不機嫌な特異点と脳内ツッコミ過多な日常   作:小桜紫雨

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第三章 魔大陸ヴァルハラ=グラビティス蹁
第23話


第23話:不機嫌な特異点と天空の脳筋王国

 

放課後の教室に漂っていたのは、極上の出汁の香りと、相変わらずの静謐な絶望感だった。

窓の外には、平成初期の緑豊かなグラウンドと、何事もないようにそびえる鉄筋コンクリートの校舎――だが、その外縁を縁取るのは、空間そのものが数ミリ単位でねじ曲がった特異点の地平である。

 

桜雅は窓際にアンニュイにもたれかかり、退屈そうにスニーカーのつま先をブラブラと揺らしていた。

その足指は、数分前まで目の前で土下座していた「親宇宙の神」の神聖なる下唇を、絶妙なトルクでホールドしていた名残――いや、現在進行形で軽く挟み込んでいる。

 

「ぐぇっ……! お、お、おうが様、ち、ちょっ、足の親指の締め付けが重力定数超えてるって! 宇宙の理がねじれちゃうから! マジで顔のパーツの配置がスパゲッティになっちゃうから解放して!」

 

情けない悲鳴を上げる神のローブを無視し、桜雅は気だるげに鼻を鳴らした。

 

「うるせぇよ、クソ神。お前のその軽薄な顔を見ると、自然と足指のグリップが強まる仕様になってんだよ。で、なんだって? また面倒臭そうな厄介ごとを持ち込んできやがったな」

 

≫《オウガさん、神波形からの超空間スキャンによると、どうやら南方の上空数千メートルに位置する『魔大陸』からの直通SOSパケットを、この神のポンコツ回路が勝手に受信したみたいですね。……見事にエラーコード吐きまくりです》

 

アオイの冷静な分析が、桜雅の脳内に直接冷徹な数値を叩き込む。

その横で、アイリがけたたましく笑い声を上げた。

 

≫《うけるー! なんか向こうの脳筋ども、崖から落っこちそうになってガチ泣きしてるらしいよ! オウガ、助けに行ってあげるの?》

 

「誰が助けに行くかよ。俺はただ、自分の平穏と美食を邪魔されるのが一番嫌いなの。……おっと、ミツキ、油断してるとそのスライムボディを重力で圧縮してペチャンコにするぞ」

 

≫《……オウガ様、そんな乱暴なことばかり仰るから、また変なトラブルを引き寄せるのです。もっとこう、淑やかな――きゃっ、そんなに見つめないでくださいまし!》

 

脳内での三者三様のガヤを片耳で聞き流しながら、桜雅は神の下唇から足指をスッと抜いた。

神は「ひぃっ……!」と涙目になりながら床を自由落下レベルで這いつくばり、その背後――教室の扉を蹴破るようにして、一人の男が倒れ込んできた。

 

ボロボロの軍服――漆黒の重厚なフルプレートアーマーに身を包み、全身から尋常ならざる殺気と泥を纏った男。

魔大陸の十三王国が誇る各国の四天王の若頭のひとり、シュヴァルツ・オストライヒ帝国から派遣された特使だった。

 

「はぁっ、はぁっ……! 死ぬかと思ったわボケ……! なんなんだあのクソみたいな空間歪曲は! 各国四天王の精鋭52人で道すがら転送魔法をリレーして、やっとこさこの空間に辿り着いたってのに……他の奴らは全員、途中の重力波で縦に引き延ばされて消滅したぞ!」

 

男は荒い息を整えながら、教室の真ん中に立つ「神」を睨みつけた。

その視線は、冷ややかな侮蔑と絶望の色に満ちている。

 

「……なんだこの軽薄な野郎は。おい、聞いてた話と違うぞ。世界を救う『理を書き換える特異点』ってのは、もっとこう……こうだな。威風堂々な各国の魔王様みたいな奴じゃないのか? なんだ只のガキじゃねぇか!」

 

男の言葉に、神は青ざめながら必死に手を振った。

 

