列車の窓から見える海は、思っていたよりも青かった。
リナ・セルヴァは、膝の上に置いた鞄を抱え直した。
車窓の向こうでは、白い建物が並ぶ住宅街を、朝の光がゆっくりと照らしている。干された洗濯物が揺れ、道路脇の小さな店には開店を待つ客の姿があった。
どこにでもある、平和な地方都市の風景。
ただし、街のあちこちには土嚢が積まれていた。
交差点には装甲車が停まり、学校らしき建物の屋上には対空監視用の設備が設置されている。
海岸線に沿って延びる防潮堤には、遠くからでも読めるほど大きな文字で、避難区画の番号が描かれていた。
『まもなく、レイネア中央駅に到着します。軍関係者の方は、身分証明書をお手元にご用意ください』
車内放送が流れる。
リナは慌てて鞄を開いた。
書類を入れた封筒、財布、身分証明書、そして折り畳んだ配属命令書。
昨夜、三度も確認したはずなのに、もう一度確かめずにはいられなかった。
――セレスタ共同圏軍。
――レイネア駐留部隊。
――第4独立機動兵器小隊。
――操縦士、リナ・セルヴァ。
間違いない。
間違いであってほしいと思ったのは、これで何度目だろう。
リナは小さく息を吐いた。
二十歳。
軍籍二年。
戦時特例操縦士養成課程修了。
実戦経験、なし。
正式な課程名はずいぶん立派だったが、訓練施設では誰もそんな呼び方をしなかった。
短縮課程。
あるいは、速成組。
戦争が長引き、操縦士の損耗に補充が追いつかなくなったために設けられた制度だった。
操縦、射撃、緊急時の機体操作。必要な技能を優先して習得させ、通常なら配属前に行う部隊戦術や実戦環境への習熟を、赴任先で補完する。
書類の上では、必要な資格を取得した操縦士だ。
ただし、実戦部隊の一員としては、まだ完成していない。
卒業式では、教官が立派な演説をした。
諸君は既に十分な技能を備えている。
あとは実戦で経験を積むだけだ。
あのとき、隣に座っていた同期の一人が小声で言った。
「その実戦が一番難しいんじゃないの」
リナは笑った。
教官に見つかって、二人とも後で叱られた。
今なら、あまり笑えない。
窓の外で、港へ向かう大型輸送車の列が見えた。
荷台には灰色の人型兵器が固定されている。
全高、およそ五メートル。
戦場では決して大きい部類ではない。だが、普通の乗用車と並ぶ姿は、十分すぎるほど巨大だった。
肩の装甲には、遠目にも分かる焦げ跡が残っている。
リナは、無意識に視線を逸らした。
あれに乗る。
自分も、あれに乗って戦うのだ。
*
レイネア共和国は、小さな国だった。
海に面した豊かな土地と、大国同士を結ぶ交通の要衝。
地図の上では、ただそれだけの場所である。
しかし、その『ただそれだけ』が問題だった。
大国同士の対立が深刻化するにつれ、レイネアの港湾施設と輸送路は軍事的な価値を増していった。
共和国政府はセレスタ共同圏との軍事協定を結び、駐留軍の受け入れを決定した。
それに反発する国家は、この協定を共同圏による軍事的拡張だと非難した。
国境での衝突は増え、停戦交渉は何度も頓挫した。
正規軍同士の交戦。
補給車列への襲撃。
国境付近の砲撃。
破壊された道路を直した翌日に、同じ場所がまた吹き飛ばされる。
そんなことを、この国では何年も続けている。
もちろん、リナも知識としては知っていた。
訓練施設の教室では、幾度となく習った内容だ。
けれど。
「身分証を」
「あ、はいっ!」
基地正門の検問所で、リナは思わず背筋を伸ばした。
警備兵は書類を確認すると、端末を数回操作した。
「セルヴァ……第四小隊か」
「はい。本日付で着任しました!」
「そうか」
警備兵は彼女の顔を一度見て、それから書類へ視線を戻した。
「格納庫は奥の三番区画だ。赤い誘導線に沿って行けば着く」
「ありがとうございます!」
「ああ。それと」
呼び止められ、リナは振り返った。
「ここじゃ、空襲警報が鳴っても慌てて走るなよ。まず放送を聞け」
