シデリア王国、地方都市リーヴェル。
冒険者ギルドの扉が開いた。
「こんにちは!」
元気な挨拶とともに入ってきたのは、一人の小さな少女だった。
艶やかな黒髪を左右で小さく結んだハーフツインテール。
澄んだ青色と、陽光のような金色。
左右で異なる瞳を持つ少女、イリス・アストレア。
十歳にして冒険者登録を果たしたばかりの、白級冒険者である。
あの日から、三日が経っていた。
「……おい、あの子」
「ああ、例の十歳の新人か」
「本当に登録できたんだな……」
周囲の冒険者たちが、ひそひそと声を交わす。
イリスはそんな視線に気づきながらも、特に気にする様子はなかった。
それよりも、今は大切なことがある。
(……今日から、私もお仕事ができます!)
胸の内で、そっと拳を握る。
冒険者になっただけでは、お金は稼げない。
依頼を受け、仕事をこなし、報酬を得る。
それを繰り返して、少しずつお金を貯めていかなければならない。
すべては、大好きなお婆ちゃんの治療費のため。
イリスは小さく頷くと、依頼掲示板へ向かった。
◇◆◇
「……薬草採取、街道の清掃、荷物運び……」
掲示板に並んだ依頼書を、一枚ずつ確認していく。
白級冒険者が受けられる依頼は、比較的危険の少ないものが中心だった。
もちろん、魔物が出現する可能性のある仕事も存在する。
だが、初めての依頼で無理をするつもりはない。
(お婆ちゃんとも、約束しましたから)
イリスは少し考えた末、一枚の依頼書を手に取った。
リーヴェル近郊の森で採れる、薬草の採取依頼。
指定された薬草を一定量集め、ギルドへ納品する仕事だ。
「これにしましょう」
依頼書を持って受付へ向かう。
「あら、イリスちゃん!」
受付嬢が笑顔を浮かべた。
「こんにちは。今日はどうしたの?」
「初めての依頼を受けに来ました!」
「あらあら、そうだったわね」
イリスが差し出した依頼書を確認する。
「薬草採取ね。うん、これなら初めてのお仕事にもいいと思うわ」
「ありがとうございます」
「ただし、森の奥には入らないこと。近郊の森でも、魔物が出ることはあるからね」
「はい。気をつけます」
イリスは真剣に頷いた。
受付嬢は少し安心したように微笑む。
「それじゃあ、冒険者証を見せてもらえる?」
「はい!」
イリスは胸元から冒険者証を取り出した。
白級。
最も低い等級。
けれど、今の彼女にとっては誇らしい証だった。
受付嬢が手続きを済ませる。
「はい、これで受注完了よ。日が暮れる前には帰ってきてね」
「分かりました!」
イリスは丁寧に頭を下げた。
「それでは、行ってきます!」
小さな背中を見送りながら、受付嬢は苦笑する。
「……本当に、しっかりした子ねえ」
◇◆◇
リーヴェルの町から少し離れた場所に、緑豊かな森が広がっていた。
木々の間から差し込む陽光。
風に揺れる葉。
遠くから聞こえる小鳥のさえずり。
イリスは小さな採取籠を手に、森の中を歩いていた。
「ええと……この辺りでしょうか」
足元の草をかき分け、目的の薬草を探す。
ローザから教わった知識を思い出しながら、葉の形や茎の色を確かめていく。
「あっ」
木の根元に、小さな緑色の葉が集まっていた。
「ありました!」
イリスは嬉しそうにしゃがみ込む。
葉の形。
茎の色。
独特の香り。
間違いない。
依頼書に書かれていた薬草だった。
「よかった……!」
根を傷つけないように気をつけながら、必要な分だけ採取する。
そして、丁寧に籠へ収めた。
(お婆ちゃんに教えてもらっていて、よかったです)
ローザは優秀な魔法使いであると同時に、かつて世界各地を旅した冒険者でもある。
薬草の見分け方。
魔物の生態。
危険な場所の見極め方。
幼い頃から、さまざまなことを教えてくれた。
その知識が、今こうして役に立っている。
「……ふふっ」
イリスは小さく微笑んだ。
そのとき。
頭上から伸びた枝が、黒髪の結び目に触れそうになった。
「……っ!」
イリスは素早く身を引いた。
そして、慌てて髪を確認する。
(危ないところでした……!)