「い, いや待て待て待て! 見た目はアレだけどな、中身はガチのバケモノだから! ほら、さっきまで俺の下唇を足指でホールドして地球の自転軸狂わせようとしてた恐ろしいお方だから!」

 

「余計なこと言ってんじゃねぇよ、クソ神」

 

桜雅が冷ややかに視線を落とすと、男はゾクリと背筋を凍らせた。

ただの高校生の冷めた目――そのはずなのに、視界の端の空間がわずかに波打ち、重力のプレッシャーが物理的な質量となって男の肩にのしかかる。

 

「……っ!? なんだ、この重さは……魔力じゃない、物理法則そのものが俺を押し潰そうとしている……?」

 

「で? 用件は何だ。俺の貴重な昼下がりを邪魔しただけの理由が、納得いくものじゃなかったら、お前もその自慢の筋肉ごとスパゲッティにして、そこのクソ神の鼻の穴に詰めてやるよ」

 

冷徹な桜雅のトーンに、男は冷汗を流しながらも、歯を食いしばって頭を下げた。

 

「……頼む! 我らの故郷『魔大陸ヴァルハラ=グラビティス』を救ってくれ……!」

 

男が語ったところによれば、魔大陸は元々海抜200メートルの高台にあって広大な領土を誇っていたが、近年の局所的な重力異常(定数狂い)により、地殻ごとの重力が当時の5分の1まで低下してしまったという。

浮力が過剰に働いた結果、大陸全体の標高が文字通り跳ね上がり、現在は1,000メートルの垂直な絶壁がそびえ立つ天空の孤島と化している。

大気は薄くなり、作物は育たず、魔王たちの城やインフラも自重で崩壊寸前。力づくではどうにもならない限界を迎え、13人の魔王たちが土下座覚悟で桜雅への助力を求めてきたのだと、男は絞り出すように語った。

 

「……ふん。重力が1/5に低下して、天空の孤島ね。物理の基礎もなってねぇバカな現象だな」

 

桜雅が鼻で笑ったその時、教室の奥の空間がふっと揺らいだ。

そこからひょっこりと顔を出したのは、絶対零度のバグを纏った小さな影――ナノだった。

 

「がくえんちょう、ごはん……できたよ。きょうは、あったかいおみそしると、ふっくらごはん……だよ」

 

小さな両手で椀や膳を抱え、トコトコと歩いてくるナノ。

その姿を見た魔王の使いの男は、目を見張り、次の瞬間、激しい怒りに顔を歪めた。

 

「なっ……!? まさか、この人間離れした空間に、こんな小さな黒目(くろめ)の少女が奴隷として囚われているのか……!? 人非ざる鬼畜の所業め! 天空の魔大陸の危機どころか、目の前の外道を見過ごすわけにはいかねぇ!」

 

男が腰の剣に手をかけようとした瞬間、アオイの冷徹な念話が響いた。

 

≫《オウガさん、この脳筋特使、盛大な勘違いをキメてますね。情報処理能力に少々難ありと見た》

 

「あ? 誰が奴隷だって? お前、目ぇ腐ってんのか」

 

桜雅が呆れたようにため息をつき、ナノの頭をポンと軽く叩いた。

ナノはきょとんとした顔で桜雅を見上げ、「おいしいよ」と小さな微笑みを浮かべる。

 

「こいつは俺の学舎(マイルーム)にいる保護対象だ。奴隷じゃねぇよ。……ほら、冷めちまうだろ。お前もそこに座れ」

 

「は……? え?」

 

戸惑う特使の男を強制的に席に座らせ、ミツキが用意した温かい味噌汁と、アイリが生成した極上の牛肉の煮込みがテーブルに並べられる。

最初は疑心暗鬼だった男だが、恐る恐る口に運んだ瞬間、その表情が劇的に変わった。

 

「ん……!? うまっ……!? なんだこれ、旨味が脳髄まで直接染み渡るぞ……!? 他大陸の雑食どもが食う泥のような飯とは訳が違う……!」

 

「当たり前だ。俺の異空間で作る料理に妥協はねぇよ」

 

桜雅はふてくされたようにそっぽを向きながらも、男が汁物を飲み干すのを見て、どこか満足げな気配を隠さない。

 

