2050年の魔法使いは空飛ぶスマホくらい普通に使いこなすし、スタグレがわりにぶちかますけど、今日から俺が幼女の中の人!!みたいなガチ奇跡には、どうしてこうなったし!?って意外と振り回されっ放しです⭐️   作:一本子持ち縞の夏黄八

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【0】通話記録/レセプション当日、14時05分。【BF.Dl−175min. area:@g.z.“規制区画”】




【※録音を開始します】


 ジ⋯⋯ッ、ががッ!

 ──ピッ。




 ――聞こえますか? 先生(ししょー)。
 
 こちら、昴(すばる)。

 解体作業は(・)、順調です。



 補助電源付端末外演算ユニット(ほじょたん)を三つ、串刺しでオシャカにされちまったけど、雨降り出したから、お客様はそろそろ帰りそうだし、なんとかなり――

 あ、やべ! コレ、狐の嫁入りじゃん。



 訂正訂正! たった今ほかのも全部持ってかれちゃった。
 すみません。



 そんなわけで残りはスマホしかないけど多分、大丈夫(でーじょーぶ)!




 もう! 子供扱いしないでくださいよ。
 175分もあるんだ。全然問題ないってば!

 いざとなったら、自力で『読ん』でバラしてもいいしね!
 
 
 

 え、心配? 大丈夫だよ。マジでホントに!

 ⋯⋯そりゃあ、身支度に予定より少し(ちょい)かかるかもしんないけどさ! 遅れたりはしないと思うよ、流石にね。

 だって、まだ二十(はち)時からのレセプションの開始まで六時間近くあるし⋯⋯



 約束?

 そんなのもちろん分かってるってば!

 勘当はともかくこんなタイミングで破門なんて絶対に嫌(や)だからね、死んだって使わないよ。

 それよかさ、今日ばかりは俺もちゃんとドレスコード守るから、アイツには『あとで会場でな』って伝えといてくんない?

 頼むよ。いいでしょ?



 ありがとう! さっすが先生。

 じゃあ、両手開けなきゃ作業に支障が出るからスマホはスピーカーにしとっけど、爆弾の解体(この仕事)が終わったら、すぐにそっちに降りる!

 だから、会場内のことはお願いします。




魔法使いたちの//クロスロード【序章:ハイデンシーク】
レセプションは二十時から


 

★―・―・―・―・―・―・―・―・―・―☆

   二〇五〇年、初夏の東京都心。

   宮代家(うち)が所有する

   ◤統合型リゾートホテル「K」◢

   その屋上にて、俺は、

   【敵と隠れ鬼】の最中にあった。

☆―・―・―・―・―・―・―・―・―・―★

 

 

 

 

【tp1】 ひいふうみい! 四、五、――今だッ!

 

 

 

 

 頼むよ。手筈(てはず)通りに!

「――行け、隠れてろ」

 囁きとともに“諾(おう)”と念押した俺の心に沿うように、午後の明るい天気雨の中で燐光を纏っていた流線型の銀色(ぎん)の筐体は、掌から浮き上がるや否や、にわかにその姿を消した。

 回線の向こうで、俺と同じように空飛ぶスマホを従わせているはずの面倒くさがり屋の先生から、先ほど切り上げたばかりの会話を、あとでそのまま聞かされるに違いない小鳥(アイツ)の姿が、心に浮かんだ。

 幼馴染の少女に要らぬ心配をさせないよう、余計なバックグラウンドノイズなしの音声だけが送られていることを、景色に溶け込ませたEAP(スマホ)とのリンク経由で確かめる。

 一秒にも満たない時間で、いくつかのアプリとのやりとりを終えた俺は、空(から)になった掌と、そこから伸びる指の一本一本に改めて意識を集中させて、間もなく訪れるはずの、そのタイミングを待っていた。

 ――EAP嫌いの奴(やっこ)さんが一回分の魔法を使い切った瞬間に、ここから飛び出して、今隠したばかりのスマホで目眩ましを喰らわせてやりながら、あの爆弾を攫(さら)うことができれば、俺の勝ち。

 

 言葉にしてみれば、実に簡単な内容である。

 成年間近な宮代(みやしろ)家の弟子に課された仕事としては、それこそ朝飯前だって言ってもいいくらいだ。

 早鐘を打つ心臓を宥めるため、爆弾の前に立ちはだかっている奴――人殺しを生業(なりわい)にする《狐の鋏》の女――の殺傷能力に特化した魔法を一発でも喰らったらオダブツだという絶対普遍の事実だけを、都合良く頭の隅の方へ押込みながら、俺は自分にしか聞こえない呟き声で大丈夫と繰り返す。

