学園都市キヴォトスにおいて、法の支配も連邦生徒会の統制も届かない超無法地帯――ブラックマーケット。
その一角に佇む、窓ガラスが割れ放題の廃ビル。その薄暗く埃っぽい奥まったフロアで、ヘルメット団の一味がたむろしていた。
その中の一人が、煤けたヘルメットを乱暴に脱ぎ捨て、苛立ちまぎれに壁を蹴り飛ばす。
「あーもうっ! 今日はマジで最悪だ! ゲヘナでスケバンどもとシマ争いしてたら、訳のわからねえヤツにいきなりドカンとぶっ飛ばされるし、気づいたら財布までなくなってやがった! 今日はもう散々だよクソがっ!!」
頭を抱えて毒づく彼女に対し、仲間の一人が、鼻で笑いながら冷淡に切り捨てた。
「どうせ風紀委員長のヒナにやられたんだろ? ゲヘナのど真ん中で銃撃戦なんかやらかすから目をつけられるんだよ、バーカ。自業自得だっつーの」
「ちげーよ! ヒナじゃねえよ!!」
愚痴っていたヘルメット団は身を乗り出し、必死にまくし立てた。
「ヒナが出てくる前の話だっつの! 急になんかすっげえヤバい気配の貧相な男が出てきてよ! そいつの両手が『ビカッ!』って光ったと思ったら、『ドカーン!』って光線撃ってきて、周りのビルごとまとめてぶっ飛ばされたんだよ!!」
身振り手振りを交えた必死の力説。
しかし、それを聞いた周囲の仲間たちからは、同情どころか心底呆れ果てた失笑が漏れ返ってきた。
「はぁ? ビカッのドカーンだぁ?」
「なんのこっちゃさっぱり分からんわ。爆風で頭の打ちどころでも悪かったんじゃねーの?」
「てか男ぉ? マジで言ってんの? そんなの本当にいんの? 夢でも見てたんじゃねえの〜?」
信用する気ゼロの小馬鹿にした口調とゲラゲラという笑い声に、彼女のこめかみに青筋がピキピキと浮き上がる。
「あぁん!? テメエら、調子に乗って……やんのかコラァ!!」
キレかけた彼女が腰のサブマシンガンに手をかけた、まさにその瞬間だった。
「――オイッ! 侵入者だ!!」
見張り番の叫び声に、フロアの空気が一瞬で張り詰めた。
「チッ、他所のカチコミかよ!?」
「ナメたマネしやがって、ハチの巣にしてやる!!」
ヘルメット団の面々は一斉に銃を取り、怒声を上げながら廃ビルのエントランスへと殺到した。
* * *
一方その頃。
アジトの入口付近では、帽子を目深に被りサングラスをかけた不審な人影――横島忠夫が、キョロキョロと周囲を物色していた。
ゲヘナを脱出し、アルに教えられた通りブラックマーケットへと流れ着いたものの、行く宛ても金(先ほど奪った小銭以外)もない。途方に暮れて路地裏をさまよった末に、ようやく見つけたのがこの無人のように見える廃ビルだった。
「ふぅ……やっと丁度いい寝床が見つかったぜ。小汚えけど、外で野宿するよりは屋根がある分マシか……」
安堵の溜息を漏らし、転がっていた汚いソファにどっこいしょと横になろうとした――その時。
ジャキッ! ガシャッ!!
「あぁん!? テメエ、一人かぁ!?」
「いい度胸してんじゃねーかコラァ!!」
「ウチに何の用だコノヤローッ!!」
怒号とともに、薄暗がりから十数人の武装したヘルメット団が一斉に飛び出し、横島へ銃口を突きつけた。
「うわあああっ!? な、なんだなんだ!?」
飛び起きて両手を上げ、ソファから転がり落ちる横島。
顔を引きつらせて必死に両手を振る。
「ち、違う! 俺は別にケンカを売りに来たわけじゃないんだって! ただ雨風を凌いでちょっと休もうとしただけで――!」
情けない悲鳴を上げる横島を見て、ヘルメット団たちは引き金にかけた指をピタリと止めた。
銃口の先にいる相手の姿をまじまじと見つめ、ざわめきが広がる。
「……は? な、何だコイツ……?」
「え、マジ? 男……!?」
キヴォトスにおいては都市伝説か概念のような存在である「人間の男」。そのあまりにも異質な存在を前にして、さっきまでの威勢はどこへやら、一同は驚きと困惑で目を白黒させていた。
だが――その中でただ一人、背後から詰め寄ってきたヘルメット団が、横島の顔を見るなり血相を変えて絶叫した。
「あ、ああああっ!! コイツだァァァッ!! さっき言った、手から怪光線出してアタシらをビルごと吹き飛ばしたヤツ!! 間違いねえ!!」
激しく指を差され、横島は少女を凝視した。
そして昼間の乱戦の記憶が瞬時に蘇る。
「……ああっ! お前、昼間ドンパチやってた時のヤツかぁっ!?」
横島は恐怖も忘れてガバッと立ち上がると、昼間の理不尽な恐怖と痛みを思い出し、逆に食ってかかった!
