SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
この世界が、ファンタジーからSFにジャンル変更を果たしたのは、1000年ほど前の出来事がきっかけである。
勇者パーティーが魔王を倒し、それからちょろっと平和を満喫していた頃のこと。
宇宙から、大量の戦艦がやってきたのだ。
そこに乗っていたのが、いわゆる「異星人」というやつである。
彼らはこの世界に、「科学」を齎した。
その結果、この世界は急速に文明を発展させて──同時に、魔法を廃れさせていった。
魔力を持つ一部の人間しか使えない魔法と、万人がその恩恵を享受できる科学。
どちらがより支持されるのか、どちらがより社会に普及するのかは、考えなくても分かるだろう。
魔法や魔力と言った、所謂ファンタジーな要素は少しずつ、長い時間をかけて消えていった。
そうして出来上がったのが、今この時代、この世界──という訳である。
「分かったか? バイトちゃん」
「ありがと、テンチョー。先生の授業より分かりやすかったよ、やるじゃん!」
「まあ、教師やってたこともあるからな……」
相変わらず閑古鳥の鳴いてる我が骨董品屋。
俺はソファに身を沈め、欠伸交じりに思い出す──教師といっても、五教科とかやってた訳じゃないけどな。
「でもさあ、これって少し変じゃない?」
「何が?」
「だって戦艦で来たってことは、異星人は侵略しに来たってことなんじゃないの?」
「バイトちゃん……目の付け所だけは優秀だな」
「だけってなんだー!?」
もきゃ~って感じに立ち上がるバイトちゃんであったが、この今の時代の成り立ちみたいなの、ただの常識だからな。
説明させられてる俺の気持ちにもなってほしい。
小学生とかに教えてる気分だからね、いやマジで。
俺は溜め息混じりながらも、疑問を解いてやる。
「そりゃもちろん、戦いは起こったよ。星間戦争つってな──3日3晩の激しい攻防があった」
「……たった3日?」
「そ、たったの3日──当時はまだ、魔王を殺した勇者パーティが健在だったからな」
人知を超えて、魔王さえ凌駕した4人の英雄。
彼らは文字通りの超人で、たった4人で戦艦をバカスカ落としまくった。
そして当然、異星人側もバカスカとビームだの何だの撃ってきた。
そしたらまあ、当然大陸は、バカスカとぶっ壊れていったのだ。
で、その結果──気付いたのである。3日で。
このままだと、この星が先に死ぬことを。
それは勿体ないと──まあ、異星人側が判断し、この世界は……というか、この星は、「宇宙連盟」という途方もなくデカい組織の一員となった。
数多の高度な技術が齎されたのは、それからのこと。
当時、バリバリ現役の勇者パーティーが残っていなければ、今頃この星は、植民地みたいになっていただろうとは、学者たちのお墨付きである。
今の平和な日常は、かなりの幸運の上に成り立ってるってことだな。
「……凄かったんだね、勇者って」
「そりゃもう。本気を出せば、一太刀で星を両断できるようなやつだったよ」
「おぉ、流石当事者。言葉の重みが違うね」
バイトちゃんがそう言って、にやりと笑う──ここまで話せば分かるだろうが、俺は当時から今まで生き延びている人間だ。
だから、年齢にしてみれば、ざっと1500歳。
見た目が変わらないだけで、結構ジジイなのである。
「見てみたかったなぁ……」
「あんまり見てて、気分の良いもんじゃなかったけどな。絶え間のない爆炎とかビームだぞ」
「映画みたいで良いじゃん。今なんて、そういうのとはすっかり無縁なんだしさ。魔王城とか、中学生の修学旅行先なんだよ!?」
「高校だと別の星行くのが主流だもんなあ」
時の流れというか、
人類の発展というのは実に日進月歩なものである。