すっかり打ち解けた(というか、胃袋を掴まれた)特使の男は、ふと真面目な顔になり、魔大陸のさらなる秘密を語り出した。

 

「……実はな、我が魔大陸ヴァルハラ=グラビティスが他の大陸と決定的に違う点がある。それは、我が大陸だけが『黒目女性』を一切の差別なく手厚く保護し、敬ってきた歴史があるということだ」

 

「……黒目を保護、ね」

 

桜雅の目がわずかに細くなる。

 

「ああ。魔大陸の環境下では、黒目女性たちが本来持っている秘められた力が覚醒しやすい。彼女たちが覚醒すると、自分以外の他者に対しても絶大な治癒・回復魔法を行使できるようになり、さらには他の属性魔法をランダムで一つ自在に扱えるようになるのだ……もっとも、近年の重力異常と環境悪化で、その覚醒者たちも衰弱しているんだがな」

 

≫《オウガさん、黒目女性の覚醒メカニズム、および異世界の魔法体系の根幹に関わる重要データです。現地調査の価値が十分にありますね》

 

アオイの冷静な指摘を聞きながら、桜雅は最後の一口を飲み干した。

 

自分の退屈を埋めるための娯楽、そして黒目女性たちの秘密と理不尽な世界の仕組みを暴くため――。

桜雅は椅子から立ち上がり、スニーカーのかかとを床に鳴らした。

 

「決まったな。……おい、そこの脳筋特使」

 

「は、はいっ!」

 

「お前たちのそのボロボロの魔大陸とやら、ちょっと俺の足で……綺麗にリセットしてやりに行こうじゃねぇか」

 

不機嫌な特異点は、こうして新たな退屈しのぎ――天空の重力異常大陸『魔大陸ヴァルハラ=グラビティス』へ向け、重力の錨を降ろす事にした。

 

◇

 

≫《……なぁ、オウガ。あーし、いまいち状況が飲み込めてないんだけど。なんでこの特使のオッサン、大型観光バスの助手席で正座して泣きそうな顔してんの?》

 

アイリの脳内ツッコミを右耳から左耳へと受け流しながら、桜雅は大型バスの運転席で大型二種免許などハナから持っていない手つきでハンドルを握っていた。

 

「知るか。本人が『我らの国シュヴァルツ・オストライヒ帝国へお連れします!』って意気揚々と案内役を買って出たから、そのまま乗っけただけだ」

 

空間を重力歪曲で拡張し、平成初期のデザインを模した巨大観光バス数台へと連結された特異空間。そこには、桜雅が救出してきた総勢3,300人を超える生徒(黒目女性たち)が乗り込み、まるで修学旅行の第二弾と言わんばかりの賑やかさでワイワイと歓声を上げていた。

 

「ひぃぃっ……! な、何だ何なのだ、この鉄の巨箱は……!? 馬も魔物も繋がれていないのに、なぜ時速200キロ以上で爆走しているのだ!? しかも車内が絶妙に快適で、揺れすら感じねぇ……! 物理法則はどうなってやがる……!?」

 

助手席でガタガタと震えているのは、ボロボロのフルプレートアーマーを着た脳筋特使である。

 

≫《オウガさん、この脳筋特使の心拍数が上昇中です。車内の重力慣性を完全相殺しているため、彼の認知空間と運動力学のギャップで脳がバグを起こしていますね》

 

アオイが呆れ顔で数値を弾き出し、ミツキが深々とため息をつく。

 

≫《……お気の毒に。オウガ様の理不尽な重力操作に巻き込まれると、どのような強者もこのように哀れな姿になってしまうのです。ですが、車内の女子生徒たちが楽しそうに旅のおやつを交換しているのは、微笑ましい光景ですね》

 

「うるせぇ。静かにしてねぇと、このバスごと垂直落下の重力加速で崖から突っ込ませるぞ」

 

「ひぃっ!? それだけはご勘弁をぉぉぉっ!!」

 

特使が絶叫する中、バスは魔大陸の荒涼とした絶壁を抜け、途訪もない大自然の渦へと躍り出た。

 

