イヤハッ!」

 

 くりまんじゅうはリュックから1.8リットル程の瓶を取り出すや、大きく頭上に掲げる。

 

”SPYTUUS 96”

 

 アルコール96度のスピリタスである。うさぎにアイコンタクトを取るや、やおら下方に投げ捨てた。

 

 ヒューーーーーーッ!!

 

「イィィィーー、ヤッハーーーーッ!!」

 

 うさぎは叫ぶや、セイレーンの付近のツタを目指して落下して行くスピリタスの瓶を狙い、アローを発射する。

 

 ヒュッ!! ………パァァァンッ!!

 

 アローは瓶に命中した。セイレーンの頭上とツタにアルコールが撒き散らされる。

 

「カァァッ!!」

 

「イヤハッ!」

 

 くりまんじゅうは次の瓶を放り投げた。

 

++++++++++

 

「えええっ!? なにこれっ!? お酒の匂いっ!? なんか、悪くないわね~~っ!♪」

 

 セイレーンは自分の前のツタに振りかけられたアルコールの匂いに気付いた。結構いい匂いではないか。

 

「こんなの、臭くもなんともないよ~~っ!♪」

 

++++++++++

 

 ヒュッ!! ………パァァァンッ!!

 

 五本目のスピリタスが散布された。それを見たくりまんじゅうは、うさぎに、

 

「カァッ!!」

 

「ヤハッ!!」

 

 うさぎは背負った爆裂棍棒を手に取るや、急降下し始めた。

 

 ブゥーーーンッ!

 

「イィィィーー、ヤッハーーーーッ!!」

 

++++++++++

 

 ブゥーーーンッ!

 

「なになに? わざわざ死にに来たの? おつかれさまね~~っ♪ ………ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 急降下するうさぎを見て、セイレーンはツタを上昇させる。

 

「イィィィーーーーーー、ヤッハァァァーーーーッ!!」

 

 うさぎは爆裂棍棒を構え直し、伸びて来たツタを思い切り突いた。

 

 バァァァァンンッ!!

 

 爆裂棍棒の先端から火花が飛ぶ。その次の瞬間、

 

 ブゥゥォォォォォォッッ!!!

 

 揮発したアルコールが一気に燃え、ツタは一瞬にして透明の炎に包まれる。うさぎは急速離脱。

 

「えっ!? ……うわあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 自らも透明の炎に包まれたセイレーンは慌てて両胸鰭で炎を払うが、自分を支えているツタにも引火。細胞の温度が一気に上がった全てのツタは、力をなくしてセイレーンもろとも崖下へ落下して行った。

 

++++++++++

 

「たすかったっ!!」

 

 くりまんじゅうとうさぎの活躍でしおれたツタから何とか抜け出せたモモンガは、脱兎の如くその場から逃げ出した。

 

++++++++++

 

「ペッパーXセット完了! 届けるよっ!」

 

「ああっ!!」

 

 残念ながらペッパーX入りのアローは二本しか作れなかったが、シーサーと古本屋はそれぞれ一本ずつを持ち、ハチワレとちいかわの所に急行すべく飛び上がった。

 

 ブゥーーーンッ!

 ブゥーーーンッ!

 

++++++++++

 

「ペッパーXですっ! 二本しか作れませんでしたっ! おねがいしますっ!!」

 

「あっ!! ああっ!!」

 

「ありがとうっ!!」

 

「ンショッ!!!」

 

 ハチワレとちいかわにペッパーX入のアローを渡したシーサーと古本屋は、即刻離脱した。

 

++++++++++

 

「熱いっ!! 熱いっ!!」

 

 炎に包まれたセイレーンはダム湖に飛び込む。

 

 ドボォォォンッ!!

 

++++++++++

 

「今だっ!! 行くよっ!!」

 

「ンショォォッ!!!」

 

 ハチワレとちいかわはペッパーX入りのアローをクロスボウにセット。急降下してセイレーンの所に向かう。

 

 ブゥーーーンッ!

 ブゥーーーンッ!

 

++++++++++

 

「うむっ! よしっ!!」

 

 ハチワレとちいかわの動きを見たラッコもガードレールを飛び越し、斜面を駆け下りた。

 

++++++++++

 

 ザワァーッ!

 ザワァーッ!

 

「おおっ!?」

 

 バシバシ!

 バシバシ!

