ゴースト時計2波動の発売日を待ち侘びるケータの元に、とある妖怪が現れる。
設定はゲーム寄りです。
ごく普通の小学5年生、天野ケータが家でテレビを観ていると、とあるCMが流れてきた。
「ゴースト時計2波動、来月発売!」
それはケータが発売を楽しみにしていたゲームタイトルの新作だ。
「ゴースト時計!?よっしゃー、絶対発売日に買うぞー!!」
ケータは駆け足で2階にある自分の部屋へと向かい、所持金を確認する。
「やばい……貯金を合わせても4444円しかない。来月ならお小遣いがもらえるけど……」
そうしてお金の計算をしている中で、あることを思い出す。
「あっ、そういえば」
カバンの中から銀色に輝くこけしを取り出した。たのみごとを解決したらお礼にと渡されたものだ。ケータはこのこけしが高値で売れるのではないかと考えた。思いついたケータは、善は急げと物の買取りをやっているコンビニ、ヨロズマートへ行き上機嫌で帰ってきた。
「5000円~、5000円~」
ベッドに寝転がり、手にしたお金を持ちながらニヤニヤと笑う。銀の価値からすると安いかもしれないが、小学生であるケータにとって5000円はとんでもない大金であった。これでお金の憂いはなくなり、ケータは安心する。しかし、一つのことが解決すると別のことに意識が向いてしまう。
「あーでも待てないー。ゴースト時計2波動の発売日まで待てないよ!」
今すぐにゲームを買えるお金を手にしたケータは、今すぐに買いたくなってしまったのである。
「ねぇウィスパー、発売日を今日にする妖怪とかいないの?」
ケータは自らに付きまとう自称妖怪執事に問いかけた。
「あーたねぇ、そんな都合のいい妖怪いるわけござーせんよ」
ウィスパーは呆れたようにそういうが、何度も間違った情報を流すのを繰り返していて、ケータからの執事としての信頼度はほぼ0に等しかった。
「ウィスパーがそう言っても、いることあるじゃん。ちょっとそれ貸して」
「あっ、ちょケータ君。勝手に妖怪パッドを取らないでください」
「うーん、いないなー」
「だから言ったでしょう。早く妖怪パッドを返してください」
ウィスパーにそう言われてケータが返そうとした瞬間、ケータの様子が急変する。
「うーん、返すのはもうちょっと待とうかな」
「はぁ?何言ってんですかケータ君、もう使わないでしょ。さっさと返してくださいよ」
「いや、もうちょっと待とうかな」
「だから何馬鹿なこと……ムム!これは妖怪の気配!ケータ君妖怪に取り憑かれてますよ。目を覚ましてください!」
そう言ってウィスパーはハリセンでケータを思い切り叩いた。
「痛っ!ウィスパー、急になにすんの!」
「ケータ君、いいから早くあちらに妖怪ウォッチを!」
「え、妖怪!?わ、わかった」
ケータは突然のことに少し戸惑いながらも、ウィスパーが指差した方向へ妖怪ウォッチを向けると妖怪の姿が見えた。
卵型の白い壺のような見た目に目と口がついている妖怪で、身体は少しひび割れている。
「ウィスパー、あの妖怪は何!」
「えーとですねぇ、あ、いました!あれは妖怪タイキ!奴に取り憑かれると、やらなければいけないこともギリギリまで待つようになってしまうのでうぃす。妖怪不祥事案件でいうところのいわゆる、うーん宿題あるけどまだ時間あるしいいかな、を引き起こす妖怪でうぃっす!」
「じゃあ俺が宿題をギリギリまでやらないのはこの妖怪のせい!?」
「いや、あーたは取り憑かれなくてもやってないでしょうが」
「違うって、俺は理由があってやってないだけ。とにかくあの妖怪をやっつけないと。ジバニャン、あいつをやっつけて!」
「えー何ニャ?オレッち今昼寝中ニャんですけど……しょうがないニャー」