「おいコラァ! よくもやってくれたな! こちとら普通の人間なんじゃ! 鉛玉を一発食らうだけで致命傷なんだよ!! おかげで頭から血ぃ吹き出して、危うく死ぬところだったんだぞコンチクショーッ!!」
「弾一発食らっただけで致命傷ぉ? 何言ってんだコイツ」
「その程度で死ぬわけないだろ。常識ねえのかよ」
「つーか、とんだビビリじゃねーか? ぎゃははは!」
横島の魂の叫びに対し、返ってきたのは心底馬鹿にしたような嘲笑だった。ヘルメット団の不良少女たちにとって、銃弾を食らってもちょっと痛くてせいぜい気絶する程度というのが世界の絶対的な理である。銃弾一発で死にかけるなどという横島の主張は、単なる大袈裟なチキン野郎の戯言にしか聞こえなかったのだ。
だが――昼間、実際にその「チキン野郎」に吹き飛ばされた当の本人は笑っていなかった。
「うるっっっせえええええ!!」
嘲笑の空気を引き裂くように、彼女はマシンガンの銃口をガタガタと震わせながら横島へと突きつけた。
「どいつもこいつも舐め腐りやがって! さっきはよくも派手にやってくれたなオラァッ!! 今ここでハチの巣にして――」
「あぁん!? 上等じゃあコラァッ!!」
横島の沸点も瞬時に限界を突破した。
散々理不尽な目に遭わされた挙句、またしても女子高生集団に銃を突きつけられたのだ。命の危機と怒りがごちゃ混ぜになり、横島の全身からブワッと凄まじい霊気が吹き上がった。
「おどれら全員まとめて、もっぺんぶっ飛ばしたるわああああっ!!」
ゴォォォォォッ!!
その瞬間、横島の頭上に、あの禍々しくも神々しいヘイローが顕現した。
キヴォトスの『神秘』とは根本からかけ離れた、異質極まりない超高密度の霊力が廃ビルのフロア全体へと津波のように叩きつけられる。
横島は両手を胸の前で大きく開き、両掌に眩い閃光を放つ霊力の奔流――『霊波砲』のエネルギーを急速に収束させ始めた。
「ヒッ……!?」
感覚が鋭い何人かのヘルメット団が、肌をジリジリと焼かれるような桁違いのプレッシャーに息を呑み、膝をガクガクと震わせて後ずさった。
だが、感覚の鈍い者は、引きつった笑いを浮かべながら虚勢を張る。
「な、なんだよ! ちょっと光ったくらいでビビるかよ、ハ、ハッタリに決まってんだろ――!」
「う、うわああああああっ!!」
絶叫したのは、昼間その光景を生で見た彼女だった。
目の前で収束していく眩い光。アスファルトを抉り、ビルを粉々に粉砕した光が、まさに自分たちに向けられている。昼間の恐怖が鮮明に蘇った彼女は、半狂乱になって尻もちをつきながら後退った。
「死ぬ! 死んじまうううううぅ!!」
「え……?」
「おい、マジかよ……!?」
普段ならどれだけ痛めつけられても悪態をつく仲間が、文字通り狂乱して失禁せんばかりに怯え切っている。そのただ事ではない錯乱ぶりを見て、虚勢を張っていた連中もようやく「目の前にいる男が本物の化け物である」という現実に気づき、一斉に顔面を真っ青に染め上げた。
フロアを包む、息の詰まるような恐怖と沈黙。
……しかし、そこで一番狼狽したのは、他ならぬ横島だった。
「……え? な、なんだよお前ら……」
掌に特大の光弾をチャージしたまま、全員が腰を抜かさんばかりに震えているのを見て、横島は急にバツが悪くなったように目を泳がせた。
「さ、先に喧嘩売ってきたのはそっちだろーが! な、なんで俺が極悪人みたいな空気になってんだよ!?」
泣きそうな声で喚く横島。
ぶっ放せばこの廃ビルごと全員消し炭になりかねない一触即発の膠着状態の中、恐怖のあまり青ざめたヘルメット団の一人が、藁にもすがる思いで叫んだ。
「お、オイッ!! お前、さっき寝床がないって言ってたよな!?」
