SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
「わっ、見て見てテンチョー。凄いよこれ、浮遊するフィールドバリア型の傘だって。超便利じゃん」
「浮遊するってのが良いよなー。でも結構バッテリー食うから、安物はあんまオススメしないかな」
「へぇ~……例えば、1500クレジットのこれなら?」
「もって五分だな」
「めっちゃゴミだ……」
残念……とバイトちゃんが露店の傘を棚に戻す。
俺達は今、郊外に構える我が骨董品屋ではなく、街の方に繰り出していた。
軽い買い出しついでではあるが、鑑定の依頼を受けたからである──以前、大佐からも依頼されたように、こういった依頼が稀にある。
まあ、基本は持ち込みで、こっちから行くことはまずないのだが。
そこはケースバイケースというやつだ。
あまりにも大型だったりすれば、持ち込まれた方が迷惑だしな。
「てかさー、歩く必要あったの? 私、エアバイク乗りたかったなぁ」
「いつも乗ってんだろが……たまには歩け、健康の為にもな」
「そこはほら、AIに見てもらってるし。健康優良児だって太鼓判押されてるんですけど~?」
「じゃ、俺の健康の為にも付き合ってくれー」
「テンチョーほど健康な人間もいないと思うんだけど……」
まあいっか。と気を取り直したバイトちゃんは、物珍し気に視線を彷徨わせていた。
しかし、それも無理ないことだろう──今の時代、目を引くものが多すぎる。
空とか見上げれば、車やバイクがビュンビュン走ってるもんな。
そのことに、未だに少し、違和感を感じてしまうのは、俺が年寄りだからろうか。
昔は剣だの杖だの、魔導書や謎の薬を売る露店が並んでいた城下町は、今では完全にリメイクされて、どでかく綺麗な建物が並んでいる。
壁そのものでもある巨大なディスプレイは喧しい広告を躍らせていて、各種店の看板は立体ホログラムになっている。
良く目を凝らしてみれば、「○○星人用」と銘を打たれているところも多く、多様な人種がいることが分かるだろう。
その並びの一つ。
ぴかぴかと主張の激しいゲームセンターへと足を踏み入れた。
途端に、ズンチャカダンダンとリズミカルな大音量に包まれる。
最近のゲームセンターというのは、一昔前と違って滅茶苦茶にデカいのがメジャーだ。
というのも、ARってのを駆使したゲームが導入されたからである。
飽くまで、現実の空間を利用するタイプのゲームであるので、必然的に、広大な空間が必要になった訳だな。
まあ、最近じゃそれも随分勢いが落ち着いて、フルダイブ型のVRが主流らしいのだが。
入ってすぐに目に入る大きめのカプセルは、全てそれである。
何か……こうして見ると、デカい虫の卵みたいだな。
「ありゃ、テンチョーってば、ゲームしたかったの? それならそうと、先に言ってくれれば良かったのに~」
「馬鹿言え、依頼があるって言ったろ。バイトちゃん」
「……ゲーセンで?」
「そう、ゲーセンで……」
なんか変じゃない? というバイトちゃんの目線に、不安げな声を返す俺だった……いや、だって、仕方ないじゃん!?
来いって言われたんだから、行くしかないだろ。
ただでさえ、客なんて全然いない店である。
少しでも稼げた方が──まあ、バイト代の足しになるってもんだしな。
「あら、やっと来たのね。店長さん、待ちかねたわよ」
「はいはい、待たせて悪かったなっと。それで? 鑑定したいってのは?」
「用件人間すぎない!? 少しは世間話を楽しもうとしなさいよ。だから友達いないのよ、貴方」
「……ぐぅ」
「ぐうの音?」
呆れたように笑ったのは、ここの店長であるミオラだった。
その風貌は、如何にもこの星の、妙齢の女性だけれども──額の中央に、三つ目の眼がある。
メッツミ星人だ。
珍しくもなんともないけどな。
「そっちの子が──噂のバイトちゃんね。アタシはミオラ。メッツミ星人を見るのは初めてかしら?」
「は、はいっ。初めてです! よろしくお願いします!」
「まあ、あんまり数もいないものね──改めて、よろしくね」
「因みにそいつ、人の嘘見抜くから。冗談でもやめとけよ、バイトちゃん」
「え、何それ。人狼ゲームとか超強そう」
すっご~、と普通に感嘆するバイトちゃんだった。
その姿に嬉しくなっちゃったのか、ミオラは上機嫌に口元を緩める。
「良い子じゃない、すっごく。貴方には勿体ないくらい」
「うるせ、俺だってちょっとそう思ってるよ──繁盛してるみたいだな?」
「ええ、見ての通り。貴方のところと違って、馬鹿の触手でも借りたいくらいにね」
「……猫の手も借りたい、みたいなことか?」
異星人の例えって、ちょっとたまに意味不明なんだよな、と嘆息をする。
郷に入っては郷に従えと言うように、分かりやすく訳してほしいもんである。
「ま、それなら結構。ついでに、そろそろ稼がせてくれると、助かるんだが」
「はいはい、分かってますよ~だ。こっち来てちょうだい」
言われてバックヤードに連れていかれる。
そこから更に数分ほど後を追えば、倉庫へと辿り着いた。
そのど真ん中に、古臭いゲームの筐体が眠っていた。
バイトちゃんが、「ラブベリみたいなの出てきた!」と呟く。
「これ、この前の倉庫整理で出てきたんだけど、何か分かんなくって。何をしても、うんともすんとも言わないのよね」
「AI鑑定だと、何て?」
「それが……この通り」
ミオラの中指に嵌められた、リング状のデバイスから光が放射される。
それと同時に、中空に現れたホログラムウィンドウには「ERROR!」と表示されていた。
「こうなってくると、危険を伴う可能性もあるじゃない? だから、ほら。貴方の出番かと思って」
「……俺は何でも屋ではないんだが」
「似たようなものでしょう。それに、報酬は弾むわ」
「さいですか……じゃあ、はい」
指輪を嵌めた方の手を出せば、それに突き合わさせるようにミオラが手をのせる。
直後、互いのリングがパッと光って、支払い完了の音がした。
「じゃあ取り掛かるとするか」
「……テンチョーって、機械とかも詳しいんだ?」
「ある程度はな。伊達に長生きしてないし」
始まりから今に至るまで、たくさんの発展を目にしてきた俺である。
何とか時代に置いて行かれないように、色々努力はしてるのだ。
そういう訳で、ペタペタと筐体に触って──
「うお、マジか。魔道具じゃん、これ」
思わずそう呟いてしまった──この世界に、未だに魔王城があり、竜がいるように。
この世界がファンタジーであったことを証明するものは、僅かだけれども残っている。
「動力を魔力に頼ってるんだなー……ミオラ、どうする? 起動することも出来るけど、普通にこのままぶっ壊しても問題ない。危険性はなさそうだ」
「あら、そう──それなら、一度起動してみなさいよ。魔法のゲームって、何だかワクワクするじゃない?」
「一理だな。バイトちゃん、良く見ておけよ」
言いながら、筐体に魔力を込める。
それだけでモニターには光が走り──プシュゥ! と音を立て、まるで扉のように開くのだった。
その中には──一人の少女。
俺は思わず、ミオラの方へと目線を向けた。
「……ゲームは?」
「いや、それアタシの質問だから」