《ブレイン・バースト》。それは、《加速》と呼ばれる機能によって一千倍に加速された仮想世界で少年少女たちが争う、謎の格闘ゲームプログラムである。ユーザーたちは《バーストリンカー》と呼ばれ、加速のための《バースト・ポイント》を狙って日々拳を……あるいは剣や銃弾を打ち付けあっている。

 その中に、勇名をとどろかせる一人のバーストリンカーがいた。半透明の装甲と真紅のローブに身を包み、超火力の《魔法》によって他のリンカーたちを薙ぎ払う。

 その人物は――――《加速世界の魔法使い》と、呼ばれていた。

*この作品は、拙作『ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~』からの続きものとなっていますが、そっちを読まなくても何の問題もありません。せいぜいファンサービス要素として扱ってください。

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 本作は『剣の世界の魔法使い』のファンディスク的要素ですが、向こうを知らなくても問題ないです。


加速世界の魔法使い

「――――《マキシマイズマジック・フレイム・トーレンツ》」

 

 形成された炎の矢が、まるで自ら意志を持っているかのように飛び回る。その標的になっているのは緑色の……何と言うべきか。そう、忍者だ。

 

「むむむっ!妖術の類でござるか!?」

「いいえ。《魔法》です――――《マキシマイズマジック・ジャッジメントライツ》」

 

 今度は純白の閃光がさく裂。緑色の忍者を吹き飛ばす。

 

「《マキシマイズマジック・ダイヤモンドストライク》」

 

 間髪入れずに生成されたのは、半透明の刃。恐ろしい速度で緑の忍者へと突き刺さらんと宙を奔る。

 

「むほぉ!?」

 

 息をする暇もない連続攻撃を浴びて、遂に忍者……レベル4バーストリンカー、《ジェイド・ジェイラー》のHPが0になった。同時に、周囲のギャラリーたちが沸く。

 

「すっげぇ! また完封勝利だよ!!」

「チート過ぎんだろ。どんだけ強いんだよ! もう十五人も連続で倒したぞ!」

「大火力低燃費遠距離とか反則だろ。運営何考えてんだ」

「同レベル同ポテンシャルなんて嘘だったんや……」

 

 その全てが、勝利者を讃える、在るいは妬むような言葉を口にしている。

 

 それを一手に受けている勝利者は、真紅のボロローブに身を包んだ、比較的小柄な人影。手に持っているのは、複雑な形状をした《魔法の杖》。先ほど繰り出していた技と合わせて、その姿をもう一度見返せば、なるほど。確かにその容貌は《魔法使い》に見えなくもない。

 

 真紅のローブの下は、見たことがある人物こそ少ないものの、他に類を見ない半透明の装甲に覆われている。水晶のような輝きを宿したその装甲は、様々な攻撃を吸収する強力な鎧でもある。

 

 その名は、《クリスタル・マギクラフター》。

 

 この世界……《ブレイン・バースト2038》における最強クラスの《バーストリンカー》、その一角。恐ろしい威力の《魔法》と、たぐいまれなる《半透明装甲》による《属性攻撃吸収》というチート極まりない防御力を兼ね備えた、攻防一体のデュエルアバター。

 

 対峙する者に一切の反撃の暇を与えることなく完封勝利していくその様を、人々は畏敬の念をもってこう呼ぶ。

 

 

 ――――即ち。

 

 ――――《加速世界の魔法使い》、と。

 

 

 

 ***

 

 

 

「う――――んっ! 疲れました」

「よく言う。ほとんど動いてなかったじゃないか」

「それでも疲れるモノは疲れます。私は機械じゃないんですよ」

 

 東京都杉並区、市立梅郷中学校、その学食ラウンジ。その一角には、二人の少女が座っていた。

 

 片方は、鋭利な剣を思わせる美貌。夜空のように真っ黒な髪と、雪のような白い肌から名付けられたあだ名は《スノー・ブラック》……《黒雪姫》。本人もそれを半ば本名のように扱っている。

 

 もう片方は、赤銅色の髪と、青空のような真っ青な瞳を持った、理知的かつ快活そうな顔立ちの少女。内巻のアホ毛が、どこか小動物らしさを演出している。

 

 二人ともこの梅郷中学校の二年生である。

 

「そうは言ってもなぁ……冗談めかした口調で『疲れた』なんて言われても、信じがたいだろう、詩姫(うたひめ)

「まぁ、仕方ないですね。その癖は父様から受け継いじゃいましたから」

 

 詩姫、と呼ばれた少女は、鈴の音のような声で笑う。

 