 

 セイレーンが落下したためか、島二郎に襲いかかるツタの勢いが明らかに落ちた。島二郎は軽くツタをいなす。しかしその時、

 

「グワァァッ!!」

 

 島二郎にやや隙が出来たと見たのか、「あのこ」が突然襲いかかる。

 

「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ッ!!」

 

 バシィィッ!!

 

「ギャッ!」

 

 島二郎の必殺の掌打が「あのこ」の顔面を激しく撃つ。流石の「あのこ」も後退するしかなかった。

 

++++++++++

 

 ザワァーッ!

 ザワァーッ!

 

「オデッ!?」

 

 ズタッ!

 ズタッ!

 

「ギャォゥッ!」

 

 オデを襲うツタの勢いが止まる。しかし同じように「でかつよ」も迫る。

 

「オデーーッ!!」

 

 ザクゥゥッ!

 ザクゥゥッ!

 

「グェッ!?」

 

 オデの二丁包丁が「でかつよ」のたてがみを切り裂いた。周囲に毛が散る。「でかつよ」も退却した。

 

++++++++++

 

 ブゥーーーンッ!

 ブゥーーーンッ!

 

「いい!? セイレーンが水から上がってきて、歌う瞬間だよ!! そのタイミングしかないよっ!!」

 

 急降下しながらハチワレがちいかわに声を上げる。

 

「ンショォォッ!!!」

 

 湖面が目前に迫って来た。

 

++++++++++

 

 ザバアァァァッ!!

 

「よくもやってくれたわね~~っ!!」

 

 怒りの声を上げながらセイレーンが湖から姿を現す。

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

++++++++++

 

「今だっ!!! なんとかなれぇぇぇぇぇっ!!!」

「ンショォォォォォォッ!!」

 

 ヒュゥゥゥゥッ!!!

 ヒュゥゥゥゥッ!!!

 

 ハチワレとちいかわの放ったペッパーX入りアローがセイレーンの口を目指して高速で飛んで行く。

 

++++++++++

 

「ハアァァァ〜〜〜〜ッ!♪」

 

 パァァンッ!

 パァァンッ!

 

 興奮しすぎてアローを見落としたセイレーンの口に飛び込んだアローの先端の火薬が炸裂した。セイレーンの口内に269万3000スコヴィルのペッパーXが200グラム飛び散る。

 

「えっ!? ………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

 

 セイレーンが顔を真赤にしてのたうち回る。最早歌う事は不可能だった。

 

「これで歌は封じたな!」

 

 その時、ラッコの脳内にとんでもないアイデアが閃いた。

 

「んっ! そうかっ! 歌を永遠に封じるにはっ!!」

 

++++++++++

 

 しなっ!

 しなっ!

 

「おっ!?」

「オデッ!?」

 

 島二郎とオデを襲っていた全てのツタが、突然しおれて地面に落ちる。

 

 ハッ!?

 ハッ!?

 

 それと同時に、「あのこ」と「でかつよ」の様子が明らかに変わった。まるで怯えているかのように周囲を見渡し、揃ってジリジリと退却を始める。島二郎とオデはすかさずショットガンを構えた。

 

++++++++++

 

「チャンスだ! 撃つか!?」

 

と、声を上げたカレーの鎧さんに、労働の鎧さんは、

 

「ちょっと待て! なんか様子がおかしい!」

 

 その時だった。

 

 ダッ!

 

 「あのこ」が突然振り返り、山中に逃げて行ったのだ。

 

「逃げるぞ! 撃つか!?」

 

「いや、逃げたのなら深追いは… おわっ!」

 

 突然白い影が労働の鎧さんに体当りし、ライフルを奪った。その白い影は「でかつよ」に向かって行く。

 

++++++++++

 

「うわああああっ!!」

 

 パンッ!

 パンッ!

 パンッ!

 

 労働の鎧さんからライフルを奪ったモモンガは、「でかつよ」に向かって乱射した。しかしやはりモモンガはバカである。その体格でライフルを扱える訳がない。

 

「!!!!」

 

 ダッ!

 

 「でかつよ」も慌ててUターンし、逃げて行く。

 

 パンッ!

 パンッ!

 パンッ!

 

 カチッ!

 カチッ!