 その証拠に、動き回って負った擦過傷(さっかしょう)はともかくとして、今のところ怪我ひとつ負わされていないじゃねーか。

 あの《狐》が飛ばす《鋏》相手に。

  

 E(魔法使い)A(支援)P(プロセッサ)の恩恵を受けて、生来の魔法に、“血が通わなくて、冷たい”という意味の「チル」と呼ばれる人工の魔法を組み合わせての、“速くて、柔軟な手”を打つことが可能な、俺たちフツーの魔法使い。

 それとは違い、頑(かたく)なに生まれ持った“枷(かせ)つきで遅い”力しか使おうとしない相手とその魔法のことを、これ以上縮めようもない呼称(なまえ)で呼びながら、補助端を失っても尚(なお)、世界一の大魔法使い《宮代笙真》の臨時代理人(みょうだい)として相応しい主導権(プライオリティ)を握りっぱなしで居られている「事実(コト)」に少しだけ気を良くした俺は、胸の中でもう少しだけ独り言(ご)ちた。

 これはきっと、先生が言った通り、ううん、それよりもずっと上手にEAPを使いこなして俺が状況を「読め」ているからに違いない。

 けどなあ、このままここで息を潜め続けるのは、正直言ってちょっとしんどい。

 下手に動いて補助端の二の舞みたいな「蜂の巣」にはされたくない俺と、こっちの手数の多さに苛立っているに違いない相手(おんな)。

 《狐(ひとごろし)》に比べれば、荒事に慣れていないためだろう。

 奴との間に横たわったヒリヒリするような膠着(こうちゃく)感。

 

 心に圧をかけるソレに、とうとう耐えきれなくなった俺は、気を紛らわせようと高架水槽に身を隠したまま、スマホのバッテリー残量をリンク越しに確かめる。

 八十四パーセント。

 げ。補助端(ほじょたん)なしだとこんなにバッテリーの減りが早いのかよ!?

 前のバージョンよりも段違い(だんち)で直感的な操作が可能ってのはいいけどさあ。

 

 こいつはいただけねえな。

 

 危なっかしすぎる。「要改善要望」、出さねえと、だな。

 そう思って眉を寄せた瞬間に、俺を守ってくれているはずのステンレスパネル製の頑丈な水槽が、

 

 ぐわん! 揺れた。

 一(ひぃ)!

 

 よっしゃ。タイミング!

 

 あっちのほうが、先に痺(シビ)れを切らせてくれやがった!

 

 相手の「余裕」の乏(とぼ)しさを示す轟音(ごうおん)とともに、俺の手元に、チャンスが転がり込んできた。

 

 早くも身を翻(ひるがえ)し始めながら、EAP支援環境の下(もと)、枷をほとんど無視するように、既に連続起動済みの「読み」を駆使。

 

 空気中から伝わってきた、手に取るように視える「感触」だけを頼りに相手の魔法が途切れる瞬間を探る。

 ……二(ふう)、三(みい)――四(よう)、五(いつ)、今っ!

 ここがキリになるという、いつか習った先生の教えに従って、五挺(ちょう)目の《鋏》の射出を合図に、彼我(ひが)の間を隔(へだ)てていたステンレスパネルの陰から、俺は身を躍(おど)らせた。

 ついた勢いそのままに、コンクリートの床を蹴り、更に速度を上げる俺。

 

 そんな俺の視界に飛び込んで来たのは、

 

 俺がずっと解体(バラ)したがっていた「ラス1(ワン)の爆弾」を、さも“大切な宝物”みたいに腕の裡(うち)にかき抱いた女の姿。

 しまった!

 

 鋏にばっか気を取られて、俺、奴の動きを「読み」損ねてた――!?

 

 じゃなくて、「目眩まし」!  

 

 《狐》にしては珍しい守りの姿勢と、苦手意識のある目視での「読み」を省きがちな俺の悪癖。

 揃い踏みになったその二つのせいで一瞬だけ真っ白になった思考。

 

 俺は明らかに狼狽《うろた》えつつも、あくまでも当初の予定通り、爆弾を狙うことだけを「再決定」。

 

 風景に擬態しているはずのスマホに向かって、心の中で、

 ちょッ、何してるんだよっ? 遅い!

 光って! 早く早く!!

 そう声を荒らげる。

 そんな俺をせせら笑うかのように、枷――生来の魔法を練るために必要な、時間という重石(おもし)――をたったの「二秒足らず」で難なく引き千切り終えた女。

 

 奴は、目深に被ったフードから覗く唇を引き上げて、水たまりの中から、「新たな鋏の群れ」を喚び出した!




