自然を統べる者 作:ヒーロー
春。
桜の花びらが舞う道の先に、巨大な校門がそびえ立っていた。
雄英高校。
数多くのプロヒーローを輩出してきた、日本最高峰のヒーロー育成校。
その校門の前で、一人の少年が立ち止まっていた。
虹色の輝きをかすかに帯びた白金色の髪。
整った顔立ちと、どこか鋭さを感じさせる瞳。
身長は170センチほどで、細身ながらも全身がしなやかな筋肉に覆われている。
自然操夜。
今日から彼も、この学校の生徒になる。
「……へえ。ここが雄英か」
操夜は校門を見上げ、楽しそうに笑った。
「どんな奴らがいるんだろうな。強い奴、いるといいなあ」
彼は戦いが好きだった。
ただし、誰かを傷つけるためではない。
自分より強い相手と本気でぶつかり合い、自分の知らない世界を知ることが好きなのだ。
そして、もう一つ。
「ま、まずは友達作って、美味い飯食って……音楽の話ができる奴もいるといいな」
そんなことを呟きながら、操夜は校門をくぐった。
このときの彼は、まだ知らなかった。
この学校で出会う仲間たちが、自分の人生を大きく変えることを。
そして、自分がいつか、たった一人では決してたどり着けない境地へと進んでいくことを。
### 1-A教室
教室の扉を開けると、すでに何人もの生徒が集まっていた。
「おっ、ここがA組か」
操夜が入ってきた瞬間、何人かの視線が彼に集まる。 「おはようございます!」
最初に声をかけてきたのは、長い黒髪をきれいに整えた少女だった。
八百万百。
「あなたも本日からこちらのクラスに所属する方ですわね。八百万百と申します。よろしくお願いいたします」 「ああ、よろしく! 自然操夜。気軽に操夜って呼んでくれ」
「操夜さん、ですね。よろしくお願いします」
百が微笑む。
その丁寧な物腰に、操夜も自然と笑顔になった。
「おう!」
そのとき、教室の後ろの席から、ゆったりとした声が聞こえてきた。
「……自然、操夜?」
振り返ると、そこには小大唯がいた。
「珍しい名前だね」
「よく言われるよ。そっちは?」
「小大唯。よろしく」
「唯か。よろしくな!」
操夜は気負うことなく笑いかけた。
唯は少しだけ彼を見つめたあと、小さく頷いた。
「……うん。よろしく」
その短いやり取りを、百は微笑ましそうに眺めていた。 だが、次の瞬間。
「おい、そこの白髪!」
鋭い声が教室に響いた。 爆豪勝己だった。
「ヘラヘラしてんじゃねえぞ。ここは遊びに来る場所じゃねえ」
操夜は一瞬きょとんとしたあと、楽しそうに口角を上げた。
「へえ。お前、強いの?」
「……あ?」
「いや、なんか強そうだなって。なあ、いつか勝負しようぜ!」
教室が静まり返る。
爆豪の額に青筋が浮かんだ。
「上等だ。ぶっ飛ばしてやる」
「ははっ! 楽しみにしてる!」
まるで脅しを歓迎するかのような態度。
その様子を見ていた緑谷出久は、驚きながらも興味深そうに呟いた。
「す、すごい……かっちゃんにあんなふうに話しかけるなんて……」
一方、轟焦凍は操夜を静かに観察していた。
外見は細身だが、立ち姿に無駄がない。
それに、ただの強がりとも違う。
本当に強い相手と戦うことを楽しみにしている目だった。
――こいつは、どんな個性を持っているんだ? その疑問の答えは、まもなく明らかになる。
###
そして、最初の試練へ 教室の扉が勢いよく開いた。
「おまえら、席につけ」
担任の相澤消太が、眠そうな目で教室を見渡していた。 「入学早々悪いが、これから個性把握テストを行う」
生徒たちがざわつく。
「雄英高校は自由な校風で知られているが、それは実力があってこそだ。自分の個性をどこまで扱えるのか、数字で把握してもらう」
相澤の視線が、教室の生徒たちを順番に巡る。
そして、操夜のところで一瞬止まった。
「自然操夜。お前の個性についても、あとで詳しく確認する」
「はい!」 操夜は元気よく返事をした。
その瞳には、不安よりも期待が輝いていた。
自分の力がどこまで通用するのか。
このクラスには、どれほどの強者がいるのか。
そして、自分はどこまで強くなれるのか。
操夜は拳を握りしめた。
「よーし……やってやるか!」
その拳の周囲で、ほんの一瞬だけ、小さな葉が風に舞った。
まだ未熟で、本人さえ意識していない、ごく小さな自然操作。
それがやがて、世界を揺るがす力へと成長していくことを、今は誰も知らない。
第1話・前編 終