SF世界で唯一の魔法使い。 作:おれっす。
魔族とは、文字通り魔の一族のことを指す。
魔王を名乗り、世界を征服しようとした巨悪に付き従った──かつての、人類の敵。
それが魔族だ。
「ふぅん……? そこは魔物じゃないんだ」
「大きな括りで見れば、魔物でも間違いではないけどな。魔族ってのは、知恵のある魔物のことを指すから」
そもそも魔族であるか、魔物であるかというのは、人間側が勝手に分類し始めたものになる。
知能の低い──つまり、より獣に近いものを魔物と呼び、より人に近いものを、魔族と呼んだ。
長い長い時間が流れるにつれ、魔族も自らをそう分類するようになっただけ、と言っても良い。
だから、本質的には変わらない。
かといって、無条件に我々の敵であるのかと言えば、見ての通り、そういう訳でもなかったりする。
「魔王と一緒に、いなくなったんじゃないんだね?」
「一時は本当に滅びるんじゃないかと危惧された──とは聞いていますけどね。昔々、お祖母ちゃんがそう教えてくれました」
「じゃあ、ユーコクさんは当時の人……魔族じゃないんだ」
「流石に大昔のことになりますからねぇ──これでも、結構ベテランではあるのですが。200歳ですので」
「……当時は、過激派が多かったからな」
人と魔族は長い間、殺し合いを続けてきた。
だから、魔王を倒したからと言って、一斉に全員が戦いをやめるということはなかった。
彼らだって、思考があり、感情がある。
となれば、敵討ちを試みるやつなんてごまんといたし、そうでなくとも、徹底抗戦の構えを解くやつの方が少なかった。
──そして、同時に人間側も、魔族への恨み辛みというのは極限に達していたと言って良い。
魔族、魔物は皆殺しにするべきだと、誰もがそう思っていた。
当然だよな。
身内の誰かが魔族や魔物に殺されている……だなんて話、全く以って珍しくもなんともなかったのだから。
むしろその逆で、そんな境遇は普通以下ですらあった。
だから、魔王を討ち果たした後も戦争はそれなりに続いたし──敗走する魔族たちを、人間は徹底的に滅ぼしにかかった。
それを悪と呼ぶには、どちらにも正義はない戦いであったし、事実として、誰にも止められるようなものではなかった。
何せ、魔族や魔物は、悪なのだから。
彼らを討ち果たすのは、正義以外の何物でもなかったのだから。
それは一般的な常識であり、疑われるようなものではない。
絶対不変の事実だったのである。
故に──現在、魔族の生き残りはごく少数だ。
本当に、一握りしか存在しない、希少生物なのである。
「ま、それでも生き残ってるだけ、大したもんだよ。俺はとっくの昔に、滅びる方に賭けてたくらいなんだから」
「悪趣味な賭け事をしないでくれますか? それに──滅びていないのは、店長さんの助けあってこそじゃないですか」
「それ込みで、こんなに長くはもたないと思ってたんだ。だから、そこは素直に、自分のしぶとさを誇った方が良い」
ポンポンとユーコクの頭を叩く──彼女は幽霊型の魔族であり、手や足なんかじゃ本来は触れられないのだが……。
そこはまあ、工夫次第で結構どうとでもなったりする。
ユーコクはやや不満気な目を向けてきたが、そこは勇気のスルーで事なきを得た。
……昔ならすぐポカポカしてきたことを考えれば、こいつも大人になったなぁ。
「それじゃあ、ユーコクさんって超レアなんだ。出会えたのって、もしかして超ラッキー?」
「そうかもな。拝んでおけば、良いことあるかもしれないぞ」
「ふふ、そうですね。魔族流の加護とか与えましょうか?」
存在感が薄くなったりして便利ですよ? と、あんまり便利ではなさそうな加護を与えようとするユーコクだった。
そりゃもう加護って言うより呪いなんだよね。
「それで、今日は何用で来たんだ?」
「おや、用がなくても来てはいけませんか? 家族のようなものでしょう?」
「用件人間……いや、用件魔族が良く言うよ」
前に会った時だって、些細な用事を済ませた後は、雑談一つなく去っていったくせに。
……いや、そう考えれば、確かに様子は違うのか?
雑談から始めるなんて、ユーコクらしくもない。
ふむ、と息を吐き、目線だけで続きを促す。
そうすれば、ユーコクはフッと、僅かに口角を上げた。
「わたしの故郷がなくなることになったのです。ですから、店長さんに連れて行って貰おうかと思いまして」
「あー……再開発?」
「ですです。まあ、避けられないことでしたから。最後に一度だけ行っておきたくて」
「なるほどねぇ」
言って、少しだけ思い返す。
ユーコクの故郷というのは、火竜の山に近いところにある、小規模な森林だ。
大昔に俺が手配した時は、ものすっごい大森林であったのだが、時間の流れと共にその規模を小さくしていった。
で、完全になくなる時が来たらしい。
もの悲しさはあるけれど、これも時代なのだろう。
「そか、じゃあ行こう。準備は出来てるんだよな?」
「もちろんです。と言っても、荷物がないだけですけどね」
「そりゃ重畳──バイトちゃんは? 来るよな?」
言って、改めて見たバイトちゃんは、実に訝し気に表情を歪めていた。
どうした? と思ったのも束の間、バイトちゃんは恐る恐るという感じに、口を開く。
「や、あの……か、軽すぎない? 二人とも」
「軽すぎるって?」
「だって、故郷がなくなるんだよ? 住んでた家とか、景色とかが、なくなっちゃうんでしょ!? それは──寂しいよ」
「──……ねえねえ、店長さん」
「何だ?」
「随分と、優しい子を雇ったのですね」
「だろ? 自慢のバイトちゃんなんだ」
もっと喧伝すべきなんじゃないですか? と冗談めかして言ったユーコクが、バイトちゃんの頬を撫でた。
彼女は別に、何もかもを無条件に透過する訳ではない。
スカすかどうかは、彼女次第だ。
「ありがとうございます、バイトさん。そんなに真っ直ぐ、強い気持ちをぶつけられたのは久方振りです」
「えぇっと、どういたしまして?」
「ええ、ですから。バイトさん、店長さんと一緒に、わたしの故郷へ来てみませんか? 見せたいものがあるんです」
「見せたいもの、ですか?」
「はい、是非とも見せたいものが──如何でしょうか?」
一瞬だけ、バイトちゃんが俺を見た。
青い瞳が少しだけ、頼るように揺れるものだから、僅かに首肯する。
ユーコクは悪い魔族ではない。
信頼できる──友人だ。
「もっ、もちろんです! わたしで良ければ、是非! 連れて行ってください!」
「それなら良かったです──店長さん、問題ありませんよね?」
「もちろんだ。それじゃあ──」
言って、指を軽く振って店の戸締りを終える。
それから、軽く地面をタップして、サイドカー付きのエアバイクを呼び出した。
「──さっさと行くとしよう。善は急げってな」