「……え? あ、ああ、言ったけど……」
「ここ使っていいから! なんなら一番フカフカのソファ使っていいから! ここで好きなだけ寝てくれて構わないから、そのヤバいやつ消してくれええええっ!!」
それを聞いた瞬間、横島の目の色がパッと変わった。
バケモノ扱いからの歩み寄りの姿勢に、重苦しい空気にもう耐えられなかった横島はこれ幸いとばかりにヘラッとした愛想笑いを浮かべると、
「あ、そう? いいの? いやー悪いねぇ! んじゃ遠慮なく使わせてもらおうかな〜!」
「敵対する気なんて最初からないですよ」と言わんばかりに大袈裟に両手をパタパタと振り、頭上の禍々しいヘイローと掌の霊力をスッと霧散させた。そして「何も危なくないですよ」とアピールするように、わざとらしく両手を背中の後ろで組んでペコペコとお辞儀をしてみせる。
数秒前まで世界を滅ぼしかねない魔王のような威圧感を放っていた怪物が、一瞬にしてただの調子のいい貧相な男へと戻った瞬間だった。
その変わり身の早さに、ヘルメット団の面々は腰を抜かしたまま、ただただ呆然と口を開けて立ち尽くすしかなかった。
* * *
「いやー、ほんと悪かったねみんな! ボクもちょっと虫の居所が悪くてさぁ、あははは! ほら、お詫びと言っちゃなんだけど、さっきくすね……拾ったクレジットで美味いもんでも買いに行こうぜ! あ、でもあんま高いのは勘弁な? 俺の小遣いなくなっちゃうから!」
さっきまでビルを消し飛ばしかけていた男とは思えない、あまりの軽薄さと現金さ。
絶対零度まで凍りついていたアジトの空気は、横島が持ち前の三下根性をフルスロットルで発揮し始めたことで、急速に妙な方向へと解凍されていった。
横島の世渡り術は、ある意味でキヴォトスの常識を遥かに超越していた。
基本はヘコヘコと揉み手をしながら下手に出てご機嫌を取り、薄っぺらい世辞を並べ立てる。
かと思えば、不良特有の舐めた態度で調子に乗られそうになると、すかさず「……ああん? 誰に口利いてんだコラ?」と、ドスの利いた声で凄んでみせるのだ。
そして日常会話の端々からは、「時給255円」「命の危険などザラ」「普通に死ぬだけなら運が良い、悪いと動く死体となって永遠に現世をさまよう羽目になる」などという、キヴォトス基準ですらドン引きするようなエピソードがポロポロと飛び出してくる。
そんな調子でヘルメット団の少女たちを散々振り回しているうちに、数日も経つ頃には、横島はすっかりアジトの古株のような顔で馴染んでいた。
いつの間にか彼女たちの悪巧みや雑談の輪の中に、まるで昔からいたかのようなポジションで自然と収まっていたのである。
実のところ、横島忠夫という男の規格外の戦闘力と、美神除霊事務所で培われた悪辣な能力があれば、このブラックマーケットでさらに上へと成り上がることは造作もなかった。
闇の武器商人や裏社会の重鎮、あるいはカイザーコーポレーションのような巨大組織の用心棒にでも売り込めば、破格の待遇で迎え入れられ、高級タワマンでハイソな暮らしを送ることだって十分に可能だったのだ。
――だが、横島がそんな道を選ぶはずがなかった。
「ふふ……ふへへへへ……! ハイソな暮らしだぁ? 誰がするかバッカ野郎! あんなロボットや二足歩行の犬猫しかいねえとこで優雅な生活したって、なんの得にもなりゃしねえんだよ!!」
そう、横島忠夫という男にとっての優先順位は、いついかなる時も極めて明快であった。
無機質なロボットや毛むくじゃらの動物に囲まれて送る上流の生活など、彼にとってはクソの足しにもならない虚無の日々に過ぎない。