ケータの家に居候している地縛霊の猫妖怪ジバニャンが立ち上がると、タイキは怯えたように後ずさりした。
「ちょっと待って、ちょっと待ってって」
しかしタイキがそう言うと、ジバニャンも取り憑かれてしまった。
「もうちょっと待とうかニャ……」
「ジバニャンまで!こうなったら……俺のトモダチ出てこいメラメライオン、妖怪メダルセット……」
ぐうたらなジバニャンでは対抗できないと考えたケータは、何事にも熱くなれる妖怪、メラメライオンを呼び出そうとするが、タイキがそれを見逃すはずもない。
「ちょっと待って、ちょっと待ってって」
「うーん、もうちょっと待とうかな」
「ケータ君、また取り憑かれてますよ!」
「はっ、クソーっ、なんて手ごわい妖怪なんだ」
ケータは必死にタイキを倒す方法を考えているが、そもそもタイキは邪魔をしに取り憑いたわけではなかった。
「だからちょっと待って、戦う気はないって」
「え、そうなの?でも取り憑かれると困るんだけど」
「さっき言ってたって、待てないって。僕の力で待てるようになるって」
「ゴースト時計2波動のこと?……でも他のことまで待つようになるのはなぁ」
「それなら発売だけ待てるようにできるって」
「えっ、本当に!?それなら頼むよタイキ!」
そう言われたタイキは、頼られることに慣れていなかったため、少し照れたようにうなずいた。
「あ、うん。わかったって。そ、それじゃあいくよ。ゲームの発売日もっと待って、もっと待ってって」
タイキがケータへと取り憑いた。それによる不思議な感覚にケータは驚く。
「す、すごい。発売はめちゃくちゃ楽しみなのに、全然待ち遠しくないや。すごい、すごいよタイキ!」
そう言ってケータはタイキを持ち上げた。
「ま、まあね。これくらい簡単だって」
「よーし、ゴースト時計2波動の発売日を待つぞー!」
「「「おー!」」」
そこからケータ達の待機する日々が始まった。
「ケータ君、ご飯を食べるときには元気よく!」
「いただきます!」
「湯舟に浸かって100秒数えて!」
「1、2、3……」
「歯磨きは優しく磨き残しがないようしっかりっと!」
「イエッサー!」
シャカシャカシャカ……
「夜更かしせずに良く眠る!」
「Zzzz」
それに意味があるのかは定かではないが、それでも彼らを止める者はいなかった。
それから2年……いや、1か月の時が過ぎた。遂に発売日間近。
ジリリリリ……と目覚まし時計の音が鳴る。時刻は23時40分。ゴースト時計2波動の発売開始は0時から。
「それじゃあバク、お願い」
「それではいただこう。バク~~」
ケータの眠気は吸い取られ、さっぱりと消えた。
「むにゃむにゃ……後は任せておけ」
そう言ってバクはケータへと変身し、ベッドに寝転んだ。これでケータは親にばれずに外出することができる。
ケータは親を起こさないよう慎重に歩き、ジバニャン達と一緒に深夜の街へ足を踏み出した。ケータ達はこれまでに何度も深夜の街を歩き回っているので慣れたものだ。そして今回もいつものように歩いて、ゲームソフトを売っているカメカメラへと向かう。
その途中、ケータは嫌な予感がした。
「ウィスパー、これって……」
「やはり来ましたか鬼時間!」
「や、やばいって……」
黄色の塵のようなものが舞いはじめ、辺りは深夜の闇よりさらに深い黒へと染められていく。タイキ以外のケータ達にとって、その不思議な現象は何度も体験したものであった。
「どうせ余裕で逃げ切れるから大丈夫ニャ」
ジバニャンがそう言った瞬間、後ろから大きな声が響く。
「あ~~っか~ん!!」
「やばい、見つかった」
「やばいニャ、早く逃げるニャー!」
ケータ達は逃げるが、タイキは出遅れてしまった。