「え?」
「訓練と違って、警報にもいろいろある。港の民間船に向けたものもあれば、本当にここが狙われてることもある。分からないなら近くの古参に聞け」
「……はい」
警備兵は身分証を返した。
「ようこそ、レイネアへ」
歓迎の言葉にしては、随分と疲れた声だった。
*
「おっ、新入り?」
格納庫へ入って早々、頭上から声が降ってきた。
リナが顔を上げると、整備用の足場に一人の女性が立っていた。
作業服ではない。
軍用パイロットスーツを腰まで脱ぎ、腕に引っ掛けた状態で、工具を持つ整備兵と何かを話している。
明るい髪を後ろにまとめた女性は、リナを見下ろして笑った。
「リナ・セルヴァ?」
「は、はい!」
「やっぱり。今日来るって聞いてた」
女性は足場の階段を軽やかに降りてきた。
「ミレイユ・ハルト。ここの突撃担当。よろしく」
「あっ、よろしくお願いします! セルヴァです!」
「知ってるって」
差し出された手を握る。
思いのほか力が強かった。
「そんな固くならなくていいよ。階級は気にしなくていいし。あたしのこともミレイユでいいから」
「ですが……」
「敬語も別にいらないって」
「そ、それはちょっと……」
「ま、そのうち慣れるよ」
ミレイユは愉快そうに笑った。
その背後には、一機の人型兵器が整備架に固定されていた。
肩幅の広い、重厚な灰色の機体。
腕部には大型のショットガンが取り付けられている。
装甲の各所には、細かな傷が残っていた。
「これが……」
「あたしの機体。なかなかいいでしょ?」
「はい。すごいです」
「ま、見た目はね。こないだ脚の関節やっちゃってさ。整備班に怒られたばっかなんだけど」
「関節を……?」
「ちょっと無茶しただけ」
「ミレイユ」
格納庫の奥から、低い声が響いた。
「無茶しただけで済むなら、整備兵はあんな顔しねえだろ」
振り向くと、大柄な男が工具箱を持って歩いてくるところだった。
短く刈った髪に、少々無精な顔つき。
パイロットスーツの袖を乱雑にまくり、いかにも気難しそうな表情をしている。
「また来た。説教係」
「誰が説教係だ」
「いつも細かいこと言ってるじゃん」
「お前が細かくないことばっかやるからだろうが」
男は工具箱を整備兵に渡し、ようやくリナへ目を向けた。
「お前が新入りか」
「は、はい! リナ・セルヴァです!」
「ノア・ヴァレンだ。火力支援をやってる」
「よろしくお願いします!」
「……声でけえな」
リナは口を閉じた。
訓練施設では、もっと腹から声を出せと怒られたのに。
ノアは彼女の持っている書類をちらりと見た。
「短縮課程か」
「はい」
「操縦士が足りねえのは分かるが、ついに新任の実戦習熟までこっちへ回してきやがったか」
リナの指が鞄の持ち手を握り直す。
自分で決めた配属ではない。
訓練を早く切り上げたかったわけでもない。
言い返したいことはいくつも浮かんだが、初対面の先任隊員へ何を言えばいいのか分からなかった。
ノアは彼女の表情に気づいたらしい。
「お前に文句を言ってるんじゃねえぞ」
「……はい」
「足りない訓練を現場で埋めろって話だ。教える側の負担も考えろってんだよ」
そこでミレイユが口を挟んだ。
「だったら今から怖がらせないでよ」
「事実だろうが」
「事実でも言い方ってもんがあるでしょ」
ノアは小さく息を吐いた。
「まあ、来ちまったもんはしょうがねえ。よろしくな」
片手を上げ、整備兵のところへ戻っていく。
ミレイユが肩をすくめた。
「ああいう人だから、気にしなくていいよ」
「……怒っているわけじゃないんですか?」
「怒ってるよ。いつも何かに」
「聞こえてんぞ!」
格納庫の奥から怒鳴り声が返ってきた。
ミレイユが笑った。
リナも、つられて少し笑った。
「お二人とも、そのくらいにしてください」
今度は落ち着いた声が聞こえた。
端末を手にした細身の青年が、隣の通路から姿を現す。
「彼女が困っています」