朝、時間をかけて整えたハーフツインテール。
せっかく綺麗に結んだのに、枝に引っかかって乱れてしまっては大変だ。
指先で髪を整え、左右の結び目を確認する。
(……うん。大丈夫ですね)
満足げに頷く。
もっとも、そんなことを考えているとは、森の小鳥たちも知らないだろう。
◇◆◇
薬草採取は順調だった。
籠の中には、依頼された量の薬草が少しずつ集まっている。
「あと少しですね」
イリスは依頼書を確認した。
必要な量まで、もう少し。
この調子なら、昼過ぎには町へ戻れるだろう。
そう考えた、そのときだった。
――ガサッ。
「……?」
近くの茂みが揺れた。
イリスは足を止める。
風ではない。
何かが、草を踏み分けた音。
少女の表情から、穏やかな笑みが消えた。
(……何か、います)
採取籠を足元に置く。
周囲を見渡し、音のした方向へ視線を向ける。
再び、茂みが揺れた。
そして。
「グルルルル……」
低い唸り声とともに、一匹の獣が姿を現した。
灰緑色の毛並み。
普通の狼よりも大きな身体。
鋭い牙と、獲物を見据える黄色い瞳。
(……フォレストウルフ)
イリスは息を呑んだ。
森に生息する低級魔物。
一般的なゴブリンよりも素早く、鋭い牙による噛みつきが危険な魔物だ。
ローザから、その特徴は教わっている。
けれど。
(……本物を見るのは、初めてです)
心臓が、どくんと大きく鳴った。
目の前の魔物は、明らかにこちらを獲物として見ていた。
訓練とは違う。
ガレスとの模擬戦とも違う。
相手は、こちらを傷つけることに躊躇しない。
イリスはゆっくりと息を吸った。
「……光剣」
右手に、淡い光が集まる。
白い刀身。
輪郭に混じる、わずかな黄金色の輝き。
一振りの光剣が、少女の手に収まった。
フォレストウルフが低く唸る。
イリスは剣を構えた。
その瞬間。
ふと、懐かしい声が脳裏によみがえった。
◇◆◇
――数年前。
まだローザが元気だった頃。
家の裏手にある小さな庭で、幼いイリスが剣を構えていた。
向かい合うのは、長い金髪を後ろでまとめたローザ。
その手には、一本の木剣が握られている。
「さあ、イリス。もう一度やってみましょうか」
「はい、お婆ちゃん!」
イリスは元気よく返事をした。
小さな手には、淡く輝く光剣。
まだ形も不安定で、今よりずっと短い刀身だった。
「えいっ!」
イリスが踏み込む。
ローザは木剣を軽く動かし、その一撃を受け流した。
「わっ!」
体勢を崩したイリスが、慌てて足を踏み直す。
「もう一回です!」
「ふふっ。いいわよ」
再び踏み込む。
けれど、結果は同じだった。
「むぅ……」
イリスは頬を膨らませた。
「お婆ちゃん、全然当たりません!」
「そうねえ」
ローザは楽しそうに微笑んだ。
「でも、さっきより足の運びはよくなったわ」
「本当ですか?」
「ええ。ただし、ひとつ大切なことを忘れているわね」
「大切なこと?」
ローザは木剣を下ろした。
「イリス。剣を振るうとき、どこを見ているかしら?」
「……剣です!」
「そうね。でも、相手の武器ばかり見ていてはいけないの」
「え?」
「身体全体を見るのよ」
ローザはゆっくりと構え直した。
「足の向き。肩の動き。重心の移り方。そういうところには、次の動きが表れるものなの」
「……なるほど」
「もちろん、見えたからといって、必ず避けられるわけではないわ。相手が速ければ、考えている間に攻撃されてしまうもの」
ローザは優しく続けた。
「だから、何度も練習して、少しずつ身体に覚えさせるの」
「はい!」
イリスは大きく頷いた。
「私、頑張ります!」
「ふふっ。いい子ね」
ローザは少女の頭を撫でた。
「でも、忘れないで。強くなることよりも大切なのは、無事に帰ってくることよ」
「……はい!」
イリスは満面の笑みで答えた。
◇◆◇
「グルアッ!」
鋭い唸り声が、イリスを現実へ引き戻した。
フォレストウルフが地面を蹴る。
「っ!」
イリスは咄嗟に横へ跳んだ。
足元で風が弾ける。
風魔法による瞬間加速。
しかし、加速が強すぎた。
「わっ……!」
予想以上に身体が流れ、着地した足が地面を滑る。
どうにか踏みとどまった直後、フォレストウルフが再びこちらを向いた。
(……落ち着いて!)