「ちょっと待って、ちょっと待ってって。僕は足が遅いんだって!!」
「タイキ!」
ケータは振り返る。鬼に追いつれそうになっているタイキの元へ走り、抱えて鬼から逃げる。そんなことをすれば当然鬼との距離は近くなってしまう。
「ケータ君、鬼に追い付かれちゃいますよ!」
「ヤバイニャ、もう鬼がすぐそこまで来てるニャ!」
「でも、見捨てるわけにはいかないでしょ。ウィスパー、出口はどこなの!?」
ケータ達は道を曲がり続けて何とか追い付かれないようにしているが、出口がわからないのでは逃げ切れるはずもない。
「えーとえーと、少々お待ちを……」
ウィスパーが上空へ飛び出口を探しに行こうとした瞬間、怯えていたタイキが突然落ち着いたように言葉を発した。
「いや、もう待たなくていい」
「え、タイキ……?」
「晩に成り、器は成った」
タイキがケータの腕から飛び降りた瞬間、壺が割れるような音が響く。そこにいたのはタイキとは似ても似つかない紫色の髪をした妖怪だった。壺のマントと籠手を纏い、どこまでも深い黒色の刀をその身に携えている。
「あか……」
その威風に、鬼すらも立ち止まらせた。
「悪夢の象徴よ。今、貴様は必要ない。退け、
万の斬撃が、一秒にも満たぬ間に、それぞれ異なるタイミングと技で放たれた。
鬼時間は崩壊し、元の世界へと戻っていく。
「ケータさん、ありがとうございました。おかげで成ることができました」
「えーっと、君はタイキなの?」
「先ほどまではそうでした。そして今はバンセイです」
「えー、どうやらタイキは待機エネルギーというもので満たされるとバンセイへと進化するみたいでうぃす」
「そうなんだ……」
ケータはあまりにも変わった姿を見て、元がタイキであると実感できずにいた。
「はい。それでケータさん、私にはもう待機させる力はありませんが、これからもよろしくお願いします」
バンセイは腕を前へと突き出し、ケータはそれに応えた。光り、1枚のメダルが現れる。
「うん、これからもよろしくね」
そしてケータは一件落着した気分になっていたが、まだ終わっていないことを思い出した。
「あ、時間」
ケータが急いで妖怪ウォッチを見ると、その針は二十三時五十九分を指していた。
「こ、これじゃあ0分に間に合わないっ!!」
「別に0分じゃなくてもなくなりはしませんって」
ウィスパーはそう言うが、ケータにとってこれは譲れないこだわりだった。
「いや、だめだ!俺は絶対、0時0分にゴースト時計2波動を手に入れたいんだーーー!!!」
ケータは奮起した。必ず、かのゴースト時計2波動を最速で手に入れなければならぬと決意した。
明るい闇の中を駆け抜け、信号を無視し、ケータは赤い風のように走った。居酒屋で酒宴の、その宴席を横目に駆け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、人面犬を蹴とばし、なまはげを飛び越え、それなりに進んでゆく車の、十倍も早く走った。
「着いた……」
今ケータ達の目の前には確かにカメカメラがあった。時計の秒針は48秒を指している。
「入ろう」
「ウィス」
「ニャ」
「はい」
彼らが店の中へ進んでいく後ろ姿は、これから戦場へと赴く戦士のようだった。
レジの前に立ち、今0秒。
「店員さん、ゴースト時計2波動をお願いします」
ケータがキメ顔で言うと、少しの沈黙の後で店員は口を開いた。
「えーっと、ゴースト時計2波動は発売延期になってますね」
「え」
「あらら」
「まぁしょうがないニャ」
「ケータさん……」
ケータはしばらく石のように固まった。やがて情報の処理を終え、叫ぶ。
「そんなー!?もう待てないよーー!!!」
さくら中央シティに、一人の悲痛な叫び声が響き渡った。