SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
ディストピア飯というものがある。
良くSF映画なんかで登場する、ペースト状だったり、ゼリーだったり、ブロック状だったりするご飯のことな。
異世界ファンタジーから一転し、SF異世界へと進化したこの世界の飯も、あるいはそれだったりするのではないか? と思われるかもしれないので、先んじて言っておくのだが、そんなことはない。
というか、有るには有るのだが、そんなに人気はない──と言うべきか。
理由は言うまでもないだろう。
アレ、ビックリするくらい食欲湧かないんだもん。
初めて見た時はレゴか何かかと思ったもんな。
そんな訳で、俺達の食事事情というのは、意外なことにあまり変化していない──もちろん、多種多様な料理が作られてきたし、高度な技術や機械によって、その数は増え続けているだろうが……。
それでも、度肝を抜かされるような、革命的ご飯に移行してはいなかった。
何なら骨付き肉とか全然人気だからね。
ただし、その食材は少しだけ──意外かもしれないが。
「ヴォォォオオオオオオオアアアア!!」
「うおー、今日も元気いっぱいだなー」
「てっ、テンチョー!? そんな呑気なこと言ってる場合~!?」
バイトちゃんが悲鳴にも近い叫び声を上げた先にいるのは、火竜。カタカナで言えばサラマンダー。
昔っからこの世界に存在し、今なおこの世界の空を飛ぶ、ファンタジーからの遺物。
それでいて、割とメジャーなたんぱく質だ──つまり。
俺達が基本的に口にする肉は、竜肉なのである!
これがまた美味いんだよなー。
「よーう、どうだい? 見学の調子は。いい経験になってるか?」
「まあな、バイトちゃんの社会見学としては、結構上々だよ」
超科学の輸入によって、文明は一気に進化したけれど、大陸の方はそうはいかない。
幾ら土地を開拓し、高層ビルやデータセンターを増やしても、何もそれだけで星を埋め尽くそうと思うほど、人類は傲慢ではなかった。
要するに──昔っから存在する火竜の山だとか、エルフの里だとか。
そういったものは、未だに存在してる。
そんな訳だから、竜に限らずこういった──いわゆる脅威的な生物が襲い掛かってきた場合の討伐というのは、良く見られることだ。
や、もちろん俺がする訳ではないよ?
何の為に軍隊があると思っている。
大佐が「やれやれ」って感じに笑い、光線銃を担いだ。
「そーか、バイトちゃんは見るの初めてか」
「ま、まあね。いやすごっ、デカっ。え? アレって倒せるものなんだ?」
「昔ならともかく、今は楽なもんだよ。ほら見ろ、シールドが張られてんだろ。火竜の炎はアレを超えられない」
定点的に設置された小さなドローン。
それらが発するバリアが繋がり合って、俺達と、大佐含めた5人1部隊をドーム状に包んでいる。
此処は火竜の山近くの荒野だけれども、仮に水の中であっても発動できるのだから、科学ってスゲーよな。
ぼわーっと吐き出された炎が、バリアの表面を撫でる。
火の粉はおろか、熱気さえ、中には届かない。
「よーし、じゃあ撃ち方始め! 無駄撃ちはするなよ!」
「サー、イエッサー!」
鍛え抜かれた軍人の、揃った返事と共に銃が撃ち放たれる。
火薬や硝煙の香りはしない──代わりに、ビカビカと光が煌めいていた。
光線銃というやつだ。
ヒットする度にビームはネットのように形状を変え、瞬く間に火竜を貫通し、縛り上げてしまった。
「つーわけで、残念だけど竜相手に、剣だの魔法だのを振り回す時代じゃなくてな。これが今の狩りってやつだ、バイトちゃん」
「分かったけど、何か……これはこれで興奮したかも」
「特殊性癖の持ち主?」
「違うけど!? そういうんじゃないってば! テンチョーの変態!」
バシバシと俺の足を蹴るバイトちゃん。
ミニスカートなんだから、あんまり足を振り上げるなよと思った。
「ね、ね。てかさ、テンチョー、私もアレ撃ってみたい」
「ダメに決まってんだろ……下手すれば一発逮捕よ? この場合、貸したやつも同罪だ」
「えぇ~……まあ、仕方ないかぁ」
「お堅いねぇ──店長に免じて、触るだけなら許してやるよ。ほれ、ロックは外すなよ」
「わっ、ホント? ありが──いや重っ!」
「おい、大佐……」
不満100%な顔で睨み付ければ、アーマイト大佐が破願する。
それから、「問題ねーよ」と付け足した。
「アンタが同行まで願い出て、上が承諾したんだ。それなら、このくらいは許されるだろうよ──まあ、仮に何かがあっても、店長を裁くのは難しいだろうが」
「買い被りすぎだ。それに、俺はそんな上級国民みたいな真似はしないよ」
「わーってるさ。しかし、だからこそ、信用に足りるって言ってるんだがな」
大佐は気軽にそう言って、バイトちゃんへと目を向ける。
バイトちゃんは、興味津々といった様子で光線銃をあちこち触り、観察している。
それから、ふと思い至ったように顔を上げた。
「ね、テンチョー。この竜って、どうなるの?」
「基本的には食用かな。鱗や角は、装飾だとかになりがちだけど」
「ほぇ~、お肉とかって、全部こうして狩りで賄ってるんだ?」
「まさか。市場に出回っているのは、家畜化した竜の肉だよ。だから、こういう野生の竜は──」
言葉を切って、指をさす。
先ほど地に落ちた竜を、大佐の部下たちが捌き始めていた──鱗を外し、骨を取り、肉を削ぐ。
実に手慣れた、淀みない作業だ。
「ああやって、捌いてその場でBBQするんだよ。で、余った肉は持ち帰って、軍の保存食になる」
「……それは、セーフなんだ?」
「ギリギリってところだよ、お嬢ちゃん。ただ、食い尽くす訳でもないからな、暗黙の了解とも言える。それに──」
ポン、と大佐が俺の肩を叩いた。
「店長は、それを狙って同行してきたんだ。歓迎するぜ、お嬢ちゃん。ワイルドな野生の竜肉を喰らいなぁ!」
「……それって、本当に美味しいの?」
「さあな、食えば分かるよ」
こしょこしょっと囁いてきたバイトちゃんに、意地悪くそう返す。
その数十分後。
バイトちゃんは「これを私のフルコースに入れる……!」とデカい声で宣言し、場を沸かしていた。