【tp2】 サン、ニイ、イチ! 間に合え――ッ!




「⋯⋯ッ!!」


 喰らったらタダで済むはずのない《鋏》を前に、強張る身体。

 身を守るために思わず翳(かざ)しかけた両手を、俺はどうにか意志の力で引き戻す。

 そうやって中途半端に立ち竦む俺の目の前で、《狐》は、抱えていたはずの危険きわまりない代物(シロモノ)を投擲(とうてき)した。


「え」

 思わず呟きながら、俺は目を瞠(みは)る。


 大きく振り上げられた腕の反動で、《狐》が被(かぶ)っていたフードから、女にしては短い淡色(あわいろ)の髪が零(こぼ)れた。

 挙式を終えた花嫁が放り投げるブーケにも似た放物線を描いて飛んでいった爆弾に向かう、真っ直ぐな射線(ライン)が伸びることを俺に予告(つげ)るEAP。

 そこで初めて女の“狙い”に気付いた俺が、踵(きびす)を返そうとした、その瞬間。
 ようやく姿を見せたスマホの放つ最大光量が、フードから晒(さら)されたばかりの女の目を灼(や)いた。

 「読み」で視覚を零(ゼロ)にした一時(いっとき)だけの闇の中で、暴力的な眩(まばゆ)さをやり過ごしながら、俺は臍(ほぞ)を噛む。

 それとほとんど同時に、俺たち二人の頭上を仰ぎ見るEAPから、リンク経由で送られた防眩(ぼうげん)処理済みの映像(ライブ)のど真ん中で、魔法技術を配線内に幾重にも織り込まれた爆弾が、「本物の魔法」で出来た《鋏》に容赦(あっけ)なく撃ち抜かれた――⋯⋯。

 





 ⋯⋯――ばしゃん!


 爆ぜた光をまともに受けて戦闘不能に陥った女には目もくれず、俺は奴の魔法が爆弾に与えた決定的な影響――起爆時刻が、レセプションの出席者が集い始める午後五時ではなく時刻不詳に変わったこと。つまるところ、爆弾の暴走――が、招くに違いないたった一つの帰結を変えるため、水たまりを跳ね上げながらひた走る。

 ずっと繋ぎ放しだったスマホの先。
 俺が立つこの高級ホテルの屋上の十二階層下で、今夜のレセプション会場となるバンケットルームにいるはずの先生に、

「ししょう!! みんなも! ッ、はやくにげて! マズいことになった!」

 先生たちの後ろで流れているパッフェルベル(カノン)。
 
 華やいだ雰囲気のある旋律(しらべ)を、断ち切らんばかりの勢いで叫ぶ。
 
 声の限りに、即時避難の呼びかけを済ませた俺は、疾(と)うに落下を終えていた爆弾のもとへ辿り着く。

 直ぐさま、魔力を込めた指先を伸展。
 弾くように、鋏が突き立てられたままの外装に触れる。

 はち切れそうなくらい、研ぎ澄ませた触覚を頼りに「読み」取った爆弾。その内側に仕舞われていた、恐ろしいほどの構造の緻密(ちみつ)さと、EAPが叩き出してきた“四十秒も残されていない猶予”に、

「な――マジかよ、嘘だろ⋯⋯!?」

 いよいよ総毛立つ(やばいやばいやばい!)。

 ほんの少しの逡巡(しゅんじゅん)の末。
 本来の目標だった爆弾をバラす選択肢を、俺は放棄。頭から追い払う。

 EAPと「読み」を組み合わせた総当たりによって、爆弾の正常な動作を阻む要因――《鋏》の解体を決意。もう、否(いや)も諾《おう》もなかった。

 視野と思考が、針のように先鋭化し、そして。


 瞬くように過ぎ去った、三十と七・五秒後。


 バッテリーがマイナス(俺自身の魔力による強制維持モード)に移行したEAPの画面をびっしりと埋め尽くす「incorrect(正常化失敗)」のログ。

 先生と母さんにしたはずの約束をかなぐり捨てた俺は、生来の魔力でいっぱいにした手のひらと指先で、火傷するほどの熱を帯びたスマホをぎゅっと握りしめる。


 あとはただ、ひたすらに希(こいねが)うことしか、出来なかった。


 頼む頼む頼む(どうして、こんな、)、俺にもっと力があれば(間に合え、間に合え!)、誰も死なせ⋯(絶対に――!!)⋯ブづンッ!!

 







 ジッ――――ツーツー⋯⋯ツー⋯⋯⋯⋯








――【#20】ではなく、【tp3】へ続く
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