イリスは光剣を握り直す。
胸の鼓動が速い。
手のひらに、じわりと汗が滲んでいた。
(こんなに緊張するなんて……)
何度も訓練してきた。
ガレスとの模擬戦だって経験した。
それなのに、目の前の魔物は恐ろしく感じられた。
フォレストウルフが低く身を沈める。
イリスは剣を構え直した。
(……お婆ちゃん)
ローザの言葉を思い出す。
相手の武器だけではなく、身体全体を見る。
目の前の魔物には、剣も槍もない。
けれど、牙がある。
爪がある。
そして、四本の脚がある。
(……前脚)
イリスは視線を動かした。
フォレストウルフの前脚が、わずかに曲がる。
肩が沈む。
後脚に力が入る。
(来る……!)
次の瞬間。
「ガウッ!」
魔物が跳びかかった。
イリスは今度こそ、必要な分だけ風を使った。
身体を半歩、斜めへ滑らせる。
鋭い牙が、すぐ横を通り過ぎた。
「はあっ!」
光剣を振るう。
白い斬撃が、フォレストウルフの脇腹を捉えた。
「ギャンッ!」
魔物が悲鳴を上げる。
しかし、倒れない。
傷を負いながらも地面に着地し、すぐさま振り返った。
(……浅い!)
イリスは唇を結んだ。
初めて、生き物を斬った。
剣を通して伝わった感触が、手に残っている。
けれど、立ち止まるわけにはいかない。
フォレストウルフはまだ動いている。
少女は距離を取り、再び構えた。
魔物が唸る。
傷口から血が滴り落ちる。
そして、もう一度飛びかかってきた。
(……今度こそ!)
イリスは相手の動きを見た。
前脚。
肩。
重心。
そして、跳躍の方向。
風魔法を足元へ集中させる。
ほんの一瞬だけ加速。
魔物の正面から外れ、すれ違うように踏み込んだ。
「――はあっ!」
光剣が閃いた。
今度の一撃は、深く届いた。
フォレストウルフの身体が地面へ落ちる。
数度、脚を動かした後。
動かなくなった。
「…………」
イリスは剣を構えたまま、しばらく動かなかった。
魔物が起き上がらないことを確かめる。
周囲に、ほかの気配がないことも確認する。
それから、ようやく息を吐いた。
「……終わった、のでしょうか」
光剣が淡い粒子となって消える。
イリスは自分の右手を見つめた。
指先が、少し震えていた。
(……私が、倒したんですね)
初めての魔物討伐。
勝てた。
けれど、嬉しさよりも先に、胸の奥に重たいものが残っていた。
目の前には、もう動かないフォレストウルフが横たわっている。
自分が、その命を奪った。
「…………」
イリスは静かに目を伏せた。
魔物は危険な存在だ。
放っておけば、人を襲うこともある。
そして、今回は自分が襲われた。
戦わなければ、怪我をしていたかもしれない。
それでも。
(……これが、冒険者なんですね)
知識としては分かっていた。
けれど、実際に経験するのは、まったく違った。
イリスは小さく息を吸った。
「……帰りましょう」
もう一度、周囲を確認する。
それから採取籠を拾い上げた。
薬草は、依頼された量に達している。
これ以上、森に留まる必要はなかった。
魔物の素材を持ち帰ることも考えたが、初めての解体作業を森の中で行うのは危険だ。
イリスは目印になる木の特徴と場所を覚え、ギルドで報告することにした。
そして、町へ向かって歩き始める。
途中で、自分の服の袖が少し裂けていることに気づいた。
「……あっ」
どうやら最初の攻撃を避けたとき、近くの枝に引っかけてしまったらしい。
イリスは悲しそうに袖を見つめる。
「……お気に入りだったのに」
小さく呟く。
けれど、すぐに首を振った。
「……でも、怪我をしなくてよかったです」
服は直せる。
命は、そうはいかない。
イリスは袖を軽く押さえ、歩き出した。
◇◆◇
「おかえりなさい、イリスちゃん!」
冒険者ギルドへ戻ると、受付嬢が笑顔で迎えてくれた。
「ただいま戻りました」
「どうだった? 初めての依頼は」
「薬草は、ちゃんと採れました!」
イリスは籠を差し出した。