「あ、ユリウス!」
「新人が到着したら連絡を入れるよう、伝えていたはずですが」
「今しようと思ってた」
「毎回それですね」
青年は小さくため息をつき、リナへ向き直った。
「ユリウス・フェーンです。通信と戦術情報の管理を担当しています。よろしくお願いします、セルヴァ」
「よろしくお願いします!」
「こちらがあなたの認証端末です。機体との同期設定は午後に行います。先に生活区画と基地の主要施設をご案内します」
「はい!」
リナは、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。
少なくとも、この人なら余計なことを言って怒らせたりしなさそうだ。
「ちなみに、怒らせるとこの人が一番怖いよ」
ミレイユが横から囁いた。
「聞こえています」
「ほらね」
リナは、また笑ってしまった。
*
「一つ聞いてもいいですか?」
基地の通路を歩きながら、リナはユリウスに声をかけた。
「どうぞ」
「共和国には自前の軍隊もありますよね」
「ありますね」
「その……共同圏軍の役割は、どこまでなんでしょうか。共和国軍と一緒に行動するんですよね?」
「任務によります」
ユリウスは歩く速度を緩めた。
「共同圏軍は駐留協定に基づいて派遣されています。原則として、共和国軍の全作戦を我々が指揮するわけではありません」
「はい」
「ただし、共同管理区域や指定された補給路については、共同圏軍にも防衛上の責任があります」
リナは少し考えた。
「つまり、共和国のためだけじゃなくて、私たち自身の補給路も守っている……?」
「その通りです」
ユリウスは通路の窓へ目を向けた。
窓の向こうには、港が広がっている。
貨物船。
コンテナ。
それを取り囲む防護壁と対空砲台。
「レイネアは輸送の要衝です。共和国が共同圏を必要としているのと同様、共同圏もこの港を必要としている。利害が一致しているわけです」
「なるほど……」
「ただし、敵対する国家から見れば話は違います」
「共同圏に港を使わせたくないから、ですか?」
「それもあります。彼らは、我々の駐留が地域の軍事的均衡を崩していると主張しています。実際に補給拠点として使われている以上、まったく根拠のない主張でもありません」
リナは意外そうに顔を上げた。
「敵の主張にも、正しいところがあるんですか?」
「相手の認識に合理的な部分があることと、武力行使が正当化されることは別問題ですよ」
ユリウスは淡々と答えた。
「相手を理解せずに戦えば、行動を予測することもできません」
「……はい」
「座学では習いませんでしたか?」
「あっ、概要は。ただ、最後の方は試験範囲が変わって……」
リナは言いかけて、口を閉じた。
言い訳に聞こえただろうか。
ユリウスは彼女を責めなかった。
「短縮課程の事情は聞いています。明日、現地の作戦区域について説明しましょう」
「ありがとうございます」
「ただし、知らないことは早めに質問してください。戦場で初めて知るより、今知っておいた方がいい」
「はい」
リナは窓の外を見た。
港の近くには、普通の住宅街が広がっている。
路上を子供たちが歩き、パン屋の前には数人の客が並んでいた。
「あの人たちは……避難しないんですか?」
「避難できる人は、既に内陸へ移動しています」
「じゃあ、残っている人たちは」
「移動する手段がない人もいます。土地を離れたくない人もいます。仕事がある人も」
ユリウスは立ち止まらなかった。
「戦争中だからといって、全員が生活を止められるわけではありません」
リナは、その言葉に何も返せなかった。
教科書には、そんなことは書かれていなかった。
いや、書かれていたのかもしれない。
ただ、そこに暮らす人間の顔までは想像していなかった。
*
昼食は、小隊の四人が揃って取ることになった。
基地の食堂は、思いのほか賑やかだった。
