ウマ娘たちが詠んだ短歌と、それに付随するミニミニSSを詰め込んでます。これまでのステークスの中でダントツで最大出力の作品です。


渋版はこちら→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29351140

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 短歌って言うと敷居が高そうですよね。とっつきにくそうですよね。それを見越して、みんながすらすら読めように一応アレコレ工夫いたしました。たまには新鮮なフレームワークの創作も楽しんでみるか、って感じで……是非、お読みくださいませ。時間の無駄にはさせませんから。


短歌ステークス・全四十献~ウマ娘たちが詠む短歌・40首~

1,スペシャルウィーク

 

おにぎりの 開け方わからず 開けてもらう 十五の青き 春の思い出

 

15歳の新入生の春の頃、わたしはまだ東京にきたばかりで、コンビニのおにぎり買ったんですけど、あの包みの開け方分からないまま食べてたんです。でも、スズカさんがそれを見て、「スペちゃん」って、開けてくれたんです!

 

かくして一献!

 

おにぎりの 開け方わからず 開けてもらう 十五の青き春の思い出

 

意訳:おにぎりの包装の開け方が分からず、他の人に開けてもらった、自分が15歳の新入生だった頃の、春先の青春の思い出。

 

 

 

 

 

 

2,グラスワンダー

 

夢枕(ゆめまくら) 朝寝(あさね)にきみの くちづけの 風吹きしまで 永久(とわ)の合歓(ねむ)の木

 

 短歌の王道と云えばきっと恋歌ですよね。ですので今回は私も恋歌にしてみました。きっかけと云えば、日本にきてから知った、合歓の木のことです。その木は逢瀬の暗喩。その花は夜に閉じ、朝に開くと。それを知った日の夜、私、合歓の木の夢を見たんです。……それってどんな夢か、ですか?……ふふっ、もう。そんなこと言えませんっ。

 

かくして一献。

 

夢枕 朝寝にきみの くちづけの 風吹きしまで 永久の合歓の木

 

意訳:恋人のあなたの吐息が近づいて、キスをしてくれる夢をみているこの眠りから永遠に覚めたくありません。夜閉じる合歓木の葉のように、そのときまで眠っていたいです。

 

 

 

 

 

 

3,キングヘイロー

 

きぬずれに 言葉なくして めおとぼし カーテンごしの 夜は七月

 

寮長さんが恋歌を詠まれてたから、私も恋歌にしたわ。こういうのはちょっと得意なのかしらね、すぐにすらすら詠めちゃったわよ。なんだかこういうのが得意になっていくのも切ないところがあるわよね。

 昔、七夕の星の逢瀬のこと、私、悪く言ってたわ。あれね、今はほんのちょっと反省してるわ。逢えないふたりもいるものね。……でも、意見は変えないわよ?私、逢いに行くわ。ぜったい。それで、流れ星になってしまうのかもしれないけれど。それでもいいじゃない。だってそれくらい、あなたとの逢引きは、私の宝物なのよ?ふふっ❤

 

かくして一献。

 

きぬずれに 言葉なくして めおとぼし カーテンごしの 夜は七月

 

意訳:あのとき、服を脱ぎはじめてから、ふたりともおしゃべりは熄(や)んで、あとはただ、七夕の夜空で彦星と織姫がそうするように、恋人同士の逢引きがあったわよね。カーテン越しに、夜空の微かな明かりがうっすら漏れていたのを覚えているわ。

 

 

 

 

 

 

4,セイウンスカイ

 

夏の夜の 網戸にとまる ひとりの蛾 かがみうつしの ひとりの私

 

恋歌がー……なーんだか妙にウマいひとがチラホラいるんですよねー。

セイちゃんはそういう歌を詠むのは性に合わない気がして、まあ一丁、望郷の歌でも詠もうと思ったんですがねぇー……

そしたら、こうなっちゃんですよ。

私のお里の蛾の大きさ、きっとびっくりしますよ。

まあ、あんまりそういうのも関係ない歌になっちゃいましたけどね。

ははっ。

 

かくして一献。

 

夏の夜の 網戸にとまる ひとりの蛾 かがみうつしの ひとりの私

 

意訳:夏の夜の網戸にとまる一匹の蛾が、今ひとりでいる自分の鏡写しのように感じられました。

 

 

 

 

 

 

 

5,エルコンドルパサー

 

馬沓(まぐつ)脱ぎ 友とホースで 足洗う 故郷とおなじ 風の音を聞く

 

キングもグラスも恋歌を選びまシタだから、エルも恋歌を選ぶつもりでシタ。

でも、悔しいです、月並みなことしか詠めないダカラ、すっごい苦しみました。

エルはまだまだ恋の経験足りないかもしれまセン!だから、経験で勝負しマス。

それで思い出しまシタ。風の音デス。

あのときは雨上がりで、セイちゃんと併走したあと、ふたりの脚は泥まみれだったダカラ、ふたりで脚を洗いました。

そのときのことデス。

 

かくして、一ッ献ォン!

 

馬沓脱ぎ 友とホースで 足洗う 故郷とおなじ 風の音を聞く

 

意訳:運動靴を脱いで、友達とホースの水で足を洗って会話していたとき、ふと会話の止んだ沈黙の時間が流れてきまシタ。そのとき、故郷テキサスとおなじ風の音が聞こえまシタ。

 

 

 

 

 

 

6,タイキシャトル

 

コンビニの チーズバーガー しわしわです だから手作り し始めました

 

Let me see……アゥ、ワタシ、日本のbread全部delicious思いマス。Convenience storeすごいデス。でも、あのhamburgerだけ嫌デス!!its guilty!!isnt it!?ワタシ、お気に入りのfast food jointはWhataburgerデス、でも日本にないだから、困りました。でも、ワタシBBQの記憶あるだから、この前BBQでhamburger手作りしまシタ。友達の分も作りまシタ。皆美味しいって喜んでくれまシタ。ワタシも美味しかったデス。でも、ワタシ、嬉しいだけじゃない、ちょっとbitterの感じありまシタ。nostalgy……nop、……like a ……leave childhood behind。アハハ! I'm not adult yet tho. such a feelingありまシタ。大切な思い出になりまシタ!

 

so……かくシテ、一献!

 

コンビニの チーズバーガー しわしわです だから手作り し始めました

 

意訳:コンビニのチーズバーガーがしわしわで残念でしたから、手作りし始めました。

 

 

 

 

 

 

7,アイネスフウジン

 

コンクリに 芽吹いて揺れる ひなげしの ようにあなたの 背中を見てる

 

 

最初は違ったの。これじゃなかったの。最初のは、「コンクリに 芽吹いて揺れる ひなげしの ようにあなたに ほほえみかけたい」だったの。それでいこうと思ってたの。

でも、提出する前に、他の人の短歌をね、ちょっと、その……読んじゃって……。

そしたら、すごいの!みんなすっごい上手なの!あー、あたしこれじゃあダメだなぁって、思ったの。だから、作り直すことにして……。

でも、もともとあたしこういうの得意じゃないし、どう直せばいいか分かんなくて、困っちゃったの。

それで……もうしょーがないから、寮長(先代美浦・グリーングラス)さんに相談したの。

そしたら、やっぱり寮長さんってすごいの。いい事教えてくれたの。

「この歌で詠まれているとおりに、自分がひなげしで、コンクリートのすき間から芽吹いて、風に揺れてる今、”あなたにどうしたいか”でなく、”あなたにどうしてる?”」って。

あたし、寮長さんに「ありがとうございます!」って言って帰って、それからはスイスイ~って書き直せたの。

これ、前のよりもイイカンジなの!