「そんな事より、黒雪姫のほうはどうなんです? ハルユキ君、つい最近レベル3になったとか聞きましたけど」

「そうなんだよ。全く、気が付かないうちにレベルアップしていてな。レベル2になった時もいきなりだったが……こりゃぁレベル4になる日も近いかもしれんぞ」

 

 黒雪姫が語っているのは、この学校の一年生、有田幸雪についてだ。

 

 彼は、黒雪姫――――加速世界の頂点を極める七人の《レベル9バーストリンカー》、《純色の七王》が一人、《黒の王ブラック・ロータス》によって、謎の格闘ゲームプログラム、《ブレイン・バースト2038》をインストールさせられたバーストリンカー、《シルバー・クロウ》という別の顔を持っている。

 

 加速世界でも彼しか保持していない《飛行アビリティ》を有し、秘めたポテンシャルは底知れないものがある戦闘センスで、ムラはあるものの、堅実に勝ち星をあげて行っていた。つい最近、いつの間にやらレベル3に到達していた彼は、黒雪姫の見立てではそう遠くないうちにバーストリンカーの登竜門、レベル4に上がるだろうと目されていた。

 

「そうですか。さすがはあなたの選んだ子です……で、リアルのほうはどうなんです? 進展は?」

「そこなんだよなぁ……っ! 全く。全然さっぱりなんだよ!」

 

 ばたん! とテーブルの上でうなだれる黒雪姫。

 

 彼女は、シルバー・クロウというバーストリンカーに全幅の信頼を置いているだけでなく、有田幸雪という少年自身にも恋心を抱いていた。ただし恋愛沙汰には不慣れな黒雪姫と、ネガティブ思考のハルユキの間は、なかなか進展しない。

 

 詩姫はそう言った話題には妙に腹黒い所を見せるので、あまり相談などはできないのだが、それでも口はこぼしたくなってしまう。それにアドバイスは的確だ。

 

「まったく……なぁ、詩姫のご両親はどうやってくっついたんだ?」

「プロポーズは母様がしたそうですよ。告白したのは父様の方が先だったらしいですけど」

「因みにご結婚はいつ?」

「えーっと、三歳差なので、父が二十一歳、母が十八歳の時ですね。高校卒業してすぐ結婚したみたいです。約束自体はもう母が十六の時にはしてたっぽいですけどね。一応卒業してからってことに決めてたみたいで」

「畜生勝ち組か!! 何者なんだ君の両親は!!」

「SAOサバイバーですよ」

「…………ああ……なら……なんとなく納得できなくもないか……」

 

 暴走を始めかけていた黒雪姫も、その言葉で静まり返る。

 

 SAO。正式名称を、《ソードアート・オンライン》。

 

 現在は国民のほぼ全員が所持している万能端末、《ニューロリンカー》。これは《第四世代フルダイブ機器》と呼ばれる存在に分類されている。

 

 そもそもフルダイブとは、現実の五感の全てをシャットアウトし、代わりに仮想の五感を脳に与えることで、仮想世界を見せる……即ち、完全なる仮想世界への参入を可能とする技術の事だ。正式なシステム名は《ニードルス》などと言ったか。

 

 そんなフルダイブ技術を使った機械は、《第四世代》の名が示す通り、過去にもっとたくさん存在した。

 

 現在は法律で使用が禁止されている、《ブレイン・インプラント・チップ》や、VR技術の医療方向への発展を促した《メディキュボイド》、そしてニューロリンカーの前身とも噂されている、謎多きフルダイブ機器《ソウル・トランスレーター》は第三世代フルダイブ機器に分類される。

 

 フルダイブを使ったVRゲームが世界に広まる要因の一つとなった、伝説的ゲームハード、《アミュスフィア》は、第二世代フルダイブ機器。

 

 そして、全ての始まりとなった、アミューズメントパーク等々に設置されていたという大型フルダイブ機器は、第一世代フルダイブ機器と呼ばれている。

 

 だが――――VR機器がこれだけ急速に発展することを後押ししたのは、此処に記されたそのどれでもない。

 

 第二世代フルダイブ機器。そこに分類される、もう一つの存在。

 

 名を、《ナーヴギア》。リング状のアミュスフィアと異なり、無骨なヘッドギア型をしたそれは、後の世では《悪魔の機械》と呼ばれる。

 

 その理由は至極単純。このナーヴギアを専用ハードとする、世界初のVRMMORPG、《ソードアート・オンライン》が、史上最悪とうたわれるサイバーテロ事件を引き起こしたからだ。

 