 

「なんだあ? もうおわりかあ? チッ、シケてやんの」

 

と、言いながらライフルを放り投げる。そして「でかつよ」の逃げた方向を見て、

 

「もうちょっとであいつを完全に…」

 

 その時だった。後から来た灰色の影が、モモンガの首根っこを、

 

 むんず

 

「は、はなせっ!! はなせっ!!」

 

「今度ばかりは許さん。徹底的にお仕置きしてやる」

 

 労働の鎧さんは、右手でモモンガを掴み、左手にライフルを持つと、ピックアップトラックの方に歩いて行った。

 

++++++++++

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!! ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」

 

「ギーッ……」

「ギーッ……」

 

 瀕死の叫びを上げながらセイレーンがのたうち回り続けていた。頭から転げ落ちた二匹の人魚もこの上ない恐怖に引きつった表情でセイレーンに寄り添っている。その時、

 

 バタバタッ!! バタバタッ!!

 

 セイレーンはダム湖へ逃走しようともがき始めた。

 

「逃さんぞ!!」

 

 ズドンッ!!

 

 バチィィンッ!!

 

「ぎゃああああっ!!!」

 

 ラッコのショットガンから放たれたスラッグ弾がセイレーンの下半身の筋肉を撃ち抜いた。

 

「これでもうまともには動けないだろう。水中に逃げても尾鰭が使えないから沈んで行くだけだぞ」

 

 ラッコはそう言うと、剣をスラリと抜く。

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

 高くジャンプし、セイレーンの喉元に剣を突き立て、捻る。

 

 グサァッ!! グリッ!

 

「うぐぅぅぅぅっ!!!」

 

 ラッコが引き抜いた剣の先には、赤く血に染まったセイレーンの声帯が巻き付いていた。

 

「お前の歌は永遠に封じた。最早ツタもモンスターも操る事は出来まい。海へ帰り、おとなしく魚を食う生活に戻るか、ここで完全に殺されるか、どちらかを選べ」

 

「うぐっ! うぐっ! うぐぅっ!」

 

 セイレーンは大泣きしながら呻き続けた。ラッコは淡々と、

 

「それから、もう島には金輪際近づくな。歌を失ったお前なら簡単に殺せる程度の武器が配備される予定だからな」

 

「うぐっ! うぐっ! うぐぅっ!」

「ギーッ!」

「ギーッ!」

 

 ズリッ! ズリッ! ズリッ!

 

 瀕死のセイレーンは二匹の人魚を引き連れ、胸鰭だけを使ってゆっくりと崖を這い上がり始めた。

 

「待て。待たぬと殺す」

 

 ラッコの言葉に、首がまともに回らないセイレーンは歩みを止めて無言で横を向き、視線だけをこちらに向ける。

 

「最後に一つだけ教えておいてやろう。お前は島民の誰かが人魚を殺して食ったと言う事で島民全体に復讐を始めたが、そもそもお前が犯人として捕まえて監禁したあいつらが、何で人魚を殺して食ったのか、知ってるのか?」

 

「………」

 

 セイレーンは何も答えない。ラッコは続けて、

 

「あいつらが船で釣りに出た時、お前と三匹の人魚はイカをおもちゃにして遊んでいた。飛んだイカの軌跡がそれてあいつらの船の上を通った時、お前がジャンプしてあいつらの船にぶつかって壊した。そのためにあいつらの内の一人が瀕死の重傷を負ったんだ」

 

「!!!!」

 

「だからもう一人がそいつを助けようとして、人魚を一匹殺して重症の奴に食わせたんだ。しかし食わされた方は自分だけが永遠に生きるのが怖くなり、もう一人にも食わせた。それがあの二人が人魚を食った経緯だ」

 

「………」

 

「分かったか。今更どうにもならんが、自分達だけが善良な被害者だと思い込んでいたら大きな間違いだぞ。……分かったら行け」

 

「………」

 

 ズリッ! ズリッ! ズリッ!

 

 セイレーンは無言で上に向き直ると、這い続けて道路を超え、下流の川へと向かった。

 

 ドッボォォォーーン!

 ドボーン!

 ドボーン!

 

 セイレーンと二匹の人魚は川に飛び込み、去って行った。それを見たラッコは無線機に、

 

「セイレーンと人魚は川の下流に逃げて行った! 念のためドローンで監視と追跡を頼む!」

 

『了解』

 

 無線機から労働の鎧さんの声が返って来た。

 

++++++++++

 

「先生……」

「えと、えと…」

 

 ラッコの所にハチワレとちいかわがやって来た。

 

「これで、ほんとうにおわったんですね?……」

 

「ああ、終わったよ。…本当に終わったんだ」

 

「よ、よかった…… ぐすっ…」

「う、ぐすっ… わーん…」

 

「取り敢えず、上に戻ろう」

 

「は、はいっ」

「んしょ…」

 

 ブゥーーーンッ!