 

かくして一献。

 

コンクリに 芽吹いて揺れる ひなげしの ようにあなたの 背中を見てる

 

意訳:コンクリートのすき間からでも元気に芽吹いて、風に揺れているひなげしの花のように、あなたのことを想いつつ、あなたと一緒にいていいのかどうか、ずっと心が揺れてるの。

 

(SS作品”アイネスフウジンの時間を買う話”参照するとより楽しめます)

 

 

 

 

 

 

8,ナリタブライアン

 

どこからが 空かといえば 靴底か 命はすべて 空にあるのか

 

短歌は……分からん。詠んだこともない。百人一首ですこし触れた程度だ。それで詠めといわれても分からん。だから、姉貴にいろいろ聞いた。

姉貴はこんな風に言ってた。「普段、ふと考えてはすぐ忘れてゆく、とりとめのない考え事をひとつ拾い上げて、歌に詠もうとすれば、存外いいものが出来上がるぞ」。

それで後日、学園のターフでランニングしてる最中に、ふと、姉貴のいう通りにしてみた。それだけだ。

 

かくして一献。

 

どこからが 空かといえば 靴底か 命はすべて 空にあるのか

 

意訳:どこからが空なのかと言えば、今踏みしめている地面より上は全部空だろう。靴底より上は全部空だろう。なら、生きる者の命と、死せる者の命とは、既におなじ空の中にあるのか。

 

 

 

 

 

 

9,ミホノブルボン

 

東京の 物憂(ものう)い雲の 狭間にも ルネマグリットの 大家族あり

 

中学の美術の時間に、ルネマグリットの大家族を見ました。素敵な絵だと思いました。

ときはくだって、高校からトレセンに入って、美浦寮で生活するようになりました。

そのときになって初めて知りましたが、東京の空は狭くて、いつもいつも、どんよりとしています。空気も良くありません。

ですが、そんな東京の、あんな曇り空だからこそ、ルネマグリットの大家族を思い浮かべていきたいと思いました。

 

かくして一献。

 

東京の 物憂い雲の 狭間にも ルネマグリットの 大家族あり

 

意訳:東京の狭い澱んだ曇り空の中にも、ルネマグリットの大家族があると信じています。

 

 

 

 

 

 

10,ニシノフラワー

 

ためいきで あなたが失くした しあわせを この手にあつめて 還してあげたい

 

パドックで、いつもの見得切りをしていたとき、向こうでお客さんの幼稚園児の女の子が、私を指さして「あのひとなにしてるのー」と、おかあさんに聞いていました。

私、困っちゃいました。なにをしてるかというと、それは見得切りです。でもどうして私はそのポーズを見得切りに選んだのでしょうか。それから私は、その理由を自分なりに考えることにしたんです。

 

かくして一献。

 

ためいきで あなたが失くした しあわせを この手にあつめて 還してあげたい

 

意訳:パドックでわたしが毎回、花が開くさまを両手で表す見得切りをしているのは、あなたがためいきで失くしたしあわせを、この手に集めて花にして還してあげたい思いからですよ。

 

 

 

 

 

 

11,ヤマニンゼファー

 

夏服の 襟(えり)吹き抜けし 時津風(ときつかぜ) ふたりは恥じらい 目をそらし合う

 

夏の頃の話です。河川敷に、学生カップルさんがいました。

そこへふと、時津風がきて、女の子の白い襟を大きく開き、少しブラジャーがちらと見えてしまったのを、男の子の方が焦って、目をそらしました。女の子の方も男の子の様子から事態を察して、目をそらしました。

目をそらしたふたりは、河面の光りの連なりを見ていました。

私もあんな風になりたいと思いました。

人々の思い出をつくれる風に。……

 

かくして一献。

 

夏服の 襟吹き抜けし 時津風 ふたりは恥じらい 目をそらし合う

 

意訳:夏服の男の子と女の子のもとに、時津風がきて、ふたりは恥じらって、目をそらし合う

 

 

 

 

 

 

12,カレンチャン

 

恋人の 唇を模(も)し 梅の花 火照らすきみの 瞳ますらを

 

カレン自然に恋歌を選んじゃった。自然に詠んじゃったの。ん~、オーソドックスなのは芸がない~って、言われることもあるけど、……でもねこれはね、カレンのほんとうの気もちなんだよ?だから、……あなたに受け止めてほしいなぁって、……。ううん、今すぐじゃなくてもいいんだよ。でもいつか、……ねっ?❤

 

かくして一献。

 

恋人の 唇を模し 梅の花 火照らすきみの 瞳ますらを

 

意訳:3月の梅の花が赤く色づいていることも、わたしが赤い口紅を選ぶようになっちゃったことも、すべてはあなたの、あのおとこらしい瞳に見つめられ、火照らされちゃったせいなんだよ。

 

 

 

 

 

 

13,カワカミプリンセス

 

月を見て 画鋲ですわと 笑い合う 綺麗といえない オトナになってた

 

夜、二人のゆく道に夜空がひらけて、おおきな満月が目に入った時、私はそれを指さして「画鋲ですわー!」とあなたにお道化て、ふたりで笑いましたわね。……わたしは、あなたに「月が綺麗ですわ」という事もできない、情けない生き物に成長してしまった、ということですわ。……

 

かくして一献。

 

月を見て画鋲ですわと笑い合う綺麗といえないオトナになってた

 

意訳:満月を見て、「綺麗ですわ」と言えず、「画鋲ですわ!」とお道化るようなオトナになってしまいましたわ。

 

 

 

 

 

 

14,ナイスネイチャ

 

思うより 単純だった この目でも 告げない愛を 見つけられたら

 

ア、アタシはあんまり、こういうの上手じゃあありませんから、アー、出来は、まあ、……アレなんですケド……。

アタシ、愛とか、ホントは信じてて、愛は見えないものだっていいますケド、アタシの目には見えるんじゃないかって。そう思ってたんですヨ。若い頃は。ンマァー……そーでもなかったんですよネ。思うより、ずっとずっと、フツーだったんデス。でも、あのひとのこととか……やっぱり、この目で、愛、とか……見つけられたらいいのになぁって、思うんデス……ウン……。

 

かくして一献。

 

思うより 単純だった この目でも 告げない愛を 見つけられたら

 

意訳:告げないから見えないあなたの愛を見つけることが出来ない、あなたがわたしを好きでいてくれているか分からないくらい単純だったアタシの目でも、何かを見つけられたら。