整備兵が愚痴をこぼし、補給担当が食材の不足を嘆き、壁際のテレビでは国境付近で発生した小規模な交戦について報道している。
リナはトレーを持ったまま、席を探した。
「こっちこっち」
ミレイユが手を振っている。
隣にはノアが座り、その向かいにはユリウスがいる。
リナが席に着くと、ミレイユがさっそく身を乗り出した。
「ねえ、リナ。人型機の実戦経験は?」
「ありません」
「訓練機は?」
「実機で二百時間くらいです。シミュレーターはもっと」
「おっ、結構乗ってるじゃん」
「いえ、その……同期の中では普通くらいで」
「射撃は?」
「資格試験では、上位の成績でした」
「いいね!」
ミレイユが嬉しそうに笑う。
「じゃあ今度、模擬戦やろうよ」
「えっ」
「二対二とかさ。せっかく五人揃ったんだし」
ノアが食事の手を止めた。
「お前、新人を初日から潰すつもりか?」
「潰さないって」
「前にもそう言って整備行きにしただろ」
「あれは機体の問題!」
「操縦士の問題だ」
「だから違うってば」
「……模擬戦の予定は後日調整します」
ユリウスが割って入った。
「今日は機体の登録と基本操作の確認が優先です」
リナは、心底ほっとした。
しかし、一つ気になることがあった。
「あの……」
「ん?」
「隊長は、いらっしゃらないんですか?」
「隊長?」
ミレイユが首を傾げる。
「たぶん、まだ司令部じゃない?」
「本日の作戦会議に出席しています」
ユリウスが答えた。
「午後には戻る予定です」
「そうなんですね」
リナは少し迷ってから、続けた。
「どんな方なんでしょうか?」
「どんなって……」
ミレイユは考え込んだ。
「普通に話せばいいと思うよ。変にかしこまると、逆に疲れるんじゃない?」
ノアが鼻を鳴らした。
「お前はもうちょいかしこまれ」
「えー」
「少なくとも、現場の事情はよく理解している方です」
ユリウスが付け加えた。
「あなたの訓練記録も既に確認されています」
「そうなんですか?」
「ええ。配属前に」
「……緊張します」
「お前が勝手に緊張してるだけだろ」
ノアは水を飲んだ。
「まあ、変に遠慮する必要はねえぞ。あの人だって、最初から隊長だったわけじゃねえ」
「前は何をされてたんですか?」
「前線だよ。隊長補佐でな」
ミレイユがノアを見る。
ノアは一瞬、口を閉じた。
「……ま、詳しいことは本人に聞け」
それきり話題は変わった。
リナには、何かを聞きそびれたような気がした。
けれど、初日にそこまで踏み込む勇気はなかった。
*
午後。
格納庫の一番奥で、リナは自分の機体と対面していた。
灰色の装甲をまとった、全高約五メートルの人型機動兵器。
他の機体と比べると、装備は控えめだった。
主武装はライフル。
追加の重火器もなければ、特殊な改造も施されていない。
至って標準的な機体だ。
「これが……私の」
「そう。今日からあんたの相棒」
ミレイユが隣で言った。
「ちゃんと面倒見てあげなよ」
「はい!」
「機体は人間と違って、根性で直ったりしないから」
「……それ、お前が言うか?」
後ろからノアの声がした。
ミレイユは聞こえなかったことにしたらしい。
「セルヴァ」
ユリウスが呼んだ。
「一つ、確認しておきたいことがあります」
「はい」
「訓練で学んだことを、ここですべて捨てる必要はありません」
「……はい」
「ですが、訓練通りに進まないことは珍しくない。そのときは、まず状況を報告してください。判断できないことを隠す必要はありません」
「分かりました」
「通信を維持すること。それだけは忘れないでください」
ユリウスは少し間を置いた。
「我々は五機で一つの小隊ですから」
リナはゆっくり頷いた。
五機。
自分を含めて、五人。
そのときだった。
格納庫の入口付近から、足音が聞こえてきた。
ミレイユが顔を上げる。
「あ、隊長」
ノアが振り返った。
ユリウスも端末を下ろす。
リナは反射的に背筋を伸ばした。
軍服姿の男が、一人、格納庫へ入ってくる。