 ブゥーーーンッ!

 

 そこへうさぎとくりまんじゅうがやって来た。ラッコは、

 

「おお! 二人とも大殊勲だったな! 本当にありがとう!!」

 

「イヤハッ!!」

「(ニヤリッ!)」

 

++++++++++

 

 ラッコ、ハチワレ、ちいかわ、うさぎ、くりまんじゅうが駐車スペースの所に戻って来ると、もうみんな集まっていた。労働の鎧さんが全員を見回し、

 

「みんな、本当によくやってくれた。これで一応事件は解決したと思う。今、本部に連絡してセイレーンの動きは監視して貰っているが、今の所まっすぐ川を下って海に向かっているようだ。取り敢えず一安心していいと思う。みんな、本当にありがとう」

 

と、深々と頭を下げる。みんな放心して何も言葉を発しはしなかったが、喜びと安堵感に満ち溢れた表情をしていた。

 

 その時、

 

「だせーっ!! だせーっ!! だせーっ!!」

 

と言う金切り声がピックアップの方から聞こえて来た。古本屋が反応する。

 

「あっ!? ああっ!?」

 

++++++++++

 

「だせーっ!! だせーっ!! だせーっ!!」

 

 揃ってピックアップの所にやって来た全員を迎えてくれたのは、言わずと知れたモモンガである。ヒトハかフタバのどちらかが閉じ込められていた檻に入れられて地面に置かれていた。扉は南京錠で厳重にロックされており、これではもうどうしようもない。

 

「だせーっ!! だせーっ!! だせーっ!!」

 

 労働の鎧さんが、

 

「うるさい。今度ばかりは許さんと言っただろ。こんな所までわざわざやって来てこっちの足を引っ張るとは言語道断だ。帰ったら出してやるからそれまでおとなしくしてろ」

 

「そんならせめてうまいモンでも食べさせろーっ!!」

 

 すると、ラーメンの鎧さんが、

 

「うまいモンか? これでも食っとけ」

 

 ザパァァァッ!!

 

と、テントに残っていた最後のラーメンの残りをモモンガの頭からぶっかけた。

 

「ちゅるちゅる、……なんだ、のびきってるじゃないか~~っ!」

 

 この期に及んでまだ文句を言うモモンガに、ラーメンの鎧さんは、

 

「文句を言うな。食えるだけ有り難いと思え。お前の友達が心を込めて作ったラーメンだ。味は文句ないだろう」

 

「………」

 

 古本屋がバツの悪そうな顔で恐縮している。

 

「ま、とにかく撤収だ。片付けて本部へ戻ろう」

 

 ポシェットの鎧さんの言葉に、みんな持ち場へ戻って撤収作業を開始した。

 

++++++++++

 

 その日の夕刻、戦闘隊は無事に本部に帰還した。偉い鎧さんがみんなを出迎えてくれている。

 

「みんな本当によくやってくれたな。疲れただろう。宿舎と食事は用意してある。今晩はゆっくり休んでくれ。明日の朝、報告会とこちらからの連絡をまとめて行う」

 

++++++++++

 

 翌朝になった。戦闘隊は全員会議室に集合、詳細な報告を行う予定である。その後の本部からの連絡のために、ヒトハとフタバも連れて来られていた。

 

 偉い鎧さんが全員を見渡して言う。

 

「改めて礼を言う。本当にみんなよくやってくれた。お疲れ様。今回の君達の功績に対し、本部としてはできるだけの恩賞で応えるつもりだ。では、まず時系列順に昨日の状況を説明してくれ」

 

「では、順を追って申し上げます」

 

 労働の鎧さんが起立して話し始めた。

 

++++++++++

 

「……以上です。これはドローンの記録とも突き合わせた正確な報告であります」

 

と、言った労働の鎧さんに、偉い鎧さんは、

 

「有り難う。本部のドローンの記録との照合はどうだ?」

 

 連絡係の鎧さんが、

 

「全て一致しています。間違いありません」

 

「よし、それでは報告会議はこれにて終了とし、引き続き本部からの連絡事項を伝達する」

 

 偉い鎧さんは、改めて全体を見回すと、

 