道中、一行の視界を覆ったのは、文字通り天を突くような標高から叩きつけられる標高2,000メートル級の巨大な大瀑布だった。

重力異常によって引き上げられた地殻の隙間から、地下水脈が爆発的な水量を噴き出し、水煙が重力レンズ効果で七色の虹となって空間を彩っている。その滝壺の先には、湧き上がる透明度抜群の広大な地下湖と、地熱によって絶えず湯気を立ち上らせる天然の巨大温泉湖が広がっていた。

 

「わあぁぁっ! すごい、お風呂だ! 温かいお湯だよ、お兄ちゃん!」

 

ナノが窓にへばりついて目を輝かせる。生徒たちからも一斉に歓声が上がった。

 

「よし、ちょうどいい。ここで一旦休憩だ。全員、長旅の汗を流してこい」

 

桜雅がバスを湖畔に横付けすると、生徒たちはキャッキャと声を上げながら湖畔へと駆け出していった。

湖の端には足を浸けるのにちょうどいい足湯エリアがあり、中央の広い温泉エリアからは心地よい硫黄と鉱物の香りが漂っている。

 

……だが、桜雅は重大な失策を犯していた。

 

「……おい、ちょっと待て」

 

「む? どうしたのだ、オウガ殿。むおぉ、この湯は心地よいな! 遠征の疲れが吹き飛ぶようだ……って、ぬあああぁぁぁっ!???」

 

足湯でほっと一息つこうとした桜雅と、その隣に座った特使の視線の先――。

湯気立つ巨大な温泉湖には、服を脱ぎ捨てて素肌を晒した3,300人以上の黒目女性たちが、開放感から文字通り全裸で湯浴みを楽しんでいたのだ。

 

白く豊かな肢体、滑らかな背中、湯気に霞む圧倒的な密度の美の暴力。

 

「「……っ!!???」」

 

桜雅と特使の顔面が、一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤に染まり上がった。

 

「お、お前……! 見るんじゃねぇ、このエロ男!!」

 

「無礼な! 好きで見ているわけではないわ! だが、貴様こそ見るな! 乙女たちの清らかな肌だぞ!!」

 

突如としてパニックに陥った二人は、お互いの顔を跳ね起きるように振り向き、動転のあまり相手の顔面へと手を伸ばした。

 

「見るなと言ってるだろ!!」

 

「貴様こそ目を背けろ!!」

 

ガシッ!!

 

互いに相手の両目を掌で固く覆い隠す二人。

 

「……あ」

 

「……ん?」

 

静寂が訪れる。

 

「……おい、脳筋。お前、俺の目を塞いで……お前自身の目はどうやって隠してんだ?」

 

「……む? 待て、俺が貴様の目を隠し、貴様が俺の目を隠しているということは……」

 

互いに相手の顔に両手を押し当てているため、自分自身の眼孔を塞ぐ手が残っていない。

視界はシャットアウトされているものの、互いの掌の隙間から、温泉湖の眩しすぎる光景がチラチラと脳裏に焼き付いていく。

 

≫《うけるー! ナニやってんのあの二人!? 互いに目隠しし合ってロックしちゃってんじゃん! バカなの? バカなのね!?》

 

≫《概念上の『視線遮断のパラドックス』ですね。相互に観測を遮断し合おうとした結果、自己の観測権限を放置するという初歩的な論理エラーです。実に間抜けです》

 

≫《……あ、呆れました。オウガ様、そのような体勢で密着しておられないで、早く後ろを向きなさいませ! 破廉恥です!》

 

「くそっ、離せ脳筋!!」

 

「貴様こそ手をどけろ!!」

 

すったもんだの末に二人で泥の中に派手に転がり落ち、ようやく背を向けて湯に浸かり直した頃には、桜雅の体力と精神力はごっそり削られていた。

 

湯から上がり、赤みが引かない顔でタオルを首にかけた桜雅は、呆れたように息を吐きながら特使を見上げた。

 

「……はぁ。そういえば、お前の名前も聞いてなかったな。おい、脳筋。お前、名前はなんてんだ」

 