三十代前半ほど。
周囲の隊員たちが、特別に大きな声を上げることはなかった。
ノアは軽く片手を上げ、ミレイユはいつもの調子で声をかけた。
「お疲れ、隊長。会議どうだった?」
「長かった。もう少しで椅子に根が生えるところだったな」
「うわ、最悪じゃん」
「しかも明日もある」
「ご愁傷さま」
男は三人に軽く応じると、リナへ視線を向けた。
ユリウスが口を開く。
「本日付で配属された、リナ・セルヴァです」
「あっ!」
リナは慌てて敬礼した。
「本日より第4独立機動兵器小隊に配属されました、リナ・セルヴァです! よろしくお願いいたします!」
少々、声が裏返った。
ミレイユが横で小さく笑うのが聞こえた。
男は敬礼を返した。
「アレックス・ウォードだ。よろしくな、セルヴァ」
「はい!」
「長旅だったろ。部屋はもう確認したか?」
「まだです! このあと案内していただく予定です!」
「そうか。じゃあ今日は機体登録までにしておこう。明日から習熟訓練だ」
リナは少し驚いた。
初日にいきなり模擬戦をさせられると、どこかで覚悟していたのだ。
「……よろしいんですか?」
「何が?」
「その、実機訓練をしなくて」
「明日から嫌ってほどやるさ。今日は手続きだけでいい」
アレックスは手にしていた端末を軽く上げた。
「記録は読んだ。操縦と射撃はできるんだろ?」
「はい!」
「なら、あとは小隊で動けるかどうかだな」
横からノアが口を挟んだ。
「それが一番面倒なんだよ」
「そうだな」
アレックスは否定しなかった。
「だから明日やるんだよ」
あまりにも普通のやり取りだった。
リナは少しだけ拍子抜けした。
歴戦の指揮官と聞いて、もっと近寄りがたい人物を想像していた。
けれど、目の前の男は特別に威圧的でもなければ、必要以上に優しくもない。
ただ、普通に話をしている。
それが、かえって不思議だった。
*
夕方。
リナは生活区画で、荷物の整理をしていた。
小さな個室だった。
ベッドと机、衣装棚、それに外を見渡せる窓が一つ。
窓の向こうには、夕日に染まった港が見える。
遠くでは、人型兵器が二機、整備区域へ向かって歩いていた。
ゆっくりとした足取り。
巨大な脚が地面へ着くたび、遠くの地面を伝わる低い振動が窓枠をわずかに震わせた。
その光景は、どこか奇妙だった。
人間が暮らす街に、人間を殺すための機械が歩いている。
その隣では、子供が自転車を走らせている。
どちらも、この国では日常なのだ。
リナは鞄から一枚の写真を取り出した。
訓練課程の修了式で撮った、同期たちとの集合写真。
真ん中に写った自分は、随分と嬉しそうに笑っていた。
「……みんな、どうしてるかな」
配属先は、それぞれ違う。
後方の補給部隊。
都市防衛隊。
訓練施設の教官補佐。
そして、自分は実際の交戦地域に配属された。
机に写真を置く。
端末を開くと、部隊の共有資料が届いていた。
セレスタ共同圏軍 レイネア駐留部隊 第4独立機動兵器小隊。
通称、第四小隊。
戦術無線呼出符号、HERON。
隊長、アレックス・ウォード。
突撃担当、ミレイユ・ハルト。
火力支援、ノア・ヴァレン。
通信・電子支援、ユリウス・フェーン。
標準機操縦士、リナ・セルヴァ。
五人の名前。
それぞれの機体識別情報と通信手順。
隊長の経歴については、所属と役職以外、ほとんど記されていなかった。
その下には、自分の訓練評価が表示されていた。
操縦技術、優秀。
射撃技能、優秀。
機体制御、優秀。
部隊戦術運用評価――配属後継続。
最後の一行を、しばらく見つめた。
卒業試験の結果が出たときは、あれほど嬉しかった。
それでも、こうして実戦部隊に来てみると、紙に書かれた評価などひどく頼りなく感じられる。
窓の向こうでは、港の灯りが一つ、また一つと点き始めていた。
リナは端末を閉じた。
明日から、訓練が始まる。
今度は、卒業のためではない。
生きて帰るための訓練だった。