たとえオンボロの廃ビルで毛布一枚に包まる極貧生活だろうが、相手がどれだけ粗暴なチンピラだろうが、「うら若い女子高生に囲まれている」という一点のみにおいて、ここは横島にとってパラダイスだったのである。
しかも、キヴォトスには『人間の男』という概念がほとんど存在しない。
そのせいか、ヘルメット団の少女たちは男に対する警戒心というものが希薄だった。
「おい横島ー、ちょっと背中のファスナー上がんねえから上げてくれよー」
「ちょ、横島! そこのインナー取ってー!」
「あっつー……ねえ横島、うちわで仰いでくんない?」
無防備に放り出される素肌、着替え中のあられもない姿、ソファで無防備に寝転がるミニスカートの裾から覗く太もも――。
元の世界であれば、血涙を流して歓喜するイベントが、息を吸うように連日連夜タダで発生するのである。
「ぐへへへへ……! たまらん……たまらんぜキヴォトス!! 見放題! 触り放題(たまに)! 命の危険はあるが、それを補って余りある極楽じゃあーーー!!」
鼻の下を限界まで伸ばして鼻血を押さえながら、横島は至福の悶絶を繰り返していた。
* * *
横島がブラックマーケットの廃墟に居座り、ヘルメット団の少女たちに囲まれて鼻の下を伸ばし始めてから、数ヶ月が経った頃のことである。
「おーい! みんな聞いてくれよ! すっげえ割の良い仕事見つけてきたぞーっ!」
血気盛んな下っ端の団員たちが、紙の束をヒラヒラと振り回しながらアジトへと駆け込んできた。
その騒ぎを聞きつけて、駄弁っていた連中がワラワラと集まってくる。
「割の良い仕事ぉ? どうせまた武器屋の倉庫破りとかだろ?」
「ちげーよ! とある学園を襲撃して荒らしてくるだけの簡単な仕事! しかもターゲットの学園は、生徒が片手で数えられるくらいしか残ってなくて、廃校寸前なんだとよ!」
「マジで!? 相手たったの数人!?」
「おう! しかも成功報酬が弾むだけじゃなくて、事前に装備を揃えるための支度金までポンと支給してくれるんだってさ! こんなボロい話、乗らねえ手はねえだろ!」
「うひょー! 最新のグレネードランチャー買っちゃおうぜ!」と浮き足立つ下っ端たち。
だが――この数ヶ月間、修羅場を潜り抜けてきた横島の悪知恵という名の『薫陶』をみっちり受けてきたリーダー格の幹部連中は、手放しで喜ぶどころか、怪訝そうに眉をひそめていた。
(……うーん、いくらなんでも話が美味すぎる気がする……)
「おい横島、ちょっとこれ見てくれよ」
リーダー格の少女は、ソファで女の子たちに囲まれながらデレデレしていた横島の元へその依頼書を持っていき、精査を頼み込んだ。
「んぁ? どれどれ……」
依頼書に目を通した横島は、あからさまに「胡散くせー」という顔をした。
「生徒が片手で数えるほどしかいない限界集落みたいな学校相手に、わざわざまとまった支度金まで出して襲撃させるぅ? ……おいおい、どこの世界にそんな無駄遣いする酔狂なスポンサーがいるんだよ」
横島はソファからよっこらしょと腰を上げると、上着を羽織った。
「ちょっと気味が悪いな。裏取りしてくるから、それまで仕事請け負うなよ」
そう言い残し、横島はアジトを後にした。
* * *
数時間後。
すっかり日も落ちた頃、アジトに戻ってきた横島は、幹部を含めた全団員をフロアの中央に招集した。
横島は全員を見回してピシャリと言い放った。
「結論から言うぞ。この仕事は絶対に受けるな。それどころか、このクライアントとは今後一切関わりを持つな」
その言葉に、新しい武器を買う気満々だった下っ端たちが一斉に不満の声を上げた。
「ええーっ!? なんでだよ横島!」
「せっかくの儲け話なのに!」
「相手たった数人のボロ学園なんだろ!? アタシらの人数で押し潰せば余裕じゃんかよ!」