特使はハッと表情を引き締め、濡れた髪を豪快にぬぐいながら胸を張った。

 

「ハッ! 遅くなりました! 我は『シュヴァルツ・オストライヒ帝国』が誇る第一騎士団団長、コンラートと申します!」

 

「コンラートね。……で、お前らの国と王様はどんな感じなんだ? 噂じゃ魔大陸の奴らは全員脳筋で好戦的だって話だったが」

 

「な、なにを言うか!」

 

コンラートはフンと鼻を鳴らし、どこか誇らしげに、しかし少し寂しそうに語り始めた。

 

「我がシュヴァルツ・オストライヒ帝国は、確かにお世辞にも優雅とは言えん。全員が鍛錬を好み、言葉遣いも荒い『大阪弁』のようなノリの脳筋ばかりだ。我が主、ハインリヒ王も『なにボサッとしてんねん、ハヨ鍛練せい!』と怒鳴り散らすような荒っぽいお人だが……」

 

コンラートの目が、温かい光を帯びる。

 

「だが、王も国民も、健気で真っ直ぐな奴らばかりだ。この数年の重力異常で作物が育たず、城がバキバキと崩れていく中でも、王は自ら土工に出て民の家を補修し、自分の一日分の食料を幼子に分け与えておられる。黒目の女性たちを迫害から守り抜いてきたのも、我が国の誇りだ。『理不尽に泣いてる奴を見過ごすのは男がすたる』……それが我が国の理屈でな」

 

「……ふん」

 

桜雅はふてくされたようにそっぽを向いたが、足指の力がふっと抜けた。

 

「へぇ……筋は通ってそうだな」

 

数時間後。バスはついに『シュヴァルツ・オストライヒ帝国』の国境門へと到達した。

 

そこに広がっていたのは、確かに重力異常によって建物が傾き、石畳が割れ、決して裕福とは言えない城下町の姿だった。しかし――。

 

「コンラート! 帰ってきたんか自分!!」

 

「うおおぉぉっ! 特使のコンラート様が『特異点』の御方を連れて帰ってきたぞー!!」

 

ボロボロの作業着を着たマッチョな男たちや、素朴なドレスを着た黒目の女性たちが、目を輝かせてバスを取り囲んだ。その誰もが、飢えや困窮に喘ぎながらも、健気で力強い笑顔を浮かべている。

 

「よう戻ったな、コンラート!!」

 

城門の奥からドカドカと大股で歩いてきたのは、豪快な髭をたくわえた巨漢の男――シュヴァルツ・オストライヒ帝国の魔王、ハインリヒ・フォン・プロイセンその人であった。

 

「なにボサッとしてんねん! 遠路はるばるよう来てくれたな、特異点のお兄ちゃん! ワシがこの国の王、ハインリヒや! 粗茶も出せんようなボロ国やけど、歓迎するでぇ!!」

 

ガハハと豪快に笑い、桜雅の肩をバンバンと叩く魔王。その手には、自ら畑で収穫したと思われる、少し小ぶりな根菜が握られていた。

 

「……チッ、暑苦しいおっさんだな」

 

桜雅は嫌そうに顔を背けたが、その瞳には冷たさはなかった。

 

≫《オウガさん、魔王ハインリヒのバイタルおよび脳波パターンを解析。重力の定数狂いによる壊滅的な経済状況にもかかわらず、国民への敵意や欺瞞はゼロ。純度100%の脳筋善人ですね》

 

≫《うけるー! ホントに関西弁のオッサンじゃん! あーし、こういうストレートなバカ嫌いじゃないわー!》

 

≫《……ええ。お言葉は荒いですが、民を想う温かい心が感じられます。オウガ様、ここなら安心して『リセット』が行えますね》

 

「……おい、ハインリヒの親父」

 

桜雅はポケットに手を突っ込み、傾いた王城を見上げた。

 

「この傾いたボロ城と、バグった重力……ついでに綺麗サッパリ、更地にしてやり直してやろうか?」

 

「は……? 更地……!?」

 

不機嫌な特異点は、健気な脳筋どもが暮らす天空の国で、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

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