受付嬢が中身を確認する。
「まあ、綺麗に採れているわね。傷も少ないし、状態もいいわ」
「ありがとうございます!」
「これなら問題なく納品できるわよ」
イリスの顔が明るくなる。
けれど、すぐに表情を引き締めた。
「あの……それと、報告したいことがあるんです」
「報告?」
「はい。森で、フォレストウルフに遭遇しました」
受付嬢の手が止まった。
「……え?」
「襲われたので、戦いました」
「ちょ、ちょっと待って! 怪我は!?」
「大丈夫です。怪我はしていません」
イリスは慌てて両手を振った。
「服は少し破れてしまいましたけど……」
「服より身体よ!」
受付嬢は思わず声を上げた。
周囲の冒険者たちが振り返る。
「それで、魔物はどうしたの?」
「……倒しました」
「倒した!?」
「はい。一匹だけですけど……」
受付嬢はしばらく言葉を失った。
そのとき。
「ガッハッハッハ!!」
聞き覚えのある豪快な笑い声が響いた。
「なんだなんだ! ずいぶん賑やかじゃねえか!」
奥から現れたのは、ギルド支部長のガレスだった。
「おお、イリス! 初仕事はどうだった!」
「こんにちは、ガレスさん」
「おう! ……ん?」
ガレスの視線が、イリスの破れた袖に向いた。
笑みが少し薄れる。
「何があった?」
イリスは森での出来事を説明した。
薬草採取中にフォレストウルフと遭遇したこと。
初めての実戦で緊張したこと。
風魔法の加速を誤り、危うく体勢を崩しかけたこと。
そして、ローザの教えを思い出し、どうにか討伐できたこと。
ガレスは最後まで黙って聞いていた。
「……なるほどな」
やがて、太い腕を組む。
「よく無事に帰ってきた」
「……はい」
「だが、最初の加速は危なかったな」
「……はい」
イリスは少し肩を落とした。
「焦ってしまいました」
「それを自分で分かってるなら、次に生かせ」
ガレスは大きな手を伸ばし、イリスの頭を軽く撫でた。
「初めての実戦で、何もかも上手くいく奴なんざ滅多にいねえ」
「……そうなんですか?」
「ああ。大事なのは、失敗した理由を考えることだ」
ガレスはにやりと笑った。
「それと、魔物を倒したからって、油断して森に居座らなかったのは正解だ」
「ありがとうございます」
「ガッハッハ! いい経験になったじゃねえか!」
イリスは小さく微笑んだ。
その後、ギルドはフォレストウルフの出現場所を記録し、確認のため冒険者を派遣することになった。
イリスは薬草採取の報酬を受け取った。
手のひらに乗せられた、数枚の硬貨。
「…………」
イリスはそれをじっと見つめた。
自分の力で、初めて稼いだお金。
決して大きな金額ではない。
けれど。
(……私、本当に冒険者になったんですね)
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
「ありがとうございます!」
イリスは深々と頭を下げた。
◇◆◇
帰り道。
イリスは小さな菓子店の前で足を止めた。
店先には、焼きたてのお菓子が並んでいる。
「……あっ」
その中に、見覚えのあるものがあった。
ローザが好きな、蜂蜜入りの焼き菓子。
イリスは財布の中を確認した。
今日受け取ったばかりの報酬。
その一部を使えば、二人分のお菓子を買うことができる。
(……でも、治療費を貯めないと)
少しだけ迷う。
けれど。
(……今日くらいは、いいですよね)
イリスは小さく微笑んだ。
「すみません。これを二つください!」
◇◆◇
「ただいま帰りました!」
家の扉を開ける。
「あら、おかえりなさい、イリス」
窓際の椅子に座っていたローザが、優しく微笑んだ。
「初めてのお仕事、どうだった?」
「えへへ……!」
イリスは嬉しそうに駆け寄った。
「無事に終わりました!」
「まあ、それはよかったわ」
「それから、見てください!」
少女は小さな包みを取り出した。
「お婆ちゃんの好きなお菓子です!」
「あら……!」