「まず、島の状況からだ。白鳥丸にはこちらで出来る限りの緊急修理はしたので、ほぼ最高速で走れるようになった事もあり、君達が戦闘に赴いた日の昼過ぎには島に到着して救助活動を開始した。負傷者の治療や住居の復旧なども含め、救援活動は順調に進んでいる。安心してくれ」

 

「本当にかたじけない。恩に着る」

 

と、島二郎が頭を下げる。偉い鎧さんは続けて、

 

「それで、セイレーンのみならず、またもし強力なモンスターがやって来たら今の島の態勢では苦しいだろうと言う事も鑑み、身を守るための武器を貸与する事にした。島二郎君とオデ君はせっかく銃器の扱いの練習までしてもらったのに、今回は銃を使う機会はなかったんだな。…まあ、ある意味、使わずに済んで良かった、とも言えるが」

 

「ああ、その通りだ。一応銃は最後の手段と考えていた事もあるからな」

 

「それでだ。島二郎君を責任者として、ショットガンを三丁、預ける事にする。弾薬は散弾二百発、スラッグ弾四百発だ。厳重な鍵のついたロッカーも渡すから、管理はしっかり頼んだぞ」

 

「それは凄い。いざと言う時の備えとして本当に助かる。ありがとう」

 

「それから、島民の護身具だが、単発クロスボウがふさわしいと考える。クロスボウ二十丁、アローは痺れ薬と目潰しを五百本ずつ、練習用は千本だ」

 

「それも非常に助かる。ありがとう。島民から警備隊を選抜してしっかりコーチするよ」

 

「それがいいな。よろしく頼むよ。…で、島の安全対策は取り敢えずこんなものだ。次は恩賞の件だが」

 

と、ここで偉い鎧さんは一息置き、

 

「今回の戦闘隊に参加してくれた諸君には、普段の討伐における最高水準の報酬の三倍に相当する額を、恩賞として渡したい」

 

 すごい額である。「普段の討伐における最高水準の報酬の三倍」には流石に一同全員言葉もない。みんな嬉しさと驚きで笑顔がこわばっている。

 

「次に、これは今後の討伐にも関係する事なんだが、クロスボウの一部解禁の永続化だ。手動コッキング式単発クロスボウに限り、免許を有料有期更新制として解禁する。希望者には一応もう一度試験を行ってから免許を発行するが、ここにいる諸君については、希望があれば優先的に無試験で許可する予定だ」

 

 あちこちから、ほう、と言う言葉が漏れる。それほど今回の戦闘の功績は大きかったのだ。

 

「また、クロスボウとアローは、今回は無償貸与だったが、今後は当然有料となる。だから、クロスボウ本体もアローも免許更新も有料でいいと言う者だけが、クロスボウを使えるようになると言う事だ」

 

 一同はうんうんと頷いた。

 

「こちらからの連絡事項は以上なのだが、最後にもう一つ、セイレーンに囚われていた二人の今後の事だ」

 

と、言って、偉い鎧さんはヒトハとフタバの方を見た。

 

「つい先程、島から連絡が入った。島民の代表数人と我々の救助隊の代表が話し合った結果、君達二人は島から永久追放、ここに残って労働し、その報酬から、最初にセイレーンの被害にあった島民の遺族に賠償を続ける、と言う事に決定した」

 

 ええっ、と言うような驚きの声があちこちから漏れる。ヒトハとフタバは黙ってうつむいていた。

 

「………」

「………」

 

「君達にもやむを得ない事情があったのはよく理解出来る。しかし島民が襲われ始めた時、君達が黙っていた事で被害が拡大したのも事実だ。今君達はGPS付の腕輪で行動を監視されているが、少なくとも君達の責任範囲で、島民への賠償が終わるまでは、今の状態のままここで労働して貰わねばならない。分かってくれるかね?」

 

「(コクッ)」

「(コクッ)」

 

「賠償がいつまで続くか、それはまだ分からない。賠償額も島の代表と連結を取り、君達も含めたこれからの詳しい話し合いで決まる事になっている。何十ヶ月で終わるのか、それとも」

 

と、ここで偉い鎧さんは言葉を区切った。全員の注目が集まる。

 

「『永遠』に続く賠償になるのか。それは君達の今後の態度と行動次第でもあるが、まだ分からない」

 

「………」

「………」

 

「しかし、君達が賠償を始めてから何ヶ月か後に、君達の様子を見てまた話し合いをして貰えるよう、島のみんなには頼む積もりだ。それも踏まえ、これからは真摯に賠償を続けて欲しい。分かってくれるな?」