 

 

(SS作品”ナイスネイチャとクリスマスに初×××する話”参照するとより楽しめます)

 

 

 

 

 

 

15,シンボリルドルフ

 

露天風呂 空見上げれば ため息も ついぞ届かぬ 昴星(すばるぼし)かな

 

三年のキャリアがすんで、きみと温泉宿に一泊した時、女湯の露天風呂から夜空を見上げてみると、ミスターシービーにあって、私になかったもの、すなわち”仲間”たちでまとまった星であるところの昴星が瞬いていたよ。

 

かくして一献。

 

露天風呂 空見上げれば ため息も ついぞ届かぬ 昴星かな

 

意訳:露天風呂から夜空を見上げると、溜息もついぞ届かないほどの高みに、昴星が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

16,シリウスシンボリ

 

ごめんとも 言えなくて夜 カーライト またあてどなく 過ぎ去ってゆく

 

大した話じゃないさ。夜中、カーライトが行き来している景色を横目に見て歩いているとき、ふとさみしいと思った。でも何故さみしいか分からなかった。だから、歌に詠んでひとつの答えを出したってことさ。

ほら、大した話じゃなかったろ?ハハッ。……まあ、詩を書くなんてそんなもんさ。

 

かくして一献。

 

ごめんとも 言えなくて夜 カーライト またあてどなく 過ぎ去ってゆく

 

意訳:ごめんとも言えなくて次第にすれ違ってゆくふたりのように、真夜中、カーライトがゆく宛てもなさそうにすれ違ってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

17,ライスシャワー

 

きみが花 めぐるしあわせ くりかえし 枕に薔薇の 影よこたえて

 

 ある夜の歓楽街で、お兄さまが、知らない女の人と何か会話してるのをライスは見た。

ふたりの身体の距離感からして、お兄さまと、その女の人とは、間違いなく恋仲である。

 ライスは悲しみに暮れ、寮に帰ったあと、ベッドに潜って、掛布団を目深にかぶって、すんすん泣いた。

 ライスは思った。これは、自分がお兄さまへやっと与えることのできた幸せなんだと。

 もしそうなら、自分は悲しい思いをするとしても、お兄さまに対して、じぶんはやっと薔薇でいられるようになれたのだから、……それは、自分にとっても幸せなことなんじゃないかと。

 失恋は悲しいには悲しいけれど、ライスはそれよりも、お兄さまのしあわせをしあわせと思いたかった。お兄さまの彼女さんを呪ったり、その破局を求めて願ったりすることの方が、ライスは耐えられなかった。

 だから、ライスがその夜、掛布団の中で泣いているのは、ライス自身が自分を守るために、薔薇であるために、必要な涙だった。「きみが花」。すなわち、あなたの花であるために。

 

かくして一献。

 

きみが花 めぐるしあわせ くりかえし 枕に薔薇の 影よこたえて

 

意訳:あなたのそばにそっと咲いている花のようにあなたのそばにいることの幸せをわたしは捨てないでいられています。いつも暗い夜の中にひとりぼっちで眠る、あなたに触れてももらえない薔薇だとしても。

 

(枢軸小噺03・ライスシャワー編参照するとより楽しめます)

 

 

 

 

 

 

18,ゼンノロブロイ

 

きみが花 夜毎(よごと)に染めし 黒髪に 流るる時の 光咲く薔薇

 

ライスとロブロイの短歌が頭句「きみが花」を合わせていることに何かを感じて下さった読者は多いと思われるが、その読者の予感は正しい。これはある種の返歌である。

 さて、ライスの追記には続きがある。

 お兄さまにカノジョがいると知って、そのしあわせを願ってライスが自分をころして泣きながら寝た翌日のこと。

 ライスは朝一番にお兄さまに鉢合わせしてしまい、「あっ、……おはよーおにいさま……」などと、健気で素直なぎこちない反応を見せた。

しかし、兄さまの方がなんだか憂鬱そうで疲れていそうで、昨日から髭を剃ってないようで顎が青かった。ライスは、それが気になって、どうしたのか尋ねてみた。

お兄さまはほろ苦い笑みを浮かべて曰く、「いやぁ、昨晩彼女と別れちゃったんだ」と。

そしてそれはライスにとってショックだった。辛そうにしてるお兄さまに向かって何か慰めの言葉をかけてあげたかったが、何にも浮かんで来ず、……………つまり、ライスはその時、直感的にも瞬間的にも、お兄さまの不幸を自分の幸運と思わなかった。

爾来ライスは、あの時自分が「ラッキー」と思わないでいられたことを、時々思い出して嬉し泣きする。

そしてこれらすべてのなりゆきを、親友のゼンノロブロイはすべて知っていた。そうしてあるとき、ライスとロブロイとが、共に奉納短歌の内容を考えることになった折、ライスが「きみが花めぐるしあわせくりかえし枕に薔薇の影よこたえて」と詠んだ短歌の反歌になるよう、ロブロイは次のように詠んだ。「きみが花」。すなわち、あなたは薔薇だと伝えるために。

 

かくして一献。

 

きみが花 夜毎に染めし 黒髪に 流るる時の 光咲く薔薇

 

意訳:あなたがあの人をずっと愛していること、そのために人知れず泣いてきたことを知っています。あなたが流してきたその涙が、あなたの黒髪を、より潤わせ、夜毎にあなたを美しく、慈悲深くし、今、あなたはひとつの光りのように咲いていますよ。

 

(※小噺03・ライスシャワー編参照するとより楽しめます※)

 

 

 

 

 

 

 

19,サクラチヨノオー

 

花火手に 友と駆け合う 夜の浜 馬脚(ばきゃく)仄(おの)見え あとは宵闇

 

ヴィクトリー倶楽部のみんなとの思い出です。夜の海はほんとうに真っ暗で、海原も砂浜も夜空も、ぜんぶとっぷり闇の中で、なんにも見えません。そんな中で、花火を持って奔ったとき、私はある意味で空白感のようなものを感じました。とっても不思議な感覚なんです。みんなそこにいるのに、誰の姿も見えないんです。自分の姿さえ。わたしたちはいたんでしょうか。わたしたちはいたんでしょうか。……

これからの人生の葛藤の中で、私は繰り返し、あの夜の海辺のことを思い出すのだと思いました。自分の靴も見えない宵闇、自分が天地に水平でいるのかどうか分からなくなってゆく、あの宵闇。手前に仄見える馬脚が、誰の脚なのか分からない、波涛しか答えのない、あの夜の海辺の中を、私はこれからもずっと、奔り続けるのかもしれません。

 

かくして一献。

 

花火手に 友と駆け合う 夜の浜 馬脚仄見え あとは宵闇

 

意訳:夜の海辺で、友達と花火を手に持って、走って遊びました。友達の脚が一瞬わずかに見えるほか、何も見えないほど暗い夜の海辺を。

 

 

 

 

 

 

20,ゴールドシップ

 

わが路は 午睡(ごすい)の寝覚めの 名残かな それにつけても 夢の惜しさよ

 

 

 おーいおいおいおい追記ってなんだよォゴルシちゃんこれでも野球じゃねーけど一球入魂なんだぞォ?