ローザの瞳が丸くなる。
「もしかして、今日の報酬で?」
「はい!」
イリスは得意げに頷いた。
「初めてのお給料なので、お婆ちゃんと一緒に食べたくて!」
「……そう」
ローザは優しく微笑んだ。
「ありがとう、イリス」
「えへへ……!」
けれど、次の瞬間。
ローザの視線が、イリスの袖に向いた。
「……イリス?」
「はい?」
「その服、どうしたの?」
「……あっ」
イリスは固まった。
破れた袖。
すっかり忘れていた。
「ええと……」
ローザは何も言わず、優しく見つめている。
イリスは少しだけ視線を落とした。
「……実は、森で魔物に遭遇したんです」
そして、今日の出来事を話した。
フォレストウルフとの戦い。
初めて感じた恐怖。
焦って魔法の加速を誤ったこと。
ローザから教わったことを思い出して、どうにか勝てたこと。
すべてを聞き終えたローザは、静かに息を吐いた。
「……そうだったのね」
「……はい」
イリスは小さく頷く。
「お婆ちゃん。私、少し怖かったです」
その声は、いつもより小さかった。
「訓練とは、全然違いました」
ローザはそっと両腕を広げた。
「おいで、イリス」
「……お婆ちゃん」
イリスはその胸へ飛び込んだ。
ローザが優しく抱きしめる。
「怖かったわね」
「……はい」
「でも、ちゃんと帰ってきてくれた」
ローザは少女の黒髪を撫でた。
「それが、何より嬉しいわ」
イリスは目を閉じた。
温かな腕。
懐かしい香り。
大好きなお婆ちゃん。
「……私、もっと強くなりたいです」
「そうね」
「次は、もっと落ち着いて戦えるようになりたいです」
「ええ。少しずつ、強くなっていきましょうね」
ローザは優しく微笑んだ。
「でも、急がなくてもいいのよ」
「……はい」
しばらくして、イリスは顔を上げた。
「……ところで、お婆ちゃん」
「なあに?」
「今日の私、頑張りましたよね?」
「ええ。とっても頑張ったわ」
「……もっと褒めてください」
「ふふっ」
ローザが笑う。
「そうねえ。勇気があって、賢くて、頑張り屋さんで……」
「えへへ……!」
「それに、今日もとっても可愛いわ」
イリスの顔が、ぱっと明るくなった。
「本当ですか!?」
「もちろんよ。少し髪が乱れているけれど、それでも世界で一番可愛いわ」
「……!」
イリスは嬉しそうに頬を緩ませた。
「私もそう思っていました!」
「あらあら」
二人の笑い声が、小さな家に響いた。
やがて、テーブルには蜂蜜入りの焼き菓子が並べられた。
イリスはローザの隣に座り、今日の出来事をもう一度楽しそうに話し始める。
初めての依頼。
初めての魔物討伐。
初めての報酬。
嬉しかったことも、怖かったことも、全部。
ローザは時折頷きながら、優しく耳を傾けていた。
窓の外では、夕暮れの光がリーヴェルの町を染めている。
イリスは小さな焼き菓子を口に運んだ。
「……美味しいですね!」
「ええ、とっても」
ローザが微笑む。
その笑顔を見て、イリスも嬉しそうに笑った。
まだ十歳。
冒険者としては、歩き始めたばかり。
今日の戦いで、自分の未熟さも知った。
それでも、確かに一歩前へ進んだ。
大切な人を守れるように。
もっと強くなれるように。
そして、いつか。
お婆ちゃんの病気を治せるように。
イリス・アストレアの冒険者としての日々は、まだ始まったばかりだった。
【あとがき/ちょっとした世界観設定】
今回は、本作の冒険者ランクについてご紹介します!
冒険者ランクは、全部で8段階あります。
白級 → 緑級 → 青級 → 赤級 → 銀級 → 金級 → 白金級 → 虹級
右に行くほど上位のランクとなります。
ちなみに、現在のイリスは最下位の白級。
ローザとガレスは、かつて金級冒険者として活躍していました。
そして、最高位の虹級は、一つの国家に数人しか存在しない特別なランクです。
まだまだ駆け出しのイリスですが、これからの成長を温かく見守っていただければ嬉しいです!