SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
何度も言うようではあるが、この世界は元々剣を振りまわし、魔法を唱えていたような──いわゆるファンタジー世界というやつだった。
そこに宇宙人がやってきて、超科学を齎したもんだから、世界は大混乱の末、急激な文明の発展を享受することとなった。
それ自体は、別に悪いことじゃない──むしろ、素晴らしいことだと言えるだろう。
異星の民との交流を為し、順当であれば数千年。あるいは数万年かけて辿り着くような技術を、一括で仕入れられたのだから。
だけど、それは何も、良いことばかりではなかった──とは言うべきだろう。
まるで早送りのように技術が進化して、文明が発展したこと。
それ自体は喜ばしいことだけれども、同時にそれは、本来歩むべきだった道をショートカットして、本来積み上げるべきだった時間を極端に減らしてしまった、ということになる。
それの何が問題なのか? と問われたら、ちょっと言葉を選ぶことにはなるのだが……。
一言で言ってしまうのなら──人間の倫理観の成長が追い付かない、ということだ。
まあなんだ。
つまりだな──
「ヒャッッッハァー! この無人空中列車はオレ達【ZIGOKUMON】がジャックしたぁ! 死にたくなけりゃ、黙って大人しく、人質になるこったなァ!」
──こういうことである!
様々な技術、豊富な知見、多岐にわたった道具。
それらが幅広い層に与えられたことによって犯罪数──取り分け、このような凶悪犯罪の件数は爆発的に増加した。
急激な超技術の普及に、法の整備や人々の倫理が追い付いていないのである。
お陰様で、手軽に強力な武装や危ない薬が手に入るようになり、治安はやや不安定だ。
ファンタジーやってた時と変わらず、軍隊が存在しているのも、そういった背景が関係している。
そんな訳で、大きく威嚇するように叫んだモヒカン頭が、銃を片手に俺たち乗客を睨みつけた。
その背後には、同じように武装した4人の男たち。
いわゆる、身代金目的の武装集団ってやつだな。
「て、テンチョー……やばくない?」
「まぁー、どちらかと言えば?」
「どちらかと言うまでもなくだと思うけど……!?」
隣に座っていた、バイトちゃんが静かにそう叫ぶ。器用な娘だな、本当に。
でも、あんまり目立つ真似をしないで欲しい──彼らに目を付けられでもしたら、面倒くさいから。
ただでさえ、平日真昼間なだけあって、この車両に乗っている客というのは、俺たちを含めて10人もいないのだから。
「何、大人しく従ってれば、殺されるようなことはないよ。俺たちは貴重な人質だからな」
「や、だからって、リラックスできる状況じゃないんだけどなぁ……」
ほら見て? テンチョー。私の指先とか震えてるよ? と自身の手先をバイトちゃんが見せてくる。
キラキラと綺麗なネイルが光っていた。こいつ、結構余裕じゃないか?
しかし、まあ。
確かに、この状況でのんびりしておけと言うのは、少々難題か。
当然だけど、死ぬどころか怪我をするのだって、普通に恐ろしいもんだ。
「つってもなぁ……」
だからと言って、解決策があるのか? と聞かれたら、非情に難しい顔をするしかない。
こんな、見ての通りの無法者達に、「こんなことはやめなさい! 親が悲しむぞ!?」とか言って、心に響くとは到底思えないし……。
それこそ、巧みな話術で降伏させるなんて、俺にできる芸当ではない。
やはり、助けが来るのを粛々と待つのが最善なのではなかろうか──とまで考えたところで、
「おいリーダー。警察の野郎どもからだ、時間をくれってよ」
「ハァ? チッ、時間稼ぎのつもりかァ? 嘗めた真似しやがって──」
じろり、と視線が舐めるように走る。
誰かが小さく息を呑み、子供と並んで座るお母さんが、子を隠すように抱きしめた。
それを、ハッとモヒカンは笑う。
「仕方ねぇ、一人殺ンぞ。それで急がせろ──10分待たせるたびに、1人殺すとも伝えとけェ!」
「ヒュ~、さっすがリーダー! 血も涙もねぇ!」
「ぎゃっはっはぁ! そうだろォ? それじゃあよ」
だーれーにーしーよーうーかーなー、と。
モヒカンは俺達乗客を指した指を、滑らせる。
固唾を呑んだバイトちゃんが、声もなく俺の袖を握った。
車内が、一転して緊張に包まれる。
…………あれ!? 思ったより悠長にしてる場合じゃなくなったな!?