 

「(コクッ)」

「(コクッ)」

 

「分かってくれたか。では君達への通達は以上だ。これからの段取りは別の者が詳しく説明する」

 

「(コクッ)」

「(コクッ)」

 

「では、連絡会議もこれにて終了とする。これにて戦闘隊は解散とする」

 

++++++++++

 

 ちいかわ達七人は本部の正門の所に出て来た。すると、

 

「だせーっ!! だせーっ!! だせーっ!!」

 

 横から金切り声が聞こえる。無論モモンガだ。古本屋は思わず駆け寄り、

 

「あああっ! あっ あっ!」

 

「なに? ちゃんとあやまったか、だって? バッカバカしい。だれがあやまるか~~っ!」

 

 見ると、昨日のラーメンの汁でまだ毛はコテコテである。そこへ、

 

「さて、そろそろいいだろう。お仕置きは終わりにしてやる」

 

と、バケツを提げた労働の鎧さん。モモンガはまたもや、

 

「だせーっ!! だせーっ!! だせーっ!!」

 

「うるさいっ! 黙れっ! まずは洗ってからだっ!」

 

と、言いつつモモンガの頭からバケツの石鹸水をぶちまける。

 

 ザハアァァッ!

 

「うわあぁっ!! ペッペッ! 苦いだろがっ!」

 

「今洗ってやるからおとなしくしろ!」

 

と、檻を横に向け、先に小さなブラシの付いた棒を檻の隙間に差し込んだ。

 

 ゴシゴシゴシッ!!

 

「いててっ!! もっとやさしくしろっ!」

 

「すぐに終わる! 辛抱しろっ!」

 

 ゴシゴシゴシッ!!

 

と、荒っぽく洗った後、

 

「よし、これでいいだろう」

 

と、檻を持ち上げ、水道の所に持って行くや、

 

 ザァァァァッッ!!

 

「つ、つめたいぃっ! もっとあたたかくしろっ!」

 

「うるさい! もう終わりだ!」

 

 キュッ!

 

 鎧さんは、蛇口を閉めると、南京錠のカギを取り出し、

 

 カチッ! ……ギイイイッ!

 

と、檻の扉を開けた。

 

「ほれっ! お仕置きは終わりだっ! さっさと帰れっ!」

 

 濡れネズミならぬ文字通りの濡れモモンガは、

 

 ブルブルブルッ!

 

 体を震わせて水気を切るや、

 

「くそ~っ!! おぼえてろよ~っ!!」

 

と、捨て台詞を吐きながら走って逃げて行った。

 

 ちいかわ達七人と、島二郎、オデはその様子を苦笑しながら見ていた。

 

++++++++++

 

 日常生活が戻って来た。

 

 湧きドコロも、草むしりも、採取も、工場でのシール貼りも、全て元に戻った。

 

 討伐については、ほんの一部の腕自慢だけがクロスボウの免許を取ってグループで行くようになった以外は、結局前の状況に戻った。やはり、クロスボウもアローもソコソコ高価な上、免許更新にも金がかかるとなると、一部の腕自慢以外には敷居が高かったと言う事であろう。

 

 尚、白鳥丸については、島から戻り次第、本格化な修理を行う事になっている。

 

++++++++++

 

「オデ〜〜〜〜ッ!! か、辛すぎるどぉ~〜っ!!」

 

「うっせえっ!! この店の売りは鬼カレーなんだっ! 黙って作れっ!!」

 

 白鳥丸の修理が完了するまで、島二郎とオデは、「うまカレー」を手伝う事になった。開店前の店内に味見をしたオデの悲鳴とカレーの鎧さんの怒鳴り声が響く。

 

「いやしかしっ、いくら何でも辛すぎるど〜っ!」

 

「ちょっとずつ食えばいいんだっ! ぼだっこを一切れ丸ごと一口で食う奴はいないだろうっ! それと同じだっ!!」

 

「!!…… あ、言われてみれば確かにそうだど……」

 

「分かったか! 分かったらさっさとやれっ!!」

 

「分かったど〜っ!」

 

 二人の様子を見た島二郎は、

 

「………♪」

 

 結構いいコンビじゃないか、と、苦笑していた。

 

++++++++++

 

「ハーーーーーッ!」

 