 まぁゴネても仕方ねーんだろーしよ、まぁーヤってやるよ。……

 江の島いったときのこと、覚えてっか?アタシそんときの夢よく見んだよ。

 ガチで気合入ったレースとか、結構してたんだけどな。でもそーゆー夢ぁあんま見ねーんだよな。

 この前もさ、「今度の春天でメノのヤロー(フェノーメノ)と決着つける」っつって、トレーニングガツガツやってたろ。あん時もさ、なんか、そんな感じだったんだよな。冬の並木道歩いてる夢とか見たりしてよ。

 いやあ、まあいい夢なんだけどよ。入れ込んでるときに見る夢がそんな感じなのって、意外だよな。まあそんな具合に、一騎当千板東侍ゴルシの助のいくさ道は、ぎゃーぎゃーうるせー感じじゃなく、存外静かに終わってくってことかもな。ボンボヤ~ジ?アタシも別に四六時中ぎゃーすか言ってるわけじゃねーもん。星座の気持ちになってたりすんだぞ。ア~ハ~ア~ハ~。

 しぇんしゅーばんじゃいばんばんじゃい。しぇんしゅーばんじゃいばんばんじゃい。でおじゃりましゅゆわ~。

 いいか?もうこの辺で。ゴルシちゃんもそろそろネミぃしな。……

 

かくして一献。

 

わが路は 午睡の寝覚めの 名残かな それにつけても 夢の惜しさよ

 

意訳:あたしの競走馬としての生涯は、昼寝から目覚めたときの曖昧な夢の記憶みたいだ。あたしはその夢が惜しかった。

 

 

 

 

 

 

21,ステイゴールド(ただし、キンイロリョテイ)

 

俺たちは 生きた標本 チンパンジー ウッキーウキウキ つい夢を見る

 

追記なんかねえよ。

……は?ンンでダメなんだよ……。アー分かった分かった言やぁいいんだろ?

柄にもねえことだけどよ、たまにゃあアリかもなって、この前アート(オリエンタルアート)と博物館いってきたんだよ。まあ二人っきりってわけじゃねえ、いつもの大所帯でよ。そしたらなんか、案外おもしれーんだよな、博物館なァ。でよ、見て回ってたら、ルーシーとかゆう、なんか人だか猿だかわかんねえのがいてよ、指さして口空けてんだ変なポーズとって。いやぁ、銭湯の女湯によくいるバーサンみてえだから、ちょっと笑っちまってさ。いやあ、あんまデケぇ声で笑ってっとヤベぇから声はまあ抑えたけどな。

んで改めて思ったんだ。俺たちは別に何も変わっちゃいねえんだよなぁって。

なんてんだっけか……あ、悟りか。悟りだよな。そういうの感じてんだわ。

わりぃ、あんま説明んなってねえかもしんねえけどよ。

おれたちも猿も別に変わんねえってんで、それはそれで、いいんじゃねえか?

だから下らねえ片意地張ったり、しゃらくせえことする理由なんてねえんだよってことなんだから。

 

かくして一献。

 

俺たちは 生きた標本 チンパンジー ウッキーウキウキ つい夢を見る

 

意訳:俺たちはその辺の博物館のフルチンの猿の標本と何も変わんねえだろ気取んなよ。夢ぇ見ちまうくらいバカなんだからよ。

 

 

 

 

 

 

22,ナカヤマフェスタ

 

空欄を 尾崎豊の 詞で埋め合 わせたダサさを 埋め合わす旅

 

まあ、なんか詠まなくちゃいけねえみたいだから、詠んだってだけさ。

クラスは恋歌で結構盛り上がってたんだけどさ、私はしゃらくせえのは性に合わねえ。ん、ああ、それはあれだ、たとえ、腹に一物、恋心があったとしてもな?

だから、御先祖さんたちにゃあ若干悪りぃかもしれねえが、闘う理由のひとつを詠ませてもらった。

そしたらそれがさ、結構イイカンジだったみたいだ。仲間から先公まで、「このロックさ、良い」とか言ってよ、私、久々に褒められちまったよ。

私もまあ褒められたことぐらいはあるが、こうゆうことで褒められんのは私にとっちゃ初めてのことさ。だからかぁ知らねえけど、まっ、嬉しい。自惚れちまいそうさ。ハハっ。……ああ、そうだ。それだよな。自惚れなきゃ、って話だよな。

今回詠んだやつも、要するに自惚れのためにってことだぁな。

自惚れがなきゃあ、やってらんねえかも知んねえもんな。

いいんじゃねえか自惚れても。多分な、他には何もねえのさ。私にも。アンタにも。

……知らんけどー! ハハハっ!

 

かくして一献。

 

空欄を 尾崎豊の 詞で埋め合 わせたダサさを 埋め合わす旅

 

意訳:テストの空欄に尾崎豊の歌の歌詞書いて埋め合わせた中学生時代の自分のダサさを埋め合わせるためにこうして今果てしなく闘ってんのさ。

 

 

 

 

 

 

23,カルストンライトオー

 

真夜中の 17歳だ また何か 失うために 眠るさだめだ

 

短歌なんぞは一度とて書いたことがない。だから書けと言われても困る。何も思い浮かばない。結局提出期限の前の晩になって慌てて机にかじりつくハメになった。しかしそれでも思い浮かばないものは思い浮かばない。短歌なんぞは考えたこともない。ノートにいろいろ書き出しを書いた。しかしそこからも思い浮かばない。そのうち書き出しを書くのも疲れて、「バナナの木」だの「アンパンマン」だの莫迦莫迦しいさも集中力の切れたようなことを書き始める始末。同室のパジャマ姿のデュランダルが憐みの目でこちらを見てくる。なんだそのバナナのような黄色いパジャマは。しかしこいつはとっくに提出を終えている。今まで大して短歌なんぞ詠んだこともなかろうに今回なぜか妙に自信に満ちていて得意げな栗狸よ。しかしなんだその目はとも言えない何故なら私は提出期限が……これでは……そんな中とうとう夜も12時を回って流石にもうあきらめて寝るべきかと思った。流されて真夜中。手癖のように「真夜中の」と書き出した。すると不思議とそこからはすいすい行った。素直に今直面していることを書けばよかった。一直線に。これだ。きた。

にわかに意味深な歌になった。

 

かくして一献。

 

真夜中の 17歳だ また何か 失うために 眠るさだめだ

 

意訳:17歳の私は、残り少ない何かを失う義務のために寝かされるんだ。

 

 

 

 

 

24,デュランダル

 

七生の 細雨(ささめ)下(した)しる てのひらに 君が名を書く 濡れた指先

 

