2050年の魔法使いは空飛ぶスマホくらい普通に使いこなすし、スタグレがわりにぶちかますけど、今日から俺が幼女の中の人!!みたいなガチ奇跡には、どうしてこうなったし!?って意外と振り回されっ放しです⭐️   作:一本子持ち縞の夏黄八

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【#07】ねえ、教えてよ? レベッカ・ルキーニシュナ・ペトロワの身の上について

「そりゃあ、確かに困るけどさ」

 

 二〇五〇年から来た俺にとって、先生(ししょー)が鼻歌混じりに寄越してきた、その“ご提案”はもっともなものに、一見、思えた。

 

 未来を変えてしまうような言動は慎むべきだから、うっかり口を滑らせないよう、用心に越しておいて損はない。

 

 でもなあ、今の申し出⋯⋯何(なあん)か引っかかるんだよな。

 

 先生はどうして、俺のEAP(スマホ)を持っていたんだろう?

 

 聞いてみようか。

 

「ししょ――笙真君さ、さっき俺のスマホの中をとっくに見たって言ったよな。いつから俺のスマホを?」

 

 呼び捨てにするのは、流石に抵抗感がありすぎるので、“君付け”を選んだ俺に、先生は一瞬だけ眉を上げたが特に異論はないらしい。

 

 返ってきたのは先程の問いへの答えだけだった。

 

「二年⋯⋯半くらい前だったかな。師匠に頼まれて犬の散歩してる時に、道長橋に落ちてたのを拾ったんだよ」

 

「二年半前ね。なあ、今っていつ? 何年の何月何日?」

 

「令和五年度の年度終わりだけど? 明日からは新年度。――ここがドコかは聞かなくても?」

 

「ああ、道長橋(みちながばし)で大体分かったし。あれが甲南湖(かなご)で、橋の向こうが甲府。合ってるだろ?」

 

「合ってる。東京に住んでるのに土地勘あるんだ?」

 

「ないさ。ガキの頃にしょっちゅう連れて来られてたから、何となーく覚えてるだけ。小鳥と二人であのコンビニでよく菓子買ってもらってたっけ。それより、魔法抑制AIについて話を作るんだろ。それならこの娘(こ)のことも教えてくれよ?」

 

 話しながら登った、ベッドの向こうに張り出している出窓。

 

 そこから見える川向こうの景色を、膝立ちで覗き込むのをやめた俺が、ビジューつきのリボンで飾られた首元を親指で指しながら聞くと、先生は頷き、口を開いた。

 

「おっけ。じゃあ、まずはレベッカ嬢のことから。フルネームはさっき言った通りで、年齢は五歳。《狐の鋏》については――知ってるって顔だね」

 

 その《狐の鋏》の女に爆死させられかけて、咄嗟に「顕し」を使ったら、こんな体になっていたわけだが、過去の先生にそのあたりの詳しいことを話すのもよくない気がする。

 

 だから俺は、宮代家の魔法使いとして当たり障りない範囲で返すことにした。

 

「まあね。殺し屋稼業の魔法使いの一族だろ。使える魔法は、『雨上がりの水たまりから鋏を放つ魔法』って名前で合ってる?」

 

「合ってる合ってる。さっきの昴がぶっ放しかけた魔法だね。まったく、もうちょいで血の雨が降るところだった」

 

 ぶるりと身震いしながら答える先生。

 

 今宵十四歳を迎える身ですでに『先読み』――文字通り未来(さき)のことを『読む』、「明かし」としての最高到達点のひとつ――に辿り着いている天才へ、俺は半眼で返す。

 

「よく言うよ。さっき知恵さんにも言ってたでしょ、『先読み』できること。今の笙真君ならかすり傷くらいで済むんじゃない?」

 

「済むかよ! 読めるのと体が動くのは別だっての。それともまさか、未来のボクはあのおっかない鋏を全部回避でき――ああ、言わなくていいよ、その顔は当然できてるって顔だもの」

 

 『先読み』の講義でクラス全員を凍りつかせた先生のトンデモ発言――最大速度マッハ6からなる鋏の連撃を相手の魔力切れまできっちり三千九百発分回避しきった際の記録動画を背に述べた、

 

“射出角と速度が分かれば、あとは鋏と鋏の間隙に入るだけだよ。速いだけで弾道が曲がるわけじゃないし、鋏の数と飛距離には五つと10ft(約3m)っていう理論上の上限値があって、どんなに手練れの使い手であろうとこの壁を超えることはありえないらしいから”

 

 ――を思い出しているのが、顔に現れていたらしい。

 

「あんなに苦労して十三歳で『先読み』を習得したのにまだまだ修練が足りないってことか⋯⋯」

 

 などと、ブツクサこぼし始めた先生に、くだんの記録動画の前後譚まで聞かされている俺は、体を鍛えた方がいいと伝えるべきか、迷った末に止めた。

 代わりにクイ、と彼の袖口を引く。

 

「修練もいいけどさ、あと三十分くらいじゃないの? 知恵さんが帰ってくるまで。レベッカ嬢が宮代家に預けられたのって、『あなまほ』のせいで間違ってない?」

 

「あ、ああ。合ってる。あの長ったらしい名前の鋏の魔法は奴(やっこ)さんたちにとって、いくつかある殺しの手立てのひとつに過ぎなかったみたいなんだけど、あのアプリのせいで、誰からでもあぶり出される厄介なリトマス試験紙みたくなってしまったからね。今じゃ、世界中のツテを頼りにバラバラに隠れて暮らしているらしいよ」

 

「魔法使い同士の誼(よしみ)か何かで、宮代家も有力なツテのひとつってわけか」

 

「そのとおり! そうそう、宮代家が『あなまほ』を解析して作った『あなまほ回避アプリ』ってのがあって、《鋏》の連中が身を潜めるのに一役買っているんだけど、これがさっきの魔法抑制AIの元ネタだからね、一応」

 

 そうおどけて言った先生は、瞬き一つのあと笑みを消して更に続ける。

 

「まあ、彼女が宮代家に預けられたのには別な理由もあるんだけどね」

 

「別な理由?」

 

「レベッカ嬢の親ってさ、《狐の鋏》の血縁なんだけど、どっちかがルー・ガルー――いわゆる“人狼”ってやつの血も引いていたみたいなんだよね。なんの魔法も発現していない両親から生まれた彼女に、二つ目の魔法も現れちゃったらしい。本家から聞いたネタだけどね」

 

 ほんの少しの間、わずかに声を引き絞りながら、居心地悪そうに告げてくる。

 

「初めて変身してからそう日数は経っていないって話だけど、夜になると狼に変身して遠吠えする子供は隠れ住むような生活を送るのに⋯⋯きっと、邪魔だったんだろうね」

 

「ふうん。それで、有力なツテである東京の宮代本家に押し付けた、ってことか」

 

「正解。日本人って断われない人が多いからねえ。つっても、相手はお母さんが恋しい五歳児だもの。本家でも一つや二つどころじゃない悶着(もんちゃく)があったらしいよ。結局、東京からほどほどに近くてまあまあ暇な師匠と春休み中の弟子に更に押し付けることに決まったのが三日前ってわけ! 酷い話だと思わない? お陰でボクも師匠もマジ寝不足!」

 

 言うだけ言うと、先生はこの話はおしまいとばかりに、「ふわわぁ」。大きなあくびをしてのける。

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