それが、外の星から輸入した技術によって、まるで早送りのようになったのだから、俺としては何だか笑えてしまうくらいだ。
到達するのに十年かけた魔王城が、今なら転送装置で一瞬である。
宙空列車に乗ったとしても、3日もかからない。
全く、素晴らしい時代になったもんだよ、本当に。
「よーう、やってるか? 店長さんよ」
と、不意に。
カランコロンと扉が開き、30代ほどの男性がやってきた。
気さくに笑い、軽く手を挙げている。
「おっ、いらっしゃい。久々だね、大佐殿」
「よせやい、役職名で呼ぶんじゃねぇよ。ここでくらい、一般市民でいさせてくれ」
そう言って、肩を竦めたのはアーマイト大佐。
言わずとも分かるだろうが、れっきとした軍人である。
若くしてそこまでの地位に上り詰めただけあって、その実力はかなりのもんだ。
数年前に、近くの飲み屋で知り合って以来、こうして店に来てくれる──まあ、一応客だ。
ほとんど冷やかしだけどな。
「お嬢ちゃんも、お久だな。学校はどうよ?」
「覚えることがいっぱいで、大変ってレベルじゃないよ〜。大佐、どうにかして〜?」
「だっはは! 苦労こそが青春になる。今のうちに、めいっぱい大変になっておけ!」
「うへぇ、おじさんくさーい」
「こう見えて、おじさんだからな」
「どう見てもだろ──で? 何か用か?」
お客さんと言っても、友人だ。
ソファに身を任せたまんま、片手を振りつつ言えば、大佐は呆れたように笑った。
それから、巾着袋をふわりと投げてきた。
受け取ると、意外と重い。
「何だこれ……金貨? 一体何をさせるつもりだよ……」
「そんな険しい顔するなよ、くれてやるなんて言ってねーだろ。ただ、鑑定をお願いしたくてな」
「鑑定……?」
重ねて珍しい、と思った。
今時金貨を見ることも、鑑定を依頼されることも。
大体AIに任せておけば、ちゃんとした鑑定結果が出てくるもんだ。
「この前まで派遣されてた星で親切にしてくれた人がな、それは呪われた金貨だって言うんだよ」
「何か風向き変わってきたな。え? 捨てて良い?」
「曰く、長く持ってると不幸が降り注ぐんだと。歴代の持ち主は、家が燃えたり、異音に悩まされたりと、バリエーション豊かな不幸を味わったそうだぜ」
「何その怖い話……」
今の時代、オカルトってもんはない。
大体が科学で証明されてるからな。
だから──それでも、そういう曰くが付いてるもんは、大体パチモンだ。
本当に、ただただタイミングが悪かっただけってのが多い。
だけど。
そうでないものも、中にはある。
本当に、極希だけれども。
「それを押し付けられちまって、扱いに困ってたんだ。だから店長──最後の魔法使い殿、よろしく頼むよ」
「その名で呼ぶな──仕方ないな。鑑定代で、3000クレジットな」
「はいよ……っと。支払い完了だ」
互いに装着したリングからチャリーンと音がして、支払いが完了される。
昔は銅貨が何枚で、銀貨が何枚で……とやっていたのだから、便利になったもんだ。
俺は金貨に軽く触れてから、宙に魔法陣を描いた。
白く輝いたそれが、巾着を通り抜け──そのまま大佐に突っ返した。
「金貨は白だ、特に呪いの類はかけられてない」
「本当か!? てか早いな! 相変わらず!」
「ただこれ……」
言いかけて、思わず言い淀む。
そうすれば、大佐は固唾を飲むように俺を見守った。
「偽物だよ。金貨ですらない、塗装されただけのゴミ。一銭にもならないぞ」
「……つまり、俺はゴミの為に3000クレジットも……?」
「そうなるな」
「…………くそぅ! 店長! 今日はアンタの奢りで飲むぞ!」
「嫌ですけど……」
だいたいそれじゃ割に合わないだろ! と返せば、「もう俺の奢りでも良いからさぁ!」と叫ぶ大佐だった。
じゃあ最初から飲みたかっただけのオジサンじゃん……というバイトちゃんのツッコミが、虚しく響いた。