私は、自分に浩然の気が足りないことを知っております。だからこそ、それを補うためのおまじないを、いつもレース出走前にやっています。それは指先で、我が君の本名をてのひらに書いて、それを呑み込む。そういう動作を致します。そうして、自分に言い聞かせるのです。「おんしゅは、おまえが負けたからとて、決しておまえを見限ったりはしない、懐の深いお方であるぞ。だから、”負けたらどうしよう”なんて、悲しい思いは忘れて、今日のおまえは、あの日の大和のように、自分のすべてを出し切って、立派に闘ってくればいいんだぞ。おんしゅはいつも、おまえのそばにいるぞ」と……。そのおまじないがあったからこそ、私は何度負けてもくじけずにターフに上がっていけたのです。ところが……。

忘れはしません。第38回スプリンターズステークス。あの日は、わたしの苦手な条件が全部重なっていて、でもだからこそどうしても、勝たねばならない。でなければ、我が君が今まで私につけてくれた鍛錬を、意味のないものにしまうから、……、……ああ、いけません。やめましょう。ダメです。この先のことを話すのはやめさせてもらう。あの日のことを思い出すと泣いてしまう。……あれがちょうど、七度目の敗北でした。ズィーベントット(sieben tot)です。それは、この国の言葉で言い換えれば、多分、七生です。

この奉納短歌は、勝負を直接詠むのはマナー違反といいます。わたしの詠んだのは部分的には闘いですが、中身はさにあらず、御主の愛を思って、耐え忍んできた思い出です。神々もきっと、それを分かって下さるはずです。……

 

かくして一献。

 

七生の 細雨下しる てのひらに 君が名を書く 濡れた指先

 

意訳:無限に生まれ変わってその度に頑張っても決して覆せない絶望に直面する雨の日、雨と涙とで濡れた指先で、手のひらに我が君の本名を書いて、プレッシャーになんとか耐えていた。

 

 

 

 

 

 

25,フジキセキ

 

まごころは いつも素肌で 抱きたくて きみの祈りを やどしてる胸

 

寮長として奉納短歌をどういう心構えでやっていけばいいかは、先代寮長(テイタニヤ)から教わってたんだ。「寮長の短歌は、期せずして皆の手本になっちゃうのよ。あなたが気張ると、下の子たちもそれを真似してねえ、気張って気張って、気張り過ぎてしまうわ。だから、下の子たちが”あぁ、そういうのでも良いんだ!”って思えるものにしてあげなさい」って。だから私も、ポニーちゃんたちが気張り過ぎないように、真面目すぎない、ちょっぴりえっちな恋歌にしたんだよ。私の勝負服、胸が開いてるけれど、どうしてかというと、あなたにね、……って、ね。ほら、これだけはっちゃけておけば、ポニーちゃんたちも、素直な気持ちで短歌を詠んでくれるかなぁって。ふふっ。

伝わったかな……素直になっていいんだよ、って。

 

かくして一献。

 

まごころは いつも素肌で 抱きたくて きみの祈りを やどしてる胸

 

意訳:勝負服の胸をあけてる訳は、あなたの思いを胸に抱いてるからだよ。あなたがくれるわたしへの思いは、かならず生(ナマ)で直に受け止めるって決めてるんだ。…………ふふっ❤

 

 

 

 

 

 

26,ヒシアマゾン

 

信じてる 泣く子は育つ 泣きながら ごはん食べてた かつてのわたし

 

先代寮長(グリーングラス)から教わってねえ。「下の子たちに向けた歌にするのがいいよ。でも、訓示にしちゃいけない。肩の力は抜いてね」ってねえ。だからねえあたしも色々、下の子たちに向けて何を伝えたらいいか、考えててねえ。それでひとつ思い出したんだよ。……選抜レースで負け続きでねえ、すんすん泣きながらひとりでお夕飯食べてる一年生がいてねえ。何か言葉ぁかけてあげたいんだけど、あたしは……口下手だしね。それに、なにより、……あたしがうまいこと言ったってねえ、どうしようもないさね。だから、なにも言えずにいたんだよ。それがもう、悔しいのなんの。あたしも一年坊の頃は同じように負け続きでね、それに、まあ……当時はほら、まだ、昭和だったしねえ、……先輩たちがもう、厳しくて恐くて、しかももう鬼みたいに強いんだからねえ、文句も言えないしねえ……。それであたしだって、負け続きだし先輩は恐いしで、泣きながらご飯食べてたからねえ。だから、あの一年生に、何か、何か言ってあげたかったんだよ。だから、それを歌に詠んだってわけさね。

 

かくして一献。

 

信じてる 泣く子は育つ 泣きながら ごはん食べてた かつてのわたし

 

意訳:レースで負けて、泣きながらお夕飯を食べている一年生を見て、三年生の私も、同じ状況だったことがあるって思い出した。寝る子は育つっていうけど、泣く子も育つよ。あたしもそうだったんだから。だから、大丈夫だよ。

 

 

 

 

 

 

27,エアグルーヴ

 

約束は 焦らないこと 千の夜 千の雨こえ 明日のひまわり

 

生徒会副会長になるまえは、その仕事内容を知らなかった。……まさか、負けすぎて、自分から自主退学届の提出準備を始めるまで、誰にも言い出せずに独り追いつめられていく生徒たちがこんなに沢山いるとは。これほどシビアな世界だったとは。その世界がどうなっているか、その世界の中にいたわたしすら、全然分かっていなかったということだ。

 だからこの頃は、身の振る舞いも、心の持ちようも、言葉のかけかたも、しっかり考え抜いてゆかねば、と思ったんだ。それでこの歌だが……まあ、もう貴様にも分かるだろう。これは下級、……いや、皆に、かけてやりたい言葉だ。庭の花の世話をしているとき、ふと思いついたんだ。

 

かくして一献。

 

約束は 焦らないこと 千の夜 千の雨こえ 明日のひまわり

 

意訳:約束は焦らないことだ。焦らず慌てず諦めず、だ。たくさんの苦境、たくさんの涙を超えてゆくからこそ、貴様は、太陽に顔向け出来るくらい、立派になってゆくんだぞ

 

 

 

 

 

 

28,アグネスタキオン

 

ながめせし 時ならねども きみが目の ゆめみしを身の 愉悦とするらん

 

 皐月賞の前に詠んだ歌さ。奉納するのが辞世の句だっていいじゃあないか。……ああ、いや、まさかこんな話までするとは私も思っていなかったんだがねぇ。まぁ、この際だからもう少し踏み込むとしようか。

 私がはじめてきみの前で奔った時、きみがどんな目でわたしを見ていたか覚えているかい。わたしはいつまでも覚えているだろうさ。あんなに心まっすぐに見つめられたことはなかった。……まぁ、やられてしまったというわけさ。そっちに惚れられて、こっちも惚れてしまったのさ。でも、私は恋に落ちている暇が無かったんだ。きみにナイーヴな胸中を明かすような暇も、ねぇ……。当時はまあ、自分の脚がもたないことも分かっていたし、いつこわれるかも検討がついていた。レース中にそうなる可能性もあった。だから、のうのうときみに懸想している訳にはいかなかったのさ。だからまあ、きみの思い出を死出の伴にさせてもらうよ、という訳さ。……まぁ、この通り生きて帰って来られたんだがねえ。だから今となってはぁ、すこし恥ずかしい歌を詠んでしまったとも感じるねぇ。