ブーブーと文句を垂れる団員たちを、横島は「黙って聞け」と手で制した。
「まず、この依頼の黒幕……本当のクライアントは『カイザーコーポレーション』だ」
「カイザー……? あのデカい会社の連中か?」
「で、ターゲットの学園の名前は『アビドス高等学校』。昔はブイブイ言わせてたみたいだが、今は砂漠化が進んで廃校寸前、生徒も本当に数人しか残ってないらしい。……そして何より、そのアビドスは現在、カイザーローンにかなりの額の借金があって返済を続けている」
団員たちは首を傾げた。
「借金? じゃあ何、借金の取り立てにアタシらを使おうってこと?」
「いや、違う。真逆だ」
横島は目を細め、机を指先でトンと叩いた。
「金の流れを洗ってみたらな……アビドスが必死こいてカイザーに収めた返済金が、そのままロンダリングされて、今回の依頼金や武器の支給資金として俺たちに流れる仕組みになってやがったんだよ」
「……は?」
「えっ、どういうこと……?」
団員たちはポカンと口を開け、お互いの顔を見合わせた。
横島が淡々と続ける。
「要するにだ。カイザーの連中は、アビドスから受け取った金をそのまま使って俺たちを雇い、金を払ったばかりのアビドスを襲撃させようとしてるんだよ」
フロアが一瞬にして静まり返った。
あまりにも奇妙で、あまりにも意味不明な構図に、団員の一人が訳が分からないといった様子で声を上げる。
「な、なんでカイザーはそんな意味不明なことすんだよ!? 金払ってくれたんなら、そのままもらっときゃいいじゃん! アタシらに金渡して襲わせる意味が分かんねえよ!」
「俺も分からん」
横島は肩をすくめた。
「少なくとも、真っ当な金目的じゃねえな。……恨みがあるのか、それとも何か別の企みがあるのか……。にしてもだぞ? 相手からむしり取った金をわざわざ使って俺らをけしかけて追い詰めるとかさぁ……」
横島は顔を盛大にしかめ、汚いものを見るような目で吐き捨てた。
「復讐だか嫌がらせだか知らねえけど、こんな陰湿でネチャネチャした変態みたいな真似するヤツ、俺は絶対に関わり合いになりたくねえ」
「…………」
その瞬間、少女たちの空気がガラリと変わった。
「変態」「陰湿」「ネチャネチャ」という、思春期の女子高生にとって最も生理的嫌悪感を刺激するパワーワードの連打。
「うわ……キモッ……」
「なにそれ、キショ過ぎ……」
「陰湿すぎて無理なんだけど……」
さっきまで「儲け話だ!」とはしゃいでいた下っ端たちまでもが、鳥肌を立てて腕をさすり始めた。
すっかりテンションがダダ下がりになり、フロアには「うーん、今回はご縁がなかったということで……」「関わらない方がいいよね……」という、完全な辞退ムードが充満していく。
その様子を横目で眺めながら、横島は内心で「よしよし」とほくそ笑んでいた。
(ふぅ……危ねえ危ねえ。コイツラみたいなのにはこの言い方が一番効くんだよ)
そう、横島があえて『変態的』『ネチャネチャしてキモい』という言い回しを選んだのは、すべて計算ずくだった。
もしここで、「カイザーという暗黒メガコーポが裏で何か途方もない陰謀を企んでいる。相手がデカすぎて首を突っ込んだらヤバい、危険すぎるからやめろ」などと理屈や損得で説得しても、血気盛んで向こう見ずな不良少女たちは、「ビビってんじゃねえよ!」「アタシらならやれる!」と、かえって意固地になって危険に飛び込んでいくに決まっているのだ。
だが、『キモい変質者』相手となれば話は別だ。
数々の女性(主に美神令子)に罵られ、ゴミを見るような目を向けられ、物理的にシバかれてきた横島は、若い女が変質者に対してどれほど拒絶反応を示すかを誰よりも知り尽くしていたのである。