 クロスボウの免許を返上したくりまんじゅうは、相変わらず草むしりをしながら酒浸りの生活を楽しんでいた。莫大な恩賞を貰ったのに、それには手を付けず貯金して、草むしりで稼いだ分だけ、酒とツマミを買っている。それが肝臓のためだと本人は自覚しているのかしていないのかは定かではないが、くりまんじゅうにとってはそれこそが「日常」なのだろう。

 

「ハーーーーーッ!」

 

 酒なくて、何の己が桜かな。それこそがくりまんじゅうだった。

 

++++++++++

 

「は~い、次の方、ニンニク入れますかっ?♪」

 

 シーサーの元気なコールが郎の店内に響く。

 

「はいっ! ニンニクヤサイアブラマシマシカラメねっ! まいどあり~っ!♪ お師匠ヨロシクっ!♪」

 

 何故か今日はコールの復唱までしてしまっている。

 

「ハイ承知っ♪、と。……あれからずっと元気一杯だな♪」

 

 ラーメンの鎧さんもシーサーの様子に満更でもなさそうだ。

 

「は~い♪ 元気一杯で~す!♪」

 

 すごい額の恩賞を手にしたのに、働きぶりは全く変わらないシーサーだった。

 

++++++++++

 

「…………♪」

 

 今日は快晴。古本屋は広場で店を広げ、商売に精を出している。

 

「…………♪」

 

 在庫は今まで通り、資格の本が多いが、せっかく恩賞もたんまり貰った事だし、これからは料理や武器の本も仕入れようかな、と空を見上げて微笑んでいた。

 

++++++++++

 

「あっ! 先生!」

「ンショ!」

「イー、ヤハッ!」

 

「おお、三人揃って労働か」

 

「はいっ! そうです!」

「うんっ!」

「イヤハッ!」

 

 広場の労働の屋台の前で、ちかかわ、ハチワレ、うさぎの三人はラッコに出会った。

 

「今回は揃って草むしりか? それもまた良し、だ。…そう言えば、三人共クロスボウの免許を保留にして貰ったのか?」

 

 そう尋ねるラッコに、ハチワレがやや照れ臭そうに、

 

「はい。三人で相談したんですけど、まだまだ修行も足りないし、もっと強くなったら自信をもって申請しよう、ってことになっちゃって… それに、免許の更新にもお金がかかるし…」

 

「そうか。それならそれでいいだろう。…ならば、もっと特訓しないとな」

 

「はいっ! お願いしますっ!」

「…うん…」

「イャハッ!」

 

「あっ! そう言えば先生、先生もショットガンの特別免許とクロスボウの免許、保留されたと…」

 

 そう言うハチワレに、ラッコもやや苦笑して、

 

「ああ、今回の戦いで、もっと剣を磨きたいと言う気が起きてな。それで一応保留にして貰ったんだ。但し、もし万が一、またあんな事が起こったらすぐに申請させて下さい、と頼んではおいたが」

 

「そうなんですか。…わっかりましたっ! また特訓、よろしくお願いしますっ!」

 

「うむ、特訓は厳しいぞ。覚悟しておけ」

 

 ニヤリと笑うラッコに、三人は、

 

「は。はい…」

「んしょ…」

「イー、ヤッハーッ!!」

 

 いつも通りの三人とラッコであった。

 

++++++++++

 

「出航準備完了だなっ!♪」

 

「完了だど♪」

 

 修理が終わった白鳥丸が停泊する船着き場で島二郎とオデが嬉しそうに声を上げる。島へ帰る日が来たのだ。その時、西の方から声がした。

 

「お~い!」

 

 労働の鎧さんが手を振っている。見ると、その後にはポシェットの鎧さん、ラーメンの鎧さん、カレーの鎧さんも来てくれている。更にはその後には、ちいかわ達七人も来ていた。

 

「おおっ、みんな見送りに来てくれたのか! ありがとうっ!♪」

 

「ありがとうだどっ!♪」

 

 嬉しそうな島二郎とオデに、労働の鎧さんが、

 

「武器の梱包と管理は問題ないか?」

 

「大丈夫だ。厳重に施錠して梱包した。島へ戻ったら俺とオデできちっと管理する」

 

「だど」

 

「よし、じゃ、これは本部から二人にお礼だ。開けてみろ」

 

と言って、労働の鎧さんはアタッシュケースを差し出した。

 

「ありがとう。……おおっ! これは、スターリンク端末とマルチバンド無線機じゃないか!」

 

「そうだ。何かの時の用心にな。ちゃんと管理してくれよ」

 