 

ふぅン……しゃべり過ぎたねえ。……

 

かくして一献。

 

ながめせし 時ならねども きみが目の ゆめみしを身の 愉悦とするらん

 

意訳:ナイーヴな気持ちに浸っている場合ではないんだが、……わたしの走りをはじめて見たときの君の目を、わたしは終生大切な思い出として、冥土の土産にさせてもらうよ。

 

(※SS作品”マンハッタンカフェと一緒に子供を迎えに行く話”参照するとより楽しめます※)

 

 

 

 

 

 

29,マンハッタンカフェ

 

人は舟 星は白波 時は海 また逢えるまで 帆を濡らしつつ

 

 

タキオンさんの詠んだ歌と、だいたい似たようなテーマの歌です。反歌でもあります。

そう、……ああ、思い出してきました。当時の事。

当時の私は奔ること、奔馬になることで一杯一杯でした。でもそれはほんとうは、一杯一杯になることで忘れたい憂いが沢山あったからです。夜空の星。夜の海。そういう遠望を見つめながら、旅をつづける舟人の気もちになって、自分の近くにあるものを見ないでいたかった、そういう心境の顕われでしょうね。

短冊が配られた日に、ささっとボールペンで書き上げました。時間は大して掛かりませんでした。時間が掛からなかった事もきっと、当時の正直な気持ちを、そっと……そのまま詠んだからかもしれませんね。

 

かくして一献。

 

人は舟 星は白波 時は海 また逢えるまで 帆を濡らしつつ

 

意訳:思うにひとはそれぞれ、時と流れの中をゆく小舟のようです。出会いと別れを繰り返し、頬(帆)を濡らす私たちのようです。旅立った舟たちが、またいつかひとつの湊に停まるように、運命の導きがあれば、ワタシたちもきっとまた逢えますよ。

 

(※SS作品”マンハッタンカフェと一緒に子供を迎えに行く話”参照するとより楽しめます※)

 

 

 

 

 

 

30,ケイエスミラクル

 

かきぞめの 字がことごとく かすれてる かすれているが 日に融けている

 

墨汁が薄かったせいで、おれのかきぞめの字はかすれちゃってました。かすれてましたが、でも今、そこに陽射しが射して、かすれた字が陽射しの中に融け込んでいました。墨汁、薄くても良かったかなって、思ったんです。

 

かくして一献。

 

かきぞめの 字がことごとく かすれてる かすれているが 日に融けている

 

意訳:かきぞめの字が全部かすれてます。かすれてますけど、陽射しの中で光り輝いています。

 

 

 

 

 

 

31,ダイイチルビー

 

枕まで 夜雨(よさめ)よきたれ 蹄跡(ていせき)と ともに憂いも しぞ消えゆかば

 

追記、ですか。……

 

内容の説明でよろしゅうございますか。

 

……。

 

どうか、泣かせてください。夜雨が夜のうちに、あの人の蹄跡を地面から洗い流してしまうのなら、毎夜、ベッドの中で枕に顔をうずめ、ひそかにあの人のことを思って泣いている私の、その泣きたいあの人への思いをも、おなじ夜雨のうちに洗い流してください。あの人のゆくすえに寄り添うことのできる、わたしの形代として。……

 

かくして一献。

 

枕まで 夜雨よきたれ 蹄跡と ともに憂いも しぞ消えゆかば

 

意訳:夜雨よ、わたしの枕元へきて、この枕を濡らしてください。あのひとの蹄跡が夜半の雨のうちに消えてゆくなら、わたしのこの気持ちをその伴にしてください。

 

 

 

 

 

 

32,サトノダイヤモンド

 

犯罪です あなたのやさしさ あたたかさ 泣いてしまったら あなたのせいです

 

短冊をもらってすぐ、恋歌にしようって決めたんです。思えばそれもあなたのせいですよねっ。ですよね絶対っ。んふふっ❤

でもこの歌、残念な歌になっちゃったんです。……この歌を短冊に書いて、それを提出し終わった後、偶然キタちゃんの歌を読んじゃって、……そしたら、キタちゃんの方が上手だったんです!

私また負けちゃいました。悔しいですっ。すっごい悔しいですっ。でももう、詠み直せないんです。だから、月並みな言葉ですけど、この悔しさをバネにして、来年はもっと!すごい短歌を詠んじゃいますっ!

だって私、勝ちたいんです。レースにも勝ちたいし、キタちゃんにも勝ちたい。それだけじゃなくて、ちょうどこの歌に詠んだように、あなたのやさしさに絆されて、すぐふにゃふにゃになっちゃう私自身にも。甘えたくなっちゃう私自身にも。勝ちたいです。あなたの愛に報いるためにもそうです。勝たなくちゃいけないんです。私、入学前に、御先祖様(安房里見氏)にそう約束したんです。だから、……ダイヤは、勝たなくちゃいけないんです。

 

でないと、あなたの前で泣いてしまいそうだから。……

 

かくして一献。

 

犯罪です あなたのやさしさ あたたかさ 泣いてしまったら あなたのせいです

 

意訳:あなたがくれたやさしさ、あたたかさは、思わず泣いてしまいそうなほどです。いっそ憎たらしいほどです。いつかあなたの前で、あなたの愛の大きさに涙してしまったら、それはあなたのせいですからね。

 

 

 

 

 

 

33,キタサンブラック

 

うわばきに 黒猫描いたの わたしです あなたのそばに いたい思いで

 

ん、んっと、えっと、……はい、あれって、そういうことなんです……んへへっ❤

えーっと、学園に入ってから、あたし時々、暗い気持ちになっちゃうことがあって。それはその……みんな、すっごいギラギラしてるから、あたしこんなにすごい気合の子たちと闘って、ほんとうに勝てるのかなぁ、とか。あたしも負けず嫌いだけど、こんなに負けず嫌いな子たちと会ったことなくって、……ちょっとドギマギして、気後れしちゃったりして。それにあたし、知り合いがサトちゃんしかいないし、なんだかその、心細くなっちゃって、……あ、寮長さんが教えてくれたんです、「ホームシックだね」って。

でも、やさしいひとたちが沢山いてくれて。あたしもちゃんと、闘いに集中できて。だから、これまで何とかやってこれたと思うんです。それで、……でもあの時……、選抜レースで大負けしちゃって。あたし、もうダメなんじゃないかって。そのとき、あなたのことを思い出して。

それで、あたし、思ったんです。生まれ変わったら黒猫になりたいなって。黒猫になって、あなたの膝の上で、丸まっていたいなぁって。

じゃないと、こんな、ッ……、ズズッ、ヒッグっ、……うっ、ウッ、ウゥ、ッ……うええぇぇぇ……

 

 

(インタビュー、一時中断)

 

えへへっ。ごめんなさいっ。あたしもこんなにしゃべっちゃうと思ってなくって。

 

かくして一献。

 