1時間もあれば解決するだろうと思っていたのだが、いきなり余裕が消し飛ばされていた。
想定ではたんまりとあったはずの猶予が、既にない。
仕方なく、俺はゆっくりと立ち上り、両手を挙げながら前に出た。
「あん? 何だ、兄ちゃん。死にてぇのか?」
「まさか、冗談はよしてくれ。でも、この中の誰かを的にしたいって言うんなら、志願しようかなって思ってさ」
「リーダー、こいつ頭イッてんぜ」
「シャブでもやってんのかもな?」
「ヒーローごっこのつもりなら、今すぐ撤回して謝った方が、身のためだぜ? 兄ちゃん」
「それなら大丈夫、ごっこのつもりじゃないから」
「そォかよ、じゃあお望み通り、死ね!」
ドガァン! と音が鳴る。発砲音だ。
銃口から真っ直ぐ飛び出た一条の閃光が、俺を貫かんとばかりに空を翔け。
「は、ぁ。え?」
モヒカン頭の肩を貫いた。
俺の身体に触れる直前に反射して、そのまま真っ直ぐと。
「お、当たり。良いエイムしてるな」
「いっでぇぇ!?」
「肩くらいでそんなデカい声出すな……よっ!」
蹲ったモヒカン頭を蹴り飛ばす。
同時に部下らしい五人が、それぞれ獲物を抜き放った。
中には強化義肢をつけてるやつもいる。結構金かけてんな。
「なっなんだぁ!?」
「今何が起こった!?」
「おいてめぇ、何をした!」
「んー? 魔法」
クルクルと指先で宙に円を描けば、その内側に五芒星が宿って光を放つ。
赤青緑と彩られたそれは、炎氷雷に姿を変えて、男たちに飛び掛かった。
「な、何だァ!? 義肢が動かねぇ──こ、壊れたってのか!?」
「電子機器は電気に弱いもんだ。つっても、今後そんな安物使うのは、やめておくのがオススメだけど」
両腕の義肢をだらりと下げたチンピラの頭をノックする。
それだけで、彼はそのまま膝をつき、倒れ伏した。
「うわ! うわわああ! 燃える、燃えてる! 誰かぁ! 水を!」
「はいよ、水。でも気を付けろ? 結構痛いぞ」
「ごぁぁぁあああ!?」
足元から噴き出た水柱が、火達磨になった男を一瞬で飲み込んだ。
それが途切れて落ちてきた頃には、既に意識は飛んでいる。
これで、三人目。
「な、何だ……? 何で俺の下半身は凍ってるんだ!?」
「これから上半身も凍ることになる、安心しろ」
「そういうことを言ってんじゃ──あ、あぁ! ああああ! 助けてくれぇ!」
ピキパキと音を立てながら氷が腹、胸、首へと手を伸ばす。
その恐怖に耐えられずに叫びを上げたところで、ガクンと意識を手放した。
いやぁ、覚悟が足らないね。最近の犯罪者ってのは。
「テメェ……何者だ」
「──魔法使いって言えば、納得するか?」
「ハハッ! 御伽噺のってか?」
「そ、御伽噺の魔法使い──だ!」
「ぼへぇ!?」
魔法陣を描く振りをして、滅茶苦茶普通に拳を入れる。
最後の一人、一発ダウン! KO!
脳内ゴングを鳴り響かせて、制圧完了。
「な? どちらかと言えば、程度だったろ?」
振り向いてそう言えば、バイトちゃんが呆けたように呟いた。
「テンチョー……やれるなら最初からそうしてよ」
「いやごめんて」