 ニードルスシステムの提唱者であり、フルダイブ機器の基本設計も担当した天才・茅場晶彦がディレクターを担当したこのゲームでは、同時に製作者自身が脱出不能のデスゲームとなるようにデザインしていた狂喜の産物。一万人のプレイヤーを閉じ込めて、ゲーム内でHPが0になれば、リアルでも死亡するという悪夢のゲーム。

 

 幸いにもこのデスゲームは、二年後に《黒の剣士》と呼ばれるプレイヤーと、《殺人大砲の右》、《剣の世界の魔法使い》と呼ばれたプレイヤーの手によって終結し、生き残った六千人弱のプレイヤー達は無事解放されたという。その後もこのゲームに端を発する事件はいくつか発生したらしいが、その全てが悉く解決されてきた。今では《SAO事件》は、歴史に残る大事件としか見られていない。

 

 だが、当事者からすればその限りではない。今でもあの悪夢の日々を夢に見て苦しんでいる元プレイヤー…《SAO生還者(サバイバー)》と呼ばれている…も多く存在しているという。

 

 故に、黒雪姫の中では、この事件に関してあまり深くかかわることに対する忌避感があった。やけに早い年齢で結婚している詩姫の両親も、ゲーム内で出会って苦楽を共にしてきたのだ、と言われればなんとなく納得できなくもない。

 

 しかしそんな黒雪姫の重い心情をガン無視して、詩姫はあっけらかんと答えた。

 

「まぁうちの両親は結構SAO楽しんでたっぽいですけどねー。今でも時々思い出話しては笑ってるし。あの二人当時からいちゃいちゃしてたんでしょうか。娘の私としても時々イラッと来ますからね」

「……本当に何なんだ君の両親は……超人か……?」

「父親に関しては半分正解ですね。一度死んだ人間に別の人格植え付けて誕生した人造人間だとか言われてますし。しかもいろいろ聞くにどうやら真実らしいという」

「ちょっと待て本当に何なんだ」

 

 人造人間とか。さすがに冗談だろう。と頭を抱える黒雪姫。しかし詩姫は笑う。

 

「言ったでしょう? 真実っぽい、ってね。まぁ、私も全部把握してるわけじゃぁありませんし。兄様(あにさま)のほうが詳しいですよ」

「……そろそろ君の血縁関係がよく分からなくなってきた。お兄さんは彼だろう? 浅木(あさぎ)賢騎(けんき)。若干十三歳にして数々のVRゲームのデザイナーを担当したという」

「ええ。まぁ、『全部《ザ・シード》の上に成り立ってる奴だから』って、兄様は全然誇ってないっぽいですけどね。私にとっては自慢の兄様です」

 

 兄のことを自慢する時、詩姫は本当にうれしそうな顔をする。兄妹仲が非常に良いという話は聞いていたが、ここまで来るとなんだか兄妹と言うよりは血の繋がった夫婦というかなんというか。

 

「……そう言うキミも大概だがな。《加速世界の魔法使い》。今日も学校に来るまでに散々ぶっ叩いてきたんだろう?」

「あら、ばれてましたか。もちろん。十五人抜き達成です」

 

 そう。人を喰ったような笑顔を浮かべたこの少女――――浅木(あさぎ)詩姫(うたひめ)こそが、加速世界にその勇名をとどろかせる最強クラスのバーストリンカー。

 

 性別不明、正体不明、所属レギオン不明。

 

 《王に在らざる王》。

 《リアル・バランスブレイカー》。

 《最強のチート》。

 《運営(かみ)に愛された存在》。

 

 《加速世界の魔法使い》―――――レベル8バーストリンカー、《クリスタル・マギクラフター》だという事を、知っている者は、少ない。




 ジェイラーさんのレベルが上がってるのは、彼もあのあと特訓しただろうな、という勝手な想像。

 本作は連載作品にすることを想定していません。せいぜい3~4話程度更新されたらラッキーと思ってくださると助かります。下手すりゃこの話で終りの可能性も。

 さて、『剣の世界の魔法使い』を見て下さっている方なら、もう詩姫の両親が誰かとか丸わかりの事でしょう。ええ、あいつらです。

 因みにクリスタル・マギクラフターの《マギクラフター》の部分は、《ワイズマン》にしようかと迷ったんですが、詩姫は女の子なので『マン』じゃないよな、ということで、かといって女性である、という事はリアル知り合い以外には知られていない、という設定だったので女性形も使えない、というワケで『魔巧師』みたいな意味合いで《マギクラフター》にしました。

 それではまたどこかでお会いしましょう。

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