うわばきに 黒猫描いたの わたしです あなたのそばに いたい思いで

 

意訳:私の形代の黒猫を、あなたの上履きの足の甲のところに描きました。いつもあなたのそばにいたくて。

 

 

 

 

 

 

34,メジロアルダン

浮世をば 今こそ渡れ 憂いなく 名を葉桜の 下にかさねて

 

私には詩作の才はありません。でも、それでも詠んで遺したいものはあったんです。

なので、清水宗治さんの辞世の句(浮世をば今こそ渡れ武士の名を高松の苔に残して)を本歌取りさせていただきました。とっても貴いひとですから、私もせめて肖りたかったんです。

私、病院で育ちまして……ええ、ご存じでしたね。ふふっ。あの頃は、そうですね……美しい景色を見ても、そこにはほんとうの色は乗っていなくて。明日どんな服を着ようかとか、何を食べようかとか、他の人のほんとうの気持ちとか……そういう事は、考えられなかったんです。私にはただ、生きるか死ぬか、それだけしかなかったんです。

だからこそ、私の今の生活は、かつての長い、憂わしい、悔しい思いの数々から、ゆっくり遠くへ離れてゆくようで、どんなことも、しあわせなんです。

今回詠ませていただいたこの歌は、暗い意味に読み取る方も多いと思います。でも私にとってこれは、これは門出の歌なんです。私今、とってもしあわせです。持病がなくなったわけではないですけれど、かなしみがなくなったわけでもないですけれど、それでも私にとって、今はしあわせなんです。憂いがないから……。

ええ、そうです。憂いがないからですよ。……

 

かくして一献。

 

浮世をば 今こそ渡れ 憂いなく 名を葉桜の 下にかさねて

 

意訳:わたしは行きます。心迷うことなく。あの葉桜の下の側溝に溜まっている、汚れた桜の花びらのうちの一枚が、私の末路であるとしても。……

 

 

 

 

 

 

35,メジロラモーヌ

 

憂いなく 風月を詠む たわごとを 今は誠と 思いけるかな

 

ハァ……。詩は、説明したらつまらなくなってしまうものよ。陳腐になってしまうの。だから、追記なんていらないと思うのだけど。

「頭お花畑」をただのバカだと思うのをやめたってことよ。それは人の祈りだと思い知ったのよ。私も私で、すこしは地獄を垣間見たから。

さあ、これ以上深掘りしても価値あるものは出てこないわ。だからもう、詮索するのはやめてくださるかしら。それとも、地獄の話が聞きたいのかしら?

 

かくして一献。

 

憂いなく 風月を詠む たわごとを 今は誠と 思いけるかな

 

意訳:憂いもなしに蝶よ花よと詠んでいるものを、かつては嘘だと思っていたけれど、今は誠だと思っているわ。

 

 

 

 

 

 

36,メジロドーベル

 

秘め過(そ)しゝ(し) 華は儚く 空蝉(うつせみ)の ひとつぶの殻 いくとせの雨

 

いつかの夜、実家の裏で、エゾセミの抜け殻が雨に打たれてるのを見たことがある。わたしみたいだと思った。

世阿弥が「秘すれば華」って言ってたから、私はあなたへの恋心をずっと、ずっと、隠し通してきた。

でもそしたら隠し過ぎたみたいで、ほんとうのわたしがどんなにあなたが好きか、あなたに知ってもらえてないんだ。

だから、もう何年も、わたしの心は泣いているの。あの蝉の抜け殻みたい。

今となっては、それがほんとうに、「秘すれば華」に従った結果なのかも分からなってきたわ。

だって、自分が臆病なだけだったかも知れないもの。……

 

かくして一献。

 

秘め過しゝ 華は儚く 空蝉の ひとつぶの殻 いくとせの雨

 

意訳:恋心を秘密にし過ぎてついに気付いてもらえなくなり、わたしはしばしば涙を流している。人知れず長い間風雨にさらされている蝉の抜け殻のように、中身がないすなわち恋心のないもののように意中の人から等閑視されている気分になる。

 

 

 

 

 

 

37,メジロブライト

 

あらたまの 時越えてゆけ 年輪を 重ねてきみの 憩う木漏れ日

 

わたくしもちゃぁんと目白の血をひいておりますからぁ、それにぃ~……わたくしの、ほんとうの気もちとは裏腹にぃ、レースはぁ……じっくりとは、いかないものですからぁ~……ですからぁ、これからもぉ~……わたくしも、みなさんと同じように、勝ったりぃ、まけたりをぉ~、くりかえして……くりかえしながらぁ、生きてゆくことでしょう~。それはぁ~……それはぁ~、辛いことでも、ありますわぁ~。

でもぉ~……だからこそぉ、わたくしぃ~……、大器晩成とゆう言葉を、信じてゆきたいと思うのですゎぁ~。

いつか、おぉ~きな木になってぇ、立派な、……おぉきな木になって、あなたに……、あなたに、……ぁぁ……、……疲れたあなたに、膝枕してさしあげたいのですわぁ~。

すべてはそのためのぉ、ゆったりとしたぁ~……、長旅なのだとぉ、山あり谷ありの、旅路なのだとぉ~……そう、信じているのですわぁ~。

 

かくして一献~。

 

あらたまの 時越えてゆけ 年輪を 重ねてきみの 憩う木漏れ日

 

意訳:年をとってゆきたいと思いました。ゆっくり年輪をかさねて、木漏れ日を湛えるやさしい大きな木が育ってゆくように、わたくしも年をとって、あなたに寄り添い、あなたを癒してあげたいのです。

 

 

 

 

 

 

38,メジロライアン

 

天離(あまさか)る われらが時は 過ぎにけり ただ海ありて 松の間に照る

 

 これはあんまり良いことじゃあないんですけど、……時々、思うことがあります。学園の生活はとってもエネルギッシュです。みんな、今日という日を生きています。でも、その後はどうかなぁって。あたし今は精一杯ですけど、でも、学園を卒業したあと、あたしって、なにをしてるのかなぁって。

 この前学外をランニングしていた時、公園で、幼稚園のこどもたちが遊んでました。そのときふと思っちゃって。あたしもいつか、子育てとかするのかなぁって。子育てしているとき、あたしってきっと、筋肉もおちてるのかなぁとか。そのときの自分は、今の自分をどう見ているんだろうなぁ、とか。でもそれだけじゃなくて……。

 あたしたち、それぞれ世代があって、宿命があって、ちょうど走馬灯みたいに、繰り返してますよね。それって、退屈なことなのかなって。……

 

 ダメですよね。そう考えちゃうってやっぱり。ダメですよね。だってそれじゃあ今の努力というか、……今この時の、何かに熱中してるこの、なんというか……ぁぁ~、大袈裟になっちゃいますけど、尊厳?……っていうか。そういうのが傷ついちゃうっていうか。きっと。