「ああ、ちゃんと管理するよ。本当にありがとうっ!」

 

「次は、後の七人からのみやげだ」

 

と、ポシェットの鎧さんが大きな段ボール箱を差し出した。

 

「この大きさでは、流石にあいつらでは持てないのでな。俺が代わりに渡すよ。干し椎茸だ」

 

「うれしいねえ! みんな、ありがとうなっ!」

 

と、島二郎が後の七人に向かって右手を上げる。

 

「いえいえ、そんなたいしたものじゃありませんけど、よかったらお出汁に…」

 

と、ハチワレが七人を代表して会釈した。

 

「ありがとうっ! 大事に使わせて貰うよっ!」

 

「次は、俺達四人からの差し入れだ」

 

と、箱を差し出すカレーの鎧さんと、タレの瓶を差し出すラーメンの鎧さん。

 

「ペッパーX二百グラム入りの瓶が五本だ。これだけあったら相当効くぜ」

 

「最強だな。ありがとう。大事に使うよ♪」

 

「こっちは郎特製のラーメンのタレだ。何かの隠し味にでも使ってくれ」

 

「おお、貝汁に使ってみよう。ありがとうっ!」

 

 その時だった。カレーの鎧さんが島二郎に差し出した箱を奪おうと、白い影が横から飛び出して来た。しかし、

 

 むんず

 

「こいつ、まだ懲りてないのか」

 

と、呆れた様子なのは、モモンガの首根っこを掴んだ労働の鎧さん。

 

「はなせ~っ!! はなせ~っ!! はなせ~っ!!」

 

 カレーの鎧さんも、

 

「お前、本当に度し難いな。これはペッパーX、島で使ったキャロライナ・リーパーの1.6倍の辛さを持つ激辛トウガラシだ。こんなもん、知らずに食ったら、お前、即死するぞ」

 

「えっ! くそっ!! そんなモンならいらねえ! はなせ~っ!!」

 

 労働の鎧さんは、苦笑しながら、

 

「ほらっ、とっとと失せろ。また来たら今度はペッパーXを食わせるぞ」

 

「ばかやろ~っ!!」

 

と、悪態をつきながら、モモンガは全力で逃げて行った。島二郎は、

 

「はは、これで島に来てくれた八人全員にも見送ってもらえた訳だな。本当にありがとう! ではこれで!」

 

「ああ、いい航海を!」

 

と、労働の鎧さんも応える。

 

 プシューッ!

 

 ドアも直って快調に開く。島二郎とオデは手を振りながら乗船した。

 

 ボォォォォォーーーッ!!

 

 出航の汽笛とともに、白鳥丸は動き出す。その時、

 

「ありがとう~っ! 島にもまた来いよ~っ!♪」

 

「来てくれだど~っ!♪」

 

 島二郎とオデがデッキで手を振っている。陸の十一人もみんな手を振っていた。

 

”おいし~い屋台がてんこもり~♪ 貝汁カレーに貝汁カレー♪(※7)”

 

 歌い出したハチワレに、歌を知っている六人と島二郎が合わせて歌う。船が遠ざかるまで、歌は続いていた。

 

(※7 引用元:https://x.com/ngnchiikawa/status/1728002507396481484)

++++++++++

 

 島二郎とオデが帰ってから二ヶ月弱経った。もう冬至も近い。この地域は雪こそあまり降らないが、それでも冷える時は冷える。ちいかわとハチワレは、労働のために広場へ向かっていた。

 

「今日はけっこう冷えるね」

 

「うん…」

 

「きょうはどうしよう? やっぱり草むしりかな…」

 

「うん…」

 

 その時だった。

 

「あれっ!? あの二人、島の仲良しの二人じゃない?」

 

 少し前の方に、ややうつむき加減に歩くヒトハとフタバがいる。南の島育ちのせいか、二人とも防寒着は着ているが、それでも少々寒そうだ。

 

「行こうよ。…おーい!」

 

と、右手を上げて声をかけながら走って行こうとするハチワレの左手を、

 

 ガシッ!

 

 かなり強い力でちいかわが掴んだ。驚いて振り向き、ちいかわを見るハチワレに、ちいかわは、

 

「(フルフル)」

 

 黙って首を横に振る。

 

「えっ? ……そうか。そうだね……」

 

 歩みを止めたハチワレ。二人はじっとヒトハとフタバの後姿を見ているだけだった。

 

++++++++++

 

 ちいかわ大戦争  終

 

 

 


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。