先のことなんて考えて、センチメンタルな気もちになっていてもしょうがないですし、イケナイかもしれませんけど、……でも時々やっぱり、ついそういうことも考えちゃうんです、あたしって。今を一所懸命にやっていかなくちゃいけないところなんですけどね。それで、ちょっと反省してるんです。だからこそ、逆にいっそ、向き合ってみることにしたんです。暗い気持ちの中にも、きっと、暗くない気持ちは隠れてるんじゃないかなって。

松の木の間に、海がきらきら光っているのを見るように、それを見つけられたらなぁって。

 

かくして一献。

 

天離る われらが時は 過ぎにけり ただ海ありて 松の間に照る

 

意訳:時の流れに突き動かされて生きるさだめのわたしたちは、それぞれの役目が終わったら、この東京(府中・中央トレセン学園)から遠く離れたそれぞれの故郷へと帰ってゆく。そこには、それまでわたしたちが順じてきた時の流れを超越した、超然とそこに広がる海原があって、防風林の松の木の間木の間に、その海のかがやきが見える。

 

 

 

 

 

 

39,メジロマックイーン

 

今ぞ知る 香炉をいでて 日に融けし 紫雲(しうん)はひなたへ 還るもろひと

 

お供え物の短歌ですので、その趣旨に合うように詠ませていただきましたわ。まぁ……なんだかちょっと、説明調な短歌になってしまったのが少し残念なのですけど、内容にはちゃんと満足しておりますのよ?ふふっ。

 故郷のお屋敷に仏壇がありまして、小さなころから、お線香のけむりがあいまいに立ち昇ってゆく様をよく見ておりましたの。それで今回、どんな歌を詠もうか考えていた時、ふとあの静かな時間を思い出しまして、歌に詠んでみたのですわ。

 

かくして一献。

 

今ぞ知る 香炉をいでて 日に融けし 紫雲はひなたへ 還るもろひと

 

意訳:知ったのは今ですわ。陽射しが香炉を照らし、お線香のけむりが生じては、陽射しの中に融けてゆくのは、亡くなった方々が、仲間はずれなんてなしに、みんな天国へ昇ってゆくことを、きっと兆しているのですわ。

 

 

 

 

 

 

40,ミスターシービー

 

歌よ熄(や)め かさねかさねし 言の葉も 我が身ひとつの 繭になるだけ

 

 詩作は多分、得意だよ。すぐ思い浮かんでくる。だから、短冊が配られた時もすぐ、色ぉ~んな歌が頭の中に思い浮かんできた。

でも、違うよね。きっと違うよ。そうじゃない。そんな風に簡単に詩を書けてしまうのが、アタシ、恥ずかしいんだ。

ふしぎな言葉をつむいで、アタシきっとすぐ繭になっちゃうんだ。でも、繭でしかないんだ。そんな存在にしかなれないんだ。

頭の中にはずっと歌がやまないし、詠んじゃうし、歌っちゃう。

ひとりよがりになりたくないから奔ってきたのに。

 

かくして一献。

 

歌よ熄め かさねかさねし 言の葉も 我が身ひとつの 繭になるだけ

 

意訳:アタシ、阿漕なことなんて言いたくない。オシャレな言葉なんて嫌い。なんにもしゃべりたくない。だって、独りで悦に浸ったってむなしいだけから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脚注と余談

 

・ファン感謝祭の歴史について

 

 ファン感謝祭は、古くは「見世祭」と言い、東国のオシラサマ信仰や平将門伝承に端を発する、日本ウマ娘の伝統的祖霊祭である。

 かつて東国は貧しく、ことにオシラサマの祭日は春窮と重なっており、ウマ娘たちの多くは、祖霊を祀ろうにも、ろくな供物を用意出来なかった。そこで、他ならぬ祖霊の子孫である自分たちの、その平和と繁栄の姿を供物の代わりに供える(=見せる)習慣が形成された。つまりオシラサマ(=祖霊)に「ミセ」を「オサム」という様式の祭祀が始まった。

 この祭祀が、江戸時代中期までに東国中心に定着。ついで江戸時代末期までに「仮装大会」の様相を呈す。

 そして明治以降、日本ウマ娘の伝統行事「見世祭」に昇華。

 戦前URA(URAではないが便宜的にURAとする)によるトレセン学園整備後、各トレセン学園は伝統大祭として見世祭を大々的に催した。

 しかし時が進み、日本がGHQによる軍事支配の時代に入ると、GHQの文化破壊工作により、見世祭は禁止された。

 1950年代、中央トレセン学園初代生徒会会長メイヂヒカリによって、ファン感謝祭の名目で見世祭が復活。

 これが、ファン感謝祭という名目で脈々と今日まで受け継がれる「見世祭」の経緯である。

 

 そしてこのファン感謝祭の折、学園在籍生は祖霊に短歌を奉納する風習がある。

 

 

・献という数え方

 

 短歌の数え方は首だが、見世祭における奉納短歌は例外的に献と数える。

見世祭の奉納短歌は、まず短冊に書いて、それを大きな馬上杯型の入れ物に収めて奉納することから、見世祭の奉納短歌は一首と数えず一献と数える。

・奉納品における食べ物、飲み物など

 

 伝統的には数十キロに達する巨大な鏡餅や、炊き立ての白米を、お神輿の要領で皆で担いでわちゃわちゃしながら奉納するのが恒例であったが、最近はそれに加えて、大型のざる何杯分もの、到底食べきれないくらい沢山のお菓子や、ウマ娘たちが気に入っているジュースや食べ物を好きに奉納するのがトレンドである。……先祖たちに食べさせてあげたいものを。

 

 

余談その2

 

・オシラサマの木像

 オシラサマの雌雄一対の木像は、双方ともに、桃の節句のお雛様のようなきらびやかなお衣装をまとっている。お揃いの衣装というわけではないが、つがいのその衣装は、雌雄に基づく何らかの区別はない印象である。ただ、人形の頭部分には明確な違いがある。

まず、向かって右の木像は、一見して日本伝統工芸らしい造詣の女性である。しかし向かって左の木像は、……なんというか、奇妙である。言い方が悪いかもしれないがその顔は人よりも猪や獏や鹿に近い。口と鼻の部分がぐーんと前へ伸び、目の位置は、前というより横を見ている感じで、それはなんというべきか、少なくとも人間の頭部を模した感じの造詣ではない。正面を立体視することに長ける類人猿の目の位置ではない。さらには、人間的な頭髪も眉毛もないうえ、左右の耳はあきらかにウマミミであってヒトミミではない。ここまでくるともう、草食哺乳類の特徴に符号していることを認めざるを得ない。しかし、それならそれは具体的になんの動物を模したのか。似ている動物は沢山いる。しかし決定的に似ている動物だけは全く存在しない。この木像の妙な頭部は一体何を顕わしているのか。何かの動物を模しているのか、それとも全く架空の動物なのか、そこは、現代でさえ分からないのである。

 

 しかし、伝承上には確たる答えがある。その伝承は東洋共通で、曰くそれは「ウマ」であると。

 より詳しく言うと、「ウマ息子」であると。

 

 

 

―――以上―――




     原作
無形文化遺産 大衆競馬
ウマ娘プリティーダービー

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